バッカーノ1710を読み終わった衝動ではじめました。 終わりは決めてますが、そこにたどり着くまではまだ未定です。 不死者も首なしライダーも吸血鬼もいるなら転生者が居ても……という考えから始まりました。 バッカーノ1705およびバッカーノ1710、デュラララのネタバレを含みます。ご注意ください。 文才はないですが、上手くなれたらなあと思っています。 矛盾などは出来るだけ出さないように気をつけますが、出てしまったら申し訳ありません。 バッカーノ1710の終り方で納得している場合、または成田良悟作品の二次創作を読みたくはないという方が読んだ場合不快な思いをなさるかもしれません。 注意書きは以上です。
これは、歪んだ歪んだ物語。 歪んだ恋の、物語。 193X年 アメリカ アルカトラズ島「ヒュ、ヒューイ・ラフォレット!?」 突然目の前の男が驚いたような顔をして自分を見ていたのにヒューイは気が付いた。 ――はて、いったい誰だったか……「なんでお前がここにいるんだ!?しかもそんな昔のままの姿で!ああああ!!まさか不老不死!?」「すいません、どなたでしたでしょうか、今まで多くの人に会ってきたのですが、ほとんど覚えていないもので」「覚えていない!?いい、いや、そりゃそうか、そのはずだ。俺の顔は前と同じだけど、名前が違う。すまん、忘れてくれ。それじゃあ俺はもう行くぜ」「ああ、待ってください。今思い出しました」 ――嘘だ。本当はこんな男まるで知らない。しかし、男の驚きようからこの男は何か私について知っているということはわかる。不老不死についてもだ。少し興味が出てきた。 この興味が、後のヒューイの人生を変えることになるのだが、そんなこと今のヒューイは当然知らない。「しかし、あの時は酷い事をしてくれましたね」 もちろんハッタリだ。しかし、その言葉を聴いた途端に男は膝から崩れ落ちた。「いいいいいや、すまん!!あの時は知らなかったんだ!!まさかあの劇のモデルが二人ともあの町にいただなんて!!知らずに書いたんだ!」――何を言っている?まさか、この男が言っているのは私と、俺とモニカの事か?しかも書いただと……?「劇作家・ジャンピエール・アッカルドは普通の人間だったはずです」「その通りさぁ!普通に死んだはずだった!!なのに気が付いたら赤ん坊になってたんだ!意味がわからない!!名前は前と違うのに顔は前のままだ!あの男が何時来るかと常に怯える毎日だったさ!!」「生まれ変わっていた……と?」 ――嘘の可能性もある、自分と同じ不老不死の可能性も。しかし、生まれ変わったのが本当なのだとしたら、何故モニカではなくこの男なのだろうか……「ここなら、ここなら安全だろう!ラブロの手は届かないはずなんだ……」「確かにここならあの男の手は届かないかもしれません……けれどあなたは残念ながらここで私と出会いました。聞きたい事もいくつかあります、少し話をしましょうか」 そう言ってヒューイは跪く男を見下ろした。 池袋に住む、仲睦まじい外国人夫婦。カンパネルラ夫妻。その一人娘の名は、モニカ。 モニカは非常に頭の良い、手のかからない娘だった。両親から沢山の愛情を掛けられて育ったモニカは、周りにも気づかれないように少しずつ歪んでいった。 モニカ・カンパネルラは前世の記憶を持っていた。いや、前世などという言い方を彼女は好まない。少し昔の、大切な人との大切な記憶だ。前世などという離れた言い方はしない。 赤ん坊になった当初は、まるで状況が理解できなかったモニカだったが、それでももう一度ヒューイに会えると神に感謝したほどだ。しかし、その認識は直ぐに改められる事になる。なぜなら、今モニカがいる時代は、ヒューイたちと過ごした時代からおよそ300年後だったからである。普通の人間が300年生きるはずがないと気が付いたモニカは、絶望の中ただ無気力な日々を送っていた。 