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[19717] 【習作】【ネタ】ブレイクブレイドの世界に転生(原作知識なし)
Name: トッシー◆0d2e6a6a ID:76f9e6b2
Date: 2010/06/21 19:01
ブレイクブレイドの映画化に感化され、書いてみたくなりました。
それにブレイクブレイドの二次創作は見たことがないので釣れるかな?という思いも有ったり無かったり…。

プロット無しの行き当たりばったりなので、更新は物凄く遅いです。

文章も短いです。

単行本7巻と8巻しかないので、うろ覚えです。設定が間違っているかもしれません。

始めは主人公の鬱が鬱陶しいかもしれません。

それでも良いと言うのなら楽しんでいただければ幸いです。



[19717] 【習作】【ネタ】ブレイクブレイドの世界に転生(原作知識なし)
Name: トッシー◆0d2e6a6a ID:76f9e6b2
Date: 2010/06/22 07:46
ブレイクブレイド転生記

「プロローグ」



現在、俺は掌の上にある石英をじっと睨みつけている。
                     
今、俺は必死で石英を浮かせようと試みているのだ。いわゆる念動力?みたいなモノである。

ちなみに今、俺が試みている事は誰にでも出来る当たり前のことだ。

しかし俺には出来ない。その現実が、俺の隣で顔をしかめて辛そうにしている父親の表情が物語っていた。

「もっと軽いのはないのか?」

父さんが近所で石英の商いをしている男に問うた。男は首を振って答えた。

「残念だよ。アローさん……。この子は、『能無し』(アンソーサラー)だ」

弓雷人(ゆみ らいと)改めライガット・アロー。

転生5年目にして俺に認めたくない絶望が襲った。

「本当に残念だよ」




俺は高校生だった。

普通に勉強し、普通に部活に青春の汗を流す。

好きな格闘技に真剣に取り組み、アルバイトで小金を稼ぐ。

友人や家族となんでもない日常を過ごす。

そんなどこにでもいる普通の高校生だったのだ。

そんな俺が、どうしてこんな事になっているのかは分からない。

おそらく以前の人生は、俺が死ぬ事によって終わったのだろう。唯、最後に見たのは、真っ赤に染まった空だった。

そんな俺が転生したのは、俺の知らない文明を築いた異世界だった。



誰もが微力ながらも特殊な【力】を持っていた。

石英、誰もがそれに命令を与える事ができた。

人々は柔軟性の高い石英を精製、伸縮自在の【靭帯】を作り出した。

それは、カムを動かす為の動力になり、また空気を圧縮させるピストンの動力源となり弾丸を排出させた。

強弱はあれ、誰もが石英を使える力、人はそれを【魔力】と呼んでいた。




そんな世界で、魔力の無いという現実は残酷だ。何せ、全てを手動で、自分の手足を使って行わなければならないのだから。

耕運機も使えないし、自動車にも乗れない。

兎に角、石英を中心に進んだこの世界の文明の利器の全てが、全く使えないのだ。そりゃ能無しと言われても仕方がない。

昔は『能無し』として生れた子供は山に捨てられていたらしいから、更に凹んでしまう。

俺は掌の上にある石英に向かって溜息をついた。

これから先、どう生きていけばいいのか?

前世の記憶があるからこそ、この現実はかなり切実だ。

五歳児とはいえ、今の自分が将来においてどれほど苦しい人生を歩む事になるのか、なんとなく分かってしまうからだ。

「これじゃあ、お嫁さんもできないだろーなぁ?」

かなり切実だった。




それからの俺の日常は、変わった。

俺の住む村は、クリシュナという国の辺境にある村だ。人口百人いるかも怪しい小さな村である。

つまり噂が流れるのが早いのである。それはもう光りの如く雷の如く。

次の日には、俺が『能無し』だという事が、村全体に広がっていたのだ。明らかに村人達の俺を見る眼が変わっていた。

好奇、侮蔑、同情、様々だが、やはり危惧していた事が起こった。

ぶっちゃけ虐めである。初めはどうということはなかった。

前世の記憶がある俺は、予想していた事なので、大人の態度で子供達に虐めは間違っている事だと説いた。

「能無しのクセに生意気なんだよ!」

俺の態度が気に食わなかったらしく、子供達のリーダーが拳を振るう。俺はそれを、まともに顔面にもらい尻餅をつく。

頬に痛みが走り、口の中に血の味が広がる。手の甲で口元を拭うと、血が付いていた。そして俺はキレた。

俺の理性を戻したのは子供の泣き声だった。

気がつくと、俺を苛めていた子供は、身体の至る所に傷を作って泣きべそをかいていた。

どうやら俺がやったらしい。どこかで聞いた事がある、精神は肉体に引っ張られると。

初めは大人の態度とか言っていたが、どうやら俺もガキだったらしい。

後で聞いた話だと、殴りかかってくる相手をちぎっては投げ、ちぎっては投げていたらしい。

そういえば、前世では色んな格闘技に手を出していたっけ?

その後すぐに騒ぎを聞きつけて、大人たちがやって来た。正直に事情を説明した所、何故か俺が悪いという結論になった。

親父に連れられて、虐めっ子の家を一軒ずつ周り、謝罪していく。不満は合ったものの、ここで渋れば村に居場所がなくなる。

それが分からないほど子供でないつもりだ。そして、だからこそ限界だった。

この理不尽に…。

俺は全てにおいて、やる気をなくした。

だってそうだろう?魔力がない以上、何をやっても意味はなく、将来に意味も意義も見出せないのだ。

前世の知識も唯の学生だった為、役に立つことなど何もない。そんな俺の選択した行動は、引きこもりだった。

そんな俺に、親父は何も言わずに家を出て行った。遂に父親からもさじを投げられたか。そう思った俺は馬鹿だった。

次の日、親父は商売道具、即ち農民の命でもある農業機械を全て売り払い、倉庫でほこりを被っていた農具を引っ張り出してきた。

そして―

「ライガット!仕事だ!手伝ってくれ!」

当たり前のようにそう言った。

そんな親父の態度に堰き止めていた俺の感情が溢れた。

「どう、して……何でだ!こんな、こんな能無しの為に!」

次の瞬間、俺の頬に衝撃が走り体が横に吹っ飛んだ。親父に殴られたのだ。初めての事だった。

「バカヤロウ!自分の事を『こんな』なんて言うな!お前は俺の大切な息子だ!」

親父は泣いていた。拳を力なく下ろし、肩を震わせていた。

「とうさ……っ!!?」

次の瞬間、俺は抱きしめられていた。涙が溢れてくる。

「な、なんだよ!俺がどんな気持ちかも知らないで…!」

「すまん…」

「この前だって、俺は悪くないっ!のにっ!?」

「わかってる」

「分かってないよ!なのに、あいつ等にヘコヘコ謝って!」

「ライガット…。それについては、父さんはあれでよかったと思うぞ?」

「え?」

「ライガット、父さんはな、争いが嫌いだ。確かに、相手にやり返したお前の気持ちは分からんでもない

だが殴られたからといって、殴り返していたんじゃ、争いは終わらん」

「だから態々、謝りに行ったのか?俺たちは悪くないのに」

「あぁ、ライガット。お前は早熟だから分かってくれると思うから、今後の教訓として覚えておけ」

「教訓?」

「それは『相手が飽きるまで耐えれば、殺し合いにはならない』だ!」

親父は優しく俺の頭に手を乗せると、笑ってそう言った。その笑顔に釣られて笑ってしまう。

損な生き方だと思う。しかし、そんな教訓を守って生きていこうと、不思議とそんな風に思ってしまう。

親子だからなのか。

「レガッツを守ってやれ」

親父は部屋の隅で可愛らしい寝息を立てている弟を見てそう言った。母親は弟を生んで、すぐにこの世を去った。

母親を早くに亡くし、能無しだと発覚して、その事実が村に広がり虐めにあう。

第二の人生は、前世と比べ、散々なもので、自棄になったりもしたが、父親のおかげで立ち直れそうだ。

俺は弟のレガッツを優しく撫でながら、心配事を呟いた。

「まさかこいつも、『能無し』じゃないよな?」

そんな俺の呟きに親父は、なんとも言えないような困った顔をしていた。














続く


次回「士官学校入学」



[19717] 【習作】【ネタ】ブレイクブレイドの世界に転生(原作知識なし)
Name: トッシー◆0d2e6a6a ID:76f9e6b2
Date: 2010/06/22 07:56
ブレイクブレイド転生記

「プロローグ2」

親父が農業機械を売り払い、行動によって俺を救って十年。いろんな事があった。

まず、レガッツ。これまた俺と同じで魔力無者だった。弟はとても捻くれた幼児に育った。

俺と同じように虐めを受けていた弟だったが、親父の言葉を守って弟を守った。もちろん手は出してない。

痛いしムカつくが、たった一人の大切な弟だ。身体を張って守った。

そんな俺に村の人たちの態度も少しずつ軟化していった。

十年、弟が生れて五年。これほど長く同じ村で過ごしていると、少なからず仲間意識も芽生えるのだろう。

それに親父は、俺たち兄弟とは違い、魔力無者ではないし、以前からの村の仲間だ。

あれから少しずつではあるが、子供の事で態度を変えた者達が、謝罪に来たのだ。もちろん全員ではないが…。

俺は十年前のあの日から格闘技の訓練を始めた。人を殴る気はないが、何かをやりたかったのだ。

俺は前世の記憶を引っ張り出して、ノートにスポーツ医学に基づいた効率的な練習方法を記載していく。忘れてしまうと困るからだ。

当時、この世界の文字をまだ習得していなかった俺は、当然のように日本語で書いた。

後になって、俺自身にとんでもない事になるとは知らずに…。

そして十年間、休む事無く格闘技の練習を続けた俺は、かなり恵まれた体格を持つに至った。

もはや練習ではなく修行になり、繰り出される技は格闘技ではなく漫画のような武術に相応しい錬度になったと自負できる。

勿論どこぞの最強の弟子のような非常識さは無いが…。

とにかく、この十年の間に漸く平穏な日常を送る事が出来るようになったのである。

相変わらず、俺も捻くれたところは直らなかったが…。まあ、魔力がないという事実は、何時になっても、という事で…。




そんなある日の事である。

「ライガット。おまえ、士官学校へ入らないか?」

ポツリと親父が呟くように言った。

畑を耕している俺に、同じく野良仕事をしている親父がそんな事を言ったのである。

俺は耳を疑った。親父の言う士官学校とは『アッサム国立士官学校』の事だ。

名前は軍学校だが、学部は多岐に渡り、卒業生は軍以外の分野においても、活躍するものが多い。アッサム国内においては名門校である。

親父はそんな所に、俺を入れるというのだ。

「ば、馬鹿言うなよ!魔力無者を相手に世迷言を言うなよ!」

「世迷言なんかじゃないさ」

親父は、フッと笑うと、首に下げていたタオルで汗を拭った。

「それに士官学校で努力すれば、魔力に目覚めるかもしれない」

親父の言葉に俺の心が揺れる。

この十年間で、貧しくも健やかな生活を送っている。

自分が魔力無しだということも、自分なりに乗り越えて、村の人たちとも折り合いをつけて過ごせているとも思う。

しかし、それでも憧れは捨てきれない。この世界の人間なら当たり前のように扱える魔力に。

親父の言うように、もしかしたら魔力が使えるようになるかもしれない。しかし、俺は現実的な問題に気づき首を振った。

「別にいいよ…。学校なんて…」

親父の言葉に生れ始めた期待を、押し止めて言った。

「どうしてだ?」

「大体、学費はどうするのさ?士官学校は六年制。家にはそんな学費を払う余裕はないだろう?」

家は決して裕福ではないのだ。アッサム国立士官学校は名門ゆえ、学費も馬鹿にならない。しかもそれが六年…。

魔力も必ずしも目覚めるわけではない。もしも士官学校に通っても魔力に目覚めなかった場合、自分はどうなるのか?

