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[16427] 【習作】 マブラヴ オルタネイティヴ~我は御剣なり~(現実→オリジナル主人公・チート気味)
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/07/10 09:59
初めまして、あぁ春が一番です。

マブラヴ・オルタネイティヴ 公式メカ設定資料集を読んで、興奮のあまりこんな物を書いてしまいました。

今回が初投稿になりますので、文章力にはあまり期待しないで下さい。

徐々に、改善していく予定ですが、皆様からご指導いただければ幸いです。

また、私としては故意に変更した設定以外は原作に準じる予定ですので、設定におかしな点があればご指摘下さい。


それと、ご感想・ご提案の返事を感想板に書き込むと、作者の投稿で感想板が溢れてしまう可能性がある事と、
しっかり検討する時間を設けるため、誠に恐縮ではありますが、ご感想・ご提案の返事は後書きで書かせていただきたいと思います。

ただし、ご感想・ご指摘への返事は後書きで書いても感想板を見ない人が楽しめないため、感想板に返信させていただいたいと思います。


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お知らせ10(2010/07/10)

今回は、ご指摘の有ったリーダー(・)の使い方の変更を行ないました。

具体的には、

「きゅ・急に起きる信綱が悪いのよ。」→「きゅ 急に起きる信綱が悪いのよ。」

リーダー(・)をスペースに変更し、リーダー(・)は不知火・弐型や不知火・吹雪
のような区切りとして使用する事にしました。


また、16話に主人公の呼びかけを止めようとする描写を少し追加いたしました。

注.
今回の微修正によって、話の流れに大きな影響は無いので、既に読んだことがある方は、改めて読む必要はありません。


お知らせ09(2010/06/22)

今回は、

篁 唯依さんの年齢、

20話の一部分、

を修正いたしました。


篁 唯依さんの年齢は、XFJ計画の承認が2000年でしたが、
計画の開始が2001年であるため、2001年時点で19歳というのが正しい年齢だと思われます。
したがって、篁 さんは宗像 美冴さんと同世代という設定になりました。

20話は、感想板のご意見を読んだ後、改めて確認をしてみると、
佐々木 中尉の軽口に対する誤魔化しだけに用意した台詞が、
婚約を隠してハーレム化を狙っている主人公とも取れる表現になっている等、
余り上手い表現が出来ていませんでした。
主人公が始めからハーレムを狙っていると皆様に受け止められるのは、
私としても本意では有りませんので、各部分の台詞や表現を変更しました。
これで、一人に決められず結局二人に手を出す事にした駄目な男、
程度の見え方になってくれると思うのですが・・・。


注.
今回の修正で、20話の内容がそれなりに変わっています。
以前の内容に納得できなかった方やそうでない方も、ラストの部分だけでも確認していただけると幸いです。



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以下にこの作品の注意事項を書きます。


1.現実からマブラヴ・オルタネイティヴのオリジナルキャラクター(男)への転生物です。

2.主人公は、他作品のFate/stay nightの一部能力を保有するチートです。
  (ただし、魔術・宝具は出てきません。)

3.なるべく原作に沿う形の設定を行っていますが、記載の無い点は独自設定で埋めてあります。

4.原作開始前までに、いくつかの歴史改変を行います。

5.複数のオリジナルキャラクターが出現します。

6.オリジナルの戦術機・兵器が出現します。
  (ただし、原作から大きくかけ離れた超兵器は出現しません。)

7.主人公が原作キャラクター(最大で5~6名程度)と恋人関係になる可能性があります。

8.原作開始前後まで、ダイジェスト気味で話が進行します。

9.多分に原作のネタバレが含まれます。

10.作者はマブラヴ・エクストラ,マブラヴ・アンリミテッド,マブラヴ・サプリメント,マブラヴ・オルタネイティヴ,マブラヴ・オルタードフェイブルをプレイし、
マブラヴ・アンリミテッド マンガ版,マブラヴ・オルタネイティヴ マンガ版(01~04),マブラヴ・トータル・イクリプス(01~04)を読みましたが、その他の
サイドストーリーの知識はネット上に転がっている程度しか知りません。


以上の注意事項に問題があると感じた方は、この作品を読まないほうが幸せかもしれません。

注意事項に問題が無いと感じた方は、本編へ御進み下さい。



更新

2010/07/10 第21話 投稿,第16話・戦術機設定集 微修正,第03・04・07・08・11・14・15・17・19・20話 訂正
2010/06/22 第20話 修正,第19話 微修正
2010/06/21 第20話 投稿,戦術機設定集 訂正
2010/06/13 兵装・その他の装備設定集 投稿
2010/06/12 第14話・戦術機設定集 訂正
2010/06/06 第01~19話・戦術機設定集 微修正
2010/06/01 第19話 投稿,第06・07・10・11・13話 訂正
2010/05/23 戦術機設定集 投稿,第03・04・05・06・07・08・09・10・11・13・15・16・17・18話 訂正
2010/05/18 第16話 訂正
2010/05/17 第18話 投稿,第07・17話 微修正
2010/05/08 第03話 修正,第04・05・06・07・09・10・11・12・13・14・16・17話 訂正
2010/05/08 第17話 投稿
2010/05/02 第11話 訂正,第16話 訂正
2010/04/27 第16話 訂正
2010/04/26 第16話 投稿・訂正
2010/04/18 第15話 微修正
2010/04/14 第15話 訂正
2010/04/13 第15話 訂正
2010/04/12 第15話 投稿
2010/04/04 第14話 投稿,第12・13話訂正
2010/03/28 第13話 投稿,第11・12話訂正
2010/03/23 第12話 訂正
2010/03/21 第12話 投稿
2010/03/14 第11話 投稿,第11話 訂正
2010/03/08 プロローグ 微修正
2010/03/07 第10話 投稿,第09話 訂正
2010/03/06 第09話 投稿,プロローグ・第01・02・03・04・05・06・07・08話 微修正
2010/02/28 第08話 投稿
2010/02/27 プロローグ・第01・02・03・04・05・06・07話 修正
2010/02/21 第06・07話 投稿
2010/02/17 第05話 訂正
2010/02/14 第05話 投稿,第03・04話 訂正
2010/02/13 プロローグ・第01・02・03・04話 投稿



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お知らせ08(2010/06/13)

設定集の投稿ですので、投稿ageするつもりは無かったのですが、
ミスしてあげてしまいました。

来週は新話を投稿できると思いますので、それまでお待ち下さい。

すみませんでした。


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[16427] 戦術機設定集
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/07/10 09:25
戦術機設定集

私が、考えた設定を確認するためにまとめていた資料ですが、皆様にも公開したほうがより作品が分かり易くなると考えたため、
投稿することにしました。

設定が分からなくなった時の確認用としてご使用下さい。

また、話の進行よりも改定が遅れる場合があると思いますが、ご容赦下さい。

なお、記載されているのはオリジナル設定の部分だけですので、原作の設定はWikiなどでご確認下さい。




設定カバー話数:第01話~第21話


目次

1-1  F-4『ファントム』
1-2  F-4J/77式戦術歩行戦闘機『撃震』
1-3  F-4J改/82式戦術歩行戦闘機『瑞鶴』
1-4  F-4JF/98式戦術歩行攻撃機『鞍馬』
1-4-a 鞍馬 支援仕様
1-4-b 鞍馬 砲戦仕様
1-5  F-4JX『撃震・改(仮)』

2-1  F-15J/86式戦術歩行戦闘機『陽炎』

3-1  TSF-TYPE92/92式戦術歩行戦闘機『不知火』
3-1-a 不知火 強行偵察/支援偵察装備
3-1-b 不知火・改
3-2  TSF-TYPE96/96式戦術歩行戦闘機『不知火・壱型乙/不知火・斯衛軍仕様試験型』
3-3  不知火・弐型

4-1  TSF-TYPE93/93式戦術歩行戦闘機『吹雪』
4-1-a 吹雪・海軍仕様
4-1-b 吹雪・高等練習仕様
4-1-c 吹雪・改


登場機体

1-1
F-4『ファントム』(第1世代機)

1974年米軍に制式採用された人類初の戦術機。
1997年、開発元であったマクダエル・ドグラム社が御剣重工とボーニング社に買収された際、
既に米国での生産が終了し、米軍でも全機が退役しているため、ファントムのライセンスは御剣重工が所有する事になった。
また、未だにF-4を生産・運用している国も多くあるが、開発から30年以上が経過しているため特許切れの部分が多く、
御剣重工に大きな利益を生み出す可能性は低いと考えられている。
1998年からは生産拠点をオーストラリアに移し、主にアジアやアフリカ地域への供給を行っている。


1-2
F-4J/77式戦術歩行戦闘機『撃震』(第1世代機)

1977年に帝国軍で実戦配備が開始された、F-4 ファントムの日本向け改修機。
1998年時点で、撃震の生産は補修部品の生産がメインになっており主力量産機の座を吹雪に譲っているが、依然として帝国軍が保有する
戦術機全体の57%を占める主力戦術機である。
生産終了後も配備している機体に対して、装甲の軽量化・アビオニクスの刷新・小型可動兵装担架システム・対レーザー蒸散塗膜加工装甲の
導入などの近代化改修が行われている。
近代化改修によって第二世代機と同等の性能を確保する予定だったが、吹雪の制式採用で撃震へ配分される予算が削減されたため、
撃震のハード面からの改良が一部凍結される事になった。
その結果、近代化改修を受けた撃震は第二世代機に迫る性能に留まっている。
ただし、撃震の30%に導入されたEXAMシステムver.1により、一部の性能で第二世代機を上回る事になった。
今後は、拠点防衛などの後方任務で使用される事になっており、前線からは吹雪の配備と共に退役する事になっている。
退役した撃震は、輸出や鞍馬への改修が計画されており今後も活躍が期待される戦術機である。


1-3
F-4J改/82式戦術歩行戦闘機『瑞鶴』(第1.5世代機)

1982年に斯衛軍で配備が開始された撃震の改造機。
1996年に斯衛軍で制式採用された不知火・壱型乙の出現によって、生産数が大幅に縮小されている。
制式採用後、撃震と同様に装甲の軽量化・アビオニクスの刷新・小型可動兵装担架システム・対レーザー蒸散塗膜加工装甲の導入などの
近代化改修が行われ、CPU換装管制ユニット+ EXAMシステムver.2が導入された瑞鶴は、第2.5世代機と互角に戦える機体となった。


1-4
F-4JF/98式戦術歩行攻撃機『鞍馬』(第1世代機)

1998年に、帝国軍に制式採用された撃震の改修機。
1994年から御剣重工により極秘裏に改修計画が進められ、1997年先進戦術機技術開発計画 通称「プロミネンス計画」に日本帝国が参加した際に、
初めて公にされる事になった。
1998年、朝鮮半島撤退作戦(通称:光州作戦)に参加した鞍馬(当時:撃震・改修型)を運用する第03独立戦術機甲試験大隊が大きな戦果をあげた事で、
国内外から注目が集まっている。

この機体は、フェイアチルド・リムパリック社(米)が開発した戦術歩行攻撃機A-10『サンダーボルトⅡ』を意識して開発された機体である。
(
サンダーボルトⅡとは、重火力・重装甲という、第1世代機のコンセプトを極限まで突き詰められた機体で、欧州のNATO軍へ供給された当初は、
運動性と機動性の低さに不満を持つ衛士が大勢いたが、密集近接戦での生存性の高さとF-4一個小隊を上回る単機火力は都市防衛戦にあたる
東西ドイツ軍から高く評価される事になった。
そして、その運用戦術が各戦線に浸透した後は、開発から三十年たった今でも大砲鳥(カノーネンフォーゲル)、戦単級駆逐機(タンクキラー)
などの俗称を与えられる程の絶大な信頼を獲得している優秀な機体である。
また、その生産性の高さにより短期間で複数部隊の運用が可能となった事はあまりにも有名である。
)
鞍馬は、サンダーボルトⅡを上回る火力と機動力を確保する事を目標に計画されていたが、早い段階から二足歩行ではそれを実現することが
難しいと考えられていた。
そのため鞍馬は、前部ユニットになる撃震の臀部に、新しく作られた動体ユニットと撃震の下半身がセットになった後部ユニットが
取り付けられ、二足歩行から四足歩行へと形態を変化させる事になった。
その外観は、ギリシャ神話にでてくる上半身が人で下半身が馬の姿をしたケンタウロスを彷彿とさせるものとなっている。
鞍馬の開発で最も時間がかかったのは、四速歩行のモーション開発で、それには実に二年の歳月が費やされる事になった。

四足歩行への改修は、強力になった火力の反動を二足歩行では支えられないと判断されたため導入されたものであったが、それにより
従来の第一世代とは異なった性能を示す戦術機となった。
それは、四基の跳躍ユニットが生み出す第3世代機に迫る機動力と、四速歩行による主脚歩行時の振動低減であった。
主脚歩行時の振動低減により必要な衛士適正が低くおさえられたため、衛士適正ではじかれて戦車兵になった者や、
年齢で予備役に入ったものも搭乗できる可能性がでてきたのだ。
さらにその機動力と重量積載能力により、燃料タンク(推進剤)が増設され、OTT62口径76㎜単装砲や予備弾倉とロケット弾発射機の変わりに、
大型のコンテナを搭載する事で、前線の戦術機部隊へ確実に武器・弾薬を届ける輸送任務も可能となっていた。

ただし、四足歩行の欠点とされたのが、旋回性能及び運動性の低さと整備性・輸送等の運用面での問題であった。
旋回性能及び運動性の低下については、対戦術機戦ではいい的になるだけだと評価を受けることになったが、その点はサンダーボルトⅡも
同様であり、むしろ第三世代機に負けない前進速度と反応速度により、正しい運用方法を行えばサンダーボルトⅡよりも使い易いとも考えられた。
ただし、四基の跳躍ユニットを使うことで、180度の旋回が可能であるため、市街地での運用も可能ではある。
また、二足歩行の戦術機を想定した整備用ハンガーや輸送装置が使用できない点は、前部ユニットとなる撃震のメインアームで、
前部ユニットと後部ユニットを分離・接続できる事から、整備時には従来の戦術機と同じ整備用ハンガーを使用する事が可能である。
ただし、輸送装置に関しての御剣重工の回答は、輸送トラックに足を折りたたむ馬の座り方で積載することが可能だったが、
輸送機や空母での輸送は課題が残されている。
さらに、一機あたりの整備コストの増加が考えられたが、四足歩行により一本あたりの負荷が低減したことや、多少整備が悪くても
運用が可能である事もあり、整備方法を確立すれば効率的な整備が可能であると判断されることになった。
総合評価で鞍馬は、サンダーボルトⅡよりも運動性が低下する事になったが、予定通りサンダーボルトⅡを上回る火力積載能力と直線の機動力を
獲得することになった。

そして、鞍馬の生産コストは初期生産で撃震の1.5機分とされたが、ファントムのライセンス料金がかからなくなることや、
輸出による量産効果も考えられたため、量産時には撃震1.2機分のコストで生産が可能である。
更に、構造上GAU-8を搭載する肩部装甲と管制ユニット及び後部ユニットを接続する臀部装甲を交換するだけで、既に生産されている撃震や
ファントムを前部ユニットとして使用できるため、既存機の改修であれば生産コストは撃震1台分以下の価格となった。
様々な問題を抱えている鞍馬だが、その殆どを撃震のパーツの流用や既存兵器を採用していることから早期導入が可能である点や、
圧倒的な火力の割には生産コストが抑えられる点は評価され、今後の改良が期待されることになった。

鞍馬には、戦車部隊に随伴し護衛と戦術機への支援を行うための支援仕様と、拠点防衛や戦術機部隊に随伴し支援を行う砲戦仕様がある。
いずれの仕様にも共通する装備は、サンダーボルトにも搭載されているガトリング砲(GAU-8)二門である。
GAU-8単体の重量は681kgであるが、給弾システムや砲弾を満載したドラムマガジンなどを含めた全備重量は2,830kgにもなる。
このマガジンには最大で6750発の36mm機関砲弾を搭載できる。
そして、初弾発射まで0.5秒のタイムラグがあるが、36mm機関砲弾を最高発射速度で毎分3,900発を発射するという、圧倒的な火力を有している。
また、メインアームは完全にフリーになっているため、戦術機の装備をそのまま装備ができる。
近接武器には、撃震と同様に装備されているナイフシースに搭載されている65式接近戦闘短刀で対応するとされているが、その他にも
前面装甲に施された反応装甲を爆破することでクレイモアのように散弾をばら撒く事ができる追加装甲が装備されている。
しかし、基本的には近接武器を使用する距離までBETAに接近される前に、退却する事が想定されている。
またその仕様や、四足歩行の制御の難しさから管制ユニットは複座のみを採用することになった。

1-4-a
支援仕様 装備 GAU-8 Avenger(ガトリング砲)×2(予備弾倉×2),OTT62口径76㎜単装砲×1
馬の背中にあたる部分に、砲撃支援火器として海軍の日本帝国海軍最大の戦艦 紀伊級にも搭載されているOTT62口径76㎜単装砲が、
搭載されている仕様である。
OTT62口径76㎜単装砲は、全体の総重量が7500kgに及ぶが、12kgもの砲弾を毎分85発(100発/分まで向上可能)発射する能力を有しており、
最大射程が16,300m(ただし、突撃級の正面装甲を貫通することのできる有効射程は、5,000mほどである。)もあり、80発もの砲弾が搭載されている。
そして、砲塔を旋回させることで、全方位に向けて射撃することが可能であった。
その砲撃性能は、OTT62口径76㎜単装砲で90式戦車(120mm滑空砲)の3.5台分の投射量を誇り、GAU-8で撃震一個小隊を上回る火力と評価されている。
また、保有できる弾薬の量や展開能力を考えた総合能力は、一個小隊で戦車部隊二個中隊に匹敵する戦力となると考えられている。

1-4-b
砲戦仕様 装備 GAU-8 Avenger(ガトリング砲)×2(予備弾倉×4),30連装ロケット弾発射機×2
馬の背中にあたる部分に、GAU-8の予備弾倉と30連装ロケット弾発射機が搭載されている仕様である。
これにより予備弾倉分まで全て使用すると、GAU-8は一度の戦闘で砲身の寿命をむかえるまで砲撃が可能となると計算されている。
また、30連装ロケット弾発射機(総重量:3.2t,弾薬:75式130mmロケット榴弾)は、多連装ロケットシステムMLRSの配備により
一度退役した兵器である。
多目的自律誘導弾システムを有していない30連装ロケット弾発射機だが、光線級の影響を受けにくい水平発射方式での採用となった。


1-5
F-4JX『撃震・改(仮)』(第2.5世代機)

1998年に光菱重工が提案した、撃震の近代化計画により作られる予定の機体である。
撃震の近代化とは、最近配備され始めたEXAMシステムver.1搭載型の撃震と、撃震の改修機である瑞鶴のEXAMシステムver.2搭載型が、
想定以上の性能を示した事により、撃震を第三世代機に準じた装備にし、EXAMシステムver.2を搭載するという計画である。
OBLと電子装備(アビオニクス)が刷新されEXAMシステムver.2を搭載した撃震は、2.5世代機クラスの性能を発揮すると試算されていたのだが、
これらの改修によって製造コストが上昇した撃震は、現行の主力生産機である吹雪と比較すると、開発するほどのメリットがあるか
疑問視されている。
更に、撃震の生産ラインを使用して生産が可能である事から直ぐに量産が可能であったが、それほど多くの戦術機を生産する予算も無い上に、
衛士の供給が間に合わないので、国内での需要が低いのが現状である。
こういった理由により帝国軍の支援を受ける事ができなかった光菱重工は、EXAMシステムを開発した御剣電気と撃震(F-4)のライセンスもとである
御剣重工(マクダエル・ドグラム社の一部吸収合併)に支援を求める事になった。

それに対して御剣側は、撃震の基であるF-4『ファントム』がアビオニクスの近代化と装甲の軽量化、跳躍ユニットの強化によって準第2世代まで
引き上げられたE型が現在でもアフリカ戦線等で運用されている事や、第3世代機を導入する余力がない国にとっては、導入コストも低く抑えられる
計画である事から、輸出メインとして開発する事を提案する事になる。
無論、国内への配備と機密の問題で今すぐEXAMシステムver.2を輸出する事はできなかったが、ver.1なら改修終了後には輸出が可能になると考えられている。
また、中古撃震の海外への輸出事業の事を考えると、そのまま輸出するよりオーバーホールと同時に改修を行う事ができれば、付加価値が高まり
主力商品になる可能性もあると考えられている。


2-1
F-15J/86式戦術歩行戦闘機『陽炎』(第2世代機)

1986年に帝国軍に制式採用された戦術機。
1986年当時、マクダエル・ドラグム社が欧州に対してF-15 イーグルの輸出攻勢を行っている情報を入手した御剣財閥が、ライセンス生産を持ちかけ
接近戦闘能力を強化し伝送系を全て御剣電気製に交換した、日本向けのイーグル改修機である。
御剣重工がイーグルのライセンス権を獲得したという話を聞きつけた帝国国防省は、順調なイーグルの改修と進まぬ次世代戦術機開発プロジェクトの事を
考慮し、帝国国防省は御剣重工のイーグル改修機を陽炎(仮)として、12機を技術検証を目的に試験導入する事を決定した。
その後、マクダエル・ドラグム社からの要請とアメリカ政府からの日本帝国政府への圧力もあり、陽炎(仮)の本格量産の話が持ち上がる事になる。
その話は、当然のことながら次世代戦術機の開発を行っていた他の企業(富嶽重工、光菱重工、河崎重工)からの猛烈な反発にあい、日本帝国政府内も
米国派と国産派に分かれて対立することになる。
そんな中1986年8月18日、日米合同演習にてF-4J改 瑞鶴とF-15C イーグルのDACT(異機種間戦闘訓練)が行われ、巌谷大尉が乗る瑞鶴がイーグルに
勝利するという驚くべき結果がもたらされる。

結局、陽炎(仮)は86式戦術歩行戦闘機 陽炎として制式採用するものの、最大100機までの限定生産とする事と、陽炎で第二世代戦術機の生産・改修技術を
確保した、御剣重工と御剣電気が日本帝国の次世代戦術機開発プロジェクトに参加する事になった。
これにより、戦術機の量産を行うという御剣の野望を挫くことが出来たと、他の企業は考えこの結果に満足する事になった。
しかし、御剣グループは米国側からの量産の圧力を政府の決定に従うと突っぱねることで、陽炎本格量産への設備投資を次世代戦術機の研究
開発資金に振り分け、戦術機開発を一気に加速させる事になる。

世界的には、幅広く採用された最強の第二世代機と言われるイーグルだったが、日本帝国ではあまり広がる事はなかった。
1998年時点で陽炎は、30%がCPU換装管制ユニット+ EXAMシステムver.2,70%が第三世代機用CPU+EXAMシステムver.1の改修が施されている。
これによりEXAMシステムver.2搭載の陽炎は、F-15E ストライク・イーグルに匹敵する性能を有する事になった。



3-1
TSF-TYPE92/92式戦術歩行戦闘機『不知火』(第3世代機)

1992年に、帝国軍に制式採用された戦術機。
1991年に吹雪とトライアルが行われ、機体性能は吹雪に勝っていると評価されたが、帝国軍の仕様要求を満たすために突き詰められた
設計がされていたため、量産機としては生産コストが高くなった。
これを受けて、撃震に変わる主力生産機の座を吹雪に譲り渡す事になる。

原作に比べ、内蔵式カーボンブレード,小型可動兵装担架システムが搭載された事で、汎用性が増している。

1998年時点で全機がEXAMシステムへの換装終えており、その割合は
新型管制ユニット + EXAMシステムver.2  5%
CPU換装管制ユニット+ EXAMシステムver.2  80%
第三世代機用CPU +  EXAMシステムver.1  15%
となっている。

EXAMシステムが導入された不知火は、EXAMの特性によりフレーム及び関節の消耗が激しくなる事が報告され、問題となっている。
それに対して、企業側は補修部品の充実で当面の間を凌いだ後に、弐型の開発で得られた成果を用いる事で問題を解決すると
帝国軍に報告している。

3-1-a
不知火 強行偵察/支援偵察装備:

主に、試験部隊の情報収集とCPの役割を担うために、特別なユニットが取り付けられた機体である。
不知火の両肩に大型のレドームが、可動兵装担架システムには情報処理装置として大型のバックパックが装備されている。
これにより、各機体のセンサーから得られたデータを収集し、そのデータを持ち帰る事が可能となり、他の機体はデータ収集のために
余計な負荷をCPUにかける必要が無くなった。
また、腰部にある小型可動兵装担架システムには小型ドロップタンクが装備され、稼働時間の延長が図られている。

武装
強行偵察 装備 87式突撃砲×1(36mm/ガンカメラ・予備弾倉4),レドーム×2,情報処理用大型バックパック,65式近接戦闘短刀×2,92式多目的追加装甲×1
支援偵察 装備 Mk-57中隊支援砲×1,レドーム×2,情報処理用大型バックパック,65式近接戦闘短刀×2


3-1-b
不知火・改

92式戦術歩行戦闘機『不知火』を強化するために、新型機である弐型のパーツが一部導入された機体。
現在配備されている不知火を、比較的容易に強化出来ると言う企業側の提案で実験が行われている。


3-2
TSF-TYPE96/96式戦術歩行戦闘機『不知火・壱型乙/不知火・斯衛軍仕様試験型』(第3世代機)

1996年に不知火・壱型乙として、斯衛軍に制式採用される。
1995年より不知火・斯衛軍仕様試験型の実戦テストが行われ始める。
1992年より、帝国軍で制式採用された不知火・吹雪は、その性能により帝国軍の中で高い評価を得ていた。
しかし、吹雪に量産機の座を奪われた形となった不知火を開発した、御剣重工以外の三社(富岳重工,光菱重工,河崎重工)は、
不知火の生産台数を増やすために斯衛軍に不知火を採用するよう、強力な働きかけを行うことになる。
御剣重工は、吹雪では斯衛軍の要求を満たすことは無理だった事や、パーツを共有している吹雪の事を考えると量産効果による
コストダウンが計れる事から、この動きを後押しすることになった。
斯衛軍を管轄する城内省は、瑞鶴の後継機としてまった別の戦術機を開発する事を計画していたが、帝国議会が早急に瑞鶴に変わる機体を
求めた事や、様々な方面からの説得を受け、不知火の改修機を採用する事が決定された。

斯衛軍の仕様要求は、帝国軍以上に難しいものだったが3年の時間をかけ、その要求を全て満たす事に成功する。
この機体は、不知火という枠の中でハード面からこれ以上性能をあげることはできないと言われるほど、突き詰められた機体として完成した。
その機体性能は、総合的な能力で不知火を上回るものになり、接近格闘能力では不知火を圧倒するまでになっていた。
ただし、増設されたバッテリー及び燃料タンクでも稼働時間の低下を補うことはできず、統計的に見て稼働時間が不知火の80%ほど
になってしまう問題点もある。
さらに、大幅な製造コストの上昇と整備性の悪さや、高い衛士適正を必要とする点も問題とされたため、導入された時点では少数精鋭の
斯衛軍くらいしか運用する事ができない機体となっている。
(原作の不知火・壱型丙と武御雷の中間のような機体、その性能は原作武御雷よりも劣っている。)
瑞鶴と同様に機体の仕様により、Type-96Rの紫(将軍専用機)と青(五摂家用),Type-96Fの赤(五摂家に近い有力武家用)と黄(譜代武家用),
Type-96Aの白(武家用),Type-96Cの黒(武家以外の一般衛士用)に分けられている。

余談だが不知火・斯衛軍仕様試験型のデータにより、EXAMシステム搭載を前提とした機体開発の必要性が判明し、
新型機の開発に反映される事になった。
また、不知火で問題になったフレーム及び関節の消耗は、強化されたフレーム・関節と十分な整備が受けられる環境である事から、
今のところ問題となっていない。

通常の不知火に対し、以下のような改良が施されている。

機体の即応性向上について
機体主機の換装により、容量の拡大と出力の向上が行われる。
それにより、電磁伸縮炭素帯のレイアウト変更と使用量の拡大が行われる事になった。
また、CPUの換装によりEXAMシステムver.2の搭載が行われたことも、機体の即応性向上に貢献していた。

機体の機動力と運動性向上について
跳躍ユニット主機の高出力化と姿勢制御用スラスターの増設が行われる事になった。
また、戦術機の基本動作及び姿勢制御システムに改良が加えられたEXAMシステムver.2により、頭部にある大型センサーマスト及び、
ナイフシースなどを積極的に制御することが可能になり、空力制御による運動性向上も図られた。

近接格闘用装備の追加
ナイフシースの外装カバーにスーパーカーボン製ブレードを採用し、脛部分の外装にもブレード機能が施された。
また、不知火・吹雪では補助的な役割として搭載された、前腕外側部にある飛び出し式のカーボンブレードは、その有効性が実証されたため、
さらに大型化されている。

機体本体の強化
各種改良により機体にかかる負荷が増大したため、それにあわせて基礎フレーム及び各部関節の強化が行われた。
また、稼働時間の低下が予想されたため、バッテリー及び燃料タンクを増設するために外装が一部大型化する事になった。

装甲の改良
この機体は、初めて対レーザー蒸散塗膜加工装甲が搭載された機体になっている。
不知火は重要部分,吹雪はコックピット周りのみに限定で施されているのに対し、青色以上の仕様では全ての装甲に
対レーザー蒸散塗膜加工が施されている。


3-3
不知火・弐型:

1998年に実機テストが開始される事になった。
不知火を全面改修する事により次期量産機を開発すると言う計画により、開発された機体である。
この計画で開発された通称『不知火・弐型』と呼ばれている機体は、政府の要求により開発期間が制限されたため、機能や拡張性が制限された
不知火の問題を解決するために作られた機体である。
したがって、この機体こそが本来企業側が開発したかった不知火の真の姿といえるのかもしれない。
不知火は、EXAMシステムの導入という想定外の出来事があったとはいえ、僅か5年で再設計を行う必要が出るほど、拡張性が確保されていなかった。
そのため不知火の改修計画では、実に不知火の60%を再設計する程の見直しが行われ、今後10年以上現役で使う事が可能なように拡張性が
確保される事になった。
またそれと同時に、不知火開発から積み重ねた六年間の技術と各国の戦術機のデータを元に改良が加えられ、不知火は正常進化する事になった。
似たような事例で、米国においてF-15CイーグルをF-15Eストライクイーグルに改修したというものがあるが、基礎構造が優秀なイーグルの
改修とは異なり、開発する余裕が残されていない不知火の改修は、メインフレームの検討から行われる事になった。
メインフレームから検討するという改修案に、一から新型機を開発したほうが良いのではないかと企業側が提案したが、不知火・吹雪の実戦での
運用が良好だった事を受け、今後不知火・吹雪量産の事を考えるとある程度の互換性を確保しておきたいという軍の要望に応えることになった。

不知火・斯衛軍仕様試験型 後の不知火・壱型乙で初めて実装され実戦証明を行ったEXAMシステムver.2が、大きな戦果をあげた事を受け、急遽ver.2
搭載を前提に設計が行われる事になった。
これにより、不知火の改修機だった弐型はEXAMシステム対応のテストベッドとしての側面も持つ事になる。
EXAMシステム搭載の決まった段階で弐型の開発はかなり進んでいたが、修正できる範囲でEXAM特有の急激な機動変化により発生するフレーム及び
関節部の負荷を考慮した設計がされる事になった。
この計画により不知火・弐型は、機体性能が不知火・壱型乙高機動仕様と同等で、初期生産では不知火・壱型乙と同程度の価格になると予想され、
量産が開始されれば不知火の二割増し程度のコストまで圧縮できるとされている。
また、本土防衛戦が近づく1998年時点で最も重視されていた不知火系統三種類の強化は、この機体で使われているモジュールの一部を搭載する事で
行われる予定となっている。
このように、一見成功しているように見える弐型であるが、試作型の段階で連続稼働時間が不知火と同等である事に対し、一部の現場に近い衛士から
更なる延長を求める声が上がっているなど、問題点も指摘されている。

テスト機として作られた不知火・弐型の現時点での仕様は以下のようになっている。

メインフレーム及び関節部の強化:
メインフレーム及び関節部を再設計した事により、今後も機体各部に新たな装備を追加できる余裕が確保された。
また、高められた強度によりEXAMシステムver.2の機動でも、十分に実戦を戦い抜ける耐久力が確保された。

機動力の向上:
主機・跳躍ユニットの出力を上げると同時に、空気抵抗を低減するために装甲形状が変更された。
これにより、最高速度・巡航速度共に上昇する事になった。

運動性の向上:
YF-23 ブラックウィドウⅡを参考に、腰部装甲ブロックへ小型の推力偏向スラスターが搭載され、肩部にはJ-10 殲撃10型を意識した複数の
噴出口を持つ大型の推力偏向スラスターを搭載する事になった。
また、肩部の大型の推力偏向スラスターは下方や後方の噴出口から推力を取り出す事で、跳躍ユニットの補助としての役割を果たし、
機動力の向上や跳躍ユニットが一基破損しても跳躍が可能となる等、運動性の向上以外にも様々な部分に影響を与えている。
更に、頭部や肩部に空力機特性を改善するためにカナードが追加され、ナイフシースも大型化する事になった。

近接格闘能力の向上:
不知火・壱型乙で採用された、ナイフシースの外装カバーと脛部分のスーパーカーボン製ブレード以外にも、膝・足の甲・踵部の外装に
ブレード機能が施された。

可動兵装担架システムの増設:
YF-23 ブラックウィドウⅡを参考に、今まで小型可動兵装担架システムと併せて2+1個だった可動兵装担架システムを、4+1個に増設する事になった。
肩部に増設された2つの可動兵装担架システムは、87式突撃砲程度の重量を搭載するのが限界であったが、突撃砲を多く装備できるだけでも
大きなメリットが有った。

電子装備(アビオニクス)の強化:
頭部に搭載された、新型アクティブレーダーやデータ通信装備の増設により、目標の捕捉能力と部隊内の連携能力が向上した。

98式管制ユニットの標準装備:
EXAMシステムver.2を標準装備する98式管制ユニットを採用する事で、機体性能の向上を図ると同時に衛士の安全性を確保した。
また98式管制ユニットには、ボタン一つの操作で搭乗制限を30秒間限定解除し、機体性能を10%押し上げる通称『フラッシュモード』が
搭載されている。
フラッシュモードは主に緊急時の対応に使う事を想定されており、再使用に3分間のインターバルが必要という制限が付く。

汎用性と稼働率の向上:
機体各部をモジュール化を進めたことで、補給・整備が迅速に行えるようになったため、大幅な汎用性と稼働率の上昇が見込まれている。

オプションパーツの装備:
機体各部のモジュール化により、各種オプションパーツを取り付けることが可能になった。
オプションパーツの案には、ナイフシースと交換で小型ガトリング砲を搭載するまともな案や、肩部に装備するスパイクやドリルで格闘能力を
向上させるという趣味に走った案、全てのオプションパーツをつなぎ合わせてフルアーマーにするといった狂気とも思える案まで、
多くの提案がされているがどれを採用するかは未定である。

稼働時間の確保:
フレーム強化と拡張性の確保、バッテリー、燃料タンクの増設により、機体がやや大型化(太くなっている)している。
ただし、それ以上に主機及びスラスター出力が向上しているため、機動力・運動性は向上している。
また、新型の電磁伸縮炭素帯の採用によって、出力効率が上昇した事で消費電力は低減されており、バッテリーの増設は最小限に抑えられた。
これにより、連続稼働時間は通常の不知火と同等が確保される事になった。

生産・導入コスト:
不知火系統と呼ばれる不知火,不知火・壱型乙,吹雪と共通するパーツが40%、新パーツが残り60%となっている。
弐型の制式採用後も、撃震が完全に退役するまで不知火・吹雪とも生産が続けられる計画のため、不知火系統の機体と共有できるパーツが
確保された事は、大幅なコストダウンにつながっている。
更に、機体のモジュール化を進めた事で、モジュールごとに生産を行い最後に組み立てる事で、製造時間とコストが圧縮される事になった。
また、全高が不知火と同じである事も整備用の器具が不知火と共有でき、導入コストを低減する事に一役買っている。


4-1
TSF-TYPE93/93式戦術歩行戦闘機『吹雪』(第3世代機)

1992年に、帝国軍に制式採用される。(形式が不知火とかぶるため、93式となっているが採用は不知火と同時期)
不知火の試作機を基に、御剣重工が開発した『低コスト第三世代機』で、開発計画時から不知火と『Hi-Low-Mix』で運用する事が前提とされていた。
その性能は、不知火に劣りギリギリ帝国軍の仕様要求を満たすものであったが、紛れも無く第三世代機としての性能を有しており、
1991年に行われた不知火とのトライアルでは、当初こそ不知火に性能が劣る事が問題にされたが、コストを同じにした中隊規模の
トライアルにおいて、不知火を中心とする部隊を圧倒する成績をたたき出す事に成功した。
(中隊規模のトライアル:吹雪12機(二機が指揮官ヘッド)対不知火8機と
           吹雪12機(二機が指揮官ヘッド)対不知火6機+撃震6機の2パターンが比較された。)

その結果、撃震に変わる主力生産機の座を手に入れ、1994年にはついにその生産台数において撃震を上回る事になった。
1998年時点で全機がEXAMシステムへの換装終えており、その割合は
CPU換装管制ユニット+ EXAMシステムver.2  60%
第三世代機用CPU +  EXAMシステムver.1  40%
となっている。

不知火と同様にEXAMシステムが導入された吹雪は、EXAMの特性によりフレーム及び関節の消耗が激しくなる事が考えられていた。
しかし、予想に反して装甲の簡略化により軽量化されていた吹雪は、不知火よりフレーム・関節強度に余裕があったため、
EXAMの悪影響は最小限に抑えられている。
ただし、不知火同様に現場からは改修を行なう要望が出されている。

通常の不知火に対し吹雪は、以下のような部分が異なる。

装甲形状の簡略化:
上半身の装甲は簡素な形状に変更され、肩部装甲は限界まで切り詰められている。

主機・跳躍ユニットの変更:
主機・跳躍ユニットに使用される部品の材質を見直すことで、コストダウンを図った。
これにより主機・跳躍ユニットの出力が8%ほど低下している。

電子戦装備の制限:
指揮官用の頭部ユニットを持った機体と情報をリンクさせることで、通常の吹雪に搭載されるセンサー類,対電子戦装備を必要最小限に抑えた。
指揮官用の頭部ユニットとの情報リンクは、不知火との情報リンクで代用可能。

ナイフシースの変更:
不知火で前腕外側部に装備されている接近戦闘短刀格納モジュール、通称ナイフシースの場所を脇腹部に変更。
脇腹部より飛び出したナイフを、鞘から抜くようにして取り出す簡易な機構とした。
ナイフシースが有った部分には、小型のカナードが装備され、複雑な取り出し機構を簡略化したことでコストが削減された。
総合的に前腕部の重量は軽減され、これにより前腕の稼動速度が向上した。

内蔵式カーボンブレードの搭載:
前腕外側部に飛び出し式のカーボンブレードを装備。
65式接近戦闘短刀を抜く暇も無いときに使用される、補助的な役割を持つ。
収納時にはそれ自体も装甲として機能するように考えられており、重量増加を最小限に抑えている。
後に、不知火にも同様の機構が採用された。

小型可動兵装担架システムの搭載:
背面に2基搭載されている可動兵装担架システムを小型化したものを腰部に搭載。
これにより、予備弾倉や小型ドロップタンク(使い捨て外付け小型燃料タンク),新開発の手榴弾・スタングレネード 等小型で軽量の物を
搭載することが可能になった。
後に、不知火にも同様の機構が採用され、日本帝国に採用された戦術機の標準装備となる。


吹雪が不知火に対して評価された点は、以下の三つに集約される。

高い稼働率と整備性:
極限まで無駄を省くことでパーツ数を減らし、一部の機構に第一世代機や第二世代機に使われている信頼性の高いものを採用した。
これにより、整備時間の短縮やパーツの確保が容易となった。
ただし、パーツの60%は不知火と同じものを採用している。

低い必要衛士適正:
不知火と比べて、主機・跳躍ユニットの出力を抑え軽量化により機動力と運動性を確保した吹雪は、衛士にかかる負担が軽減されており、
撃震に慣れている衛士にとっても負担が少く、量産機に適していると考えられた。

高い生産性:
吹雪はパーツ簡略化により、コスト削減と同時に生産に要する時間も大幅に削減することに成功していた。
そのコストは、
不知火と同数を生産した場合、不知火10機=吹雪15機が同コスト、
1991年当時の撃震と同数を生産した場合、不知火10機=吹雪18機が同コストとなっている。
 
したがって、吹雪は戦術機としての性能は不知火に劣っているものの、兵器としては上回っていると考えられている。



4-1-a
吹雪・海軍仕様:

跳躍ユニットを不知火と同じものを搭載し、跳躍距離を伸ばしたのが海軍仕様の吹雪である。
海軍は、戦術機揚陸艦から発進し橋頭堡を確保するための戦術機として、撃震を採用していたが戦術機揚陸艦がなるべく
陸地に近づく必要が無くなるように、跳躍距離を伸ばす事を求めていた。
吹雪が採用された理由は、軽量化によって搭載重量に余裕があり、海軍が求める装備を搭載し跳躍距離を確保するには、
不知火よりも吹雪が良いと判断されたためだった。
しかし、1998年時点で海軍は吹雪の更なる軽量化と跳躍ユニットの強化を求めた改修案を提案しているが、未だ計画は進行していない。
その一番の理由は、改修に見合ったコストの増加を求める企業側と、大陸で戦っていた陸軍に比べて予算が減らされていた海軍との間で、
意見が一致しないためである。


4-1-b
吹雪・高等練習仕様:

主機と跳躍ユニットにリミッターをかけ、出力を低下させた吹雪が第三世代高等練習機。
後に、EXAMシステム練習機としても運用される事になる。


4-1-c
吹雪・改

93式戦術歩行戦闘機『吹雪』を強化するために、新型機である不知火・弐型のパーツが一部導入された機体。
現在配備されている吹雪を、比較的容易に強化出来ると言う企業側の提案で実験が行われている。
高性能な機体を要求する優れた衛士は、不知火への機種転換が行なわれている為、不要だと言う声も有ったが、
吹雪を主力戦術機とする海軍と御剣重工のある思惑により、開発が決定したと言う噂もある。



[16427] 兵装・その他の装備設定集
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/06/13 23:35
兵装・その他の装備設定集

戦術機設定集と同様に、設定が分からなくなった時の確認用としてご使用下さい。

また、話の進行よりも改定が遅れる場合があると思いますが、ご容赦下さい。

なお、記載されているのはオリジナル設定の部分だけですので、原作の設定はWikiなどでご確認下さい。

設定カバー話数:第01話~第18話

目次

1.戦術機の兵装
1-1  98式支援砲/98式中隊支援砲
1-2  GAU-8 Avenger
1-3  OTT62口径76㎜単装砲
1-4  30連装ロケット弾発射機
1-5  パンツァーファウスト/ロケットランチャー

2.戦術機の装備
2-1  EXAMシステム
2-1-a EXAMシステムver.1
2-1-b EXAMシステムver.2
2-1-c EXAMシステムver.3
2-2  小型可動兵装担架システム
2-3  追加装甲
2-4  98式管制ユニット
2-5  サーフボード
2-6  ランドセル(仮)/新型ドロップタンク

3.その他
3-1  WD



1.戦術機の兵装


1-1 98式支援砲/98式中隊支援砲

1998年帝国軍に制式採用された戦術機用の兵装。
1997年に欧州で配備され始めたラインメイタル Mk-57中隊支援砲を御剣重工がライセンス生産する事で供給が開始された。

