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[19977] 【ネタ】BLEACHオリ主原作沿い(オリ主・オリキャラ・オリ設定有り)
Name: ハマテツ7号◆23b8172b ID:013b83cd
Date: 2010/07/03 19:07
【注意!】
 チュウニです。
 昔書いたヤツを手直ししているだけのため、文章能力は低いです。
 オリキャラ満載。オリ設定も満載。
 ジャンルとしては、虐められっ子主人公成長モノ。バトル有り。
【注意終わり!】





 昔から、普通に幽霊が見えた。
 あまりにはっきり見えるものだから、生きている人との区別なんかつかなくて。
 普通に話しかけているうちに、僕は周りから気味が悪い子、として認知されて。
 誰も、友達がいなくなって。
 だからなおさら、幽霊と話して。
 気がつけば、僕は虐められっ子になっていた。


 第一話


「~~~~~~っ!」
 
 ドカン、と背後ではじけ飛ぶ塀を雰囲気で確認し、永見譲治は涙目で走る速度を上げた。
 その背後から追うのは、なにやら仮面をつけたバケモノだ。

「ぼ、僕が一体何したんだーー!? っとぉ!?」

 運動不足の、少し太めの180cm後半はある大柄な体は思いのほか体力は無く、すでに息は切れ切れだ。本人はスポーツ刈りだと言い張る角刈りからは汗が絶え間なく流れ、ワイシャツをべっとりとぬらしている。
 
「はっ――何でっ――はっ――こんなっ――」

 その目にはすでに涙がにじみ、口からは情けない言葉が漏れ出していく。もとより、彼の心はさほど強くは無いのだ。仮面をつけたバケモノに追われる、そのことに恐慌を起こさないということこそがすでに奇跡だった。
 そして少年は考える。パニックになりかける精神を必死に押さえつけ、今自分が立たされている場所を考える。
 
(ラノベとかエロゲとかならよくあるパターンだよな、バケモノに追われるって。ユーレイがいるからまさかとは思ってたけどほんとにいるとは、バケモノ)

 パニックになりかけの頭は、その反面思いのほか冴えていた。考えていることはくだらないことだったが。

(だけど何で僕が狙われる? 確かにここら辺はあまり人が通らない場所だけど……偶然? まあそう考えれば終わりだけど、それでも何かひっかかる。何より、あんなバケモノがいるんだったらネットとかで噂になっているはずだし……だったら、僕が化け物に狙われる“何か”を持っていると考えたほうが自然だ)

 だとすれば……と、譲治は自分の特徴を思い浮かべていく。
 まず思い浮かぶのはオタクだ。
 だがあのバケモノがそんなものを察知するとは思えない。ならば――

(幽霊が、見えること)

 これだろうか。
 小さなころから普通に幽霊が見えて、生きている人と同じように会話が出来て。
 触ることも出来て、子供のころは普通に彼らと遊んでいた。
 もっとも、そのせいで子供のころから周りから君の悪い子供だといわれ、敬遠されがちだったが。

(これか? だったらそれが一体なんだ? 王道的にはユーレイが見える人には霊力があって――まさか。僕に何か力みたいなものが眠っているっていうのか?)
 
 ぞくり、と肌が波立つのを感じる。
 そして見上げる。あのバケモノが出てきた――あの、空の割れ目を。バケモノは、そこから次から次へと出現していき――

 バギン、となにやら光の筋のようなものに貫かれ、霧散した。

(なんだあれ? 何かに攻撃されている?)

 攻撃? では、あのバケモノと戦っている存在がいるということだ。

(ともなれば――)

 ぞくっと首筋に悪寒が走る。本能に任せ、前にとんだ。

「くぁっ――――!!」

 バガン、とコンクリが爆発したように跳ね上がる。あのバケモノだ。

(頼むから僕を襲っている化け物を何とかしてくれ~~~~!!)

 涙を流しながら、譲治は心の中で絶叫し、逃走を再開する。しかし、それも長く続かなかった。角から、顔見知りの人物がその姿を現したのだ。

「くっ、国枝さん!?」

「……ん? 永見?」

 角から現れたのはクラスメイトの国枝鈴。その事実に、譲治は歯噛みする。今まで人とかち合わなかったのは幸運ともよべたが、よりにもよって知り合いとかち合わせするとは思ってもみなかった。
 最悪の状況だった。しかも向こうはこちらに気付いているようだが、その表情からは譲治の背後から追いかけてくるバケモノのことは見えていないのだろう。
 思わず、譲治は叫んだ。

「逃げて!」

「……は?」

 その言葉に、鈴はいぶかしげに眉をひそめる。当然だ。自分に向かって迫ってくる男が逃げろと叫ぶのだ。しかも相手は自分のクラスの嫌われ者。鈴自身はなんとも思っていないのだが、彼女の友人が彼を毛嫌いしているため、なんとなくだが印象は悪い。
 だが、譲治にはそんなことかまっていられない。何せ、命がかかっているのだった。

「ああっ、くそっ!」

 自分が直前になっても、ただ訝しげに眉をひそめるだけの鈴に、譲治は緊急事態だからと勢いそのままに押し倒そうとして、

「何するのいきなり」

「ぶべらっ!?」

 鈴の靴裏とキッスをする羽目になった。思わぬ衝撃に、地に沈む譲治。しかし、状況はそれを許してくれなかった。

「へえ、本当に人は『ぶべらっ』と発音するのねー」

 なんて批評する鈴の背後に、

「――っ!」

 バケモノの、姿――

「ええいっ!」

「――ぇ?」

 それから反応できたのは奇跡に近い。
 譲治は彼女の手を取り、自分のほうに引き倒す。その数瞬後、今まで鈴がいた場所を、巨大な腕がなぎ払った。それはいとも容易くブロック塀を突き破り、轟音を立てて破片を撒き散らす。
 
「なっ……」

 それを認め、絶句する鈴。当然、鈴にはバケモノの姿など見えていない。彼女に見えたのは、何もない空間が突然爆発したかのような光景だった。
 その横で、譲治の頭はフル回転していた。平均と比べ格段に高いIQを買われ、特待生として学校に在学している彼の頭は、この状況下、人並みはずれた回転を見せていた。
 しかし、それでも最適な行動は思い浮かばない。当然だ。バケモノは人知を超えた存在なのだ、最適な行動など、譲治が知るはずもない。
 だがそれでも、と譲治は鈴を立ち上がらせた。そして、自分の後ろに立たせる。
 逃げる、という選択肢はなかった。先ほどの動きで、足をくじいていたのだ。さらに鈴もいる。もう、あのバケモノに追いつかれない速度で逃げ続けるのは、無理だろう。

(だけど……それでも、死にたくない……死なせたくはない……なんとしても――)

 ゆっくりと、バケモノが自分を見据える。突然眼前に現れたときはにべもなく逃げ出したので、これがバケモノの姿を見たのが初めてだった。逃げようともしない自分らに、バケモノは、にたぁ、とその巨大な口で笑みを浮かべる。
 そしてバケモノはゆっくりとその腕を振り上げ――

「な、永見……? い、一体これは――?」

(頼む……僕に何か力があるなら、目覚めてくれ! 国枝さんを――)

 それを振り下ろそうとし――

(死なせたくないんだ!)

 そして譲治は、その腕に吹き飛ばされた。


いんたーるーど


「……ふむふむ、これで大詰めッスかねぇ」

 倒れ伏す少女の容態を見終え、浦原喜助は空を仰ぎ見た。相変わらず、その空の裂け目は健在で、そこからは仮面をつけたバケモノ――虚が押し寄せてくる。いくら餌を撒いていたとしても、この量は異常だった。

「近いッスかねぇ」

 このままいけば、間違いなく“アレ”が出てくるだろう。
 ある意味で、これは切っ掛けだった。未だ静観を決め込む彼らはこれを切っ掛けとして動き出すことは予想に容易く、霊力を未だ取り戻せていない彼は、回復の可能性が見えてくる。
 そして、何より――
 
「店長」

 大男――茶渡泰虎を肩に抱えている、筋骨隆々とした大男、鉄斎が今まで喜助が見ていた少女――井上織姫を抱えあげ、静かに声を発した。

「ん、はいな、いきましょうか。アタシたちはアタシたちで、やることあるッスからねぇ」

 そう。やらなくてはいけないこと。これから起こる戦いの、少しでも勝率を上げるための手段。勝たなくてはならない戦い。ほぼ十割の確率で負けるであろうこの戦いを、少しでも勝ち目のあるギャンブルへと変えるための、彼自身の戦いへの切っ掛け。
 
「さて。そろそろ移動しましょうか。時間も――おや?」

 そうして行動を起こそうとしたところに、妙な霊圧を察知する。それは巨大でありながら不安定で、今にも壊れそうな、そんな儚さも感じるものだった。

「……おや」

 これは予想外と、喜助は行き先を変更したのだった。


いんたーるーどあうと


いんたーるーど2


 国枝鈴は混乱していた。町を歩いていたら、クラスメイトが何をトチ狂ったのか自分を押し倒そうとしてきて、それを撃退すればなおしつこく自分を引っ張り込んだ。ちょっとむかついたので一発殴ってやろうかと腕に力を入れたまでは良かったが、その背後でいきなりブロック塀が爆発したように弾けとび。クラスメイトが立ち上がって自分をかばうように前に立った瞬間、彼は車にはね飛ばされたかのように吹っ飛び、無事だった箇所のブロック塀を巻き込んでどこかの家の庭に倒れている。
 瓦礫で良くは見えないが、その体からところどころ出血しているのが見えた。アレは、どう見てもやばい状態というのではなかろうか。
 だが鈴としてもどうすればいいのかわからないのだ。駆け寄ろうにも、自分の前に立つ“ナニカ”の圧迫感が強すぎて動けない。まったく見えもしないのに、しかしそれでも鈴の体はおびえていた。目の前の存在に。
 
「……あ」

 がくがくと足が震えた。次第にそれは上半身に伝わっていき、ぺたん、としりもちをつく。腰が抜けたのだ。
 初めての感覚だった。自分はお世辞にも愛想がいいというわけでもなく、感情を表に出さないほうだが、無感情というわけでもない。しかし、それでも本能的に怖いという感覚は味わったことがなかった。
 それを、今自分は味わっている。そのことに気付くのに、数秒を要した。

「い、」

 自然と、声が漏れる。

「いやあああああああああああああ!!」

 そして、

「こんのやろおおおおおおおおおおお!!」

 バガン、と、横合いから飛び出してきた漆黒の存在が、その圧迫感を放つ存在を、殴り飛ばしたのだ。

「……え?」

 鈴は呆然とその乱入者を見上げる。その存在は、まさに異形の一言に尽きた。全身を覆う、甲殻類のような漆黒の外骨格に、二本の角を持つ鬼のような兜をつけている。あまりそっち方面の番組は見ないほうだが、昔見た子供向けの特撮番組では、出てきた瞬間に悪役に分類されそうな姿形だった。
 ゆっくりと、それが自分を見下ろす。そこで、鈴の意識は途切れた。


いんたーるーどあうと
 

「……なんだこれ……」

 外骨格の中で、譲治は呆然とつぶやいた。バケモノに吹き飛ばされ、何かがはじけたと思えば纏っていたこれ。これが、自分に眠っていた『力』なのだろうか?

(……いや、そんなことどうでもいい)

 譲治は気を失った鈴をかばうように立ち、バケモノを見据える。どういうわけか、この形態になってから知覚が妙に発達しているのを感じた。今なら、あたりを舞う塵芥の一粒ですら知覚できる。

(……いける)

 ぐっと、足に力をこめる。人間、腕の力より足のほうが強い。ならば、この形態でもそうだろう。それに何より――

(こういう……)

 体を起こしたバケモノに向かって突進する。もう、恐怖はなく、あるのは『勝てる』という確信だけだった。
 
(パターンでの……)

 もう体の痛みはない。どうやらこの形態は、自己治癒能力も相当のものらしい。
 それに感謝しつつ、譲治は飛びあがった。眼下に、バケモノを見据える。

(必殺技は――)

 轟ッ、と背中から何かが噴出する。

「蹴り技がっ、基本だろ!!」
 
 天地が震える。それはまるでイカヅチの如く、大地を叩き潰し。バケモノを、跡形もなく吹き飛ばした。

「へ、へへ……やっ……た」

 もうもうと立ち込める土煙の中、それを確認して、譲治は満足げに――倒れ伏した。







――――――――――――――――
 リハリビついでに昔書いたヤツを手直ししてみる。
 チュウニです。

 7月3日修正。BLAECHってなんだw
 7月3日修正。注意点追加。



[19977] 第二話
Name: ハマテツ7号◆23b8172b ID:013b83cd
Date: 2010/07/03 17:22
 譲治が目を覚ますと、なにやらクラスメイトが二人、自分を覗き込んでいた。

「……うぇ?」

「あ、気付いた!」

「……ム」

 少女は井上織姫。クラスで嫌われ者の譲治にも、普通に接してくれる数少ない女子だ。その横にいる大男は茶渡泰虎。ここら一帯で最強をほしいままにする不良だと、誰かが言っていた。
 そんな二人が、なぜ、譲治と一緒にいるのか。

(……美少女と野獣……?)

 と、そんな失礼なことを考えながら、譲治は体を起こした。辺りを見回す。殺風景な和室だった。どうやらそこに引かれた布団に、自分は寝かされていたらしい。

(一体誰が……?)

 織姫かチャドか、と考えをめぐらすが、どうもそれは腑に落ちなかった。表情を見る限り、二人も戸惑っているようにも見えたからだ。
 では、一体誰が……と辺りを見回したところで、ふすまが小さな音を立てて開いた。そこからひょっこりと顔を出したのは、帽子をかぶった中年――浦原喜助だった。



 第二話


 それから譲治、チャド、織姫の三人は、喜助に連れられてどこかの廃ビルの一室にいた。既に喜助の姿はなく、譲治たちが見下ろす広場では、黒い着物を着て刀を振り回す少年、黒崎一護と弓みたいなもので矢みたいなものを放っている少年、石田雨竜が、彼らを取り囲む仮面のバケモノ――喜助は虚(ホロウ)と言っていた――を相手に戦っている。

(あれが、虚……黒崎君、時々いなくなると思っていたらあれと戦っていたのか……)

 純粋にすごい、と思う。ラノベや漫画では結構見られる光景なのだが、まさか現実で、まさか自分が巻き込まれるとは思っても見なかった譲治である。こういうことへの憧れはあったが、今は驚きの感情のほうが強い。

「……井上、永見。石田と……その隣の一護は……見えるか?」

 重苦しい沈黙の中、チャドが口を開いた。おそらく、一護や虚のことを言っているのだろう。

「うん。はっきりと」

「……私も」

「そうか。……俺にはかすれて見える」

 若干、その声のトーンが落ちたような気がしたが、譲治はその答えがわからなかった。
 
「ここで見ていてください……か。見て、それから選べってことかなぁ……」

「……」

「……あたしたちの歩く道を」

 織姫が静かにつぶやく。譲治も、チャドも、一言もしゃべらず織姫の言うがままに任せていた。

「……茶渡君……永見君……あたし達……どうすればいいかなぁ……」

 その答えに、譲治は答えることができなかった。……いや、答えは既に出ているのだ。きっと、自分たちは近いうちにあそこにたつことになる。なんと答えようと。あの化け物を見えるということ、あの化け物を倒したという事実がある限り、きっと。

(……きっとなるんだろうな……でなけりゃ、あの浦原さんって人がこんなのを見せる理由がない)

 喜助は、ここから去る前に覚悟を迫るような言葉を残した。覚悟、一体何の覚悟なのだろう、と疑問に思ったが、そう考えればまあつじつまは合う。これほどの数の虚が出現するなら、当然一人や二人では手が回らない。ならば、自分たちにもそれを手伝え、と。そういっているのか……。
 そう譲治は推測したが、どうも違うような気がしてならない。何か違和感があるのだ。

(……そういえば……黒崎君がこんなことをしだしたのはいつからなんだろう……)

 巷ではチャドと並び県下最強の不良と称される一護なのだが、その実授業などはしっかりと受けている。遅刻は一般生徒並にはしているし、授業をサボることも良くあることなのだが、早退などはほとんどしていなかったはずだ。そんな彼が、このところ早退が多いような気がする。そして、それが始まったころ……

(……ちょうど、朽木さんが転校してきたころだよな……。偶然か……?)