自棄になったりしないのか?親父に無理させてまで通う価値があるのか?自信が持てない。

「親父の気持ちは嬉しいけどさ…」
「ライガット」

断ろうとした俺を、親父は押し止めた。肩に手を置き、ぐっと力を込める。

「子供が余計なことを心配するな!大丈夫だ!俺に任せとけ」

「でも」
「デモもストもない!俺が気づかないと思ったか?」

親父の言葉に、俺のドクンと鼓動が高まる。

「いくら村のヤツらとの折り合いがついても、早々乗り越えられるもんじゃない。出来て当たり前の事が出来ない。

それは一生付いてまわることだ。出来る事は全部やっとけ。だからお前は格闘技をやってんだろ?」

「親父…」

「それにもう、願書も出しちまったし。学費も払っちまった」
「はぁ!?」

何でもないことの様に言う親父に俺は仰天してしまう。そんな金が一体どこにあるというんだ?

「金なら心配するな。借金したから」

「なんだよそれ!あ~あ、もう!それじゃあ行かないと借金も無駄になるだろうが!」

「分かってるじゃないか!流石は俺の息子だ!」

嬉しさと、苛立ちが混じり、それでも感謝の気持ちで俺の心はいっぱいになった。照れ隠しに頭をガシガシと掻いてそっぽを向く。

「行って来い。ライガット」

そんな俺の背に、力強い親父の声が届いた。

「……わかったよ。ありがとう」

「気にすんな」

「それじゃあ、今日の仕事も頑張って片付けちまおう」

俺は、流れそうになった涙を拭うと、クワを振り上げた。

「ああ、そうだな。それと今日は祝杯だ。何せ明日には出発だからな」
「はぁ!?」

えっと…、マジで?俺の記憶が確かなら、まだ入学式まで時間があるはずだ。

「何を驚いている。今から出発しないと間に合わないだろう?車を使っても一週間以上の距離だぞ?」

ああ、そうか。たまに前世と同じように考えてしまう。直ったと思ったんだが、違ったらしい。

送迎車の手配にも金が掛かる。親父の心遣いに感謝しながら、俺はクワを振り下ろした。




その日の夜、ささやかだが祝杯が挙げられた。

親父はこの日の為に、無理して高い料理を用意していた。いつもとは違う豪華な食事に、俺たちは舌鼓を打った。

親父は早々に酔っ払い、レガッツがそれを嗜めている。

暫らくはこの光景も見納めだ。俺はそんな二人を眺めながら声に出さないように口の中で呟いた。「ありがとう」と…。

そして次の日の朝。

俺の家の前には、一台の送迎車が止まっている。

これから俺は、車に乗り、士官学校を目指す。親父とレガッツが俺を見送る為に、俺の前に立っている。

「頑張れよ。ライガット」

「あぁ。出来るだけの事はしてくるよ」

「なあ、ライガット…おまえ、本当に行っちまうのか?」

「レガッツ…」

レガッツは縋る様な声で言った。

「ああ。親父がここまでしてくれたんだ。無駄には出来ない」

俺はレガッツの頭を撫でると、次は両頬を引っ張った。伸びる、伸びる。

「ひてて…っ!あにすんだよ~」

我が弟は、俺に似たのか生意気に育ったものだ。魔力無しということも理由の一つだろう。

だが間違った育ち方はしていない筈だ。だからこそ、安心して行く事ができる。

「何時までも生意気な事言ってる罰だ」
「くそ~」
「親父を頼むな」

「…え?」

初めてのことかもしれない。俺が弟に頼みごとをするのは。

レガッツも戸惑いの表情で、俺の顔を見上げてくる。

「またな!」

レガッツの視線を受け止めた後、俺は送迎車に乗り込んだ。

目指すはアッサム士官学校。俺は徐々に小さくなっていく大切な家族に姿が見えなくなるまで手を振っていた。




送迎車に揺られる事、一週間。

俺はアッサム王国に到着した。車が学園正門前で止まったので、運転手に礼を言って降りる。

アッサム王国。俺達の住むクルゾン大陸の中心、クリシュナ王国とアテネス連邦に挟まれた中立国である。

ここまで来る途中、車の窓から見たが、そこには民族を問わず、様々な国の人間の姿があった。

人口も、町並みから伺える様子も文明の高さも俺のいた辺境の村とは別世界だった。

士官学校を見上げる。立派な正面玄関の先には、重厚な造り、おそらく石英で出来た校舎が建っており圧倒させられる。

正門前には、俺のほかにも大勢の入学者が集まっており、門の内側でパンフレットを受け取ったり、友人同士で談笑したりしている。

俺は、周りに習ってパンフレットを受け取り、それに眼を通す。

そこにはこの世界の言葉、西大陸文字で『入学案内』と書かれていた。この後、講堂で入学式が行われるらしい。

俺は入学案内に沿って、講堂を目指した。




講堂に入ると、既に多くの入学者や教師、在校生の姿が確認できた。案内に沿って、希望する学部別へ分かれて整列する。

そして入学式が始まった。校長の挨拶から始まり式は滞りなく進んでいく中で、

話を聞きながらも俺は、これから共に学校生活を送る仲間が気になり辺りに視線を泳がせる。

その中で気になる人がいた。友人になれるかどうかは別として、妙に人目を引きつける。

一人目は今、式の最中だというのに周りの人間から、明らかに恐縮な態度を受けている黒髪の美形。

次に俺のすぐ隣で、校長の話を聞かずにボーッとしている褐色の大男。

そしてこんな時に、黙々と読書をしている金髪の美女。無表情なのがもったいないと思う。

この三人は明らかに浮いている様子だった。しかし、周りの視線を集め何かオーラの様なものを感じる。

これがカリスマ性ってやつなのか?

「―これにて○年度、アッサム士官学校入学式を終了します」

そして、校長の長ったらしい挨拶が終わり、入学式は無事に終わった。生徒たちが移動を始めたので、俺はその後を追った。

この日から、俺の士官学校生活が幕を開けた。











続く


あとがき

すいません。
聞きたいことがあります。
ライガットって士官学校を中退したのでしょうか?
それとも卒業したのでしょうか?
回想シーンで卒業したような場面もあれば、進級二度目の後、学費の問題で中退を考えているような場面もあります。
物語序盤で、旧知であるホズル達と再会したのが4年ぶりだといっています。
原作開始のライガットたちは25歳。

ライガットはちゃんと卒業できたのでしょうか?
自己解釈で進めちゃっても良いのでしょうか?
なんか後で、矛盾が生れそうで…プロット書くのは面倒だし…。

次回「友人」





[19717] 【習作】【ネタ】ブレイクブレイドの世界に転生(原作知識なし)
Name: トッシー◆0d2e6a6a ID:76f9e6b2
Date: 2010/06/22 21:47
スイマセン。
修正しようとしたら間違えて消してしまいました。