Mk-57中隊支援砲は、BETA群に突入する戦術機部隊を支援するために開発された戦術機用の支援重火器である。
欧州各国軍では戦術機が携行する大口径支援砲が標準装備されており、Mk-57中隊支援砲は通常使われる57mm砲弾以外にも、
220㎜や105㎜砲弾に対応した数種も存在している。
散弾・多目的運搬砲弾も使用できるMk-57中隊支援砲は、57mm砲弾の場合で最大120発/分の制圧射撃を行う事が可能であり、
要撃級,戦車級に対して極めて有効な兵装であると考えられていた。
これらの大口径支援砲は、欧州において戦車や自走砲の代用として運用されており、戦術機に装備されている事で機動性や
地形に影響されない展開能力が評価されている。

それを受けて、御剣重工では将来的にライセンス生産を行うことを目標に、西ドイツのラインメタル社から
57mm,76mm,90mm,105mm砲弾を発射できる4種類のMk-57中隊支援砲を購入し、各種の運用データを取る事になる。
御剣重工がこの4種類の砲弾を選択した理由は、戦術機の一般的な兵装である87式突撃砲の36mm砲弾を上回る火力が求められた事と、
120mm以上の砲弾では、その反動や携行できる弾数が制限される事が問題になったからだった。

通常の57mmより口径の大きくなった種類の中隊支援砲は、一発の威力が増加した分57mmよりも発射速度が低下する事になる。
それによって面制圧能力が低下する事になったが、欧州で求められていた面制圧能力は、戦車や自走砲が担うことが帝国軍の方針であり、
御剣重工としても将来的には98式戦術歩行攻撃機『鞍馬』が担うという構想であったため、必ずしも必要な能力ではなかった。

1997年時点で、アジアや帝国で戦術機の支援火器として主に使われている87式支援突撃砲は、87式突撃砲に専用バレルを取り付けた物であるため、
87式突撃砲と同じ36mm砲弾が使われていた。
しかし、36mm砲弾では支援砲撃を行っても、命中した瞬間にBETAを行動不能にするほど威力がなかった。
それに対してMk-57中隊支援砲は、命中すればほぼ確実にBETAの動きを止める威力を有しており、
部隊の支援砲としても非常に有効な兵装であると考えられていたのだ。

数ヶ月間行われる事になったMk-57中隊支援砲の運用試験で、最終選考まで残されたのは57mmと90mm砲弾を使用するタイプだった。
57mm砲弾を使用するMk-57中隊支援砲は、中衛が装備することを考えた時取り回しに難があるとされたが、
前衛が空けた穴を拡大するために必要な面制圧能力を十分に発揮した。
そして、90mm砲弾を使用するMk-57中隊支援砲は、57mm砲弾仕様より重たくなったが単発でもBETAの動きを止めることのできる威力(ストッピングパワー)が、
後衛から援護を行うときに有効な兵装であるとされた。
これらのMk-57中隊支援砲は、他の試験中隊での運用データとも比較検討され、銃身がやや切り詰められた57mm砲弾仕様が98式支援砲、
90mm砲弾仕様が98式中隊支援砲として帝国軍に制式採用される事になった。

帝国軍では、この98式支援砲と98式中隊支援砲を主に後衛の兵装として運用する事になる。
しかし、機動力を重視する一部の特殊部隊では、制圧支援装備で使われる92式多目的自律誘導弾システムを有する機体が制限されていたため、
打撃力を補う事を目的として、98式支援砲が中衛の装備として用いられる事があった。
このために、98式支援砲は取り回しがしやすいように現地改修によって、2/3ほどに銃身が切り詰められ、
狙撃を行う際に用いられる二脚(バイポッド)が外されているようである。
また、エースパイロットの中には十分な命中率を確保するために通常2本のメインアームで射撃する支援砲を、98式中隊支援砲の二脚(バイポッド)を外し、
稼動兵装担架システムとメインアーム一本ずつで運用する離れ業を見せる者がいるという噂がある。



1-2 GAU-8 Avenger

A-10 サンダーボルトⅡに装備されているジネラルエレクトロニクス社製36㎜ガトリングモーターキャノン。
サンダーボルトⅡが大砲鳥(カノーネンフォーゲル)、戦単級駆逐機(タンクキラー)などの俗称を与えられる原動力となった武装である。
1998年、98式戦術歩行攻撃機『鞍馬』の登場によって、帝国軍内で運用される事になった。

その威力は、1998年に行なわれた光州作戦に参加していた鞍馬1個大隊が、圧倒的な戦果をもたらした事で帝国軍内でも評価されるようになる。
1998年時点で、GAU-8 Avengerを通常の兵装として戦術機に搭載する事が検討されているという噂がある。

GAU-8単体の重量は681kgであるが、給弾システムやPGU-14を満載したドラムマガジンなどを含めた全備重量は2,830kgにもなる。
銃口から機関部までの長さは5.81mであり、ドラムマガジン単体では長さが1.82m、直径が86cmとなっている。
このマガジンには最大で6750発の36mm機関砲弾を搭載する事が可能である。
ただし、初弾発射まで0.5秒のタイムラグがある。

スペック

全長   6.40 m
銃身長  2.299 m
砲身数  7
重量   681 kg(銃本体), 2830kg(システム重量)
作動方式 電気モーター・油圧回転方式 × 2
使用弾薬 36mm
装弾数  6750発
発射速度 毎分3,900発
銃口初速 1067 m/s
有効射程 1500 m



1-3 OTT62口径76㎜単装砲

本来は、日本帝国海軍最大の戦艦『紀伊級』に搭載されていた艦砲であったが、鞍馬の登場によって戦術機でも運用される事になった。
主な運用方法は、戦車及び自走砲の護衛に付く鞍馬が行なう支援砲撃、戦術機に同行した場合のAL(アンチレーザー)弾の発射と光線級の狙撃である。

その砲撃性能を時間当たりに換算すると、90式戦車(120mm滑空砲)の3.5台分、155mm砲の自走砲の1.5台分の投射量を誇る。
また、鞍馬が携行できる弾薬の量や展開能力を考えた総合能力は、一個小隊で戦車部隊二個中隊に匹敵する戦力となると考えられている。

スペック

口径   76 mm口径 / 62口径長
銃砲身  単装
重量   7500 kg (砲および砲塔), 12.34 kg (標準的弾薬)
仰角   -15°/+85°
旋回角  360°
砲弾   76 mm × 900mm
装填方式 弾倉方式
装弾数  鞍馬 支援仕様の標準:400発
発射速度 85 発/分(100発/分まで向上可能)
初速   925 m/s
最大射程 16,300m



1-4 30連装ロケット弾発射機

多連装ロケットシステムMLRSの配備により、一度退役した装備である。
92式多目的自律誘導弾システムを有していない30連装ロケット弾発射機だが、光線級の影響を受け難い水平発射方式の採用と、
OTT62口径76㎜単装砲との組み合わせた砲戦仕様の鞍馬が、AL(アンチレーザー)弾を発射可能である事から、
再び制式装備とされる事になった。
92式多目的自律誘導弾システム及びMLRSの登場以前は、戦術機の装備としても用いられた事があった。

スペック

総重量:3.2t
弾薬:75式130mmロケット榴弾
最大射程:14.5km



1-5 戦術機用パンツァーファウスト/ロケットランチャー

この装備は、戦術機により要塞級を撃破する装備の開発要求が陸軍から出されていたため、御剣重工が提案する事になった装備である。
要塞級はその大きさと耐久力から、通常戦車や自走砲等の援護砲撃により撃破することが多く、
戦術機で要塞級を撃破出来るのは一部のエースに限られていた。
帝国陸軍は、それを戦術機が携行する火器で撃破する事を可能にしたかったのだ。

初期の陸軍案では、ロケットランチャー(噴進弾発射器)による物だったが、搭載重量と携行弾数の事を考え、こちらが提案される事になった。

パンツァーファウストとは、パイプ状の発射筒に簡素な照準器と引き金を持ち、その先端に安定翼を折り畳んだ棒を備えた、
成形炸薬弾頭が取り付けられており、引き金を引く事で発射筒内にある火薬が爆発し弾頭を目標物まで飛ばす事ができる、
携帯式対戦車用無反動砲用とも言われる歩兵の装備である。

パンツァーファウストがロケットランチャーに勝る点は、携行が容易なことと製造コストが低くなる点である。
その代わり、ロケットランチャーと比べて射程距離が短くなっており、発射筒は基本的に使い捨てになってしまうという問題も抱えている。
また、陸軍案のロケットランチャー型は、弾頭をS11等の強力な物にすれば、ハイヴ内で使える兵器となる可能性が残されていた。

御剣重工内では、盛んにこうした歩兵の装備を戦術機用に再開発するといった事が行われているようである。




2.戦術機の装備

2-1 EXAMシステム

EXAMシステムは、1994年 御剣財閥内で行なわれていた対BETA戦プロジェクトで提唱され、御剣電気によって実用化された戦術機制御用OSである。

対BETA戦プロジェクトの戦術機用新OS開発部門は、一部ブラックボックス化していた戦術機の制御システムを解析し、
経験が浅い衛士でもベテランやエースの行う機動ができるようにする事を目標に、発足された部門であった。
この部門の努力によって、エースやベテラン衛士が行なう操縦方法の解析が完了し、第一段階として従来のOSと同等の性能を持った
OSの開発に成功する事になった。

現行の戦術機で使われている姿勢制御方法は、大きく分けると操縦桿やフットペダルなどの操作による直接制御と、
強化装備というインターフェイスを介した間接思考による制御の二種類に分類されている。
そして、この間接思考制御により衛士は、人型を模した戦術機を自分の手足のように扱えるというのが、戦術機制御の基本的な考え方だった。

しかし、実際にはその考え方通りになる事は無かった。
どんなに思考の読み取りが高速化しようとも、戦術機がその反応について来れないため、思考と実際の動きの間には必ずタイムラグが生じたのだ。
もし、違和感がなくなるまで、戦術機を高速で動かしたとすると、その慣性力(G)に衛士が耐えられず即死する可能性が高い、
そのため現在の科学力ではタイムラグを無くすことは不可能とされている。
したがって、このタイムラグが原因となり、間接思考制御による完全な姿勢制御が妨げられ、完全な姿勢制御が行えないことから、
行動の合間に転倒防止のために不自然に見える姿勢制御が行われる事になったのだ。
また別の問題として、自動姿勢制御が行なわれている間に行動(コマンド)を入力できないという、弊害も存在していた。

ベテラン達は、このタイムラグを長年の経験により把握し、行動の合間の姿勢制御を間接思考制御に置き換える事で、
硬直を緩和する技術を身に付けていた。
これを発展させ、思考と戦術機のずれを完全に補正するまで、戦術機の操縦に習熟した衛士がいれば、完全に硬直を打ち消す事が
可能であるという研究結果も残されている。
この理論を一部実現した者が、エースと呼ばれる衛士たちである事は間違いなかった。

しかし、これらエースやベテラン衛士と言われる者たちが持つ技術を、新人の衛士が身に付けようとすると膨大な時間が必要であり、
人類にはそれらの職人を育成する余裕は残されていなかったのだ。
これらの問題を解決すべく、戦術機用新OS開発プロジェクトが提唱した、新しい戦術機制御方式をまとめると以下のようになる。

先行入力:
ベテランが行う、自動姿勢制御を一部キャンセルすることで、行動の合間に発生する硬直を緩和させる技術。
                       ↓
行動(コマンド)をあらかじめ先行して入力を行う事で、行動の間にある自動姿勢制御を行動の一部として取り込む。
そうする事で、結果的に行動の合間に有った硬直を無くすことが可能。

キャンセル:
エースが行う、一つの行動を細かく分割し、不意の事態でも直ぐに対処することができるようにしている技術。
                       ↓
行動を途中でやめ、新たな行動を強制的に行わせるシステムを導入することで、代用することが可能。

コンボ:
エースが行う、細かな姿勢制御によって戦術機の限界機動を引き出す技術。
                       ↓
あらかじめ、行動の全てを指定した通りに行わせるようにすれば、動きを真似ることだけは可能。


開発当初この概念を実現したシステムは、とても戦術機に載せられるサイズではなかったが、別チームで進めていた高性能次世代CPUの開発によって、
段階的ではあったが戦術機への搭載が行なわれるようになった。

このEXAMシステムに対して、国連軍から配備を要請された事があったが、実際に配備されたのは国連軍太平洋方面第11軍に所属する特殊部隊に、
CPU換装管制ユニット+EXAMシステムver.2を搭載した機体が配備されただけで、1998年時点ではそれ以外に供給はされていない。
更に、国連軍に配備された管制ユニットは、CPUと記憶媒体周辺をブラックボックス化しており、
制御データ等の情報が外部へ流出することを防ぐ処理も行われている。

これは、概念さえ知っていればある程度の技術レベルの国であればEXAMシステムをまねる事は可能だったが、
今まで積み上げてきた機体制御データと戦術機に搭載可能な高性能CPUの量産技術の両方を入手しなければ、
実用化までこぎつけるには5年以上かかると考えられていたために行なわれた措置である。
5年の時間があれば、更に上のOSとCPUを開発する事も可能であり、戦術機制御技術における日本帝国と御剣電気の優位は、
早々揺らぐものでは無いと判断されたのだった。


EXAMシステム配備状況

1998年:

1996年から本格的に導入され始めたEXAMシステムver.2と1995年導入のver.1は、大きく分けると以下の四つのルートで配備が行われている。
ver.2
1.98式管制ユニット搭載型の不知火・吹雪の生産。
2.既に生産された不知火・吹雪を、高性能CPUに換装。
ver.1
1.不知火・吹雪用のCPUを搭載した第1・2世代機を生産。
2.CPU換装の際に不知火・吹雪から外された第三世代機用CPUを第1・2世代機に搭載。

これによって、現時点のデータで次のような広がりを見せていた。
新型管制ユニット + EXAMシステムver.2  不知火・壱型乙の50%及び、不知火の5%
CPU換装管制ユニット+ EXAMシステムver.2  不知火・壱型乙の50%,不知火の80%,吹雪の60%,陽炎の30%及び、瑞鶴
第三世代機用CPU +  EXAMシステムver.1  不知火の15%,吹雪の40%,吹雪・高等訓練機,陽炎の70%,海神の30%,鞍馬及び、撃震の30%
ver.2とver.1の二つを併せると、日本帝国が保有する戦術機の半数がEXAMシステムを搭載している計算となる。



2-1-a EXAMシステムver.1

概念を提唱した1994年時点では、不知火・吹雪に搭載されているCPUでは、行動の先行入力を3つまで入るようにするだけで精一杯であったが、
それでも行動の合間の硬直を消せることに、テストの段階から大きな反響を得ることになった。
後にEXAMシステムver.1と名付けられるこのOSは、試験部隊に従来の戦術機制御OSと入れ替えで配備されて行く事になった。
そして、EXAMシステムver.2が配備されてからは、その廉価版として広く帝国軍内で広がる事になる。

EXAMシステムver.1は、先行入力により各行動を一つの動きとして処理することで、姿勢制御を機体側で行う事を可能にした。
これにより、一般衛士でもベテランと遜色ない動きが約束される事になる、まるでベテラン衛士たちが蓄積した情報に導かれるように・・・。
そして、ベテランやエースはこれを切掛けにして、間接思考制御を別の部分に振り分けることで、更なる高みへ上ることになる。

ちなみにこの新OSの名は、タワーのようなハードで再現された完全版のシミュレーターテストを見た、
プロジェクト関係者の呟きによって決められたと言う噂がある。

1998年時点でEXAMシステムver.1は、テキストと併せてデモ演習の画像と操作履歴が公表されているため、
それを参考に各部隊で訓練が行なわれている。



2-1-b EXAMシステムver.2

1995年、開発が行われてきた不知火・斯衛軍仕様試験型(後の不知火・壱型乙)に初めて搭載されてこのOSは、戦術機に劇的な変化をもたらす事になった。
その変化は、後に『EXAMショック』とも呼ばれ、日本の戦術機に関る者全てが驚かされる事になったのだ。

ver.1が配備された当初こそ、便利になったと考える程度で気にしていなかった戦術機開発チームだったが、
ver.2が初めて実装され実戦証明を行った不知火・斯衛軍仕様試験型の戦果に、大きな衝撃を受ける事になったのだ。
以前から行われていた戦術機の開発は、機械的な部分や電子部品の改良が主となっており、戦術機を制御するOSの改良を行うという発想が乏しかった。
そこに登場したEXAMシステムver.2は、戦術機の動作後の硬直を取り除き、動作を中断し急激な機動変更を可能とした改良により、
実質的な機体性能をOSの改良で大幅に上昇させられる事を証明する事になる。
この段階で、既に戦術機の常識の一つが打ち破られた事になった。

また、EXAMシステムver.2は大きな戦果を上げると同時に、戦術機側にも大きな傷跡を残していた。
戦闘後のオーバーホール時に、フレームや関節部に大きな磨耗が発見されたのだ。
この磨耗は、EXAMシステム特有の急激な機動変化に機体側が追従できなかったために発生したものである事が分かると、
戦術機の開発者は更なる衝撃を受ける事になる。

EXAMシステムver.2登場以前は、機体に合わせてOSを調整する事が普通だったが、EXAMシステムver.2登場以後には遥か先に進んでしまったOSに会わせて、
戦術機を開発する事が求められるようになった。
つまり、EXAMシステム搭載を前提とした新型機の開発が検討される事になったのだった。

このOSは、1995年に富士教導隊の不知火にも配備され、 富士教導隊と協同でEXAMシステム稼働中の部隊からの情報も取り入れ、
運用・訓練マニュアルが作成される事になった。
このOSの習熟には時間がかかり、特殊部隊でさえ配備されてから3ヶ月程たっても、ver.2を使いこなす事が出来なかった。
特にver.2で搭載されたキャンセルは扱いが難しかったのだ。
キャンセル時に発生する硬直を旧OSのやり方と同じく、自動姿勢制御システムをオフにして間接思考制御で機体のバランスをとる事で、
硬直を緩和しよういう試みがされていたが、このOSにより更に高速化した戦術機の動きに衛士が付いていけないため、
間接思考制御が難しくなっていた。

その解決方法として、キャンセル時の硬直への対応は、キャンセルされない機動を設定したり、
先行入力されたコマンドのみをキャンセルしたりする事で動きをつなげる等、その時の状況によって使い分ける事で対応される事になる。
この解決方法が一般的に広まって行く事になるが、間接思考制御による硬直の緩和についても、今までと感覚は異なるが一応行うことは可能であるため、
一部のエースの間でひそかに研究が続けられている。

ver.2を搭載するために不可欠な高性能CPUは、1993年に帝国大学・応用量子物理研究室が確立した基礎理論の一部を取り入れたものを、
1995年に入り御剣電気が量産に成功したものである。
このCPUの処理能力は、量産品としては桁違いの性能を有しており、これによって最大10個の先行入力による動作の演算と、
キャンセルによる急な動作変更でも硬直を最小限に抑える事が可能となった。

1996年、EXAMシステムver.2は次世代CPU第一弾の開発が完了した事を受け、次の段階に進む事になった。
この次世代CPUは、帝国大学・応用量子物理研究室からもたらされた基礎理論を、当時の技術で可能な限り再現したものである。

この時に用意されたのが、以下の2つのプランである。
プランA:高速化された処理能力を利用して、EXAMシステムにコンボ機能を搭載したver.3に進化させる。
プランB:次世代CPUを搭載することで管制ユニットを小型化し、その空きスペースに衛士の生存性を高める装置を搭載する。

プランAは、衛士が直ぐにEXAMシステムに対応できるであろうと想定して立てられたプランで、プランBは汎用性を高めるためのプランだった。
この時は、ver.2の扱いに現場の衛士は戸惑っている事を受け、プランBが採用される事になる。
ver.3を導入したところで、使いこなせるのは一部のエースだけだと考えられたのだ。
これによって、結果的に多くのベテラン衛士を作り出すことができるようになって行く。

より高度な訓練を必要とするEXAMシステムver.2については、富士教導隊が中心となって各部隊への教導を行う必要があった。
1998年時点でver.2の普及は、教導する部隊の人数が限られる事からあまり進まないと考えられていたが、富士教導隊から教導を受けた部隊が、
更に他の部隊へ指導を行いだすと、ver.2の運用思想は帝国内で急速に広がり始める事になっていった。



2-1-c EXAMシステムver.3

ver.3に搭載される予定のコンボ機能は、本来本人にできない機動や難しい入力が必要な機動を実現するためのものである。
しかし、搭乗する衛士の能力を超える事も出来る反面、保護する機構がなければ多用できる機能ではなかった。

したがって、1996年の次世代CPU第一弾では、ver.3のプランAが採用される事はなかった。
ただし、プランAが廃棄されたわけではない。
このまま継続して開発を進め、次世代CPUの第二弾が完成した暁にはプランBで改良した管制ユニットにver.3が搭載される予定である。

また、早期のver.3搭載が諦めたわけではなかった。
コンボを2・3個だけでも設定することができる容量さえ確保されれば、ver.2.5として搭載することも検討されていた。



2-2 小型可動兵装担架システム

小型可動兵装担架システムとは、一般的な戦術機の背面に2基搭載されている可動兵装担架システムを小型化し、一基を腰部に搭載したものである。
これにより、予備弾倉や小型ドロップタンク(使い捨て外付け小型燃料タンク),新開発の手榴弾 等小型で軽量の物を搭載することが可能になった。
更に、スタングレネード、小型ショットガン等の装備も開発される事になった。

このシステムは、吹雪で初めて搭載される事になり、不知火にも同様の機構が採用される事になった。
その後に開発された、帝国軍の戦術機にはほぼ全て搭載される事になって行く事になる。



2-3 追加装甲

鞍馬の装備されている前面装甲に施されたクレイモアのように散弾をばら撒く事ができる追加装甲。
ただし、鞍馬の基本コンセプトとしてはBETAに接近される前に距離を取る事が求められているため、
BETAの地下進行以外の場面で使われる事はあまり無い。
また、重量の関係から鞍馬以外の戦術機に搭載される事は見送られている。

ただし、拠点防衛に限れば撃震に搭載する事も検討されている。
この案は、鞍馬と撃震の全面装甲の形状が完全に一致している事から、導入コストも抑えられると考えられている。



2-4 98式管制ユニット

1998年に帝国軍及び斯衛軍に制式採用されたこの98式管制ユニットは、次世代CPUの開発により既存のシステムを小型化し、
空いたスペースに衛士の生存性を高める新機能を搭載する事に成功した新型管制ユニットである。

また、98式管制ユニットは小型化によって完全ブロック化を実現する事になる。
ブロック化により、独自の装甲を有することになった98式管制ユニットは、装甲を爆薬で強制排除した後、
98式管制ユニットに取り付けられたグリップをメインアームで掴むことにより、戦術機で管制ユニットを容易に回収する事が出来るようになった。
98式管制ユニットは稼動兵装担架システムに搭載する事が出来るため、一機の戦術機が最大4人の衛士を管制ユニットごと救出する事が可能である。
そして、管制ユニットのブロック化は予備機があれば、管制ユニットを乗せ替えるだけで再出撃すら可能という、
整備に関しても劇的な変化をもたらす可能性すらあった。

98式管制ユニットの特性は、ブロック化だけに留まらず、慣性力(G)を低減するための機構を搭載することに成功していた。
この機構は、他人の戦術機機動にあわせて強制的に揺さぶられる事になる救出された衛士の事を考え搭載が検討されたものであったが、
実装された時には予想以上の性能を見せ、通常の戦闘時にも衛士の負担を軽くする事に成功していた。

その特性に着目した御剣電気は、98式管制ユニットに搭乗制限を限定解除するショートカットコマンドを装備することを提案した。
搭乗制限の解除はある意味ドーピングのようなもので、衛士と機体の負荷をかけることを引き換えに、
一時的ではあるが機体の性能を上げる事ができる設定だった。
それが、98式管制ユニットによる慣性力の軽減で、衛士の負担が緊急時に使う短時間なら十分許容できる範囲に収まると考えられたのだ。

この提案によって装備される事になったシステムは、通称『フラッシュモード』と呼ばれ、ボタン一つの操作で搭乗制限を30秒間限定解除し、
機体性能を10%押し上げる事に成功した。
ただし、フラッシュモードは主に緊急時の対応に使う事を想定されており、再使用に3分間のインターバルが必要という制限が付く。
一部の技術者からは、たかが10%の性能向上をたった30秒間だけで何ができると言う意見の者もいたが、
この僅かな差が生死を分ける場面において重要な役割を果たす事になって行く。



2-5 戦術機揚陸用オプション

吹雪の跳躍距離を延長する事を求めていた帝国海軍に対して、御剣重工が提案する事になった弐型用のオプションパーツ開発プランである。
その計画書には、まるでサーフボードを使って波に乗っているような、不知火の挿絵が描かれていた。
吹雪よりも重量がある不知火・弐型で採用する計画だったので、搭載重量的には十分すぎる余裕があると考えられていた。



2-6 ランドセル(仮)/新型ドロップタンク

ランドセルを前側に装着しているような、少し間抜けとも思える状態で装備する戦術機用のドロップタンクの開発プラン。
連続稼働時間延長のための対策は、戦場に駆けつけるまでの間に消費する推進剤や電力を外部のパーツから供給する事で、
戦場に着いた時には本体に残る推進剤や電力が満タンの状態にするという案である。

ドロップタンクは、航空機では使い古されたアイデアだったが、戦術機においては武装を圧迫する事もあり、
あまり普及しているとはいえない装備である。
このランドセルには、独自の推進ユニットが装備されており、機動力を確保する目的のほかに着地時のバランスを取る事も考慮されている。




3.その他

3-1 WD

1994年、御剣重工が開発した新型強化外骨格。
この新型強化外骨格の開発コンセプトは『着る強化外骨格』で、今までの強化外骨格に比べて大幅に小型化された物である。
本来は、対兵士級を想定して考え出したものであるが、開発当時は兵士級が確認されていないため、
室内での戦闘や戦場に出る全ての歩兵が装備することを前提にすることで本来の目的をごまかし、開発が進められる事になった。

新型強化外骨格の外観は、衛士強化装備の一部に外骨格が張り付いている程度の状態から、追加装甲で古の鎧武者のような状態まで変えることもできた。
その運動性は、追加装甲搭載時に装備の重さを実感させない程度のものであったが、装甲に関しては顔面や首周りの強化が施されているため、
闘士級の攻撃により一撃で戦闘不能になる事が無いように設計されている。
また、小型化により人間に近い動きが可能となっており、時間制限はあるが狭い空間での移動や匍匐前進等も問題なく行えた。
この新型強化外骨格は、WDと呼ばれ一般兵や室内での護衛任務につく者に親しまれることになる。



[16427] プロローグ
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/03/08 18:31



「ふー、また一つの世界を制覇してしまった。

 しかし・・・」


私はそう言って、メガネをいじりながら、今までやっていたゲームの画面を眺める。

パソコンの液晶画面に映るゲームの題名は、『マブラヴ オルタネイティヴ』。


このゲームを大雑把にいうと、BETAと呼ばれる地球外生命体に侵略されつつある世界で、主人公たちが戦術機と呼ばれる人型ロボットに乗って戦うというものである。

その他にも色々重要な設定があるが、その部分は実際にゲームをプレイしてみる方が良いだろう。

とにかくここで重要なことは、燃える展開に人型ロボットとつぼにはまる内容ではあるのだが、エンディングを迎えても救われる要素があまり見られないと言う事である。

物語の最後は、めでたしめでたしで終わることが信条の私としては、不完全燃焼とも思える終わり方だったのだ。


「アーー、くそう。どーにか何ねーのかな。」


そう声を出してみても、物語の結末が変わる訳も無く、液晶画面はゲームのスタート画面を映し出していた。


しばらくの間ゲームで疲れた目を閉じていたが、唐突に面白いアイデアが浮かんで来たためそれを実行に移すことにした。

そのアイデアとは、自己満足で終わるかもしれないが救われそうなオリジナル設定を考える事だった。

私は、何かに取り付かれてしまったかの様な衝動に突き動かされ、設定を考えていった。


「だめだ、妄想が止まらない。何かのために書きとめておこう。」


そして、メモ帳を起動し設定を書き出した。

私が考えた設定のコンセプトは以下のようなものである。

・今、流行り?のオリジナル主人公で行こう。
・主人公は、ハッピーエンドで終われそうなギリギリの能力にする。
・歴史の改変が狙えるように、ある程度の金と権力を持たす。


設定を考える途中で、何度か手が止まる事があったが、ネットで調べた公式設定を参考にすることで問題を解決した。

その後、一時間ほど作業をして仮決定した主人公の設定がこれである。


国籍:日本
所属:武家(赤の色を許される家柄)
年齢:23(2001年時点)
身長:180㎝
体重:72㎏
属性:中立・中庸

ステータス(能力):筋力 D/魔力 E/耐久 C/幸運 A/敏捷 B/宝具 -
スキル:
騎乗 B ・・・騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
直感 A ・・・戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。研ぎ澄まされた第六感はもはや未来予知に近い。
カリスマ B ・・・軍団を指揮する天性の才能。カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。
透化 B+ ・・・明鏡止水。精神面への干渉を無効化する精神防御。
黄金律 A ・・・人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。


能力は、分かりやすくF○te方式で書いてみた。


荒筋は、
この主人公が本編開始前に起業し、戦術機等の兵器を改良。
無理の無い範囲で、実戦に参加し軍事的な名声を得る。
本編開始後は香月博士に協力して、横浜基地の戦力を強化。
本編主人公たちの部隊(A-01)にかかわり、戦闘力の向上を図る。
そして、最後の戦にA-01部隊全員が生存状態で突入できれば、何とかなるかな?
という内容だった。



「うーむ、この能力で本当にギリギリか?」


一応、アサ○ンのステータスを少しいじり、ラ○サーと同じ数のスキルを持たしてみたのだが、宝具が無いとはいえ少し優遇しすぎなのかもしれない。

原作中で、約一名互角以上で戦えそうな人物がいるが・・・、やはり歴史に名を残す英雄の能力をランクダウンさせずに使うのは、問題が多そうだ。

しかし、これ以上弱くすると燃える展開になった時、主人公が空気化or死んでしまう恐れが・・・。


いや、ギリギリを攻めると誓った事を忘れてはいけない。

そう、初心を忘れるのは良くない事だ。


「よし、ここは幸運と敏捷をワンランクダウンした上で、騎乗とカリスマを削除すれば・・・。

 どうだ、この設定ならギリギリだろう!」


無駄に気合の入った独り言を言い、キーボードを操作し設定変更をしようとした・・・その時。

急にパソコンの画面が真っ青になり、続いて奇妙な文字が流れだした。


「何だこれは?」


キーを何度か操作するが、まったく操作を受け付けない。

奇妙な文字の中に、先ほど書き込んだ設定が含まれているような気がしたが、私はパソコンを再起動させる事を優先することにした。


そして、私が電源ボタンに手をかけようとした時、


私は液晶画面に吸い込まれてしまったのだった。























液晶画面に吸い込まれてしまってから、どのくらいの時間がたったのだろうか・・・。

私はまるでまどろみの中にいるような、はっきりしない頭の中でそう考えていた。


しかし、このあやふやな感覚は突然終わりを迎える。

目を刺すような強烈な光を受け、私は意識を取り戻した。

その時私は、何かの衝動に駆られるように大声を出して泣き出してしまった。


「オギャー、オギャー、オギャーー。」


体が・・・、思うように動かない・・・、どうなっているんだ?

本能にしたがってだろうか・・・泣き続ける自分の声が頭の中で反響する中、私の耳元で自分とは明らかに違う人間の声が聞こえた。


「見てください。御剣さん、元気な男の子ですよ。」


私はその声に驚き、まぶしさと全身に掛かる倦怠感、それと本能に逆らい、目を開けようとした。


すると、一瞬だけ眼をあけることに成功する。

目を開けた時、大粒の汗を額に流している女性が微笑みながら私に向かって、手を伸ばしている光景が写りこんだ。

私は何が起こったのか分からず、混乱する事になった。


何だ、さっきの光景は?
どうなっているんだ?
さっきの台詞とあの光景を総合して考えると、出産直後の分娩室?


だとすると、誰が生んだんだ? さっきの女性?
そして、生まれたのは私か? 私なのか?


私は思考の海に沈んでいたが、包み込まれるような温かみを感じ思考を中断した。


「ありがとう、坊や。無事に生まれてくれて…。」


私はその言葉を聴いて、なぜか心が安らぐのを感じると同時に、現状では何も手が出ないという事だけは理解する事ができた。



そして…、

私はどうしようもない睡魔に襲われ、再び意識を手放したのだった。




[16427] 第01話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/06/06 12:15



1981年、私がこの世界で目を覚ましてから3年の月日が流れた。

目を覚ましてから今まで、この世界のことを調べていて分かったことがある。

それは、この世界が『マブラヴ』の世界と大変似通っていると言う事である。


しかもほのぼの学園ものでは無く、地球外生命体に侵略されている方の『マブラヴ』に・・・。





1978年1月14日、私はこの世界に誕生した。 

生まれてから今まで、私がどの様に過ごしていたかは聞かないでほしい、精神年齢2○才の大人が意識のある状態であんな事をされていたという事実を、
黒歴史として葬り去りたいからである。

ともかく、生まれてからしばらくの間は倦怠感がひどく、深く思考するとすぐ睡魔に襲われる事になった。


それでも3ヶ月が過ぎるころには、この世界に来る前と同程度の思考ができるようになっていた。

そこで大人たちの目を盗んで、新聞 等を見てこの世界のことを学んでいった。

調べた限りでは1900年代半ばまでの歴史は、人物名が異なるなどの多少の差異はあるが、十分誤差の範囲内だと感じられるほど、私が前の世界で
学んだ事と近い歴史を歩んでいたようである。


しかし、ある時期から大きく歴史に変化が起きていた。

なんと、1950年代に米欧共同で月に基地を建造していたのだ。

しかも、火星を探索中に発見した生物が月基地を陥落させ、現在その勢力を地球まで伸ばしてきている。

そして、その生物に対抗するために開発された人型兵器の名が『戦術機』であることを知らされ、私はこの世界が『マブラヴ』であるという事を
理解したのだった。



この世界の現状を知る前の私は、1978年の生まれという事だけを頼りに、未来知識を生かして小金を稼ぎ、美人の奥さんでももらって優雅に楽に暮らす、
という間抜けな計画を立てていた。

しかし、この世界の現状を理解した時、それ以前に立てていた計画を破棄し、生き残るための計画を立てることになる。

なぜならこの世界が、原作にある2通りの流れのうちどちらに近い流れになろうと、遊んで過ごす事と死亡がイコールで結ばれてしまっているからだ。

ただ、幸いにも私は恵まれた環境に生まれていた様で、何も出来ないで死ぬことは免れそうだった。

この世界での私の名前は、御剣 信綱 (みつるぎ のぶつな)、名門武家である御剣家の長男として、この世界で生を受けたためである。




まず、この世界における私の立ち位置を詳しく説明したいと思う。


始めに、私が生まれた日本帝国についてだ。

日本列島と呼ばれる島国で発生したこの国家は、1867年に江戸幕府第15代将軍 煌武院 慶喜が統治権を皇帝に返上するという大政奉還が行われ、
国号が大日本帝国となり近代化の道を歩みだす。

国家体制は皇帝を大日本帝国の元首とし、皇帝より任命された政威大将軍(将軍)が、政務と軍の指揮権を委譲される形で国家運営を行う体制になる。

政威大将軍には、五摂家と呼ばれる五つの力のある武家から任命される事が決定。

その内訳は、早めに大政奉還を行うことで力を維持していた煌武院(こうぶいん)、倒幕派の最有力の武家であった斑鳩 (いかるが)、
有力公家としての歴史もある3家の斉御司 (さいおんじ)、九條(くじょう)、崇宰(たかつかさ)となっている。

首都は大政奉還後も京都に置かれ、東京(旧江戸)は経済の中心地として発展していった。


そして、先の大戦である第二次世界大戦(大東亜戦争)において大日本帝国は敗戦を迎え、1944年条件付き降伏を行い国号を日本帝国と変える。

日本帝国は降伏をしたものも、大戦中から顕著化していた米ソの対立(資本主義と社会主義の対立)により、米国の最重要同盟国として戦後復興を
遂げるこの事になる。

日本帝国の体制は、将軍の政務を補佐するはずの内閣総理大臣が事実上実権を握り、国の統治を行うという体制に変わった。

ここで、将軍の影響力は大きく減じる事になり、現在も政治・軍事共に影響力は回復していない。




次は、この世界の私の実家である御剣家と家族についてだ。

御剣家は、代々の党首がその名の通り剣によって武名を轟かせて来た有力武家である。

御剣家が伝えてきた武術を修めた者が、代々の皇帝や将軍,五摂家の護衛に付いていた事や、数代前の当主が煌武院家当主の妹を娶った事などから、
最も青に近い赤といわれる家である。

しかし、大政奉還で決着した1800年代半ばの幕府と他大名の争いに中立を貫いた事、大政奉還後も特定の派閥に属さない事、代々の当主が殆ど権力に
興味を示さなかった事で、現在まで大きな権力を持ったことがないようだ。

ただ、権力を持つたない代わりに、時の権力に左右されない独特の家風を維持している。



現在の当主は私の祖父がなっており、貴族院の議員を務めると同時に御剣本家にある道場の道場主も勤めている。

年の半分ほどを帝国議会出席のため京都で過ごしてので、不在の間の道場は母が管理しているようだった。

道場の流派は無現鬼道流、原作においてヒロインの一人 御剣 冥夜が収めていた流派である。

始めは気のせいだと思っていたが、グレン○イザーもとい紅蓮 醍三郎が道場に入るのを見かけたので、おそらく間違いないであろう。


そして私の父は、日本帝国斯衛軍の大尉を勤めており、最近は戦術機『撃震』に乗っていると自慢をしていた。

また、父は母の名前を使ってのサイドビジネスを行っており、それなりの成果を出しているようである。

父のサイドビジネスのことは詳しくは知らないが、たびたび私を会社に連れて行って社長室で遊ばせてもらえる事がある。

何でも、私が会社に居ると何故か売り上げが伸びるらしい。


最後に私の母についてだが、ある意味御剣家においてこの人物が一番重要人物なのかもしれない。

御剣家の裏方を取り仕切り、道場の中でも上位に名を連ね、表向きの会社社長として普段の社長業務も行う等、事実上御剣家のヒエラルキーの
頂点に君臨する人物である。

ただ、夫婦の仲は大変良好で見ているこっちが恥ずかしくなるほどである。




この環境で出来ることを最大限行い、生き残ってみせる。

そう心に誓ったのだが、正直言って何から手を付けたら良いのか分からない。


未来についての知識を暴露する?

なんら証拠がない中で、そんな事を言っても頭がおかしいと思われるだけだ。


香月 博士を頼る?

現時点で香月 博士は、おそらく7~8歳くらいで小学生のはずだ。
 
相談するだけ無駄である。


科学技術を未来知識を使って発展させる?

技術的なことはさっぱり分からない上に、話を聞いてもらえるほどの実績が無い。

 
 さて、どうしたものか。

















3択―ひとつだけ選びなさい

答え①ハンサムな信綱は突如必勝のアイデアがひらめく。
答え②異世界から仲間が来て助けてくれる。
答え③何も出来ない。現実は非情である。


















 はっ、こんな馬鹿な3択を考えている場合じゃない。


とりあえず出来る事から始める事にしよう。

私は体を鍛え、知識を蓄え、金を集め、いざと言う日に備える事にしたのだった。







自室で生き残るための計画を考えていると、祖父から呼び出しが掛かった。

何でも祖父が話したいことがあるらしい。

しかも祖父の書斎ではなく、道場の方へ来いというのである。


はて、何の用事だろう。

今日で3才の誕生日を迎えた私に、プレゼントでもくれるのだろうか?


私を呼びに来た母に連れられ、道場に行くことになった。

そして、今まで近づく事を許されていなかった道場に、初めて入ることになる。


母は道場への入口で、


「頑張ってくださいね。信綱さん。」


と声をかけてくれた。

何のことだが分からなかったが、取り敢えず


「分かりました、母上。」


と答えておいた。

しかし、道場に入った瞬間そう答えたことを少し後悔することになる。




私は初めて見る事になった道場周辺を見ながら、真直ぐ道場の入口まで歩いていった。

そして道場の入口についた後、


「御剣 信綱 です。失礼します。」


そう言って道場の扉を空け、中に入る事にした。

道場の中は数十人の大人が並んで座っており、異様な雰囲気を漂わせていた。

その雰囲気に気圧され一瞬立ち止まったが、道場の一番奥に座っている祖父を見つけ道場の奥へと足を進めた。

道場の中には、今日は遅く帰って来るはずの父や、先ほど道場の前で別れたばかりの母、道場に通う紅蓮 醍三郎 等の弟子が勢ぞろいしている様だった。


そして祖父の前で座り挨拶をする。


「御剣 信綱、ただいま参上いたしました。 」


「うむ 、信綱 面を上げよ。」


その声に促されて、私を顔を上げ祖父の顔を正面から見る。


「信綱 今日お前を呼んだのは他でもない。お前に、無現鬼道流について話をしようかと思っての。」


そういって、祖父は私を見て一瞬微笑んだ様に見えたが、すぐに厳しい顔つきとなって言葉を続けた。


「無現鬼道流は誰にでも教えると言うものではない。才無き者が学ぶには苦痛にしかならず。

悪意あるものが学ぶ事は、悪鬼を生み出すのに等しい。

今まで見た所心根の方は問題なかろう。後は、学ぶ才能が有るかどうかだが・・・。」


祖父が次に何を話し出すのだろうと思った次の瞬間、全身に悪寒が走りだした。




始めはこの全身を駆け巡る悪寒が何なのか分からなかったが、本能で祖父が放つ殺気の所為であるという事に気が付いた。

しかし、突然殺気を向けられる理由が分からない。

もしかして、これは才能が有るかを見るための試験なのだろうか?


生まれて初めて自分に向けられた殺気に、私の頭の中は混乱してしまっていた。

しかし、私の体は殺気に反応して殺気を放つ人物をにらめつけ、直ぐに動き出せるように腰をわずかに浮かした体勢を取っていた。


「ほう、本気では無いにしても、ワシの殺気を受けてにらみ返す胆力。これはなかなか・・・。」


しばらくの間、私と祖父はにらみ合っていたが、祖父が唐突に右手を上げた。

その瞬間、道場の両脇に座っていた人たちが一斉に立ち上がり、私に向かって殺気を放ってきた。


「さて、この状況、如何にして切り抜ける?」


そう言って、祖父は上げた右手を前に振り下ろした。



すると、立ち上がっていた大人たちが一斉に私に向かって動き出した。

しかし、睨み合いの間に冷静さを取り戻していた私は、祖父が手を振り下ろすより一瞬だけ早く、祖父に向かって駆け出したのだった。


「面白い、老人一人なら打倒できると考えたか。」


祖父は、駆け出した私に向かってそうつぶやき立ち上がる。


「うぉぉぉっ!!! 」


私は、気合を入れるために声を上げた。

その声を聞いて、祖父はニヤリと笑みを浮かべるのだった。

・・・おそらくこの声で祖父は、私が戦う事を選んだと思ったであろう。


祖父の出したこの考えは、一つの答えではある。
大人に囲まれた、この道場の中ではどの様に戦っても、勝てる要素が見出せない。
この中で私は最弱である上に、多勢に無勢であるためだ。
しかし、私が祖父に向かって駆け出した事で、少しの間だけだが一対一の状況に持ち込むことに成功する。
今の位置関係が、祖父と私の位置が一番近く、他の大人たちとは若干はなれているためである。
 

祖父は後ろに架けてある刀を手に取る暇は無いと考えたのだろうか。

その場で、私を迎え撃つために構えを取った。


座っている祖父の顔面に飛び膝蹴りでも叩き込んでやろうと考えていたのだが…。
ここにいたって、私の勝機は0になったといってもいい。
油断しているならともかく、しっかりと構えを取った祖父を打倒できると考えるほど愚かではない。


しかし、この窮地にも私の頭はすっきりと冴え渡り、最善の道を導き出していた。


この現状をひっくり返して、勝利を得る事が出来なくなった今、やることは唯一つ。
勝利が望めぬなら、負けないようにする。
そう、最善の道とは逃げることである。逃走こそが私に残された最後の道なのだ。


では、馬鹿正直に入ってきた入口に向かっていればよかったのだろうか?
いや、それでは道場を出る前に、確実に大人たちに捕捉されてしまう。


始めから逃走する事を考慮に入れていた私が、入ってきた入口とは真逆の祖父に向かって理由はただ一つ・・・。



そこに出口があるからである。



この道場に生まれて初めて入った私が、道場の奥に出口が有ると考えた理由、それは母の存在にある。

道場への入口で分かれたはずの母が、私を追い抜いて道場の中にいたという事実がその根拠だ。


そして、私は眼前に迫ってきていた祖父の拳に向かって突っ込み・・・・・・。


私は、祖父の股の下をスライディングですり抜けたのだった。






「「「「「「なっ!」」」」」」


大人たちの驚く声が聞こえたが、それ無視して私は次の行動にでる。

出口があるのは、恐らく左右のどちらか片方のみ…、どちらかは分からない。


なら、・・・後は本能に任して、突き進むのみ!


