「孔子はどの国の人なのか」(上)
『東アジア文明論』を出版した人文学界の重鎮・趙東一教授
「ソクラテスはヨーロッパを越えた世界人…どこの国の人かを強調していては、ヨーロッパ文明と競争できない」
「漢文・儒教・仏教は共有財産、東アジア圏が共に作り上げたもの」
韓国を代表する人文学者は自信満々に、「中国や日本の学者は、これほど大きな視点を持った本を書けない」「囲碁に例えると、下手は汗を流してやらなければ、上手が一度示した視点に付いていくことはできない」という発言を繰り返した。
最近、『東アジア文明論』(知識産業社)を出版した趙東一(チョ・ドンイル)ソウル大名誉教授(国文学)=71=は、「これまで書いた70冊余りの著書の中から重要な部分を集め、1冊に集約した」と語った。昨年10月、中国・北京外国語大で行った講演の原稿が基になった。全6回の講演を終えると、同大学の学長は韓国学専攻の教授に対し、「趙教授の本をすべて翻訳せよ」という特命を下した。趙教授は、「わたしの本をすべて翻訳するのは不可能なため、代わりにこの本を執筆した」と語った。中国と日本でも、間もなく訳書が出版される予定だ。
本書は、漢文を「東アジア文明の共同財産」と規定し、東アジア諸国が漢文文明圏の一員となったのは賢いことだった、と強調した。イスラムやキリスト教文明との比較を通じて東アジア文明の特性を見いだし、各国が東アジア文明に寄与した側面を分析した。東アジア文明に現れた儒教・仏教・道教の思考形態を説明し、各国の長所を生かして統合された東アジア学を形成していくべきだと説いた。
趙教授は、「議論を繰り広げながら」という本書の序章から、「孔子はどの国の人なのか」と挑発的に問題を提起した。孔子は、もともとは魯の国の出身だが、500年後には中国人に、さらに500年後には東アジア人となったが、今や世界人となるよう、東アジア人が共に努力しなければならないと主張する。アテネ出身のソクラテスがギリシャ人になり、ヨーロッパ人を経て、世界人になったのと同じだ。趙教授は、「それなのに韓国は、“孔子が死んでこそ韓国が生きる”と言って孔子を中国人に押し戻そうとするのに対し、中国は“孔子は中国人だ”と強調している。東アジアが、有力な世界人候補を皆打ち落とし、どこの国の人かという論議に執着しているために、ヨーロッパ文明と善意の競争を繰り広げる東アジア文明が形成されずにいる」と指摘した。
- 趙東一教授は、「韓国は学問・文化の面で東アジア文明に大きく寄与した」と語った。/写真=李明元(イ・ミョンウォン)記者