エース中のエース種牛を家畜伝染病「口蹄疫(こうていえき)」が直撃した。宮崎県は22日未明に会見して「忠富士(ただふじ)」の感染疑いを明らかにした。経過観察される残る5頭に感染の心配はないのか。もしや…。「宮崎牛壊滅の危機」「100年の歴史が消える」‐。一報を聞いた農家や関係者は天を仰いだ。
同日午前2時半、同県庁で記者会見した高島俊一県農政水産部長は「間違いであってほしかった」とぼうぜんとした表情。忠富士には口内のただれなど初期症状がなく、19日の遺伝子検査での「陽性」の知らせは寝耳に水だったという。県は再検査に望みをつないだが、結果は再び陽性。忠富士とともに避難した残る5頭の感染の可能性については「厳しいとは思っている」。東国原英夫知事はインターネットの簡易投稿サイト(ツイッター)で「最も恐れていたことが起こった。ショックである。何と言っていいかわからない。言葉が見つからない」。
宮崎県の種牛の冷凍精液は約15万本の在庫があるが、需要の1年分ほどしか賄えないという。JA宮崎中央会の羽田正治会長は「6頭の種牛は宮崎の畜産そのもの。5頭には何とか生き残ってもらわないと、品種改良を始めた明治後期からの100年の歴史がなくなる」と声を絞り出した。
避難している種牛のうちの1頭「勝平正(かつひらまさ)」を育てた同県都城市御池町の農家、永田康治さん(41)は「6頭のような種牛は狙ってできるものではなく運が大きい。このレベルをもう一度そろえるには40年かかる。損失はお金で換算できない」と嘆いた。
宮崎市で取材に応じた政府現地対策本部長の山田正彦農林水産副大臣は「非常に残念な状況だ。避難させたことが本当に良かったのかどうか、考え直さなくてはいけない。残る5頭についても(赤松広隆農水)大臣と相談したい」と述べた。
国や県の対応に対する疑問の声も上がった。都城市などで牛約7千頭、豚約8万5千頭を飼育する「はざま牧場」の間(はざま)和輝社長(66)は「行政の危機意識の欠如で避難が遅れ、感染を招いた。『もっと早く避難させておけば』と多くの農家は憤っている」と険しい表情で話した。
=2010/05/23付 西日本新聞朝刊=