きょうのコラム「時鐘」 2010年7月11日

 野球賭博のあぶく銭に手を出し、角界から追放される。消費税増税を口にしたら、有権者の風向きが何やら怪しくなる。まさに「金が敵(かたき)の世の中」である

「政治とカネ」によるダブル辞任に始まった選挙戦である。カネ、金と騒々しいこと限りない。加賀藩祖・前田利家の正室まつの逸話を思い出す。いざ出陣となったが、肝心の兵が足りない。利家は蓄財家だから蔵に金は満ちている。まつは、革袋を持ち出して、きつい皮肉を夫に放つ。「この金銀を召し連れ、やりを突かせればいかがか」

いまも、賢夫人の声が聞こえてきそうである。兵を養ってこその金銀なのに、革袋作りばかりが目立つ。蔵には、金銀を食い荒らす頭の黒いネズミもうろついているではないか。金銭はときに身を滅ぼす難敵である

「金が敵」には、別の解釈もある。敵はあだ討ちの相手のこと。懸命に探し求めても、なかなか出会えない。同様に、金に縁の薄いのが世の中だ、という意味で、この解釈も身につまされる

「世の中に金と女は敵なり」というざれ歌がある。「どうか敵に巡り会いたい」と続く。「金」を「政治」と読み替えたくなる。