2週間余り前、京都市伏見区の桂川に子供2人が転落したとの目撃情報から、府警や市消防局が大規模な捜索をする騒ぎがあった。しかし、子供たちは今も発見されないばかりか、周辺の小学校に該当者はおらず、現場に痕跡もなし。警察、消防は3日後、「転落の事実は確認できなかった」と判断して捜索を打ち切った。通報内容は真実なのか。真相は藪(やぶ)の中だ。【成田有佳】
110番通報は6月22日午後5時20分ごろ。伏見区横大路草津町の羽束師橋の歩行者専用橋から、小学3年ぐらいの男児と女児が桂川へ転落したとの内容だった。「橋の欄干から川をのぞき込んでいたので『危ないよ』と声を掛けた後に転落した。川面を浮いたり沈んだりしているうち姿が見えなくなった」と迫真性に富んでいた。通報した男性(46)は本名を名乗り、警察官が駆け付けた時も現場にいた。
伏見署や管轄が隣り合う向日町署、市消防局などが救出に向かい、ヘリコプターやボートも出て被害者の発見に努めた。
ところが、時間がたつに連れ、転落の事実を疑わせる事情が次々と浮上した。橋から水面までは約10メートルあり、欄干は高さ約1・2メートル。小学3年生ぐらいの子供に「欄干から川をのぞき込む」ことが可能なのか▽なぜ2人同時に転落したのか▽他に目撃情報がない--などだ。夜になって、府警の鑑識作業で、現場の欄干に痕跡(指紋や掌紋、小さな擦過痕など)がないことが判明。情報の信ぴょう性は一気に低くなった。
しかし、警察や消防が困ったのはここからだ。男性が目撃証言を撤回しない限り転落者がいる可能性は残るため、捜索は周辺の6小学校に行方不明の児童がいないことが確認された翌23日も続けられた。その翌日も……。結局、打ち切られた25日までに延べ約500人以上が出動し、多くの労力が費やされた。
こうした通報がウソと確認されれば、軽犯罪法の虚偽申告に該当し、拘留や科料の対象となる。刑法の業務妨害に当たる可能性もある。しかし、「転落があったこと」を確かめるのに比べ、「転落がなかったこと」を立証するのは極めて困難なのだという。
毎日新聞 2010年7月11日 地方版