ブレイクブレイド転生記

「プロローグ3」

俺がアッサム士官学校に入学して一年が経った。

矢張りと言うべきか、異国においても魔力無者という現実は、俺についてまわった。

入学してその事実はすぐに噂になった。俺は、村にいた時よりも更に陰湿で暴力的な虐めを受けることになった。

しかし、そんな俺にも友人が出来た。家族以外では初めてのことだった。魔力無者の俺を差別する事無く接してくれた者は。

まず一人目だが、名前はゼス。アテネス軍総司令官を兄に持ち、周りから羨望や妬みの視線を浴びる。良い意味でも悪い意味でも有名人だ。

次にホズル。なんと我が祖国クリシュナの皇太子。しかしやる気ゼロの昼行灯。

最後にシギュン。魔道技術の成績は優秀だが、運動神経ゼロの鈍感女。

まず始めに友人になったのはゼスだった。入学して直ぐに虐めの対象となった俺は、校舎裏に連れてこられた。

「お前のような能無しが、こんな所に来て何を学ぼうというんだ?」

相手はアテネス連邦の良家の御曹司だった。取り巻きと共に俺を囲み、圧倒的な優位からか見下すような態度で言った。

取り巻きたちも、ニヤニヤとした陰険な笑みを浮かべている。これから起こることがなんとなく分かってしまい溜息がもれた。

「なんだその態度は?随分と余裕じゃないか?」

「無能者のくせに調子に乗るなよ!!」

どうやら俺の態度がおきに召さないらしい。御曹司が俺に向かって拳を振るった。が、俺は化剄によって拳を逸らして避ける。

「やろっ!」

安っぽいプライドを傷つけられたのか相手の顔が赤くなった。

「おい!おまえら!この俺に楯突けばどうなるのか教えてやれ!」
「は、はい!」

リーダーの合図で、取り巻き達が一斉に襲い掛かってきた。

俺は、相手の拳や蹴りを化剄を用いて捌き、避けていく。このまま相手の体力が尽きるまで続けるつもりだった。

しかし―

「何をしている」

その男は突然現れた。

有名人だ。その時の俺でも顔と名前くらいは知っていた。なにしろ周りの人間の態度が普通ではなかったからだ。

アテネス連邦の軍総司令官の弟ゼス。

俺に対して拳を振るっていた者達も、ゼスの姿に途端に動きを止めて恐縮する。

「君は確か、テュペル家の御曹司だな?アテネスの男なら何故正々堂々と戦わない?一人を大勢で囲んで恥ずかしくないのか?」

御曹司はゼスの射抜くような視線に肩を震わせると、苦しい言い訳を探すような態度をとった後、居心地が悪くなったのか、

仲間を連れてその場から逃げるように去っていった。

「あんたは確か…、いちおう礼は言っとくよ」

「何故やり返さない?」

「何?」

「徒党を組まねば人一人殴れんヤツは嫌いだが、卑屈なヤツはもっと嫌いでな…。

見たところお前は先ほどの連中よりも遥かに強いのだろう?なぜ手を出さずにいた?それでも男か」

同級生から虐めを受け、助けに入った男からは睨まれる始末。俺が何をしたって言うんだ?しかし相手は恩人。無視は失礼だ。

「さあな…。だが親父の教訓で『相手が飽きるまで耐えれば殺し合いにはならない』!」

「では相手が死ぬまで殴ってきたらどうする?それでも戦わんか?」

ゼスは腕を組み、身体を校舎の壁にもたれさせた。無表情で見透かした様なその態度に腹が立つ。ああ言えばこう言う…。

「知るか!そこまで考えてねえ!」

俺の言葉に今度は呆れたように、半眼でこちらをじっと見据えて言った。

「気概があるのかないのか分からんヤツだ…」

コイツはさっきから何が言いたいんだ?俺は苛立ちに似たような感覚を覚えその場から立ち去ろうと背を向けた。

「何故からまれていた?」

「…さあな。俺が皆と違うからだろー?」

「待て」

ゼスが立ち去ろうとした俺を呼び止めた。

「俺の半径10メイル以内にいれば、絡まれずに住むかもしれんぞ…

但し―」

どういう意味だ?俺は思わず振り返ってしまう。心の中で正体不明の苛立ちが募る。振り向いた先には―

「―俺の3メイル以内には近づくな。悪くない条件だろう?」

今まで見たこともないゼスの笑顔があった。釣られて俺も苦笑してしまう。

「ライガットだ。おまえは確か、ゼスだっけ?」

苛立ちの正体がわかった。俺は学生生活に期待していたのだ。しかし、ここに来ても自分は相変わらずの無能者。

誰も彼も自分に近づいてくるものは、差別の視線を向けてきた。

しかしゼスの視線は違った。コイツは俺を差別しない。そう思えたのだ。だからこそ、コイツとはまた違った関係を期待したのだ。

俺は、コイツとは友達になれるかもしれないという期待に反して、そんな訳がないという抵抗心があったのだ。

今分かった。俺は嬉しいんだ。

こうして俺は初めての友が出来たのだった。




それから俺はよくゼスと行動を共にするようになった。

二人でよく授業をサボって駄弁ったりしていた。違いはあれど、周りから特異な視線を集めていた俺達は不思議とウマが合い、

良い友人関係を結ぶ事ができたように思う。話す内容といえば、基本的に周りの視線に対する愚痴や、家族の事や趣味の事だった。

特に格闘技の話はゼスも興味を引かれた様子で互いに盛り上がり、たまに組み手をするようになった。

争いは嫌いだが試合は好きだ。俺とゼスの実力はほぼ互角だったらしく、組み手は凄く有意義だった。ぶっちゃけ楽しすぎた。

それから暫らくして、俺達はいつものように授業をサボり校庭を歩いていた。

「あ~あ、やっぱり授業ってかったるいよな~」

「…その言葉は何度目だ?ライガット。また追試を受ける羽目になるぞ?」

俺の気の抜けた声に、すぐ隣を歩いているゼスが呆れたように口を開いた。以前ゼスが言っていた

「俺の3メイル以内には近づくな」という言葉は気にならなくなり、良い友人関係を結べていると思う。

「追試か…それを言うなよ。屯田学部での落ちこぼれは俺だけだぞ?それに筆記試験の方には自信があるっての」

「そうか」

「それよりも、また組み手でもしないか?休み時間まで時間があることだし」

「む?それはかまわんが…ん?」

「どうしたゼス…ん?」

ゼスが立ち止まり向けた視線の先を追ってみると、木の枝の上で震えている小鳥の雛とそれを弄ぶように爪を立てている猫の姿があった。

「助けるぞ」

自然とそんな言葉が出ていた。俺は木まで走り寄ると、両手を広げて声を出し猫を威嚇した。だが、相手は無視して雛を弄んでいる。

「こいつ…おい、ゼス!」

「なんだ?」

「あいつを助けるから手を貸してくれ」

「何故だ」

「だ~か~ら~可哀相だろーが!とにかく肩車だ」

「断る」

にべもなく断られる。

「被食者が捕食者に食われるのは自然の摂理だ。ほおっておけ」

「あ~~~!あれはどう見ても遊んでるだけだろーが?ごちゃごちゃ言わずに手伝え!この屁理屈バカ!」

「貴様の踏み台になるなどありえん!絶対にやらんぞ」

「別に、お前にそうしろとは言ってねえだろーが!お前が俺の背に乗ればいいんだよ!」

その時だった―

「―やあ!」

猫に襲われている雛鳥を助けるか否か、平行線で言い合いをしている俺たちに横合いから声が掛かった。

そこには褐色の肌の大柄な男が人懐っこい笑みを浮かべて立っていた。

少し驚いてしまう。まさか俺たち以外にも授業をサボってブラブラしている者がいるとは思わなかったからだ。

「はじめまして!俺の背中を使うといい」

男は自分の背中を指差してそう言った。少し驚いたもののせっかくの好意だ。手伝ってもらおう。

無言で男を見据えるダチを押しのけて俺は言った。

「話が分かるなアンタは。コイツとは大違いだ!」

大柄で野生的な容姿とは裏腹に、理知的で理性的な表情に安心感を覚えた俺は笑みを浮かべてしまう。

それに俺とゼスはこの学校において有名人だ。そんな俺たちに普通に声を掛けてきたのだ。

もしかしたらコイツとも友達になれるかもしれない。

「クツ脱ぐからちょっと待っててくれ!俺はライガット!あんたは?」
「ホズルだ。あー、そのままでかまわんよ久しぶりに制服を洗おうと思っていたんだ」
「悪いな。肩車は…」
「いや、それはお互いに気持ち悪いからやめよう」
「わはは!確かになー」

軽いノリで話しながら俺はホズルの背中に足を乗せた。

そして、俺いや、俺たちは無事に猫の魔手から雛鳥そ救い出すことに成功したのであった。木の上では猫が恨みがましそうに唸っている。

「そいつは黒ミミズクの雛だな。これからどんどん黒くなるぞ」

ホズルは俺の掌の中で震えている白い雛鳥を見つめながら言った。

「おー、物知りだなー」

「ライガット」

「あん」

先程まで黙って生還していたゼスが口を開いた。

「今、踏み台にした男…。貴様の国の次期国王候補だぞ?」
「…え?」

ゼスの言葉にサッと血の気が引いていき、冷や汗が背中を伝った。ゼスとホズルを交互に見た。二人の様子が事実だと物語っていた。

俺は掌の雛鳥をそっとホズルに差し出した。

「陛下!コイツを献上しますんで、どーか寛大ななんたらかんたら…」

「まったく、自国の王子の名前も知らんとはな」
「うるせー!てか、知ってるなら教えろよー!大体ゼス!おまえはさっきから呆れてばっかりだな」

「わはははは」

俺が献上もとい受け取った雛鳥を抱きながら、ホズルは俺とゼスのやり取りを見て笑っていた。

こうして俺たちに新たな友人が加わった。




新しい友人ホズルと雛鳥が加わり、オレ達の生活はますます充実した。

まさかこんな風に友人達と普通の学園生活を送れる日が来るとは、以前の俺なら考えも付かなかっただろう。

黒ミミズクの雛の世話をゼスに押し付けたり、ホズルと馬鹿騒ぎをしたりと俺達の日常は更に騒がしくなった。

ゼスは迷惑そうにしていたが、本心からではないのは判っている。今では俺とホズルのストッパーというかフォロー役になっている。

ちなみに黒ミミズクの名前はグラムに決まった。

そして俺たちは現在、とある木の上によじ登り木の葉に身を潜めていた。季節は夏本番。俺達の目的はプール。

正確には現在水泳の授業を受けている女子の水着姿だ。俺は木の葉の隙間から望遠鏡を覗かせる。

親友二人に女子の水着姿を覗きに行かないかと誘ったところ、ホズルは望遠鏡を片手に二つ返事で「行く」と答え、

ゼスは「くだらん」と一蹴。それに自分には将来を誓い合った幼馴染がいるとの事。リア充死ねと思った俺は悪くない。

腹が立った俺はグラムを押し付けて適当な木の上へとよじ登ったのだった。

「う~む……実にけしからん!実にけしからん身体だ!」

思考と言葉がオヤジになっているのは見逃して欲しい。

何故なら視線の先には水着姿の美女が映っているのだから。腰まで伸びた美しい金髪、くびれたウエストに大きく突き出たバスト。

ヤバイ。間違いなく今の俺の顔は、だらしなくにやけているはずだ。

「おい!ライガット!返せ!」

俺のすぐ隣では、ホズルが急かすように望遠鏡へと手を伸ばそうとする。

俺はホズルの手を避けながら視線を彼女の身体から顔へと移した。

シギュン・エルステル。魔道工学女子部の才女。

俺たち、いや俺からすると高嶺の花だ。しかも俺と同じ平民の出だからこそいらない希望を抱いてしまったりもする。

ホズルも彼女にお熱だ。一国の皇太子の心も掴んでしまう。それほどシギュンの美貌は群を抜いているのだ。

少なくとも俺の目にはそう映った。

その時だった―

「うわっ!!」

シギュンが此方を見たのだ。視線が合い驚いた俺は、思わず望遠鏡を手放してしまう。そして姿勢を崩し、木の下へ真っ逆さま。

ホズルは薄情な事に俺を助けようともせずに望遠鏡キャッチ。俺はドスンという音を立てて背中から落ちた。

辛うじて受身は間に合ったが、やっぱり痛い。

「―ぃっ、おい、目が合ったぞ」

俺は再び木によじ登りながら、望遠鏡でプールを覗いている親友に声を掛けた。

「…有りえんだろ?彼女、すごい近眼らしいし」

やっぱりホズルもシギュン目当てか。顔を赤くしてにやけているホズルを見ながらそう思った。

「…おいホズル!貸せよ!」
「うわっ!よせライガット!お、落ちるって!」
「貸せって言ってるだろっ!!」

ギャーギャーと醜い争い始める俺たち。

その後、シギュンがプールに飛び込んだ。そのときの姿に釘付けになったが、何時までもシギュンは浮いてこなかった。

どうやら溺れたらしい。その様子を見ていたホズルが遠い目をして言った。

「筋力、運動神経共に皆無という噂は本当だったのか」
「じゃ、じゃあ、あのけしからん身体のボリュームは?ボン!キュ!ボン!だぞ?」
「さ、さあ…」
「うーむ、謎だ…」
「あ!ライガット!お前何時の間に!返せよ!」

ホズルが考え込んでいるすきに奪った望遠鏡でシギュンを見ていた俺に気づき声を上げた。




さて、親友二人と馬鹿なことをして遊んでいる以外だと、俺は大抵は図書室にいる。

実技の成績は散々だが、筆記の成績は悪くないのだ。親父は借金をしてまで俺を士官学校に入れてくれた。

魔力に目覚めない限り、実技は駄目だ。だからこそ出来る事はしておかないと。

俺は屯田学の参考書を本棚から引っ張り出すと、机に向かい勉強に集中した。


そして暫らくして、俺は一旦手を止めた。

そして一冊のノートを取り出した。それは昔、格闘技の練習法を記載した物だ。

あれから偶にノートを開いては、気も向くままに色々な事を書いたりしている。勿論日本語で。

この学校に通うようになってから知った事だが、前世において俺が使っていた文字、

日本語と英語は、今の文明以前に存在していた古代人が用いたとされる古代文字だったのだ。

それから俺の持つノートは俺にとって特別な意味を持つようになった。ぶっちゃけ日本語は覚えているが、

英語は怪しい。だからこそ暇な時間を見つけては、覚えている英単語を記憶から引っ張り出してノートに記載していた。

友人との時間は無駄には出来ないし、勉強も疎かに出来ない。だからこそ今、出来る事をしているのだ。

ふと脳裏にシギュンの顔が過る。

シギュンとお近づきになりたい。切実に思う。ラブレターでも書くか?いや駄目だ。はっきり言ってまともな文章など書けそうもない。

それに元々そんなもの渡すつもりもない。大体、読まれるのは照れくさい。

でも、読めない文字なら?

I love you more than anyone in the whole world

自然とそんな事を書いていた。これなら誰にも読むことは出来ない。それに良くありがちな愛の告白だ。

英語なら尚更だ。それに誰かに宛てた訳でもないからどうということは無い。

「それにしても俺には似合わないクサイ台詞だな」
「そうなの?」
「ああ」
「なんて書いてあるの?」
「貴方を世界で一番愛しています……って、え?」

振り返るとそこには、脇に本を抱えているシギュンの姿があった。彼女は興味深そうに俺のノートを見つめている。

俺はシギュンの姿を見て固まってしまう。

何故なら彼女は俺のすぐ後ろから身を屈めて肩の上から顔を出してノートを除いているのだ。

息が届くほど近い距離。そう、シギュンの吐息と髪が俺の肩へと掛かっている。ふわりと良い香りが鼻をくすぐった。

緊張が高まる。

「ねえ」

「…え?な、なんだよ」
「これ古代語よね?もしかして読めるの?」
「え、いや、その……」
「どうなの?」

しどろもどろしている俺に、シギュンが更に顔を近づけてくる。

「ま、まさか!俺みたいな落ちこぼれが、古代文字なんてインテリなもの分かるわけないだろ?」

取りあえず誤魔化す事にした。

シギュンは黙って俺の顔を見つめている。ヤバイ。ものすごく可愛い…。これはもう耐えられん!

