【萬物相】タコの予言と専門家の予測
南アフリカ共和国では1995年、ネルソン・マンデラ大統領(当時)がラグビーのワールドカップ(W杯)を誘致し、黒人と白人の融和を成し遂げた。南アフリカチームは予想を覆して優勝を果たし、国民は肌の色を越えて一つになった。同大会が開催される直前、マンデラ氏の参謀は、「専門家の話によると、8強以上は難しいとのことです」と告げた。だが、27年にわたり監獄生活を送り、奇跡的に大統領になったマンデラ氏は、「専門家の言う事が常に正しいのであれば、われわれは今も監獄にいたはずだ」と言葉を返した。
サッカー界では「ペレの呪い」が、「専門家の誤った予想」を象徴する。W杯南アフリカ大会で、「サッカーの神様」ことペレが口にしたサッカー強豪国は相次いで姿を消した。1990年代以降、ブラジルのサッカーは、ペレに「強力な優勝候補」と名前が挙げられるたびに苦杯をなめてきた。点取り屋のロナウドは、「ペレは黙ってさえいてくれれば詩人」と話した。「沈黙は金なり」という皮肉を込めた言葉だった。
ペレの面目がつぶれた一方で、ドイツの占いダコ「パウル」が世界的な予言者として注目を浴びるようになった。オーバーハウゼンの水族館で飼育されている「パウル」は、勝利を予想するチームの国旗が描かれた箱の中の貝を、正確に拾い上げ占いを的中させてきた。スペインに負けたドイツのサッカーファンから、「そのタコを食べてしまえ」という声が挙がると、スペインの首相は、「パウル君を守るために、ガードマンを派遣する」と応戦。12日に行われるスペイン-オランダの決勝戦について、「パウル」は9日、優勝国をスペインと予想した。
タコは無脊椎(せきつい)動物の中で最も知能が高いといわれる。脳の大きさは人間の600分の1にすぎないが、知能は子犬と同じレベルだ。「タコは敵に対しては墨を強く吹きかけるが、いたずらをするときは弱く吐くといった知能を持つ」という実験結果が、科学誌「ディスカバリー」に掲載されたこともある。さらに、訓練を受けたタコは、ジャムの入ったガラス瓶を与えると、足でフタを開けることができ、ボールの色も区別できる。韓国語でタコを意味する「ムノ(文魚)」は、「学のある人のように墨を持つ高尚な魚」という意味から、「文」の字で表記されるようになったとのことだ。
経済学者のガルブレイスは、「経済予測の唯一の機能は、占星術を尊敬すること」と語っている。もっともらしいことを言うわりには予言が当たらない経済学者よりは、占星術師のほうがはるかに正確というわけだ。週刊誌「エコノミスト」は、「数字はうそを語り、うそつきは数字を使用する」と報じた。統計の数字に依存してばかりで、現実を分析できない経済学者を非難したものだ。占いダコ「パウル」に世界が熱狂するのは、現在の不透明な経済状況も一因となっているのではないだろうか。人々はタコの神通力に一喜一憂することで、まともな予測も立てられず権威を振りかざす専門家たちを嘲笑しているのだ。
朴海鉉(パク・ヘヒョン)論説委員