《はやぶさの帰還を受け、国内外からお祝いの声が寄せられた。学生時代にあこがれた米惑星探査機「ボイジャー」計画の中心人物、元米航空宇宙局(NASA)のエドワード・ストーン氏からも「はやぶさチームの偉大な成果を祝う」とのメッセージが届いた》
非常に光栄です。無人探査の分野では、一部でようやく米国に肩を並べられたのではないかと思います。NASA本体からは祝福の言葉は届きませんが、NASAが簡単に祝ってくれないことは、逆に喜ぶべきなのでしょう。対等な相手と認めてくれたのかもしれませんから。
《学生時代、日本の宇宙開発の将来を懐疑的に見ていた。今なお同じ思いを抱く》
最近は宇宙開発に携わる企業も減っています。科学技術は、うまくかじ取りすれば産業につながりますが、日本の宇宙開発には、ポリシー(理念)がよく見えません。ポリシーがあれば、難しいと思われることも必ず実現へ向けて転がるものです。
《そんな強い思いが、「はやぶさの成功につながった」とチームのメンバーは見る。「誤解してはならない。(トラブルを解決できたといっても)これらは不具合で、まいた種を刈り取っているだけ。次への貴重な経験と肝に銘じよ」などの「川口語録」が語り継がれる》
私は、能力も意欲もあるメンバーの貢献のたまものだと思っています。チャンスを与えてくれた諸先輩のおかげでもあります。将来、我々が次の世代に「先輩のおかげ」と言ってもらえるようにならねばなりません。
《最近、「宇宙大航海時代」という言葉をよく使う》
人類初の世界一周航海を果たしたマゼランをイメージした造語です。マゼランの航海をきっかけに航路が開拓され、世界が変わった。宇宙も同じように往復飛行が当たり前になり、その成果を利用する時代がくるに違いありません。私自身は、同じことを繰り返す必要はないと思っています。はやぶさ後継機は「次世代に渡す」という意味では大切ですが、自分の中では過去形。次の新たなページをめくることに挑戦したいと考えています。=川口さんの項おわり
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聞き手・永山悦子、写真・森田剛史/13日から、将棋名人・羽生善治さんです。
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■人物略歴
宇宙航空研究開発機構(JAXA)教授。はやぶさプロジェクトマネジャー。54歳
毎日新聞 2010年7月10日 東京朝刊