「みんなには言うなよ」

シギュンの視線に耐え切れずに、俺はポツリと呟いた。

「だからとりあえず離れてくれ」

周りを見ろと横に視線を移すと、先程まで静かに読書をしていた者たちが、興味深そうにこちらを見ていた。

シギュンは身を乗り出し、俺はその反対側に椅子を傾けている状態だ。俺の顔の眼と鼻の先ほど近い距離に彼女の顔があった。

シギュンが俺から離れ、正面の席に座る。

「それで古代文字を理解できるの?」
「全部じゃないがな」
「そう……」

彼女は少し考え込んでから口を開いた。

「シギュンよ」
「え?」
「自己紹介」
「あ、ああライガットだ。それとこれからは少し声の音量を下げてくれ」

「―じゃあライガット、あなたはどうして古代文字を理解する事ができるの?」

彼女との関係に期待もしたのだろう。正直に言えば、魔力無者の俺が女の子との接点を持てるチャンスなどそう無い。

そういった下心、いや彼女をどうこうする気はないが、少なくとも女の子、それも飛び切りの美人と友達になれるかもしれない。

俺は意を決した。

「あのさ、実は俺には前世の記憶があるんだ」

小さな事とはいえ、これが俺達の関係の始まり、切掛けだった。











続く

次回「青春」












あとがき

これで書き溜めていた分は使い切りました。
これから更新が遅くなるでしょう。
実は結構迷っています。
原作通り、シギュンをホズルと結婚させるか……。
ライガットの中の人の影響で違う未来も考えたりしていますが…。
やはりプロット無しだと行き当たりばったりですね。
反省しなければ…。

それでは次回の更新でお会いしましょう。




[19717] 【習作】【ネタ】ブレイクブレイドの世界に転生(原作知識なし)
Name: トッシー◆0d2e6a6a ID:76f9e6b2
Date: 2010/06/23 17:17
ブレイクブレイド転生記

「プロローグ4」

シギュンが俺達のメンバーに加わった。

俺が前世の記憶、古代人として生きていた頃の記憶があると打ち明けてから、彼女は積極的に話しかけてくるようになった。

相変わらずの無表情だが素直に嬉しく思う。そんな彼女が俺達のグループに加わるのに時間は掛からなかった。

シギュンはいつの間にか自然と俺達の中に入っていたのだ。

ホズルは彼女の見ていない所で小躍りして喜んでいた。もちろん俺も同じくらい喜んでいる。

初めて話をした時の様に緊張する事も、あがってしまう事も無くなった。

それから俺たち四人組が、アッサム国立士官学校24期生の問題児4人衆と呼ばれるのに、時間は掛からなかった。

何故なら学校内で起こる問題や騒ぎの大半は俺達、もとい俺とホズルの仕業なのだ。

ゼスはフォロー役の為に、シギュンは何故か常に俺達の近くにいる事でオレ達の仲間だと周りから認識されていた。

まあ、周りがどう思おうと俺は仲間のつもりだが…。




そして今日も俺たちは騒ぎを起こす。

「今夜行くぞ!」

休み時間の事である。

午前の授業を終えて直ぐにホズルを捕まえた俺は、二階の渡り廊下を歩いているシギュンを見つけて声を掛けた。

事の発端は、学園の七不思議のようなものを探そうと決めた事である。実際に俺の精神年齢は、前世と合わせると三十路過ぎだ。

はっきり言っていい年の大人がすることではない。しかし今の俺は、本当の意味で今の人生を謳歌していたのだ。

どんなにくだらない事でも馬鹿らしい事でも仲間達と一緒なら、心から楽しいと思えるのだ。

結局、七不思議のようなオカルトめいたものは無かったが、代わりに女子寮の面白い噂を聞いたのだ。

何でも女子寮は警備が物凄く厳しく、完全男子禁制。なんと武装した女性衛兵が常に8人で警備体制を布いており、

難攻不落、これまで何人もの漢が侵入を試みたが、その全てが悉く失敗に終わり、

しかも何代か前の男子生徒が女子寮に忍び込もうとして射殺までされたという…。

それについては真実か偽りかは定かではないが、その話を聞いた時、正直、俺は燃えた。

そこまで聞いた以上、確かめるしかないだろう。それに今まで男子が入った事の無い女子寮、そこに入った初めての男に俺はなる!

それにシギュンの部屋に入ってみたい…。男が気になる女の子の部屋に入ってみたいと思うのは自然な感情のはず。

「という訳で今夜行くぞ!」

と、こういった次第である。

「何しに?」

シギュンが首を傾げた。

「いや、山男っているだろ?そこに山があるから登るみたいな…」
「だから?」

「だから、そこに女子寮があれば入ってみたくなるのが健全な男子ってもんだろ?それに士官学校女子寮への

潜入に成功してみろ!始めて女子寮に入ることが出来た男子生徒として、学校の伝説になれるじゃねーか」

「ふぅん…まあ、変な事しないならいいわよ。好きにすれば?」

「変な事ってなんだよ?なあホズル?」

俺は頭上で呆れているシギュンに構わずに、親友に話を振る。彼女の態度はいつもの事だ。

ホズルは一瞬、いやらしい事を考えたのか、赤くなりながらも答えた。

「カード、カードしに行くだけだ!」

「よし!そうと決まれば作戦を練って今夜に備える!シギュンも来てくれ!ホズルはゼスを呼んできてくれ」




俺達は午後の授業をサボり、いつも屯している校庭の端の木陰に集まっていた。

「それじゃあ始めるぞ。シギュン」
「わかってるわよ」

俺が促すと、シギュンは一枚の紙を取り出して、俺に手渡した。それを受け取り、皆に見えるように広げる。

ホズルとゼスが興味深そうに覗き込んでくる。

「何だこれは」
「女子寮の見取り図と警備員の配置」

ゼスの疑問に俺は見取り図を確認しながら答える。

「待て。どういうことだ?」

「ホズルから聞いていないのか?」

俺は視線を移すと、ホズルはバツが悪そうに頭をかいて答えた。

「いや、正直に言うとここに来ないと思って」
「確かに」
「そうね。付き合うわけないわ」

ホズルの言葉に納得してしまう。シギュンも同感のようだ。俺としてはシギュンがこうして協力的なのが不思議だ。

「待て。お前達、何をする気だ」

「何って、決まってんだろ?伝説を作りにいくんだよ」
「は?」

俺は、ゼスに以前から噂されていた女子寮の話を聞かせると共に、同士として思いを一つにして女子寮に潜入しようと誘った。

「どんな意図があるかは知らんが、幸いシギュンも協力的だ。それにゼス!お前がいれば百人力だ!」

「くだらん。射殺されてしまえ」

一刀両断だった。

ゼスはそう言い残すと、背を向けて歩き出した。呼び止めようとするホズルを捕まえて止める。何故だという表情をぶつけてくる。

「大丈夫だホズル。アイツは必ず来る」

「え?」
「大した自信ね?その根拠は?」
「それはな、アイツが英雄だからさ」
「はぁ?」
「知らないのか?ヒーローは遅れてやって来るってな?」
「知らないわよ」

「とにかく、今夜が勝負だ。今のうちに作戦を煮詰めるぞ」

まずは侵入経路と逃走経路だ。

今夜に備えて俺達は、ギリギリまで作戦会議としゃれ込んだ。

まさかシギュンがここまで協力してくれるとは夢にも思わなかったが……。

どうやら友人のよしみでここまで協力してくれただけであって、女子寮潜入はどっちかというと反対のようだ。

「本当はどうでもいいのよ。ただ、変な事さえしなければ」

という条件付で協力しているようである。




その夜、女子寮玄関前から50メイルほどの茂みに怪しい影が二つ。

言うまでもなく俺とホズルだ。

俺たちは顔がばれない様に頬かむりをしている。ホズルは渋ったが、

「一国の皇太子が女子寮に侵入した事がばれても良いのか?」そう聞いたところ、渋々と頬かむりを装着した。かなり笑える。

俺たちが用意した物はロープ、明かりを灯す為の反応系石英。これは警備を引きつけるためのものだ。

そして逃走用にシギュンに反応系石英を加工して作ってもらった閃光弾だ。閃光弾は前世の知識から俺が提案した。

そして最後にペンキと筆だ。何に使うかは後のお楽しみだ。

正直それを再現できるシギュンはマジで凄いと感心してしまう。どうしてここまでしてくれるのかと聞いたところ、

シギュンは少し考えた後、照れくさそうに背を向けて答えた。警備員に見つかって射殺されるのを見捨てるのは寝覚めが悪いとの事。

「ありがとうシギュン」

俺はシギュンが作ってくれた閃光弾を握り締めた。

「おいライガット」
「なんだよ」
「それは俺が預かろう」
「…そうだな」

魔力の無い俺に石英は使えない。残念だが仕方がない。俺はホズルに閃光弾を手渡した。

「よし、じゃあ行くぞ?目指すはシギュンの部屋だ」
「お、おう」

こうして俺達は、女子寮へと足を踏み出した。少し歩くと女子寮の玄関が見えた。そこで俺達は足を止める。

「ここだ」
「ああ」

シギュンの用意してくれた見取り図にはこの位置から回り込むように迂回して倉庫まで行き、倉庫の屋根を伝って、

窓から廊下へと侵入するように書かれていた。俺達は見取り図に沿って、警備の穴を抜けながら移動していく。

まさかシギュンの用意してくれた見取り図がここまで役に立つとは思わなかった。なんと警備員の行動パターンまで書いてある。

俺達は見取り図に従って歩を進めているだけだ。シギュンの仕事ぶりに感心しながらも、第一関門でもある倉庫に辿り着いた。

辺りを見渡す。

(誰もいない。チャンスだ相棒!)
(了解)

誰もいないことを確認してホズルにサインを送る。ホズルが頷き、倉庫の屋根によじ登った。

そこでホズルが辺りを確認して、俺に合図を送る。ホズルに続き屋根によじ登る。

(第一関門クリア。ライガット、お前も)
(了解)

そして極力足音を立てないように進み、目当ての窓の位置まで来る。放課後シギュンが前もって窓の鍵を開けておいてくれたらしい。

こっそりと侵入に足を付ける。これで俺達は女子寮への侵入に成功したのだ。

「よし」
「やったな、ライガット」

ホズルの満足げな顔に頷くと、俺は筆とペンキを取り出しだ。

「何をするんだ?」
「決まってるだろ?潜入に成功した証を残すんだよ」

俺は音を立てないようにしながら、廊下の壁に『勇者(おとこ)参上!!』とデカデカと書き殴るように筆を走らせた。

うむ!我ながら達筆だ。ホズルが呆れたような視線を向ける。

「ライガット。これ、おちるのか?」
「おちると困るだろ」
「で、これからどうする?帰るか?」
「は?何を馬鹿なことを。これからシギュンの部屋に行くに決まってるだろ」
「いや、流石にそれは…」

冗談ではなかったのか?とホズルは躊躇いがちに視線を泳がせた。しかし俺は引くつもりはない。

ここまで来たんだ。いけるところまで突っ走るのみ!

「ホズル、ここまで来て引き返すのか?」
「いや、しかし」
「…お前は女の子の部屋を見たくないのか?」
「だが…」
「ホズル!男として答えろ!お前はシギュンの部屋を見たくはないのか!?」
「見たい!」
「うむ!漸く素直になったな!では早速―」
「侵入者だー!!!」

その時だった。寮内に若い女性の声が響いた。どうやらばれてしまったらしい。熱弁しすぎたか。

「ちぃ!ここまでのようだな!逃げるぞホズル!」
「あ!馬鹿!名前を呼ぶな!」

俺達は一斉に駆け出した。来た道を戻り、窓から外に飛び出した。俺達は倉庫の屋根を走り出す。

「いたぞ!窓から逃げている!」
「絶対に逃がすな!」

―カッ!

ホズルが反応石英に明かりを付け、四方に投げて『敵』の眼を逸らす。その間、俺はロープを木に向かって投げて枝に絡ませる。

ギュっとロープを引き、安全な事を確認する。

「よし!逃げるぞ相棒!」
「わかった」

ホズルが俺に掴まったのを確認して俺は屋根から跳んだ。俺達は木の下、茂みの中に落ちる。

「居たぞ!こっちだ!」
「さっきのは囮か!?」
「絶対に逃がすな!撃て!撃てぇっ!」

ダン!ダン!と連続して射撃音が響き、恐怖が掠める。やばいって!これシャレにならないって!マジで殺す気かアイツ等!