 もし、そう、もし彼女がかかわっているとするなら……。
 実のところ、譲治とルキアは親しいといってもいい関係だ。譲治にとって、数少ない友達と言い換えてもいい。
 ルキアが現代語の勉強として浦原から借り受けた小説の一冊である『聖獄閻寺学園薔薇百合物語』をたまたま休み時間に読んでいた譲治にルキアが話しかけてきたのが切っ掛けだった。それから同行の士としてよく話すようになった。もちろん、同好の士というのは譲治が勝手に思っているだけだったが。
 ともかく、学校に友達が殆ど――というかまったくいなかった譲治にとって、ルキアの存在は心の支えになっていたともいえる。まあ、大切な友達というやつだろう。向こうはそう思っていないだろうが。

(むぅ……黒崎君が最初からあんな力を持っていなかったという前提で考えれば……力を手に入れたのは、誰かが、関係しているということだよな。それが、朽木さんか……もしくは、浦原さんということになる……って、さすがに突飛だな。浦原さんはともかく、朽木さんがかかわっていると決め付けるのは早計だし……推測するにも、材料が少なすぎる、――っ!?)

 ぞくり、と肌が波立つ。ぞわぞわと背筋を何かが這い上がってくるような、そんな感覚。

「何……これ……」

「……ム」
 
 見れば、織姫も顔色を変えて腕を抱えていた。チャドも顔色こそ変っていないものの、何か異変を感じ取っているらしい。

「……何か――来る!」

 瞬間。
 ――空が、割れた。


いんたーるーど


「おやまあどうしたの」

 ばたばたと走り回る死神達を見て、御剣峰隆は眉根を寄せた。問いかけられた隊員はしかし、峰隆を無視してそのまま走り去ろうとして、

「まてやコラ」

「ぐぼっ!?」

 襟首を引っ張られて一瞬窒息する。

「何すんだテメェ!」

「こっちの台詞だ阿呆……俺を無視しようなんざ、いい度胸してるじゃねぇか」

「……ゲッ、御剣……!」

 この忙しいときに自分に喧嘩を売った(と思っている)のが峰隆だと認め、その死神は顔色を変えた。その声に、峰隆はピクリと眉を動かす。

「アン……? 御剣四席だろうが。いつから俺を呼び捨てに出来るほど偉くなったんだテメェは」

「す、すいませっつぁ―――!!」

 峰隆のアイアンクローをくらい、悶絶する死神を尻目に、峰隆は隣でおろおろしている死神に声をかける。

「で、一体どうしたんだ騒がしい」

「はっ、えぇと――その、現世で、大虚が出現したと観測班から連絡がありまして……!」

「大虚が? だが、ンなのは隊長クラスか王室特務が行ってんだろうが。……まさか、出現が予測できていなかったのか?」

「その通りです」

 その答えに、峰隆はふむ、と考え込む。

「となると誰かが重霊地で餌を撒きやがったか……だが、それでもすぐに隊長クラスを派遣すりゃいいことだろうが。まさか、門が準備できていないなんてこたぁねぇだろうがよ」

「それはそうなんですが……その……大虚が……自分から撤退したのです」

「……どういうこった?」

 大抵、大虚が現れればそこら一体の魂魄を食い尽くすまでその行動をとめないはずだ。特に理性がないギリアンならば、それは絶対といってもいい。だが、そんな大虚が撤退するとは……にわかには、考えづらいことだ。
 考えられるとするなら……何者かに、致命傷を負わされた場合だ。だが、現世に派遣している死神では、大虚に致命傷を負わせることはまず不可能といってもいいだろう。確か朽木の秘蔵っ娘ならばいけたと思うが、彼女は現世で行方不明になっていたはずだ。彼女の兄が面白いぐらいうろたえ、うるさかったので酒を飲まして酔い潰させたのを覚えている。

「偵察蟲を下界に下ろしましたが……その……何者かに破壊されたようで……ただいま映像庁のほうで解析中です」

「……おいおい」

(こりゃまた、大変なことになりそうだぜ……)

 疲れたようにため息をつく峰隆。その足元では、アイアンクローをくらっている下っ端死神が泡を吹いて、びくんびくんと体を痙攣させていた。


いんたーるーどあうと


「……」

「……」

「……」

 譲治、チャド、織姫の三人は、無言でオレンジ色に染まりつつある路を歩いていた。
 あの後、空が割れた瞬間。そこから、とんでもなく巨大な虚が現れ、そしてそれは一護が放った斬戟のようなもので撤退していった。譲治たちはそれを見ていることしかできず、そしてやってきた喜助に、帰っていいと告げられて現在に至るわけだ。

「あ……あたし、こっちだから……」

「……ム」

「あ、うん……またね、井上さん」

「うん、またね茶渡君、永見君」

 手を小さく振り、織姫が去っていく。必然と、譲治はチャドと肩を並べて歩くこととなった。

(う、うわー……)

 全くクラスでは暴力はふらないとはいえ、チャドは他人から不良と呼ばれる人種である。そんな彼が、クラスの嫌われ者である自分に暴力をふらないという確証があるのだろうか。……あるはずがない。

「……永見」

「は、はひっ!」

 そんな彼からの突然の声に、譲治は思わず舌を噛んでしまう。横目で顔色を伺うものの、無表情な彼の表情を読むことはできなかった。

「……お前は、どう思った」

「……え?」

「石田と一護のことだ」

「……あ……」

 その言葉で、譲治はあの光景を思い出した。あの巨大な虚と一緒に戦っていた二人。自分たちは、何もできなかったその光景。

「……俺は……できることなら、一護と共に戦いたい。……お前は、どうだ?」

「……僕は……正直わからないです。……でも……」

 そうして、譲治は空を見上げた。

「……きっと、僕はこういう展開にあこがれていたんだと思います」

 空は、闇に染まりつつあった。





[19977] 第三話
Name: ハマテツ7号◆23b8172b ID:013b83cd
Date: 2010/07/03 17:33
「明日のためのその一! 自分の力を知ってみよう!」

 森の中、どどーん、と擬音が鳴り響く。少しタイミングがずれていた。厳密に言えば「み」あたりから鳴っていた。

「……失敗した」

 譲治はぽりぽりと後頭部をかきながら、カセットテープのスイッチを切る。やはり、時間差は難しい。昨日がんばってやってみたのだが、失敗してしまったようだ。

「……慣れないことをするもんじゃないなぁ……」

 そんなことを言いながらカセットテープをセットしなおす譲治。というか、森の中、一人でそんなことやっている姿は何故か悲哀を誘う。

「……さびしいよう。ぐすん」

 いつもなら幽霊とかと話しているのだが、この『特訓』のときだけは、そういうわけにも行かない。今まで幽霊には普通にしゃべれたし、すごい調子のいいときは触れることもできた。だが、『傷つける』ということはできないということは、本能的にわかっているつもりだ。
 だが――

「……僕の推測があっているんなら、きっと“あの形態”は幽霊も傷つけられる」

 だから、何らかの要因で傷つけてしまわないよう、幽霊がいなさそうな場所を選んだのだ。というか勘で選んでみたのだが、時々自分の勘が恐ろしくなる。

「……よし」

 息をつき、気合いを入れ直す。そろそろ、始めよう。
 足幅は肩幅に、手は腰だめ、目を閉じ、自分の中のものに意識を集中する。
 ――そして、その目がカッと開かれ――
 
「変身――!!」

 ――そんな声が、森の中さびしく響いた。


 第三話


いんたーるーど

 大虚が現れてから翌日。何故か空座町では混乱は起きず、何も起こらなかったことになっている。学校で傷ついたはずの生徒たちの傷もなく、町も破壊された跡すら残っていない。
 きっと、喜助が何かしたのだろうとルキアは考え、そしてまた思考の渦にのまれていった。

「……」

 大虚が現れた。ギリアンではあるが、現世に現れるということ自体が事件なのだ。しかも、そこには隊長クラスもおらず、死神が派遣される前に傷を負い、撤退していった。
 ……おそらく近いうち、尸魂界から調査が入る。……いや、既に調査しているはずだ。そして近いうち、自分は見つかる。
 そうなれば、きっと……確実に一護は巻き込まれる。下手をすれば、殺される可能性すらある。……答えは、一つしかなかった。

「……」

 ふと、現世に来てから、一般人で始めて地を出してしまった原因である少年を思い出した。奇妙な少年だった。内に秘める霊力は相当のものであるのに、魂魄と体はそれに対応していないような、不安定な魂魄。彼と話していたのは、彼を監視するという意図もあった。
 だが、尸魂界のことを話すわけにもいかないとはいえ、いつしか本音で話せる相手になっていた。……友、と言い換えてもいいかもしれない。
 下手をすれば、彼にも迷惑がかかる可能性がある。頼めば、喜助がどうにかしてくれるだろうか。……いや、何を考えているかもわからないが、喜助も尸魂界からは追われる立場のはずだ。今回のことは、頼ることもできはしない。

「……すまぬ」

 その言葉は、小さく、空に上っていった。


いんたーるーどあうと


いんたーるーど2


 あれは一体なんだったんだろう、と鈴はずっと考えていた。昨日の空白の記憶。それを埋めるようにして存在している、わけのわからないありえない記憶。そして、その直前の――自分に向かって走ってくる永見譲治の姿の記憶。
 どれもこれもが意味がわからない。記憶はあるのだ。だが、その記憶だけ、どうしても違和感が付きまとう。よくよく考えれば、その場所だけ空白だということに気付いた。
 これは一体なんなんだろう、と考えているうちに、永見譲治を思い出した。自分に向かって走ってくる譲治。しかし、そこから先だけはどうしても思い出せない。思い出そうにもそこの記憶だけ、キレイさっぱり抜け落ちている感じだった。
 譲治に追求しようにも、何故か彼は休んでいる。クラスのほとんどからはハブられている彼だが、学校は殆ど休んだことがない。それなのに今日は休んでいる。ますます怪しい感じがした。

「……」

 鈴にとって、それは少し我慢ならないことだった。何でもはっきりさせておきたいのだ、自分的に。興味のないことには極端に興味を示さない鈴であったが、一度興味を持てばとことん追求する。それが国枝鈴だった。

「……よし」

 とりあえず譲治を殴ろう。何故かそう思った。そう思えば、譲治を殴ろうかと思って殴っていないような気がした。何が何でも殴ろうと思った。
 自分のあずかり知らぬところで、何故か譲治に危機が迫っていた。


いんたーるーどあうと


「な、なぜだーーーーーーー!!??」

 人気のない森の中、譲治はのけぞりながら叫んだ。絵てきにはアメコミのオウマイガッってな感じだ。
 その体はいつもの譲治だ。黒い外骨格も、鬼のような兜も、もとより仮面○イダーのようなベルトも存在していない。森の中、結構マヌケだった。

「パターン的にここは変身できるんじゃないのか!? ハッ、まさかあのバケモノの前でしか変身できないとかそんなオチか!? そうなのかーーーーー!!?? 説明を要求するーーーー!!」

 一通り叫んだ後、譲治は額に浮かんだ汗をぬぐってはあはあと息を漏らした。
 人気のない森の中、膝に手を当て汗だくで、しかも息を切らしている。怪しいことこの上なかった。
 普通なら絶対声はかけたくないだろう。というか一目散に逃げ出したくなる光景だ。
 譲治はため息をつくと、どっかと腰を下ろした。胡坐をかいて考え込む。

「はあ、はあ、はあ……さて。昨日は変身できたのに今日は変身できない件について」

 一人議題を上げてみる。誰もいないので、推測を出すのも自分一人だ。

「……昨日変身できた……となると、昨日の条件に、変身できるという条件が含まれていた可能性が高いということだよな……。じゃあ、昨日変身したとき、僕は一体何していた……何を考えた……?」

 声を出して疑問をあげる。考えるときは大抵声を出さないのだが、譲治にとっては声を出したほうがより深く考えられるため、一人っきりのときは声を出して考えることにしていた。

「状況……虚に襲われていた。国枝さんには虚は見えていなかったはずだから、あれはたぶん幽霊と同じような存在なんだろうな……悪霊とかいうやつか……? ……待てよ?」

 ふと、昨日の会話を思いだした。チャドの言葉だ。

『石田と……その隣の一護は……見えるか?』

『そうか。……俺にはかすれて見える』

「この言葉から考えて、たぶん黒崎君はあの虚と同じ――つまりは幽霊みたいなものだったと考えられる。だけど黒崎君は生きているはずだ。だから、きっと幽体離脱かもしくはあの黒い着物みたいなものを着ているときは、そういう状態になるのか……」

 じゃあ、自分もそうなのだろうか? と考える。
 どうもそう思えなかった。あの一瞬、鈴が気を失う一瞬だが目が合ったはずだ。だが、鈴は虚が見えていない。もしあの形態の自分と一護が同じような状態だったとするならば、鈴の目には自分はうつらないはずだ。
 
「国枝さんに僕の姿が見えていたという仮定で、だけど……僕はきっと生身のまま、あの形態に変化していたと考えられる……とするなら、変身するときは幽霊にならないとだめだということはないはずだ」

 じゃあどうして変身できないのか、それが問題だった。
 瀕死の状態でなくてはならないのだろうか? ……もし失敗したらそれこそ取り返しがつかないので却下。
 じゃあ誰かを護りたいと思わなくてはならないのか? ……今この場にそんな対象いないので保留。
 ほかの手段……思いつきませんのでこれも保留。

「……打つ手なしじゃん」

 わざわざ学校休んでまで、午前中丸々使ってこの場所探したのに、とがっくりうなだれる譲治。

 アホー アホー

「うっさいわああああああああああああああ!!!」

 闇に染まりつつある空では、阿呆鳥が鳴いていた。


いんたーるーど3


 石田雨竜はその晩、好物の鯖の味噌煮を食べたというのに何故か心が晴れなかった。豪勢なことに、使った鯖は丸まる一匹なのに。
 
「……クソ」

 とりあえずクインシー仕様の戦闘服でも作ってみる。思い浮かぶのは、やはり祖父の姿だった。

「……師匠……」

 自分が情けなかった。自分に一番怒りを覚えているというのに、それを他人になすりつけ、あまつさえこの空座町を危険にさらしてしまった。本当に、情けない。こんなところを師匠が見れば、きっと一日中怒鳴りつけられるだろう。

「……僕はどうすればいいのでしょうか……」

 謝りたい、と思った。だが、そうする手段がない。あの祖父のことだ、未練はあるだろうが、きっともう成仏しているはずだ。……もし、自分も向こうに行けば会えるのだろうか。……いや、きっと怒鳴られる。天寿を全うして逝かなければ、下手をすれば口もきいてもらえないだろう。
 
「……とりあえず黒崎を殴るか」

 そして、殴られてやる。それで、貸し借りはなしにしてやろうと思う。なんだか矛盾しているような気もするが、それはそれだ。
 そう考えれば、幾分か心の錘は軽くなった気がした。
 その、瞬間だった。