私は、スライディングの勢いを殺さず立ち上がり、右に向かって駆け出した。

そして、その先にある扉に手をかけたのだった。







祖父side


「うーむ、そろそろ信綱が来る時間ではないか?」


「父上、その様に心配しなくても良いではないですか。今、妻が呼びに行っておりますゆえ。」


「それもそうじゃが・・・。」

 
「お義父様、そろそろ信綱さんが参られますよ。」


道場に入ってから、何度目か分からぬやり取りを息子と交わしている時、ワシの左側から息子の嫁の声が聞こえてきた。


「おぉ、そうか。では、所定の場所に戻りなさい。 」


「承知いたしました」


そう言うと、息子の嫁は息子の隣に座る。



すると外から、元気な声が聞こえてきた。


「御剣 信綱 です。失礼します。」


そう言って、孫が道場の中に入って来る。

孫は扉を開けた瞬間、道場に居並ぶ大人たちに目を真ん丸くしていたが、直ぐに気を引き締めなおし、わしの前まで進んで来た。

そして、わしの5mほど手前で正座し挨拶をするのだった。


「御剣 信綱 。ただいま参上いたしました。」


「うむ 、信綱 面を上げよ。」


わしの声に促されて、孫が顔を上げる。


「信綱 今日お前を呼んだのは、他でもない。お前に、無現鬼道流について話をしようかと思っての。」


そういって、わしは今までの孫との思い出を反芻していた。

そこで、一瞬表情が緩んでしまった気がしたが、今日は御剣家に取っても無現鬼道流にとっても、大切な日である事を思い出し、気を引き締めなおした。


「無現鬼道流は誰にでも教えると言うものでもない。才無き者が学ぶには苦痛にしかならず。」


そう、才能が無い者にとってこの流派は、学ぶことは酷である。

もし、才能が無いのであれば他のことで、才能を発揮できるようにするのが孫のためでもある。


「悪意あるものが学ぶ事は、悪鬼を生み出すのに等しい。」


どうなるかは今の段階では分からないが、おそらくこの孫なら大丈夫であろう。

贔屓目かもしれないが、しっかりと志を持った良い目をしている。

最も、もし道にそれようとしてもわしが全力で性根を叩きなおして見せるがの。


「今まで見た所、心根の方は問題なかろう。後は、学ぶ才能が有るかどうかだが・・・。」


そう言って、わしは孫に殺気を叩き付けた。



すると孫は、直ぐに動ける体勢を取った上で睨み返してきた。

立ち上がるのではなく、やや前傾姿勢にして腰をわずかに浮かしている。

この体勢なら、相手に強い警戒を抱かせることがない上に、瞬時に動くことが出来る。


「ほう、本気では無いにしても、わしの殺気を受けてにらみ返す胆力。これはなかなか・・・。」


この段階で、わしは合格を決めた。

この炎のような闘志があれば、無現鬼道流の鍛錬に支障はないし、とっさに取った体勢からも武術の才能もうかがえる。



しばらくの間わしと孫はにらみ合っていたが、これ以上殺気を叩き付けても進展はないと考え、次の段階に進むことにした。

わしはこの試験を次に進める合図のために右手を上げる。

すると、道場の両脇に座っていた弟子たちが一斉に立ち上がり、孫に向かって殺気を放ち出した。

合格は合格だが・・・、後は孫の器がどの程度のものであるか見極めるとしよう。


「さて、この状況如何にして切り抜ける?」


そう言って、上げた右手を前に振り下ろす。

しかし、わしが右手を振り下ろすより一瞬だけ早く、孫がこちらに向かって駆け出して来た。


「面白い、老人一人なら打倒できると考えたか。」


わしは、駆け出して来た孫に対応するため立ち上る。


「うぉぉぉっ!!!」


そして、孫が放つ気合に思わず笑みを浮かべてしまっていた。


この状況で諦めずにわしに向かってくるとは、見上げた根性だ。
 
これは、明日からの鍛錬が楽しみで仕方が無いの。

しかし、現実の厳しさを教えるために、ここは痛い目に合わしておかねばなるまい…。


そう思いわしは、迎撃のための構えを取った。

そして、突っ込んでくる孫に対して拳を突き出した次の瞬間・・・・・・

孫は、わしの股の下を倒れながら滑り込むようにして、すり抜けて行ったのだった。




「「「「「「なっ!」」」」」」


わしと弟子たちは、思わず驚きの声を上げてしまった。

そして、わしは慌てて後ろを振り向いた。

そこには、今にも裏口に向かって駆け出そうとする孫の姿があった。


しまった、まさか逃げる事を考えていようとは。

孫は気配の遮断が上手く、隠れられると探し出すのが面倒になってしまう。

これは今日の試験は中止かの。

わしはもう追いつく事は難しいと感じながらも、孫を追いかけようとした。





しかし、孫の逃走は終焉を迎える。

裏口の扉に手をかけた孫の手を掴む者がいた為だった。


「あらあら、信綱さん、今日は大事な日なのですから。
お義父様のご用件が終わるまで、道場を出ることは許しませんよ。」


息子の嫁、つまり自分の母親に捕まってしまったのだった。


孫はしばらく暴れていたが母親に間接を決められ、元の位置に正座させられる事になる。


「ふー、まさか逃走する事を考えるとは・・・。信綱、もう何もせんから大人しくせよ。」


わしがそう言うと、孫はやっと大人しくなった。

孫の拘束を解き、皆が元の位置に戻ってからしばらくの間、道場には沈黙が流れていが孫がそれを破りわしに話しかけてきた。


「祖父さん、結局何がしたかったんだ?」


「いや、お前も今日で3歳になるじゃろう。見込が有るのなら、そろそろ鍛錬を始めても良い歳じゃ。

そこで伝統に則り、試験をしてみようと思っての。」


わしがそう言うと、孫は嬉しい様な困った様な、複雑な顔でこちらを見つめ返してきた。


「では、結論を出す前にいくつか、わしの質問に答えてもらうとしよう。

まず始めに、わしの殺気を受けてどう感じた?」


「・・・始めは何をされているのか、全然分からなかった。

でも、体が急に熱くなってきて・・・、爺さんの殺気に対応してた。」


「あそこで、始めから立ち上がらなかったのはなぜじゃ?」


「・・・あの時は体が勝手に動いて・・・、でもあの時は何をされるのか分からなかったから、立ち上がるのは不自然かなって思って…。」













それからいくつか質問を重ね、最後に一番気になっていたことを質問することにした。


「最後の質問じゃ、何故逃げる事を選んだのじゃ?」


「祖父さんが立ち上がった時点で、勝てる見込が無くなったから。

 道場の外に出れば逃げ切れる自信があったし・・・。」


ふむ、一応勝つ気ではいたのか・・・、しかもしっかりと彼我の戦力さを理解し、冷静な判断力も有るようじゃな。

普段は外で遊ぶ時意外は書を読むことしかしない、頭でっかちかと思っていたが・・・、本当に将来が楽しみであるの。


しばらく沈黙が流れたが、わしは結論を皆に伝えることにした。


「この者、無現鬼道流を修めるに申し分無き才を示した。

 明日から、無現鬼道流の鍛練に入りたいと思う。

 皆のもの、相違無いか!」


「「「「「「相違ございませぬ!」」」」」」


弟子たちの唱和を聞いて驚きの表情を見せる孫に、ワシは御剣家の将来は安泰であると確信するのであった。





[16427] 第02話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/06/06 12:20


1983年、私が無現鬼道流の鍛練を許されてから2年の月日が流れた。

この世界の体は非常にハイスペックで、子供としては動ける上に異常にカンも働く。

そのため、兄弟子達の予想を上回る事がたびたびあるのだが・・・。

本気になった祖父の攻撃は何故か避ける事が出来ない・・・、普段よりもカンが働かなくなるのだ。

有得ん・・・、私のカンは早々破られるものではない筈なのだが・・・、無現鬼道流は化物か?

そして、今日も私は攻撃をかわしきれず空を飛ぶことになる。







「信綱 様、朝でございます。」


私の一日は、女中の声で起きることから始まる。

時間は午前5時、私はその声に軽く返事を返すとすばやく服を着替えはじめる。

そして、女中にわたされる濡れ手拭いで顔を拭くと、急いで道場へ向かう事になる。


「おはようございます。」


「「「「おはよう。」」」」


私が朝の挨拶をして道場に入ると、既に数名の兄弟子達が柔軟運動をしていた。

兄弟子達は、鍛錬の開始より早く起きて道場の清掃をし、師匠が到着するのを待っているのだ。

本来なら私も掃除に参加するべきなのだが、まだ子供であるためしっかりと睡眠時間を確保するようにと言われ、不参加になっている。

また、醍三郎さん等の高弟の鍛錬は私の鍛錬とは異なる時間帯に行っているようで、私の普段の鍛錬は十名ほどの人数で行われている。


午前5時半、私も兄弟子達に倣い柔軟運動をしていると、師匠である祖父が現れた。

そして、全員そろって神棚に向かって礼をしてから朝の稽古が始まるのだった。



私が学んでいる無現鬼道流、それは古くから御剣家に伝わる武芸に、戦国時代により発達した多くの諸派を取り込むことで形作られ、
江戸時代に入り正式に体系化された流派である。

また、特に剣術を重視しており無現鬼道流剣術を収める者の中には、斬鉄を可能とする者もいると言われる程鍛練が行われる。

先の大戦である第二次世界大戦(大東亜戦争)において、諸派の多くが後継者を失い断絶・失伝する流派が相次ぐ中で、
無現鬼道流はそれを免れ現在まで伝承されてきた。

それはその伝承が一子相伝ではなく、その時の当主が見込みある者を選んで伝承してきたためである。

ただし、無現鬼道流の歴史上で御剣家以外の者が免許皆伝に至った例は、たったの3例しかない。

この事について、御剣家の者を贔屓しているのではないか?と言われることもあったようだが、歴代の免許皆伝者がその実力を見せることで、
それが事実とは異なっていると認識されるようになった。

無現鬼道流の名は武術家の中では有名であり、その実力が認められ無現鬼道流を修めた者(免許皆伝の者とは意味が異なる)が、
代々の皇帝や将軍,五摂家の護衛に付いてきた歴史がある。

ただ、無限鬼道流を修める者は裏方に徹するものが多く、露出が少ないため一般人も知っているというメジャーな流派ではない。



無現鬼道流には、一般的に武芸十八般と言われる武士が戦場で戦う術が伝えられている。

実際には細かく分けるとそれ以上の数があるが、主な内容としては、柔術・剣術・短刀術・抜刀術・薙刀術・槍術・弓術・砲術・馬術・水術・隠形術 等 がある。

無現鬼道流では、これらの内の一つないし複数の術を、平行して学ぶことになる。

ちなみに私は現在、柔術・剣術・砲術をメインに、短刀術・抜刀術・弓術・隠形術をサブとして学んでいる。

学んでいる数は多い気がするが、私の体は廃スペックもといハイスペックなので、この様な無理が成立しているのだ。

また、将来当主になるためであろうか、全ての武芸に関して奥義以外の型を一度はやったことがある。




朝の鍛練は、型を中心に教わり7時に終わりを迎える。

その後は食事の休みをかねて2時間の休憩を取り、9時から12時までさらに鍛練が行われる。

兄弟子達は休憩時間にも型稽古をやっているようだが、私の場合はその間、書庫に入り本を読む時間として使っている。

そして、9時からの鍛練は組み手中心の鍛練となるのだが、私は体が出来ていないため最後の30分だけしか組み手を許されていない。

この組み手の間、私は持てる限りの力を使って、兄弟子に挑んでいく。

どうせ何をやっても効きはしないと、開き直っているというのもあるが、正直に言うとどうにかして勝ちたいとむきになっているのだ。


今日の組み手の相手は、祖父である。

祖父を素手の組み手において打倒するのは至難の業である。

まだ、子供の私ではたとえ全力の打撃を叩き込もうと、鋼の様な体にダメージを与えることは出来ない。

また、間接技に持ち込もうとしても、技も力も向こうが上。

唯一の可能性は、顎に打撃を与えて脳を揺さぶる事だが・・・身長の関係でまったく届かない。


「うぉぉぉっ!!!」


そして今日も果敢に挑み掛かり、何時ものように天高く打ち上げられることになる。






「あーもー、もう少し背が伸びれば選択肢が広がるのに・・・。」


「こらこら、そんなに急いても仕方が無いじゃろう。

 今は基礎固めの時期じゃ、勝負の勝ち負けを論ずるには十年早いわい。」


「それでも、負けるのは悔しいじゃないか・・・。

 それと、祖父さんの攻撃は何故か反応が出来ないんだ・・・。

 兄弟子方の攻撃は、避けられないまでも反応することは出来るのに。」


私はそう言って、自分の感じている『カン』について、祖父に説明をした。


「ほう、お前にそのような力が備わっていたとわ・・・。

 しかし、他の者と違ってわしの攻撃を感じるのは、難しいじゃろう。

 武の境地には、無拍子や無念夢想といったものがあるゆえな。

 それに、牽制に面白いように反応するようでは、まだまだじゃ。」


祖父はそう言った後、大きな声を出して笑うのだった。




鍛練が終わり昼食を取った後は、座学や習い事の時間となっている。

家庭教師が付き、様々な事について教わる事が出来るのだ。

子供の体と大人の思考を持つことになった私は、異常に高い記憶力を持つことになったが、習い事において自分の能力を隠す事は一切していない。

この世界で教わることは、前の世界で教わった事と分野が大きくずれていたため、相手に警戒されることよりも、知識を蓄えることを優先したのだった。

そのお陰で神童や天才などと呼ばれる事になってしまった。

私としては子供の脳で大人の思考を繰り返した所為で、異常に記憶力がよくなっていると感じる程度で、決して自分が神童や天才と
呼ばれるべき存在では無いと認識しているのだが・・・・・・。

ともかく、自分の能力を隠していないお陰で、様々な家庭教師を呼び勉強に励むことが出来ていた。

そして今、一番力を入れているのが兵学の講義だ。

兵学の知識を、対BETA戦に生かせないか検討するためである。

あまりに兵学の講義が面白かったので、次回の講義がある前に武経七書のいくつかを読破してきた時には、さすがの家庭教師も目を丸くしていた。

その他に、母が茶道・和歌・音楽 等を学ばそうとする事があったが、私はそれを逃げ出し書庫に篭って読書を始めるので、
学ばす事を諦めてくれたようだ。

ただし、月に一回ほど、母の茶道に付き合わされることがある。


しかし、本日の午後の予定は何時もと異なり、父の会社に行く日になっている。

父の願いで週に一度、会社の方に顔を出すことになっているためだった。

私が会社に行く理由はただひとつ、何故か私がかかわった部門が急成長するからである。


例を挙げるとすると、ある社員が言った、


「最近、小麦の価格が高騰して、大変なんですよ。」


という言葉に対して、面倒くさくなり、


「小麦が無いなら、米を食べれば良いじゃないか。」


と適当に返答すると、その社員は、奇声をあげたかと思うと、


「そうかー、そうですよ。

 確かに、米の生産量には余裕があり価格もそれほど高騰していない。

 しかし、米をそのまま輸出してもヨーロッパや中東ではあまり好まれない。

 だが米を米粉にして、そのままか小麦粉とブレンドして輸出すれば・・・。
 
 御剣商事における現在の米の在庫は・・・、協力会社に・・・ ・・・、
 
 はっはー。いける、いけるぞー。」


勝手に結論を出して走り去ったと思えば、数日後に母から米粉の輸出プロジェクトが動き出した事を聞かされた。

そして、数ヵ月後に輸出が軌道に乗り、大きな利益を出すことになるのだった。

そのほかにも、「パソコン等への投資」「海水淡水化技術への投資」「水耕栽培による植物工場」「ヒート○ックモドキ生産」
「プラモデルの発売」「対にきび用洗顔料」「今までに無い、新しい音楽」「新キャラクター、電気ねずみ」等がある。



会社に到着し、車から降りると会社の前に立っていた、お姉さんが近づいてくる。


「こんにちは~。」


「お待ちしておりました。信綱 様。」


「別に、外で待ってなくても良いよって言ったのに・・・。」


「いえいえ、しっかりとお出迎えしませんと、社長に怒られてしまいますから・・・。

 それに、今回は私一人でのお出迎えにきました。

 以前に比べたら、各段に少なくなりましたでしょう?」


「確かにそうだけど・・・。」


以前私が会社に来た時、事業が行き詰っている複数の部署から人が集まり、私が自分の部署に来るように、あの手この手で誘うという騒ぎがあった。

それ以降は秘書が出迎え、社長室まで直行する事になったのだ。


「今日も、何時も通りでいいの?」


「はい、今頃は社長も首を長くして待っている事でしょう。」


その後、何時も通り秘書のお姉さんと軽い会話を交わしながら、社長室まで向かう。





 コン コン


「失礼します。社長、信綱 様がいらっしゃいました。」


「母上、こんにちは~、お仕事どうですか?」


「いらっしゃい、信綱 さん。仕事の方は、順調ですよ。

 今は大きな問題を抱えている部署も無いので、軽くお茶を飲んでから会社内をお散歩することにしましょう。」


母がそう言うと、さっきとは別の秘書の方がお茶と茶菓子を持ってきてくれた。

私はお礼を言ってお茶と茶菓子を受け取り、母と向き合ってお茶を飲むことにした。



私の母が社長を務める御剣商事は、元々は曽祖父が始めた会社である。

御剣家は、代々受け継がれてきた土地や財産があるため、特にお金には執着していなかったようであるが、先の大戦後海外に流出して行く
貴重な文化財や骨董品を回収・保存するため、曽祖父の代から貿易商を営むことになったようだ。

曽祖父は、骨董品以外はあまり興味が無かったようだが、周りの勧めもあり食料・資源・雑貨 等の輸出入を始める。

そして、祖父と父が事業規模を拡大させていき、父が結婚後は社長の名義を母に変更、株式のほぼ全てを御剣家が所持する形となる。

社長が母になった時点では、会社の規模は中堅といえる程度だった。

しかし、ある時期から急に会社の経営が順調になり、大手と肩を並べるようになる。

一時期、成長に限りが見え始めるが、私が会社に顔を出す日に限って、重要な取引が成功するというジンクスを発見。

ゲン担ぎに、特別顧問に私の名前を載せた所、会社が再度急成長を始めたのだった。

現在、日本国内において商社としてはトップクラスの規模となり、その他に、電気、科学、医療、繊維、食品、金融 等の
グループ会社を持つまでになった。

近頃は、10大財閥の仲間入りを果たすのではないか?

自動車、重工業、兵器 等の分野にも参入するのではないか?

と恐れられているようである。



小さなお茶会を楽しんだ後、私は母と一緒に会社の中の各部門を巡る事にした。

母が最初に言った通り、大きな問題がある部署は無かったようだが、私が行った部署では必ず元気な奇声が聞こえることになった。


「ヒャホー。」

「ゲッチュー。」

「まだだ、まだ終わらんよ・・・。フィーッシュ!」














各部署を巡り終わった私は、残りの時間を社長室でつぶし、就業後母と一緒に屋敷に帰り夕食を摂ることになる。




そして、夕食後から就寝する8時半までの間、普段なら軽い運動や読書をする所なのだが・・・。

今日は、以前から先延ばしにしていた自分の異常な能力について、そろそろ結論を出すことにした。


私が、持っている異常な能力。

それは、鍛錬中に起こる高い危機察知能力であろうか?

いや、この世界には俗に言う超能力者がいることだし、カンが良い事を異常だとは言えないだろう。


では、私が居るだけで会社が急成長するのは?
会社が急成長を始めた時期と、母が妊娠した時期が調度重なるという事は異常では無いのだろうか?

いや、ノーマルの『マブラヴ』において、御剣家は財閥を形成するほど大金持ちだった。
この世界では、ノーマルの『マブラヴ』における御剣家が、煌武院家と御剣家に分割されている様だが、私が知らなかっただけで
この世界の原作でも、御剣家が財閥を形成していた可能性は捨てきれない。















では・・・、私が乗り物に乗るだけで、その乗り方や乗り物の能力・特性を理解する事ができるという能力はどうだろう?

私がこの能力に気が付いたのは、馬術の鍛錬の時である。

私が初めて馬に跨った時、馬の乗り方と乗っている馬の能力と特性を全て理解してしまったのだ。

そして、師範がする馬術の説明についても、知らない事など何一つ出てくることは無かった。

もちろん、前の世界においても乗馬をした経験は無い。

さらにそれ以外でも、車・バイク・船 等の様々な乗り物で、私が知るはずの無い知識が流れ込んでくるのだった。


このような異常なことは、普通起こりえるはずが無い。


そして、私はある可能性に気づく・・・、気が付いてしまったのだ。

それは、自分がパソコンに吸い込まれる前に書いていた、『マブラヴ オルタネイティヴ』のオリジナル主人公に設定した内容と、
今の自分の現状が酷似しているということに・・・。


そう考えれば、私の異常な能力についても全て説明することが出来る。

そう、私が乗り物に乗るだけで、その乗り方や乗り物の能力・特性を理解できるのは、恐らく騎乗という能力のおかげ。

会社が急成長し金持ちになったのは、黄金何とかがあるおかげ。

カンが良いのも、直感?とか危険察知?とかのスキルを設定したせいだろう。

そのほかにもスキルを設定していた様な気がするが、すっかり忘れてしまっていたので確認が出来ない。

しかし、それでも十分異常・・・いや、チートとも言える能力を持って生まれたことだけは間違いない。




この時の私は、なぜもっとチートにしなかったのだろう、そうすれば悠々自適の生活を送れたのに・・・。

等とくだらない事を考えてしまっていた。

しかし、私はこの事を後に後悔する事になる。

私はまだ、『マブラヴ オルタネイティヴ』の世界で生きるという意味を実感できていなかったのだ。




[16427] 第03話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/07/10 09:03



1983年5月

この日、御剣家はあるニュースによって、大騒ぎとなった。

なんと、母に妊娠が発覚、既に妊娠三ヶ月目に入っている事がわかったのだ。

私が生まれてから早5年がたち、一向に次の子供が出来ないことから、新しい子供を半ば諦めていたため、
今回の出来事で皆が大騒ぎしているのだった。

私はこのニュースを聞いた時、純粋に弟か妹が出来ることを喜び、新しい子供を待ち望んでいたはずの母が、三ヶ月目になってようやく
妊娠が発覚したという事を全然気にも留めていなかったのだ。


私はその後、少しでも母の負担を軽減しようと無現鬼道流の鍛錬と小学生生活の合間に、出来る限り会社の手伝いをすることにしたのだった。

始めは、会社の規模が大きくなり私の事を噂でしか知らない人も増えたため、私が会社の経営に参加する事を良く思わない人もいた。

しかし、私が生まれた時から会社にいる人たちのサポートを受け、実際に利益を出していくと会社経営の一部を任されるようになる。

私は将来を見据えて、自分に与えられた権限の中で事業を拡大し、自動車・造船・重工業 等の兵器産業につながる業種を取り込む準備を始める。

手始めに主要重工業メーカーにあまり影響の出ない、下請け業者や小規模の企業を中心に買収を開始した。

これは、戦術機開発計画に変な影響が出るのを避けると同時に、将来御剣グループ単体で戦術機を開発するための基礎を作るためである。

私は徐々に拡大していく買収に満足し、余剰資金を基礎技術の研究開発費に投じていくのだった。






そして、運命の12月16日。


母が女児を出産し、母子共に健康であるという報告が私の耳に入ってきた。

私は何故か、病院に入ることを許されず、その報告を会社の執務室で聞くことになる。

しかし、この時の私は妹の誕生よりも、『煌武院 宗家に女児誕生! 名前は煌武院 悠陽』という衝撃的なニュースに意識を奪われていたのだった。



12月20日、母が退院し妹を連れて御剣家に戻ってきた。

愛すべき、新しい私の妹の名は『御剣 冥夜』。

原作における、ヒロインの一人である。

原作では古より煌武院家に伝わる、『双子は世を分ける忌児』という言い伝えにより、引き離され御剣家に養子に出される事になる人物である。

つまり、御剣 冥夜と煌武院 悠陽は実の姉妹として世間に知られるはずだったのだ・・・。




私の想定では、冥夜が御剣家に養子に来るのは、もっと後だと考えていた。

ではなぜ、初めから御剣家の子供として、誕生したという状況になったのだろうか?

ここからは私の推測でしかないが、妊娠検査の段階で双子であることが発覚した煌武院家は、様々な議論の末原作通りに他家へ
養子に出すことしたのだろう。

しかし、実際に子供が生まれたという事実があると、単純に養子に出しても後々後継者問題が発生する恐れがある。

そこで、

煌武院家との親交が篤い家

後継者問題に介入する恐れが無い家

子供が出来てもおかしくない年齢の夫婦いる家

煌武院家と何らかの血縁関係があり、顔が似ていることをごまかせる家

等の条件から御剣家が選ばれ、偽りの妊娠を行い、偶然にも同じ日に生まれた他家の子供とすることで、存在自体を無かったことにしようとした…。


といったところでは、無いだろうか。

華々しく誕生を祝われる姉 悠陽と、世間に知られること無くひっそりと祝われる妹 冥夜。

なんとも、対照的な二人である。

私は、冥夜に対し軽い同情の念を感じながらも、将来この二人に対しどのように対処するべきかを考えていた。

なぜなら、将来この二人は世界の運命に影響を与えることになるかも知れない、重要な人物になるからだ。

原作では、御剣 冥夜に兄がいたという記述はどこにも無い。

だからといって、まったく関りを持たないようにすると、原作を見る限り「何故、私は兄上に嫌われているのだろうか?」とか言って、
冥夜は勝手に傷つくのだろう。













私は、上手い対応策を見つけることが出来ない中、スヤスヤと眠る冥夜を眺めていた。


「これがあの御剣 冥夜か…。

 こんな赤ん坊が、将来すごい美人さんになるのだから、人間は不思議だな…。」


そう言いながら、ほっぺたを触ってみたり、頭をなでてみたりしてみる。

そして、冥夜の手に指を入れた時… …、冥夜が無意識の内に私の指を握り返して来たのだった。

自分の指を握り返してくる姿とその感触に、血はつながっていないが、確かに私はこの子の兄になったのだという事を実感する。


しかし次の瞬間、将来この冥夜がBETAと戦い死ぬ可能性が高い。

という事に気がつき、愕然とするのであった。

そう、原作にある最良のシナリオでは、わずか8名で敵根拠地に突入し壮絶な死を迎える事になるのだ。



私の頬には、知らず知らずの内に涙が流れていた。


「はは、情けないな。
 初めて出来た妹が死ぬかもしれないと考えただけで、これか… …。」


原作通りにすれば、少なくとも自分は死なないかも知れない…。

原作通りにしなければ、人類はBETAに勝てないかも知れない…等と考えた時もあったが… …。


「もう、私は…、いや、俺は迷わない。
 だって、妹を守るのが兄の役目だもんな・・・。」


そう言って、俺は冥夜をいつまでも見つめていた。




その日の晩、俺は家族の前で自分がこれから何をし、何を成したいのかを話すことにした。

家族に対して、全ての事を話すことは出来なかったが、

昔から日本がBETAに飲み込まれる夢を見ることがある。

夢とは若干ずれてはいるが、BETAの侵攻が確実に広がっている事実がある。

俺は、それに対抗するため力を蓄えることにした。

という内容の話をしたのだ。

家族、特に母はなかなか納得してもらえなかったが。

『俺は、BETAを…我が人生を賭して、倒すべき敵だと決めたのだ。』

と宣言をすると祖父と父が理解を示し、最終的には三人の説得により母も納得することになる。

この日から、御剣 信綱の激動の人生は幕をあげたのだった。













1984年、覚悟を決め様々な分野に手を出してきた俺だったが、今年で肉体年齢6歳で精神年齢は三十路 一歩手前になった。

精神年齢的にはそろそろ結婚相手を決めたほうがよい時期なのだが・・・。

現在、俺が自宅に次いで最も長い時間を過ごす場所は・・・ ・・・ ・・・ ・・・ 小学校。

そして、当然のように周りに居る女性は・・・ ・・・ ・・・ ・・・ 小学校一年生・・・ ・・・ ・・・ ・・・ 。

これでは、女性と言うより幼女だ。

どうすればいいのだろ・・・若干、精神が肉体に引っ張られている感じがあるが、肉体年齢が適齢期を迎えたとき精神が枯れていないかが
心配になってきた・・・。

結論が出ぬままに、今日も昼休みにクラスメイトを率いて、外に遊びに良くのだった・・・。







春…、それは出会いの季節、そして多くの人が新たな人生の門出を迎える季節でもある。

俺も今日、新たな人生の門出を迎えた一人である。

現在俺は、とある小学校の入学式に出席している…、自分が小学校に入学するために…。

周りの子供達が、皆緊張した様子で校長先生の話を聞いている中で、ただ一人俺だけが緊張とは無縁のだらけた表情を浮かべていた。

俺としてはこの様な式に出席する気は無かったのだが、初孫・子供の入学式にはしゃぐ家族を見て、家族の記念になるならと思い、
出席する事にしたのだった。



退屈な入学式がようやく終わり、各クラスに別れ教室に移動した後、生徒達の自己紹介が始まる。

俺が入学した小学校は、俗に言う名門小学校…俺のクラスメイト達の名を聞いていると、その殆どか有力者の子女だという事に気がつく。

俺はクラスメイト達の名前を、将来何かに使えるかも知れないと考え、邪な思いで記憶に留めようとしていた。

しかし、次の瞬間…、俺はある二人のクラスメイトの自己紹介によって、大混乱に陥ることになる。


「次、月詠真那マナさん。」


「はい! つくよみ まな です。
 こんごも、よろしくおねがいします。」


 パチ、パチ、パチ


そうか、あの子の名前はつくよみ まなと言うのか…、月詠 まな…月詠真那マナっと。

あれ… …?

月詠ツクヨミ…?、真那マナ…?

月詠真那マナだと!

なんか、知らんけど原作キャラ来た~~~~。


「次、月詠真耶マヤさん。」


「はい…。 つくよみ まや です。
 よろしくおねがいします。」


 パチ、パチ、パチ


しかも、姉妹?付きで~~~~。



原作キャラと会うとしてもまだ当分先だろうと考え、会った時の対応をまったく考えていなかった俺は、このショックのおかげで一時、
思考停止に陥る事になる。

自分の自己紹介の前に何とか復帰し、自己紹介を型通りの挨拶で終わらせたのだが…、その後も思考がまとまらず、先生の話す注意事項も
上の空で聞き流してしまうのだった。


その後の小学生活だが…、それなりに充実した日々が続いていく事になる。

内容は既に理解してしまっている授業も、教科書の丸暗記や持ち込んだ本を読むことで時間を有効活用しているし、
休み時間も周りの子供と遊ぶついでに、人脈を広げる活動に使っている。

子供達の考えることは単純だ…、上級生も知らない遊びや見たことも無いおもちゃが有れば、自然に集まってくる。

その後、力とほんの少しのユーモアを見せることで、俺は今や1年生グループの最大勢力のリーダー的存在になっていく事になる。


そして、小学生生活で一番懸念していた、二人の月詠さんについては… … … … …。

なるべく関らないようにしようという計画を立案したのだが…、その日の晩


「信綱、明日から月詠家から2人、無現鬼道流に入門することになった。
 二人ともお前と同級生じゃから、お前が面倒を見るように。」


と言う、祖父の一言により計画は破綻することになったのだった。

祖父は、変な悟りを開いたかの様な乾いた笑みを浮かべる私に、


「信綱、良かったの。
 二人とも将来美人になりそうな、きれいな顔立ちをしておるし、先方もどちらか一人なら嫁にやっても良いといっておる。

 これで、御剣家の将来は安泰かの~。」


と続け、満面の笑みを浮かべるのだった。






翌日


「「ほんじつより、むげんきどうりゅうににゅうもんした。」」

「つくよみ まや です。」

「つくよみ まな です。」

「「よろしくおねがいします。」」


「うむ…。二人とも元気があってよろしい。
 今後の指導は、各武芸の師範が行うことになるのじゃが、
 普段は信綱の指導に従うように。」


「「はい。」」


「信綱、昨日言ったように、二人の世話はお前に任す。
 しっかり、面倒を見るように。」


「はい…承知いたしました。
 真耶マヤさん、真那マナさん、御剣 信綱です。
 今後とも、よろしくおねがいします。」


「「よろしくおねがいします。」」


その日の鍛錬は、二人に基本的な型をいくつか覚えてもらった後、兄弟子達の型や組み手を見る見取り稽古をしてもらう段階で終わる事になった。






鍛錬後


「二人とも、御疲れ様。」


「おつかれさまです。ノブツナ くん。」


「おつかれさま。ノブツナ…くん。」


「二人とも初日にしては、ずいぶんきれいに動けていたけど、何か家の方でやっているの? 」


「そ そんなことはないよ・・・。そういえば、ノブツナ クンのかた、とってもきれいだったよ。
 ね、マヤもそうおもうよね。」


「そうかな? おししょうさまとくらべれば、あまりきれいとは… …。」


「あー、マ マヤそういうのは、だめだよ~。」


二人とも、というか真那マナさんだけだが…、家での習い事の話題をそらそうと必死になっていたので、適当に思いついた話題に話を切り替えることにした。


「あ、そういえば、真耶マヤさん、真那マナさんって呼びにくいんだよね。」

「せっかく、同じ流派を学ぶ事になったんだから、真耶マヤ真那マナって呼んでいい?

 俺の事は、信綱で良いからさ。」

 (出来れば、月詠さんが良いけど此処には、月詠さんが二人いるから、この呼び方が言いやすいな)


「うーん、でもノブツナ くんはあにでしだから… …。」


「マナはあたまがかたいな、ノブツナがいいっていうだから、ノブツナでいいんだよ。」


「マ マヤ、マヤがノブツナってよぶなら、わたしもノブツナってよぶ!」


「え~と、二人の結論は真耶マヤ真那マナって呼んでいいって事だよね?」

「「うん。」」



二人は、私の問いかけに笑顔を浮かべ、元気よくOKの返事をしてくれた。

俺はその二人の笑顔に、一瞬目を奪われることになる。



そして意識を取り戻した瞬間、一瞬でも目を奪われたという事実に俺は戦慄を覚えたのだった。

馬鹿な…、年々、女中や秘書のお姉さん方に興味が無くなってきたと思っていたら…、自分がロリコンになっていたなんて~~~。


「そ そうか…。二人ともありがとう…。あっ、あー…、そういえば、真耶マヤ真那マナって姉妹なんだよね?」


「ちがうよ、ノブツナ。しまいじゃなくて、いとこだよ。」


「そうだぞ、ノブツナ。どうみたらたらしまいにみえるのよ?」







俺が、適当に受け答えをしながら心の中で身もだえしている間に、真耶マヤ真那マナの二人は俺と一緒に御剣家で食事を取り、同じ車で小学校まで通学することになってしまっていた。

この日を境に、俺たち三人は学校でも、道場でも同じ時間を過ごすことが多くなっていくのだった。



[16427] 第04話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/07/10 09:04




家族の前でBETAと戦う事を宣言した日から、俺は本気で歴史(原作)を変えようと動き始めていた。

まず、考えついたのが原作で遅れていた新型戦術機の開発を加速させる事だった。

その目標を達成するため、御剣グループをさらに強化していき兵器産業に参入し、戦術機開発に名乗りを上げる事にした。

小学生2年生になっていた俺は、会社経営に時間を割くために、小学校と交渉し出席日数を半分程度にすることを決める。

これは、小学校に多額の寄付をすると同時に、絶対成績を下げないという契約の基に実行された。

そして、各種兵器の研究開発に投資する一方で、大型の企業買収を次々と行っていった。

ターゲットとなったのは、技術はあるが経営が拙く、業績が伸び悩んでいる企業。

そういう企業を買収後、御剣グループの経営ノウハウを活かし、経営をスリム化。

御剣の財力と俺の不思議能力で、新商品・新規事業を立ち上げ、会社を無理やり成長させていくのだった。











1986年、BEATと戦うことを決意してから2年と少しの月日が流れた。

ここで、BETA戦の状況を確認しておこう。

ヨーロッパ
1985年にヨーロッパへのBETA侵攻により、西ドイツ、フランスが相次いで陥落。
その後パリでの攻防、ダンケルク撤退戦に続いて、英国本土攻防戦が始まる。
そして、今年フランス領リヨンに12個目のハイブ建設が確認される。
現在、イギリス・スペインの国境沿いで防衛戦を実施中。

中東諸国
1984年にアンバールハイブ建設された後、現在エジプト国境沿いで防衛戦を実施中。

亜細亜
1984年に喀什(オリジナルハイヴ)のBETAが本格的な南進を開始し、大規模BETA群がインドに侵入する。
現在インド周辺の各国軍は、ヒマラヤ山脈を盾に東南アジア諸国と緊密な連携を保ちながら戦闘を続けている。

中国
核による焦土戦術のためか、現在本格的な侵攻を受けず、防衛に成功中。

ソ連
政府機能をアラスカに移すも、シベリア東部で防衛戦を実施中。


結論を言うと、既にユーラシア大陸の半分をBEATに占領されていることになる。



俺はこの状況を打開すべく、戦術機のパーツ生産を行いながら、戦術機開発に名乗りを上げるチャンスを虎視眈々と狙ってきた。

そして、今年に入りようやく戦術機主機やES(強化外骨格)の開発・生産ノウハウを持つ、遠田技研の買収に成功したのだった。

この事を切掛けにして、御剣重工は本格的な戦術機開発に乗り出すことになる。


しかし、思ったように戦術機の開発は進まなかった。

どうしたものかと悩んでいると、そこに耳寄りな情報が入ってきた。

それは、1984年に米国軍で制式採用された、第二世代戦術機F-15『イーグル』の開発もとである、マクダエル・ドラグム社が輸出を開始し、
ヨーロッパへの輸出攻勢を行うが、EU独自の戦術機開発の話もあり、現在のところ大きな進展が無いというものだった。

俺は知識の中で、今後F-15『イーグル』が広く世界で使われることになる傑作機である事を知っており、
EU諸国が輸入を渋っているのは今だけだと考え、マクダエル・ドラグム社にライセンス生産の話を持ちかける事になった。

ライセンス生産には様々な条件が付くものの、次世代機の開発には必要だと考え、すぐさま導入を決定した。

そして、遠田技研で得た技術を応用し『イーグル』を日本向けに改良することにするのだった。










ある日、俺は道場脇にある射撃場で砲術の鍛錬をしていた。

この射撃場は普段弓術の鍛錬で使われる事が多い、その理由は砲術があまり学ぶものが多くないというのもあるが、
火薬を使っての砲術訓練がご近所のことも考えて出来ないからである。

したがって、現在俺は弓術に使う的に対して、エアライフルによる砲術の鍛錬を行っている。

このエアライフルは、競技用に作られたもので、調整することで子供でも使える低反動の練習銃として使える優れものだ。

火薬の爆発音や匂いも無いので、道場付近で砲術の鍛錬をするにはこのエアライフルを使っている。

また実銃での鍛錬は、月に数回狩りに出かける祖父についていった時に行うことにしている。

まだまだ未熟者だが、だんだん弾丸の軌跡を感じられるようになってきた。

後は、標的の動きを感じ取ることが出来れば、それなりの狙撃手になると師匠に言われたこともあった。


「フフフッ。」


俺は鍛錬後に予定されている仕事のことを考えると、こみ上げてくる笑いを抑えることが出来ず、鍛錬中から奇妙な笑みを抑えることが
出来なくなっていた。

その事に気がついた人物が、私に声をかけてきた。


「どうしたのよ信綱? 変な顔をして…。」


真那マナ、どうせ信綱のことだ。
 ろくでもないことを思いついたのよ。
 多分、私たちの知らない所で、新しい遊びを見つけたんじゃないか?」


「そうなの? また、一人でどっかに行っちゃうんだ…。」


どうやら、早めに今日の鍛錬が終わったために俺の様子をのぞきに来たのだろう。

そして、最近一緒に遊ぶ時間が取れないことに、大変立腹している様子だった。


「え…、べ 別に遊びに行くわけでは…。
 仕事に行くんだよ、仕事に…。」


「そうなんだ…、お仕事に行っちゃうんだね。
 今日も私たちとはあそべないんだ…。」


真那マナ、母上がこういう時になんと言えば良いのか教えてくれたわ。
 たしか、『わたしと仕事、どっちが大事なの?』よ。」


「う…、そ それは…。」
 (まさか、こんな所でそんな御決まりの台詞を聞く破目になるとは… …)


「「どっちなのよ、信綱。」」


「二人の方が大事です… …。
 で でも、今日はどうしても外せない用事があるか………ら…。」


「「信綱~。」」


「は はい。今日は、二人をお誘いして、出かける予定でした。
 どうか、わたくしと一緒にお出かけしていただけませんでしょうか。」
 (もう、どうにでもなれ…俺は知らん。)



「いいの? 信綱。」


「しかたない、つきあってあげる。」





鍛錬の終了後、簡単に食事をすませ三人で家の前に止めてあった車に乗り込むことになった。

その後私たち三人は、家から1時間ほど離れた御剣重工のとある工場に到着する事になる。

そして、様々なセキュリティーを抜け入った工場の中には……。

様々な配線やアクチュエータがつながれた、大きな鉄の箱が並んでいた。


「「信綱、あれはなんなの?」」


「ああ、あれは戦術機のシミュレータだよ。
 あれで、戦術機に乗る訓練をするんだ。」


俺の説明を上の空で聞いていた二人は、しきりに凄いという発言を繰り返していた。


「二人とも…、次のブロックに行くよ。」


そう声をかけて、私は次のブロックへ足を進めることにした。

後ろから慌てたように、私の後を二人がついて来る音が聞こえる。

そして、重厚なドアが音をたてて開くとそこには… …4機の第二世代戦術機 F-15『イーグル』がハンガーに並んでいた。



「す、すごい! 信綱、あれはなんなの?」


「あれはなんだ? 信綱」


「あれは、『イーグル』っていう戦術機だよ。
 今度、御剣重工で研究のために生産することになったんだ。

 4機ある内の半分は、米国製で残りの半分は日本製になっている。
 これから、不具合のチェックとか、米国製と日本製で性能に差がでないかとかの実験するんだ。」


「「ふぅ~ん。そうなんだ… …。」」


「やぁやぁ、御坊ちゃんと御譲ちゃん方、どうかしましたか?」


私たちが、『イーグル』を眺めていると、不精ひげを生やした中年のおじさんが声をかけてきた。


「ああ、親方。
 今日は初めて実機の戦術機が工場に届いたと聞いたんで、出来れば実機に乗ってみようかと思ってね。」


「坊ちゃん… …、いくら会社の重役だからって、こいつに乗せることは出来ませんぜ?」


「はは、わかっているよ。
 ただ、シートに座るだけで良いんだ。
 その後は、おとなしくシミュレータで遊んでいるよ。」


「そのくらいなら何とかなりますが…、坊ちゃんあまり長い間シミュレータを占領しちゃいけませんぜ。
 なんせテストパイロットの奴らが、坊ちゃんがなかなか替わってくれないと嘆いてましたんで。」