「相棒!閃光弾だ!」
「分かった!」

俺の合図でホズルがシギュン特性閃光弾に命令を送り、後ろへと放り投げた。

閃光。

眩い光が辺りを満たす。

「くそ!」
「撃て!撃て!」

警備員達が俺達の方へと我武者羅に銃を撃つ。

走る、走る。俺達は後ろを振り返らずに一目散に茂みを掻き分けて走る。留まれば命がない。

それにしてもしつこすぎるだろ?これだけやっても執拗な追撃をやめない女性衛士たちに感心してしまう。

「くそ!こんな事なら来るんじゃなかった!」
「あそこで大声出さなきゃな~」

「言ってる場合か!っておわぁ!?今!み、耳をかすめた!」

「へぶっ!」

ぼやきながら逃げていると後ろから肩をつかまれ地面に押し倒された。

「全く世話を焼かせる。こっちだ、二人とも」

俺たちを地面に押し付けたのは英雄ゼスだった。ゼスは大きな黒い皮布を俺たちにかぶせると、手でサインを出した。

俺達はゼスの指示に従い匍匐前進で茂みを抜け、女子寮エリアを抜け出すことに成功した。

我等がヒーローは呆れたように溜息をついている。

(耳かすった耳かすった)
「ちょっと見せてみろよ」

「やれやれ、ライガット。もう気は済んだだろ?帰るぞ」
「助かったよ、いやマジで」
「全くだ。それにしても良く来てくれたな」

ホズルが嬉しそうにゼスに礼を言っている。

「だから言ったろ?ゼスは必ず来るって」

「ふん、俺もお前達の仲間だと認識されているからな。事が露見すると俺にまで被害が及ぶ」

「照れるなって」
「わははは」

一応、作戦には成功した俺達は、満足感と共にその場を後にしたのだった。

そして次の日の朝。

ぶちゃけ女子寮に侵入したのがばれました。警備員が俺とホズルが名前を呼び合っていたのを聞いたらしい。

こんな馬鹿な事をするのは元より俺達しかいないだろうということで、ますます『問題児4人衆』の悪名が広がった。

教師に指導室に呼ばれたが、知らぬ存ぜぬで押し通し、結局証拠不十分で釈放。

こうして今回の騒動、後に語られる『女子寮潜入成功事件』は幕を閉じたのであった。




それから数日後。

俺達はいつものように授業をさぼり、校庭にある広場に集まっていた。

この場に居ないのは授業をさぼってないシギュンだけであった。

なんでも今日の講義に気になる内容があるらしい。

俺は格闘技の練習。ゼスはグラムの相手。ホズルは寝転がって空を見上げている。

皆思い思いの事を、つまり好き勝手にしているのだ。

「ライガット…」
「ん?」

そんな時だった。ふとホズルが口を開いた。

「前から気になっていたんだが」
「うん」
「お前って…その、シギュンと付き合っているのか?」

「―は?」

ホズルの言葉に硬直してしまう。格闘ゲームのキャラが必殺技を放った後のような硬直。キャンセル失敗するとこうなるのか。

「だから、シギュンと恋人同士なのかって」

「いや、付き合ってないよ」
「そうか!」

ホズルは嬉しそうに声を上げ、安心した様に溜息をついた。嫌な予感がする。いや以前から気づいてはいた。

「実は俺、シギュンの事が好きなんだ」

こいつがシギュンに特別な視線を向けている事を。

はっきり言って俺に勝ち目はなさそうだ。

だってそうだろう?

俺はしがない農民出の平民。ホズルは一国の皇太子。客観的に見て女性がどちらを選ぶかなど考えるまでもない。

それに俺は『能無し』だ。

もちろん俺の友人達は、そんな事を気にするようなヤツらじゃない事ぐらいこの1年でよく分かっている。

それでも俺は自分自身に自信が持てないでいる。

かといって友情が壊れるとは思っていない。なぜならシギュンを巡った争いが起こるとは思えないからだ。

「……そうか」

漸く搾り出した言葉だった。俺は気を取り直して練習を再開する。

「ライガット……おまえは?」

「え?」

「お前もシギュンが好きなのか?」

「お、俺は別に…」
「惚けるなよ!頼むから俺には嘘をつかないでくれ」

ホズルは立ち上がって俺の肩を掴む。真剣な表情で、まっすぐに俺を見据える。

どう答えればいいんだ?ホズルは真剣にシギュンの事を想っている。俺なんかが二人の間を邪魔していいのか?

「ライガット」

先ほどまで黙っていたゼスが口を開いた。

「お前の事だから、ホズルとは争いたくないなんて思っているのだろう」
「ゼス…」

「それに、どうせ自分がシギュンと結ばれる事はない。なんて卑屈になってやしないか?

お前の事だ。友情をとって身を引こうという考えすら持っていないだろう。

普段は当たり前のように対等に接しているくせに」

身を引く……誰が?俺みたいな『能無し』が?それ以前の問題だろう。

「ライガット。あまり自分を見くびるな。少なくとも俺は、いや俺達はお前が友人でよかったと想う」

「そうだな。だからこそ正直に言ってくれ。おまえの本当の気持ちを」

「………だよ」
「聞こえんよ」

「好きだって言ってんだよ!相手がお前でも渡したくねーよ!」

「そうか。これでもまだ本当の事を言ってくれなければどうしようかと思ったぞ」

ホズルは俺から離れると、またその場で仰向けになった。ゼスもフッと嬉しそうに笑う。

「なあゼス、お前ってこんな性格(キャラ)だっけ?」
「うるさい」

心ばかりの仕返しだった。

ゼスは軽くこちらを睨んだ後、足元にいるグラムに視線を落とした。

「わはは、確かに今日のお前は少し熱血だったな」

似合わないとか珍しいとか、そういったことではないだろう。ホズルとゼスは、いや俺達は全員この1年で随分変わった。

俺は居心地の良いこの空気の中で思った。願わくば、この関係が何時までも続くようにと……。












続く







あとがき

今回は昔の青春ドラマみたいにしてみました。
次回は学費を稼ぐ為に奔走します。
実はまだどうやってお金を稼ぐか決めていません。

いくつか候補に挙がっています。

一、古代文字(日本語)解読。

二、娯楽関係、将棋やチェスなどの玩具を作って売る。(士官学校だしいけるかも)

三、火薬でも作ってみる。前世は高校生だったし簡単なものなら作れそう。

四、その他。以上の方法以上に良いアイデアを読者様からいただく他力本願。

どうしよう?



[19717] 【習作】【ネタ】ブレイクブレイドの世界に転生(原作知識なし)
Name: トッシー◆0d2e6a6a ID:76f9e6b2
Date: 2010/06/25 00:08
今回の話は完全に『ネタ』です。
不快に感じる方もいるかもしれませんがご容赦下さい。
感想によっては下げるかもしれません。








ブレイクブレイド転生記



「プロローグ5」



「我が名はゼンガー。ゼンガー・ゾンボルド。悪を断つ剣なり!」

ゴゥレムの3倍以上もある巨大な鉄巨人。その内部、操縦席で精悍な顔つきの武人が名乗りを上げた。

空を覆い尽くす強大な軍勢に臆する事のないその勇姿は、見る者全てに希望を与えた。




独立戦争から約200年。

人々から戦争の記憶は薄れ、争いのない平和な時代を人は謳歌していた。

かつての戦争で使われたゴゥレムの存在の意味も、戦闘用から娯楽や競技用に変わっていった。

しかしある日、その平和は突然終わりを迎えた。クリシュナ王国の辺境にある街が何者かの攻撃によって壊滅したのだ。

突然の正体不明の敵の攻撃に戦争を忘れた人々は、唯逃げ惑うしか出来なかった。

最後の戦争を機に設立された平和維持軍も名ばかりの軍隊で、敵に対抗する事は出来なかった。

敵はこの世界の内側から現れた地下世界の者達。

彼等は無差別に破壊を繰り返した後、世界中に向けて宣戦布告を行った。彼等の目的は地上世界の侵略。

人々は絶望した。

しかし、この状況下において絶望しない者たちがいた。レジスタンス。

彼等は地底人の攻撃によって敗退した軍に代わって立ち上がったのだ。

レジスタンスは自分達を独立部隊ロンドベルと名乗り地底人達に戦いを挑んだ。

彼等は厳しい闘いの中で、空中戦艦を運用した画期的な戦略を編み出した。

計画はすぐさま実行へと移された。それによって建造されたのが空中戦艦『クロガネ』。

『テスラドライブ』。古代人が残した英知を利用して作り出された航行用システムで、

重力制御と慣性質量の負担を軽くする事で、飛行を可能とした画期的な発明だ。

「艦長、いよいよですね」
「うむ」

クロガネでは艦の最後の点検作業が行われていた。出撃を控えた艦のブリッジにて、士官の青年が初老の男に声を掛けた。

「艦の状態はどうか?」

艦長が、すぐ下の『石英パネル』で作業を行っているオペレーターに問う。

「乗員の乗り込みは完了していますが、物資の方は70パーセントといったところです」
「急がせろ」
「りょ、了解しました」
「クロガネの方はどうか?」
「はい。いつでも発進できます」
「よし」

その時だった。

「ぬうっ!?」
「きゃああああ!」
「うわあっ」

轟音と共にクロガネが大きく揺れた。艦全体がグラグラと地震のように揺れる。立っている物は体制を崩し倒れる。

「何事だ」

「せ、石英レーダーに感あり!て、敵です!」
「くそ!とうとう嗅ぎつけられたか!」
「左舷九時の方向より敵多数……何この数!?」

「艦長!」

士官の青年が焦ったような声を出した。

「総員、第二種戦闘配備!少し早くなったが、これより我等はクロガネを発進させる!」
「しかし艦長!まだ積み込み作業は完了していません!」
「構わん。発進が最優先だ!」

「…復唱はどうした?」
「くっ!総員、第二種戦闘配備!くりかえす!」

艦長は迷いのない強い声で命令を下した。副官らしい青年は長の命を復唱し、艦全体にそれを伝える。

艦全体に警報が鳴り響き、乗員達が慌しく動き出した。

「メインエンジン点火!」
「メインエンジン点火!」

「了解!出力安定、20…、35…50…」

「ゴゥレム部隊、配置に着きました。いつでも出られます!」
「よし、そのまま待機だ」

「75パーセント…、100パーセント!艦長!」
「うむ、クロガネ発進!」

メインゲートが開き、クロガネの巨大な船体が外の世界へと現れた。

クロガネの前方には多くの虫型ロボット、『バグス』が空を舞っており、すぐ近くまで押し寄せてきていた。

「ゴゥレム部隊には空中戦は出来んか…。『グルンガスト』を発進させろ!」

「えぇ!?しかし艦長!あれはまだ機動実験もしていないのですよ!?」
「かまわん。いずれ行わなければならんのだ。その前倒しをさせてもらう」
「危険すぎます!」
「この程度の事態を切り抜ける事が出来なければ地底人には勝てん!」
「艦長!」