「――っ!」

 霊圧を感じた。意識を集中する。視覚化された霊圧――霊絡が現れる。その中に二本、赤い物が混じっていた。

「――死神か!」

 そうして雨竜は飛び出そうとするが、その近くにもう一つ、赤っぽい霊絡を発見する。……これは何度も見たことがあった。朽木ルキアのものだ。

「……えぇい!」

 舌打ちし、ゴミ袋用に取っておいたヒマワリソーイングのビニール袋を取り出してソーイングセットを中に放り込む。

「……完璧だ」

 恍惚に浸る雨竜。
 莫迦だった。


いんたーるーどあうと


「……くそう」

 ぐすんと鼻をこすりあげる。譲治、半泣きだった。
 あれからさらに二時間ほど粘り、いい加減暗くなってきたところで帰ろうと思い立ったものの、気付けは帰り道がわからなくなっていた。もう完璧に。
 数時間歩き回り、やっとの思いで見覚えのある場所に来たときには既に深夜を回っていた。

「遅くなったし……今夜、見たいアニメあったのに……」

 深々とため息をつく。今日やるはずのアニメは、あのドン観音寺が全面協力して製作されたものらしく、ストーリーは死神の少年が悪霊と戦うというハートフルストーリで、深夜帯だというのに視聴率が十パーセントを超える人気アニメなのだ。……ふと、死神の少年が一護に似ている気がしたが気のせいだと納得させたのは記憶に新しい。
 しかも今回の話は、主人公の少年が師匠と考え方の違いから一騎打ちするという話らしく、一週間前から楽しみにしていたというのに、見逃してしまった。

「……はぁ~……」

 再度、ため息。結局変身もできず、アニメも見逃した。今日で何度ため息をついたかわからない。
 
「……やっぱ舞い上がっていたんだよなぁ」

 勢いで学校まで休み、突然手に入れた力を見てみようとする。まるで、新しい玩具を手に入れた子供ではないか。いくら別の理由を取り繕おうとも、やはり根本にはそれがある。
 無理からぬことではあるのだ。幽霊が見えていただけで周りから気味悪がられ、幼いころから一人を強いられてきた譲治である。そんな彼は、特異な力を持ちながらも一般人から憧れられるアニメの中のキャラクターに、ヒーローに人並み以上の憧れを抱いていた。
 そんな存在に、自分もなりたい。そう思い始めるのに時間はかからなかった。だが、どうあがいても譲治は人間なのだ。その思いは、すぐに埋もれていった。
 しかしこのとき、譲治は力を手に入れた。昔憧れた、ヒーローになれるであろう力を。
 だがまあ、今日証明されたとおり、焦っても仕方がない。

「ま、気長にやるか」

 そうしてつぶやいた、その目に。
 刀によって切り伏せられた石田雨竜が、目に入った。

「――な」

「あん……? なんだテメェ。俺たちが見えてんのか?」

 雨竜を切り伏せた赤毛の男が、譲治を見据える。瞬間、背筋を悪寒が走りぬけた。

「――ッ!」

「ハッ、この程度の殺気で顔色を変えるか……雑魚だな!」

「永見……!?」

 嘲るような男の声と戸惑いの色が混じる少女の声が重なる。その声に、譲治は聞き覚えがあった。

「朽木……さん?」

 少女――朽木ルキアは呆然とこちらを見ていた。その傍らに、倒れ付す雨竜と赤毛の男。そして、頭に妙な飾りをつけた男がたたずんでいる。後者二人は、あの一護のような黒い着物を着ており、その腰には刀をさしていた。
 その光景に、譲治は一つの結論に達する。
 ――ルキアを二人が襲い、助けに入った雨竜を斬った、と。

 ――その答えで、十分だった。

「逃げよ、永見!」

「どうしたルキア。……まさかこいつか、お前の力を奪ったのは」

 会話が聞こえる。しかし、譲治はその内容をうまく理解できなかった。体を這いずり回る感覚。あの感覚だ。あの、初めて変身したときと同じ感覚――

「……恋次。妙な霊圧だ。気をつけろ。それに……永見。聞き覚えがある名だが」

「……は? 隊長、何言ってんスか。どうみたって雑魚でしょ、こいつ」

 人が力を行使するためには、総じて覚悟が必要である。人を殴るのならば殴る覚悟。拳銃を撃つならば撃つ覚悟。人を斬るならば、人を斬る覚悟。
 譲治にはそれがない。あるのはただの力に対する憧れだけだ。
 だが、このとき、この一瞬。
 クラスメイトが斬られ、友人が襲われそうになっている。その事実が、擬似的な覚悟となって譲治を押し上げていた。

「……!」

 ようやく、そこに至って赤毛の男――阿散井恋次は譲治の体から立ち上る妙な霊圧を感じ取った。自分たちは現世にくるに当たって、霊なるものに不要な影響をおよばさぬよう霊力を極端に制限されている。それは一見不利に見えるが、そんなことはない。それでも、現世に駐在する死神よりも格段に強いというのは、周知の事実だ。ただ単に、力の次元が違うだけなのだ。
 だが、目の前にいる存在は、霊力だけで言えば制限されている今の状態よりも強い。いや、下手をすれば制限されている前よりも強いのではないのだろうか。
 そう錯覚してしまうほどに、譲治の体から立ち上る霊力は、妙なものだった。そして、それが収束を始める。

「……」

 何が起こるのかはわからない。だが、無用な危険を冒すおろかな真似は、護廷十三隊副隊長としては許せるものではない。
 考えるより先に恋次は動いていた。斬魄刀を構え、瞬時に譲治へと肉薄。斬り捨てようと刀を振り上げる。
 ――が。

「――変身」
 
 一瞬早く、その言葉がつむがれる。
 つむがれた言葉は、言霊となって譲治を包み込み、霊圧を迸らせた。

「――ちぃっ!」
 
 しかし恋次も副隊長にまで上り詰めた存在である。霊力の奔流だけでは、その行動をとめることは不可能だ。

「オラァッ!」

 吹き荒れる霊圧の中、恋次は何の問題もなく斬魄刀を振り下ろす。譲治を両断せんと振り下ろされたそれはしかし、漆黒の外骨格に包まれた腕によって阻まれ、その動きを止めていた。

「な――」

 呆然と声が漏れる。
 ざあ、と風が吹き、吹き荒れる霊圧が譲治をさらけ出した。
 そこにたたずむは漆黒の鬼。
 ――永見譲治、二度目の変身だった。






―――――――
早くもオリーシュVS原作キャラ勃発。
俺の中の封じられた鬼が……! そんな感じではありません。チュウニだけど。



[19977] 第四話
Name: ハマテツ7号◆23b8172b ID:013b83cd
Date: 2010/07/04 21:45

 吹き荒れる霊圧の中、恋次は何の問題もなく斬魄刀を振り下ろす。譲治を両断せんと振り下ろされたそれはしかし、漆黒の外骨格に包まれた腕によって阻まれ、その動きを止めていた。

「な――」

 呆然と声が漏れる。
 ざあ、と風が吹き、吹き荒れる霊圧が譲治をさらけ出した。
 そこにたたずむは漆黒の鬼。
 ――永見譲治、二度目の変身だった。



第四話




「――なんだテメェ……」

 初見と同じ言葉。しかし、その言葉に含まれる感情は、まったく違うものだ。
 恋次は油断なく斬魄刀を構える。その目は、一時も鬼と見紛う外骨格を纏った男の一挙一動まで見逃さない。

(……変身、できた……)

 対して譲治は自分の体を確かめるように自分の掌を見つめ、何度か動かしてみる。昼間には感じられなかった力のめぐり。それが、今では感じられた。外骨格を覆うようにして緩やかに流れるそれは、集中すればそれは面白いように思うとおりに動いてくれる。

「……?」

 その行動に、恋次はいぶかしげに眉をひそめた。まるで戸惑っているかのような、確かめているかのような行動。それは、いまだ自分の能力をわかっていないということなのだろうか。

「……ちッ」

 恋次は舌打ちを一つつくと、一気に間合いをつめる。常人なら、いや、死神でも上位席官クラスでないと反応できない速度でだ。
 だが、譲治はそれに反応した。

「おおっ!」

 振り下ろされる斬魄刀を手甲で受け止め、そのまま拳を突き出す。

「堅い――」

 予想外の硬度に驚きを感じながら、しかし恋次は焦りを見せずに斬魄刀を引き戻して拳を受けとめる。
 が。

「がッ――!」

 受け止めたというのに、そのありえない衝撃。踏ん張るが、そのまま数メートル後退を余儀なくされた。瞬時、体勢を立て直し、刀を構え譲治を見据えようと顔を上げる。が、既に譲治の姿はそこになかった。
 背筋が凍る。

「ッ!」

 その行動は咄嗟だった。すぐさま、その場から飛び退る。
 刹那。

「ぉおおらああああああああっ!!!」

 天空から突き刺さる雷と見紛うばかりのすさまじい蹴りが、ほんの数瞬前まで恋次がいた場所に着弾した。それはコンクリを大きく削り大地を陥没させ、噴煙を噴水の用にまきあげる。その威力に、恋次は絶句した。もし、あれが当たっていたら――。

「ちっ、はずした」

 一メートルほど凹んだクレーターの中心で、譲治はそう毒づく。妙な高揚感が、譲治を包んでいた。
 背中からがしゃん、と何かが動く音が聞こえた。瞬時、情報が脳裏に浮かぶ。
 轟、とそこから霊力が噴出した。譲治の体が浮き上がり、恋次に向かって突撃する。それはさながら漆黒の砲弾のようにも見えるが、その威力は砲弾の比ではない。いくら霊力を五分の一に制限されているとはいえ恋次の斬魄刀を受け止めた霊的硬度だ。そんなものが超速度で突っ込む威力はどれほどのものか。それは、深さ一メートルほどのクレーターを見れば用意に想像できた。

「クソが!」
 
 それに泡を食った恋次はジャンプしてそれを避け、大気中に漂う霊子を固めて足場とする。しかし。

「うおおおおおおおおお!!」

「何ぃっ!?」

 ごあっ、と背からさらに霊力が噴き出した。その推進力は譲治の体の向きを変えて、上空へと突進させる。

「はああっ!」

 武の心得も何もない、素人のテレフォンパンチ。しかし超速度で繰り出されたそれは、恋次に避ける暇を与えさせず、腹部へとめり込んだ。

「ぐ――」

 譲治の拳が恋次を捉え、恋次は地面へと叩きつけられる。

「――がっ!?」

 肺から空気が吐き出され、のどに熱いものがこみ上げる。それを無理やり飲み込んで、立ち上がった。
 地面に激突する直前霊圧を放出してクッションにしたため見かけほどダメージはない。だが、問題はほかにあった。
 ――敵を侮っていた、自分の心だ。
 すう、と恋次の目が細まった。その身から、静かな霊力が立ち上る。

「……一つだけ聞かせろ」

「……何?」

「テメェの名は」

 降り立った譲治に問う。譲治は、少し逡巡して答えた。

「……永見譲治」

「そうか。……俺は、阿散井恋次。覚えとけ。テメェを殺す、男の名だ」

 そうして、斬魄刀を構える。譲治も腰を落とし、いつでも応対できる体勢をとった。
 その反応に、恋次はにやりと笑い、斬魄刀を振り上げようとして――

「待て、恋次」

 その声に、動きが止まる。

「……なぜです? 確かに、やられはしましたが――油断していただけです」

 恋次の言葉に、制止の声をかけた男――朽木白哉は、静かに答えた。

「別に疑っているわけではない。だが、あまり時間をかけるのも考え物だ」

「……わかりました。一瞬でやります」

「いや、その必要はない」

「……?」

 白哉の言葉に、恋次は首をかしげ――

 ――白哉の体が、消失して。

「――ッ」

 漆黒の腕が、宙を舞った。

「永見!」

 ルキアの悲痛な叫びが、譲治の耳朶を打ち。

「……ぇ?」

 譲治の口から、呆然と声が漏れた。自分の右腕、その肩から先が――ない。
 どす、とそれが地面に落ちた。それが、自分の腕だと理解するのに数秒かかる。

「――」

 声にならない悲鳴が漏れだそうとする。しかし、それもままならなかった。
 まるで片足がなくなったかのように、バランスを保つことが難しくなったからだ。――事実、左足は、もはやつながっていなかった。

「――ぁ」

「……」

 声を上げる。何を言ったかもわからない。しかし唯一はっきりしていることがあった。

 ――気を、失ったことだ。


いんたーるーど


 倒れ伏す譲治。ぞわぞわと肌が波打ち、漆黒の外骨格が消えていく。右手左足がない、まるでできの悪い人形のように倒れ伏す男の姿を、恋次は呆然と見ているだけだった。その心に、戦いを邪魔された不快感はない。ただ、自らの隊長のその圧倒的な戦闘力に対する畏怖があるだけだ。
 だが――

「待ってください!」

 止めをさそうとする白哉に、恋次は思わず待ったの声をかけていた。白哉がこちらに振り返るが、その表情からは何も読み取ることはかなわない。まるで感情が存在しないようなその視線に、恋次はぞっとするものを感じてしまうが、それでも口は動いた。

「止めは……俺にやらせてください」

「……なぜだ」

「……それが、せめてもの礼儀だと」

 そう、教わった。戦いを教わった人に、恋次はそう教わったのだ。副隊長としての考え方と、その人流の考え方。その二つのせめぎあいは、今は後者が勝っていた。

「そいつも、名も知らない隊長に殺されるよりも、名を知っている自分が殺されるほうがよいかと……」

「……」

 恋次の言葉を、白哉は静かに聞いていた。視線が交差する。息が止まるような圧迫感を感じながらしかし、恋次は視線を逸らさなかった。
 どれほどそうしていたのか。白哉はそっと斬魄刀を鞘に収めた。

「……良かろう」

「ありがとうございます!」

 恋次は勢いよく頭を下げると、手に持ったままの斬魄刀を中腰に構える。……おそらく、これをしなければ勝てなかった相手だ。ならば、止めもそれでやるのが礼儀というものだろう。
 
「吼えろ――」

 そうしてその言葉がつむがれた瞬間。
 巨大な斬魄刀が、空間をなぎ払った。


いんたーるーどあうと


――雨が降り出した気がした。




―――――
勝者でうすえくすまきな・びゃくやん



[19977] 第五話
Name: ハマテツ7号◆23b8172b ID:013b83cd
Date: 2010/07/05 06:04





――雨が降り出した気がした。


第五話


 暗闇が、避ける。目に移るそれは、自分の部屋の天井ではなかった。

「……おはよう、ございます」

「おんや、これはまたあんまり混乱していないようッスねぇ」

 心なしか残念そうにそう言った浦原喜助は、ぱちんと音を立てて扇子を閉じた。
 それを横目で見ながら、“右手”をついて譲治は身を起こす。
 畳が敷かれた和風の部屋に、自分は寝かされていたようだった。

「……しっかりとつながっているようですね」

「……」

 譲治のつぶやきに、喜助は無言で答える。その反応で、譲治は喜助が何かをしたというわけではないということを確信した。
 喜助は、小さくため息をつく。

「……長く生きてきましたが、貴方のようなお人を見るのは初めてッスよ」

「僕は……何なんですかね」

 譲治は、思わず訊いていた。確かにあの時、右腕と左足は切り飛ばされていた。だが、今はくっついている。喜助の反応から見るに、これはおそらく彼らが治したというわけではないようで、それはつまり、今の譲治は自力で切り飛ばされた腕と足がくっつくような常識外れの回復能力が備わっているということになる。
 深くは考えていなかった。しかし、よくよく考えれば初めて変身したときも、瀕死の重傷を負っていたというのに、眼が覚めれば治っていたではないか。そのときは、きっと喜助たちが治してくれたのだろうと思い込んでいたのだが、おそらく、違う。

「アタシにもそれは……」

「……そっすよね。すんません」

 譲治はぺこりと頭を下げると、体の動きを確かめるように立ち上がる。斬られた箇所がピリッとするが、それも一瞬だった。すぐに痛みはなくなり、譲治は斬られた箇所に触れてみる。少し盛り上がっているものの、もう痛みも何もなかった。
 譲治の顔色でそれを悟ったのだろう、喜助は小さくうなずくと、唐突に切り出した。