だから、16歳だったある日、目的もなく歩いていたモニカの視線の先に、見知った顔が立っていたというのも本当に偶然だった。誰の関与もない、本当の偶然。 200X年 東京 秋葉原「エルマー!?」 モニカは、目の前に立っている親友そっくりの男に、驚きを隠しきれず声を出してしまった。それから気が付く、ここにエルマーがいるはずないと。 しかし、その認識は直ぐに書き換えられることになる。「……モニカ?」 モニカの顔はあの時と変わっていない、しいて言うなら少し幼いくらいの違いだろう。 ――気が付いた!?本物……そんな、まさか……「どうして、エルマーがここに?まさか私と同じように生まれ変わったの!?」「モニカ! えっと、ちょっと待って……生まれ変わった?」「……違うの?」「えっと、俺は不老不死なんだけど……うん、とりあえず笑おう!再会を記念して!!」 不老不死。エルマーの口から飛び出した言葉は、俄かには信じられないものだったけれども、しかし目の前に確かにエルマーはいるのだ、ならば信じるしかない。――それに、そんなことよりも今は彼の事だ。「ヒューイは!?ねえ、ヒューイは!!」「ヒューイもさ!今もどこかで生きてるよ!だから笑って笑って!!」 ――アハ、まさかこんなことになるなんてって思ったけれど。そっか、そっか、ヒューイにまた会えるんだ。 うつむきながら微笑んだモニカの瞳から、静かに雫があふれ出す。 自分が生まれ変わった事や、彼らが不老不死だった事など、不思議な事は色々とあったが、そんなことは今のモニカにはどうでもよかった。ただヒューイが生きていて、自分が生きていて、また会えることが嬉しかった。「……エルマー、それで、ヒューイは今どこに?」「今はどこかはわからないかな」「……」「ああ、ちょっと待ってごめんそんなに睨まないで」「心当たりは?」「聞いてどうするの?」「探しに行くの!」「オススメできないかなあ、今あいつの周りは敵だらけだから」「なら、なお更会いに行かなきゃ!」「いや、モニモニは不老不死じゃないからさ、これで再会して、もう一度目の前で死なれたりしたらきっと一生物のトラウマになるから」 事実、目の前でモニカに死なれてからヒューイは変わってしまった。「じゃあ私はどうすれば……」「とりあえず、俺が探しに行くよ、だからあいつが安心できるところをしっかり作っておいて欲しいな」「それは……お願いしてもいいの?」「いいよ、モニモニに会えば、きっとヒューイも最高の笑顔を見せてくれる。俺はそれが見たいんだ」「そっか、わかった」「うん、じゃあ行くよ」「うん。ああそうだ、ねえエルマー」「ん?」「今『仮面職人』ってどうなってるの?」「ちゃんとあるよ、組織としてね」「ならボスに会ったら言っておいて、少しお借りしますって」「変なの、もともとモニモニのなのに」「そうかな? じゃあ、私は池袋にいるから」「池袋?」「そう、今の両親が池袋なの」「ああ、生まれ変わったって言ってたね」「そういうこと。あと、今の私の本名はモニカだから。マリベルじゃなくて、最初からモニカ」 そうしてお互いそのまま離れた。話したいこともまだまだあったが、それはヒューイを見つけてからだ。 二人とも、振り返ることなく目的地へと歩いていった。 同日 池袋 夜、モニカは一人、部屋の中でじっとしていた。 ――役に立つときが、来ちゃった。 手に持った仮面を見ながら、ゆっくりと深呼吸する。 ――まずは下準備からだね、ゆっくりと確実に、この街に浸透していくように、浸食していくように。 ――焦ったら駄目なんだ。昔聞いた方法を使うときが来たんだ。 ――この街を、ヒューイの住みやすい街にしなくちゃ。 ――ヒューイの敵がいない街に。 ――……また会おうって言ったから。「ふう」 マントを羽織り、仮面をつける。ゆっくりと昔に戻っていく感覚。「ずいぶんと久しぶりだ。しかし、体が動いてくれれば良いのだが……」 再び生きる目的を手に入れて、仮面の中でモニカは微笑んだ。 池袋に、このとき誕生した組織は、ゆっくりと毒のように池袋に広がって、後に町全体を巻き込んだ騒動を起こしていくのだが、そのことは折原臨也もフェルメートも澱切陣内も、まだ知らないことだった。