「わかった、これからは程ほどにしておくよ。」



そう言って、私と親方は戦術機のコックピットへ歩いていった。

後ろで真耶マヤ真那マナが騒いでいる声が聞こえたが、私は初めての戦術機の魔力に負けコックピットに乗り込んだ。

そして、コックピットの入口を閉じ、戦術機の電源を入れる。

そこで、俺の体にありとあらゆるイーグルに可能な動きとその操縦方法の知識が流れ込んできた。


やはりそうか、シミュレータは厳密には乗り物とは違うから、騎乗の能力が発動することは無かったが実機に乗れば… …。


俺は、今までのシミュレータ訓練では感じることの出来なかった感覚に、大きな歓声をあげた。


「ヒャッホー、やった やったぞ!」

「これで、御剣は後三年は戦える。」











俺が、戦術機の中で騒いでいると、外から大きな声が聞こえた。


「坊ちゃん、いい加減出て来てくだせい。これ以上は、約束違反ですぜ!」


俺は親方の声に、我を取り戻し戦術機のコックピットから出ることにした。

コックピットを出た先には、怒った顔で親方と真耶マヤ真那マナの三人が待ち構えていた。


「「「信綱ッ(坊ちゃんッ)!」」」
 

「いや~、すまん、すまん。つい興奮してしまって… …。

 そうだ!真耶マヤ真那マナ、シミュレータに乗せてやる。
 ついて来い!」




そう言って、俺はその場を切り抜けるのだった。

俺用に作られた子供用の強化服に着替えた後、真耶マヤ真那マナの二人を近くにいたテストパイロットに適正試験を行うように伝え押し付け、
俺はシミュレータ訓練に挑むことにした。

俺は、先ほど感じ取ったイーグルの操縦を一つ一つ試していく。

始めは、今まで行ったことの無い機動に戸惑うこともあったが、次第に俺の操縦は滑らかになっていった。

そして、短時間ながらイーグルで出せる理論限界機動を出すことも出来た。

俺は最終的に、以前までの記録を大幅に上回るスコアをたたき出し、シミュレータ訓練をする事が道楽ではないことを証明する事に成功したのだった。

この日を境に、俺がシミュレータ訓練を行うことを止める者はいなくなり、その後専用のシミュレータが用意され、シミュレータでの動作試験を
一部任せてもらえるようになっていく。


そして、本日の真耶マヤ真那マナの適正試験結果だが……思いっきり、戦術機酔いに苦しめられることになった。

Gの負荷は堪えるが振動がまったく問題にならず、戦術機酔いを経験した事が無い俺は、二人の様子に困惑するだけだった。

こんな状況では、二人がしばらくシミュレータに乗ることは無いだろうと考えていたのだが・・・、俺が乗れるんだから私も乗ると持ち前の
負けん気を発揮し、今後も訓練を続ける事になる。

原作の月詠 真那マナを見る限り、二人に戦術機適正があることは間違いないので、
今から訓練を行うことは将来きっと役に立つだろう。

さらに、俺が一人でシミュレータに乗るより三人で訓練することで、二人に遊ぶ時間が減ったと文句を言われなくなる事を考えると、
歓迎すべき状況なのだが……。

衛士訓練に力を入れないと、将来二人の後ろで逃げ隠れする破目になる俺の姿を感じ取り、どうやって衛士訓練の時間をひねり出すか
必死に考えるのだった。





その後、マクダエル・ドラグム社からの協力もあり、イーグルの改修と戦術機開発ノウハウの蓄積は順調に進んでいった。

イーグルのライセンス生産の話を聞きつけた帝国国防省は、技術検証を目的とした試験導入の検討を開始する。

そして、順調なイーグルの改修と進まぬ次世代戦術機開発プロジェクトのことを考慮し、帝国国防省は御剣重工のイーグル改修機を陽炎(仮)として、
12機を試験導入する事を決定した。

しかし、ここに来て大きな問題が生じ始める、俺としては本格的な量産をするつもりは始めから無かったのだが、マクダエル・ドラグム社からの
要請とアメリカ政府からの日本帝国政府への圧力もあり、陽炎(仮)の本格量産の話か持ち上がってきたのだった。

その話は、当然のことながら次世代戦術機の開発を行っていた他の企業(富嶽重工、光菱重工、河崎重工)からの猛烈な反発にあう。

また、日本帝国政府内も米国派と国産派に分かれて対立することになる。


そんな中1986年8月18日、日米合同演習にて82式『瑞鶴』とF-15C イーグルのDACT(異機種間戦闘訓練)が行われたというニュースが飛び込んできた。

その戦闘訓練の中で、巌谷大尉が乗る瑞鶴がイーグルに勝利するという驚くべき結果が得られたというのだ。

偶然にもこのニュースを聞いた日は、接近戦闘能力を強化し伝送系を全て御剣電気製に交換した、日本向けのイーグル改修機である『陽炎(仮)』の
開発に成功した数日後のことであった。

その後の話し合いの末、陽炎(仮)は86式戦術歩行戦闘機『陽炎』として制式採用するものの、最大100機までの限定生産とする事と、
陽炎で第二世代戦術機の生産・改修技術を確保した御剣重工と御剣電気が、日本帝国の次世代戦術機開発プロジェクトに参加することが決定した。

これにより、戦術機の量産を行うという御剣の野望を挫くことが出来たと、他の企業は考えこの結果に満足する事になる。

しかし、御剣グループは米国側からの量産の圧力を政府の決定に従うと突っぱねることで、陽炎本格量産への設備投資を次世代戦術機の
研究・開発資金に振り分け、戦術機開発を一気に加速させるのだった。



[16427] 第05話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/06/06 13:09


御剣重工が日本帝国の次世代戦術機開発プロジェクトに参加して以降、企業間の足の引っ張り合いや意見の不一致を目の当たりにした、
俺はストレスを溜め込んでいた。

そして、プロジェクトに参加してから三ヶ月がたったある日、俺の戦術機改良案を御剣重工で検討し、その中でいけると考えたプランを
いくつか次世代戦術機開発プロジェクトで提案してみたのだが… …。

一から戦術機を開発したことも無い企業が… …。

新参者の癖に… …。

といった、くだらない意見で十分に検討もされず却下されてしまったのだ。

その話を聞いた時、俺の怒りは頂点に達した。

そしてそのことが、

国連において、日本帝国及びオーストラリアの常任理事国入りが決定(但し、日豪の拒否権は20年間凍結)。

琵琶湖運河の浚渫工事始まる。

に続く、その年に国内で起きた3大ニュースに数えられる大事件に繋がることになる。


その事件とは御剣グループが、10大財閥、16大財閥とも言われた財閥群に対して買収工作に乗り出す、というものだった。


始めは静観の構えを見せていた各財閥も、グループ企業がいくつか買収され始めると、反御剣同盟を形成しだす。

しかし、元々あった財閥間の対立につけ込み仲違いさせると、御剣グループは一気に攻勢に出るのだった。

この買収劇は、会社関係者に俺の名前を入れておけば、大きな損失を出すことは無いだろうという、賭けだったのだが… …。

その賭けは見事に成功を収め、買収合戦が泥沼化する前に事態は収束していく事になる。

結果いくつもの財閥が解体・再編され、日本の経済界における勢力図を大きく変わることになった。

1988年2月現在ではまだ決定ではないが、恐らく日本の財閥は6個まで数を減らすことになるだろう。

その中で御剣財閥は、上から5番目の地位を占めることになりそうだった。

そう、上から5番目だ。

けして下から2番目では無いのだ、ここは重要なので覚えておくように…。






御剣グループが財閥群に買収合戦を仕掛け、それに勝利し御剣財閥と呼ばれるようになったことは、次世代戦術機開発プロジェクトにも
大きな影響を与える事になる。

次世代戦術機開発プロジェクトに対する協力を今まで通り続けることを条件に、次世代戦術機開発プロジェクトの技術を生かした、
別の戦術機開発を行うことを許されたのだった。

俺がここまで新たな戦術機開発にこだわった理由は、このままではBETAが日本に侵攻してくる前に、現行の次世代戦術機開発プロジェクトで
生み出されるであろう、第三世代国産戦術機『不知火』の本格量産が間に合わないことを確信したためだった。

F-15C『イーグル』の早期導入と御剣財閥の参加で、開発速度は加速するだろうが、元々高機能,高コスト,低発展性の機体ゆえ現行案の不知火では、
本格量産には問題が有りすぎた。


また、イーグルを導入したアメリカでさえそのコストゆえに、F-16『ファイティングファルコン』を導入し「Hi-Low-Mix」のLowの部分を
担わせざるおえない状況に落ちいっていた。

ファイティングファルコンが導入されたのは、イーグル開発完了から2年も後の話なので、不知火の生産開始後から低コスト機を開発しても、
BETAの日本侵攻前に十分な数の次世代戦術機を揃えることは不可能に近い。

つまり、日本帝国は多くの第一世代戦術機『撃震』を抱えた状態でBETAの侵攻を受けることになるのだ。

無論、撃震が役立たずというわけではない、防衛線を構築した上での戦闘や市街地戦 等、BETAの進行をある程度拘束した状態でなら
活躍の場が期待されていた。

しかし、原作で語られたような電撃戦に近いBETAの進行の前では、機動力の低さが致命的な問題になってくる。

撃震では戦場に取り残され、補給に戻ることすらかなわず撃破される恐れがあるからだ。

俺は原作で存在しないはずの御剣財閥を使って、この時期に不知火の低コスト機として第三世代国産戦術機『吹雪』を開発することにしたのだった。




そして、これらの出来事は俺の心境にも大きな変化をもたらしていた。

財閥解体と御剣独自の戦術機開発を指示してから、俺の中である思いが膨れ上がってきていたのだ。

それは、本当に自分の選択が間違っていないのか?という思いである。

自分が、御剣財閥を指揮して世界を引っ張っていく事に、不安を感じ始めたのだった。

ただ・・・、これは未来を変える事自体への不安ではなく、俺が主導する事が正しい向きになっているか?という不安である。

正直に言って、今の俺が企業を経営していくにふさわしい能力を持っているとは思えない。

また、2000年ごろまでなら未来知識で正しい経営の方向性がなんとなく分かるが、それ以降の経営方針が俺には無い。

この状況で、世界を導くという立場に収まることは問題では無いだろうか…。

あくまで俺は、お金が集まる事を除けば身体能力が高く記憶力が良いだけで、まったく新しい発想で戦況を覆すような天才ではない。

最近は、天才の名は香月博士にこそふさわしいと、つくづく実感する日々だったのだ。

では、自分が世界を導く才能がなければ、どのように対処すればよいのか?



俺の出した結論は、自分で全ての事をやらない、わからない部分は他人に任せるというものだった。

計画の作成はあくまで俺以外の天才・秀才たちに丸投げして、俺はその話を聞きながら最終的な決定だけをすればよい。

まるで、どこかの王様のような考え方だったが、その考えは俺が積極的に指導するより、よっぽど上手くいきそうな気がするのだった。



また、これからは軍の改革も必要になるだろう。

軍は外部から改革しようとすれば、武力で訴えてくる可能性がある厄介な組織だ。

軍の改革はあくまで、軍内部から行わなければなら無いという事だろう。

現在、父親や醍三郎さんのように斯衛軍の知り合いは多いが、帝国軍や国連軍に所属している大物の知り合いはいない。

そして、これから帝国軍や国連軍で大物になりそうな知り合いも無し…。

これは、自分で動き回ってコネを作るしかなさそうだ。



俺はこれらの結論に達してから、本格的に御剣財閥以外の力を求める事を考えるのだった。






2月中旬

帝国議会で、衛士の育成を主眼に置いた全面的な法改正が可決され、義務教育科目の切り捨てや大学の学部統廃合が始まる。

というニュースが飛び込んできた。

この事は以前から噂になっていたのだが、ここに来て急に法案が可決されることになったのは、恐らくインド亜大陸の戦況が
思った以上に悪かったためだろう。

それを示すかのように昨年から日本帝国軍は、国内展開専任部隊として本土防衛軍を創設するなど、軍の再編を急いでいるようだった。

俺はこの教育基本法全面改正を機に、一気に進級を進め社会的な足がかりを作り、将来的に軍に入隊することを家族に伝えることにした。

そして、御剣財閥は急に大きくなりすぎた事と、俺のワンマン気味の経営が今後問題となる可能性があるため、段階的に俺が関る比重を削減していき、
しばらくの間御剣財閥での仕事を最小限に抑えることを宣言するのだった。



今回の教育内容改訂で、進級するチャンスが年二回となり予定通りに進級が進めば、4月に5年生,9月に6年生,来年3月には
小学校を卒業出来るはずだった。

今の知識量を考えると小・中学校を卒業することは問題が無い、したがって高校入学までには時間的余裕がある。

そこで、俺は今まで暖めてきたある作戦を実行に移す事にしたのだった。


俺は今まで、ありとあらゆる伝を使って煌武院家に出入りできるよう話を進めていた。

俺が、煌武院家に出入りしたかった理由…それは冥夜と悠陽を仲良くさせたかったからだ。

妹を幸せにする事は、兄として避けては通れない道なのである。


そして、1990年6月になってようやく悠陽と面会する事が許されるようになった。

そこで俺は護衛や侍女に見えないように、妹である冥夜の写真を見せる事に成功する。

まだ6歳であったが聡明な悠陽は、自分と驚くほど似ている他人に強い興味を持ったようだった。

その後、会う度に護衛や侍女に気づかれないように冥夜の事を少しずつ話していった。

また、それと同時に妹の冥夜にも家族に隠れて悠陽の事を話していった…。









そして、俺を通じて手紙のやり取りを始めた二人は、次第に会いたいと言い出すのだった。

この状況は、ある程度予想していたことだったが、実際に二人を会わせる計画を立案するにあたって、大きな困難があることに気づかされる。

今の冥夜の能力では、煌武院家のセキュリティーを抜くことは難しく、悠陽を御剣家に呼ぼうにも冥夜が居るために
煌武院家が首を立てに振らないのだ。

そこで俺は一計を案じる事にした、夏休みを利用して冥夜が母親と一緒に、県外へ旅行に行ったように偽装したのだった。

それと同時に、悠陽に一日の休みが有るように取り計らう。

この偽装と悠陽の御剣家訪問には、まるで蛇のコードネームを持つエージェント並みの涙ぐましい努力があったのだが、ここでは割愛させてもらう。

ともかく、あらゆる人脈と裏工作のお陰で、悠陽を御剣家に連れて行くことに成功したのだった。




俺は、何がなんだか分からず呆然としている冥夜を、俺の部屋の押入れに押し込み御剣家に到着した悠陽の迎えに出ることにした。

俺が門を出たとき、丁度御剣家前に止まっていた大きな車から悠陽が下りてきた。


「お久しぶりです。悠陽様。」


「ノブツナ さま…、そのようなよびかたはいやともうしましたのに…。」


「はは、すまん。でも、悠陽が初めて御剣の家に来たんだ。
 最初だけでもカッコ付けさせてくれよ。」


「まあ、そうなのですか? 
 これが、おとこのかいしょうとおっしゃるものなのでしょうか?」


「いや…、それとはだいぶ違う気がするぞ。」


俺たちは、この様な会話をしながら御剣の屋敷に足を進めた。

こんな時でも、悠陽にはしっかりと護衛を兼務する侍女がついてくるのだが…、普段よりも護衛の数が圧倒的に少ないようだ。

それはそうだろう、御剣家と煌武院家の仲はいたって良好だ。

御剣家にも警護の者はいるので、信頼の証として最小限の護衛にすることにしたのだろう。

こちらの悪巧みに気づくことなく・・・・・・。


そして、悠陽お付の侍女への対処は家の女中達に任せることにした。

日ごろから、この侍女に大変御世話になっているという話を広めておけば、家の連中が接待攻勢にでることはわかりきっていた。

この接待攻勢により、見事に侍女を排除することができた。

これにより全ての障害は取り除かれ、ついに俺は無事に悠陽を俺の部屋に招き入れる事に成功したのだった。






「まあ、ここがノブツナさまのへやなのですか?」


「ああ、そして此処にいるのが妹の冥夜だ。」


俺はそう言って、おもむろに押入れの襖を開けた、すると中から冥夜が勢い良く飛び出してくる。


「あにうえ! なぜ、このようなばしょにかくれなければならぬのです……か…?」


押入れに入れられたことを怒る冥夜だったが、俺の隣にいる悠陽に気が付き怒りが尻窄みになっていく。


「あにうえ? こちらのかたは?」


「ああ、前から言っていた煌武院 悠陽だ。
 どうだ、お前に似てかわいいだろ。」


俺はそう言って、冥夜に悠陽を紹介する。


「あなたが、ゆうひさまなのですか?」


「そなたが、めいやなのですか?」


初めての対面に戸惑う二人だったが、直ぐに何かを感じたのか少ないながら会話をするようになってきた。

その様子を見て安心した俺は、見張りもかねて外で待機しようと思い、部屋から立ち去ろうとした。


しかし、俺は両方の袖を捕まれ、立ち去ることが出来なくなってしまった。


「「あにうえ(ノブツナさま)、どちらにいかれるのですか?」」


「いや~、後は若い二人に任せてといいますか、なんと言いますか…。」


「ほんじつは、ノブツナさまとあそぶということで、みつるぎけにまいったのです。
 それなのにノブツナさまは、わたくしとあそんではくださらないのですか?」


「さいきんのあにうえは、つくよみたちとあそんでいるときも、こうやってにげるのです。
 わたしとあそぶのが、おいやなのでしょうか…。」


「まあ、そうなのですか?
 ノブツナさま・・・、いもうととあそぶのも、あにとしてのやくめですよ。」


今日始めて会うはずなのに、なんと息の合った連携なのだろう。

双子、畏るべし!

これではまるで、俺がだめな兄貴みたいじゃないか。

そう思い、一応反撃を試みてみることにした。


「今日は二人を会わすことが目的だったんだ。
 だから、今日は二人で思いっきり遊んでもらわないと…。

 あまり、言いたくは無いが二人を会わすのを良く思わない人たちもいるんだ。
 だから、見張りとして外で待機しておくよ。」


「そのことは、うすうすかんじてはいたのですが・・・・・・、ですがノブツナさまをそとにまたすというのも……。」


「しかしあにうえ、あそぶといってもあにうえのへやには、あそびどうぐがありません……。」


「馬鹿な、この兄をなめるな。
 こんなこともあろうかと……、あろうかと……。」


俺は自分の部屋を見て愕然とした、そこには本が積み上げられているだけで、どこにも遊ぶ道具が見当たらないのだ。

これから、三人で御勉強というわけにもいかないし…。

まさか、二人に木刀を渡して遊びなさいと言うわけにも……。

数年前の俺の部屋は、新作のおもちゃで溢れていたのになんてざまだ。

絶望した! 二人を会わせるのに必死で、会わせた後の事を忘れていたなんて…。

自分の才能の無さに、絶望した。


俺がその場に崩れ落ちると、二人がやさしく励ましてくれるのだった。


「あにうえ、あにうえがいるだけで、わたしはうれしいです。」


「そうです、ノブツナさまはよていどおり、わたくしたちとあそべばよいのです。」


「そうかぁ、ありがとう二人とも。俺は全力でお前達と遊ぶことにするよ。」


俺達三人は、悠陽が偶然持っていた小さな人形を使って、ままごと遊びに興じることになる。




そしてその2時間後、再び二人は別れる事になった。

二人は別れを惜しんでいるようだったが、俺が再び会える機会を用意する事を約束すると、二人はようやく笑顔を取り戻してくれた。

俺は二人の笑顔に安堵しながらも、今度はどの様な手段で会わせようかと必死に知恵を絞ることになるのだった。

















 そういえば、俺が冥夜の部屋に遊び道具を取りに行けば、二人で遊べたんじゃないか?


「「だめです。」」


俺はその息の合った返事と、笑顔で怒るという二人の表情に戦慄を覚えるのだった。




[16427] 第06話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/06/06 13:56


御剣財閥誕生から、3年程が経過した1991年。

昨年より始まった大規模BETA群の東進により、ユーラシア北東部,東アジア,東南アジアは主戦場と化していた。

そして日本帝国は、BETAの東進を自国の危機と判断し、東アジア戦線への帝国軍派遣を帝国議会で決定する。

そんな激動の時代に、いよいよ第三世代国産戦術機のトライアルが行われ、富嶽重工,光菱重工,河崎重工,御剣重工の
四社合同で開発した『不知火』と、御剣財閥で開発した『吹雪』が量産機の座を争う事になった・・・。






現在俺は13才という年齢ながら、高校2年生をやり無現鬼道流を学び、会社の重役も務めるという多忙な日々を送っている。

そして、夏休み明けには高校3年生に上がり、来年の春には大学生をしている予定だ。

そんな俺が今いる場所は御剣重工の会議室、ここでは後二週間に迫った第三世代国産戦術機トライアルで行われているプレゼンテーションの
対策会議が行われている。

俺は吹雪の開発での苦労を思い出し、プレゼンテーションの内容を感慨深い思いで聞いていたのだった。

吹雪の開発に関して、当初の俺は開発を指示するだけで余り深く関るつもりはなかったのだが、吹雪開発には予想以上の大きな困難が
待ち受けていたために、深く関らざるおえない状況に陥る事になる。

開発が難航した理由は、不知火の開発にメインの人材が投入されていたために残っていたのが、経験はあるが考えが古いベテランと
知識はあるが経験が浅い若者が殆どだったためだ。

つまり、俗に言う油の乗り切った世代が不在だったのだ。

俺は人員不足をカバーするために、グループ各社から使えそうな人材を集めると共に、自分の特殊能力をフルに活用する破目になる。

俺が持つ特殊能力とは、乗り物に乗るだけでその乗り方や乗り物の性能・特性を理解する事ができる騎乗という能力だ。

俺は日々改良を加えられる不知火のコックピットに座ることでその性能や特性を感じ取り、それを吹雪と比較してどの部分が
どれだけ異なっているかを吹雪の開発者達に報告をするのだった。

これは、吹雪の開発には不知火というベースが有るからこそできる裏技に近いものだったが・・・。

ともかく、俺が指摘した所は多岐にわたり、それを抜粋すると以下のような事があった。


「不知火に対して、膝関節がふにゃふにゃしすぎじゃないか?
 具体的に言えば、強度が30%ダウンくらい。
 テストパイロットに、この程度の強度で実戦で通用するか確認してきて~。」


「この間不知火で導入したパーツを吹雪に導入すると、反応速度が3%ほど上昇するけど、コスト的にいるの?」


「このモーションをすると、ここの装甲が干渉しているんだけど大丈夫?」


「昨日交換した低コストのパーツだけど・・・、性能低下は1%以下だからそれほど性能には響かないよ。」





俺に深い工学知識が無いので具体的な利用は説明できていないが、実際に耐久試験やモーションチェックを行うと、言った事に近い結果が出るのだった。

そのため開発者たちから、コックピットに乗せるだけいい万能センサーやスカウターの様に扱われる事になる。

また、実機に乗らない場合でも実機とシミュレーターの違いを指摘し、吹雪のシミュレーターデータを揃えていった。

このことが、どれほど開発に影響を与えたかははっきりとはしないが、トライアルまでに吹雪を満足できる状態に仕上げることが出来ていた。

また、戦術機に乗っていると興奮してしまい、色々なお願いをしてしまう事があった。

それらは、開発者やテストパイロットの意見を聞いたうえで、一部が採用されることになる。







「他の企業からは、以上のような不知火についての報告が行われるはずです。
 次に、吹雪についての説明に入りたいと思います。

 吹雪は、不知火の低コスト生産機というコンセプトの基、開発された機体です。
 それゆえ、機体の60%は不知火のパーツをそのまま使用しております。
 したがって、今回は不知火とは異なる部分を抜粋してご説明します。」


1.装甲形状の簡略化
特に、上半身の装甲は簡素な形状に変更され、肩部装甲は限界まで切り詰められている。

2.主機・跳躍ユニットの変更
主機・跳躍ユニットに使用される部品の材質を見直すことで、コストダウンを図る。
ただし、これにより主機・跳躍ユニットの出力が8%ほど低下。

3.電子戦装備の制限
指揮官用の頭部ユニットを持った機体と情報をリンクさせることで、通常の吹雪に搭載されるセンサー類,対電子戦装備を必要最小限に抑えた。
指揮官用の頭部ユニットとの情報リンクは、不知火との情報リンクで代用可能。

4.ナイフシースの変更
不知火で前腕外側部に装備されている接近戦闘短刀格納モジュール、通称ナイフシースの場所を脇腹部に変更。
脇腹部より飛び出したナイフを、鞘から抜くようにして取り出す簡易な機構とした。
これにより、複雑な取り出し機構を簡略化しコストを削減、ナイフシースが有った部分には、小型のカナードが装備された。
総合的に前腕部の重量は軽減され、これにより前腕の稼動速度が向上した。

5.内蔵式カーボンブレードの搭載
前腕外側部に飛び出し式のカーボンブレードを装備。
65式接近戦闘短刀を抜く暇も無いときに使用される、補助的な役割を持つ。
収納時にはそれ自体も装甲として機能するように考えられており、重量増加を最小限に抑えている。

6.小型可動兵装担架システムの搭載
背面に2基搭載されている可動兵装担架システムを小型化したものを腰部に搭載。
これにより、予備弾倉や小型ドロップタンク(使い捨て外付け小型燃料タンク),新開発の手榴弾 等小型で軽量の物を搭載することが可能になる。


「以上の変更により、主機・跳躍ユニット出力の低下を機体の軽量化により相殺し、機動力・運動性の低下を最小限に留めることができました。
 したがってギリギリではありますが、帝国軍の要求と第三世代機の仕様を満たす機体となっております。

 ただし、ギリギリとはいえ紛れも無い第三世代機である吹雪は、現在帝国軍で配備されている戦術機をはるかに上回る性能を有していることは
 間違いありません。
 また、機体制御システムの改良により性能の底上げが可能、という報告も上がってきている事や、不知火とは異なりある程度の発展性を
 確保している事から、今後の性能向上が期待できます。

 そして一番重要な生産コストですが、現在予定されている不知火の調達枠の半分をいただけるとして、不知火10機のコストで吹雪は
 15機揃えることが可能です。
 もし、吹雪が現在のF-4J 『撃震』と同数の生産台数が確保されるなら、不知火10機のコストで吹雪は18機調達できるという試算も出ています。

 御剣重工といたしましては、吹雪と不知火のどちらかを選択するのではなく、二機をアメリカのF-16『ファイティングファルコン』と
 F-15C『イーグル』の関係・・・。
 つまり、『Hi-Low-Mix』での運用を前提に次期量産機として提案したいと思います。」


開発者による吹雪の報告が終わり、質疑応答の時間に入った。

様々な意見が飛び交う中、俺はトライアルでどうしてもやりたいことがあり、この場にいた御剣重工幹部に対して要求を突きつけることにした。


「俺は、吹雪の完成度に大変満足しているが、このままじゃ不知火に一方的に負ける可能性がある。
 なぜなら、有視界での撃ち合いや一撃離脱の戦闘なら性能はほぼ互角だが、それ以外の性能では不知火に劣っているのが現状だ。
 コスト以外でインパクトに欠ける吹雪は、頭のいい人たちなら重要性がわかると思うが、頭の固い連中にはまったく相手にされないかもしれない。

 今回のトライアルでは予定されていないが、同程度のコストで揃えた中隊規模でのトライアルを提案できないか?
 具体的に言うと吹雪12機対不知火8機もしくは、吹雪12機対不知火6機+撃震6機でだ・・・・・・。

 私見だが、面白い結果が得られると考えている。」


始めは、中隊でのトライアルの提案を渋っていた幹部だったが、中隊規模の第三世代機を揃えることで得られる戦闘能力の話を行い、
もし中隊規模でのトライアルで吹雪が負けるようなことがあれば、責任は俺が取ると話すと素直に了承してくれたのだった。









トライアル当日、俺は特別に招待されトライアル会場に来ていた。

しかし、トライアル中に行われる会議に参加する予定はない。

軍人さんは、こんな子供がいる事をよく思わないだろうし、何かあった時に俺自身が会議中に爆発してしまいそうだからだ。

会場をぶらぶらしていると、厳ついおじさんに出会う。

俺の方には、用事がなかったので会釈して立ち去ろうとしたところ、向こうから声をかけてきた。


「君が御剣 信綱君かね。私は巌谷というものだ・・・。」


何でも、この巌谷さんは帝国軍の大尉で衛士をしているらしい。

俺はその珍しい名字と衛士という話を聞いて、ある人物を思い出した。


「間違っていたらすみません、もしかして瑞鶴でイーグルを落とした巌谷さんですか?」


「ああ、私がその巌谷で間違いない。」


「あなたに会ったら、是非お礼を言いたいと思っていたのですよ。
 ありがとうございます、あなたのお陰で陽炎を本格量産せずにすみました。」


私のその発言に、巌谷さんは軽く驚いた表情を見せた。


「まさか、その事で礼を言われるとは・・・・・・、もしかしてそれは君なりの皮肉なのかね?」


「いえ、本心ですよ。

 元々、陽炎は研究のつもりで導入した機体だったので、量産の検討すらしていませんでした。
 それを、米国の方が乗り気になってしまって・・・。」


「そうか・・・、そう言ってもらえると気が楽になる。
 これでも戦術機の開発に携わっていたことがあってね。
 戦術機の開発の苦労を知っているだけに、イーグルを改修した者達の努力を無駄にしてしまったのでは無いかと、心配していたのだ・・・。」


「陽炎に対する投資が少なかった分、今回トライアルに出した機体たちに力を注ぐことが出来ました。
 ところで巌谷さん、今回のトライアルに参加した戦術機について、戦術機開発の先人として何か意見はありませんか?」


「それは、不知火に関してかね?
 それとも君が主導して開発した吹雪に関してかな?」


巌谷さんはそう言って、こちらを厳しい目で見つめてきた。


「もちろん、吹雪に関してのことです。
 現時点でも、不知火は疑いようが無いほど優秀な機体ですから・・・。」


「では、その不知火に全ての点で劣る戦術機を開発した理由は何かね?
 それを聞かないことには、私から言う事は何も無いな。」


「巌谷さん、訂正して下さい。
 何点かにおいて、吹雪は確実に不知火を上回っています。」


「ほう、ではその点を言ってみろ。」

 
「吹雪の開発コンセプトは低コスト第三世代機です。
 その吹雪が不知火に勝る点は大きく三つあります。

 まず一つ目は、稼働率と整備性です。
 吹雪は、その開発過程において極限まで無駄を省くことでパーツ数を減らし、一部の機構に第一世代機や第二世代機に使われている
 信頼性の高いものを採用しています。
 それにより、整備時間の短縮やパーツの確保が容易になりました。

 そして二つ目は、必要とする衛士適正が低い点です。
 不知火はその高い性能ゆえ、衛士に高い技量と適正を要求しています。
 このままでは、不知火に機種転換が行えず撃震に乗り続ける衛士がでてくる恐れがあります。
 それに対して、主機・跳躍ユニットの出力を抑え、軽量化により機動力と運動性を確保した吹雪は、衛士にかかる負担が軽減されています。

 最後が、生産性です。
 吹雪はコスト削減と同時に、生産に要する時間も大幅に削減することに成功しています。
 今後の対BETA戦では、優秀な戦術機を数多く揃えることが必要になります。
 そのことを考えると、撃震と入れ替えで導入するには、吹雪が最適な機体であるといえます。

 以上が、吹雪が不知火に勝る点です。
 したがって、吹雪は戦術機としての性能は不知火に劣っているものの、兵器としては上回っていると考えています。」


俺は、ここまでの内容を一気に喋り終えた。

巌谷さんは、俺の説明に少し考える様子を見せた後、さらに質問を投げかけてきた。


「君がそこまで、戦術機の量産にこだわる理由は何だね?
 幸い、帝国は対BETAの矢面に立っているわけではない。
 不知火でも十分数を揃える事ができると思うのだか・・・。」


ここで、未来知識から10年以内に帝国はBETAの進行を受け、国土の半分が蹂躙されることがわかっている事や、不知火の量産が思ったほど進まず、
多くの衛士が撃震で戦い命を落としていくことを知っているなどと言えるわけがない・・・。

俺は開発当初の理由を誤魔化しながらも、BETAが東欧に侵入してからヨーロッパを席巻しイギリスに進行するのに10年ほどしかかからなかった事から、
去年から始まったBETAの東進も10年ほどで帝国に到達する可能性がある事。

大陸に派兵が決定した今、帝国は不知火にだけ資金を注入することもできず、このままでは量産が中途半端なもので終わってしまう恐れがある事を
話していくのだった。

その後、話題が吹雪開発秘話に及んだところで、巌谷さんを呼びに士官の方が来た。

どうやら、これからトライアルの会議に出るらしい。

俺は去り行く、巌谷さんに対して声をかけた。


「巌谷さん、結局のところ吹雪はどうなのですか?
 教えてください。」


「実際に乗ったわけではないのでなんとも言えないが・・・、君の話を聞く限り悪くは無いと思うよ。
 なかなか面白い話が聞けた、信綱君 ありがとう。
 今度会う時は、戦術機以外の話が出来るといいな。」


そう言って、巌谷さんは去って行ったのだった。



この時の巌谷さんとの会話が、その後の会議にどのように影響を与えたか分からなかったが、この日のトライアルの結果は結論を先送りし、
後日行われる中隊規模での再トライアルで結論を出すことに決まった。

後日行われたトライアルでは、吹雪12機(二機が指揮官ヘッド)対不知火8機と吹雪12機(二機が指揮官ヘッド)対不知火6機+撃震6機の2パターンが
比較された。

吹雪12機対不知火8機のトライアルでは、運動性及び短距離の噴射跳躍を行う戦闘機動では互角の性能を有するため、戦闘地域が限定された
トライアルでは単純に数が多い吹雪が勝利する形になる。

吹雪12機対不知火6機+撃震6機トライアルでは、第三世代機の不知火と第一世代機の撃震という、戦闘機動力がまったく異なる機体を中隊規模で
運用・連携することの難しさが浮き彫りになり、連携の隙を突かれ撃震が全滅すると後は数に勝る吹雪の独壇場となった。

そしてトライアルの結果は、すべての対戦で吹雪を駆る中隊が勝利するという圧倒的な差を見せ付ける事になった。

その結果を受け、不知火をエース・特殊部隊用、吹雪を一般衛士用として採用するという結論が出された。

また、吹雪の独自装備となっていた内蔵式カーボンブレードと小型可動兵装担架システムについて、トライアル中に有効に活用される場面が
多くあったため、不知火への搭載が検討される事になる。

不知火の量産時には、不知火と吹雪の設計が近かった事と重量の増加が大きくなかった事から、不知火にも内蔵式カーボンブレードと
小型可動兵装担架システムが搭載される事になった。

今年中にも不知火の先行量産型40機、吹雪の先行量産型60機が帝国軍に納入され、実戦に投入される予定になっている。



俺は第三世代戦術機の実戦投入を機に、各社で開発した兵器を実戦で検証する実験部隊の設立を帝国軍に提案する事にした。

その話は各企業の共同提案という形で、帝国軍に打診された。

実験部隊は各企業の意向が強く反映するものだったが、戦闘員は帝国軍に所属する事,かかる費用は全て企業が持つ事,検証結果を全て帝国軍に
報告する事を条件に、帝国軍は承認を出すことになった。

各企業はこの実験部隊を使い、合同で新兵器・他国の戦術機の実戦データを取っていくことになる。







12月16日

本日は俺の妹である御剣 冥夜と双子の姉である煌武院 悠陽の誕生日である。

俺は悠陽からの招待で、煌武院家で開かれる悠陽の誕生日を祝う宴に参加することになっていた。

悠陽の誕生日を祝うと同時に、この宴の間に冥夜と悠陽を会わせるために、決して煌武院家の敷居をまたぐことを許されないはずの冥夜を、
俺の友人という設定で男装を施し煌武院家に進入させる事になった。

冥夜がばれずに煌武院家に入れる事になったのは、残念ながら俺の力ではない・・・、俺の母が協力してくれたためだ。

俺と冥夜が母に連れられて煌武院家まで来ると、悠陽の母親に出迎えられノーチェックで煌武院家の中に入ることができたのだった。




母が冥夜と悠陽の面会に協力してくれるようになったのは、俺が必死に説得したからだ。

俺が母を説得した理由?

何のことは無い、初めて冥夜と悠陽を会わせた次の日、旅行から帰ってきた母に二人を会わせた事が即効でばれ、説得するよりほか無い状況に
追い込まれたからだ。

幸いにもあの時点で、悠陽と冥夜の面会の事実を知っているのは母だけだった。

俺は、当時10歳だったのでギリギリいけるだろうと思い、母に甘えながら説得を開始する。

なかなか納得してくれない母に対して、最後の方は熱くなってしまい、


「本当の姉妹が離れ離れなんておかしいよ!」

「冥夜と悠陽には、必要なことだ・・・・・・。」

「俺は、冥夜と悠陽を幸せにするんだ!!!」(兄として)


とか適当な事をまくし立てたら、何故か協力してくれることになっていた。

何故だろう?

母は話の最後に、


「信綱さんと悠陽さん,冥夜さんは6歳も年が離れているのですよ?」


と良くわからない確認をしてきたが、俺はその問に自信満々で返事を返すのだった。


「それが、どうしたというのです。

 些細なことです。」(だって、兄妹だからな)


その後、母は悠陽の母親を説得することで、年に2回二人を会わせる事が出来るように取りはからってくれたのだった。




宴の中で目立たない位置にいた俺と冥夜は、頃合を見て悠陽とアイコンタクトを取り、悠陽の部屋へ向かう。

悠陽の部屋に到着すると、二人は互いの誕生日を祝うと共に久々の再開を喜び合うのだった。

そしてしばらくすると、俺も二人の会話に参加することになった。


「信綱様、冥夜の習い事は順調なのでしょうか?
 冥夜に聞いても、最近は詳しく教えてくれないのです。」


「ん? 最近の冥夜か・・・?
俺が直接見たわけではないが、無現鬼道の鍛錬に積極的に取り組むようになってきたらしい。
 祖父さんは、何か目標が定まったからだと言っていたが・・・。
 
 どうなんだ冥夜?」


「兄上! 私は普段通りに鍛錬をしているだけです。
 悠陽さまこそ、最近は習い事についての話を誤魔化すようになりました。」


「ん? ・・・悠陽も順調に習い事を修めているらしいぞ、特に最近は神野無双の鍛錬に力を入れていると聞いた。」


「信綱様・・・、冥夜には内緒にするようにと申したでは無いですか・・・。」


冥夜も悠陽も最近、のびのびと修行をするようになり、実力が上がっているようだ。

やはり、ライバルがいるということは、成長を促すいい材料になるのだろう。

俺はその後、何時ものように二人の遊びに参加していく事になる。

この時の俺は、この時間帯なら悠陽の部屋に誰かが来ることは無いだろうと油断していたのだった・・・。

これがある悲劇キゲキを生む切っ掛けになるとは、想像もしていなかった。




コンコン


「失礼します。悠陽様、こちらに信綱殿が来ていなでしょ・・・ ・・・。」


俺達が悠陽の部屋で遊んでいると、突然真耶マヤが部屋にやってきた。

そして、遊んでいる俺達の顔を見て驚きの表情を浮かべるのだった。


「信綱、どうして冥夜がここにいる!

 貴様は煌武院家からの連絡を・・・・・。」


俺は真耶マヤの声で女中が駆けつけるのではないかと考え、慌てて手で真耶マヤの口を塞ぎ、体を拘束しようとした。

しかし、真耶マヤも無現鬼道を修めている猛者だ、当然のように抵抗することになる。

そしてもみ合いの末、気が付いたときには俺が真耶マヤの上に馬乗りになり、手首を一本ずつ押さえつける態勢になっていた。


真耶マヤ、説明するから静にしてくれ・・・。」


「私は月詠だ・・・。五摂家からの要求には可能な限り応える義務がある。
 貴様の話は聞けないぞ・・・・・・。」


そう言って、真耶マヤは大きく息を吸い込んだ・・・。
どうやら大声を出して応援を呼ぶ気らしい。
どうする・・・、俺は真耶マヤを圧倒できる実力が無いため、手で口を塞げば拘束を解かれる恐れがある・・・。
そうなったら、真耶マヤが応援を呼ぶことを防ぐことが出来なり、もう二度と冥夜と悠陽を会わせる事が出来なくなる・・・・・・。

俺はこの一瞬の間に、恐るべきアイデアを閃き、深く考えることなくアイデアを実行した。

アイデアが閃いた瞬間だけは、天啓だと思ったんだが・・・・・・。


「誰・・・。んっんーーーー。」


俺は、叫ぼうとする真耶マヤの口を自らの口で塞ぐのだった。

急に抵抗が激しくなった真耶マヤに焦り、真耶マヤの息を吸出し酸欠にさせるという行動にでる。

真耶マヤは混乱していたためか、鼻から呼吸が出来ることに気が付かず、次第に抵抗する力をなくしていき、ぐったりとなった。

俺はその隙を突き、ベッドのシーツで真耶マヤの体と口を縛る事に成功する。



しかし、悲劇キゲキはここで終わらなかった。


「悠陽様、どうかされましたか?
 部屋の扉が開きっぱなしに・・・。

 信綱! 何をやってしているのだ!」


何と、真那マナまで悠陽の部屋にやってきたのだ。

悠陽の部屋に来た真那マナが見た光景・・・、それは真那マナをシーツで縛り上げた直後の俺の姿だった。

その後真那マナがどうするかは、分かりきっていた・・・。

俺は叫ぼうとする真那マナに飛び掛かり、もみ合いの末、手首を一本ずつ掴み壁に押し付ける態勢に持ち込んだ。

そして、真那マナの口を塞ぐために真耶マヤと同様の口封じをするのだった。



真那マナ真耶マヤと同じようにシーツで縛り上げた後、正気を取り戻した俺は後悔の念に苛まれていた。

俺は、なんてことをしてしまったんだ・・・。

緊急時とはいえ、真耶マヤ真那マナに無断で二人の唇を奪う結果になってしまった・・・、もしやこれは強姦罪が適応される事例ではないか?

