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2010年7月11日(日)付

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きょう投票―苦い現実を直視しながら

参院選の投開票日を迎えた。2大政党がともに負担増を訴える、かつてない構図の選挙戦だった。甘い夢のささやきを競うのでなく、苦い現実を正直に語り合う。[記事全文]

安保理声明―北朝鮮への厳しい視線

確かに、北朝鮮の犯行だと断じてはいない。だが事実上、北朝鮮を非難したと読める。韓国軍哨戒艦の沈没事件で、国連の安全保障理事会がそんな内容の議長声明を採択した。3月の発生[記事全文]

きょう投票―苦い現実を直視しながら

 参院選の投開票日を迎えた。

 2大政党がともに負担増を訴える、かつてない構図の選挙戦だった。

 甘い夢のささやきを競うのでなく、苦い現実を正直に語り合う。

 それが政権交代を経た政治の新しい一面をあらわしているのだとすれば、歓迎すべき変化だろう。

 もちろん一足飛びにはいかない。

 菅直人首相の意に反し、消費増税への風当たりは日増しに強まっている。首相の説明不足や発言のブレが有権者の不信を招いたことは明らかだ。

 しかし、きょうはいったん不信を横に置き、主張に改めて耳を傾けよう。

 菅首相は「財政破綻(はたん)したとき、一番困るのは年金受給者であり、一番打撃を受けるのは社会保障だ」と訴え、谷垣禎一自民党総裁は「どれだけ借金を抱え込めるか。もう難しい」と説く。

 確かに今年度の歳出92兆円に対し、税収は37兆円。身の丈にあわせようとしたら歳出を半分以下にしなければならない。無駄削減では追いつかない。

 このまま放置し、いずれ国債の買い手がつかなくなったら、おしまいだ。そんな危機感を民主、自民両党が共有したのは当然だろう。

 いやいや杞憂(きゆう)だという政党も多い。もっと削れるところがある。まだ借金できる。経済成長で財政再建できる、といった主張である。

 その通りになれば幸いだが、万一破綻に至ればツケを払わされるのは私たち有権者であり、納税者である。

 いま手を打って負担増を受け入れ、破局をなんとか避けようと努めるか。時とともに危険が増すのを覚悟の上で、歳出削減や成長に賭けるか。

 任せて安心、というようなバラ色の選択肢はありえない。それでも私たちは品定めし、選ばなければならない。

 税金は民主主義社会では本来、お互いのために「出しあう」ものなのに、なぜか「とられる」ものと感じがちである。どう使われるかわからないという政治への不信をぬぐえないからだ。

 しかし、政治はひとごとではない。私たちの暮らしを支え、時に掘り崩す営みであり、逃れることはできない。選挙に背を向け投票所に行かなくても政治は刻々、ものごとを決めていく。

 「代表なくして課税なし」

 この民主主義の肝を語る古い言葉をかみ締めながら、一票を投じたい。

 私たちは昨年、その気になれば政治を大きく変えられることを学んだ。

 政権交代したからといって突如として景気がよくなったり、政治がクリーンになったりはしないことも学んだ。

 民主主義は、終わりのない学びのプロセスでもある。

 「とられる」から、「出しあう」へ。私たちは今回、苦い現実を直視し発想を変える必要を学んだのではないか。その成果を一票に託したい。

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安保理声明―北朝鮮への厳しい視線

 確かに、北朝鮮の犯行だと断じてはいない。だが事実上、北朝鮮を非難したと読める。韓国軍哨戒艦の沈没事件で、国連の安全保障理事会がそんな内容の議長声明を採択した。

 3月の発生から時間がたったとはいえ、安保理という場で一致したメッセージを出すことができた。

 46人の韓国兵が犠牲になったこの事件について、韓国のほか米国やスウェーデンなども加わった調査団は、原因を北朝鮮製の魚雷と断定し、「北朝鮮による発射以外に説明がつかない」との結論を出している。

 今回の議長声明は沈没原因に関して「攻撃」という表現を使って非難し、「調査団の結果にかんがみ、深刻な懸念を表明する」とした。

 日米韓は当初、安保理決議の可能性を探ったが、格下の議長声明に落ち着いた。声明では、事件への関与を否定する北朝鮮の主張も記している。

 北朝鮮との摩擦を嫌う中国やロシアと折衝を重ねた末の妥協の産物だ。また、声明を出したからといって、事態がただちに好転するというものでもない。そんなむなしさもあるが、国際社会の意思を示す必要はあった。

 中ロも賛同して北朝鮮を実質的に牽制(けんせい)する議長声明をまとめたこと自体には意味があったといえる。

 北朝鮮は軍事行動の可能性もにおわせて、日米韓の動きに激しく反発してきた。一方で、米国と韓国は北朝鮮に近い黄海で空母も動員する合同演習の計画を立てつつあり、それには今度、中国が反対を表明している。

 沈没事件後、朝鮮半島で予断を許さない緊張が続いていることに変わりはないのだ。南北はもちろん関係国も、偶発的な衝突を避け、緊張を解いていく努力をしなければならない。

 北朝鮮は、名指しで非難されなかったことで高をくくっているようだが、厳しく認識すべきは、自らに向けられた国際社会のきわめて冷たい視線だ。

 安保理が、核実験を受けて北朝鮮に科している制裁はその象徴である。

 今回、中国やロシアが直接的な非難に反対したのも、なにも北朝鮮をかばうためではない。緊張を高めては国益にそぐわないからだ。

 北朝鮮の経済は相変わらず苦しいようだ。一般住民より厚遇されているはずの軍人も脱北しだしたという。

 そんななか、北朝鮮は金正日総書記の後継体制の整備に本腰を入れ始めた。国家権力の中枢である国防委員会の要職に三男ジョンウン氏の後見役を据え、態勢固めを図ったとされる。9月には労働党の代表者会を44年ぶりに開き、指導部人事を断行するらしい。

 ただ、体制を整えたところで、国際社会の支援や協力なしに苦境から脱することなどできまい。今のままでは、袋小路に入り込むだけである。

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