モニカは、翌日から周りにも目を向けるようになった。当然、今まで見えてこなかったものも見えてくるようになるわけで…… 学校の授業が終了した後、街に出てとりあえず情報を集めようとした。昼はモニカとしてただ街を見て回るだけ、夜は『仮面職人』として活動する。そのためには、この街について良く知らなければならない。 いつでも賑わっているこの街は、ロットヴァレンティーノ市に比べて騒がしい。時代も違うので当然なのかもしれないが、それでも一抹の不安を感じざるを得なかった。 ――こんなに多くの人が居る……この中にどれだけ信用できる人間がいるんだろう。 何もモニカは街の人々を全て支配化に置きたいわけではない。ただヒューイに害がないようにしたいだけなのだ。けれど簡単ではないのかもしれない、先が見えない、自分の考えるままに行なっていって、何とかなるのだろうか…… ――それでも、他のやり方なんて知らない。 問題は山積だ。しかし、一つずつ確実に潰していくしかない。やる事は、『仮面職人』としてロットヴァレンティーノで少女たちを利用したときと同じように。 何となく今までこの街で生きてきて解ったことは、非常に無気力な人がいるという事だ。希望を見出せないのか、疲れているのか、つまらないのか。少し失敗したくらいで死ぬような人が増えている、らしい。 ――なら、そういった死んでいるような奴らを使う。そうやって、まずは勢力の拡大と、この街の情報の収集。 信頼できる『仮面職人』メンバーを作る。偽金を使い資金を使って、また新たな合法薬を生み出して。奇しくも、その方法は、昔ヒューイがモニカを助け出すために『仮面職人』を作り出した方法と同じだった。ただ、想定外だったことは、この街には他にも様々な組織が存在していた事と、技術が進化していたので、三百年前の方法では、偽金だと暴かれてしまうということ。そして池袋には一筋縄にいかない奴らが多すぎた事。 ふと前方の人集りに、クラスメイトの少女が金髪の美女と話している姿が見えた。モニカは彼女の名前も知らなかったが、何かに驚いたような、興奮したような表情をしているのが気になって、声を掛けた。「何かあったの?」「あっ!?モニカちゃん! えっとね、えっとね!見ちゃったの!」 少女は実に気さくな性格らしい。たぶん初めての会話であろう、しかし彼女はモニカに対して壁を感じさせなかった。「有名な人?」「もうすっごく有名!でももしかしたらモニカちゃんはこういうの知らないかもしれないね」 ――有名な俳優か何かかな…… もっとも、モニカは俳優やアイドルは一人も知らないのだが。「うん……たぶんわからないかな」「もったいないなあ、私始めて見たからもうすっごく興奮しちゃって!」 少女は横にいる女性と盛り上がっている。「もうほんっとうにすごかったんだよ!!」と美女も大きな声で言っている。「うん!」「ねえ、そちらの女性は?」 モニカは、クラスメイトに横に立っている金髪の美女について尋ねた。「えっと、誰だろう。わからないけど、良い人よ!」 彼女は横の美女にを見た。 美女は笑いながらモニカに言う。「この子はね!すっごく良い子なの!見ず知らずの私にも、さっきの事を教えてくれて!」 満開の笑顔で言う。 ――エルマーが見たら喜びそうな笑顔。 と、そのとき美女のポケットからピピピピと電子的な音が聞こえてきた。ポケットから彼女が取り出したのは、携帯電話だった。「あっ!?もう行かなくちゃ! ありがとう!またね!」 