さらに、真耶マヤ真那マナ以外の二人の少女にも深い心の傷を負わせたかも知れない・・・。

俺が頭を悩ましていたところ、先ほどまで呆然としていた冥夜と悠陽が興奮した声で話しかけてきた。


「兄上! さっきの技は無現鬼道の奥義の一つなのですか?
 月詠たちが成す統べなく無力化されるとは・・・、恐ろしい技です。」


「冥夜、侍女から聞いたことがあります、あれは『接吻』というものです。
 侍女がいうには、殿方との接吻は時に気を失うほど恐ろしいものなのだそうです・・・。」


どうやら、二人の少女は心に傷を負うことは無く、逆に興味津々のようだ。

俺は8歳の少女に対する、接吻についての上手い説明が思いつかず、女中達の方が詳しいと誤魔化すことにした・・・。

冥夜と悠陽の接吻についての質問は誤魔化せたが、真耶マヤ真那マナに対する説明を誤魔化すことは出来ない。

接吻については、土下座でもして謝れば許してくれる可能性が残っている。

しかし、冥夜と悠陽の面会については煌武院家の問題であるために、俺の説得でどうにか成るものではなかった。

冥夜と悠陽の面会についての説明をするのは俺よりも、母達の方がが適任だろうと考えた俺は、悠陽に俺の母と悠陽の母親を呼んでくるようにお願いする事にした。

母達が悠陽の部屋に来た時、シーツで拘束されている真耶マヤ真那マナに唖然としているようだったが、俺が簡単な状況説明をすると
直ぐ二人を説得してくれることになった。

俺も一緒に二人を説得しようとしたのだが、何故か母達に悠陽の部屋から追い出されてしまい、仕方なく再度宴に参加することにした。

その後、宴の会場で真耶マヤ真那マナに会うことは無く、家に帰るまでの間の時間は多くの名士たちに囲まれて過ごすことになった。



後日、接吻の件を謝るべく真耶マヤ真那マナに会ったのだが・・・、二人の機嫌は悪くなっておらず、むしろ機嫌がいい様子だった。

俺は二人の様子に、母達はどんな説明をしたのかと首をかしげながらも、機嫌がいいならこのままでいいかと考え、そのままにする事にしたのだった。





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コメント

初投稿後、トータル・イクリプスを4巻まで読みましたが、巌谷さんの登場シーンが少ない上に細かな設定がわからないため、
殆ど描写の修正が出来ませんでした。

巌谷さんには、渋いおじさん分を補ってもらおうと登場させたのですが・・・。

また、唯衣も出そうと考えたんですが、この時点での巌谷さんと唯衣の関係がわからず断念。

トータル・イクリプスの新刊が出れば、もしかしたら書き直すことがあるかもしれません。


最後のキス?シーンに関しては、妄想が爆発してしまったとしか言いようが無い。

今の私には、この程度が精一杯です。



[16427] 第07話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/07/10 09:04



1993年、俺のもとにあるニュースがもたらされた・・・、それは斯衛軍の第三世代戦術機導入に関するものだった。

昨年(1992年)より、帝国軍で制式採用され量産型の生産が開始された第三世代国産戦術機「不知火」「吹雪」は、
その性能により帝国軍の中で高い評価を得ていた。

また吹雪にいたっては、撃震の生産枠が一部振り替えられた結果、年間生産台数において撃震をしのぐ数が確保されることになり、
跳躍ユニットを不知火と同じものを搭載し、跳躍距離を伸ばした海軍仕様も生産されるようになっていた。

これは、軽量化によって搭載重量に余裕があり、海軍が求める装備を搭載するのには、不知火よりも吹雪が良いと判断されたためだった。

更に、主機と跳躍ユニットにリミッターをかけ、出力を低下させた吹雪が第三世代高等練習機として運用されるまでになっている。

吹雪に量産機の座を奪われた形となった不知火を開発した、御剣重工以外の三社(富嶽重工,光菱重工,河崎重工)は、
不知火の生産台数を増やすために斯衛軍に不知火を採用するよう、強力な働きかけを行うことになる。

御剣重工としては、不知火の生産拡大だけを見ると大きなメリットは無かったが、吹雪では斯衛軍の要求を満たすことは無理だった事や、
パーツを共有している吹雪の事を考えると量産効果によるコストダウンが計れる事から、この動きを後押しすることになった。

俺は会社を使って表から斯衛軍に連絡を入れると共に、父や無現鬼道の兄弟子たちといったコネを使い斯衛軍の内部からの説得を開始する。

そして、最後の一押しになったのは祖父が帝国議会の貴族院にて、

「閣下や五摂家の方をお守りする斯衛が、いつまでも旧式の装備を使い続けるのはいかがなものか?」

と発言したことであった。

今まで、政治的なメッセージを発信することが余り無かった、御剣家当主の突然の発言に議会は大慌てになる。

御剣家は政治的分野において、支配力を有していたわけではなかったが、その積み重ねてきた歴史と近年成長が目覚ましい経済力は
無視する事が出来ない影響力を持っていたのだ。

その後、斯衛軍内からも第三世代戦術機を調達すべきだという議論が沸き起こる事になった。

最終的に帝国議会は、二年以内に新規の第三世代戦術機が開発できないのならば、
現行の第三世代戦術機を斯衛軍用に改修し使用する事を定めた法案を可決するに至った。

斯衛軍の独自性を理由に、議会の決定に難色を示していた城内省だったが、様々な方面からの説得により今年に入ってついに、
斯衛軍に不知火を採用することを決定するのだった。








今年で15歳になった俺は、現在大学生をやっている。

大学に進学してからの俺は、快適な学生生活を過ごす事は出来ず、かなり無理をしてカリキュラムを組み、
来年の3月には大学を卒業する事を目標に勉学に励んでいる。

本来ならもう少し時間が取れるはずなのだが、会社の方で新型戦術機の開発と平行して、対兵士・闘士級用の強化外骨格(ES及びFP),
新兵装,戦闘補助兵器 等の戦術機以外の開発にも力を入れる事になり、それらプロジェクトの監修に時間を割かれていた。

さらに、1991年に香月夕呼が帝国大学・応用量子物理研究室に編入した事を察知した俺は、私財を投じて研究開発費を提供していたのだが・・・。

応用量子物理研究室は、研究成果として高性能CPUの基礎理論を報告してきたのだ、俺はその理論を使ったCPUの量産を御剣電気に要請し、
戦術機用新OSの開発プロジェクトの監修まで手を出していくことになる。

香月夕呼への資金提供は、もっと先の事を考えた投資だったのだが・・・。

ともかく高性能CPUの基礎理論を得た俺は、嬉しさの余り次年度から応用量子物理研究室への研究開発費を倍増させるのだった。




こんな多忙な日々を送っていた俺だが、一月末にあった大学の試験を終わらせ、一時御剣財閥での仕事を全て停止し、
冬の雪山へ篭ることになった。

俺が雪山に篭る事になった理由、それは無現鬼道流免許皆伝を得るためだった。

始めは祖父からの要請だったのだが、今を逃すと免許皆伝を得るための試練を受ける時間を、しばらく取ることができないと思い
それを了承することにした。



雪山に篭ってからの始めの一月は、ひたすら技の反復練習となった、最初の一週間で奥義の型を教わり、
後はひたすら型の繰り返しを行うのだった。

許される休憩は食事・排泄・気絶した時のみ、刀を振り続け腕が上がらなくなれば歩法の練習を行い、足が動かなくなれば拳を振る・・・。

本当に体が動かなくなるまで、ひたすら反復練習を繰り返し体を極限まで追い込んでいく。

そうしていると、この世には自分しかいないような不思議な感覚を覚え、次に自分の感覚が外側に広がっていくような錯覚を感じ、
気絶する事になる。

気絶する過程では、必ず同じような感覚に囚われることになり、その感覚はついに自分自身を空から観察するというところまで進んでいった。

自分自身を空から観察する感覚を感じ出した頃には、既に一月が経過していた。



そして次の一月は、サバイバルをするようにと言われ、刀一本のみを渡されテントを追い出されることになった。

俺は、幸運にも初日に寝床に使えそうな洞窟を発見する事ができたので、そこを中心にサバイバルに挑むことにした。

サバイバル初日は、寝床を整え木材を調達した時点で終わりをむかえる。

その日は周りが完全に暗くなる前に、何とか火を起こしその火で暖を取りながら、三週間ぶりのまともな睡眠を取ることになった。

しかし、久しぶりの睡眠も長くは続かなかった、寝始めてからしばらくたった時、若干の気配と空気の乱れを感じ、
目を覚ます事になったのだ。

俺は対応するのが億劫だったので、ギリギリまで寝たふりを行うことにした。

気配の相手は狸寝入りに気が付かず、無造作に俺の間合いに入ってくる。

俺は間合いに入った相手に飛び掛かると、カニバサミで相手の足を挟み、体を捻ることで相手を転倒させる。

それと同時に自分はその反動で上半身を持ち上げ、相手の背後から覆いかぶさり首を絞める事で気絶させた。


「何だ、よく見たら兄弟子じゃないか。」


何故、兄弟子がこんなところにいたのかは知らないが、俺の様子を見に来たにしては、気配を消すなど怪しい動きを見せていた。

もしかして、サバイバルの妨害でもしに来たのだろうか?

その後、兄弟子の懐をあさり、ナイフ,ワイヤー,携帯食料2食分を手に入れる事に成功した。

さすがの俺も、兄弟子を褌一丁にして雪山に放り出すことは出来ないので、服を着せたまま洞窟の入口近くに放置し、
再度寝ることにしたのだった。



サバイバルが開始されてからは、兄弟子たちの襲撃を撃退しながら、食料の確保に奔走する毎日だった。

兄弟子たちの襲撃は、危機を察知することに長けている俺にとって、大きな障害になることは無かったが、
冬の雪山で食料を確保するのは困難を極めた。

ウサギの通り道に落とし穴を仕掛け、ワイヤーを弦にて自作した弓と矢を持って狩りに挑み、自作の川でガチンコ漁を行うなど
必死になって食料を探すのだった。

ある日、人とは異なる気配を察知した俺は、風下から対象に接近してみる事にした。

そこにいたのは、大きな角を持った鹿だった。

そろそろ魚を食べる事に飽きていた俺は、久しぶりにまともな肉を食べるチャンスに狂喜するのだった。

そして、弓を構え鹿に向かって矢を放とうとした瞬間・・・殺気を感じその場を飛び退いた。

するとそこに、吹き矢の針が飛んできた。

俺は追撃が無いことを確認した後、慌てて鹿の方を見るが飛び退いた時の音に反応したのだろう、鹿は逃げ去ってしまっていた。

獲物に集中する余り、兄弟子たちの存在を忘れてしまうミスを犯してしまったことを反省した俺だったが、
次の瞬間にはどうにかして肉を食べるチャンスを奪われた仕返しをしてやろうと考え出すのだった。



鹿を取り逃がした後の俺は、食料と木材の確保が終わると型の練習や瞑想に時間を割くふりをして、兄弟子たちの動向を探っていた。

気配を消している使い手の気配を、離れた距離から察知するのは困難を極めたが、修行の間に感じた自分を空から観察する感覚が
次第に拡大していき、気配を察知できるようになっていった。

そしてついに、兄弟子たちが交代する時間や帰っていく方向を掴むことに成功する。



サバイバル最終日、残り時間があと数時間に迫り、夜が明ければサバイバル終了となる時に、俺は作戦を決行することにした。

俺が洞窟で寝たふりをしていると、予定通り見張りの交代の時間が来る。

そして、兄弟子たちの気配が重なった瞬間、木材と上着を使って作った人形と入れ替わり、気配を自然に同化させ洞窟の外にでた。

俺はこの日の為に睡眠場所を洞窟入口付近に変更し、風除けに木や石で低い壁を設け、極力気配を消して睡眠を取ってきたのだ。

俺のもくろみは見事成功し、見張り役がこちらの変化に気が付く様子はなかった。

交代した兄弟子が遠ざかったことを確認した俺は、木の上に待機していた見張り役を背後から奇襲し気絶させる。

見張り役を木の上に縛りつけ懐をあさると、通信機を持っていることがわかった。

俺は通信機に発信機がついていることを考慮し、通信機を確保せず、見張りを交代し待機所へ向かう兄弟子の後を追う。

しばらく追って行くと、兄弟子が向かっている方向に山小屋が見えてきた。

その山小屋から人の気配を感じた俺は、先回りを行い先ほどまで追っていた兄弟子を木の上から襲い、絞め落とした。



絞め落とした兄弟子を木に縛り付けると、慎重に小屋のへと足を進めていく・・・、中からは光が漏れ人間の気配を二つ感じた。

二人に会話は無く、かすかな寝息が聞こえることから、どうやら一人は寝ているようだった。

俺は、小屋の扉を軽くノックすることにした。


 コンコン

 
 「ん! ・・・気のせいか?」


 コンコン


 「ん! 誰かいるのか?」


そう言って男が扉を開けた瞬間、半分空いた扉を思いっきり蹴飛ばし小屋の中へ進入する。

小屋の中には予想通り二人がいて、一人は悶絶しておりもう一人は慌てて飛び起きていた。

俺は悶絶している男に拳を叩き込み、相手が気絶したことを確認した俺は、先ほどまで寝ていた人物と相対する。

相手は寝起きで頭が回らないのだろうか、動きに繊細さが欠けていた。

結局、最後の一人もまともな反撃を受けることなく、無力化する事ができた。

その後、二人を縛り上げると小屋の中にあった食料で料理を行い、久しぶりにまともな食事を取ることにした。

そして、サバイバル終了まで小屋にあった布団に包まり寝ることにしたのだった。








「ふん、確かサバイバルの修行をしていると聞いていたが・・・。
 まさか、監視小屋で寝ているとは・・・。」


久しぶりに会った、紅蓮 醍三郎はそう言って声をかけてきた。


「この者たちを責めないで下さい。
 後数時間で見張りが終わる状況に、気が緩んだのでしょう。」


「いや、その程度で油断するとは言語道断! 再修業を申し付けておく。
 信綱・・・、これからはわしの事を師匠と呼ぶようにしろ・・・。

 それでは、修業を開始する!」


サバイバルの次の一月は、紅蓮 醍三郎から試練を受けることになった。

てっきり祖父から試練を受ける事になると考えていたのだが・・・、どうやら甘えが入ることを嫌った祖父は、現在最も優れた
無現鬼道流の使い手で、歴史上三人しかいない御剣家以外の免許皆伝者である師匠に、試練をゆだねる事にしたらしい。

斯衛軍に所属している師匠は、この試練のためだけに特別に一月の休暇を取ったのだった。



師匠は俺の型を見た後、なにやら納得し質問をぶつけてきた。


「其は何ぞや!」


そんな事を聞かれるとは考えていなかった俺は、一瞬戸惑ったが何とか応えを返した。


「我はBETAを滅する者也。」


「BETAとは何ぞや!」


「人類を滅亡の危機に陥れるもの、即ち人類共通の敵也!」


「其はBETAを滅し、何を成す!」


「そ、それは・・・・・・・。」


「もう一度問う、其はBETAを滅し、何を成す!」


「・・・・・・。」


「愚か者ものぉぉぉッ!!!

 BETAを滅した後はどうするのかと聞いておるのだ。
 戦うことだけを考え、その後の目標がないのでは、戦うことしか知らぬ悪鬼羅刹を生み出すだけよ!

 頭を冷やして、もう一度考えてみよ。」





俺は、とっさにこの問に対して返事をする事が出来なかった。


「まさか、この様な問答を受けることになろうとは・・・。」


そういえば、原作のサイドストーリーにこの様なものがあったなと思い出す。

しかし、こちらに来る前の記憶はだいぶ薄れてしまった。

今では、この世界に関係ある重要なこと以外は、殆ど思い出すことが出来なくなってしまった。

ただし、この世界で生まれてからの記憶は鮮明に思い出す事が可能だったが・・・。

それに、もし原作の内容を思い出したとしても、それは俺が出した答えではない。

自分が出した信念を師匠にぶつけるしか方法は無いのだが・・・。



もちろん、BETAを滅した後やりたい事は有る。

しかし、その事を本当に実行して良いのかどうかで迷っているのだ。

俺の迷い・・・、それはどこにでもある単純なものであり、人類始まって以来の命題・・・男女関係に関する悩みだ。

この世界生まれから早15年の月日が流れていた、その中で正常な人間なら恋の一つや二つはするものだろう。

しかし、俺は本来この世界にいるはずのない存在だ。

存在しないはずの俺が女性と付き合い始めたとき、彼女らが本来付き合うはずだった者との出会いを引き裂くことになるのではないか?
もし付き合い始めても俺に、彼女らを幸せにすることが出来るのだろうか?
偶然やってきたこの世界から、原作の主人公の様に立ち去らなくてはならない時が来るのではないか?

この様な疑念が頭をよぎり、俺は男女の付き合いの始めのステップすら踏み出せずに、ここまで来ていた。


「はははっ、笑ってしまう。」


惚れた女たちの為に、世界と歴史を変えようとした男が、肝心の女に手を出す勇気が無いとは・・・。







結局その日は、型の稽古をしただけで終わることになる。


「今日はここで終わりだ、小屋に戻るぞ。

 そもそも、お主は何故BETAと戦うことにしたのだ・・・、それを考えれば自ずと答えは出てくるのかも知れんな。」


その後も、結論を出せぬまま修行が続いていく。

ひたすら瞑想と組み手を繰り返す日々、そして師匠は毎日のように問を投げかけ、俺はひたすら自問自答することになる。

師匠が言うには、俺には心技体のうち心が欠けているらしい。

師匠の問に浮き足立つ俺は、まったく反論する事が出来なかった。




最終日前日・・・ついに俺は、師匠が言っていたBETAを倒したいと思った最初の理由を思い出すことができた。

問題なんてものは答えが分かると、途端に単純に思えてしまうもので、俺が出した今回の答えも出して見れば笑ってしまうほど
単純なものだった。

俺は迷うものがなくなり、心がさえわたるのを実感した。

そして、この修行中に感じていた不思議な感覚が再び起こり始める。

一気に意識が外に広がり、自然の気配、空気の流れようを感じるだけでなく、それらがこれからどのように変化するかさえ
捉えることが出来るようになる。





いよいよ師匠による試練の最終日、ここに来て迷いをなくした俺の五感は冴え渡っていた。

風を感じ、木々の鼓動を感じ取れるようになった俺にとって、奇襲を行うために潜んでいる者たちの存在は筒抜けだった。

俺はいまさら戦う必要も無いと感じ、隠れている地点とどの様な構えで、どう襲うつもりなのかを的確に言い当てた。

そうすることで複数の待ち伏せ以外から、攻撃されることは無く、師匠の待つ祠の前まで進むことが出来た。


「師匠、雪の下にいる事はわかっています、出てきてください。」


そう言って、5mほど離れた雪に覆われた地面をにらみつけた。


「ふん、気配を自然に同化させたわしによく気が付いた。」


そう言って、雪の中から師匠が出てくる。


「まだ、完全に師匠の気配に気づくことは出来ませんが・・・、
風の流れからは師匠を感じ取れませんでしたので、そこからたどりました。」


「その様子だと迷いは吹っ切れたようだな・・・。
 それを問う前に、その心技体・・・とくと拝見するとしよう。」


師匠が刀を抜き、構えを取る、俺もそれに合わせて刀を抜いた。

軽いにらみ合いの後、始めに仕掛けたのは私からだった。

師匠の攻撃は巧みで、こちらが守勢に回っては何時か守りを突破されることになる。

身体能力で勝っているのは瞬発力ぐらいのものだ、ここは手数を頼りに攻めに出て、チャンスをうかがうしかない。

その思いから怒涛のごとく攻めるのだが、全て師匠に捌かれてしまっていた。


「どうした信綱、お主の本気はその程度か!
 ここからは、わしも攻める。見事受けきって見せよ!」


そこからの師匠の攻めに、俺は次第に押されていくことになる。

やはり、剣術の腕では未だに師匠を凌駕する域まで達していないようだ・・・。

さらに、例の感覚を使いすぎたせいか、段々頭痛が酷くなってきていた。

俺は、斬り合いから勝利を得る事を諦め、一気に師匠の間合いから離脱した。

そして、刀を鞘に収め抜刀術の構えを取る。


「ほう、抜刀術か・・・・・・、それで勝てると思うたか!」


「残念ながら、斬り合いでは師匠に一日の長がありますが・・・。
速さだけなら師匠に勝っていると自負しております。

ここで・・・、己の最速の業に全てを賭けます!」


俺と師匠は睨み合いながら、次第に距離を詰めていった。

そして、先にリーチの長い師匠の間合いに俺が入った瞬間、師匠からの斬撃が放たれる・・・・・・
そこから俺はさらに左足で一歩踏み込み、自分の間合いに師匠を納め抜刀を行う。

ここに互いの持つ最速の一撃が放たれたのだった・・・。


「はぁぁッ!」


師匠の斬撃に合わせるように放たれた俺の斬撃は、的確に俺の刀を捉えることに成功する。

俺の最速の動きと近すぎる間合いに対応し切れなかった師匠の斬撃と、会心の一撃を放った俺の斬撃では、
刃筋やミートポイントがまったく異なっていた。

そして、当然のように俺の刀は師匠の刀を断ち切ることになった。


「ぬかったわぁぁっ! 刀がっ。」


「師匠おぉッ!」


そう言って、師匠に向かって刀を振り下ろそうとしたその時・・・。


「反重力乃嵐ィィィィィッ!」


俺は勘にしたがって距離を取ろうとしたが、師匠の胸から放たれる波動を完全に避ける事が出来なかった・・・。

そして、崩れたバランスを立て直そうとしていた俺は、この場面になってようやく師匠が無現鬼道流以外の
不思議な技を使うことを思い出し、転がるようにその場を離れた。


「宇宙乃雷ィィィィィィィィィィッ!」


そして転がる俺を掠めるように、師匠の額あたりから放たれた波動が通り抜ける。

かろうじて直撃を免れた俺だったが、左半身は麻痺し右手に持った刀を杖代わりにして立ち上がるので精一杯だった。


「不完全とはいえ、初見でこの技を避けるとは・・・。」


「師匠?」


「自然の息吹に任せ、光を浴び、丹田に力を込め、気海を満たし放つ。

 我流で研ぎ澄ました技にしては・・・・・・なかなかのものであろう?」


気・・・・・・だと?

まさか本当に、そんなものが存在していたとは・・・。


「お主も先ほど面白技を見せていたな、抜刀術を左足で前に踏み込んで放つとは・・・。

 無現鬼道には無い動きだ・・・我流か?」


「はい。お褒めいただき、ありがとうございます。」
 (まさか・・・、子供の頃からこっそりマンガの技を練習していたなんていえるはずが無い・・・・・・か。)

「しかし、師匠の技・・・畏れ入りました・・・・・・、あのような技がこの世にあるなど考えもしませんでした。
 やはり、未だ師匠には及ばぬようです。」


「・・・それがわかっていればよい。
 誰も考えもしないことが、間々起きるのが戦場というものだ、そう心に刻んでおけ。
 反重力乃嵐にせよ宇宙乃雷にせよ・・・・・・、お主なら同じ技が通用する事はあるまい。」


「師匠?」


「・・・なれば剣の技、精神に於いて、最早お主に教える事は無い。」


「え?」


「では、最後にそなたに問う。」







「其は何ぞや!」


「我はBETAを滅する者也」


「BETAとは何ぞや!」


「人類を滅亡の危機に陥れるもの、即ち人類共通の敵也!」


「其はBETAを滅し何を成す!」


BETAを倒したいと思った最初の理由。

それは、この世界に来る前に抱いていた、物語はハッピーエンドでないと嫌だという単純な思いだ。

これは、ただの己のわがままだ・・・、それをいつの間にか女を理由に使っていたとは・・・。

俺は彼女達が欲しかったのではない、ただ守りたいだけなのだから・・・。

今後、彼女達とどの様な関係になるかは分からない。

分かっているのは、どの様な結末になろうとも、俺は彼女達を愛しているという事だけだ。

なら、俺が成すことは簡単だ、



「ただ、己が道を突き進むのみ!」



これ以上の答えは、今の俺には無い。

俺はその気持ちで、師匠を見つめた。


「見事なりッ!」


「ありがとうございます。」


「その答え・・・・・・待ちわびたぞ・・・・・・。」


「師匠・・・。」


「うむ・・・、さあ、祠に入り最後の試練に挑むがよい。
 そして、見事試練を乗り越えて見せろ。
 さすれば、晴れて無現鬼道流免許皆伝となり、名実共に御剣の後継者と相成る。」


「はい! 師匠、それでは行って参ります。」


「うむっ!」






俺が、祠に向かって歩いていると、誰かが走って近づいている音が聞こえた。

「信綱 殿~、一大事でございます。

 信綱 殿を応援したいと申して、山に向かっていたご母堂と妹御が途中で交通事故に会い、意識不明の重体となっていると報告がありました。」


「なっ・・・なんだと!?」


「急ぎ、ふもとに車を用意させていますが、いかがいたしましょう。

 もし病院に行かれるのでしたら、今すぐ行かないと間に合わないかも知れません。」


「馬鹿な・・・、母上と冥夜が・・・。」


「信綱、祠の試練、費やす時はお主次第。
 半時か十日か・・・それとも一年か・・・・・・。」


「全てを己に背負い、全てを己で決断するのだ。」



「・・・・・・・・・・・。」



「連絡ご苦労、急ぎ下山いたすゆえ皆にそう伝えてはくれぬか?」


「は・・・、分かりました。
 では、先に小屋まで行きますので、御早めに合流してください。」


そう言って、男は立ち去っていった。


「お師匠様・・・、今日までの数々のご指導、誠にありがとうございました。」


そう言って俺は、師匠に頭を下げた。


「・・・・・・・・・・・」


「無現鬼道流・・・・・・、何よりも変えがたいものと考え修行に励んでまいりました。」


「・・・・・・・・・・・」


「しかし、守ると誓った者たちが陥った窮地に、何かをせずにはいられないのです。」


「ひとたび山を下りれば、お主は祠に入る資格を永久に失うことになる。良いな?」


「はっ! 無現鬼道流を捨てることで、この先如何様な困難が待ち受けていようと、己が選んだ道です。
 甘んじて受け、乗り越えて見せます。」


「・・・・・・・あいわかった。
 面をあげよ。
 お主とわしはもはや師弟ではない。」


「は・・・・・・。」


「戦場のどこかで会える日を楽しみしている・・・、それまで、達者で暮らせ。」


師匠はそう言って、立ち去っていった。







師匠と別れた俺は急いで小屋まで戻った、そして荷物を置くために小屋に入ると・・・







そこには、祖父と重体のはずの母が座っていた。


「は 母上? 何故ここにいらっしゃるのですか?」


何だこれは? どういうことだ。

余りの事態に混乱してしまった俺に、祖父が持っていた刀を押し付け、声をかけてきた。


「信綱、些細なことは気にするな。
 それより、それが御剣家の宝剣・・・・・・皆琉神威じゃ。」


「・・・どう言う事です、俺は最後の試練を放棄したんだ・・・、受け取る資格が無い。
 それなのに、何故?」


疑問をぶつける俺に祖父は、これが最後の試練でその精神を試したと返答してきた。


「御剣家の当主とは、常に戦うことを宿命付けられる人間じゃ、それゆえ心無き者が成れば災いしか生まん。
 修行の最後に、御剣を継ぐに値する者か・・・、自己犠牲の精神はあるか試すのじゃ。」


そして、その試練にどうやら俺は合格したらしい、だから今免許皆伝の証として皆琉神威を手にしているのだと祖父は応えた・・・・・・。

俺は感激の余り涙が溢れそうになったが、今回の試練で気が付いた己の心に従い、免許皆伝だけを受け皆琉神威を祖父に返上することにした。

皆琉神威を返上することに戸惑っていた祖父に対し、


「私は、近いうちに大陸に渡りBETAと戦うことを決心いたしました。
 戦うと決めた以上、たとえ生身だけになったとしても、戦う事をやめることはありません。

 したがって、皆琉神威が血で穢れる可能性がある以上、御受けするわけには参りません。
 BETAどもの血を吸うには、それにふさわしいものが他にあるはずです。

 BETAと戦いが落ち着いた時、まだ私に御剣を継ぐ資格があるのなら、
 その時に、御受け致したいと思います・・・。」


俺の答えに、納得してくれた祖父は、後日改めて別の刀を用意してくれた。

祖父が用意してくれた刀には、『安綱』と銘が彫られてあった。

祖父は、現世の魑魅魍魎といえるBETAと戦うのに、『鬼を斬った』という話が残るこの刀以上に相応しい物は無い、と語るのだった。


俺は祖父から送られた刀と師匠から送られた文を持ち、戦場を駆けていく事になる。

ちなみに、師匠から送られた文には、この様な事が書かれてあった。




『其は己が為の刃に非ず。ただ牙なき者の為たれ。』




******************************************************************************************************

コメント

エクストラをやっていて面白さの余り暴走してし・・・、主人公がパクリ技を出すようになってしまった。

最初のプロットでは、剣の才では冥夜に及ばず、技の数と経験で強くなる予定だったのに・・・。

このままでは、眠っている人体の潜在能力を100パーセント引き出し闘気を操ることになり、

刀有りの一対一という状況なら、生身で闘士級に勝ってしまう、とんでも人間になるかもしれません。

それでも、生身ではBETAの群れの前では無力も同然ですが・・・。



[16427] 第08話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/07/10 09:05




無現鬼道流の免許皆伝を得てからの生活は、日が出る前に起きて無現鬼道流の鍛錬、日が出ている間は大学、日が落ちると会社の報告書を読み、
休みの日に卒業論文を作成するなど、休む暇が無く山に篭っていたほうが幸せだったと、錯覚するほど多忙な日々を送ることになった。

そんな中でも、俺は無い時間を振り絞りある技の鍛錬をしていた・・・。


 自然の息吹に任せ、光を浴び、丹田に力を込め、気海を満たし放つ・・・か・・・。


自然の息吹に任せ、光を浴び、丹田に力を込めるまでは、免許皆伝の試練で身に着けた感覚と近い気がするのだが・・・、
それを放つことがなかなか出来ていない。

しかし、ここで諦めるわけにはいかない。

なぜなら、俺が・・・男だからだ。

俺は丹田に込められた力を、手のひらに集めるようにし、一気に前方へ押し出す。


「か
 
 め
 
 は
 
 め
 ・
 ・
 ・
 は
 ぁ
 |
 !」


俺が放とうとした技は、外界になんら影響を与えることなく、声だけがむなしく響いていた。


「兄上、このような場所で何をされているのですか?

 ・・・まさか、新たな技を開発しているのですか!?」


冥夜よ、兄をそんな純粋な目で見ないでくれ、心が・・・・・・折れてしまいそうだ。









1994年、大学へ提出する卒業論文を何とか完成させ俺は、卒業する見込が立ったことに安堵していた。

俺が書いた論文の題名は、『歴史で見る兵器の発展と戦術歩行戦闘機の発展について』というもので

その内容は、


鉄砲が発明された当初は鎧を分厚く強固にすることで対応した歴史が、光線級の出現により重装甲で固めたF-4『ファントム』に
代表される第一世代戦術機の開発に類似している事、

鉄砲の発展で装甲の無意味さが分かると鎧が使われなくなった歴史が、重装甲をやめ機動力と運動性を高めたF-15C『イーグル』に
代表される第二世代戦術機にも当てはまっている事、

その後の戦争が通信機器の発達や戦車等の登場によって、小規模の集団が綿密な連携を行う形態に変わってきた歴史が、
最新の第三世代戦術機が更なる運動性の強化と、データリンクによる正確な情報伝達と戦術機同士の連携強化が求められた事実と
共通する点がある事、

以上の戦術機の発展経過を考えると、次の第四世代戦術機も歴史の中からその方向性を見つけることができるのではないか。


といったものだった。

この論文は、前々から悩んでいる第四世代戦術機の考察に、歴史的事実をすり合わせただけの、対して時間のかからない内容であったが、
無事に論文の審査を通過し、卒業できることが確定した。



そして卒業論文提出後は、貯まっていた御剣財閥での仕事を集中的に行うことになった。

俺が監修を行っていた対BETA戦プロジェクトの報告は、俺がやってきた事が無駄ではなかったと確信させる内容となっていた。

その中で、特徴的なものをいくつかあげることにする。


一つ目は、今まで蓄積してきた各種データから、戦術機のソフト面での強化が実現したという報告だった。

これは、一部ブラックボックス化していた、戦術機の制御システムを解析し、経験が浅い衛士でもベテランやエースの行う機動が
できるようにすることを、目的としていたプロジェクトで開発されたものだ。

このプロジェクトは、


ベテランが行う、姿勢制御を一部キャンセルすることで、姿勢制御の問題で発生する行動の合間の硬直を緩和させる技術。
                       ↓
行動をあらかじめ先行して入力を行うことで、行動の間の姿勢制御を行動の一部として取り込むことができ、
結果的に行動の合間の硬直を無くすことが可能。


エースが行う、一つの行動を細かく分割し、不意の事態でも直ぐに対処することができるようにしている技術。
                       ↓
行動を途中でやめ、新たな行動を強制的に行わせるシステムを導入することで代用することが可能。


エースが行う、細かな姿勢制御によって戦術機の限界機動を引き出す技術。
                       ↓
あらかじめ、行動の全てを指定した通りに行わせるようにすれば、動きを真似ることだけは可能。


という解決策を示してきた。

この概念を実現したシステムのハードは、とても戦術機に載せられるサイズではなかったが、別チームで進めている高性能次世代CPUが完成すれば、
戦術機への搭載も可能になるとのことだ。

現在の不知火・吹雪に搭載されているCPUでは、行動の先行入力を3つまで入るようにするだけで精一杯との事だが、
それでも行動の合間の硬直を消せることに、テストの段階から大きな反響を得ることになった。

その新システムは、タワーのようなハードで再現された完全版のシミュレーターテストを見た俺の呟きによって、EXAMシステムver.1と名づけられ、
試験部隊に現行の戦術機制御OSと入れ替えで配備されることになっている。


二つ目は、新型強化外骨格の開発完了の報告だった。

この新型強化外骨格の開発コンセプトは『着る強化外骨格』で、今までの強化外骨格に比べて大幅に小型化されたものになった。

本来は、対兵士級を想定して考え出したものであるが、現在は兵士級が確認されていないため、室内での戦闘や戦場に出る全ての歩兵が
装備することを前提にすることで本来の目的をごまかし、開発が進められたものである。

新型強化外骨格の外観は、衛士強化装備の一部に外骨格が張り付いている程度の状態から、追加装甲で古の鎧武者のような状態まで変えることもできた。

その運動性は、追加装甲搭載時に装備の重さを実感させない程度のものであったが、装甲に関しては顔面や首周りの強化が施されているため、
闘士級の攻撃により一撃で戦闘不能になる事が無いように設計されている。

また、小型化により人間に近い動きが可能となっており、時間制限はあるが狭い空間での移動や匍匐前進等も問題なく行えた。

この新型強化外骨格が後に、WDと呼ばれ一般兵や室内での護衛任務につく者に親しまれることになる。


そのほかにも、F-4J 撃震の改修プランや現在開発中の戦術機に関する報告など、重要な報告書も届けられていた。








喀什から南進したBETA群は、この年インド亜大陸を完全に支配下に置き、東進の勢いを増していた。

それにより、中国戦線は泥沼の様相を呈していった。

それを受け帝国議会は、徴兵対象年齢の引き下げを柱とした法案を可決し、帝国軍は後方任務に限定した学徒志願兵の動員を開始するのだった。

そんな激動の中、俺は大学卒業後の進路を衛士になることに決め、斯衛軍訓練校の衛士課程を受験していた。

はじめは陸軍に入る事も考えたが、父の求めと香月博士と将来出会う事を考えると、一時的にせよ斯衛軍に席を置いた方がこちらの自由が利くと考え、
斯衛軍から衛士になる事を選択したのだった。

無論、BETAと戦う方法は衛士になって戦術機を駆ることだけではない事は理解している。

その事を考えて、わざわざ大学まで進学することにしたのだ・・・。

このまま、御剣財閥の幹部として優秀な兵器を揃えることに力を注ぐ事や、政治家を目指して国の方針を考える事、
軍に入るとしても幹部候補として後方で軍を整える事も、BETAと戦う手段としてあるのだろう。

もしかしたら、人類全体を考えると俺が後方に残ることの方が、良い結果を導き出すのかも知れない。

しかし、俺は衛士になり前線でBETAと戦うことを選択した・・・、これは単なるわがままだ。

惚れた女たちを守るなら、その隣で・・・できるならもっと前で・・・・・・。

彼女達を後方にとどめるという選択肢は無い、彼女らの高潔な精神がそれを許さないからだ。

これでは、いつまでたっても彼女達とのんびり過ごすという、俺の野望が果たされることは無い。

なら、俺がやることはただ一つだ・・・・・・、

俺のこの手でオリジナルハイヴをぶっ潰し、無理やり世界を平和にしてやるのだ!



斯衛軍に入るにはいくつかのルートが存在する、一つ目は帝国軍から移動して斯衛軍に入るルート、そして二つ目が俺の受験した斯衛軍訓練校に入り、
優秀な成績で卒業することで斯衛軍に入るルートだ。

斯衛軍訓練校には様々な課程が設けられているが、最も若年で高い階級を得ることができるのが、俺が受験した衛士課程と士官課程である。

その受験には16歳から19歳の年齢制限があり、最初に身体検査、運動機能検査、学術試験の後に面接試験が行われ、優秀な者が選抜されることになる。

その在校期間は中学卒業で入校した者は4年、高校卒業の者は一部学科が免除され2年となっている。

訓練校卒業生はどの課程でも、短大卒業と同等の資格を得ることが出来るため、高校から編入で入校し卒業後に大学に編入することが、
今までエリートと呼ばれる者がたどってきたルートになっている。

元々人気がある所だったが、徴兵制が始まった現在において、後方に残る可能性が高い斯衛軍は更に人気が出てきており、
厳しい選抜が行われる事が予想された。

しかし、基本的には中学校卒業もしくは高校卒業で、受験する所なので大学卒業した俺が入学できなかったら、笑い者になるに違いない。

私の試験結果がどうだったかというと、入学式で代表として宣誓を行う事になるのだった。



その後、斯衛軍訓練校合格発表から入校までの間に、俺は会社の仕事の引継ぎを終わらせる為に、さらに仕事にのめりこむ事になる。

なぜなら、普通の学校ならともかく全寮制の訓練校では、会社の仕事をする暇はほぼ取れそうに無かったからだ。




また、入校した後に教官から聞かされた話なのだが、そもそも訓練校では大卒者を受け入れることを前提とされていなかったらしい。

それが、戦時教育による進級制度で大卒者にも受験資格を有する者が発生してしまい、その前提が崩れる事になる。

19歳までに大学を卒業する学力がある者が軍に進むことは珍しかったため、俺は訓練校を受験した初の大卒者で、訓練校初の大卒入校者となった。

そのため、カリキュラムの編成で揉める事になるが、結局通常は高卒者たちと合同で訓練を行い、既に習得している学科の時は、
個別に対応をすることに落ち着くことになる。












春になり、ようやく斯衛軍訓練校に入ることができた俺たちは、入校式を終えると教室へと集合することになった。

俺が今いる場所は、高卒の入学者が集まる教室の入口だ、教室の中には何名か見たことがある人物を見つけることが出来た。

確か、あそこに座っている連中は、小学校で同じ学年だったはずだ。

数名だが知り合いを見つけ、俺はなんともいえない感慨を覚えた。

小学校以来、同じ学年には半年ほどしか在籍していなかった事と多忙だったために、余り多くの友人を作ることができなかったのだ。

俺はこの訓練校での仲間が、これからずっと続く友人になってくれればと願うのだった。


俺が教室の入口で突っ立っていると、後ろから声をかけてくる人物がいた。


「こんな所に突っ立ってないで、早く中に入らないか。」


「ああ、おはよう、真那マナ

 なんか知っている奴が何人かいたから、驚いてしまってね…。」


「・・・貴様が驚く事があることに、私の方が驚いた。」


「そんな事は無いと思うよ、結構驚く事はたくさんある・・・。
 ただ、驚きを顔に出さない努力はしているけどね。」


「・・・それに気が付かない私が悪いと言いたいのか?」


真那マナは俺の発言に対し、ドスのきいた声で返事をしてきた。

俺は、何とかなだめようと言葉を続けた。


「そういうお前こそ、どんな時でも堂々としていて、慌てた姿を見ることが無いように思えるんだが…。

 昔のお前は、もっとかわいらしかったよ。」


「な 何を言っているのだ貴様は… …、もしかして、小さい子供のほうが好… …。」


「え、真那マナ、何か言った?
 
 聞こえなかったんだけど。」


「なんでも無い、貴様が気にすることではない。」

 
「それなら、いいんだけど…、どうして今日は貴様だなんて他人行儀なんだ?

 いつものように、名前で呼んでくれよ。」


「訓練校にいる間は、あまり親しくするべきでは無いだろう。

 そろそろ教官が来るはずだ、早く席に着け。」


真那マナの発言に余り納得できなかった俺は、すれ違いざまに耳元で


「二人きりの時は、名前で呼んでくれよ。真那マナ。」


とささやくのだった。

この時、真那マナの耳が赤くなっていた様な気がしたのだが、確信は持てなかった。

その後、教室に入った俺は真耶マヤの姿を見つけ、軽く手を振って合図を送った。

しかし、真耶マヤはフンッと鼻を鳴らして顔をそらし、こちらに返事を返す様子は無かった。

どうやら、真那マナと同じように訓練校では親しくしてくれないようだった。



 これが、御年頃というやつなのだろうか?