「――昨日、貴方が戦ったのは尸魂界の方たちなんスよ」

「……は?」

「おそらく、朽木ルキアさんは向こうで罪に問われることとなります。一般人への死神能力の譲渡は重罪。下手をすれば、死刑すらありえる」

「……なっ!?」

 突然語られた言葉の内容に、譲治は言葉を失った。何かあるだろうと思ってはいたが、まさかそんなことになっているとは思ってもいなかったのだ。

「……朽木さんが……死刑!?」

「ええ」

「じゃ、じゃあっ、早く助けに行かないと!」

 死刑。その事実が譲治の思考能力を奪っていた。本来ならとるはずのない短慮的行動をとってしまうほどに。
 しかし、譲治の行動はとめられていた。いつのまにか畳の上に叩きつけられ、うまく固められているせいか身動きが取れない。

「って、ちょっ……!」

「それはこっちの台詞っスよ。しっかりと最後まで話は聞いてください」

「……」

 譲治の体から力が抜けたのがわかったのか、喜助は譲治の拘束を解く。譲治はとりあえず座り込み、喜助を見上げた。

「わかっているでしょう? 今の君の力では彼らには勝てない。そのことが」

「……それは……」

「今、君が尸魂界に行っても死にに行くだけだ。それがわからないほど、君は莫迦じゃないでしょう?」

 しばし、視線が交差する。にらみつけるような譲治の視線を、喜助は受け流すようににやりと笑った。
 譲治は静かに目を閉じて立ち上がると、部屋の外に出ようとふすまに手をかけ、ふと立ち止まる。

「……朽木さんの刑が執行されるまで、どれほどの期間があるんです?」

「……通例では、刑の執行には一月の猶予を取ります。――どうします?」

 その問いに答えず、譲治は商店を後にした。必要な情報はそろったとは言い難いが、あの人のことだ。その時になれば何らかの形で自分にも知らせるだろう。とにかく、今はそれを信じているしかない。

「――助けに行くに決まっているじゃないか……」

 そして空を見上げる。空は、青く、晴れ上がっていた。

「――友達、なんだから……」

 ちょっとその言葉に感動を覚えつつ、不意に腕時計が目に入る。
 本時刻午後三時。終業式、既に終了。

「……あ゛」

 この後、譲治は母親に小一時間ほど説教をくらうのだった。


 ――翌日。早朝。


「なぜだああああああああああああ!!??」

 二日前とほぼ同じポーズで、同じ場所で絶叫する譲治がいたりとかなんとか。
 膝を突き、うなだれる譲治。

「……なぜだ……なぜ変身できないんだ……」

 悔しそうに地面を殴る譲治。その傍らに、何故かカセットテープが置いてある。

「せっかく……せっかく変身中のBGMも用意してきたっていうのに……」

 どうやら昨晩の努力が無駄になったことが悔しいようだった。とはいえ譲治も馬鹿ではない。いや、むしろ彼のIQは高いほうだ。そんな彼の頭脳は、現在と、変身できた二回の状況とを比較し、足りないものを推測し始めている。

「……だから一体何が足りないんだろ……。はぁ……格好つけないで浦原さんにこの力の使い方教えてもらえばよかったかも……」

「ならば、儂が教えてやろう」

「――は?」

 突然聞こえてきた声に、譲治は辺りを見回した。おかしい。ここら辺には幽霊すらいない。人など、もってのほかだろう。ならば、一体誰――?

「ここじゃ」

「――って、うわぁっ!? 猫がしゃべってる!?」

 視線を下に移動する。そこにいたのは、黒猫。じっとこちらを見上げ、面白おかしそうにその目は細まっていた。
 しかし、その顔もすぐにゆがむことになる。

「これはあれか! 使い魔だな! そうか、これで僕も主人公というわけか! よし、よしよしよしよしよし! キターーーー! 主人公フラグがたったーーー!!」

「……」

 唖然とする黒猫。しかし興奮してしまった譲治はもう止まらない。びしっと親指を立て、サムズアップして一言。

「よし猫ちゃん! 今日から君の名前はブリューナクだ! よろしく頼むぜ!?」

「誰がじゃ!」

 ちゅっどーーーん、と、空座町郊外にある森できのこ雲がたちのぼったとかなんとか。




「おぬしには覚悟が足りないのじゃ」

「……覚悟?」

「うむ」

 何故かぼろぼろになって突っ伏す譲治の頭の上で、黒猫――夜一は鷹揚に頷いた。

「力を行使するには、総じて覚悟が必要じゃ。人を殴るのであれば殴る覚悟、人を斬りつけるのであれば斬る覚悟……といったぐらいにの。そして、自分も傷つくことも覚悟せねばならん」

「……」

「おぬし、他人を傷つけることにためらいを持っておるじゃろう? でなくば、自らを失うという愚は無かったはずじゃ」

 冷たく、夜一は言い放つ。押し黙った譲治を見て、夜一はひょいっと地面に降りた。そしてそのまま、どこかに去ろうとする。

「ま、おぬしにはこれぐらいの助言で充分じゃろうて。よくよく、考えることじゃな」

 そう言い残して夜一は闇にまぎれて消えていった。

「……覚悟……か」

 そのつぶやきは小さく、しかし、そこには今までには無い感覚があった。

「……僕……なんで闘おうって思ったんだろ……?」

 一度目は、ただクラスメイトを死なせたくない、そう強く思っていた。
 二度目も、同じだ。斬り伏せられた石田雨竜、そして、捕えられた朽木ルキア。彼らを助けたい、死なせたくない、そう思ったが故に、変身できたのだろう。
 ――では、今は?
 決まっている。朽木さんのためだ。だが、本当にそうなのだろうか?
 ただオマエは、憧れていただけじゃないのか――?

「……僕は――」

 立ち上がる。いまだ稼動を続けるカセットテープを切り、静かに目を閉じた。自分の体の中にあるもの。夜一いわく、霊力というもの。それを、感じ取る。
 ――あった。奥底でくすぶるようにして渦巻いていたそれを感じた瞬間、霊力が体からあふれ出していく。
 まだ譲治にはわからない。だが、唯一つはっきりしていることがあった。

「僕は……朽木さんを助けたい」

 それは覚悟ではないのかもしれない。けれど、今はそれでいい。一歩ずつ、進んでいこう。憧れから、現実へ。

「――変身」

 つむがれた言霊は、霊力を纏わせ、譲治の体を変質させた――










―――――――――――
少し短め。キリがいいので此処まで。
次回予告! 鬼神ZYOUZIここに来臨! 嘘です。
次からようやく尸魂界突入開始。



[19977] 第六話
Name: ハマテツ7号◆23b8172b ID:013b83cd
Date: 2010/07/05 23:14






「たーまやー」

 夜空に光の花が咲く。それに合わせて、譲治は声を上げた。ビルの屋上、その上で、一人で。
 この夏祭りは空座町の殆どの人が来ている。ということは、譲治の学校の生徒も当然のようにいるだろう。
 きっと、自分と顔を合わせれば嫌な思いをする。両方共だ。
 これは、譲治の処世術だった。

「……ん?」

 ふと、したの道路を歩く数人の少年少女達を見つけた。一護たちである。

「……」

 それを譲治は、静かに眺めていた――



第六話



「結局、何も言えずに出てきちゃったなぁ……」

 深夜の夜道を、譲治は一人走っていた。喜助から招集がかかったのだ。

「……はぁ。帰ったら絶対怒られるよなぁ」

 何の言伝もせず、残してきたのは手紙のみ。心配するな、というほうが無理だろう。

「まあ、うじうじ考えていても仕方ないし……しかも突っ込みの才能が無いとまで言われちゃったし……はぁ」

 どうやら譲治も引っかかったらしく、小さくため息をつく。と、浦原商店が見えてきた。既に雨竜、チャド、織姫、一護がそろっており、譲治が最後だったらしい。譲治の登場が以外だったのだろう、雨竜と一護は目を見開いていた。

「……げ、遅刻?」

「いや、石田がさっき来たところだ」

 失敗したと声を漏らすと、チャドがフォローしてくれた。それに驚きつつ、感謝の意を述べるとチャドは少し笑って、「いや、いい……」と答える。どうやら史上最悪の不良という噂は、丸っきりのでたらめのようだったと譲治は思った。

「って、永見!? もしかして、お前もか!?」

「……なんか、おかしいかな?」

「……いや。考えれば、おかしいことは無いのかもしれないな。確かに、君の霊力は以前から高かった。何かのきっかけで、それが戦う力となったのは、まあ考えられないことじゃない。……現に、井上さんや茶渡君がそうだからね」

 一護の驚きの声にこたえると、雨竜が冷静に意見を述べる。

「おーー、全員揃っているッスね。結構結構」

 と、会話に割り込むように商店の中から喜助が顔を出した。

「さてと。そんじゃ、中で説明しましょうかね。尸魂界にいく方法」

 そして扉を開け、顔だけ後ろを向いてにやりと笑う。

「しっかりと聞いていてくださいね? でないと――尸魂界に行く前に死ぬことになる」


いんたーるーど

 
 少し時間はさかのぼり、譲治たちが尸魂界に出発した日の昼ごろ。
 国枝鈴はため息をついた。あれから二週間以上経過しているが、一向に彼女の悩みは解決できていなかった。理由は簡単である。永見譲治が、その姿を現さないからだ。
 終業式の前日と終業式を無断欠席したのを知ったときは、鈴の疑惑は大きくなるばかりだった。しかし、譲治と会えないのであればその疑惑は晴れない。そのため、本当に、ほんっとうに仕方ないので譲治を探して空座町を歩き回ってみたものの、一向に譲治は見つからない。どこかに失踪したのだろうか、とふと思ってしまう。何か、ありえそうと思ってしまった自分に辟易としながら、鈴は公園のベンチに腰掛けた。

「あー……」

 空を見上げ、意味もなく声を上げてみる。その視界の隅に、何か鬱陶しいものを発見し、少し眉間にしわが寄ってしまった。

「……また」

 この二週間強、鈴には一つの変化があった。それは、周りに見えないものが自分には見えてしまうというものだ。どうもそれは人のカタチをしていて、しかも何故か足が無い。友人に何度か尋ねてみても、何故かこちらが気味悪がられてしまう始末。本当に勘弁してほしい。
 これもそれも、全部あいつのせいだ、と譲治を思い浮かべる。
 まあ理不尽なことであるとは思う。だが、ことの始まりは譲治なのだ。これぐらいはいいのではないかとも思ってしまう。

「……」

 不意に、このごろ譲治のことばかり考えてしまっていることに気付いた。何故か、むかついた。

「……絶対殴る」

 ひそかに決意を固める鈴であった。


いんたーるーどあうと


いんたーるーど2


 志波空鶴は一人、部屋で酒を飲んでいた。……いや、一人ではない。その対面で、黒猫――夜一が猪口につがれた酒をぺろぺろと舐めている。
 一人と一匹の間には無言の空気が漂っていた。旧知の間柄の二人だ、何も言わなくても分かるのかもしれない。
 久方ぶりに訪ねてきた友人は、随分と大所帯での訪問だった。何でも、アレを使って瀞霊廷内に突入したいと言う。その理由の面白さから承諾はしたものの――尋ねてきたメンバーの中に、一人。気になる名が、あった。
 やがて、空鶴が口を開く。

「……おい。あのガキ……」

 無遠慮な切り出しだった。しかし、夜一は何も言わない。静かに、空鶴の言葉に耳を傾けている。

「……まさかとは思うがよ……」

「……お主の想像通りじゃよ」

「……やっぱりか。どういうことだ? 死んだんじゃなかったのか?」

「あやつは死んでおった」

「……そうか」

 空鶴は小さくため息をついた。覚悟はしていたが、それでも確定するとつらいものがある。

「……夜一」

「なんじゃ?」

「……尸魂界には絶対に行かせてやる。だから――」

 ことり、と猪口を置く。

「――死ぬんじゃねぇぞ」

「――無論のことじゃ」



 いんたーるーどあうと



「それぞれ近くのものにつかまれ! 絶対に離れるなよ!」

 渦巻く乱気流の中、夜一の怒声が響く。譲治はそれに従おうとするのだが、如何せん、手を伸ばせる場所に仲間がいない。

「クッ!」

 流れが激しくなる。何とか近づこうとするものの、明らかに流そうとする力は強く、それを許さない。

「永見!」

 チャドが手を伸ばそうとするが、それは雨竜に阻まれる。瞬時、雨竜をつかみ織姫のほうに放り投げるが、反動のせいで逆に譲治から離れてしまう。
 もう無理だ。譲治は本能的に悟った。
 そして、次の瞬間。
 譲治は弾き飛ばされるようにして、瀞霊廷の空を舞った。

「くぅぅっ!」

 その衝撃に顔をしかめながら、徐々に近づく地面を見据える。このまま激突すれば、死ぬことは必至だろう。

「――やるか」

 本当ならもう少しとっておきたかった。というか、使ってしまえばこれから少し辛いことになる。とはいえ。

「……ま、そんなこと言っている場合じゃないよな」

 左手を横にまっすぐ伸ばし、右手をそれに添えるように伸ばす。静かな霊圧が、譲治の体から漏れ出していく。

「――部分変身」

 そうつぶやいた瞬間、ジーンズを内から破り、下半身が漆黒の外骨格に包まれた。その足を大地に向け、衝撃に備える。

「ふっ!」

 ズドン、と鈍い衝撃と共に轟音が響く。何とか、着地には成功したらしい。ジーンと下半身がしびれる感覚があるが、それもまあ許容範囲ないだろう。

(……さすがに部分変身だけじゃ衝撃を殺しきれなかったか……この程度で済んだことを幸運に思うべきかな?)

 小さくため息をつき、変身をとく――わけにも行かなかった。どうやらこの形態は、皮膚自体が変化しているらしく、変身すれば服がはじけ飛んでしまうのだ。結果、現在譲治の下半身にはジーンズがぼろ布のようにまとわりついているだけだった。この状態で変身をといてしまえば、もう露出狂としか思えないような未来が待っている。さすがに、それは勘弁願いたかった。

(……だからまだ使いたくなかったのに……)

 このことに気付いたのは、現世での修行中、林の中で初めて変身が成功した時だった。結果殆どの衣類がはじけとび、帰るに帰れない状況になってしまったのは譲治の思い出したくないランキングの上位にランクインしている。
 とはいえ、この形態は常に霊力を消費する。一日中変身していても余裕はあるが、それは平時での事。いつ戦闘が起きるかわからない以上、余計な消耗は抑えるべきだった。

「……隠れながら、皆と合流。可能なら衣服の調達。これが最優先、と」

 これからの方針を決め、周囲を見回す。譲治が落下したのは、どうやら倉庫街の様な場所らしい。人の気配は――

「こっちに落ちたぞ!」

「油断するな! 遮魂膜を潜り抜けるほどの密度を持った霊子体だ! 何があるか分からんぞ!」

(……まずっ)

 ぐずぐずしすぎたらしい。こちらに向かってくる足音が、次第に大きくなっていく。とにかく、身を隠すことを優先しなければならない。
 譲治はその場から離れようと、きびすを返す――が。

「……何処に、行くのかな?」

「――ッ!」

 背後から聞こえてきた声に、譲治はその足を止めた。

(そんな!? 気配は全然なかったのに……!)

