赤い空の下、幻想的な風景。そこに一人の少年が、黒い何かに追われていた。少年は手に持つ赤い球を光らせ、翡翠の壁を発現。黒い何かとぶつかる、やがてそれは痛んだ身体を引きずるかのように消え残された少年は倒れた。
そこで夢は終わる、目覚めの音。
携帯のアラームを止め時間ピッタリに、ツインテールの少女は目を覚ました。
「不思議な夢を見ました……これは、何かが始まる予兆でしょうか?」
彼女の名は、高町なのは。少し大人びた9歳の女の子である、大人顔負けの論理を展開する才女でもあった。ただし、
「おはようございます、桃子さん、士郎さん」
「おはよう、なのは……そろそろ、お母さんって呼んでくれないかしら?」
「この時間は恭也さんと美由希さんが、道場に居る時間ですね。呼んできます」
「……はぁ、お願いね」
人の機微には疎い。年上の人には会話も丁寧、家族として打ち解けられるようにと全員が頑張るが結果は全滅。それでも一歩ずつ歩み寄っていこうと、頑張っていた。
その道は、かなり険しい。新聞を読んでいた士郎と目を合わせ桃子はため息を吐いた。
支度を済ませ、私立聖祥大附属小学校に登校するなのは。挨拶も忘れずに行なったが、返事は返ってこない。気にせず出掛けた、リビングではなのはの論理に負けた高町家。全員が疲れた様子なので返事が返せなかった、それでも不屈の心で立ち上がりなのはを除いた高町家は闘志を燃やした。
なのはと打ち解けるために。
送迎バスに乗り込むなのは、席に座ろうとして紫のロングヘアーの少女が手招きしてるのに気付き隣に座った。
「おはよう、なのはちゃん!」
「おはようございます、すずか」
月村すずか、高町なのはの数少ない友人である。
他愛無い会話をして、今日も一日を過ごすのだった。
帰り道、すずかと一緒に拾い手当てをしたフェレットを思い出す。夢に見た森の中、倒れた子供、フェレットの首にあった赤い球。それらの情報を組み合わせ、導きだされる答えは一つ。
(まさかとは思いますが……夢の少年がフェレットになっている可能性もありますね……それこそ魔法という奇跡の力……)
あらゆる可能性を思考し帰宅したなのは、夕食の団欒に家族と論理(会話)を交わし、フェレット飼育を勝ち取る。
夜、なのはの論理を裏付けるかのように頭の中で声が聞こえた。魔法のような力の可能性が現実味を帯びる。
〈誰か、僕の声が聞こえますか!聞こえていたら助けてください!〉
〈煩いぞ、塵芥!夜分に声を上げるな!その身を焼いてやろうか!!〉
〈ひっ!ご、ごめんなさい!!〉
余計な会話が聞こえたようだが、なのはは助けを求める声を聞き思考する。赤い球、何故か気になる。それに、声の正体を確かめたい。だから、駆け出す。
夜の街、フェレットを預けた動物病院へ。
飛び出すフェレットと黒い何か、どうやら正夢になったようだ。
「来てくれたの?」
喋るフェレットだが、なのはは気にしない。これで、夢の少年と繋がったから。フェレットの首にある赤い球を見る。
「君には魔法の……「どうすればいいのでしょうか、速やかに対策を」……あ、はい。分かりました……」
フェレットの説明を簡潔に聞いて赤い球を手渡される。起動パスワード、詠唱。フェレットの後を続けた。
「我、使命を受けし者なり」
「契約の元、その力を解き放て」
「闇は天に、星は光に、そして魔を司る心はこの胸に」
「この手に魔法を、ルシフェリオン、セットアップ」
《…………》
溢れる桜色の光、胸に宿る力。心地よい光に身を委ねた。
「凄い魔力だ……はっ!想像してください、貴女の身を守る服を!」
フェレットの声に、なのははイメージする。聖祥の制服、それの黒をイメージ。
光の中で、なのはは黒いバリアジャケットを纏う。
こうして、海鳴市に魔法少女が誕生する。
これが、なのはの始まり。ジュエルシードを巡る戦いが幕を開けた。
時の庭園。
黒髪の妙齢の女性は疲れた声で、“娘”に言い聞かせた。
「いい?フェイト、貴女は願いを叶える蒼い……」
「ドラゴンボールを集めればいいんだね!僕に任せて、全部集めたら願いを言ってもいい!?」
「そうじゃなくて……」
「よーし!この力で僕は飛ぶ!!行くぞーっ!!」
部屋を抜け出す金髪の少女、残されたのは二人の女性。
「アルフ……あの子をお願い……」
痛む頭と胃を押さえ、薬を取り出す女性に同情の目をした赤い髪の女性。
「ああ、お大事に。フェイトは、あたしが見張っとくよ」
アルフは女性から詳しい説明を聞き、フェイトの後を追った。
「……リニス、貴女に敬意を表すわ……」
薬を飲みながら、あのフェイトを教育した優秀な使い魔を想う。
何もない空間に、リニスの幻影を見た。何故かサムズアップしながら、
「頑張ってください、プレシア」
笑顔でこちらを見る。プレシアは、頭を抱えもう一度薬を飲んだ。娘であるフェイト・テスタロッサ。
彼女はアホの子であった、常に思考回路はショート寸前で突飛な行動を起こす。
プレシアの苦悩は、終わらない。
もしも、なのはとフェイトが出会ったら……友達……にはならないかもしれない。なっても、続かない気がした。
終幕。
「おい!我は、あの台詞だけか!?」
車椅子の少女が叫ぶが、物語は終わる。終わらせた。