俺が席に座って真耶マヤ真那マナのことを考えていると、教室に教官が現れた。


「起立!敬礼!」


「よし、座ってよろしい。」


「着席!」


こうして、士官学校での日々が始まった。






士官学校が始まってからの半年の間は、徹底的に兵士としての戦い方を叩き込まれることになった。

始めはランニング,格闘,射撃など基礎的なものだったが、最終的にはそれらを複合した、総合的な訓練や模擬演習などが行われた。

俺はこの訓練のほぼ全てで、トップの成績を収めることになる。

それを見て、教官も俺に対して特別厳しい内容の訓練を言い渡すのだが、肉体を破壊する程の訓練ができないため、
結局一度も俺が訓練に屈することは無かった。

兵士としての基礎技術を始めから備えていた俺は、後に教官から最も鍛えがいの無かった訓練兵と言われる事になった。





格闘訓練


「本日は、格闘の訓練を行う。

 使う武器は自由、ただしここに用意されたカーボン製の物を使ってもらう。

 また、御剣訓練兵は常に1対3で訓練を行うこととする。
 
 それでは、各自事前に通達した通りの相手と、訓練を開始せよ。」


教官からの温かい言葉と共に、格闘訓練が開始される。

俺が1対3で訓練を行う事になった理由、それは格闘訓練初日に教官を叩きのめしてしまったからである。

教官としてはその前に行われた訓練や、訓練兵の中での勝ち抜き制の対戦により疲労が溜まっていたので、
俺に敗北することは考えていなかったのだろう。

その後、格闘訓練の教官が何人か代わることになったが、結局どの教官も俺に勝つことは出来なかった。

俺が最後の教官に勝った時にした、


「紅蓮 醍三郎より弱い。」


というコメントにより、それ以降の格闘訓練教官が俺に挑んでくることは無くなった。

最終的に俺の格闘訓練は、複数の訓練兵を同時に充てることで、落ち着くことになる。

月詠 真耶マヤ真那マナの二人同時なら、俺と互角以上で戦うことが出来るのだが、
他の候補生だと1対3から1対5くらいでようやく、釣り合いが取れるのだ。

訓練という限られた武器とスペースを使っての戦いなら、今のところ1対5くらいが俺の能力の限界であるが、無現鬼道流の業を駆使し
ゲリラ戦に徹すれば、100人とだって戦ってみせる自信はあった。

これでも、ここにいる訓練兵達は実家で武道の鍛錬をした経験があり、決して弱いと言える者たちではない。

それでもこれだけ格闘能力に差があるのは、もって生まれた能力のおかげか、それとも無現鬼道流のおかげなのか……。



ただ、俺がこの訓練に退屈しているかというと、そうでもない。

相手の攻撃を紙一重でよける練習をしたり、目を閉じて相手が出す気や音、空気の流れを頼りに戦ってみたりと様々な鍛錬をすることが出来ている。

また、免許皆伝の修行で身につけた、自分を空から見下ろす感覚(取り敢えず『心眼』と名づける事にした)を使ういい練習になる。

心眼は、脳にかかる負担が大きいため多用できないが、持続時間はだんだん延びてきていた。

免許皆伝の特訓で鍛えられたとはいえ、まだまだ鍛える余地が残っているのだ。



それに、他の訓練兵に戦い方を教えることも意外と楽しい。

まるで、自分が師匠になった錯覚を覚えることが出来る。

そしてついつい、
 

「貴様らの攻撃はその程度か!」

「甘い、甘いぞ。」

「考えるんじゃない、感じるんだ。」


等の発言をしてしまうのだった。







兵士の基本は走ること、俺は今50kgの装備を付け、全長5kmにも及ぶコースを走っている最中だ。

今日の訓練は、5kmのコースを4往復する間に設けられた各地点で、300m離れた場所の射撃を行いそのタイムと射撃の精度を競う訓練となっている。

最も、俺以外の奴は30kgの装備で射撃は100m離れた場所となっている。


50kgの装備は、俺の体重の70%ほどの重さではあるが、重いものを背負って走るコツを掴むことができれば、体力的に辛いだけで背負っている
重量はそれほど問題にはならない。

それよりも、射撃位置が200mも差がついていることの方が、問題であろう。

300mはなれた位置の目標は、射撃ではなく狙撃の部類に入ってしまう距離だ、それを同じ銃を使って撃ち、的は同じ大きさで採点方法も同じとくれば、
教官が俺を勝たす気が無いのは明白だった。

間違いなく、俺に追加訓練を課す腹積もりなのだろう。

それでも、俺は自分が持てる全ての力を使って、訓練に取り組む。


「どうした御剣! 走るペースが落ちているぞ、もうバテたのか!」


「いいえ、教官殿!」


「なら、もっとペースを上げろ! 早く、早く走れ!」


「はい、教官殿」


ここまでの30kmのランニングは、俺から想像以上の体力を奪っていたようだ。

前半の走りは他の訓練兵と同等のタイムで走れている自信が有ったが、残り10kmになってから目に見えて、走る速度が遅くなってきているのだろう。

しきりに、教官から早く走れという指示が飛んでくる。

全力で走っているつもりなのだが、疲労のせいか他の訓練兵が走っているペースも分からず、教官に促されるまま走り続けることになる。



そして、ようやく最後の狙撃地点にたどり着く、どんなに疲労していても狙撃の体勢に入れば思考が冴え渡り、心なしか心臓の鼓動も小さくなる。

昔の偉人には、スコープなしの300mの狙撃でほぼ確実にヘッドショット(頭部を打ち抜く射撃)を決めていた人だっているんだ。

子供の頃から無限軌道流砲術の鍛錬をしてきたという自負が俺にはある、スコープなしの300mの狙撃だからって他の訓練兵に…、
いや・・・こんな設定をした教官たちに負けるわけにはいけない。

俺は、長年の鍛錬で修めた感覚を頼りに弾道を予測、予測した弾道とターゲットが重なった瞬間、突撃銃の引き金を引いた。

この時の結果は総合評価で5位の成績を収める事になり、俺を含む1位以外の全員はもう一往復のランニング訓練が課せられることになるのだった。








これらの兵士訓練後、各小隊が作られ座学、士官教育を受けていくことになる。

そして、一年の締めくくりに課程を超えて、訓練兵同士の特別訓練が行われることになった。

その内容は、三日間の間山中で4人1組、計30組の小隊が、各組の小隊長に渡された札を奪い合うというものだ。

さらに、訓練兵には知らされていない、教官の中から選抜された2組の小隊が訓練に加わる事になっていた。

俺はこの訓練の内容を、事前に張り巡らしていた情報網から、開催場所,各小隊の出発地点,教官の小隊の参戦などの情報を知ることが出来た。

そこで、俺は自分とは異なる小隊の小隊長をやっている、真耶マヤ真那マナを呼び出し、この訓練で3小隊の同盟を取り付ける事にした。

始めはこの情報に、真耶マヤは関心し真那マナは呆れた表情を浮かべていたが、3小隊で教官の小隊を叩いてやろうと提案すると、
二人とも見た者の背筋がゾクゾクする、すばらしい笑みを浮かべ同盟を了承してくれた。

この特別訓練の打ち合わせで、俺達三人は今まで以上に頻繁に会うことになったため、周りから付き合っているのでは?と噂が流れることになったが、
俺はこの噂が良いカモフラージュになると判断し、その噂が教官の耳に入るように仕向けるのだった。


そして特別訓練初日、予定通り合流した3小隊は、教官の小隊二つを包囲殲滅することが出来た。

後は、地形を把握しているため、食料、水が補給できる地点を確保し、のこのこやって来る各小隊を血祭りに挙げていく事になる。

途中で、新たな教官の小隊が乱入してくるハプニングもあったが、最小限の犠牲で返り討ちにすることが出来た。

結局、特別訓練で訓練終了まで生き延びた小隊は、俺達の3小隊を含むたったの8小隊だけであった。





「御剣、今回はお前達にやられたよ。まさか、他の小隊と同盟を組む手に出るなんてな。」


「はは、偶然にも始めの方に、真耶マヤ真那マナの小隊に出くわしてさ・・・。」

 俺は他の奴らから目の敵にされているだろう?
 1小隊だけだと、最後まで生き残れないと思って、必死に説得したんだよ。」


「あぁ、確かに御剣の小隊は一番、札のポイントが高かったな。
 でも、良くあの二人が同盟の話しに乗ったな、・・・これが愛の力ってやつか?

 これは、三人が付き合っているって嘘も… …。」


「はは、どうだろうね…え~ぇ~。」


俺は話をしている途中で後ろから襟をつかまれ、それ以上の会話をすることが出来なくなった。


「近藤殿、話の途中で申し訳ないが、少し御剣訓練兵に聞きたい事があってな。」


「そういう事だ、すまないが御剣訓練兵を借りていくぞ。」


「あぁ、こんな奴でよければ御好きにどうぞ。」


「「そうか、それでは失礼する。」」










「信綱、先ほどなかなか面白話を聞いてな・・・、何でもお前と私と真那マナの三人は恋人関係になっているらしいぞ。」


「そ そうだ。信綱、どうしてこんな話になっているのだ!」


「あぁ、その噂か、今回の特別訓練の打ち合わせを誤魔化せると思って、大いに広めておいた… …。

 二人とも… …、嫌だったか?」

 
「い 嫌と言うわけでは… …」


「問題ない、むしろもっと広めても良かったくらいだ。」 


真耶マヤ! 何を言っているのだ。」


「ははははは・・・、ありがとう二人とも・・・、

 俺のためにも、もっと噂を広めておくことにするよ。」


小学校以来久しぶりに机を並べることになった訓練校で、急に他人行儀になった真耶マヤ真那マナに不安を覚えていた俺は、
この時の真那マナの赤くなった顔と真耶マヤの自信満々の笑みで、男としてか幼馴染みとしてかは分からないが、
好かれてはいるようだと感じ安堵するのだった。







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コメント

頑張って、主人公の思いを文章にしたつもりになっている作者です。

また、主人公の恋愛状況も軽いジャブの打ち合いで、なかなか進展しないのは、
主人公の性格設定の所為というか、作者の経験値が足りない所為かもしれません。


主人公一人の描写でもこんなに難しいのに、複数のキャラクターを書き分ける作者様たちには頭が下がる思いです。

特に異性の心理描写ってどうやって書けばいいのだろうと、首を傾げる毎日を送っています。


こんな拙いSSですが、最後まで付き合ってくれる人がいたら・・・うれしいな。



[16427] 第09話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/06/06 15:55




2年前から開発が行われてきた不知火の斯衛軍仕様は、帝国軍の不知火の運用報告及び斯衛軍の要求とは別に、各企業主導で帝国軍に作られた
実験部隊から得られる他国の戦術機のデータも取り入れられるかたちで、開発が進められてきた。

そして今年に入り、ようやく試験機による実戦テストが行われる段階になっていた。

不知火・斯衛軍仕様試験型は通常の不知火に対し、以下のような改良が施されている。


機体の即応性向上について
機体主機の換装により、容量の拡大と出力の向上が行われる。
それにより、電磁伸縮炭素帯のレイアウト変更と使用量の拡大が行われる事になった。
また、CPUの換装によりEXAMシステムver.2の搭載が行われたことも、機体の即応性向上に貢献した。
EXAMシステムver.2は先行入力機能に加え、行動のキャンセル機能が追加されたものである。


機体の機動力と運動性向上について
跳躍ユニット主機の高出力化と肩部に姿勢制御用小型スラスターが増設される事になった。
また、戦術機の基本動作及び姿勢制御システムに改良が加えられたEXAMシステムver.2により、頭部にある大型センサーマスト及び、
ナイフシースなどを積極的に制御することが可能になり、空力制御による運動性向上も図られた。


近接格闘用装備の追加
ナイフシースの外装カバーにスーパーカーボン製ブレードを採用し、脛部分の外装にもブレード機能が施された。
また、不知火・吹雪では補助的な役割として搭載された、前腕外側部にある飛び出し式のカーボンブレードは、その有効性が実証されたため、
さらに大型化されることになった。


機体本体の強化
各種改良により機体にかかる負荷が増大したため、それにあわせて基礎フレーム及び各部関節の強化が行われた。
また、稼働時間の低下が予想されたため、バッテリー及び燃料タンクを増設するために外装が一部大型化する事になった。


装甲の改良
この機体には、新開発の対レーザー蒸散塗膜加工装甲が搭載されることになった。
その試験結果を得て、通常の不知火と吹雪にも装備されることになる。
しかし、不知火は重要部分,吹雪はコックピット周りのみに限定で施されているのに対し、青色以上の仕様の機体には全ての装甲に
対レーザー蒸散塗膜加工が施される事になっている。

この様な改良により、不知火という枠の中では、ハード面でこれ以上性能をあげることはできないと言われるほど、突き詰められたものになった。

その機体性能は、総合的な能力で不知火を上回るものになり、接近格闘能力では不知火を圧倒するまでになっていた。

ただし、増設されたバッテリー及び燃料タンクでも稼働時間の低下を補うことはできず、統計的に見て稼働時間が
不知火の80%ほどになっている。

さらに、大幅な製造コストの上昇と整備性の悪さや、高い衛士適正を必要とする点も問題とされたため、現時点では少数精鋭の
斯衛軍くらいしか運用する事ができない機体となっている。


この仕様を見た俺は、原作の不知火・壱型丙と武御雷を混ぜたような機体だなという感想を持った。

これは、余談だが不知火・斯衛軍仕様試験型のデータにより、EXAMシステム搭載を前提とした機体開発の必要性が判明し、
新型機の開発に反映される事になるのだった。








斯衛軍訓練校で一年を過ごした俺は、その後の衛士適正試験で過去最高の適正を示し、正式に衛士課程へ進むことになった。

過去何十回も戦術機に乗ったことがあるのに、いまさら適正だなんて・・・笑。

ただ、初めて乗ることになる瑞鶴への対応が上手くいかず、動作教習課程のスコアは思うように伸びなかった。

それでも、他の訓練兵と比べると圧倒的な成績を出してはいるが、瑞鶴を上手く扱っているという感覚が無いのだ。

やはり、高い機動力と運動性が求められた第二世代機の陽炎,第三世代機の不知火・吹雪らと、重装甲で固めた第一世代機の名残が残る
1.5世代機の瑞鶴では、機体の動かし方に大きな隔たりがあるのだろう。
 
不知火では少しのミスは、持ち前の機動力と運動性で誤魔化すことが出来たが、瑞鶴ではそれが出来ない。

小さなミスでも、それがじわじわと傷口を広げて行き、それが結果に大きく響いてくるのだ。


俺のシミュレーターでの成績が思ったほど良くないのを見た教官は、基礎動作訓練終了後嬉々として瑞鶴同士のシミュレーター対戦を挑んできた。

そこで俺は、教官の巧みな操縦について行けず、敗北することになる。

その後、今までの鬱憤を晴らすように、入れ替わり立ち代り教官たちとの対戦訓練をするはめになった。

シミュレーター訓練の最後は、俺が教官と対戦し敗れるというのが日常になっていった。

以前から分かっていたことだったが、シミュレーションでは殺気を感じにくいし、騎乗(乗り者の乗り方やその能力・特性を理解できる能力)の
特殊能力がはたらかないのだ。

俺は教官の説明,瑞鶴の説明書,小隊内や他の訓練兵との議論を参考にしながら、少しずつ瑞鶴に最適な操縦法と限界性能を学んでいくことになる。





シミュレーターでの訓練が一段落したところで、ようやく実機訓練を行うことになった。

訓練校にある瑞鶴は、小隊での対戦ができるように8機が揃えられていたが、訓練兵の人数と比べると圧倒的に数が足りなかった。

俺は、他人のログが残っている機体に不満を感じながらも、初めて触れる瑞鶴に狂喜するのだった。

そして、実機に乗り騎乗の能力を発動させた俺は、瑞鶴の操作感覚を掴みそこから更に大きく成績を上げることになった。


訓練の最中に噴射跳躍で空に跳び上がる事を、


「貴様は、光線級の恐ろしさを知らんのか?」


と窘められることがあったが、


「この訓練の設定では光線級の存在は設定されていませんし、
 第三世代機なら光線級の照射を避けることができるため、この訓練は無駄にならないと判断します。」


と返答するなど、教官の指示する以外の訓練も行うようになっていった。

この事は、教官の不評を買い教官と実機を使った一対一対戦に発展していく事になる。

その対戦結果は、シミュレーター対戦とは逆に俺が勝利を収めるかたちとなった。

俺は教官の奇襲やトラップを持ち前の勘で察知し、それを逆手にとって不意打ちを喰らわせ、教官を撃破するのだった。

その後、格闘訓練時と同様に幾人かの教官と対戦を行うが、実機対戦では全勝、シミュレーター対戦では5分の成績を収める結果となった。

まともな対戦となれば、一対一で戦う事に慣れている俺に分があり、戦術機の操縦テクニックも8歳からシミュレーター訓練を行ってきた
俺に分があるためだ。

教官には、シミュレーター訓練の時でさえ、奇襲やトラップしか選択肢が残されていなかったが、俺の奇抜な機動を捉える事が難しく、
実戦経験の差を見せ付ける事が出来ずにいたのだった。




次に行われたのが、統合仮想情報演習システム『JIVES』を使った、対BETA戦のシミュレーター訓練だった。

今日行われたJIVESでのシミュレーション設定は、小隊での拠点防衛。

午前中に行われたシミュレーター訓練では、多くの小隊が先行する突撃級を処理している間に、要撃級と戦車級に囲まれ、
一度も補給を受けることなく、撃破されていった。


俺が小隊長を務める小隊も同じような結果になり、何とか包囲を突破するが拠点にBETAが侵入し、開始30分ほどで終了となっている。

このシミュレーション設定では、BETAは谷のある方向からのみ進行してきており、光線級の存在も設定されていないことから、
こちらに十分な装備と数がそろえば、防衛は可能であると考えられる設定だった。

しかし、支援砲撃も無く小隊規模でトラップの使用が許可されているのみでは、歴代の訓練兵の最長防衛記録が40分程度だという事からも、
現状の瑞鶴の性能ではこの程度の防衛が精一杯であると考えられていた。

午後からも同じ設定でシミュレーター訓練が行われることになっており、各小隊は個別に集まり対策会議を行っていた。


「隊長、午後からのシミュレーター訓練どうしましょうか?
 流石の隊長でも、今回は厳しいと思うのですが・・・。」


そう言って、小隊内で俺とエレメントを組んで前衛を務めている、斉藤が話しかけてきた。


「ああ、確かに今回は厳しい状況だ。
 前のように、友軍が湧いてくることは無いしな・・・。」


俺が、軽く斉藤に返事を返し考え込んでいると、後衛を務める二人が話し出した。


「ええ~、隊長に頼めばどこからか増援や超兵器が湧いてくるもんだと・・・・・・。」


「前田、何を言っているんだ、
 隊長がいつもやっているのは、裏技や将棋の盤をひっくり返す類のものだ。
 勝手に援軍が湧いてくるものか。」


「高杉~、もっと夢を持とうぜ夢をよ~。」

 
「ふぅ・・・、二人の希望に沿うかは分からないが、一つアイデアがある・・・。」


そう言って俺が話し出したアイデアとは、機体の設定をいじろうというものだった。

三人は始め、何を言っているのか分からない様子だった。

それは俺が言っている機体をいじるということが、普段行っている個人で許された範囲の制御設定だと勘違いしたためだ。

ここで俺が言っている機体をいじるとは、機体の性能自体を変えてしまおうというものだったのだ。

もちろん、ありえない性能に設定するのではJIVESのシステムに弾かれてしまう。

しかし、逆に言えばありえる設定ならば、問題なく動くというという事でもある。

俺はシステムの中に、今の俺たちが乗っている一般向けの瑞鶴以外にも、有力武家や五摂家の者が駆る高機動型の設定が、
裏に隠されている事を知っていた。

さすがに、高機動型の設定をそのまま使うことは問題だが、そのデータを参考に一般向けの瑞鶴のデータを極限まで軽量化し、
機動力を高めた機体設定で、シミュレーター訓練に挑むことを提案したのだ。

今回は拠点防衛という設定ながらも、機動力にものをいわせ積極的に攻勢にでる以外に打開策が見つからなかったからだ。

この設定では、機動力の向上に反比例して防御力が低下するため撃破される危険性が増すことになる。

したがって、戦力的に他小隊と差はついていないはずである。

この話を聞いた小隊の連中は、また裏技を持ってきやがったと発言するのだが、それを楽しみにしている節があるので、
他の小隊のまじめな雰囲気からはだいぶ離れた連中だった。


その後、機体の設定変更の裏コードとパラメータデータを渡した後、装備の設定・陣形の確認を終え、
午後のシミュレーター訓練に挑むことにした。





「こちら01(御剣)、小隊各機に告ぐ、作戦開始直後より全力で匍匐飛行を行い、一気にBETA群との距離を詰める。
 その後は作戦通りだ、好きに動け! 以上」


「「「了解!」」」 


今回俺たちの小隊が設定した装備は、強襲前衛(87式突撃銃×2,74式接近戦闘長刀×2,65式近接格闘短刀×2)装備が2機に、
制圧支援(87式突撃銃×1,多弾頭ミサイルコンテナ×2,92式多目的追加装甲×1,65式近接格闘短刀×2)装備が2機だ。

制圧支援装備の2機が装備する、多弾頭ミサイルコンテナのミサイルは自立回避をする機能が搭載されていないため、
光線級が存在する地域では無力化されてしまう装備だ。

しかし、今回の作戦では光線級の存在が確認されていないため、補給を確保する事ができれば、その威力を大いに発揮する事になるだろう。


俺たちの小隊は、機体の軽量化によって他の小隊を圧倒する速さでBETA群まで到達した。

この時点で、教官たちに機体設定をいじっていることがばれてしまったはずだが、特に指摘を受けることは無かった。

後衛より、先行していた前衛の俺と斉藤は、迫り来る突撃級の上を飛び越え、突撃級の軟らかい背面を突撃砲で正射していく。

突撃級は一瞬、速度を落とし反転するようなしぐさを見せたが、遅れてやってきた後衛に気づいたからなのだろうか、
面白いようにその背面をさらし続けていた。

やがて合流してきた後衛は、前衛と同様に突撃級を飛び越え突撃級の背後を取り、突撃級が反転する前に装備されている
ミサイルコンテナを全て発射したのだった。

2機から発射された数十発のミサイルは、突撃級の背面に突き刺さり内部に溜め込んだ力を解放した。

ミサイルの放った閃光の後には、無残に骸をさらす数十体の突撃級が残されていた。


「はははっ、凄い凄い、隊長~。
 こういう時、何て言ったらいいんでしたっけ?」


「04(前田)、たしか『汚い花火だ・・・』でよかったはずだ。」


「おお、それだよ高杉~。」


後衛の二人は無駄口を叩きながらも、立ち止まることはなく、撃ち洩らした突撃級への攻撃を続けるのだった。





後衛がミサイルを発射してから2分ほどたった時、中群にあたる要撃級と戦車級の群れが接近していることが伝わってきた。

ここで、装備されているミサイルを全て発射した後衛は、ミサイルコンテナの補給の為に後方の防衛拠点に後退を開始する。


「こちら04(前田)、隊長~後は頼みましたよ~。」


「01(御剣)了解。

 02(斉藤)・・・そろそろ要撃級どもが来るぞ、覚悟はいいな。」


「ええ、隊長の無茶に付き合うのが私の役目ですから。」


斉藤は苦笑しながら、俺の問に答えた。

斉藤が言う無茶とは、これから迫り来るBETA群をたったの2機の戦術機で対応する作戦に対しての発言だった。

幸いにもこの段階で、100体以上いた突撃級はほぼ掃討し終えていた、これなら後衛が補給から戻ってくるまでの残り10分間ほどなら、
持たせることができるはずだ。


「02(斉藤)、無理に倒そうと思うな、落とされなければいい。
 それだけでも、BETAを拘束することはできるんだからな。」


ここに、瑞鶴2機による連隊規模のBETA群に対する遅滞戦闘が行われる事になる。

この一見無謀かと思える作戦も、軽量化された瑞鶴の持つ運動性により、一撃でも貰えばアウトという綱渡りのような状況ながら、
一応の成功を収めることになった。

何とか、後衛が合流するまで生存し続け、合流後は02(斉藤)が補給のため拠点へ後退していく。

その後、俺が囮役を務めることで、制圧支援装備の後衛が乱戦に持ち込まれることが無いようにしながら、遅滞戦闘は続けられていった。

そして、02(斉藤)が補給を終えて合流した直後に、俺と02(斉藤)の立場を入れ替え、俺が補給へ向かうのだった。


作戦では、このローテーションを繰り返し、拠点に到達される前にBETA群を殲滅することになっていた。

俺が補給に向かう途中、大きな花火が上がる。

これは、どうしても俺と02(斉藤)には技量の差が有り、02(斉藤)の支援をするために後衛が俺と組んで戦う時に禁止していた、
ミサイルを使ったためだろう。

そのほかにも戦力を補うため、俺が補給中にBETAが進行してくると予想された地点には、与えられたトラップを配置していた。


この戦い方で、俺は補給と移動に必要な時間の3回分を戦い続ける事になり、他の隊員は2回分の間戦うことになる。

俺が連続で戦う時間が長い事になるが、衛士としての能力差があるので仕方が無い事だった。

最も他の隊員が衛士として劣っているわけではない、他の小隊と比べても俺の無茶な戦い方についてこられる事からも、その優秀さが伺えるのだ。

しかし、始めは上手く機能していたローテーションも、疲労の蓄積によりミスが目立ち始めトラップが尽きた時、崩壊を始める。

俺がいない間に囮役をしていた、02(斉藤)が撃破されてしまったのだ。

残りの二機はそこで、撃ち尽くしたミサイルコンテナを破棄し、運動性を上げる事で何とか持ちこたえることに成功するが、
ここで強力な火力を失うことになった。

そして、補給を終えた俺が駆けつける寸前、俺の機体の横を光線が通り過ぎ、残りの二機が相次いで撃墜されたことが告げられた。

何と・・・、想定していなかったBETAの増援が出現し、そこには要塞級と光線級も含まれていたのだった。





俺はそれから撃破されるまでの間、最後の足掻きに戦い続ける事になる。

BETAの群れに対応するのは、絶え間なく襲っている訓練兵を相手にしていた、格闘訓練の時と似ている等とくだらないことを考えながら・・・。

何とか光線級を全滅させるとこまで粘ることができたが、最後は要撃級の攻撃が掠り転倒したところを、
戦車級に群がられ呆気なく撃破されることになった。

あのじわじわと、瑞鶴の装甲を食い破ってくるシーンは、できることなら二度と見たくは無いものだった。

しかし、俺がBETA戦で撃破されるのはほぼ100%がこの戦車級となっている。

他のBETAから致命傷になるダメージを受けることが無いので、動けなくなった時点で奴らの餌食になるのだ。

シミュレーター訓練が終わり、外に出た俺たちに教官が声をかけてきた、


「おめでとう。
 要塞級と光線級が出現するまで・・・、つまり防衛開始から一時間超えをした訓練兵の小隊は、貴様らが初だ。」


この教官の発言を聞いた俺たちは、喜ぶよりも攻略の目処が立ってきた作戦が振り出しに戻された事を感じ、肩を落とした。

この日はシミュレーター訓練とはいえ、改めてBETAの物量の恐ろしさを実感する日となるのだった。






衛士課程に進んでから10ヶ月以上が経ち、衛士課程の最終試験に現役部隊を仮想敵とした実機訓練があると噂され始めてから
しばらくたったある日、俺はその噂の全容をつかみ小隊内の対策会議で報告することにした。


「皆、今日はいい話と悪い話が一つずつあるんだが、どっちから聞きたい?」


「では・・・、セオリー通りに、悪い話からお願いします。」


俺は、斉藤の言葉に促されて話をする事にした。


「最終試験で、噂されていた仮想敵の正体が判明した・・・。

 対戦する相手は、国内最強部隊の富士教導隊だ。」


俺の言葉に、小隊の全員が息を呑むことになった。

俺が言った富士教導隊とは、現役の衛士を教導するために作られた最精鋭部隊である。

常に他の部隊と演習を繰り返している彼らは、対人戦のエキスパートであると同時に、最新の装備を運用する試験部隊としての側面を持つ。

そして当然のように、運用する戦術機は全て不知火で揃えられているのだった。


「はぁ・・・、隊長~いい話の方も聞かせてください。」

 
「喜べ前田、最終試験二週間前になる明日、訓練兵全員分の瑞鶴が配備されることになった。
 各部隊から提供されて、二週間だけだが初めて自分たち用の戦術機が手に入ることになる。」


「隊長・・・、不知火相手じゃ余り、いい話とはいえませんが?」


「そういうな高杉、これでもましになったほうだ。」


「それと、日本人としては喜ばしいが、富士教導隊と戦う者たちにとって悲しい知らせがある・・・。
 オフレコになるが、近日中に富士教導隊の不知火がCPUを交換し、最新のOSが搭載されると報告を受けた。」


「・・・それは、隊長の家で開発された戦術機の硬直を無くすという噂のOSですか?」


「ああ、それも最新型のver.2だ。
 教導隊の不知火には、硬直がまったくなくなると考えてもらっていいだろう。」


「「「はぁ・・・。」」」


三人は俺の話を聞き、一斉に肩を落とした。

俺はかまわず、話を続けていく、


「今回は裏技も卓袱台返しも無しの、ガチンコ勝負だ。
 俺たちは今後、配備される瑞鶴を自分用に慣らしていくことになるだろう。
 そうする事で、今まで有った他の衛士が残したログによる違和感も、専用の瑞鶴を調整すればなくなるはずだ・・・。

 後は、教導隊を少しでもてこずらせる為に、他の小隊にこの情報を流すことぐらいしかない。」



この会議の後、他の小隊で仮想敵の相手が富士教導隊であることが噂され始める事になった。

そして俺たちは、今まで以上に整備兵と情報交換を行い機体の設定を煮詰めていくのだった。




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コメント

皆様、ご感想ありがとうございます。

皆様の応援のお陰で、今まで最長で1話一年だったのが、ついに2話で一年となりました。

この調子で、原作に追いつく頃には、細かな描写ができるようになっていればいいなと、考えています。


それと、ご感想・ご提案の返事を感想板に書き込むと、作者の投稿で感想板が溢れてしまう可能性があるため、
誠に恐縮ではありますが、ご感想・ご提案の返事は今後、後書きで触る程度にさせていただきたいと思います。

ただし、ご指摘への返事は後書きで書いても感想板を見ない人が楽しめないため、
今まで通り感想板に返信させていただいたいと思います。




本編で書いた教導隊への新OSの配備・・・、どうしましょう?
ますます、将来のイベントが怖くなっていました。
しかし、日本帝国と民間人を守るためには新OSの普及が必要だし、
その過程で、教導隊に配備されないのはおかしいし・・・、
悩みが絶えません。



返事

現段階での設定では、原作の戦術機を少し改良した程度の機体となっております。
この話で出てきた試作機も、その性能で原作武御雷を超えることができていません。
後、何機か戦術機を開発していくと、明確に原作と異なる戦術機となっていくと思います。



それと、おそらく同じ方より二度目の提案があった、二次創作で大人気らしい「世界一高価な鉄屑」の件ですが。
原作ではこの話の五年前の1990年に、鉄屑が決定してしまわれたようです・・・。
ただ、大々的に手を出し鉄屑さんの開発元を儲けさせると、技術が流入しなくて困る国が出てきてしまうかもしれません。
ある国の戦術機も好きな、私としてはどうにかそれは避けたいのです。
また、国内の反発も懸念しています、TEを読むとやはり国粋主義者が多いようですし。

二枚舌交渉でどうにでもなるだろ、とか
米軍撤退前なら何とかなる、
と言われればそれまでではあるのですが・・・。

今後の展開しだいではどうなるかわかりませんので、慎重に検討したいと思います。




[16427] 第10話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/06/06 16:29



突然だがここで、戦術機で使われている姿勢制御方法について説明したいと思う。

現在の戦術機は、大きく分けて二種類の制御により動かされている。

その二種類とは、操縦桿やフットペダルなどの操作による直接制御と強化装備というインターフェイスを介した間接思考による制御だ。

そしてこの間接思考制御により、衛士は人型を模した戦術機を自分の手足のように扱えるようになるというのが売りなのだが・・・、
実際にはそうはいかない。

どんなに、思考の読み取りが高速化しようとも、戦術機がその反応についてこれ無いため、思考と実際の動きの間にはタイムラグが存在するからだ。

もし、違和感がなくなるまで戦術機を高速で動かしたとすると、その慣性力(G)に衛士が耐えられず即死する可能性が高いため、
現在の科学力ではタイムラグを無くすことは不可能となっている。

したがって、このタイムラグが原因で間接思考制御による完全な姿勢制御が難しくなり、完全な姿勢制御が行えないことから、
行動の合間に転倒防止のため不自然な姿勢制御が行われることになっているのだ。


ベテラン達は今まで、このタイムラグを長年の経験により把握し、行動の合間の姿勢制御を間接思考制御に置き換えることで、
硬直を緩和してきたのだ。

それをEXAMシステムは、先行入力により各行動を一つの動きとして処理することで、姿勢制御を機体側で行う事を可能にしてしまった。

これにより、一般衛士でもベテランと遜色ない動きが約束されたのだ、まるでベテラン衛士たちが蓄積した情報に導かれるように・・・。

そして、ベテランやエースは間接思考制御を別の部分に振り分けることで、更なる高みへ上ることになる。


しかし、ここで一つの疑問が湧いてくる、

もし思考と戦術機のずれを完全に補正するまで、戦術機の操縦に習熟した衛士がいれば、EXAMシステムがなくても、
完全に硬直を打ち消すことができるのではないだろうか?

という疑問だ。

これは、EXAMシステムとは真逆の考えであるが、どちらに行っても行き着く先は同様の答えが得られる気がした俺は、この疑問の答えを得るため、
残された時間を使って小隊の連中を巻き込み、間接思考制御による姿勢制御の割合をどんどん増やしていく事にした。

この実験に付き合わされた小隊の連中は、硬直の緩和を実現するまでの成果を出す事になる。

小隊の連中はこの実験の感想を、自転車の乗り方と同じで慣れれば、もう少し間接思考制御の割合を増やせると語っていた。

そしてこの実験は、機体側の処理能力の限界もあったが、硬直を取り除く一歩手前まで成功するという結果を俺にもたらすのだった。







いよいよ富士教導部隊を仮想敵にした、最終試験が行われる日となった。


「隊長~、ここで勝てば女にモテますよね?」


「前田、その短絡思考を何とかしろ。」


「何だよ高杉~、せっかく斯衛軍は帝国軍より女性比率が高いんだ、夢を見ないとだめだろう、夢をよ。」


「二人とも、そういう事は勝ってからにしてください。」


「斉藤、それぐらいで許してやれ、緊張で動けないよりだいぶましな状況なんだ。

 それと前田、俺が惚れた女以外なら好きにしていいぞ。

 最も・・・、相手が応えてくれるとは限らんがな。」


「ご安心下さい隊長殿~、

 あの要塞の様に堅牢な女を口説く変わり者は、隊長くらいしかいませんから。」


今回の試験で一番始めに試験に挑むことになったため、硬くなっていた小隊の空気が、前田のこの発言によりいい意味で和らいでいった。

こうやって、場を和ませるのは俺には難しいなと感じ、前田の存在に感謝するのだった。









「くそ、こいつら訓練兵だと思って遊んでるのか?」


俺は、2機の不知火を相手にしながらそうつぶやいた。

俺たちの小隊がこの日の為に建てた作戦は、訓練兵がよく使う市街地の演習場という地の利を生かして、俺が駆る瑞鶴一機で不知火2機の
エレメントを拘束し、残りの隊員の瑞鶴3機で不知火2機と戦う状況を作るという、ごく単純なものだった。

そして、小隊の装備もオーソドックスに、

俺と斉藤が突撃前衛(87式突撃銃×1,74式接近戦闘長刀×2,92式多目的追加装甲×1,65式近接格闘短刀×2)装備、

高杉が砲撃支援(87式支援突撃銃×1,74式接近戦闘長刀×1,65式近接格闘短刀×2)装備、

前田が強襲掃討(87式突撃銃×4,65式近接格闘短刀×2)装備となっている。



現在はその作戦通りに、俺1機で不知火2機を拘束することに成功していた。

通常は油断することもなく、容赦なく相手を葬ることで有名な富士教導隊であるが、斯衛軍とはいえ訓練兵を相手にすることに
気分がなえているのではないかと感じるほ、どEXAMシステム搭載機にしては余り動きがよくなかった。

俺はそこで、EXAMシステムを完全にものにしていない可能性に気が付いた。


「一番手の試験だと聞いて、疲労の無い教導隊と戦う破目になると考えたが・・・、意外と最良の順番だったのかもしれないな。」


俺は教官に教えられた一般的な第一世代機の戦い方とビル群を上手く使うことで、盾にダメージを追いながらも時間を稼ぐ事に成功していた。

するとそこに、04(前田)が撃破されたという報告が入ってくる。


「このままじゃ、完全に負けてしまう・・・。

 みんな頼む・・・。」


俺がそうつぶやいた時、02(斉藤)が相打ちながら不知火を一機撃破したと報告が入ってきた。

俺は相打ちをしてまで、小隊を勝ちに行かせた斉藤に感謝しながらも、盾を捨て間髪いれずに反転し、残り一機となった不知火に向かって、
噴射跳躍で移動を開始する。

俺と戦っていた2機の不知火は、突然空へ跳び上がった瑞鶴に対応が遅れたようだった。

しかし、遅れたといっても不知火と瑞鶴の機動力の差を考えると、それほど影響があるとは思えないほどの僅かな時間だった。

すぐさま、噴射跳躍で追撃してきた不知火は、完全に背面をさらしていた俺に対して突撃砲による攻撃を行ってくる。

俺はここに来て始めて、心眼(自分を空から見下ろす感覚)を発動させ、姿勢制御を7割がた間接思考制御に切り替えて操縦を行う設定に変更した。

後は勘を頼りに回避を行い、心眼の能力で感じた方向に対し、瑞鶴の腕を背後に向け突撃砲を乱射していった。

するとそれを脅威に感じたのか、不知火が噴射跳躍でこちらを追撃することを諦めてくれた。

これは後に分かったことだが、この時に放った突撃砲の乱射は的確に不知火を捕らえ、片側の跳躍ユニットに命中し一機の不知火から、
機動力を奪っていたのだ。

また、それを見た僚機は3機目の瑞鶴撃破の報もあり、噴射跳躍による追撃を中止したらしい。

この判断は、もう一機の不知火を信頼しての判断だったのだろうが、これにより俺たちに勝機が生まれた。







2機の不知火を振り切った俺は、進行方向にいた不知火を捕捉したが、その不知火から突撃砲による迎撃を受けることになった。

俺はそれに対して、空中から突撃砲で応戦しつつ不知火の直上を確保した。

そして、突撃砲を破棄し長刀を抜刀すると、不知火の直上からバレルロールで襲い掛かかる。

俺の放った直上からの長刀による斬撃は、バックステップを取った不知火によって回避されてしまったが、
着地からの硬直を感じさせない動きで再び放った斬撃により、不知火の突撃砲を弾き飛ばす事に成功する。

突撃砲を弾き飛ばされた不知火は、左手から内蔵式カーボンブレードを出し、右手で長刀を抜こうとしていた。

俺は長刀で内蔵式カーボンブレード受け流し、左肩から体当たりを行う。

質量では圧倒的に瑞鶴が大きい事と、相手が距離を取ろうと後方に重心を移動していた事から、不知火は無様に転倒することになる。

しかし、転倒する前に小型可動兵装担架システムを起動させていた不知火は、筒状の物を空中に放り投げてきていた。

それがどんなものか分からなかったが、小型可動兵装担架システムが搭載できる兵器を考えると、瑞鶴の装甲に致命的なダメージを
与えられることは無いと判断した俺は、倒れている不知火に対し長刀を振り下ろした・・・・次の瞬間。

不知火が放り投げた筒状の物は、強烈な光を放ち瑞鶴のカメラを焼きつかせ、一時的に視界を奪っていった。




俺が振り下ろした長刀は、相手の腕部に中った感じはしたが、相手に致命傷を与えることはできていないはずだ。

ただし、この強烈な光は不知火にも同様に降り注いでおり、こちらよりも短い時間ではあるが不知火のカメラも麻痺している可能性が高かった。

逆にそうでないとスタングレネードの意味が無い、本来スタングレネードは障害物を挟むか後方に投擲する等、
機体との間に遮蔽物を挟むことを前提に作られているからだ。


俺は心眼の能力により、相手が跳躍ユニットを起動し距離を取ろうとしている事を察知する。

一度距離を取られたら、残りの不知火と合流するまでに撃破することが難しくなると感じた俺は、賭けに出る。

心眼と勘を頼りに振り下ろした長刀を切り返し、跳躍ユニットを全開にして前進しながら、
不知火のコックピットめがけ左腕一本による突きを放った。







視界が回復した俺の目に入ったのは、コックピット付近の装甲が僅かに陥没し、横転している不知火の姿だった。

その直後、俺の耳に敵の不知火が行動不能になったことが告げられた。


「これで、1対2だ・・・。」


俺は長刀を背面の可動兵装担架システムに戻すと、砲撃支援装備の03(高杉)が装備していた87式支援突撃砲を回収後、
極静穏モードに切り替えて移動を開始した。

本来の予定では、03(高杉)が生き残り狙撃を行い、俺が囮役を務めるはずだったのだが・・・。

小隊単位の訓練に入ってから、余り狙撃を行う機会がなかったが、何とかするしかない。

幸いにも、予定通り87式支援突撃砲には半分ほどの残弾が残されていた。

俺は不知火を撃破した地点から、800mmほど離れた地点に伏せ狙撃の体勢に入る事になる。







不知火を撃破した地点に到着した不知火のエレメントは、立ち止まり周囲の警戒を行っている様子だった。

どうやら、近接格闘で一機を撃破した俺が、奇襲を行うと思って警戒しているのだろう。

俺が2機を相手にしている時も、ワザと格闘戦に持ち込もうとしている動きを見せていたことも、その理由の一つかもしれない。

不知火のセンサーにいつ引っかかるか分からないので、相手が動きを止めた瞬間にセンサーを使わない目視のみで照準を合わせた俺は、
支援突撃砲のトリガーを引き、すばやく対象を切り替えて再度砲撃を行う。

俺が始めに放った弾丸は、見事に不知火のコックピットを捉え戦闘不能に追い込んだ。

しかし、遅れて放った弾丸の対象になったもう一機は、完全のこちらの弾丸を回避していた。


この段階で、俺の位置が完全にばれたのだろう、不知火は細かな軌道修正を繰り返しながらも、こちらとの距離を急激に詰めてきていた。

もうこちらには残された作戦は無い。

それに、相手もこちらを完全に敵と認めてくれたのだろう、不知火の纏う雰囲気が変わっていた。

ここから正真正銘の瑞鶴と不知火によるドックファイトが始まる事になった。


相手は不知火の機動力を活かし、一撃離脱を繰り返す戦術を取ったため、戦闘は不知火に最も有利な位置での射撃戦となっていく。

戦い始めて数分で、弾切れにより支援突撃砲を破棄せざる終えなくなり、こちらには長刀2本とナイフ2本が残されるのみとなっている。

それに対し、相手の不知火は強襲前衛(87式突撃銃×2,74式接近戦闘長刀×2,65式近接格闘短刀×2)装備を完全に残している状態だった。

俺は隙を窺い続けていたが、いくら粘っても懐に入る隙を見つけることができなかった。

そうしている間にも、相手の不知火はEXAMシステムに慣れ始めからだろうか、どんどん動きが滑らかになっていった。

俺はそれに対応するために、余っている長刀と可動式懸架システムを破棄することで機体の軽量化をはかり、ドックファイトに使わない
センサー類の機能を停止させたことで浮いた処理能力を、機体の制御に回すことで即応性を高めるなどの手段を取っていた。

そして仕舞いには、搭乗員保護のためのリミッターを解除し、機体性能ギリギリの動きができるような設定変更まで行うことになる。

この設定は衛士の負荷もさることながら、機体にかかる負担も大きくなり、いつ壊れてもおかしくない機体にしたという意味だった。

しかし騎乗(乗り者の乗り方やその能力・特性を理解できる能力)の能力がある俺は、本当の限界点を感じ取り機体が破損しない操縦ができるため、
壊れるという点は心配していなかった。


こういった俺の努力も状況を好転させることができず、次第に追い詰められていくことになる。

そして、心眼の反動である頭痛が於き始めた事と、瑞鶴が金属疲労により悲鳴を上げ始めた事を受け、最後の突撃を敢行しようとした時、







時間切れによる試験終了の合図が送られてきた。

俺はこの合図を聞き、思わず大きなため息をついてしまっていた。

己と機体の限界に挑むことで達成した機動を、EXAMシステムは難なくこなしてしまう事に、
改めて凄いものを開発したことに気付かされたからだった。

この最終試験終了後、俺たちの小隊は唯一富士教導隊に負けなかった小隊となり、訓練校に伝説を一つ作り上げる事になる。

そして俺は、一回の実機演習で瑞鶴をスクラップにした愚か者として、名前を刻むことになった。









最終試験終了後から数日たったある日、俺は教官と進路に関する面談を行っていた。

これは、斯衛軍訓練校を出た者が全て斯衛軍に所属できるものではなく、成績優秀者から順番に志願していき、定数が埋められて時点で、
残ったものは予備役や帝国軍への編入、大学への進学を勧められるための措置だった。


「御剣訓練兵、貴様の進路だが・・・
 
 斯衛軍第16斯衛大隊や帝国軍富士教導隊から名指しで、入隊の誘いが来ている。
 その他にも、精鋭部隊に入ることを前提に各方面軍から・・・、果ては海兵隊からも誘いが来ている。

 まるで昔の、ドラフト一位指名争いのような状況だ・・・。」


「はぁ、そうでありますか。」


「何だ? ドラフトを知らんのか?
 最近、野球をやる若者が減った所為かな・・・。

 まぁいい。これが誘いのあった部隊のリストだ。
 確認しろ。」


「はっ。」


俺はリストの中に、予定通りの部隊名を発見し、それを教官に伝えた。


「教官殿、帝国軍技術廠 第13独立戦術機甲試験中隊に入隊したいと考えております。」


「・・・・・・中隊名まで指定する勧誘が来るとは、おかしいと感じていたが・・・。
 
 選んだからには、この中隊がどこを活動拠点にしているか知っているのだろうな?」


「はい、私は試験中隊を提案した者の一人ですから、
 試験中隊が常に最前線で、運用されていることも知っています。

 確か、現在の第13部隊は北京に拠点を置いて活動していると聞いています。」


教官は、俺の答えを聞いて呆れたような表情を浮かべた。


「御剣・・・、何故そこまで生き急ぐ。」


「時の流れが、休むことを許してくれませんので・・・。

 それに一般の将兵に比べて、信じられないほど整えられた環境で戦えるのです。
 後は、自分の実力しだいとなります。

 安心してください、決して死ぬ為に大陸に渡るわけではありませんので・・・。」

 
「そこまで言うなら、これ以上何も言わないが・・・。

 第16斯衛大隊の誘いを断る者が出るなど、前代未聞だ。
 報告書に何と書くかで、今から頭が痛くなる。」


「申し訳ありません教官殿、報告書には己を試すために大陸に渡ったとでも書いておいてください。」


面談から数週間後、小隊解隊式と衛士徽章授与が行われ、教室にて任官式が行われることになった。

それぞれの任官先が伝えられ、歓喜と落胆が入り混じる中、ようやく俺の配属先が伝えられる番が来た。

今期の首席がどこに配属されるか、皆が注目しているのだろう、心なしか教室が静かになった。


「御剣 少尉殿、帝国軍技術廠 第13独立戦術機甲試験中隊への配属となります。」


周りからはしきりに、どこの部隊だ?と疑問の声が上がっていたが、次の軍曹の言葉により一気に疑問が氷解する事になった。


「これから大陸に渡ることになりますが、訓練校で学んだことを忘れないでいただけたら幸いです。

 少尉殿の武運長久をお祈りいたしております。」


斯衛軍に入ることが決まっており、後はどこの部隊に入るのかと注目されていた今期の首席が、
よりにもよって大陸に渡ることになった結果に、教室内がざわめきに包まれたのだった。







任官式が終わった後、俺は元小隊の連中に囲まれることになった。

他の連中に話を聞かれたくなかった事もあり、校舎の裏側に移動した俺は、三人から一斉に質問攻めを受けることになる。


「隊長、どうして大陸に行くことにしたのです。」


「・・・昔、『人斬りは何故人を切るのか』という本を読んだことがある。

 そこには、ある剣豪が二人の弟子をまったく異なる方法で鍛える話が書かれてあった。
 一人は、基礎を教えた後に『斬りを覚えよ』と伝え旅に出し、もう一人は実戦をせずに剣豪の知りうる限りの全ての技を教えて鍛え上げた。
 やがて、二人の弟子は死合いをやることになるのだが・・・・・・、

 死合いに勝ったのは、実戦を戦い抜いた方の弟子だった、というものだ。

 別に、これが全てということではないが、前から実戦をしたいという思いがあったからな・・・。」


「それでも、一言相談してくれも!」


「よせ前田、俺たち三人は斯衛軍に任官すると前から言っていたんだ。

 隊長から相談されても、俺たちが如何こうする話じゃない。」


「二人とも、ここは一旦下がろう、私たちより隊長を心配している人がいるようですから・・・。

 隊長、この件に関しては今度しっかりと説明していただきますから、そのつもりで・・・。」


少し離れた所にいた真耶マヤ真那マナを見つけた俺たちは、軽い挨拶と互いの健闘を称え合った後、俺を残して分かれることになった。

三人が立ち去ったことを確認した真耶マヤ真那マナは、不機嫌な態度を隠すことなく俺に話しかけてきた。


「何か言いたいことはあるか?」


「・・・、斯衛軍への任官おめでとう。
 俺は大陸へ渡る事になったから、しばらく会えそうに無いな。」


「それだけか・・・?」


「あぁ、今のところは・・・。」


「では、私から聴きたいことがある。

 ・・・どうして、大陸へ渡る事にした。
 国内ではだめなのか?」


「・・・実戦を知る必要がある。
 初の実戦が本土防衛になり、初めてだから上手くできませんでした。
 という状況は避けたいんだ。」


「なぜ、私や真耶マヤに一言相談してくれなかった。」


俺はどう返事をしようか迷ったが、正直に答えることにした。


「・・・・・・俺は、自分で考えて今の道を選んだ。
 そこには、誰の意見も意思も存在しない。
 したがって、たとえ犬死しても誰かが気に病む必要は無い。」


俺が言った言葉で、表情を一変させた二人の反応にやばいと感じた瞬間、

2つの拳が、俺の頬を捉えていた。

俺は、たまらず一歩後退した。


「いてぇ、怒られるとは思ったが、まさか殴られるとは・・・。」


そう呟くが、二人の悲しそうな表情を見た俺は、


「すまん。」


と謝ることしかできなかった。

俺が漏らした謝罪の言葉に、二人が言葉を続けることはなかった。

俺もこれ以上語るべき言葉を見出せず、三人の間に沈黙がながれた。







どれくらい時間がたったのだろうか、俺が気が付いた時には、


「信綱にとって、私たちはその程度の存在だったと言う事か・・・。」


「お前は、子供のときからそうやって私たちを置き去りにしていく・・・。」


と二人が呟いた後、踵を返し立ち去ろうとしていた。

俺はここで別れたら、一生後悔することになると感じ、一世一代の賭けに出ることにした。


真耶マヤ!、真那マナ!」


俺の呼びかけに、二人は振り替えらず立ち止まっただけで返事を返した。


「「なんだ?」」


「・・・・・・、愛してるよ。」


二人の息を飲むような音が聞こえたが、二人は俺の愛の告白に対して軽口を返してきた。


「・・・ふん、この状況で愛の告白か?