「安心しな。ここにゃ、俺以外いねぇよ。さっきのやつらも、追っ払ってやったぜ?」

「……」

 楽しそうな声。背後にいる死神は、この状況を楽しんでいるのだろうか。

(……だったら、いきなり襲われることはないな……)

 譲治はいつでも完全に変身できるように体の中で霊力をめぐらしながら、ゆっくりと振り返った。
 そこにいたのは、やはり死神だった。身長は180センチほどだろうか、つやのある黒髪を後ろに流し、ほほには十字の傷跡。美男子というよりも好男子といった感じだ。両腰に、一本ずつ、合計二本の斬魄刀をさしている。
 ――御剣峰隆。それが、男の名だった。

「……少なくとも、その目は観念してる目じゃねぇよなぁ?」

「……」

 にやり、と峰隆が笑みを浮かべる。

「訊くことはたった一つ。目的はなんだ?」

「……朽木さんの奪還」

「……なるほど」

 空気が、次第に重くなる。ぴりぴりと肌に刺激がはしる。

「なら、ここで死んでも文句はねぇよなぁ?」

「――冗談!」

 そして戦闘が始まった。




――――
これからしばらくオリキャラ祭。兕丹坊、岩鷲ファンの方御免なさい。
主人公が原作キャラと絡むのはもちっと先。



[19977] 第七話
Name: ハマテツ7号◆23b8172b ID:013b83cd
Date: 2010/07/06 20:06



 空気が、次第に重くなる。ぴりぴりと肌に刺激がはしる。

「なら、ここで死んでも文句はねぇよなぁ?」

「――冗談!」

 そして戦闘が始まった。



第七話



「ハッ!」

「ッ!」

 閃光のような峰隆の斬撃を、蹴りで受ける譲治。足を切り飛ばすつもりで放った斬撃を受け止められ、峰隆はわずかに目を見開いた。

「なかなかの霊的硬度じゃねぇか」

「そりゃどう――もっ!」

 力ずくで斬魄刀を押し出し、そのまま後ろ回し蹴りを放つが、既に峰隆はその場にいない。

「――っ!?」

「おせぇ!」

 頭上からの斬撃を、転がって避ける譲治。しかし、その行動はあまりにも遅すぎた。

「がッ!」

 背を浅く切り裂かれ、鮮血が舞う。そのまま転がり、何とか体勢を立て直す。どういうわけか、追撃はなかった。起き上がり息を整える譲治を、峰隆は怪訝な表情で見据えている。

(……傷は……浅い。……けど、このままじゃやられるのは必至か……)

 静かに目を閉じ、体の中にめぐらした霊力に干渉していく。

 今、自分は斬られた。別に、想定していななかったわけではない。泣きたくなるほどの痛みが断続的に襲ってきているが、それもまた想定の範囲内だった。
 それは覚悟でもある。斬られる覚悟。自分は、手と足を切り飛ばされているのだ。この程度、何ら問題じゃない。この程度で問題としていれば、朽木さんを助けるなんて夢のまた夢ではないか――

 左手を横に伸ばし、右手をそれに添えるように伸ばす。そして、その言葉はつむがれた。

「――変身!!」

 つむがれた言葉は言霊となって、譲治の体を変質させる。漆黒の、鬼のような外骨格を纏った存在。それが、現在の譲治だった。

「……へぇ。なるほど、なるほど、まぁさたぁ思っていたが、ったく」

 その姿に、峰隆は心底面白そうに笑った。

「くっかかかかか!! まさかテメェ、鬼か!」

「……?」

 鬼――。その単語に、譲治は眉根を寄せる。
 その様子に、さらに峰隆は面白おかしそうに笑った。

「くっかかかか、その様子じゃ、自分の力もしらねぇらしいな! 本能に忠実な鬼が、わざわざ死ににくるとは思えねぇ! 朽木はテメェのなんだ!?」

「――友達だ!」

 瞬時、間合いをつめた譲治の拳が、峰隆を構えた二刀の斬魄刀ごと弾き飛ばした。その衝撃に、峰隆の顔がさらに喜悦に彩られる。

「――ハッ! いいなお前! 友達ときたか! あの鬼が友達か!」

「鬼鬼うるさい! 僕は――人間だ!!」

 譲治の渾身の蹴りを受け、峰隆はたまらず距離をとった。即座に体勢を整え、片方の斬魄刀を収める。

「……いいぜ。少しだけ本気でやってやる」

「――ッ!」

 峰隆の体から、霊力がほとばしる。何かがやばい。心の奥底で、何かが警鐘を鳴らした。
 阻止しなければならない。そう確信し、一気に距離をつめようとするが――既に、それは手遅れだった。

「――天駆けろ! 『飛天』!!」

「づっ――!?」

 轟ッ、突如発生した突風に、譲治はたまらず吹き飛ばされる。空中で体勢を整え、粉塵を巻き上げながらも着地するが――

「ッ!」

 すぐさま腕を交差させ、全脚力を使ってバックステップする。しかし、既にその腕は浅く切り裂かれていた。

「――!?」

「驚いたか?」

 驚愕する譲治に、一瞬で間合いをつめ、譲治の腕を切り裂いた斬撃を放った峰隆が、面白そうに問いかける。その手には、刀があった。――ただし、その刀身は透き通るほど、その存在が知覚できないほどに薄いものではあったが。おそらく、知覚が極端に発達している現在の譲治でなくては、その存在すら察知できなかっただろう。

「な――……なんだよその刀身……」

「へえ? わかんのか、これが。……そりゃ、なかなか」

 譲治の様子に、峰隆はますます面白そうに笑う。

「斬魄刀はな、それぞれの霊力に応じた名前とカタチがあるのさ。そしてこいつが、俺の斬魄刀――『飛天』のカタチよ。極限にまで圧縮された刀身は、いくらテメェが硬くても、どんなものでも斬り裂くぜ?」

「クッ……」

 斬られた箇所を押さえながら、譲治は腰を落とす。押さえた掌の下で、傷が修復していくのが分かる。が、それでも完全に直るまでは痛みがなくなるわけでもない。すぐに治るからといっても下手に傷を受ければ、戦えなくなってしまうだろう。
 
(……クソ……こんなところで足を止めている暇なんてないのに……!!)

「じゃ、改めて自己紹介だ」

 峰隆はにやりと口の端を持ち上げると、飛天を構え腰を落とす。

「護廷十三隊四番隊第四席、御剣峰隆。テメェは?」

「……永見、譲治」

 永見。その名に、峰隆の眼が僅かに見開かれ――そして、その口元に獰猛な笑みが浮かんだ。

「……なるほど。なら――行くぜ!?」

「チィッ!」

 閃光のような連撃を、何とか刀の腹をはじく事で防御する譲治。それでも、全ての斬撃を受けることは不可能で、体中に斬り傷が幾筋もはしっていく。

「オラオラどうしたァッ!? 朽木の嬢ちゃん助けんだろが!? この程度かァッ!!」

「――そんなわけない!!」

「っ――!?」

 譲治の前蹴りが峰隆に突き刺さり、同時に肩の外骨格の一部が弾け飛ぶ。譲治はそれでバランスを崩して片膝を突くが、峰隆は自分から飛んで威力を消していたのでさほどダメージはない。しかし、それでも腹にずしんと来る一撃は、峰隆に冷や汗をかかせた。

「……ッたく……むちゃくちゃな動きをしやがる」

 それを感じながら、峰隆は一人毒づいた。
 はっきり言って、譲治は喧嘩もしたことがない戦いの素人だ。そんな彼が戦えているのは、一重に今の状態の身体能力が桁外れに高いからだった。いわば、強大なパワーを振り回している――いや、振り回されているだけなのだ。
 しかし、今回はそれが良い方向に働いていた。素人の体術ほど、峰隆には対処のしやすいものはない。だが、今の譲治は勝手が違う。避けたと思えばその攻撃にこめられた霊圧が巻き起こす風圧で体勢が崩れかけ、予想外の場所から飛び出す一撃。これほど、戦いにくい相手はいない。
 対して譲治も、峰隆のその実力に顔をしかめていた。
 はっきり言って、譲治は今の自分の力なら一護ぐらいの相手なら何とかなると思っていたのだ。それは過信ではない。現在の状態で言えば、夜一を除いて、尸魂界に突入してきた五人の中では譲治が最も強いだろう。だが、それは身体能力だけを見ればの話だ。
 戦闘技能、経験、全てにおいて譲治はみなに遅れを取っている。しかし、現在。

――御剣峰隆という強者の存在が、譲治の圧倒的に不足していた戦闘経験を埋める礎となろうとしていた――

「……チッ」

 それを確信し、峰隆は舌を打つ。そして――笑みを描いた。

「――おもしれぇ。なら、もう少し本気を出してやる。……途中でやられるなよ!!」

 そう叫び、飛天の切っ先を譲治に向ける。そして――

「業之一――飛牙!」

「――ぇ?

 その衝撃は、一瞬で譲治を貫いた。
 まるでダンプカーが激突したかという衝撃に、譲治は吹き飛ばされ、壁にめり込んだ。その左肩の付け根あたりに、まるで穿たれたような穴が開いており、そこからだくだくと赤い血が流れ出している。もし、本能的に体をひねっていなければ心臓を串刺しにされていたのではないだろうか――?
 そう考え、譲治はぞっと血の気が引いた。

「――づぁっ!?」

 次いで、襲ってくる痛みに譲治は顔をしかめる。すぐに修復は始まっているが、その痛みはまた別格だった。

「くっかかか、よく避けた! どうよ、飛牙の味は?」

「……なんだよ、今の……」

 笑う峰隆に、譲治は問いかけた。別段、答えが返ってくるとは思ってはいない。ただ、呆然とつぶやいただけだ。だが、意外なことに峰隆は笑って答えた。

「斬魄刀の能力よ。俺の、な」

「斬魄刀の……能力……?」

「その通り。斬魄刀にゃ、それぞれの形があるようにそれぞれの特殊能力があるのさ。特性とも言い換えていい。大気の霊子に干渉して自然現象を起こす鬼道系や、直接攻撃系と、まあその能力は様々だがよ」

 そこまで言って、峰隆はもう一度切っ先を譲治に向け、あごを動かす。

「俺の飛天の能力は、鬼道系よ。属性は、風――尸魂界中、最速の剣だ! 行くぜぇッ! ――飛牙!!」

「つぅッ――!!」

 瞬間、今度は全力で体を横に移動させる。しかし、それでも左肩の一部が弾けとび、焼けるような痛みが脳に響いた。

「くっかかか! また避けたか! いいぜ! オラ、もう一発だ!!」

 今度は無様に転がって避ける。背中の骨格が一部削れ、大地に穴を穿つ。すぐさま修復が始まり、じくじくと痛みが引いていく。

(目に頼るな! 六感全てを研ぎ澄ませ! 攻撃は完全に直線だ! タイミングさえ見切れば、避けられる!)

 静かに霊力を張り巡らせる。あの感覚だ。あたりを舞う塵芥ですら知覚できるほど、増大した六感。
 ――譲治の武器は、何もその桁外れの身体能力だけではない。昆虫並みに発達した六感、それが譲治の武器の一つなのだ。
 そしてその感覚が、飛天の切っ先へと集中する霊圧を捉え――

(――来る!)

「――飛牙!!」

 飛天の切っ先から霊力の弾丸が発射される。それを知覚した瞬間、譲治は飛び上がる。霊力の弾丸は譲治には当たらず、壁に穴を穿っただけだった。

(よし、避けられた!)

「――完全によけたな?」

「――ぇ」

「次だ」

 それはまるで瞬間移動のように。飛牙ですら知覚した譲治の感覚をもってしても捕らえきれない速度で、譲治の背後へと移動した峰隆は、にやりと笑った。
 そして――。

「業之二――天離」

 その言葉がつむがれ、

「クッ――!!」

 譲治は背から霊力を放出しようとし、

「――がァッ!!??」

 譲治は、大地に叩きつけられた。




―――――――――――
ぼくのかんがえたちゅうになおりーしゅVSぼくのかんがえたかっこいいおりきゃら
決着は次回。

ちなみに、尸魂界突入メンバーの瀞霊廷突入時の戦力比較。

夜一>>>>>>>>一護(主人公補正含め)>譲治>=一護(主人公補正無し)>雨竜>=チャド>>織姫>=岩鷲
ただし、実際に闘いになると譲治はチャドの下あたり。圧倒的に経験が足りていません。
雨竜は例のアレを外すと主人公補正を含めた一護よりも少し上ぐらい。



[19977] 第八話
Name: ハマテツ7号◆23b8172b ID:013b83cd
Date: 2010/07/08 05:53



 もうもうと土煙が舞い上がる。それを油断なく視界に納め、峰隆は足音を立てずに着地した。

(……さて。これで決まれば楽なんだがなぁ……)

 天離は霊力を風の圧力へと変換して複数の相手に叩きつける業だ。攻撃力よりもむしろ攻撃範囲に優れている業のため、威力は峰隆の持つ五つの業の中でも低い。それでも下位席官クラスなら気絶をさせられる程度の威力は込めたが、さて、あの鬼に何処までダメージを与えられているだろうか。

(ったく……四番隊の立場を少しでもあげれるだろ、なんて思わなけりゃ良かったぜ……あのまま見逃してりゃ、鬼なんかとやりあうことなかったのによ……)

 峰隆が所属する四番隊は、本来なら回復・補給専門の部隊だ。その分、戦える人材が圧倒的に少なく、その戦闘能力も低い。そのため、他の部隊――特に十一番隊からはいつも軽く見られているのだ。まあ、隊長である卯ノ花烈や副隊長の虎徹勇音、峰隆はそのうちの例外となるのだが、それでも部下が虐められているのは気分のいいものではない。
 そんな四番隊が旅禍を捕まえたとなればそれなりに立場は向上するだろう。だが、そのうちの一人が、しかも自分が相手をすることになった奴が鬼だとは予想外だった。というか、思いもしなかったのだ。
 もともと鬼というのは、尸魂界でも殆ど話題に上がらない存在である。滅却師と同じく、一種の忌み名とも言えた。しかし、一部の世代の死神にとって、鬼というのは様々な感情を齎す単語となっている。
 ――百と十数年前。あの護廷十三隊を揺るがす大事件があってからは、誰もその存在を口にしなくなったのだ。
 そんな存在が、今目の前にいる。本当に、冗談じゃない。

「……しかも友達のためとはねぇ」

 面白いやつだ、と峰隆は思った。基本的に、というか少なくとも、峰隆が知っている鬼は自分の本能に忠実な奴らだった。だが、この鬼はどうだろうか。自分のことを人間といい、しかもその目的が友達を助ける、ときたものだ。鬼を知っている者からすれば、驚かずにはいられなかった。

「抑えつけているのか、はたまた受け入れているのか……――どちらにせよ、流石はあの人らの息子ってところか」

 ――明らかに、理性でもって本能を制御している。その事実に峰隆は口元に獰猛な笑みを浮かべ、

「……ま、考えるのは後回しでいいや」

 そう気楽につぶやいて、峰隆は飛天を構え、突き出された拳を受け止めた。



第八話



「よく天離をこらえたな!」

「お褒めに預かりどーも!」

 突き出される拳を受けられ、いなされ、斬りつけられる。それでも譲治はただひたすらに攻撃を繰り返した。
 自分が喰らった二つの業。『飛牙』と『天離』。天離は良くわからないが、少なくとも飛牙は接近していれば考慮しなくてもいい。天離のほうも、くらった感じでは飛牙よりも威力は低いのだろう。それならば、とにかく今は離れるわけには行かない。

「ハッ――接近すりゃあ先の業は使えないとでも思ってんのか!?」

「――っ!」

「そうなら甘ぇぜ!? 他にも業はあるんだからよ!」

「ッ!」

 しまった、そう考える前に離脱を図る。他にも業がある――それを考えなかったのは、自分でも信じられない程の短慮だった。だが、後悔するにはまだ早すぎる。
 腕を交差し、六感を研ぎ澄まして衝撃にそなえる。

「――ハッ、正直すぎるなテメェは!!」

「なっ!? ――ぐぁっ……!」

 瞬時、また瞬間移動したかのように背後に回りこんだ峰隆に斬りつけられ、譲治は地面に転がった。襲ってくる痛みを必死でこらえ、修復するまで何とかやり過ごそうとする。

「どうした? 騙されたのがンなに悔しいか?」

「……ッ」

 歯噛みする譲治に、峰隆はくかか、と笑って見せた。

「嘘は言ってねぇよ。他にも業はあるからな。だが、使うつもりはねぇだけさ」

「……どういうつもりだ?」

「ハンデだよ。はっきりいって、俺とお前の間にゃ、そりゃ筆舌に尽くしがたい力量の壁があるのさ。それを超えねぇ限り、俺はこの業二つだけで戦ってやるって言ってんのさ」

 嘲りの笑いを浮かべ、峰隆は言い放った。
 そして、また切っ先を譲治に向ける。

「で、だ。言っとくが俺が所属する四番隊は、全部隊の中でも最弱よ。いくら四席つっても、俺の実力はンなに高くねぇ。俺ごときに勝てないようじゃ、朽木の嬢ちゃん助けるのは夢のまた夢だぜ?」

「……わかってるよ」

 そう言って、譲治は立ち上がった。その体の何処にも、傷はない。既に修復は終わっていた。

「――、っ」

 ふと、峰隆は薄ら寒いものを感じた。その、譲治から放たれる霊圧。それが、途方もなく大きくなっていく――!?