「―構わない。出撃させてくれ」

艦長の決定に食い下がる副官に声が掛かった。モニターには一人の青年の姿が映ったいる。

「ゼンガー一等空騎士」
「艦長の言うとおりだ。この程度の戦いを切り抜ける事が出来ないようなら、俺たちが立ち上がった意味など無い」

「いけるな?」
「無論です」

ゼンガーの強い視線に艦長が頷いた。


ゼンガーの乗るグルンガストはこれまでのゴゥレムとは全く違う古代人の技術で作り出されたものだ。

その為、クロガネに搭載されているテスラドライブも装備されており、空中戦が可能だ。

ゼンガーはグルンガストを操作して、その足をカタパルトの上に乗せた。

発進口が開き、通路に明かりが灯っていく。

「カタパルトオンライン、グルンガスト発進どうぞ」

オペレーターの女性が発進を促す。

「ゼンガー・ゾンボルド、グルンガスト、出る!」

ゼンガーの駆るグルンガストはその巨体に似合わないほどのスピードで加速し、大空へと躍り出た。

出撃したゼンガーの視界に映ったのはどこまでも続く青空とそれを背にしてこちらへ向かってくるバグスの群れだった。

敵は既にこちらを補足しているらしく、クロガネへと攻撃に移ろうとしていた。

「させん!!」

ゼンガーはグルンガストを、クロガネとバグスとの間に割り込むように機体を滑り込ませた。

マニピュレーターをバグスの群れに向けると、指先が開いた。

「くらえ!!」

グルンガストの指先から、無数の弾丸が放たれバグスの群れを貫いていく。バグスは突然の攻撃に対応する為に散開した。

艦から離れていく。

「逃さん!ハイパーブラスター!!!」

グルンガストの胸部から紅蓮の閃光が放たれた。重力場をよって仮想の砲身を構築して発射する熱線放射だ。

それは左右に散開したバグスの片方、左舷のバグスの大半をなぎ払った。

「よし!クロガネ、主砲、副砲を発射だ!右舷の敵をなぎ払え!」
「了解!」

砲身から放たれた青白い閃光は、バグス達をなぎ払っていく。敵はますます散り散りになっていく。

グルンガストとクロガネの攻撃によってバグスの数は残り一桁になった。

しかし退却の様子はなく、旋回すると再び突撃してきた。

「バグス接近!」
「弾幕展開!回避!」

クロガネは回避運動を取りながら両弦に装備されている対空機関砲で迎撃する。しかしその攻撃を切り抜けたバグスが1機。

「バグス接近!駄目です!回避できません!」
「むうっ!」

その時だった。

ゼンガーの操るグルンガストがバグスの前に立塞がった。

グルンガストは手を背中に回すと、そこに取り付けられている巨大な剣を引き抜くように振り下ろした。

『イーストシミター』によく似たその剣は零式斬艦刀だ。刀身が陽光が反射して輝いている。

「我はゼンガー、ゼンガー・ゾンボルド。悪を断つ剣なり!!!」

威風堂々と名乗りを上げた。ゼンガーの意思に従うようにグルンガストが剣を上段に構える。

そして―

「チェストォオオッ!!!」

振り下ろした。

振り下ろされた剣は、グルンガストの10分の1にも満たないその小さな的を正確に捉え、真二つに両断した。

「我に断てぬ物なし…」

斬られたバグスは爆発し、火を噴きながら墜ちていった。

それを見ていたクロガネも乗員達から歓声が上がった。

「よし!グルンガストを回収!直ちに進路を北へ向けろ!」
「了解!」

艦長は、クロガネを見事に護ったグルンガストの勇姿を見て満足そうに笑みを浮かべると、すぐに気持ちを切り替えて命令を下した。

この日、遂に始まったのだ。バグスを操り地上を侵略しようとする地底人との本格的な戦いが……。




「続く……かぁ」

ホズルは原稿用紙を下ろすと、満足そうに溜息をついた。

「なあライガット!続きはないのか!?」
「ああ、俺も続きが気になる」
「ライガット、ここのドリルを武器として使う描写だけど…」

「どうしてこうなった?」

この『小説』を執筆した俺は、続きを読ませろと詰め掛けてくる親友達を前にして天を仰いだ。

そのこんな風になった原因は―





「金がない」

季節は夏から秋。そして冬へと移ろい、無事に進級試験もパスした俺は切実な問題にぶつかった。

ぶっちゃけ金がないのだ。このままだと学費が払えなくなる。つまり俺は退学という形で此処を去らなければならない。

「どうしたものか」

親父は無理をして俺を士官学校に入れてくれた。確かに学園生活は楽しいし、此処に来て良かったと思う。

しかし断じて、楽しむ為に来たわけではない。そして親父に唯、負担を掛ける為だけに士官学校に入ったわけじゃない。

魔力だ。魔力に目覚める為に此処に此処まできたのだ。入学して2年。そしてもうすぐ3年目だ。

今の俺には、この学園に入学した時の魔力に対する期待感はない。なんとなく分かっているのだ。

この先も俺はずっと無能者のままなのだと……。

だが不思議と悲しくはなかった。いや、不思議ではない。魔力のないという事実から来る虚無感は仲間達が埋めてくれたのだから。

だからこそ思う。このまま退学したくないと。そのためには一にも二にも金が必要なのだ。

しかしこの世界において魔力のない俺が普通の方法で収入など得られるわけがない。いや普通の方法が出来ないのだ。

しかし普通ではない方法ならどうだろう?例えば―

古代文字の解読。英語は無理だが日本語なら何とかなりそうだ。うまくすると短い時間で大金を得られるかもしれない。

「いや、駄目だ」

古代文字でお金を稼ぐ。確かに学費をお稼ぐくらい、いや借金もいっしょに返す事が出来るかもしれない。

しかし、古代文字の知識を売るにあたって問題が二つある。

一つ目は、まず俺自身は無能者の落ちこぼれだという事実。周りの人間の俺に対する評価もそうだろう。

そんな俺の言葉を、一体誰が信じてくれるというのか?

俺の提供した古代文字の知識が正しいという裏づけを取るのにも時間が掛かる。最悪相手にしてもらえないかもしれない。

二つ目だが、今俺のいる場所がアッサム王国だという点だ。

中立国であり敵故国ではないにしろ異国に古代語の情報を与えてしまうのも問題があるように思える。

「どうしたもんかねー」

場所は校内にある施設、練武場だ。ここは軍学校。屯田学部の俺には縁のない場所だが、現在はゼスのクラスが此処を利用しているのだ。

俺は観客席の一つに腰を掛けて練武場を見下ろしていた。

いつもの事だが俺は今授業をさぼり、一人金策の為の方法を試行錯誤していた。それと気分転換の意味もあった。

俺の眼下では全長10メイルほどの鋼の巨人が5台ほど並んでおり、その正面に生徒達が整列している。

鉄の巨人の足元には教官らしき髭面の男が立っており、その男の正面に生徒が一人前へ出た。ゼスである。

ゼスが訓練教官と何やら言い争いをしている。どうやら『ゴゥレム』の操縦技術の事で言い争っているようだ。

魔動巨兵ゴゥレム。石英を通常の機械より多くの魔力と石英靭帯を必要とする戦闘用の人型兵器、ぶっちゃけロボットだ。

パイロットは魔動戦士と呼ばれ、ゴゥレム用のプレスガン(魔力で撃ち出す銃)を扱えるかどうかで高位と下位に別れる。

ゼスは誰もが認める天才魔動戦士だ。今回の訓練中も、他の生徒からそのことで褒められ、持て囃されていた。

本人が迷惑そうなのは別として。そして今日、生徒の一人がこんな事を行ったのだ。

「ゼス様はもしかすると、教官よりも強いのではないですか?」

余計なことを言ったものだ。俺はそう思う。そいつの安易な一言のせいでゼスはさぞかし迷惑を被ることだろう。

現に今、教官が遠巻きにゼスにゴゥレムでの決闘を挑んでいる。勿論、馬鹿正直に『決闘』などという言葉は使っていない。

「どうやら君は大変優秀な魔動戦士のようだな。どうだろう?その腕前をこの場で披露してはもらえないか?」

教官はいやらしい笑みを浮かべながら髭を弄っている。

「そうだ。模擬戦なんてどうかね?それほど自分の腕に自信があるのなら、直接私に見せてくれ」

ゼス自身が力を誇示したわけではない。しかし教官の眼にはそう写らなかったのだろう。そして周りの反応。

皆、これから始まるであろう模擬戦に盛り上がっている。戦いを避けられる雰囲気ではない。

「いつかはこうなると思っていたけど…」

俺は、当の本人を余所に眼下で盛り上がる生徒達を見ながら溜息をついた。はっきり言って時間の無駄だと思う。

俺はこの先の決着が既に見えていた。もちろんゼスの勝利という形で。

その根拠は、単純に力量の差だ。確かに相手は教官ということもあり、優秀な魔動戦士だろう。実戦だって経験しているはずだ。

教官のゴゥレムにプレスガンを装備している事から、高位の魔動戦士だろう。

しかしそれでも俺はゼスの勝利を確信していた。

まず一つ目。それは魔力の差だ。これは才能なので仕方がない。分かりやすく言えば、教官の魔力が100だとしよう。

それに対してゼスの魔力は倍以上はあるはずだ。そのせいで防御力や瞬発力、そして攻撃時の出力に差が生れてくる。

しかしそれだけなら実戦経験で埋めることも可能だろう。

だがゼスは自身のイメージをゴゥレムに伝え、イメージどおりの動きをトレースさせる能力が誰よりも優れていたのだ。

下ではもう模擬戦は始まっていた。

ゼスの操るゴゥレムは生身の時と大差ない滑らかかつスピーディーな機動で教官の操るゴゥレムを圧倒していた。

「勝ったな」
「ああ」

親友の勝利を確信したように呟いた俺の隣に、いつからいたのかホズルが同意した。

某アニメの司令と副司令みたいだとは思わないように。

「なんだ?ホズルもサボりか?」
「ああ、それよりも良い案は見つかったか?」
「いや」
「そうか…」

実はホズル達には学費の件で退学する事になるかもしれない事は伝えていた。

「なあ、ライガット」
「それ以上は言うな。前に言っただろ?」
「すまん」

じつは話をしたときに、ホズルが父王に頼み、学費を工面しようかと提案した。しかし俺はそれを断った。

「謝るなよ。友達(お前)から金を借りるわけにはいかねーんだ」
「ああ」
「それよりも決着がつくぞ」
「お?」

気を取り直して、下の戦いに目を向けると、ゼスの操るゴゥレムが教官のゴゥレムの胴体を切断する瞬間だった。

やれやれ、まるでアニメかゲームだな。ス○ロボでいうとリアル系だな。でも俺はどっちかっていうとスーパーロボットの方が…。

「ん?まてよ…」

これだ!

俺は勢いよく立ち上がった。

「どうしたライガット?」

ゲームやアニメの内容を小説にして売れば…?

ロボットは男の浪漫とは良く言ったものだ。実際、始めてこの世界にゴゥレムなるロボットがあると知った日には興奮したものだ。

ただ、無能者である自分にはどう頑張っても操縦する事が出来ないと知った時は、かなり落ち込んだが…。

早速行動開始だ!

「ホズル!」
「な、なんだ?」
「何とかなるかもしれねー」
「何が」
「金だよ!学費だ!」
「ほ、本当か!?」
「ああ!」

俺の言葉に驚いたような、そして嬉しそうな顔をするホズル。

「じゃあなホズル!後で少し手伝ってもらう事になると思う」
「ああ、その時は遠慮なく言ってくれ」

うれしい事を言ってくれる。

俺はホズルの心遣いに感謝しながら街に向かって走り出した。まずは準備からだ。

「まずはプロットからだな」

道具は無駄には出来ない。俺が購入したのは万年筆とインク、そして原稿用紙だ。

前世の世界で使われていた様な上質な物ではないが、この場合は充分な物のはず。

まあ金銭についてはかなり無理をしたが。

これで、ますます失敗は出来なくなった。それにこれから暫らくの間、食事は一日一食だけだ。

食費まで削って立てた計画だ。頑張らないと。

そうして俺は前世の世界で体験したゲームや漫画の知識を思い出しながら、執筆作業を開始したのであった。

そして部屋に篭る事、約2ヶ月。作品は遂に完成し、友人達に試し読みをしてもらっていた。





「ライガット、続きは?」
「気になるな」
「続きはまだだ」
「この扉絵というのはかなり良いアイデアだと思うぞ?文字だけでは飽きが来るからな」

このように概ね好評だ。

だけど―

「あのさ、客観的に見て、売れると思うか?」

「思う」
「ああ、こういった本は初めてで珍しいからな」
「確かに読書に娯楽が見出せるとは思わなかった」

気休めだとしても嬉しい。話の内容は自分が考えた物ではないが、それでも褒められて悪い気はしない。

スーパーロボットは男の浪漫だ。

それはこの世界でも、少なくとも親友達には共通のようだ。その事が分かっただけでもかなり嬉しい。

明日はこれを出版社にもって行かなければならない。

「頼むぞ」

俺は原稿を封筒にしまうと、願掛けでもするように額を当てて眼を瞑った。














続く。


トッシーです。
たくさんの感想をありがとうございます。
私はリアル系とスーパー系、どちらかというとスーパー系です。
スーパーロボットにはリアル系にはない強いインパクトがありますよね~
ロケットパンチにドリルに合体攻撃!
わたしはリアル系のドッキングとは全くの別物だと思っております。

やばい熱くなりすぎた。

今回の話、あまりに不評ならチェスや将棋で儲ける話に書き直します。



[19717] 【習作】【ネタ】ブレイクブレイドの世界に転生(原作知識なし)
Name: トッシー◆0d2e6a6a ID:76f9e6b2
Date: 2010/06/29 00:26
今回はかなりグダグダでネタに走ります。
スイマセン。

修正しました。










ブレイクブレイド転生記

「プロローグ6」

「これは…そんな、馬鹿な…」

俺は目の前で静かに佇んでいる白き巨人を前に唖然としていた。

「先月、この石英採掘場から掘り起こされた」

ホズルは目の前の巨人を撫でながら言った。推定千年前の物だとか。ホズルの解説は殆ど俺の耳には届いていなかった。

何故なら目の前の巨人には見覚えがあったからだ。

全長約20メートル。頭から足まで殆どが基本的に白色。そして特徴的なヒゲ。間違いない目の前の機体はゴゥレムなどではない。

「∀ガンダム」

「おい?ライガット?」

俺はふらふらとした足取りで、ホワイトドールの足元まで歩み寄った。もしもアニメ通りならばあるはずだ。

「あった」

俺はスイッチを押した。

すると、腰前部のコックピットが降りてきて、乗りやすい位置で留まった。

「これは!?」

ホズルは驚いたように走り寄ってきた。

「動くのか?こいつ」

俺が乗り込もうとしたその時だった。

「うわっ!!」
「ライガット!!」

採掘場全体が揺れた。凄まじい轟音と共に天井が、壁が、自分が揺れ、パラパラと砂が崩れ落ちた。

情けない事に俺は、採掘場の下の層に落ちそうになってしまう。

「大丈夫ですか!陛下!!」
「俺はいい!それよりライガットを助けてくれ!」

ホズルが俺を助けるように兵士達に頼んでいる。しかしそれどころではないようだ。採掘場がまた揺れ始めたのだ。

兵士達もそれに気づいたのか、ホズルを移動させようと説得を始める。このままだと俺を助けない限りアイツは動かない。

ホズルは心配そうにこちらを見た。

「行けよ!俺の事はいいって!そんなに柔じゃない!お前は王なんだぞ!?」

「ささっ!陛下!」
「頑張れよ!すぐに助けに来る!」

さらに兵士達がホズルを急かした。ホズルは俺の方をもう一度見ると、こくりと頷き、その場を後にした。

「さて、と」

どうやらのんびりしている時間はなさそうだ。コイツが俺の想像通りの代物なら魔力で動く訳がない。

俺は力を込めてその場からよじ登ると、コックピットに乗り込んだ。シートに身体が固定されてピッタリと其処に収まった。

次にパネルを操作してコックピットを元の位置に戻して固定させる。自分でも驚くほど冷静に行う事ができた。

パネルに表示されている文字も、怪しいがなんとなく分かる。

モニターに機体の状態が表示される。

嘘だろう?完全な状態じゃないか!月光蝶も使用可能ってどれだけだよ!