 しかも二人同時とは・・・。」


「信綱・・・、時と場合を考えろ。

 愛の告白なら、もっとふさわしい雰囲気があるだろ?」


二人は顔を見合わせた後、こちらを振り向き言葉を続けた。


「もし、大陸から帰ってこられたら・・・、」


「少しは考えてやる・・・。」


「「だから・・・、必ず帰って来い。」」


そう言い、二人は立ち去っていった。

振り返った、二人の顔には涙が流れ、目が赤くなっていた。

俺はその言葉が、ただただ嬉しくて・・・去り行く二人に対して、一言声をかけることしかできなかった。


「あぁ・・・、分かったよ。

 真耶マヤ真那マナ。」




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コメント

皆様、ご感想ありがとうございます。

元々一話だった物を分割しただけのため、早めに投稿することができました。

前話と一緒で楽しんでいただけたら幸いです。


この話では、戦術機同士の対戦や、愛の告白など色々挑戦した話となりました。

私の脳内にある映像を、10%でもいいので文章にできたらもっといい戦闘描写ができるはずなのにと悔しい思いをしております。

また、こんなの告白で女性が振り向くかは甚だ疑問ではありますが、暫定的にどうにかなってしまった事にしておきましょう。


これからも改善に勤めて行きたいと思っているので、ご指導のほどよろしくお願い致します。



返事

皆様が心配してくださった、教導隊の強化で将来のイベントがあ~~、
という話ですが、今の段階でどうなるかは私にも分かりません。

原作をやり直して、話を書こうと考えていたため、
現段階で私のプロットにはその件に対して、『主人公、何とかして戦う』としか書かれていません。

1話毎に、新しい設定とイベントが飛び込む現状ですので、この件がどう響いてくるのやら・・・・・・。



新兵器の開発ですが、調べれば調べるほどBETAの脅威が身にしみている今日この頃、
ついつい、注意事項6番を破って超兵器導入が頭を過ぎってしまいます。

同様に、新兵装に関しても検討を重ねているのですが、人物の動きがリアリティーに欠ける分、
設定だけでもリアリティーを出そうと頑張っております。
それがなければ、高周波振動剣も斬艦刀も、果てはビームサーベルだって出したいところではあるのですが・・・。



ここで不躾ですが、皆様にご質問があります。

原作の凄乃皇を改良すれば、スーパーロボット大戦のグランゾン モドキを作れる気がするのですが、
これは超兵器に入るのでしょうか?

ここで書いたという事は、出すつもりが無いということなのですが、
超兵器の定義を決める参考にしたいと考えているので、書き込みをいただけたら幸いです。






[16427] 第11話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/07/10 09:06



1996年3月に斯衛軍訓練校を卒業した俺は、直ぐにでも大陸に渡る事になると考えていたが、思わぬ横槍が入り国内で足止めされる事になった。

理由の一つ目は、俺用の不知火の調達に時間がかかった事、もう一つは斯衛軍へ任官する事になったからだ。

不知火の件は仕方ないが、斯衛軍へ任官する件はまったく想定していなかった事態だった。

何でも、斯衛軍訓練校始まって以来の成績で卒業した者が、直接帝国軍に行くことに斯衛軍の上層部及び城内省から物言いがついたらしいのだ。

紆余曲折の末、俺は斯衛軍に任官した後帝国軍技術廠 第13独立戦術機甲試験中隊に出向する事になっていた。

斯衛軍訓練校卒業という看板だけでよしとしていた俺は、こんな茶番に付き合う破目になったことに不満を感じないわけではなかったが、
こちらの方が将来香月博士に対するアドバンテージの一つになるかもしれないと考える事にしたのだった。










俺は国内で足止めされている間に、一度家に戻り正式に大陸に渡る事になったと家族に伝える事にした。

祖父と両親には事前に伝えていたため、それほど驚かれることはなかったが、唯一教えていなかった冥夜は戸惑っている様子を見せていた。

俺は試験中隊がほかと比べると充実した装備で戦える安全な部隊である事を伝え、大陸でどれほどの激戦が行われているかを誤魔化して
冥夜に伝えた。

その話を聞いて、冥夜がどう思ったのかは分からなかったが、その日はここで話題を変え普段の家族の会話に戻っていった。

そして、残された数日間の休暇中は会社の仕事をする事にした。

訓練校にいる間は、あまり時間が取れず簡単な報告書のやり取りが中心になり、セキュリティーや意思疎通の問題上、
重要な案件の決定が難しかったのだ。

俺はこの期間にまとめて様々な報告を受け、提案書の作成をする事にした。




今受けている報告内容は、今まで独立戦術機甲試験中隊で試験を行ってきた、海外の戦術機のリストとその測定データについてだ。

手に入れることができた海外の戦術機は、第一世代機と第二世代機の旧型が殆どで、最新の2.5世代機や第三世代機についてはガードが固く、
機体其の物はおろか情報すら殆ど手に入らない状況となっていた。

また、非公式のルートで手に入れた他国の戦術機については、堂々と実戦での試験を行うことができないので、試験部隊では装甲形状を偽装し、
他の部隊とは離れた場所での試験を行っているようだったが、運用データの不足は否めなかった。

そして、試験データを元に進められていた計画についてだが・・・、現行兵器の改修計画は順調に推移していたが、
新型戦術機の開発は現行の戦術機を大きく上回るものができずにいた。

おそらく国内だけの技術・設計思想では、大きなブレークスルーが得られず、開発が難航しているのだろう。

これらを補助するために行ってきた、他国の戦術機の研究だったんだが・・・。


「そうだ・・・、第三世代機といえば、米国のF-22『ラプター』に敗れた、YF-23『ブラックウィドウⅡ』は入手できないのか?
 運用思想に齟齬があっただけで、機体性能自体は高かったと記憶しているが・・・」


「・・・難しいでしょうね、米国の最高機密に属する装備が満載してありますので・・・。
 最低でもステルス機能と対戦術機電子戦装備は外されることは確実です。
 それに、管制ユニットも抜かれた状態になる可能性も有ります、そうなるとあだ名通り『世界一高価な鉄屑』になってしまいますよ。」


会議室の中にいた重役達は、俺の発言の真意がつかめず、ヒソヒソ話に花を咲かせていた。

中には、そんな分かりきったことを・・・等の発言も聞こえてきた。

俺は、それを無視して話を続けることにした。


「・・・・・・ブラックウィドウⅡの開発元のマクダエル・ドグラム社だが・・・、相次ぐ開発計画の失敗で会社が傾いているのではないのか?
 それに対して、既にボーニング社が買収にやる気を見せているという情報もある・・・。

 そして、もう一つの開発元ノースロック社もノースロック・グラナン社になり、ブラックウィドウⅡを海軍に提案したが、
 A-12『アベンジャー』優先を理由に断られ、現在は経営資源を他に振っているようだ。」


「そ そのような情報をどこから手に入れたのです?」


戦術機開発の経過報告をしていた、主任が思わず俺に質問をしてきた。


「俺にも独自の情報ルートはある・・・。」
(業績については調べればなんとなく分かるが、マクダエル・ドグラム社やYF-23に関しては異世界で同じような事例があったしな・・・。)


俺の発言に、重役達は必死に涼しい顔をしようとしているようだったが、気配から動揺が伝わってきた。

どんなことであれ、18歳の若造が経営の手綱を握るには、力を見せておく必要がある。

今回の件で、改めて俺の力が健在であることを示したかったのだ。

俺の発言を受け、マクダエル・ドグラム社買収の話は具体的な内容に移っていく。

マクダエル・ドグラム社は去年制式採用された、F-15E『ストライクイーグル』により若干持ち直してはいるが、
完全に立ち直るのは厳しい状況のようで、おそらくボーニング社との買収合戦に発展すると考えられた。

そしてボーニング社との買収合戦では、ボーニング社側に米国政府がつくことで、御剣財閥によるマクダエル・ドグラム社の完全買収は
不可能になる可能性が高いため、交渉の中で何を優先的に入手するかに話が切り替わっていった。

俺たちがターゲットにした順番は以下のようになった。

1.YF-23『ブラックウィドウⅡ』
・・・新型戦術機開発の研究材料として入手する。
  YF-23のステルス機能及び対戦術機電子戦装備は入手しなくてもよい、ただし管制ユニット(制御データ)は手に入れたい。
2.マクダエル・ドグラムが携わっていた、極秘プロジェクトの開発データ
・・・米国外に持ち出す事ができる可能性は低いが、米国の戦略方針の転換により重要度が低下している可能性がある。
3.F-4『ファントム』
・・・F-4のバリエーション機開発の目処が立っているので、ライセンスを完全に取得しておきたい。
4.航空機
・・・御剣財閥には航空機部門が存在しないため、ここで技術を入手したい。
  既存の機体のパテントは手放してもいい。
5.F-15C『イーグル』及びF-15E『ストライクイーグル』
・・・表向きは、F-15J『陽炎』で入手したデータを下に、改修を行い準第三戦術機にする計画があると伝える。
 

また、ボーニング社との交渉の際には、一番目以外の順番が逆になるように要求が出されるアイデアが出された。

このアイデアは、米軍の主力になっているイーグルを入手するのは不可能に近いため、イーグルを改修して準第三世代機にするプランを
提示することで本気を見せ、それを餌に本来欲しい技術が入手できるよう、ボーニングに譲歩させるために出されたものだった。

またブラックウィドウⅡについては、米国が手間取っているF-22の開発の為に、基礎技術力が上の米国に対して数少ない日本優位となっている、
第三世代機の運用データを提出することを引き換えにしてでも、入手する方針となった。

正直にいうと、各国の第三世代機開発状況を見るに、今後5年以内に第三世代機の配備が予想されているため、今が一番第三世代機の運用データが
売れる時期だと考えたからだ。

それに、こちらにはソフト面でブレークスルーがあり、その情報さえ守り抜ければ大きな損は出ない。

その後、買収の話は各企業及び日本政府との連携についての話となり、そちらについてはマクダエル・ドグラム社から得られる技術や
新型OSの開発状況を説明することで何とかすることになった。

そして、マクダエル・ドグラム社買収の件は、全会一致で可決されることになるのだった。








俺は日本にいる事ができる最後の日に、前々から先延ばしにしていた大切な話を伝えるために、冥夜の部屋を訪ねた。


「冥夜、信綱だ。
 少し話したいことがある、入ってもいいか?」


「どうぞお入り下さい、兄上。」


俺が部屋に入ると、冥夜はなにやら手紙を書いているようだった。


「手紙を書いていたのか・・・、邪魔したか?」


「いいえ、調度書き終えましたので・・・。」


どうやら、冥夜は悠陽への手紙を書いていたらしい、俺が忙しくなってからは、母を介して文通を続けているのだ。

俺が始めに文通を進めたくせに、今は全て母に任せていることに申し訳ない気持ちになる。

しかし、今日はそれよりももっと大切なことがあったので、それを冥夜に伝えることにした。


「冥夜・・・、今日はどうしてもお前に言わなければならないことがある。」


「兄上・・・、どうしたのですか?
 そのように、改まって・・・。」


「今日はとっても真面目な話になるからな・・・。
 冥夜と悠陽の顔が似ている理由についてなんだが・・・。」


俺は、冥夜と悠陽が本当の双子の姉妹であり、煌武院の都合で養子に出されたことを伝えた。

それを聞いた冥夜は、うすうす感じていたと返事を返した。

しかし、ショックは隠せないようで、今にも崩れ落ちそうになっていた。

やはり、俺か母から事実を伝えないと冥夜をしっかりとフォローできないと思ったことは正しかったようだった。

残念だが家を守るという考えにおいて、この件については煌武院の行動に賛成している、祖父や父はまったく役に立ちそうに無いのだ。

俺は肩を落とした冥夜を抱きしめ、俺の思いを伝えることにした。


「冥夜は、決していらないから養子に出された訳じゃない。
 煌武院の都合と、生まれた順番だけで決められた話だ・・・。
 今でも、お前が家に来た日のことを覚えている。
 嬉しくて嬉しくて、厭きもせずに一日中お前を眺めていたよ・・・。」


「あ 兄上・・・。」


「お前は皆に必要とされている・・・。
 それは煌武院の娘だからじゃない。
 お前が御剣 冥夜だからだ。
 日本中が何と言おうとも、俺は冥夜自身のことが大好きだぞ・・・。」


俺の思いを聞いた冥夜は、大粒の涙を瞳に溜め今にも泣き出しそうな表情になっていた。

俺は忙しくて一緒に遊ぶ時間が取れなかったことをわび、静に冥夜を抱きしめた。

すると、冥夜の押し殺したような泣き声が胸に響き、俺は冥夜が泣き止むまで抱きしめ続けることになる。

泣き始めて10分ほどたってから、落ち着きを取り戻した冥夜だったが、服を汚したことを謝ってきた際に、
泣き付かれるのも嬉しいものだと返事を返すと、顔を赤らめて再び顔を俺の胸にうずめる事になった。

その後他愛も無い話をしていると、いつの間にか話題が大陸へ派兵される件になっていた。


「兄上は、どうして大陸に行かれることにしたのですか?」


「・・・俺にはやりたいことがある。
 それをやるためには、世界が平和じゃないといけないらしいんだ。

 だから戦う事にした・・・、冥夜にも何かやりたいことがあるだろ?」


俺の問いかけに、冥夜は首を立てに振って返事を返した。


「兄上ほど立派なものではありませんが、私にもやりたいことがあります。」


「そうか・・・、それを大切にしろよ。
 ・・・目的があれば、人は努力できる・・・か。」


「兄上?」


「冥夜が己の道を見つけたのならそれでいい・・・。
 お前は悠陽の影じゃないのだからな。」











不知火が調達できたと報告を受けた俺は、いよいよ大陸に出立する事になった。

俺は再び冥夜の部屋を訪れ、俺が書いた悠陽への文を持たせ、今度会ったときに渡してくれと頼んだ。

やはり悠陽にも、俺から真実を伝えたほうがいいと思ったからだ。

そして冥夜に、文を渡すときにたとえ悠陽と冥夜が逆になっていたとしても、俺の思いは変わらないと伝えてくれと頼み、家を後にした。




御剣重工の工場で不知火を受け取るよう指示を受けた俺が工場へいくと、工場の前では陽炎開発の時から御世話になっている親方が
出迎えてくれた。

挨拶もそこそこに、親方は今回調達された不知火についての説明を始める。

親方の説明によると、用意された不知火はCPUとOS(EXAMシステムver.2),測定用センサー以外は、本当に普通の不知火と同じらしい。

ただ、精度のいい部品をえりすぐって組み立てたため、僅かながら性能が上がっていると親方は語った。

どうも、祖父が手を回して作らせていたとの事で、若干の後ろめたさもあったが俺はありがたく不知火を受け取ることにした。

不知火を受け取った俺は、陸路で博多まで移動し、そこから船で大陸へと渡る事になった。

陸路と船での移動時間は、全て機体の調整に費やすことにした。

不知火に乗るのは久しぶりだったために、少しでも慣れておきたかったからだ。

大陸に渡った俺は、旧満州周辺に展開しモンゴル領ウランバートルハイヴ(18番目のハイヴ)の間引き作戦に参加していた、
第13独立戦術機甲試験中隊に無事合流することができた。


「第13独立戦術機甲試験中隊に配属になった、御剣 信綱 少尉です。」


「第13独立戦術機甲試験中隊長、本郷 岳史 大尉だ。
 第13試験中隊 通称『ロンド・ベル』へよく来てくれた、御剣少尉。」


試験中隊設立時に俺が提案した部隊名が、正式に採用されていたことに内心驚いていたが、中隊長から部隊の概要説明があるとの事だったので、
気を引き締めなおして説明を聞く事にした。

第13独立戦術機甲試験中隊が運用している戦術機は、俺が入隊した時点で不知火・斯衛軍仕様試験型が6機、通常の不知火が6機となっている。

この中隊で運用されている不知火・斯衛軍仕様試験型とは、今年より配備され始めた斯衛軍用に改良された不知火である不知火・壱型丙の実験機で、
隊長機と突撃前衛長機の2機は、青の色が塗装される機体の装備に準じており、残りの4機は高機動タイプの不知火・斯衛軍仕様試験型となっている。

現在はさらに衛士からの要望や、各国で採用されている戦術機の機構・パーツの中から、不知火に搭載可能な様々なパーツが取り付けられており、
各隊員が乗る不知火・斯衛軍仕様試験型及び不知火は殆どが若干異なった外観になっている。

そして半数が残された通常の不知火は、主に兵装の試験を行っているようだった。

この独立戦術機甲試験中隊は、複数の企業が出資して作られた部隊のひとつで、帝国軍に所属しているものの独自の裁量権を持っている。

その代わり、常に最前線に出ることが要求され、その多くの場合試作品を装備して戦うことになる。

試験運用前に様々な試験が行われているものの、実際に動作不良によってひやひやさせられたことがあるらしい。

ただ、この様な試験運用はどこかで必要とされることであり、大変重要な任務であると説明を受けた。




中隊の概要説明の後、人員に空きがあったことと訓練校での成績から、突撃前衛小隊に配属が決まった俺は、
突撃前衛小隊の隊員に紹介されることになった。


「こいつが今回配属された、御剣 少尉だ。」


「このたび、第13独立戦術機甲試験中隊 突撃前衛小隊に配属になった、御剣 信綱 少尉です。
 よろしくおねがいいたします。」


俺が挨拶の後敬礼を行うと、小隊の隊員はそれぞれ異なった態度で敬礼を返してくる。

その態度を見ていると、どうやら俺の配属をあまり歓迎していない雰囲気が伝わってきた。


「では、突撃前衛小隊の隊員を紹介しよう。
 南 孝太郎 中尉だ。突撃前衛長を勤めている。」


「突撃前衛長の南 孝太郎 中尉だ。よろしく。」


「次、沖田 宗一郎 少尉だ。南 中尉とエレメントを組んでいる。」


「沖田 宗一郎 少尉です。御剣 少尉。」


「最後に、貴様とエレメントを組むことになる、佐々木 浩二 少尉だ。」


「佐々木 浩二 少尉だ……、中隊長こいつは使えるんですか?
 嫌ですよ、前のように勝手に死んだからって、小言をもらうのは…」


「……使えるかどうかは実戦にならんとわからんが、斯衛軍訓練校での成績は優秀みたいだ。
 死の八分を生き延びれば、それなりにモノになるだろう。」


「ふぅーん、まぁ、よろしく。御剣 少尉。」


各隊員が歓迎していないのは、佐々木 少尉の言った俺に実戦の経験が無い事が理由のようだった。


「他の小隊は、今は払っているので、後日紹介することになる。
 では、南 中尉後はよろしく頼む。」 


互いの挨拶がすんだ後、俺の実力を見るため突撃前衛の小隊内だけのシミュレーター訓練を行う事になった。

本来は実機で演習をやりたかったらしいのだが、最前線で消耗したパーツと整備の関係からシミュレーターでの訓練が選択されたのだ。

今後自分が乗ることになる不知火を選択した俺は、連携の訓練時間も考え制限時間15分で各隊員と一対一で戦うことになる。




始めに対戦したのは、J-10 殲撃10型に乗った佐々木 少尉だった。

殲撃10型は、実戦に於いて高い機動力,運動性による近接格闘戦で評価の高い、軽量戦術機であるF-16 ファイティング・ファルコンの改良型である。

ファイティング・ファルコンより近接格闘戦を強化された機体は、ローコスト第二世代機ながら高い性能を持っている。

しかし、殲撃10型より高い機動力を持つ第三世代機の不知火なら、距離をとって蜂の巣にすればそれほど脅威となる機体ではない。


「くそやろう! 御剣! 正々堂々、戦わねーか!」


「いえいえ、佐々木 少尉殿。
 機体の性能を活かした、正しい戦い方だと思いますが……?」


俺はそう言って、佐々木 少尉に対して余裕の笑みを浮かべる。


「佐々木! 愚痴を言ってないで、実力でどうにかしろ。
 先任の実力を見せると言って、殲撃を選んだのは貴様だろう。」


「わかりましたよッ! 」


そう言って、佐々木 少尉は弾幕を潜り抜け、一気に距離をつめてくる。

俺はそれに対して距離をとる振りをしていたが、しだいに殲撃10型に距離を詰められていった。

接近した殲撃10型が不知火を長刀の間合いに入る直前……、俺は突撃砲を殲撃10型に向かって放り投げた。

そして、放り投げるための動作がそのまま長刀の抜刀モーションへとつながっていく、稼動兵装担架システムにより背面から肩越しに移動してきた
長刀の柄を握り、不知火は殲撃10型に向かって振り下ろした。

佐々木 少尉は突撃砲を長刀で払いのけた直後、不知火の抜刀に気が付き殲撃10型の上腕部に装備されたカーボンブレードで受け流そうとする。

しかし、不知火の放った斬撃はカーボンブレードごと殲撃10型を切り裂いた。


「くそやろう! いやらしい攻撃ばっかりと思ったら、格闘も上手いじゃないか。」


「ええ、これでも斯衛軍訓練校 衛士課程の首席卒業ですから……。」


「……まあいい、相棒が強いのは良い事だ。
 これからよろしく頼む、御剣。」


「よろしくおねがいします、佐々木 さん。」




次の対戦相手はSu-27 ジュラーブリクに乗った沖田 少尉だった。


「御剣 少尉……、もしかして斬鉄が出来るんじゃないか……。」


「さぁ、どうでしょうね。

 もし、出来るといったらどうします?」
(条件が揃えば、できないことも無いが・・・)


「ふっ……、お前と格闘戦で戦ってみたくなった。
 どうだ、御剣。」


「わかりました。最初から全力で行きます。」


「来い!」


その掛け声と共に、戦闘が開始される。

ジュラーブリクは近接格闘能力に特化した機体で、各部に装備されたカーボンブレードと上腕部に内蔵されたモーターブレードを用い、
他を圧倒する手数を持つ。

そして沖田 少尉は、長刀一本を両手で保持して格闘戦を挑んでくる。

俺もそれに対して、長刀一本で対処する事にした。

始めは軽い打ち合いから始まり、その戦いは次第に激しさを増していった。

俺は長刀の間合いで戦うことで、ジュラーブリクの特性であるカーボンブレードやモーターブレードを用いた、
超接近戦に持ち込まれないように戦っている。

少しでも懐に入られれば、すぐさま敗北することになるからだ。

俺は、ジュラーブリクから繰り出される斬撃を長刀で捌きながら、どうやって対処するかを考えていた。

沖田 少尉の技量とジュラーブリクの性能を考えると、これ以上打ち合ってもジリ貧になるだけだ。

手数で圧倒されるのなら、圧倒される前に相手の得意な間合いの外から一撃で決めるしかない。

そう結論を出し数回長刀を打ち合わせた後、一旦間合いを離し向かい合う状態に持ち込んだ。

そして、俺は長刀を頭部の右側に持って行き、剣先を上に向けた構えを取る。


「…その構え、示現流の蜻蛉の構えに似ているが、どこか違うな。」


「ええ、この構えに名前はありません。
 ただ刀を早く振り下ろそうとしていたら、こんな構えになっていただけですので……。」


「そうか…、一撃で決めるつもりか。だが、易々とやられはせんぞ。」


そう言い、沖田 少尉は長刀を下段に構える。

次の瞬間…、不知火とジュラーブリクは同時に動き出した。

それは互いに跳躍ユニット全開にしての飛び込みとなった。

そして、下段から長刀を振り上げるジュラーブリクだったが、不知火は跳躍ユニット前方に向け噴射をする事で、
急激な減速を行うと同時に上半身を後ろにそらした。

ジュラーブリクの放った斬撃は、不知火には当たらず直ぐ傍をすり抜ける事になり、
間髪いれず不知火が振り下ろした長刀によって、ジュラーブリクは切り裂かれる事になった。




最後の対戦相手は、不知火・斯衛軍仕様試験型に乗った南 中尉となった。


「遊びはなしだ、本気で行かせてもらう。」


南 中尉のこの発言により始まった戦闘だが、始めは距離をとっての銃撃戦を行う事になった。

しかし、射撃の腕は俺の方が高いらしく、少しずつ不知火・斯衛軍仕様試験型の装甲を削っていく事になる。

そして、射撃戦では勝てないと判断した南 中尉が間合いを詰めたため、戦闘は近接格闘戦に移行していった。

接近しての射撃と凄まじい斬り合いをしていたが、相手の機体性能が上のためなかなか攻めきれない状況だった。

EXAMシステムver.2の特性であるキャンセルを使ってフェイントをかけるも、高い運動性のおかげで反応が少し遅れる程度なら対応されてしまう。

近接格闘能力は沖田 少尉の方が上だが、なんと言うか南 中尉は戦うことが上手いのだ。

そのため、沖田 少尉の時のように一撃で決めるような状況に持ち込めない。

結局、15分と決められていた制限時間いっぱいまで、俺と南 中尉は、戦い続ける事になった。


「こんな新人が入隊するとは、俺達は幸運だな…。
 御剣 少尉、これからよろしく頼む。」


この対戦によって、一応の信頼を得ることができた俺は、その後小隊の連携訓練を行う事になり、そこでその日のシミュレーションは終了となった。






シミュレーションの後、俺の特異な戦術機動とEXAMシステムver.2を利用した機動について質問を受けることになる。

どうやら、配備されてから3ヶ月程たった今でも、試験中隊ではver.2を使いこなす段階には至っていないようだった。

特にver.2で搭載したキャンセルは扱いが難しいらしく、キャンセル時に発生する硬直を今までのように、自動姿勢制御システムをオフにして
間接思考制御で機体のバランスをとる事で緩和しようとしているのだが、高速化した動きに衛士が付いていけないため間接思考制御が難しいらしい。

キャンセル時の硬直への対応は、キャンセルされない機動を設定したり、先行入力されたコマンドのみをキャンセルしたりすることで動きを
つなげる等、その時の状況によって対応方法は異なっている。

そして、間接思考制御による硬直の緩和についても、今までと感覚は異なるが一応行うことは可能なのだが・・・。

小隊全員にver.2についての説明をした俺だったが、ここで一番問題なのはしっかりとしたマニュアルが存在しないことである事を実感していた。

マニュアルの作成は、EXAMシステム稼働中の部隊からの情報も取り入れ、富士教導隊と協同で製作中という現状だったため、
俺ができた対応は部隊レベルで情報を共有するという事が精一杯だった。

また、その後の訓練の中、不知火・斯衛軍仕様試験型にシミュレーターで乗る機会があったが、性能の高さよりも稼働時間の低下に不満を抱き、
通常の不知火の方が自分に合っていることを実感した。

上手い戦い方をする者なら、不知火と同等の稼働時間を確保できるが、その衛士が不知火に乗れば、もっと長い時間戦えることは明白だったからだ。

そして、試験中隊に合流してから2週間ほどたったある日、俺はモンゴル領ウランバートルハイヴの間引き作戦に参加し、
そこで初陣を飾ることになるのだった。





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コメント

皆様、ご感想ありがとうございます。
投稿開始から一ヶ月が経過しましたが、だんだんプロットの内容が薄くなってきたため、
話を作るのに時間がかかるようになってきました。
どこまで、毎週投稿が可能かは分かりませんが、いけるところまで行きたいと思います。

そして今回、とんでもない部隊名を採用してしまいました。
これは、私があまりにも名前を決めるのが遅いために行った苦肉の策です。
どこまでが許されるのかは分かりませんが、皆様が受け入れていただけるのでしたらこのまま進めたいと思います。

それと、悠陽と冥夜や他の原作キャラクターの扱いをどうするか、いまだに迷っております。
注意事項7番に『主人公が原作キャラクター(最大で5~6名程度)と恋人関係になる可能性があります。』
と書いたのに、本文を書き始めてから主人公が口説くor惚れられる理由を作る技量が、私に無い事に気が付きました。
注意事項7番…・・・、守れるといいのですが。



返事

前回私が、皆様に質問させていただいた、『グランゾン モドキは超兵器に入るのか?』
に、沢山のご返答をいただき誠にありがとうございます。

皆様のご返答を総合すると、
凄乃皇自体が超兵器だから、凄乃皇の様に制限があるのならグランゾン モドキが出て来ても、何とか許せる。
というご意見と理解していいでしょうか。

前回書いた通り、グランゾン モドキを出すことを考えてなかったのですが、
皆様のご意見を聞き、原作後の話を書くところまで進めば検討してみようと思います。
それと扱いに困っていた、凄乃皇にも何とか光明が見えてきました。
細かな内容は今後考えるとしても、方針が決まっただけでもやりやすくなってきました。
これをヒントに兵器の改良or新開発に励みたいと思います。

また、既存兵器の有効利用や、知識による戦略展開ができないかと私も頭を悩ませているのですが。
いいアイデアが思い浮かびません・・・、主人公は原作開始後からの知識が殆どですし、
使えそうな戦術を考えても、それをするための兵器があるのか分からないため、兵器開発をせざる終えない状況になっています。
私としても、既存兵器が量産できて成果が出るのならそれが最高と考えているのですが・・・。
ただ、兵器開発に偏りすぎたことは反省していますので、現代兵器を勉強してアイデアを考えたいと思います。




[16427] 第12話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/06/06 17:08



モンゴル領ウランバートルハイヴの間引き作戦にあたり、中隊長よりBETAについての説明を受ける事になった。

斯衛軍訓練校時代にも説明を受けたが、ここで再度確認をしたいと思う。

BETA(ベータ)とは Beings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human race の略で、人類が火星で始めて発見した、
人類に敵対的な地球外起源種のことをさす。

BETAの生態系についてはほとんど解明されておらず、外見や戦闘能力に応じて便宜的に区分されているのが現状である。

既知の8種は以下のようになっている。
光線属種
光線(レーザー)級,重光線(レーザー)級
大型種
要撃(グラップラー)級,突撃(デストロイヤー)級,要塞(フォート)級
小型種
戦車(タンク)級,闘士(ウォーリアー)級,兵士(ソルジャー)級


光線(レーザー)属種
光線属種は重光線級と光線級の2種が確認されている。
光線属種が放つレーザーは光線属種の種類によって異なるが、長距離での驚異的な命中精度と味方への誤射は絶対にしない等 共通する点もある。
また、標的を捕捉し照射準備に入ると動きが止まり、標的の追尾以外行動をとらなくなる。
レーザー照射にはインターバルがあるが、各個体がレーザー照射間隔をずらす事で、レーザーを絶え間なく照射する行動を見せることが確認されている。
1990年代に入ってからは、AL(アンチレーザー)弾の被撃墜による重金属雲の形成によって光線属種の無力化を図り、
支援砲撃部隊が光線属種の殲滅を目的とした面制圧を実施、その後戦術機を主力とした制圧部隊を投入する戦術が主流になっている。

光線 (レーザー)級
全長:1.2m,全幅:1.6m,全高:3m,俗名:ルクス
最小の二足歩行型光線属種でその動作は比較的俊敏であり、戦術機や戦車を十分に破壊可能な高出力レーザーを照射する。
高出力レーザーは、高度1万メートル程度であれば30kmも離れた標的を撃ち落す程の威力を持つ
(それよりも低い高度だといくらか大気による減衰が加わるため有効射程は短くなる)。
レーザー照射のインターバルは約12秒となっており、短時間で再照射することが可能である。
なお、最新の対レーザー蒸散膜をコーティングした耐熱対弾装甲材を使用した対レーザー装甲で、最高出力照射を約5秒間無効化できる。
防御力,耐久力は低く、36㎜突撃砲による砲撃が有効であり、接近できれば戦術機四肢による打撃でも充分殺傷可能である。
一般的に光線級という場合は、重光線級を含めた光線属種のことを指す。

重 光線 (レーザー)級
全長:15m,全幅:11m,全高:21m,俗名:マグヌス ルクス
最大の二足歩行型光線属種で、光線級に比べて遥かに高出力のレーザー照射が可能であり、その出力は大気,
天候による減衰が全く期待出来ないほどである。
高出力レーザーは、高度500mで低空進入してくる飛翔体を約100km手前で撃墜することが可能で、
戦艦の耐熱対弾装甲をも10数秒で蒸発させる威力があるが、その分再照までのインターバルは36秒と長い。
動作は緩慢だが防御力が高く、唯一の弱点とも言える照射粘膜にも瞼状に展開する保護皮膜を有するため、
攻撃に際しては100mm以上の砲弾、戦術機に於いては120mm砲での攻撃が推奨されている。


大型種
全高が10mを超える大型種は、小型種に比べて対人探知能力は低くなっているが、ダイヤモンド以上の硬さとカルボナード以上の
靭性を持った外殻(前腕や装甲殻や衝角等)を持つため、その攻撃力は極めて高い。

要撃 (グラップラー)級
全長:19m,全幅:28m,全高:12m,最大全幅:39m,俗名:メデューム
BETA群に於ける大型種の約6割を占める多足歩行種であり、比較的高い対人探知能力を有する。
二対の前腕衝角による打撃を最大の武器とし、直径39mにも達する前腕攻撃範囲と驚異的な定常旋回能力を有するため、
確認されている中では最強の近接格闘戦闘能力を誇る種である。
前腕衝角部の硬度はモース硬度15以上、ダイヤモンド以上の硬さとカルボナード以上の靭性を誇り、
その前腕で殴られると戦術機といえども一溜りもない。
また、前腕衝角は対弾防御力にも優れているため、側面及び後方からの攻撃が推奨されている。

突撃 (デストロイヤー)級
全長:18m,全幅:17m,全高:16m,俗名:ルイタウラ
BETA群の先鋒を担う多足歩行大型種、要撃級の前腕と同様の極めて強力な前面装甲殻を持つため、面制圧での生存率が高い。
また、装甲殻は驚異的な再生能力を有しており、目玉状の模様は全て再生した砲弾痕である。
平坦な直線であれば時速170km/hの長時間走行が可能であり、自身を対象物に衝突させる突撃戦術が主な攻撃手段となる。
その突撃戦術は、戦術機でもまともにぶつかれば大破、即死は免れない。
また、BETA中で最速の走行能力を有するためか、対BETA戦では必ず突撃級が先頭にいる事になる。
だが、旋回能力や俊敏性は著しく低く、装甲殻のない本体は比較的脆弱であるため、背後からの攻撃が推奨されている。
背後からの攻撃ならば36mm弾での撃破が可能であるが、前面からでも36㎜の一点集中攻撃や120㎜の連続攻撃により、
前面装甲を貫通させ撃破することが可能である。

要塞 (フォート)級
全長:52m,全幅:37m,全高:66m,俗名:グラヴィス
要塞級は地球上で確認されている中では、最大の多足歩行大型種で、10本の足を有しているがその体構造は昆虫に似ている。
主な攻撃方法は、要撃級と同様の硬度と靱性を誇る装甲脚による踏撃に加え、尾節に収容された全長約50mのかぎ爪状の衝角付き触手による鞭撃と、
その先端から分泌される強酸性溶解液となっている。
10本の脚による打撃は要撃級の攻撃に勝るとも劣らないうえ、先端が鋭くなっているため踏みつけられると戦術機といえども串刺しとなる。
そして、触手を器用に振り回して攻撃してくるため、側方・後方にも死角は存在しない。
動作自体は比較的緩慢であり対人探知能力も高くはないが、防御力・耐久力共に非常に高く、有効な攻撃ポイントは三胴構造の体節接合部に限定される。
36mmではほとんど効果がなく、120㎜砲もしくは近接戦闘で、三胴構造各部の結合部を狙うのが効果的とされる。
また、胎内から光線級を含む小型種が多数出現した例も確認されているため、撃破後の安全確認にも十分配慮しなければならない。


小型種
全高が3m以下の小型種は、対人探知能力は極めて高く、動きも俊敏であるが攻撃力と防御力は大型種と比べると高くはない。
しかし、大群で群がることで種類によっては戦術機にとっても十分な脅威となる。

戦車 (タンク)級
全長:4.4m,全幅:1.9m,全高:2.8m,俗名:エクウスペディス
BETA群中最大の個体数を誇る中型の多足歩行種で、極めて高い対人探知能力を有する。
浸透力と機動力に優れ、不整地であっても時速約80km/hでの走行が可能である。
金属やコンクリートをかみ砕く強靭な顎が最大の武器であり、装甲車輌や戦術機ごと喰われた兵士の数は計り知れない。
ちなみに、もっとも多くの衛士を戦術機ごと喰らっているのがこのBETA種である。
防御力自体は低く、歩兵が携行する重火器でも対処は可能であるが、常に数十から数百以上の群体で行動するため、
近接格闘は可能な限り回避する事が推奨されている。

闘士 (ウォーリアー)級
全長:1.7m,全幅:1.5m,全高:2.5m,俗名:バルルスナリス
確認されているBETA中最小の二足歩行種で、防御力は低いが対人探知能力と俊敏性が非常に高く、象の鼻を想起させる前肢は
人間の頭部を引き抜くほどであり、歩行部隊による近接格闘では大きな脅威である。
闘士級は俊敏だが戦術機にとって驚異ではなく、戦術機相手には敵わない。

兵士 (ソルジャー)級
全長:1.2m,全幅:1.4m,全高:2.3m,俗名:ヴェナトル
兵士級は1995年に初めて確認された最小の多足歩行種で、既知のBETAの中では最も対人探知能力が高く、平面移動の静粛性と速度、
人間の数倍~十数倍に及ぶ強力な前肢と顎は、歩兵に対する十分な脅威となる。
しかし、全BETA中で一番弱いため、戦術機や機械化強化歩兵の相手ではない。








第13独立戦術機甲試験中隊が間引き作戦に参加する事になった、モンゴル領ウランバートルハイヴ(18番目のハイヴ)は、
今年に入って建造が確認された新しいハイヴで、現在フェイズ2の規模になっていると考えられている。

既に数回にわたって間引き作戦が行われているが、他のハイヴから増援が来ている為であろうか、一向にBETAが数を減らす気配を見せていない。

このウランバートルハイヴに対する間引き作戦が俺の初陣となった俺は、第13試験中隊の出番が来るまでの間、
コックピットの中で搭乗機である不知火の最終チェックを行っていた。


「こちらベル9(佐々木 少尉)、御剣聞こえるか?」


「こちらベル12(御剣 少尉)、聞こえていますよ佐々木さん、
 どうしたんですか?」


「これがお前の初陣だ、震えてないか確認してやろうと思ってな・・・。」


「震えはいないと思いますが…、もし震えていたとしてもそれは、ただの武者震いですよ。
 これでも、10年以上奴らと戦う事を考えながら生きてきたんです。
 戦闘開始が待ち遠しくて、仕方ないんですよ。」


「ひゅ~・・・、流石斯衛出は言うことがちがうな。」


佐々木 少尉は、俺とエレメントを組んで突撃前衛小隊を務めている人で、年齢は俺の二つ上の20歳である。

戦術機の操縦では高機動戦闘を得意としており、特殊な場合を除いて隊内の不知火を駆る者の中で、
唯一俺の機動についてくることができる腕前を持っている。

そして、佐々木 少尉が俺を心配していたのは、エレメントを組んでいるというだけではなく、
今回第13試験中隊に合流した新人が俺だけだったためだろう。

つまり、中隊内で初陣を迎えるのは俺一人なのだ。


「貴様ら、もう作戦は始まっているんだ、無駄口は慎め。」


「「は、申し訳ありません。」」
 

「今回は多めに見るが…、次は無いぞ…。

 ベル12(御剣 少尉)…貴様は今回が初陣だったな。
 貴様の訓練を見る限り、問題は無いとは思うが…、もしもの時は先任たちが援護する。
 気楽に行け。

 残りの者はベル12(御剣 少尉)を注意してやれ…、こういう時に実力を見せておかないと先任としての面目が立たんぞ。」


そう言って、本郷 大尉は笑みを見せる。

2週間の間に行われたシミュレーター訓練で、俺に対して負けが込んでいる先任たちをからかったのだろう。


「それと、最終確認だ。
 いつも通り、最優先目標はベル7の生存確保だ。
 たとえ自らの命が犠牲になろうとも、ベル7の生存を優先しろ。」


本郷 大尉が言ったベル7の生存を最優先目標とする理由とは、ベル7が搭乗する機体が中隊内で特殊なポジションについているためだ。

その機体は不知火 強行偵察装備と言われ、不知火の両肩に大型のレドームが、可動兵装担架システムには情報処理装置として
大型のバックパックが装備されている。

これにより、各機体のセンサーから得られたデータを収集し、そのデータを持ち帰る事が中隊の最優先の任務となるのだ。

また、この機体のお陰で各機はデータ収集のために余計な負荷をCPUにかけることなく、BETA戦に集中することができるようになった。

その武装は生存性が最優先に考えられ、87式突撃砲×1(36mm/ガンカメラ・予備弾倉4),65式近接戦闘短刀×2,92式多目的追加装甲×1となっており、
腰部にある小型可動兵装担架システムには小型ドロップタンクが装備され、稼働時間の延長が図られている。

この強行偵察装備の不知火に搭乗する武田 香具夜 少尉は、部隊の中で若手ナンバーワンと言われる実力者である。

その実力は戦術機の操作だけではなく、他の試験中隊では簡易のCPとしての役割を持たすために、複座になっている強行偵察装備の不知火を
一人で操縦し、CPの役割も果たすなどマルチな才能も備えている。

しかし、能力とは裏腹にその外見は、長い黒髪がよく似合う少女である。

佐々木 少尉と同期の20歳になるはずだが、身長が145cmで童顔なこともあり、どんなに見積もっても中学生にしか見ることができないのだ。

そんな彼女に始めてあった時、思わず持っていた飴玉をあげて頭を撫でてしまったとしても、誰も俺を攻めることはできないだろう。

ただ、彼女の方は撫でられることに関してはご立腹だったようで、すぐさま反撃をしてきた。

あの時は、追加でチョコレートをあげて何とかしたんだが・・・、許してくれているだろうか?