「……まだ、使うつもりはなかったし、できれば使いたくなかったんだけど……こんなところで、立ち止まっている場合じゃないんだよな……」

「……」

 顔はうつむいたままで、両腕を広げる。
 広げた掌を、小指から順に折り曲げ、拳を形成し、噴出した霊力を全てそこに集結させ――

「――だから、もうこっちも遠慮しない」

「なん……だと?」

 その光景に、峰隆は思わず顔を引きつらせた。
 譲治の顔があがった。そこにあるのは、まるで鬼のような兜だ。その奥の表情はわからない。だが、唯一わかること――それは、大きく広げたその腕が、数十倍に巨大化していることのみ――

「――いくぞ」

「――ッ!!」


――飛天を構え、霊力を集中する。このとき、この一瞬は、間違いなく――


「――巨拳双撃」

「業之五――飛盾!!」


――峰隆は、手加減を忘れていた――







「あー……」

 気がつけば、峰隆は大の字になって寝転んでいた。すぐさま身体の調子をチェックする。ダメージは大きいが、死ぬほどではない。瀕死一歩手前、と言ったところか。治癒霊力をめぐらせれば、時間はかかるが闘える状態にまで持っていくこともできる。ただ、数秒とはいえ気絶したことを考えると――

「……俺の負け、か」

 あっけらかんとつぶやく。
 思ったより、ショックはない。まあ、それでもいいかと思ってしまう自分に少しだけ呆れてしまうが。
 ふと、隣に人の気配を感じた。目だけでそちらを向く。ぼろ布を纏った少年がそこにいた。

「……露出狂かよ」

「……もう一発くらわすぞコラ」

 峰隆の言葉に、わずかばかりの布を纏っている譲治は半眼で言い返した。変身の折にはじけとんだ衣服は、もう殆ど残っておらず、まあ股間などは隠れているがその他は丸見えだった。

「くっかっか、ま、気にすんな。俺は嘘をついたことがないのが自慢なんだよ」

「……嘘付け」

 愉快そうに笑う峰隆に、譲治は冷静に突っ込んだ。その仕草に、峰隆はさらに笑う。

「くっかかかか……ま、どっちでもいいさ。で、何が訊きたい?」

「……朽木さんが拘留されている場所」

「ま、そんなところだろうなぁ」

 危険を犯してまで譲治がここに残っていたのは、それを訊くためだった。確証はなかった。だが、峰隆ならば答えてくれる。そんな気がしたのだ。
 しかし、次に峰隆から出てきた言葉は譲治が期待したものとはまったく違った。

「……お前、自分の力のこと、殆どわかってねぇだろ」

「……」

「ま、そうだろうよ。自分のこと人間なんていっている時点で、もうテメェは鬼じゃねぇからな」

 沈黙を肯定と受け取ったのか、峰隆は続けた。

「朽木の嬢ちゃんは、今は懺罪宮に移されてる。ここからでも見えるだろ。あの一際でけぇ白い塔だ。そこを目指しな」

「……え?」

 その言葉に、譲治は呆然と声を返した。まさか本当に教えてくれるとは。

「……どうして……」

「さて、な。ま、気紛れだ、気にすんな。あと、アドバイスだ。テメェの中から聞こえてくる声に素直になれ。下手に押さえつけりゃ、その分馬鹿見るぜ」

「……わかり……ました」

 まるで諭すかのような言葉に、譲治は思わず敬語を使っていた。そのことに気付き半ば憮然としながらも、知りたいことは知ったので一度会釈してからきびすを返す。
 
「っと、ちょっと待てって」

「……まだ、他に?」

「俺の服を持ってけ」

「……は?」

 呆然とした譲治の言葉に、峰隆はニヤニヤとした笑みを浮かべた。

「ンな格好は目立つだろ。死覇装なら死神ン中にもぐりこめて移動も楽になる」

「……いいの?」

「俺は負けたからな。身包みはがれても文句はねぇよ。ま、男の服を脱がす度胸があるならの話だがよ」

「……ありがとう」

 譲治は少し逡巡したあと、峰隆の死覇装を脱がせ、身に着けていく。体格は殆ど一緒なので、サイズもちょうどいいようだ。それを確認した譲治は、慣れない和服に戸惑いながらも服を着ていく。
 その様子を横目で見ながら、峰隆はゆっくりと口を開いた。
 
「そのままで聞け」

「……?」

「おそらく、これからテメェは何度か死神とやりあうだろうが……いいか、隊長と出会えば迷わず逃げろ。羽織をしてるからわかるはずだ。副隊長なら何とかなるだろうが、隊長は次元が違う」

「……はい」

「……あと……そうだな」

 そうして、峰隆はニッと笑った。

「全部終わって生き残ってたら……酒でも酌み交わそうや」

「……はい!」


いんたーるーど


 一礼して、譲治が去っていく。あとに残されたのは、ふんどし一丁の峰隆である。

「んー……さすがにこの状態で見つかるのは勘弁してほしいっちゃあほしいんだがなぁ……」

 とはいえ、すぐに動ける程にまでは回復していない。無理をすればそれだけ後に響く。今の状況と後に考えられる状況を天秤にかけて、峰隆はこのまましばらく倒れていることを選択した。

「……ッたく。しかし、最後の一撃は……ありゃ、飛盾出してなけりゃ死んでたな、この様子じゃ。脱解直前であの威力……末恐ろしいっつーかなんつーか。流石はハイヴリットってか」

 まったく、危ないところだったとため息をつく。あの攻撃は、瞬歩でも避け切れなかったのではなかろうか、とも思う。そして――

「――あれなら、最初っから卍解していても面白ぇ勝負ができたかもしれねぇなぁ……」

 そう、一人ごちた。

「こっちだ!」

「なんだあのでかい腕は!?」

「とにかく、行くぞ!」

 ふと、ばたばたとした音と、何人かの声が聞こえてくる。譲治のあの一撃を見ていたらしい。

「……ッたく、おせぇぞこら。……にしても、四番隊が負傷して運び込まれるなんたぁねぇ……ざまぁねぇなぁ……。……ま、いいか。とかくこれで――」

 そうして、峰隆は苦笑を浮かべた。

「――いくらかは借り返しましたよ……永見さん……」


いんたーるーどあうと


「ハッ――ハッ――ハッ――!」

 目に付いた倉庫の一つに逃げ込んだ譲治は、そのまま糸が切れたように倒れ伏した。先の戦闘の反動が、今頃襲ってきたのだ。

「……クソ……思ったよりも消耗している……」

 どうやら霊力を消耗しすぎたせいで、体の修復にまで霊力が行き届かないらしい。殆ど傷はないが、それでも消耗した体力を回復するまで、少し時間をかけて休まなければならないだろう。

「……だから使いたくなかったんだけど……」

 最後に使った、譲治の切り札の一つ――巨拳双撃。譲治の霊力の相当量を消耗して放つそれは、譲治の体力までも削り取っていた。
 以前に試したときは、合計十発ほど放ってぶっ倒れたのを覚えている。今回、たった一発でここまで消耗してしまったのは、一重に使うまでのダメージが大きすぎたせいだろう。これからは、使うのにも注意しなければならない。そう思いながら、譲治は意識を失った。




―――――――――
オリーシュVSオリキャラ決着。
 ちなみにこれを書いていたのが、ようやく破面とか出てきた頃だったかなと思います。市丸さんの卍解のばの字も出てきていない頃でした。ので、四番隊で実は強くて最速の剣とかカッコよくね? みたいな思考回路で生まれたのが御剣峰隆です。
 まあ、とりあえず、峰隆の最速の剣は自称という事でお願いします。


ぼくのかんがえたかっこいいおりきゃらのちょっとした設定
御剣峰隆(男)
 両腰にそれぞれ一本ずつの斬魄刀を有する死神。ただし彼自身の斬魄刀は片方だけであり、もう一方は不明。
 護廷十三隊配属時、最初は十一番隊に配属されていたが、瀕死の折に卯ノ花烈に助けられ、そのまま四番隊に再配属を希望、受理され四番隊に入隊した。現在は第四席。
 何故か古株の隊長格には顔が知られており、結構な古株であると推測されるが、四番隊隊長共々正確な年齢は不明。
 斬魄刀の名は『飛天』。風の鬼道系の斬魄刀で、その刀身は極限まで圧縮されていて並みの知覚では視認することすらできない。
 風の後押しを受けたその最大戦速は圧巻の一言であり、彼自信も尸魂界最速と名乗っている。


 7月8日修正
 指摘を受けた個所を修正。伏線のつもりだったんですけど、ちょっとわかりにくかったですね。ご指摘ありがとうございました。



[19977] 第九話
Name: ハマテツ7号◆23b8172b ID:013b83cd
Date: 2010/07/08 05:59




 暖かい感触を感じて、少年はまどろみの中から浮上した。見れば、やわらかい笑みを浮かべたおじさんが、少年の頭を撫でている。

――おとうさん

――起こしてしまったかな?

 少年が呼びかけると、おじさんはやわらかい笑みをそのままに、しかしすまなそうに言う。少年は、あわてて首を振った。

――ううん。ぼく、べつにねていないもん!

――そうか。でもね、自分の欲求には素直にならないと駄目だよ?

――よっきゅー?

――そう。眠たい、って思ったんなら、寝ればいい。でもね、欲求を律することも、時には必要なんだ

――……おとうさんのはなし、むずかしくてよくわからないよ

――うん。でもいつかのために、覚えていて? 欲求を垂れ流しにするだけじゃ、駄目なんだよ? ちゃんとその欲求と向き合って、常に解りあわなくちゃならないんだ

――むー。むずかしいっていっているじゃんかよー

――あはは、そうだね。じゃあ、このお話はここでおしまいだ

――うん。ぼくもねるー……

――……しかし、良く寝れるね。ここ、パチンコ店なのに。……え? ああ、いやだな、そうじゃないですよ。この子、こう見えても十八歳で……


第九話


「……なんだこの夢。ていうか、なんだよ最後の言葉は」

 あっはっはと笑いながら店員に言い訳していたおじさんは、確かに遺影でしか見たことがなかった譲治の父親だった。父親はもう早くに死に、譲治は父親のことを殆ど覚えていないのだが、どうやら父親との記憶はあったらしい。

「しかしよりにもよって思い出すのがこれかよ。どうせならもっといい思い出を思い出せよ僕……」

 小さくため息をついて、立ち上がる。どれぐらい寝ていたのだろうか、体の痛みは消え、霊力も全快とはいかないものの八割がた回復している。これなら、戦闘も十分にこなせるだろう。

「……とは言っても、戦闘ばかりじゃ絶対行き詰る。せっかく死神の衣装手に入れたんだから、何とかもぐりこめればいいんだけど……」

 しかし、もしもぐりこめば見つかる可能性もそれだけ高くなるということだ。しかも、周りには死神だらけ。いくら譲治がそこらの死神よりも強いといっても、数で押されれば、それはそれで厄介であることに変わりはない。闘いは数なのだ。

「……さて。どうしようかな……」

 
いんたーるーど


「大丈夫ですか?」

「……。卯ノ花隊長!?」

 病室に入ってきた女性――四番隊隊長卯ノ花烈に、御剣峰隆は驚きの声を上げた。
 本来、隊長格は皆尸魂界を忙しく飛び回っているような多忙な死神だ。旅禍が進入し、緊急収集がかかっている今でもそれは変わらず、逆に尸魂界に散れない穴を埋めるために通常よりも多量の仕事があるはずだった。当然、年がら年中研究室に篭って怪しい研究をしている某隊長と違い、救護班の編成や受け入れ態勢の整備など、烈には山ほどの仕事があるはずだった。一隊員の見舞いに来る余裕などあるわけがない。
 そんな隊長が見舞いに来てくれたのだ。峰隆は一瞬小さく笑みを浮かべた。

「貴方がそのような状態で戻ってくるとは思っても見ませんでした」

「……ま、向こうが想像以上に強かっただけですよ」

「……そうですか」

 上半身を起こし、いつもどおりの笑みを浮かべる。静かに目を閉じた烈は、そのベッドの傍らに腰掛けた。

「先ほど、十二番隊隊長がいらっしゃったようですが」

「俺から、旅禍の特徴を聞きたかったようですね。あの様子じゃ、一角君にもしらばっくれられたようだ」

 からからと笑う峰隆に、烈は小さくため息をつく。

「……しらばっくれたようですね」

「もちろんです。俺、十一番隊の次に十二番隊が嫌いなんですよ」

「……一応、貴方は四席なのですから、そういうことは部下に言いなさい。上司に言う言葉ではありませんよ」

「いいじゃないッスか。ウチの隊員ぐらいしかいないですし。一角君と弓親は離れの席官用病室に運ばれているんでしょ?」

「……貴方がわざわざ一般用病室を希望したわけがわかりました。……しかし、これからはそうは言っていられませんよ? つい先ほどから十一番隊の隊員が次々と運び込まれてきています。この調子であれば、病室はすぐにでも埋まってしまいそうですね……。まさかここまで大量の負傷者が出るとは想定していませんでした」

「……げ」

 烈の言葉に、峰隆は笑みそのままに頬を引きつらせた。頭の隅でちょっとその発言は問題があるんじゃないかな、なんて思ったりしているが、それは絶対に口に出さない。怖いし。

「……すいません隊長。今から席官用病室に変更をお願い――」

「却下です。少しばかり頭を冷やしておいてください。……それにしても、予想以上に手ごわいようですね、旅禍は」

「……強いッスよ」

 峰隆は、にやりと笑って答えた。しかし、その顔にふざけの色は無く、至って真剣である。

「たぶん、相性さえあえば隊長格でも勝っちまうんじゃないですかねぇ。そりゃ、まだ卍解すればどうとでもできるレベルですがね。ですが、その戦闘技術はまだまだ未熟です。これから何度も死神と戦闘を繰り広げますし、その分戦闘経験はいやでもつむことになるでしょう。加えて、戦闘中の会話から察するに、いまいち自分の力を使いこなせていないような感覚も受けました。もし、この戦いの中でそれが培われていけば、相性にもよりますが、隊長でも危ないかもしれませんね」

「それほどまで……ですか」

 峰隆の推測に、烈は目を見開いた。戦闘は殆ど専門外と公言しているに近い四番隊であるが、その中で最も異色とされる峰隆の戦闘能力は隊長格――それも、トップクラスである。まあ、彼自身自ら役職に突くことを嫌い、平の死神に甘んじて数百年を過ごしていたところを烈が強制的に四席に据えた上、滅多に自分の実力をさらさないためあまり周りのものには知られていないが。
 しかしそれでも、彼の実力の程は一部の隊長には知られており、あの御剣峰隆がこうして旅禍に敗れて病棟に運び込まれたという情報は、想像以上の波紋を呼んでいた。