使える武器というか使ってよいものは、ビームライフルとビームサーベルか…。

「ライフルは駄目だ。直撃させたら完全に蒸発する」

画面越しとはいえ、前世では、∀の放つビームライフルの威力を見ている。こんな物を使えばかなり拙い事になる。

正直めちゃくちゃ怖い。ゴゥレムに対して憧れを抱いていた。ロボットは男の浪漫。だからこそ小説も書いた。

自分もゴゥレムに乗れたらと考えたこともある。

しかしゴゥレムと∀の性能差を考えれば、戦いにすらならない。唯の虐め、虐殺にもなりかねない。

更に採掘場が揺れた。

「なんだ!?熱源?敵が来たのか!まさか、ゼス!?」

レーダーが熱源を感知したらしい。すぐ近くに1体。少し離れたところに3体。この反応は大型の人型兵器。

「間違いない。連邦が攻めてきたんだ…く!ホズル!」

俺は∀を操作して、その場から飛び上がった。

「うおおおおおおっ!!!」

機体は空高く舞い上がり、太陽を背にするとそのままドスンと大地に降り立った。目の前には既にアテネスのゴゥレムが銃を構えていた。

「ライガット?ライガットなのか?」

集音性が高いのか外の声を難なく拾うことが出来る。

どうやら危機一髪だったようだ。どうやらいま一歩のところで、ホズルは敵の手に墜ちる所だったようだ。

『クリシュナの新型…!?今何メイル跳ねたんだ!?』

「げ!?目の前じゃねーか!?」

まさか敵の目の前に落ちるとは思わなかった。俺の焦りが操縦に伝わったのか、∀は少し慌てたように後ずさった。

『お前面白いヤツ!だけど死ね!!』

連邦の魔動戦士はそう言い放つと、銃口をこちらに向けて引き金を引いた。連続して弾が発射され、∀に殺到する。

しかし―

『何だと!?』

∀を光が放ち機体の前方に展開、全ての弾丸を無効化してしまう。

「これは…Iフィールドか!?」

歴代のガンダム作品の物とは違い、実弾、衝撃波にも対応した防御障壁は正常に作動し、敵の攻撃を無力化した。

『そんな!?いや、対人用の弾だからだ!でなければ!』

敵のゴゥレムからは焦ったような声が聞こえてくる。だが残念だったな。対人用だろうが、なんだろうが意味は無い。

なにせこいつはコロニーレーザーさえ防ぎきることが出来るらしいからな。

「これなら!」

俺はスラスターの出力を上げて跳んだ。

機体を制御して飛行を開始すと同時に、シールドからビームライフルを引き抜いた。

「当たるなよ。絶対に当たるな。頼むぞ」

巧くいけば、ライフルの威力に怯えて撤退するかもしれない。

「いけ!」

放たれたビームは雨のように降り注ぎ、轟音をたてて地面を抉っていく。岩山が削れ蒸発し地面には大きなクレーターが出来る。

「なんだと!?」
「そんな!」

『うわあああああああ!!』

ビームライフルのあまりの威力に戦場にいる者たちは唖然としてしまう。常識を超えていたのだ。

アテネスのゴゥレムは破損はしていないものの、その場で停止して動かない。どうやら正気を保っていないようだった。

「今だ!」

俺はビームサーベルを引き抜くと、ゴゥレムに肉迫。

ライフルによる攻撃で、表記を失っている敵は、真上からの強襲に反応できない。

ピンク色の閃光が煌き、ゴゥレムの四肢は切断された。ズゥン!という音を立ててゴゥレムは大地に倒れた。

「ふう」

「ライガット!」

敵を倒して一息ついたところで、ホズルが駆け寄ってきた。しかし戦闘はまだ終わっていない。

「ホズル!まだだ!」
「え!?」

敵はまだ3体残っていたはずだ。レーダーでそれを確認していた俺は、ホズルに来ないように伝える。

「まだ3体のゴゥレムがいる」
「わかるのか!?」
「ああ」

その時だった。レーダーに映っていた3体の内の一つが動いた。かなりの速さでこちらに向かってくる。

「来た!ホズル!」
「分かった!気をつけろライガット!」

向かってきたのは黄色のゴゥレム。左手にシールド、右手にはブレスガンを装備している。

滑らかな機動でまっすぐこちらに向かってくる。相手は盾で身体半分を隠し、銃口をこちらに向けている。

俺はライフルを構えると、敵ゴゥレムの足元に銃口を向けると引き金を引いた。桃色の閃光が放たれ、ゴゥレムの足元を抉る。

黄色のゴゥレムは咄嗟に後ろに跳んだ。

「待ってくれ!こっちにこれ以上戦う気はねー」

俺は外部スピーカーの音量を上げて呼びかけた。このまま戦うとしても相手を殺さずに済ませる自信はない。

『む!その声……まさか、お前なのかライガット!』

聞き間違えるはずはなかった。敵ゴゥレムから聞こえてきた声は、間違いなくゼスの声だった。

「ゼス?ゼスが乗っているのか!」
「馬鹿な…ライガット!貴様!どうやってゴゥレムを!」

「それよりも何の真似だよ!これは!どうしてだ!ゼス!」
「ライガット…」

俺の叫びにゼスは押し黙った。

まさかこんな風に再開するとは夢にも思わなかった。俺たちは2年の歳月を経て再会した。戦場という最悪な場所で…。









「変な夢…」





季節は移り春。

俺は仲間達と共に、無事に3回生に進級を果たすことが出来た。

あの小説が完成した後、俺はそれを書物の出版を行っている施設へと売り込んだ。そこ責任者は妙齢の女性だった。

前世の知識からリスペクトして執筆した小説。彼女はそれを読み終わると感動した様子で言った。

「素晴らしい物語ね!うちで出版する価値は充分だわ!」

その言葉に少し罪悪感を覚える。友人が褒めくれた時もそうだったが、別に自分が一から考えた物語ではないから。

俺に前世の知識があると知っているシギュンは感づいていたようだったが…。

契約は思った以上に、とんとん拍子に進み直ぐに小説『スーパーゴゥレム大戦』は発売される事になった。

ちなみにペンネームは『サンライズ・ライガット』だ。もちろんこれもパクリ。

本は直ぐにアッサムの書店や図書館に置かれることになり、多くの人たちに絶賛された。

主に士官学校に通う少年少女や貴族に飛ぶように売れた。

俺はあっという間に半年分の学費を稼ぐ事に成功したのであった。しかも追加注文が殺到しているらしい。

そして俺は新たに儲けるために兼ねてより暖めていた計画を発動する事にした。

名付けて、『キャラクターグッズを作って売り出そう大作戦』と『子供向けの絵本大作戦』だ。

実のところ俺はかなり手先が器用だ。絵心もそれなりにあるし、魔力がない分こういった事に才能が開花したのか?