そう言って彼女は手を振りながら走り去っていった。「あの人……携帯電話が折り畳みじゃない!あんな携帯電話まだ使っている人いるんだー」 実際あのタイプの携帯電話を使っている人はなかなか探してもいないであろう、というほどに古いものだった。 モニカにいたっては携帯電話を持っていないのだが…… ――この先、携帯電話って必要かしら。 ふと、モニカは最初に話しかけた理由を思い出した。「……そういえば、何にあんなに興奮してたの?」 その言葉に興奮を思い出したかのように彼女は再び語り始めた。「それがね、それがね!見ちゃったの!もうちょっとした話題にもなってるんだよ!都市伝説って!」「……都市伝説?」「うん!そう、黒バイクって呼ばれてるんだよ!!」 『仮面職人』のメンバーが泊まっているホテルの一室にて。 エルマーは、現在の『仮面職人』の代表、金髪の少年。ルーキーことルキノ・B・カンパネルラに昨日の事をどう説明するべきか悩もうとして、止めた。「信じないと思うけど、一応報告はしておくよ」「なんですかいきなり、まあ、信じないとは思いますけれど、一応報告は聞きますよ」 突然エルマーの放った言葉に、怪訝な顔をしながらルーキーは答える。「生まれ変わりってあると思う?」「……い、いえ、どうなんでしょうね。不死者がいるのならば、居ても不思議じゃないですけど……」 唐突な内容に、少し答えに困ったルーキーであった。「そっか、よかった」「それが報告ですか?」「いや、モニカに会ったよっていうのが報告」「……はあ?」 エルマーの発言は、だいたいいつもルーキーを混乱させる。 ――こんな冗談で笑うと思っているのか?「さすがに、笑えない冗談です」「納得できない?」「……当たり前でしょう」「ならば、実際に会ってみればよかろう?」「……エイジング、居たのか」 エイジング、ルーキーことルキノの部下、身長は2メートルを超えるほどに大きく、年齢は20代後半から30代前半といったところ。非常に鍛え抜かれた肉体を持っている、美女。 ルーキーに比べて圧倒的に背が高いエイジングがルーキーの後ろに立つと、まるで親子のように見える。 彼女は、ルーキーに近づいて、笑いながら言う。「クカカッ!何、心配するでない。もしも相手がへんなやつじゃったらワシの方で殺すさ」「それぐらい、自分で出来る」「カカッ!出来るのかのう!自分の祖先を名乗る人間を殺せるかの!」「いや、いやいやいやいや、殺されたら困るよ」 殺す方向へ話の流れが向かっている事に気が付いたエルマーは、笑いながら釘を刺す。「ふう、わかりました。とりあえず会ってみますよ」「よし!そうと決まればすぐ行こう!」「カカカッ!!池袋か!初めての場所じゃの!」「今すぐ行く気か!?」「速いほうがよくない?」「まだどんな人かわからないんですよ、もう少し話を聞かせてください」「緊張しておるのか?」「五月蝿いぞエイジング」「強がるな強がるな、おぬしはどこかでエルマーの言う事を信じておるのだろう?おぬしの家系はそのモニカという娘を非常に大事にしているようじゃったからのう」「モニコンかな」「嫌な言い方をするな!」 ルーキーはケラケラと笑うエルマーとカッカと笑うエイジングに挟まれながら、呆れたような諦めたような顔をしてた。 ――この二人の相手は、疲れる。 ――しかし、エルマーの話が本当だとしたら…… 馬鹿馬鹿しいと思う反面、まだ見ぬモニカに期待している自分がいることも確かだった。「ああ、モニカはルキノ君に結構似てたよ、まあ並んだら姉弟に見えるくらいには」「そうですか」「にやけておるのかのう?」「誰が!」「冗談じゃ、怒るな怒るな。カカッ!」 そう言って笑ったまま、エイジングは窓へ近づく。 そしてふと、先ほどまでふざけた顔をしていたエイジングが真面目な顔をして「池袋にはワシを楽しませる奴らはいるのかのう……」と微笑んだ。