「まあ、俺がやりあったのはそのうちの一人でしたし。他の連中がどの程度の実力者かはわかりませんが……」

「少なくとも、隊長格を倒すほどの実力者が二人いるということですね」

「……二人?」

「はい。昨日、阿散井副隊長が旅禍との戦闘に敗れ、牢に入れられています」

「阿散井といいますと……ああ、朽木ん処の副官ですよね。って、しかも牢って……。……あー……朽木か……」

 予想外の情報に、峰隆は額を押さえてベッドに身を任せた。 
 あいつは決して悪いヤツではないのだが、どうも少し硬く考えすぎるきらいがある。

「どこで発見されたんです?」

「懺罪宮の少し前ですね。それと、負傷は全て刀傷だと報告を受けています」

「……となると、あいつじゃねぇな」

「気になりますか?」

「そりゃま、俺を倒したやつですからね。気にはなりますよ」

「そうですか……」

「……?」

 ふと、思わせぶりに目を閉じる烈に、峰隆は眉根を寄せた。烈はそのまましばらく目を閉じ、何かを考え込むしぐさを見せる。

「……どうか、したんですか?」

「ええ。……つい先ほど、山本総隊長は『伍色隊』の出動を決定しました」

 伍色隊。その単語が出てきた瞬間、峰隆は驚きに目を見開いた。

「あの莫迦共をですか!? マジかよ……何考えてんだ先生は……」

「……。一応、彼らの中には四番隊の隊員も所属しているのですが……」

 と、疲れたようにため息をつく烈。どうやら、口頭ではこう言っているが、内心は峰隆と同意見らしい。

「桜坂は莫迦ですからね。普段ならまあ可愛げがあるんですが……伍色隊のことになるとどうしてああも莫迦になれるんだ」

 峰隆は肩をすくめると、窓から外を眺め、霊圧を探り出す。数箇所で霊圧の衝突がおこっており、思い通りに目的の霊圧を探り出せない。
 それから数分。目的の霊圧を見つけた峰隆は、引きつった声を上げた。

「……げ」

「どうしましたか?」

「……よりにもよってアイツとかよ」

 ――瀞霊廷外敵掃討部隊(自称)、通称伍色隊と、永見譲治との戦闘が始まっていたのだ。
 実に、黒崎一護と更木剣八との戦闘が始まる数分前のことである。


いんたーるーどあうと


 少し時間は遡り、卯ノ花烈と御剣峰隆が会話をしていたころより数分前。永見譲治は、激しい戦いを繰り広げていた。
 ――脱力感と。

「……」

「む、なぜ黙っているのだ」

「フ……僕たちとのあまりもの実力差に、絶望を感じているのだろうね。ああ、無情だ!」

「クッ……ふぅー……おいおい、口数が多すぎるぜブルー。漢ってのはな、口じゃなく、行動で示すもんさ」

「あの……ごフッ……私はきっと、先の口上がまだ良く理解できなかったと思うのですが……」

「ふむ、ではもう一度だ。もう一度しようではないかね諸君。ふむ、やはり、もう一度だな諸君」

(……なんなんだこいつら……)

 憤りで握った拳をプルプルとさせながら、譲治は迫りくる頭痛を必死でこらえていた。
 なぜ、譲治がこんなにダメージを受けているのか。せっかく死神の集団に紛れ込んだのはいいものの、斬魄刀を腰にしていないのを見咎められて所属を聞かれたが、回復専門だという話の四番隊だとごまかしきったところまでは良かった。しかし、運悪くそこに四番隊の救護班が到着。結局ばれてしまい、足だけ部分変身して逃げ出して、何とか周りに霊圧がないところまで逃げてきたのだ。
 しかし、これで一安心と一息ついたところで、こちらに接近する五つの霊圧を察知。そのスピードも相当のものだったので、逃げ切るのも難しいと判断した譲治は少しでも戦いやすい場所をと開けた場所に着いたところで、その問題の五人の死神が譲治の前に現れたのだ。
 それも、とんでもなく濃ゆい面々だった。
 まず一人目。何故か逆立てた髪の毛を真っ赤に染めた十代後半ぐらいの青年だ。鼻の上に何故か絆創膏をつけ、額の大きなゴーグルが妙に輝いている。
 次いで二人目。無駄にカールさせた前髪を何度もかきあげている、ナルシーな二十代前半ぐらいの男性だ。その髪は何故か青い。
 そして三人目。緑色の髪をオールバックにまとめた、どうみても十代前半の少年。しかしその手には、何故かコーヒーカップが握られている。しかもニヒルな笑み付きだ。
 やっと四人目。桜色の髪の毛の、少しおどおどとしている眼鏡をかけた少女だ。時々咳き込み、血を吐いている。しかし、その手に握られているケチャップはなんなのだと小一時間ほど問い詰めたい。
 ようやく五人目。大仰に手を広げ、あっはっはと高笑いをする彼は、この五人の中でもさらに異質だ。外見が若者ばかりの彼らの中で、この漢だけは何故か中年。たくわえたカイゼル髭とたなびくもみあげが眩しく金色に光るダンディなお人だ。禿げだけど。バーコードヘアーだけど。
 まあ、とにかく濃ゆい面々だが、これだけなら何とかなった。だが、彼らは譲治の“琴線”に触れてしまったのだ。

「よし、じゃあ皆! もう一度だ! 俺たちの力、見せてやろうぜ!」

 そう言って、赤毛の青年が一歩前に出る。そして、斬魄刀を天に向け――

「一番隊第五席――赤き閃光! 赤林松治!!」

 ちゅどーんと赤林の後ろに、何故か赤い煙が立ち上る。

「二番隊第五席――青き疾風! 徒爾青蘭!!」

 ちゅどーん。例によって何故か青い煙が立ち上る。

「クッ……三番隊第五席――深緑の迷林。畝田緑碗」

 ちゅどーん。例によって何故か緑の煙が(略)。

「ゴホッ……四番隊第五席――癒しの桃風! 桜坂舞! ……ゴフッ!」

 ちゅどーん。例によって、何故か吐血(と見せかけてケチャップを飛ば)しながら桃色の(略)。

「五番隊第五席――黄金の豪腕。金金金!!」

 ちゅどーん。例によって金色の(略)。
 そして、五人はそれぞれにポーズを取って――言い放った。言い放ったのである。

「「「「「我ら、瀞霊廷守護戦隊伍色隊!!!」」」」」

 ちゅどどどどどーん。
 最後に五発の虹色の煙が上がり、譲治は、思わず地面に両手をつき、うなだれた。

「……こんなのって……」

「……む?」

 どよーんとした譲治の様子に、赤林松治は眉根を寄せる。

「どうしたのだ旅禍。我々が名乗ったのだから、貴殿も名乗るか悪役っぽくたじろぐかしなければ話が進まないだろうが?」

「まあ、待てレッド。きっと、そう、そうさ! 僕たちの溢れんばかりの正義オーラに、打ちのめされているのさ!」

「クッ……ふぅ~……漢じゃねぇなぁ。漢ならよ、さっさとかかってくるモンだろうが」

「ごフッ……うぅ……グリーンさん、漢漢うるさいですよぅ」

「……ピンク。いつもこのゴールドたる私が、いつも口を酸っぱくしていっているだろう? その腹黒いところは、一人だけの時にしてなさいと。ヒーローにはあるまじき言動なのだよ? わかっているのかね? わかっているのだろう? わかっているのだろうさ」

「……アタマいてぇ……」

 一瞬、本気で泣きたくなった。






――――――
もちょっと続くよオリキャラ祭!
手直し中に思い出したカラクラ防衛隊。書いてる最中は全く思考外でした。でもせっかくだから出します。ごめんなさい。
今晩は登校できなさそうなので朝に投稿。

ちなみに、名前の読み方。

赤林松治(あかばやし まつじ)
徒爾青蘭(とじ せいらん)
畝田緑碗(せだ りょくわん)
桜坂舞(さくらざか まい)
金金金(こんきんかね)



[19977] 第十話
Name: ハマテツ7号◆23b8172b ID:013b83cd
Date: 2010/07/09 21:50


「名乗らないのであれば、こちらから行くぜ。――覚悟しろや、旅禍!」

「な――がぁッ!?」

 一瞬、赤林松治の姿がぶれ、その動きに集中したとたんの背後からのありえない衝撃に、譲治は踏ん張ることもできずに地面にバウンドする。その上空には、青い斬魄刀を構えた徒爾青蘭の姿があった。
 
「ああっ、駄目駄目だよ旅禍くん! 目を離しちゃ駄目駄目だ! 無常すぎる、無常すぎるよ旅禍くん!」

「クッ――いいかぁ? 漢ってのはな、常に全体に気を配れるやつのことを言うんだぜ? つまり――テメェじゃねぇってことだよ、旅禍」

「ごフッ……うわぁ――痛そうですねぇ。見るからに悪役ですので、ぜんぜん気にもなりませんけど。ごめんなさいね……ごフッ……いい気味です……ごフッ」

「ふむ。それはまったく同感だが……だがピンク。そういうのは思っても言わないものなのだよ?」

「……ぐッ……」

 まるでコントのような会話を聞きながら体勢を整えた譲治は、言いようのないいらつきを、彼らに感じていた――



 第十話



「クソッ!!」

 四方八方から繰り出される連戟を、譲治は反撃もできず防御のみに追われていた。
 繰り出される剣戟はまさに縦横無尽。前後左右、すべての角度、すべての方角からのコンビネーション。
 いかに全方位とも取れる視界を有する譲治とはいえ、そのすべてに反応するのは至難の業であり――
 そして当然の如く、現在の譲治にはそれを可能とする技術を持ち合わせていなかった。

「ぐぅッ!」

 幾度目かの地面との激突。今度はうまく体勢を調節することに成功し、すぐに起き上がることができた。
 だが――

「甘い、甘すぎるよ旅禍君!」

 起き上がったその背後、まるで瞬間移動したかのように姿を現した徒爾青蘭が斬魄刀を振り上げる。

「くッ――」

 起き上がった反動そのままに体を回転させ、裏拳で受け止める。続いて腕を折り曲げ、体を入れ込み、肘での打突を入れようとするが――

「クッ――だから言っているだろう、甘いってなぁ、旅禍!」

「がッ!?」

 畝田緑蜿の前蹴りがわき腹に突き刺さり、譲治は体をくの字に折った。
 譲治のこの体は口に呼吸器官はついておらず、まるで魚のエラのようにわき腹から酸素を補給している。そして今、譲治はそこに強烈な一撃を喰らった。結果、譲治の呼吸機能は一瞬麻痺し、酸素を補給することが出来なくなる。

「――か、は」

 一瞬の呼吸困難。それは、重大なノイズとなって今までかろうじて保ってきた防御のリズムを崩した。そして――

「――終わりだな、旅禍」

 赤林松治の、熱のこもった、しかしどこか冷たい声と共に、それが振り下ろされ――

「――リーダー!」

 
 ――轟!!!


 すさまじい衝撃の本流が、うずくまる譲治と赤林松治をさえぎるように通り過ぎる。その衝撃は地面に深い傷跡を残し、そして周囲の塔を倒壊させた。
 桜坂舞の声にもう一瞬反応が遅ければ、自分はアレに巻き込まれていたのか――その威力を目の当たりにして、赤林松治は背筋にいやな汗が流れるのを感じた。

「だ、誰だっ!?」

 内心の恐れを隠すかのように声を張り上げた。既に他の四人も赤林松治の周囲に集まり、斬魄刀を構えている。
 その視線の先、衝撃がやってきた方角。もうもうと立ち上る煙の奥から、何か巨大な霊圧が近付いて来る――!!

「――大丈夫か、永見……で、いいのか?」

「――さ、茶渡くん?」

 霊圧だけを頼りに探し当てた仲間の変わり果てた姿に少し目を丸くしながら、茶渡泰虎は悠然とその場に君臨した。


いんたーるーど


 それは既に過去の夢だった。
 少年は、正義の味方に憧れた。
 ただただ、愚鈍に、だけど誠実に。
 しかし、少年は行動に移さなかった。ただ、遠巻きに眺め、格好いいと憧れ、そしてただただ憧れた。
 不思議な力を持ち、それを間違ったほうに使わない、常に正しい正義の味方。
 それは、幽霊が見えるという不思議な力を持つ少年にとって、とても魅力溢れる存在だった。
 だが少年の不思議な力は、少年をただ孤独に追いやり――

 ――そして少年は、リアルを知った。


いんたーるーどあうと


「――くっ」

 死角から放たれた斬撃をかろうじてかわし、チャドは五人から距離をとるように大地を蹴った。

「逃すか!!」

 しかしそれを許すほど敵は甘くはない。伍色隊最速を誇る畝田緑碗がまさに瞬く間に距離をつめ――漆黒の外骨格に包まれた拳をうけ、弾き飛ばされる。

「ぐぅっ!?」

「緑碗!」

「グリーン!」

 何とか着地する畝田緑碗に近寄る四人。すばやく、四番隊出身の桜坂舞が畝田緑碗の状態をチェックする。

「何処も異常はありませんか? というかどう見ても衝撃殺していましたよね? 余計な手間かけさせないでほしいです……ごふっ」

「――クッ。いや、大ダメージだぜ」

 血を吐くと見せかけケチャップを飛ばす桜坂舞をスルーし、畝田緑碗はやれやれと肩をすくめてみせた。その装束の色は黒でわかりにくいが、ほのかにココアの匂いが漂ってくる。

「見ての通り、珈琲をこぼしちまった。――クッ。俺もまだまだ未熟。漢への道のりは遠いぜ」

「……大丈夫のようだな」

 小さくため息をつき、徒爾青蘭が並び立つチャドと譲治に視線を向ける。

「いやなかなかに強敵ではないか、なぁ? そうだろう、そうではないか?」

「そうだなゴールド。だが、俺たちは絶対に負けない! なぜならそれが――」

 またも赤林松治を中心におのおのがポーズを取り、

「「「「「――ヒーローだからだ!」」」」」

 ちゅどーん、と七色の煙が巻き起こる。そんな光景に、チャドは精神的なダメージを少し負った。

「……ム」

 ひそかに汗をかくチャドの様子を感じ取り、譲治は小さく苦笑いを浮かべる。本当に、こいつらは――

「――茶渡くん」

「……どうした」

「先に……行ってくれないかな」

「……何?」

 いまだポーズをとり続ける五人から視線をはずさずにつぶやいた譲治の言葉に、チャドは眉根を寄せる。しかし、それも数秒。譲治の雰囲気から何かを察したのか、チャドはすぐに視線を五人に戻した。

「……大丈夫なのか」

「うん。ありがとう。……でも大丈夫。あいつらは――いや、この戦いは……」

 そう言って、譲治は足を踏み出し、

 チャドは、背を向け、

「……“僕と”の、戦いだ」


 いんたーるーど2


 少年はリアルを知った。
 リアルの残酷さを知った。
 そして少年は、リアルから逃げた。リアルを、否定した。
 そして少年は力を手に入れた。全てを防ぐ、強靭な体を手に入れた。全てを破壊する、強大な拳を手に入れた。
 そして少年はリアルに向き合い――

 ――そして少年は、幻想を初めて受け入れた。


 いんたーるーどあうと


 いんたーるーど3


 いい顔になったな、とそんなことを考えながら、チャドは目の前の死神に拳を叩き込んだ。チャドの剛拳をまともにくらった死神は、一瞬でその意識を失ってしまう。

「……ム」

 最初に見たときは、妙におどおどした男だった。背は高いが、少し太め。常に背を曲げ、周りの視線にびくびくとしているふうな、そんな感じの男。
 ――いや、少し違うか。まるで、別世界からこちらを見ているかのような、そんな雰囲気だった。
 あの廃ビルの中でもそうだ。自分たちは戸惑いを浮かべていたというのに、譲治の瞳に映っていたのは、ただの憧れだけだったと思う。その帰り道での会話の中で、それは確信になった。
 しかし、先の瞳はどうだろう。まるで鬼のように隆起し、とても人のようには見えない――言ってしまえばバケモノのような相貌の下に爛々と光っていた濁った黄色の瞳には、はっきりとした決意が、覚悟を決めた色があった。
 負けてられないな、と思いながらわらわらと現れ始めた死神に拳を叩き込む。自分に出来るのは、ただこれだけだ。ならばこれで一護を助けよう。自分の全身全霊を持って、この拳を振るおう。それが、一護との約束だった。
 そして――