とにかく今、一番必要な能力があることは本当にありがたい。

魔力がない人生も悪くない。最近そう思いながら、俺は作品制作を開始した。

そして小説2巻が完成し、キャラクターグッズや絵本も完成した。

グッズはインパクト充分のスーパーロボットのイラストとフィギュアだ。そのうち女性キャラのフィギュアもと考えている。

カットインで乳揺れする様なキャラのフィギュア。間違いなく売れそう。この世界に燃えや萌えが生れなければいいが…。

絵本の方は『森の熊さん』や『白雪姫』などの童話をリスペクトしてみた。





「大成功だ」
「俺も驚いているよ、売れるとは思っていたが、ここまでとは」

まさに片手うちわ状態。

俺たちが作業をしている場所は、学校の敷地内にある研究室だ。

シギュンもよく利用する為、最近ではそこが俺達のたまり場でもある。

俺は机の上に積み上げられた札束の山を前に金勘定をしていた。これだけあれば間違いなく学費が払える。

そして借金を全額返済するのも時間の問題だ。

「それでどうなの?」
「これだけあれば学費は余裕だよ。それに借金の方も近い内に…」

シギュンの問いに安心させるように応えると、彼女は嬉しそうに微笑んで、先ほどまで読んでいた本に眼を落とした。

「それにしても良く頑張ったな。ライガット。俺にはとても真似出来そうにない」

ホズルも感心したように言った。

「何言ってんだよ、俺一人じゃここまでの事は無理だった。お前等が手伝ってくれたおかげだよ」
「ははは…、そう言ってもらえると俺もうれしい」

「それより、これからはどうするんだ?」

ずっと黙り込んでいたゼスが口を開いた。

「何が」
「お前はこれからも執筆作業を続けるのか?」
「勿論だ。学費の心配は無くなったけど、まだ2巻までしか書いてないんだ。当然最後まで書くよ」

そう、まだまだ終わりではない。少なくとも第三次αまでは続けるつもりだ。

今では書くことが楽しくなってきたし、何よりも―

「見ろよ。机の上の手紙の山」
「む?」

俺の前の机の上には大金が詰まれており、そしてその横には大量の手紙が置かれていたのであった。

つい先日届いた物だ。何通か開いてみたが、その全てが応援や励ましといった内容が書かれていたのだ。

「読者の期待は裏切れない」
「確かに。俺も続けて欲しいと思うよ」
「そうね」

読者たちの声をそうだが、こいつ等の言葉が一番嬉しい。もう農民に戻らずにこのまま作家としてやっていくのも良いかもしれない。

「じゃあ、これからも手伝ってくれるか?」

ゼスは渋々だったが、本気で嫌だというわけではなかったのだろう。

卒業するまでの期間ならば、という事で皆が手伝ってくれる事になった。





俺達の学校生活に作家活動が入ってから暫らくの時が流れた。

今日は以前から思っていた疑問を解いてみようと思う。これは唯の好奇心から来るだけのものではなく単純に友人として…。

そう、友人として気になったのだ。ホズルとゼスの間で偶に、いや結構頻繁に起こる喧嘩を…。

その日、偶々、屯田学部の授業が長引いてしまい、俺は遅れてたまり場である研究室に顔を出した。

「よおゼス…っておい!」

無表情のゼスは俺の挨拶を無視して、研究室から出て行った。

「今回はどうしたんだ?ホズル……」
「すまん。ライガット」
「すまん、じゃねーだろ!今度の原因は何だ?」

俺が問いただしても、ホズルは自嘲じみた笑みを浮かべるだけ。いつも通りだった。

「冷やかされたらしいのよ。同じ学部の生徒達に」
「シギュン!?」

その場にいたシギュンが本から視線を離さずに静かに口を開いた。ホズルはバツが悪そうに目を逸らした。

以前からよく起こっていた事だった。

一国の皇太子がアッサム士官学校に入学してきたのである。当然の如く、周りから関心は集まる。

しかし当の本人は、全く真面目に授業を受けない。そればかりか、いつの間にか学校の問題児の一人として数えられるようになった。

いつかホズルは言っていた。

「自分は国王になどなりたくはない」「世襲制など下らない」良くそう言っていた。

ホズルは祖国の行く末を案じると共に、皇子という立場に生まれてしまった事に自分なりに思うところがあるのだろう。

俺達の祖国、クリシュナは身分制度が徹底された国である。

国民は生れた時から身分により差別化されており、将来好きな仕事にも、好いた相手とも一緒になることは難しい。

俺も作家になろうとは考えたものの帰国してしまうと、それが難しいだろう。

ホズルはそんな在り方の祖国を将来、担って行かなければならない事をいつも思い悩んでいるのかもしれない。

そしてホズルはどこか達観したところがある。自分が国王になるのは決まった運命なのだと。どこか諦めてしまっているのだ。

だからこそ生徒達の心無い暴言に対しても強く言い返す事はなかったのだろう。

おそらくゼスは友人のその態度に腹を据えかねたのだろう。

そしてゼスもまた祖国の家族の事で思い悩んでいる節がある。いや間違いなく悩んでいるのだ。

ゼスとホズルはどこか似ているような気がする。俺はそう思った。





「ライガット!」

その日の放課後の事だった。二人は仲直りをする事無く気まずい空気のままだ。そして遂に恐れいたことが起こった。

シギュンが珍しく血相を変えた表情でやってきた。

彼女はいつも無表情で感情を表に出さないので、その様子から唯事ではない事なのが直ぐに分かった。

「どうした?」
「ホズルとゼスが!」

俺は彼女に急かされてその場に向かった。辿り着いた先は練武場。二人は殺気をむき出しにして殴り合っていた。

「おい!止めろ二人とも!」

俺は二人の間に割って入り、強引に引き剥がした。

「くっ!ライガット!?」
「はなせっ!」

「何やってんだ、二人とも。お前等が喧嘩なんて珍しくねーがこれはやりすぎだ。何があった?」

俺は二人の顔を交互に見て喧嘩の原因を問うた。しかし二人とも黙して騙らない。沈黙が流れる。

「お前等が喧嘩するのは珍しくねーが、毎回それを止める俺の身にもなれよな」

「すまん、ライガット」
「や、別にいいけどな」
「ふん、興が逸れた」

俺に対して謝るホズルと詰まらなそうに背を向けて去っていくゼス。マジで勘弁してほしい。

「おつかれさま」
「まあ、いつもの事さ」

少し遅れてきたシギュンがいつもの言葉を掛ける。そう、『いつも』の、ね。

「そういえば毎度の事、こいつらは何で喧嘩するんだ?」

そういえば、いつも俺が割り込んで直ぐに喧嘩は終わる為に本当の理由を俺は知らない。

男なんて下らない理由で喧嘩をするのが当たり前だ。だからこそ俺は今まで、詳しい訳を聞いた事はなかったのだ。

俺は遂、昨日見た夢を思い出してしまう。

クリシュナとアテネスとの両国の間で戦争が起き、俺たちが再開するのは戦場……。

「そうだよ。あれは唯の夢だ」

俺は不安を振り払うと、小さくため息をついた。














あとがき

ライガットの夢の通り本当に∀が出てくる訳じゃないです。
本当に出しません。
出せば無双すぎて面白くないですしね~
唯の夢です。

本当はゼスをゴゥレムごとビームライフルで蒸発させる所を書いていたんですが、ゼスを残酷に殺すのはイヤだったので再開したところで終わりにしました。

それでは次回に会いましょう。



[19717] ブレイクブレイドは暫らくお休みします。
Name: トッシー◆0d2e6a6a ID:76f9e6b2
Date: 2010/07/09 23:09
ライガット・アロー

プロローグ1
五歳~十歳
この世界に転生して5年目、この世界の人間なら当たり前のように持っている魔力が自分にはない事を知り自棄になるが、父親の励ましによって立ち直った。
弟のレガッツとは十歳の歳の差がある。

プロローグ2
十五歳
父親の勧めで中立国にある士官学校に入学。
そこで後に親友になるゼスとホズルとシギュンとの邂逅を果たす。
ちなみに学部は金さえ払えば誰でも入れる屯田学部。

プロローグ3
十六歳
来年には前世と同じ年齢になる。
生れてはじめての友人が出来る。
名前はゼス。アテネス連邦のVIP。そしてそれに続くようにホズル、シギュンと仲間が増える。

プロローグ4
十六歳
仲間と共に学生生活を楽しんでいる。
友情に恋愛に大忙し。

プロローグ5  
17歳
このままでは学費を払えなくなるのを見越して小説を書き始める。
前世の記憶から漫画やアニメ、ゲームのネタをリスペクトしている。
これが売れれば卒業まで一直線。
この世界にはないが『あおげばとうとし』を練習中。

プロローグ6
18歳
最近よく喧嘩する二人の親友に頭を悩ませている。
仕事の方は順調で、女性キャラクターのフィギュアでも作ってみようかなー?とか考えている。




すいません。


プロット無しは無謀でした。

レガッツの年齢や学校の設定やら矛盾が生れてきました。

あの世界ってワイルドアームズみたいな荒野が延々と続いており、全然緑がないんですよね~

色々書きたかった事もありますが、まずはブレイクブレイドの世界を勉強しなおします。

かわりに昔書いていた物を載せます。










[19717] 【習作・ネタ】学園黙示録PSYREN(学園黙示録 highschool of the dead×PSYREN)
Name: トッシー◆0d2e6a6a ID:76f9e6b2
Date: 2010/07/09 23:17
前書き

黒羽アゲハを被ったオリ主です。
アゲハ好きな人は見ない事をお勧めします。
いやマジで。
原作に強い思い入れがない人やそういった事を気にしない人は見てやってください。














「プロローグ」事の発端なんてどうでもいいだろ?それよりも早く本編にいこう


俺の名前は黒羽アゲハ、十六歳。

私立高校に通う高校1年だ。現在進行形で俺は……。

「鼻血が止まらない」

俺の鼻腔からはだくだくと止めどなく鼻血が流れていく。オマケにひどい頭痛が襲ってきて気が狂いそうだ。

高校に入って初めての春休みのある日、急に得体の知れない頭痛が俺を襲った。

次に鼻の頭がツーンとしたかと思うと、生暖かい何かが鼻の下を伝った。

ポタポタと血が滴り落ち、床に血溜まりが出来る。その時、俺は下が絨毯でなくフローリングで良かったと本気で思った。

暫らくして鼻血は収まったものの気分は最悪だ。

コレが以前、「神様」とやらが言っていた能力の目覚めだとするのなら尚の事だ。

この平和な世界で特別な能力が何の役に立つというんだ?一体何の為に俺を漫画の世界に転生させたというのだ。

いや平和なのは今だけだ。それに理由は分かっている。

「くそ!何が『退屈しのぎ』だよ」

実は俺には前世の記憶がある。

ある日、普通に歩いていたら大型トラックが突っ込んできた。俺は避ける間もなくそのままトラックの餌食に…。

そして気がついたら目の前に神様を名乗るキチガイがいた。

そいつは、俺に能力を与え、ある世界に転生させると抜かしやがった。

俺は怒るのを通りこして呆れてしまった。神にではなく自分の馬鹿げた状況にだ。

まさか自分が二次創作物の主人公のような体験をするとは夢にも思わなかったからだ。

どんなに理不尽な事だろうと、相手は自分の運命を操って殺し、暇つぶしに異世界に転生させる神だ。

割り切るしかない。それに自分に何がしかの能力を与えてくれるのなら悪くないのかもしれない。

そんな訳で、あっさりと、いや無理矢理にでも納得した俺は、直ぐに能力を決めて転生を果たしたのであった。

まあ、その前に転生させる世界の説明や登場人物のことなどを聞いたりしたのだが…。

「まさかアイツ等が原作キャラってヤツとはねー」

俺はこの数年で友好関係を結んだ友人や教師を思い浮かべながら溜息をついた。

ここで俺の転生した世界について紹介しよう。

『学園黙示録 highschool of the dead』と呼ばれる漫画の世界だ。神が言うにはアニメ化もしたらしい。

転生する前に、漫画の方を見せてもらったが、エロくて怖かった。

ある日いきなり日常が崩れ、世界は生ける屍で溢れかえり阿鼻叫喚の地獄絵図。

そんな世界を主人公は仲間と生き延びる為に協力しながら奮闘していく。そんな話だったはずだ。

次に俺が貰った能力だが、それは超能力である。

超能力といっても色々なものがあるが、俺の超能力は、PYSRENという少年漫画に出てくるものだ。

それはPSI(サイ)と呼ばれるものだ。PSIは全脳細胞を瞬間的に活性化させる事によって発揮される思念の力だ。

今、俺を襲っている頭痛と鼻腔からの出血は能力の覚醒の始まりだ。

転生して十五年。何故こんなに遅く力が覚醒するのかというと、これも神の意図によるものだ。

学園黙示録の世界は未知の世界だ。なにせ<奴ら>が現れた原因がまだ分かっていないのだ。

もしこの世界で起こる事件の原因が分かっているのなら、俺は間違いなくその元を断とうとするだろう。

もし分かっていなくとも、超能力が使えれば、その原因を探ろうとするだろう。神は俺の意図を理解していた。

それ故に『原作』1年前に能力が目覚めるように設定していたのであった。

これなら原因を探り事件が起きる前に原作を破壊する事が出来ないし、PSIの訓練の期間も丁度いいらしい。





「本当にムカツク」

鼻血が完全に止まり、頭痛も嘘のように治まった。俺はベッドから這い出すと、さっそくPSIの訓練の用意を始めた。

まずは念の力で手を使わずに物体を動かすテレキネシスの訓練だ。用意するのはコーヒーとミルク。

コーヒーの中で五亡星を描く練習だ。俺はミルクを垂らすと、それに意識を向けて集中力を高めた。

目をつぶり頭の中で完成図をイメージする。俺の瞼の裏ではミルクはコーヒーの中で螺旋を描き、徐々に形を変えていく。

どのくらい時間が経っただろう?俺はゆっくりと目を開いた。

「これは…」

コーヒーの中に五亡星は描かれていなかった。いやミルクさえなかった。俺はコーヒーカップを手に取った。

すると、その下、テーブルには五亡星の形をした穴が開いており、床の上でミルクが見事に五亡星の形を描いていた。

「成功だ」

時計を見れば、既に3時間以上も経過していた。どうやらかなり集中していたようだ。

まさか一日目でここまで進むとは思わなかった。

だが問題はこれからだ。この世界は漫画のように超能力で戦うような強敵はいない。

PSYRENの主人公アゲハは訓練だけでなく強敵との戦いで大きく成長してきたのだ。

命懸けという危機的な状況と優れた指導者の存在が、アゲハと仲間達の急速な成長に繋がっていたはず。

しかし俺には優れた師匠も命懸けの戦いの機会も『原作』が始まらない限りない。

「とりあえず『バースト』と『ライズ』だけでも使いこなせるようにならないと」

PSYRENの世界のPSIは3種類の力で構成されている。

『破裂のバースト』『心波のトランス』『強化のライズ』の3つだ。

BURST(バースト)思念の力を物理的な破動に変えて外界へ放つ力。

手を触れずに物を動かす念動能力や火種を使わずに発火させる発火現象(パイロキネシス)などがある。

TRANCE(トランス)人間の精神に働きかける力。

テレパシーなどがこれに分類される。トランスの思念波は物体をすり抜ける為、バーストでないと防ぐ事はできない。

RISE(ライズ)身体能力を強化させる力。

五感、運動神経、反射神経を強化するライズを『SENSE(センス)』。

筋力、耐久力、自己治癒力を強化するライズを『STRENGTH(ストレングス)』と呼んで区別される。

他にも様々な応用技が存在するが、まずは生き残る為にもバーストとライズ、特にライズの能力の習得が不可欠だ。

「ライズの特訓は冴子さんにでも協力してもらうか」

俺は同じ高校に通うクールビューティーな先輩に思いを馳せて眠りについた。訓練で酷使した脳を休める為に……。














続くかもしれない


とりあえず最近増えてる学園黙示録で誤魔化してみました。
それにサイレンを混ぜたりなんかしてみたりして…。
「釣れるかな?」と思ったり思わなかったり…。




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