 ――さらん、と


 ――桜が舞った。


 いんたーるーどあうと





―――――――――――――
ちっと短いので二話同時投稿



[19977] 第十一話
Name: ハマテツ7号◆23b8172b ID:013b83cd
Date: 2010/07/09 22:07

 ――桜が舞った。


 いんたーるーどあうと













「――ハッ、わざわざ自分からまた不利になるなんてなぁ!」

「ふむ、莫迦としか思えん。莫迦だな、莫迦だ、莫迦だろう」

 赤林松治の剣戟の嵐をかいくぐり、バックステップで距離をとったところで二方向からの同時攻撃が迫る。しかし、慌ては、しない。譲治は視線すら向けずに刀身を掴み、それを力任せに引っ張る。

「――ゼェェェエイッッ!!!」

「――ぬっ!?」

「ガッ!」

「――クッ、マジか!?」

 そこに、突っ込んできた畝田緑碗が現れる。当然、激突。それを見逃さず、譲治は拳の乱打を叩き込む――が。

「悉く妨げよ――地乱丸」

 足場がいきなり隆起運動を起こし、そこに壁が現れる。結果、譲治の拳は壁こそ破壊したものの、その目的――畝田緑碗、徒爾青蘭、金金金を捕らえることはかなわなかった。

「――ちぃっ!?」

 突然の障害物に歯噛みし、譲治はさらに間合をつめようとするが――

「悉く焼失させよ――焔姫」

「ッ!」

 ごう、と突然吹き荒れた炎に、またも飛び退る。腕を交差させつつ、周囲に意識をいきわたらせ――

「悉く突き破れ――穿空」

「くっ!」

 まるでドリルのような回転を起こす周囲の大気を感じとる。それはいまだ吹き荒れる炎を巻き込み、炎の竜巻となって譲治を取り囲んだ。対し、思考は一瞬。虚空に飛び上がろうとするが――

「悉く捕縛せよ――林縛歌」

「なぁっ!?」

 突如地中から現れた蔦のような太いものに、四肢を拘束される。一瞬の不動。それは、あまりにも致命的だった。

「悉く押し潰せ――槌助」

 瞬間。
 黄金の光が、譲治を押しつぶした。



 第十一話



「やったか……?」

 もうもうと立ち込める砂埃を油断なく見つめ、赤林松治はポツリとつぶやいた。穂先が轟々と燃えるハルバードに変化した斬魄刀、焔姫から見られるように常に熱血仕様な男だが、しかしそうであるが故に五人の中で常に細心の注意を払うのもこの男だった。伊達にこの個性的なメンバーのリーダー役はしていない。
 
「当然だよ。僕らの必勝パターンをまともに受けたんだ。アレを受けて生きているのなら、まさにバケモノさ」

 ふぁさ、と無駄にカールした前髪を掻き揚げ、徒爾青蘭が言う。その手には、まるで突撃槍のように形状が変化した斬魄刀――穿空が握られている。
 それを横目で見ながら、いつの間に新しいカップを用意したかコーヒーを口に含み、外見上さほど変化していない斬魄刀、林縛歌を持った畝田緑碗はにやりと口の端を上げた。

「――クッ。そいつぁどうだろうなぁ」

「……どういうことだい? グリーン」

「そうともさ。私の槌助の一撃をまとも受けたのだ。少なくとも、無事なはずがあろうか? いや、ない。反語」

 徒爾青蘭の言葉に追随するように、巨大な破砕槌を担いだ金金金が首肯する。その巨大な槌に隠れるように、直径五十センチほどの円形の盾に変化した斬魄刀を構えた桜坂舞がポツリとつぶやいた。

「……キャラ違います。自重してくださいね。ゴフッ」

「……ピンク。君も少し自重したまえ。その腹黒さは、ヒーローにあるまじきものだといつも言っているだろう。言っているさ。言っているのだよ」

「……ゴフッ」

「――」

 軽く血を吐き、桜坂舞はじっと土煙を見つめる。それを視界に納め、金金金は小さく唸ると、ぐっと槌助を構えた。

「――。ふむ。どうやら認識を改めなくてはならないようだな。なかなかに、強敵である」

 そうして駆け出し、振り下ろされた黄金の破砕槌を、譲治は両腕を交差させて受け止める。

「――づっ!」

「ふむ、どうやら多少はダメージがあるようだ。安心したぞ、旅禍」

 表情が読み取れない漆黒の鬼面から何かを感じたか、金金金はにやりと笑った。

「ならばまた喰らってみるがよい」

「――ッ!!」

 槌助がさらなる金色へと唸りをあげる。さすがにまずいと感じたか、譲治はそれを力任せにはじいて距離をとるが、その後ろには既に轟々と燃え盛る焔姫を構えた赤林松治がたたずんでいた。

「行くぞ焔姫。――焔舞!」

 ざう、と炎の軌跡を描く剣筋が幾重も放たれた。体をひねってそれをよけ、何とか着地するも、しかし体勢を整えるまでには至らない。着地した瞬間地面が隆起し、逆に体勢を崩してしまったからだ。

「ちぃぃっ!」

 一瞬の舌打ち。転がるようにその場を離れ、そして上空から攻撃を仕掛けようとしていた徒爾青蘭に逆立ちの要領で蹴りを放つ。――が。

「甘い! 穿空!」

 ぎゃる。穿空の穂先が、大気を巻き込みながらすさまじい速度で回転をはじめ、逆に譲治の蹴りがはじかれた。蹴りをはじいた穿空はそのまま大地をえぐり、そこから削り取られはじかれた石のつぶてが譲治に小さいながらもダメージを与えていった。

「――クソ!」

 御剣峰隆戦同様、やはり様々な能力を持つ斬魄刀は厄介なことこの上ない。特に今回は五人五種、それぞれの能力がある。ざっと見た感じでは、炎を操る焔姫、突撃力がある穿空、敵を拘束することに長けた林縛歌、地面を隆起、もしくは操る地乱丸、そして一撃の攻撃力に長けた槌助と分かれているようだ。それぞれに得意な分野があり、それをうまく組み合わせているため、厄介さで言えば峰隆以上かもしれない。

(どうする!? 大まかな能力はわかる! けど、御剣さんのようにいくつもの技を持っているなら、それも考えないと――ッ!?)

 いつまでも同じ場所にいるのは危険だと判断し、常に動いて場所を移動しようとするが、しかしそれすら大地から伸びてきた蔦に絡まれて阻害されていく。蔦の強度はそれほどでもないが動こうとする瞬間に巻きついて来る為、うまく次の行動に移れないのだ。

「ほらほらほら、さっきの威勢はどうしたんだい、旅禍!?」

 ぎゃる、と大気が渦巻き、穿空が今まで譲治がいた場所を抉り取る。

「舐めるな!」

 穿空を危なげにもよけ、そのまま体をひねって蹴りを放つ。どんな達人でも攻撃の瞬間には隙が出来る。それは徒爾青蘭にも変わりなく、譲治の放った蹴りは必中のタイミングを持っていた。しかし、譲治の戦っている相手は一人ではない。

「――クッ、させねぇぜ!」

 必殺の威力を持った蹴りは、しかし畝田緑碗の林縛歌により絡めとられ、一瞬ながらもその動きを止められてしまう。そしてその一瞬は、徒爾青蘭が離脱するには十分な時間だった。

「――ッ!」

 それに歯噛みし、すぐさま絡みついた蔦を力任せに引きちぎる。思ったより長かったので、振り回して即席の武器に変える。が、待っていたかのような焔の渦の動きに蔦は一瞬で燃え尽き、譲治は転がるようにしてそこから離脱した。

「このッ!」

 そして腕の力だけで体勢を立て直し、地面が隆起する瞬間に飛び上がる。狙うは一人上空に上がり、穿空で突進しようとしていた徒爾青蘭だ。

「――ハッ、さっきと同じパターンだということに何故気付かないのかな!?」

 しかしそれを最初から読んでいたか、徒爾青蘭はあせらずに穿空を構える。瞬間、大気を巻き込んだ穿空は途方もない推進力を発し、譲治の速度以上のスピードでその切っ先を漆黒の鬼に定めた。

 ――それが、譲治の狙いだと知らずに。

「――受けてみたまえ旅禍! 僕の素晴らしき攻撃を! 落撃惨禍!!」

 ぎゃおっっ!
 徒爾青蘭の霊圧を加えてさらに回転力と突進力を増した穿空は、――確かに、漆黒の鬼を貫いたはずだった。

「……何?」

 しかし、手に伝わるその感触は、明らかにいつもの手ごたえではない。そう、まるで何かに無理やり止められたかのような――

「青蘭!!」

「――離れたまえ、ブルー!」

 瞬時、それに気付いた赤林松治と金金金の声が響く。そうして、気付いた。

 ――漆黒の外骨格に覆われた手の平につかまれ、その回転を無理やり止められた己が愛刀の姿と、

「ハァァッ――巨拳昇撃!」

 数十倍に肥大した、巨大な拳を。

「――ぐっ」

「――させません。地乱丸!」

 譲治の拳が当たる瞬間、桜坂舞の声が響いた。しかし、譲治らは空中。地面を操る地乱丸ではどうしようもない――はずだった。
 
「――ッ!?」

 しかし、果たして譲治の拳は突然現れた巨大な円形の盾に防がれ、徒爾青蘭へのダメージはその大部分がそがれてしまう。なおも穿空を掴んでいるため未だチャンスには変わりないが、それでも切り札の一つを防がれた譲治の精神的ショックは大きい。
 そして、譲治は知らなかった。

「クッ、破道の三十一――赤火砲!」

 死神の戦闘術は、何も斬魄刀だけではないということを。

「な――ヅぁッ!?」

 突如横合いから襲ってきた爆炎に、譲治は思わず手に掴んでいた穿空の刀身を離してしまう。その隙に、徒爾青蘭は譲治から距離をとった。
 詠唱を破棄しているためダメージはそれほどではないが、それでも普通は近距離で突然爆発がおこれば隙はできる。目くらましとしては最適だった。

「――クッ、無事なようだな。まったく漢じゃねぇなァ、自分の相棒を捕まれて危機に陥るなんてよ」

「……ああ、助かったよ」

 漆黒の鬼から距離をとり、徒爾青蘭は冷や汗をぬぐおうともせずに穿空を構える。しかし、その構えはどこかぎこちない。
 その様子に先ほど鬼道を唱えた畝田緑碗も小さく鼻を鳴らし、ぐいっと残っていたコーヒーを飲み干した。

「ゴフッ……結構ダメージ通ってますね……攻撃は完全に防いだつもりでしたが……余波だけでこれですか……ゴフッ、出鱈目ですねー」

 小さくなりながらあたかもヨーヨーのうように戻ってきた地乱丸をキャッチし、桜坂舞は徒爾青蘭の容態をすばやくチェックしていく。

「今此処では治しきれませんね。……ゴフッ、痛みは止めておきます。無理はしないように」

 ぼう、と患部に添えられた桜坂舞の手が淡い光を放つ。治癒霊力を持つ四番隊の中でも珍しく戦闘能力が高い彼女だが、だからといって治癒能力が低いというわけではない。伊達に席官についているわけではなく、その治癒能力も高レベルなものを有していた。
 そんな彼女でも治しきれないダメージを、余波だけで与えた……その事実を、桜坂舞は小さく舌を打つことで受け止めた。
 四番隊である彼女の伍色隊での役目は、地乱丸で相手の体勢を崩し、なおかつ攻撃を防ぐという支援役である。そのため、彼女はこと防御と言う観点においては絶対のプライドを持っており、たとえ隊長格だとしても始解レベルであるならどんな攻撃も防ぎきる自信を持っていた。
 それほどまでに地乱丸は防御に特化した斬魄刀であり、彼女もそれを知り尽くしているのだ。だが、あの敵はそれをも上回った。桜坂舞は素直に感心すると同時に、漆黒の鬼に少なからず恐怖を抱いていた。

「……ふむ。素晴らしいほどの状況適応能力をもっているようだ。我らの誇るべき連携攻撃を数回受けただけで、もうその対処法を考案している。いやはや、やはりなかなかに強敵ではないかね? うむ、強敵だろうさ。強敵であるなぁ」

「そうだなゴールド。だが、俺たちは負けはしねぇ」

「それはどうだろうな」

「――何?」

 突然割り込んだ声に、赤林松治は眉間にしわを寄せる。なぜならそれは、敵であるはずの男からかけられた言葉だからだ。
 
「……それはどういうことかな旅禍君? 僭越ながら、聞かせていただきたいのだが。君は、ヒーローである我々が敗北すると、そういうつもりなのかね? そうなのだな。そうなのだろう?」

「――ハッ」

 金金金の言葉に、譲治は鼻で笑った。
 こいつらは、どうして、こう、ほんとうに――


「正義の味方正義の味方うるさいんだよあんたらは」


 ――ほんの数週間前の自分と似ているのだろうか。

「――ッ」

「正義の味方がそんなにいいのか! 正義の味方だからそれが全て正しいのか! 正義の味方だから常勝だっつぅのか!?」

 それは慟哭だった。
 ほんの少しの前まで、そうであると信じ、そしてその理想に裏切られた男の慟哭。
 我慢すれば、少しの間だけ無関心でいれば、きっと助けてくれる。そう信じ、そう憧れ、果たしてそうはならなかった、少年の独白。

「正義の味方に憧れて! それが絶対正しいなんて思い込んで! あんたらもどうせそのクチだろうけど――そんなわけあるわけないだろうが!? イライラするんだよお前らを見ていると! 何の思いもない! ただ憧れているだけで、それをなす力を手にいれただけで満足して! 現実を見ようとしないで!!」

 そして、それは。

「――それの何が悪い」

 果て無き夢を追い求めた者達への、最大の侮辱だった。

「――何?」

「そんなことぁ最初から百も承知なんだよ!」

「それでも僕達はそれを是として此処まで突き進んできたのさ」

「――クッ、たとえ後ろ指指されても、異端扱いされてもよ」

「ゴフッ……私たちはそれに憧れてしまった。なりたいと思ってしまった」

「だからこそ、いまの君の発言は認められないのさ。認めては、我々のこれまでの軌跡を全て否定することにつながるのだよ」

 きん。
 空気が弛緩する。
 そうして、譲治はやっと理解した。
 こいつらは数週間前の自分ではない。
 数週間前から現実を受け入れ、尚理想を追い求めてしまった自分だ。
 今の自分とは、まったくの対極に位置する自分だ。
 知らず、譲治はにやりと笑みを浮かべた。
 それがわかればなすべきことは一つ――

「――なら、僕の全能力を持ってお前らを否定してやる」

 此処からは、意地の張り合い――

「――だったら、俺たちの全てでお前を否定してやる」

 ――とどのつまり。

「上等だ」

 ――ただの喧嘩だ。




―――――――――――――
二話同時投稿。
次回、伍色隊編終了予定。
ちなみに斬魄刀名&簡易能力

名前・焔姫(ほむらひめ) 保持死神・赤林松治 能力・鬼道『炎熱系』

名前・穿空(がくう) 保持死神・徒爾青蘭 能力・鬼道『風系』

名前・林縛歌(りんばっか) 保持死神・畝田緑碗 能力・鬼道『木系』

名前・地乱丸(ちらんまる) 保持死神・桜坂舞 能力・鬼道『大地系』

名前・槌助(つちすけ) 保持死神・金金金 能力・直接攻撃系(光れば光るほど威力があがる)


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