俺が機体の最終チェックを終えくだらない事を考え始めた頃、ようやくロンド・ベル(第13独立戦術機甲試験中隊)の出番が来た。


「ベル7(武田 少尉)よりベル1(本郷 大尉)へ、
 HQより間引き作戦の目標撃破数に足したため、予定通り戦車連隊を後退させるとの事じゃ。
 HQは他の戦術機部隊と合同で、戦車連隊の退却完了までBETA群の足止めすることを要請しておる・・・。」


「ベル1(本郷 大尉)了解。
 それでは、これよりロンド・ベル(第13独立戦術機甲試験中隊)は、BETAとの戦闘を開始する。」


AL弾を光線級がレーザー照射したことで発生した重金属雲によって、光線級の脅威度が低下している間に行われた支援砲撃を受けたBETA群は、
その数を減らしながらも戦術機部隊が展開する地点より2000mの位置まで接近していた。

BETA群の先頭に立つ突撃級の最高速度が170km/h(巡航速度120km/h)で、中衛の要撃級や戦車級で最高速度が100km/h(巡航速度60km/h)なので、
整地での最高時速が70km/hの戦車部隊では退却することは事実上不可能である。

そのために、戦術機部隊がBETA群を拘束するために戦う必要があるのだ。

幸いにも匍匐飛行が可能な戦術機は、俺が乗っている第三世代機の不知火で最高速度700km/h(巡航速度170km/h)の速度を出すことが可能であり、
第一世代機は最高速度400km/h(巡航速度110km/h)であるが、第三世代機が殿を務めれば戦術機部隊が退却することは十分可能だった。

俺たち戦術機部隊は、戦車部隊よりも射程距離が長い自走砲やMLRS(自走ロケット砲車)からの砲撃支援を受けながら、
この地域に進出してきた旅団規模(3000~5000体)BETAと戦闘を行うことになった。


「ベル1(本郷 大尉)より、ロンド・ベル(第13独立戦術機甲試験中隊)各機へ、
 敵は砲撃支援によって隊列を乱している、このまま楔壱型(アローヘッド・ワン)で突っ込むぞ。」


「「「「「了解!」」」」」


こうして戦闘を開始した、ロンド・ベル(第13独立戦術機甲試験中隊)は突撃前衛長であるベル2(南 中尉)を先頭にして、BETA群に突入していった。

BETA群は、中隊長が言った通り群れの密度が低下していたため、戦術機が比較的自由に平面機動を取れる状況になっており、
ベル2(南 中尉)が先頭の突撃級の足をすれ違いざまに切り落とし、BETA群に突入した後は突撃砲をばら撒くだけだった。

初めての実戦に最初は興奮して頭に血が上っていた俺だったが、頭の中ではどこか冷静に考えている部分があり、
俺が操る不知火は確実に一体一体BETAにとどめをさしていった。

俺は予想以上に心が落ち着いていることに、前の世界で設定した能力の一部では無いかという思いが頭を過ぎったが、
もはやどうでもいい事だと考え、戦闘続行する事にした。

俺がBETAと戦い始めてからの数分は、自分でも分かるほど動きがぎこちない戦い方だった。

そのぎこちなさは、戦術機の戦闘機動よりもその攻撃に顕著に現れていた。

例えば、突撃砲の砲撃で相手が動かなくなるまでBETAに36mm弾を叩き込み、長刀での攻撃でBETAの四肢を切断した後も斬りつけるなど、
過剰とも言える攻撃を繰り出してしまっていたのだ。

しかし、そのような過剰な攻撃も、BETAの戦闘能力喪失を見極める事ができるようになると、一気にスマートになっていく。

BETAが動かなくなるまで撃ち込んでいた突撃砲も、急所に6発ほど叩き込むだけで要撃級を撃破できるようになり、
長刀での攻撃もどこを斬れば効率的に無力化できるかを理解しだしていた。

また、戦いの中でBETAに対しての小さな発見をした事も収穫だった。

それは、BETAにも個性というものがあり、個体によって体格や動きの癖が異なっているということだった。

この発見によって対BETA戦が、始めにイメージしていた機械と戦うルーチン的な戦闘というより、
一種の猛獣と戦うような気の抜けない戦闘になることを理解したのだ。

そう理解した時、俺は戦術機の戦闘機動を切り替えることにした。

第二・三世代機の特性である、機動力と運動性を生かした戦闘機動から、斯衛軍訓練校で乗っていた瑞鶴ら第一世代機に近い戦闘機動に切り替えたのだ。

これはBETAの動きに集中していれば、主脚による運動や体捌きを重視して最小限の動きでBETAの攻撃を回避する事が可能であり、
そうした方がすばやく攻撃に移れると感じたためだった。

そして、次第に動きを滑らかにしていく俺の戦闘機動を見た他の隊員から、

『新人なんて絶対嘘だ。』

『少し戦場から離れていた、ベテランじゃ無いのか?』

等と言われる事になった。

正直にいれば、BETAと一対一なら確実に勝てると考えていた俺にとって、このくらいのBETAの密度ではそれほど脅威を感じていなかったのも事実だった。

だから、跳躍ユニットを多用しない第一世代機の戦闘機動を行えるのだ。

第一世代機と第二・三世代機の戦闘機動の大きな違いは、跳躍ユニットと主脚走行を使用する割合にあると俺は考えている。

重装甲の第一世代機は、跳躍ユニットを多用しすぎると直ぐに推進剤切れになってしまうため、一番推進剤を消費する初期加速を主脚走行で補うことで、
推進剤の消費を抑える技術が求められている。

それに対し、軽量化と出力の向上した跳躍ユニットを持つ第二・三世代機は、初期加速に使う主脚走行の割合を減らすことで、
より滑らかな機動を取る技術が優先されている。

無論、どちらの戦闘機動が優れているかを論じるつもりは無い、なぜなら主脚走行により燃費を優先することも大切だが、
主脚走行による照準のブレや、上下運動による衛士への負担増も戦場では問題になってくるからだ。

したがって、第一世代機の機動は必要が無い限りは、本来行う必要が無い軌道なのだ。

しかし、俺はあえてこの戦闘では主脚走行の割合を極端に増やした戦闘機動を選択した。

それは、俺が主脚走行による揺れを問題としない事や、突撃砲の照準をマニュアルで行うため照準のブレを無視できることだけが理由ではない。

移動の70%を主脚走行で行うことになると言われているハイヴ突入時の事を想定して、この戦い方を実戦で試したかったという事も理由の一つだった。

今回のBETAの密度は、ハイヴ内と比べ物にならに程低いことは理解しているが、今後も激化が予想されるBETA戦の中で、
戦闘方法を試す機会がそうあるとは思えなかったため、余裕があるうちにと考えたのだ。

俺がこうして自分の実力を試している間に、衛士の壁と言われる死の八分はいつの間にか過ぎ去っていたのだった。








順調に進んでいた戦術機部隊によるBETAとの戦闘は、戦車部隊の退却完了の報を受け、戦術機部隊の退却へと段階が移り変わっていた。

第一世代機の部隊が退却した後、第二世代機の部隊と同時期に退却を開始しようとしたロンド・ベル(第13独立戦術機甲試験中隊)だったが、
俺の進言によりその場に一時留まる事になった。


「ベル12(御剣 少尉)・・・、急に停止を進言するとはどういう事だ?」


「嫌な予感がしまして・・・、それに今なら退却するにしても時間の余裕が有りますので・・・。」


「予感だと?
 
 そういった、勘を否定するわけではないが…。」


「子供の時から、危険には敏感でしたので・・・。

 ・・・来ました、BETAが地中を進行する時の振動パターンと一致する波形です。」


「何だと!」


中隊長の驚きの声と同時に、他の隊員からも息を呑む声が聞こえてきた。

そしてその数瞬後、


「ベル7(武田 少尉)よりベル1(本郷 大尉)へ、

 偵察装備の振動センサーでも、地中進行時の振動パターンを感知したようじゃ。

 その出現予測地点は・・・真下っ!?」


その報告を受けた中隊長は直ちにHQに報告を行ったが、その回答を待っている間に震源はかなり浅い所まで移動してきていた。

そして、HQの回答が間に合わないと判断した中隊長が全回線(オープンチャンネル)で各部隊に警告を発した直後……、

地獄の蓋が開けられた。

地中から湧き出たBETA群によって、第三世代機で構成されたロンド・ベル(第13独立戦術機甲試験中隊)を含む3個中隊は、
完全に包囲される事になるのだった。



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コメント

皆様、いつも御世話になっております。
皆様の声援に支えられ頑張ってみましたが、今週はここで打ち止めです。
今回は、設定を色々調べる事に時間を割いてしまった事と、文章量が多くなってしまった事から、
この様なところで、話を区切ることになりました。


また、本文の半分近くを占めるBETAの設定は、

「マブラヴ オルタネイティヴ」のまとめwiki
ウィキペディア(Wikipedia)
マブラヴ オルタネイティヴ インデックス ワークス(公式メカ設定資料集)

に書かれていた内容をまとめ、戦術機での戦闘に使われる知識を抜粋したものですので、
私の書いた文章と言えるものでは有りません。
しかし、BETAの説明(特に光線級での記述)が一定していない部分がある事や、
BETAの特性を再確認してもらいたかった事から掲載することになりました。


更に、戦術機の移動速度についても具体的な数値を調べようと思ったのですが、なかなか出てきませんでした。
不知火の最高速度が600km/h位と、どこかで見たことがあるような気がしたので、それを参考に巡航速度を考えてみました。

第一世代機:撃震  最高速度360→460km/h位(巡航速度140→170km/h位)
第二世代機:陽炎  最高速度500→600km/h位(巡航速度200→240km/h位)
第三世代機:不知火 最高速度600→700km/h位(巡航速度250→300km/h位)

一応、ある程度の距離を離さないとBRTAは追っかけてくるということで、搭載燃料の関係もあり第一世代機では、
逃げられないと考えているのですがどうでしょう?

原作の詳しいスペックをご存知の方がいらっしゃれば、教えていただけると幸いです。
皆様のご指摘により、戦術機が意外と早いことが判明しました。
後書きで書いてある値は暫定値です、どのように扱うか次回までに考えたいと思います。



返事

皆様のご感想を原動力に動いている私としては、出来得る限りご要望には応えたいと考えているのですが、
恋愛に関しては、理由が納得できないとくっつけないように、厳しく行きたいと考えています。

事実、フラグを立て忘れたキャラクターに関しては、大幅な改定を出さない限りそのままスルーして、
物語を進行しています。

しかし、マンガ版も購入した事で増えた知識や、恋愛表現を学ぶ事で私の技量が上がった暁には……、
だめだ…妄想が止まらない、ここはメモをしておこう。



[16427] 第13話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/06/06 17:33



ウランバートルハイヴに対する間引き作戦は、戦術機及び戦車部隊等の大規模な戦力がハイヴより約20km地点まで接近しBETA群を誘き出した後、
支援砲撃による成果により予定の撃破数に達した。

そして、BETAを誘き出すためにハイヴに接近していた戦力から戦車部隊が退却した後は、
戦車部隊の退却までBETA群を押し留めていた戦術機部隊の退却を残すだけになっていた。

戦術機部隊の殿を勤める事になった第三世代機を駆る部隊は、700km/hにも達する最高速度を活かし一気にBETA群と距離とった後、
退却速度を巡航速度に切り替えハイヴから約50km離れた地点まで退却する予定だった。

この退却地点が決められた理由は、ハイヴの大きさによって異なるが人類側がハイヴを攻撃した際に、ある程度の距離を取るとBETAが追撃を
諦めることが分かっており、フェイズ2のウランバートルハイヴの場合では、その距離が約50kmであるためだ。

この退却距離の約30kmは、不知火なら通常10分ほどで移動できる距離なのだが、ロンド・ベル(第13独立戦術機甲試験中隊)を含む3個中隊が
退却を開始する前に、地中から湧き出たBETA群及びそれに含まれる光線級によって、移動することも困難な状況に陥る事になった。

今回の作戦では、フェイズ2ハイヴの地下茎構造物の到達半径が約2㎞であることから、地下から攻勢を受けることは想定されておらず、
HQの対応も後手に回っているようだった。

この地下からのBETA出現は、ウランバートルハイヴが予想以上に拡張されていたためなのか?

それとも、現時点で俺しか存在を知らない母艦級の仕業であろうか?

疑問は尽きないが、現状では疑問について考える暇も取れそうになかった。

今俺たちが陥っている事態は、普通の戦術機部隊なら全滅する可能性が高い状況だ。

しかし、光線級さえどうにかすれば第三世代機で構成された今の部隊なら退却も不可能ではないと、必死に生還する方法を考えるのだった。










BETA群によって包囲された戦術機部隊であったが、幸いにも全回線(オープンチャンネル)での事前の警告により回避機動に入っていたため、
現段階での戦術機部隊への直接的な被害は軽微だった。

しかし、BETA群の密度が増した事と地中より出現したBETA群の中に光線級が含まれていたため、退却が困難な状況に陥ってしまっていたのだ。

しかも、光線級は要塞級の下に集まっており、狙撃による撃破も難しい状況だった。


「ロンド・ベル(第13独立戦術機甲試験中隊)は、ベル7(武田 少尉)を中心に円壱型(サークル・ワン)を組め!」


ロンド・ベル隊(第13独立戦術機甲試験中隊)は中隊長の命により、ベル7(武田 少尉)を中心に二重の円を作った陣を構築し、
急ぎ対応を決めることになった。


「すみません、俺が止めたばかりに、ロンド・ベル隊(第13独立戦術機甲試験中隊)を危険にさらしてしまいました。」


「ベル12(御剣 少尉)・・・、貴様の警告によって他の二個中隊が撃墜なしで生存していることは誇っていい事実だ。
 それに、最終判断を下したのは私だし、退却する時間も十分にあった。
 自分を攻めることは無い。」

「ベル7(武田 少尉)、AL弾の砲撃支援をHQに要求しろ!」


「ベル7(武田 少尉)よりベル1(本郷 大尉)へ、
 AL弾は、重金属雲を再形成するために必要な残弾がなく、
 通常弾による砲撃支援の再開も、後10分以上かかるそうじゃ。」


「・・・光線級の事を考えると、3個中隊での敵中突破しか手は無いか。」


こうして話をしている最中にも、BETAは絶え間なく押し押せており、一番外周の戦術機は群がるBETAの処理を続けていた。

刻一刻と状況が悪化していく中、俺は決意を固めBETAを攻撃の手を休めることなく、中隊長に進言をする事にしたのだった。


「ベル12(御剣 少尉)よりベル1(本郷 大尉)へ、
 俺がBETA群を単機で突破して、光線級を撃破してきます。
 許可をいただけませんか?」


「御剣!、何を考えているんだ。
 新人のお前がそんなことを考える必要は無い、俺たち先任に任せておけばいい。」


俺と中隊長の通信に、佐々木 少尉が割り込みをかけ俺をいさめてくれた。

しかし、こちらもここで引く訳にはいかない、ここで光線級を如何にかしないと戦術機は匍匐飛行で退却するしか方法がなくなる。

そうすると、他のBETAの攻撃がとどく高度を移動することになり、退却する間に戦術機部隊の半数以上が撃破される恐れがあるのだ。

それに目標となる光線級は現在確認されている数で30体、それを守る要塞級も10体ほどだった。

白銀 武(原作の主人公)は、もっと絶望的な状況で戦うこともあったのだ・・・、この程度の逆境で俺が屈するわけには行かない。


「佐々木さんが言いたいことも分かりますが・・・、俺が行くのが一番成功する確率が高いと判断します。
 俺はシミュレーター訓練でだけですが、光線級のレーザー照射を空中で回避することに成功しています。
 EXAMと不知火の力が有れば、実戦でもできることを証明して見せますよ。」


戦術機には、レーザー照射回避用の乱数回避プログラムがあるが、どう回避するかが衛士自身にも分からないため、
乱数回避中に狙撃などの正確な攻撃を行うことには無理があるのだ。

そこで自らレーザー照射を回避するか、タイミングを見計らって乱数回避をキャンセルすることが求められる事になるのだが、他の隊員では
EXAMシステムver.2の力を完全に引き出しているとは言いがたいため、現時点でこれらの操作を行える者は部隊内には俺だけしかいないのだ。


「中隊長、お願いします。
 吹雪で構成されている他の中隊は、これ以上持ちそうにありません。」


「ベル7(武田 少尉)よりベル1(本郷 大尉)へ、
 推進剤の残量は、ベル12(御剣 少尉)が一番残っているようじゃ。
 ここで、失敗しても強行突破に移る余裕は十分にあるじゃろう。」


「ベル2(南 中尉)よりベル1(本郷 大尉)へ、
 悔しいですが、現時点で戦術機の機動に関してはベル12(御剣 少尉)が一番優れています。
 ここは任せてもよいと思いますが・・・。」


「・・・分かった、ベル12(御剣 少尉)お前の判断で突入を開始しろ!
 ただし、残りの隊員は他の中隊と合流を図る・・・、本格的な援護は無いと思え。」

 
俺は中隊長の指示を受けた直後、跳躍ユニットを全開にした噴射跳躍を行い、BETA群の突破を開始したのだった。




俺が空へ跳び上がった瞬間から、うるさいほどの照射警告のアラームが鳴りだした。

俺は光線級の眼が俺を捉えている事を実感し、背筋に悪寒が走るのを感じた。

光線級が俺を狙うのは当然だろう、BETAが優先する攻撃目標である飛翔物体・高性能コンピュータ・人間の存在の全てを満たしているのが今の俺だ。

それをBETAが見逃す筈が無い。

しかし、ここで俺が光線級を引き付けておく事で、他の戦術機が攻撃される可能性が下がり、動きやすくはずだった。

また、俺にとっても始めから狙われていることが分かる今の状況は、たとえ30体の光線級に狙われていようとも、
不意打ちで照射を受けるよりもやり易い状況だった。

俺は不知火に細かな軌道修正を入力しながら光線級への接近を図った。

そして、初期照射が開始される事を感じ取った俺は、すぐさま地面にいる戦車級の群れを36mmの正射しつつ、地面に降下を開始した。


「このタイミングなら・・・ッ。」


俺はコンマ数秒の間初期照射を受けることになったが、肩部の装甲を焼いただけで機体を地上にいるBETAの影に入れることができたていた。

つまり、初めての実戦でレーザー照射の手動回避に成功していたのだ。


「照射本数は光線級4に重光線級1・・・、次はもっと上手くやってみせる。」


俺はそうつぶやくと、すぐさま噴射跳躍を行い再び空へ跳び上がった。

空と地上を行き来しながらも、不知火は確実に光線級へと接近していった。

しかし、数回目に地上に降り立った直後、目の前のBETA群が普段と異なる動きを行い、BETAの群れが二つに分かれていくのを見た。

それは、モーゼの十戒により海が二つに分かれたとされる神話を彷彿とさせる出来事だった。

俺はその出来事の後に起こる事象を知っていたため、着地のモーションをキャンセルし二つに分かれようとするBETA群にあわせて、
サイドステップを行う。

決して味方を誤射しない光線級が地上を照射する時、BETA群はその射線上から退避する行動を取る。

その行動が、多数のBETAが一致した行動を取ることで、まるで海が割れていくように見えるのだ。

二つに分かれたBETA群の間を、巨大な光の柱が通過していくのを確認した俺は、再び空へ上がった。

当然のように照射警告のアラームがなったが、今回はそれを無視することにした。


「この距離なら・・・、見える。」


光線級は高性能な遠距離射撃ができる変わりに、接近した物体が急激に軌道を変化させると、それを追尾しきることができなくなるのだ。

アフターバーナーも使用しての全力の噴射を行った不知火は、一気に最大戦速に迫る450km/hをたたき出す。

その直後、跳躍ユニットの噴射方向を調整し、腕のナイフシースや頭部のセンサーマストの動きにより空力特性を変化させられた不知火は、
まるで空に舞う木の葉のように不規則に動きを変化させ、5本のレーザー照射を回避することに成功した。

そして、レーザー照射を回避した不知火は、ついに光線級の直上まで到達した。

光線級の直上は、光線級を守るために展開していた要塞級が盾となり、光線級が照射ができない場所だった。

俺は要塞級に対して上から襲い掛かり、右手に保持した長刀で足の付け根を2本切り落とす。

要塞級の足の間に着地した不知火は、近くにいた光線級に対して36mm弾を乱射していく。

光線級を撃破した後は、要塞級が対応しようとする前に、再び跳躍すると同時に長刀で足の付け根を切りつけた。

要塞級はその直後に、片側の足を全て失い地響きを立てて転倒する事になった。

動けなくなった要塞級を後ろにするように立ち回り、俺は次の要塞級の下にいる光線級へ一直線に向かう。

常に転倒した要塞級をレーザー照射線の上に来るようにしているため、これ以降光線級の照射を受けることはなくなった。

途中にいたBETAへの対応を必要最小限に留め、光線級へと進んでいくと、要塞級の触手が伸びてきた。

それを、機体を捻ることで回避し、触手が元の位置に戻る前に要塞級の懐に飛び込む。

後は、先ほどと同じように光線級を攻撃しつつ、要塞級の四肢を解体することで、光線級への新たな盾を作りだした。

この後同じような突撃を数回繰り返した時点で、周りにいる要塞級と光線級を全滅させることが出来たのだ。


「ベル12(御剣 少尉)よりベル1(本郷 大尉)へ、

 目標の光線級群を撃破しました。

 BETAが出現した穴を確認しましたが、新たな光線級が出現する可能性は低いと思われます。」


光線級の撃破している間にBETAが出現した穴を確認する事で、小型種を吐き出すだけでこれ以上光線級が出てくる気配が無いことを
感じていた俺は、光線級の撃破の報告と同時にその事も報告した。


「ベル1(本郷 大尉)、了解。
 ベル7(武田 少尉)、そっちのレーダーに光線級は映っていないか?」


「ベル7(武田 少尉)よりベル1(本郷 大尉)へ、
 光線級の存在を確認できず、光線級の脅威は無いと考えてよいじゃろう。」


その報告を聞いた中隊長は、この場にいる全ての戦術機に対して通信を行う。


「こちらは、ロンド・ベル(第13独立戦術機甲試験中隊)の本郷 大尉だ。
 ロンド・ベルは光線級がいない間に、跳躍噴射でBETA群から離脱する。
 各中隊も、同様に離脱することを願う。
 以上だ。」


「「「「「「「了解!」」」」」」」

 
その通信の後、噴射跳躍で空へ跳び上がった戦術機たちは、そのまま長距離跳躍に入り退却を開始した。

最終的に3個中隊の戦術機部隊の被害は、多くの少破・中破が出たが未帰還機は吹雪3機という、
BETAに囲まれた状況から脱出した割には軽微の損失に収まったのだった。









殿を務めていた戦術機部隊は、基地に帰還した時多くの人に迎えられて整備用ハンガーに収まることになった。

今回の被害が、今までの間引き作戦の中で最も少なくなった上に、BETAに包囲された状況から帰還したことを称えているのだろう。

また、空中でレーザーの照射を回避し、30体もの光線級と10体の要塞級を単機で撃破したことに、基地の皆が興奮しているのかもしれない。

その後、前線基地では珍しくなってきた天然物の酒を振舞われ、宴会が開かれることになった。

最初の方は付き合っていた俺だったが、未成年であることを理由に酒を断り、宴会の半ばにひっそりと会場を後にした。

そこに、御剣重工から派遣されているメカニックが声をかけてきた。

どうやら御剣財閥から報告したいことがあるとの通信が入ったとの事だった。

俺は何かトラブルでも発生したのだろうかと考えつつも、大陸からも会社と通信することが可能な専用設備を使って連絡をとることにした。

本来この通信設備は、現場の意見を設計部署に伝えるための手段だったのだが、それに更なる暗号化処理を施した通信ができるようにし、
会社と俺が通信できるようにしているのだ。

これは企業の意向が反映される、独立試験中隊ならではの裏技的な行為だった。


「御剣 信綱だ。
 報告したいことがあると聞いたが、どんな用件だ?」


「信綱 様、先ほど御剣電気で開発を進めていた次世代CPU第一弾の開発が完了したと報告がありました。
 これで、予定通りに進めば半年程で量産体制に入る事ができると思われます。
 つきましては、次世代CPU開発に伴う開発プランについて、どちらを実行するかを決める必要があります。
 プランAとB、どちらを先に実行すればよろしいでしょうか?」


ここで言われた、次世代CPU開発に伴う開発プランとは、

プランA:高速化された処理能力を利用して、EXAMシステムにコンボ機能を搭載したver.3に進化させる。

プランB:次世代CPUを搭載することで管制ユニットを小型化し、その空きスペースに衛士の生存性を高める装置を搭載する。

といったものだった。


「・・・Bでいく事にしよう。」


「よろしいのですか?
 信綱 様は始め、プランAを推していたようでしたが・・・。」


「あぁ、そうだったな。
 しかし、現場を見てはっきりと分かった。
 ver.2でも、現場の衛士は戸惑っているのが現実だ・・・。
 この状況でver.3を導入したところで、使いこなせるのは一部のエースだけだ。
 それなら汎用性が高いプランBを実行する方が、結果的に多くのベテラン衛士を作り出すことができるだろう。」


プランAは、衛士が直ぐにEXAMシステムに対応できるであろうと想定して立てられたプランだった。

それにコンボ機能は、本来本人にできない機動や難しい入力が必要な機動を実現するためのもので、
衛士を保護する機構がなければ多用できる機能ではないのだ。

したがって今回はver.3の搭載ではなく、ver.2のままで管制ユニットを改良するプランBを採用した。

ただし、プランAが廃棄されたわけではない。

このまま継続して開発を進め、次世代CPUの第二弾が完成した暁にはプランBで改良した管制ユニットにver.3が搭載されることになるだろう。

また、まだこの段階でのver.3(コンボ機能)搭載を完全に諦めたわけではない、コンボを2・3個だけでも設定することができる容量さえ確保されれば、
ver.2.5として搭載することも検討されているのだ。

その日の通信は、富士教導隊と協同で製作中であるEXAMシステムver.2訓練マニュアルの現状報告を聞いた後終わりになった。










今回の間引き作戦での活躍により、俺は部隊内で一目を置かれるようになった。

しかし、この作戦ですらこれから続くBETA戦の中では、楽な作戦であったことを、この時の俺には知る由もなかった。

その後数回にわたり、ウランバートルハイヴの間引き作戦に参加していたロンド・ベル隊であったが、他のハイヴから援軍があったのだろうか、
突然の侵攻を受け戦線と共に次第に東へ後退していく事になった。

アジア各地で続く戦線の後退を受け、領土を失ったアジア各国はオセアニア,オーストラリア各地に臨時政府を樹立を開始し、
国家機能の移転を開始し始めた。

そして領土を失った東南アジア国々の多くは、米国の影響力がある国連軍の直接的な指揮下に編入されることを良しとせず、
大東亜連合を結成して間接的に連携する道を選択した。

米国との付き合いもある日本帝国は、政府による支援は大々的に行うことができなかったが、その代わり御剣財閥等の企業が中心となって
支援を行ったため、日本帝国は大東亜連合諸国とも良好な関係を維持する事ができていた。

後退が続く中でもロンド・ベル隊は、専用の整備チームの活躍と試験中隊に補給が優先的にまわってくるという事もあり、
ほぼ完全な状態で戦うことができた。

そのかわりに、ロンド・ベル隊は防衛戦や撤退戦の間、常に最前線に立つことになる。

度重なる戦闘で本格的な整備を必要としたロンド・ベル隊は、一時前線を離れ朝鮮半島への入口に近い都市である長春(旧満州の新京)まで
後退する事になった。

俺が合流してから長春に後退した時点で、ロンド・ベル隊は不知火を3機失っていたが、いずれの場面でも衛士の救出に成功したため、
人員損実0の『奇跡の中隊』と呼ばれるようになっていった。

そして俺は、激戦の中でも機体を失うことなく生き残り、光線級や要塞級が出現した時は真っ先に撃破していったため、
いつしか『光線級殺し』の異名で呼ばれるようになるのだった。





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コメント

皆様、いつも御世話になっております。
今回は戦闘描写を頑張ってみたのですが、皆様に私が想像している状況が少しでも伝わればいいなと思っています。
この後の返事が長くなるため、コメントはこの程度にしたいと思います。


返事

TEにて、第三世代機不知火の長距離跳躍の速度が700km/h以上になると書かれてありましたが、
その後、不知火壱型丙を使った兵装開発計画に携わっていたと書いてあるので、
この700km/h以上の速度を出した時に乗っていたのは、不知火壱型丙だと考えました。
したがって、不知火の最高速度を700km/hと仮定しました。

巡航速度やそれ以外の戦術機についての記述が見当たりませんでしたが、
戦術機の巡航速度については人型であることと、
巡航速度では原作の吹雪のように一定距離ごとに地面に着地する、蛙飛びのような動きになると考え、
戦闘機より悪い、最高速度の2.5割~3割程度と仮定していました。

そこで、原作をやってみると、
敵部隊が接敵後が最大の能力で移動していると考え、
補給を行った亀石峠から、護衛対象が加速度病で倒れ休憩した丸野山周辺までが約11km、
移動時間は短く見積もっても20分ぐらいなので、
その時速は・・・・・・『33km/h』、
・・・彼らはスクーターで移動したのでしょうか?
他にも経過時間が分かる部分で計算してみましたが、概ね時速30km/h以下という結果でした。

原作をプレイしてみて更に分からなくなった戦術機の移動速度についてですが、戦術機は恐ろしいほど燃費が悪いor燃料タンクが小さいため、
最高速度と巡航速度に大きな開きがあると結論付けました。
もしかしたら、本体には一切燃料がなく跳躍ユニットだけに燃料タンクがあるのかもしれません。
そして、原作ではそのために跳躍ユニットを多用することができず、護衛対象に大きな負担をかけてしまったと解釈することにしました。

したがって、戦術機の移動速度は色々考えてみましたが以下のような値に設定しました。
最高速度と巡航速度の割合、の2割~2.5割程度
第一世代機 最高速度460km/h前後(巡航速度95km/h前後)
第二世代機 最高速度600km/h前後(巡航速度140km/h前後)
第三世代機 最高速度700km/h以上(巡航速度170km/h前後)
また、予想以上に戦術機の巡航速度が遅くなったため、BETAの移動速度についても普段は最高速度を出すことは無いと設定を変更しました。
(突撃級の巡航速度120km/h)
原作で明確にされるか新たなアイデアが浮かばない限り、この設定で行きたいと思います。



[16427] 第14話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/07/10 09:07




俺が大陸に渡ってから一年程がたったある日、本国にいる家族から手紙が届いた。

その内容は、筆不精な兄に対して冥夜が家族と自分の近況を伝えるというものだった。

相変わらず堅苦しい文章で話あったが、そこからは充実した日々を過ごしていることが伝わってきた。

また、それに添えられた家族の写真には、成長した彼女の姿が写し出されていた。

たった一年見なかっただけだが、思春期をむかえた彼女にとって成長するには十分な時間だった。

そして、今年で中学校に入学した彼女は、これからもっと女性らしく成長していく事が容易に想像できた。

そう思うと小さい頃の冥夜の姿が頭を過ぎり、成長の嬉しさと共に少しの寂しさを感じる事になった。

俺はこの感情をどう処理していいのか悩み、しばらくの間冥夜の写真を眺めることになった。


「見ろ皆、御剣が女の写真を眺めているぞ!」


俺が写真を眺めていると、佐々木 少尉が声をかけて来た。


「違いますよ佐々木さん、妹の写真ですって!」


「何? 確かに女と言うには幼すぎるか・・・。」


俺の持っていた写真を覗き込んだ佐々木 少尉はそう呟き、十年後が楽しみだとコメントをした。


「しかし、御剣のような変態にこんな将来有望な妹がいるとは・・・。
 今から、お前の肩でも揉んでおこうか?」


「佐々木さん、その変態というのをやめてもらえませんか?
 それと、肩を揉まれた位で冥夜は紹介しませんよ!」


「十数本のレーザー照射を空中で避ける事ができるのは、お前が変態だからだ。」


「そうじゃ、突撃前衛の癖に後衛へ正確な援護射撃が出来る者に対して、
 変態以外の表現はできんじゃろう。」


佐々木 少尉の言葉に続けて、近くにいた武田 少尉も俺が変態であるという話に参加してきた。

突飛な戦術機動をとる原作主人公が変態扱いされたことがあったが、まさか俺がその立場になるとは思ってもいなかった。

確かに空中でレーザー照射を避けることや、後ろを見ずに後衛の援護ができる自分の能力に対して上手く説明できず、
勘や殺気を感じた等としか説明していないのは悪いとは思うが・・・。


「酒も飲まないし、歓楽街に誘ってもいつも断る・・・。
 男として間違ってるだろう。」


「歓楽街に行かない事には好感が持てるが、禁欲的過ぎるのも問題じゃ。
 ・・・・・・大人の女が怖いわけではないのじゃろう?」


話が戦術機の機動から日常生活に移っている気がするが、二人が俺を変態扱いする会話はまったく終わる気配がなかった。


「佐々木さんも武田さんも酷過ぎますよ。
 こんな真面目で純情な青年に対して、そろって変態だなんて・・・。」


二人の会話に戸惑っていた俺は、少し離れていたところにいた南 中尉に助けを求めることにしたのだが・・・。


「私からは何も言うことは無いよ。
 ただ・・・、戦術機の振動センサーより先にBETAの地下侵攻を察知できる者を、世間は何と呼ぶのだろうな?」


「しょ 小隊長まで俺を変態扱いなんですか・・・。」


俺の求めた助けは、予想とは真逆の敵側についてしまいったのだ。

皆からの扱いの悪さに思わず膝を着いた俺は、それを遠目から見ていた中隊の皆に笑われることになった。

俺はその事に傷ついたように振舞いながらも、異常とも思える行動を見せる俺のことを変態の一言で片付け、
受け入れてくれる中隊の皆のことがたまらなく好きになっていたのだった。











1997年、日本国内では有名な御剣財閥が欧米の一般人に広く知られるようになる出来事が起こった。

昨年から進められていた、F-4『ファントム』やF-15C『イーグル』を開発したことで有名なマクダエル・ドグラム社買収の件が、
ついに公にされたのだ。

経営危機に陥っていたマクダエル・ドグラム社の買収には、御剣重工の他に米国最大規模の航空機メーカーであり、
巨大軍需企業であるボーニング社が名乗りを上げていた。

当初の予想通り、マクダエル・ドグラム社を日本企業が買収する事に難色を示した米国政府は、ボーニング社を全面的に支援することになった。

しかし、御剣財閥側にも日本政府が味方した事やマクダエル・ドグラム社の抱える負債が、ボーニング 一社だけでは賄えないほどに
膨れ上がっていたこともあり、マクダエル・ドグラム社を二社で分割買収することで話し合いが行われることになった。

全米がこのニュースに注目する中、ついに買収されるそれぞれの部門が発表されることになった。



御剣重工

1.F-4『ファントム』部門:
既に米国での生産が終了し、米軍でも全機が退役しているため、まともな製造部門すら存在しなかった。
また、未だにF-4を生産・運用している国も多くあるが、開発から30年以上が経過しているため、
特許切れの部分が多く、大きな利益を生み出す可能性が低いと考えられている。

2.YF-23『ブラックウィドウⅡ』
F-22『ラプター』にトライヤルで破れ制式採用が見送られた機体で、
御剣重工への譲渡の際には、最重要機密であることからラプターを超えると言われていたステルス機能が取り外される事になった。
ステルス機能のほかにも、米国の最新技術を集めて作られた機体であったため、
開発から7年が経過した今でも第三世代機の中で最高クラスの性能を有している。
しかし、米国軍の戦術機運用思想と異なる仕様である事や、ステルス機能が外されることを受け、
米国内ではこの機体の重要度は低いと考えられていた。
また、もう一つの開発元だったノースロック・グラナン社も海軍への売り込みに失敗した事もあり、
有償での買取に応じることになった。

3.航空機部門:
米国軍から退役するか、調達数が少ない航空機及び民間向けの航空機のライセンスと製造部門を取得。
(航空機には、ヘリコプターを含む)
今後も、軍からの受注増や民間部門の活性化が見込めない事から、不採算事業と考えられていた。
また、ボーニング社自体にも既に巨大な民間部門を抱えていることも影響したようだ。


ボーニング社

1.F-15C『イーグル』及びF-15E『ストライクイーグル』部門:
二年前にF-15E『ストライクイーグル』が米軍に制式採用されたことや、現在でも最強の第二世代機と呼び声が高い機体であるため、
これからも多くの利益を出すと考えられている部門である。

2.航空機部門:
国防上の理由もあり、現在米国軍で制式採用されている全ての航空機に関するライセンスと製造部門をボーニング社が独占することになった。
(航空機には、ヘリコプターを含む)

3.ミサイル製造部門
ハープーンミサイル、トマホークミサイル等の優秀なミサイルを開発した部門であり、
国家間の戦争を想定した場合に手放す事のできない部門でもある。
また、多目的自律誘導弾システムという光線級のレーザー照射を不規則な機動で回避しながら、
目標を追尾するシステムの搭乗によって、対BETA戦でも有効であると考えられている。


公にされた内容を見た世間は、御剣財閥側の惨敗と捉え米国民の多くが胸をなでおろし、日本国民の多くが落胆することになった。

また、公にできない極秘事項である極秘プロジェクトの開発データは、ある程度の情報は開示されたが、
その心臓部である機体主機に関するデータは一切得ることができなかった。

こうして、欧米の一般人にまでその名を知られるようになった御剣財閥であるが、同時期にアジアでもその名が知られるようになっていた。

それは、前線で活躍する第三世代機の不知火・吹雪の製造元の一つが御剣重工であることや、アジア各国がオセアニア、オーストラリア各地に
臨時政府を樹立した際に行った支援企業の中に御剣商事があったことではなく、軍人や難民キャンプで広く親しまれるようになった、
美味しい合成食品を製造する御剣食品としてその名前が知られるようになったのだ。

御剣食品は、栄養が取れることを最優先した軍のレーションに近かった一般的な合成食品に対して、その味も楽しめるように
かつての宇宙ステーションでの食事に近いコンセプトで合成食品を開発し、それに成功したのだった。

その新しい合成食品群は若干製造コストが高くなったが、その味が認められ最前線や難民キャンプでお祝いの時に食べられる名物となっていったのだ。

前線での食事に飽き飽きした俺が、試作品を取り寄せ前線でばら撒いたことがここまで発展する事になるとは、始めは思ってもいなかった事だった。




マクダエル・ドグラム社の買収工作に失敗したと思われていた御剣財閥だったが、日本政府から要請された先進戦術機技術開発計画
(Advanced Tactical Surface Fighter/Technology And Research Project),通称「プロミネンス計画」に一年遅れで参加した事で、
マクダエル・ドグラム社の買収で得た部門が、意図的に行われたのではないかと専門家の間で噂されることになる。

プロミネンス計画とは、拡張工事が開始されたユーコン基地を拠点に、国連主導で世界各国が情報交換や技術協力を行う事で、
より強力な戦術機を開発するための計画である。

また、競争原理の導入によって各国の戦術機開発を促進する一方で、東西陣営を超越して協力しあう体制を世界に示すという政治的意味をも持っていた。

しかし、その話が最初に出た時日本の戦術機開発メーカーである富岳重工,光菱重工,河崎重工,御剣重工の四社は、
次期主力量産戦術機の開発に全力を注いででいることを理由に参加を見合わせる事になった。

そして、今年になってマクダエル・ドグラム社の買収が決定した直後の御剣重工が、現在採用されている機体の改修機で参加することを打診したのだった。

最初は改修機の内容に懸念を示していた日本政府だったが、国連の要請を完全に無視することもできず、御剣重工の案を採用することになった。

御剣重工の参加を聞いた各国は、世界で初めて第三世代機を量産し実戦配備した日本帝国が、どの様な機体を持ち込むのかと期待していたようだったが、
その機体の計画書を見て愕然とすることになる。

なぜなら、第2・3世代機ではなく第1世代機の改修プランだったからだ。





撃震・改修型

この機体は、フェイアチルド・リムパリック社(米)が開発した戦術歩行攻撃機A-10『サンダーボルトⅡ』を意識して開発された機体である。

サンダーボルトⅡは、重火力・重装甲という、第1世代機のコンセプトを極限まで突き詰められた機体で、その生産性の高さにより
短期間で複数部隊の運用が可能となった事はあまりにも有名である。

欧州のNATO軍へ供給された当初は、運動性と機動性の低さに不満を持つ衛士が大勢いたが、密集近接戦での生存性の高さと
F-4一個小隊を上回る単機火力は都市防衛戦にあたる東西ドイツ軍から高く評価される事になった。

そして、その運用戦術が各戦線に浸透した後は、開発から三十年たった今でも大砲鳥(カノーネンフォーゲル)、
戦単級駆逐機(タンクキラー)などの俗称を与えられる程の絶大な信頼を獲得している優秀な機体である。

撃震・改修型は、サンダーボルトⅡを上回る火力と機動力を搭載することを計画されていたが、
早い段階から二足歩行ではそれを実現することが難しいと考えられていた。

そのため撃震・改修型は、前部ユニットになる撃震の臀部に、新しく作られた動体ユニットと撃震の下半身がセットになった
後部ユニットが取り付けられ、二足歩行から四足歩行へと形態を変化させていた。

その外観は、ギリシャ神話にでてくる上半身が人で下半身が馬の姿をしたケンタウロスを彷彿とさせるものとなっていたのだ。

撃震・改修型の開発に二年以上の年月がかかったのは、この四足歩行モーションの作成に時間がかかったためだった。

四速歩行の採用で、サンダーボルトⅡよりも運動性が低下する事になったが、
予定通りサンダーボルトⅡを上回る積載能力と直線の機動力を獲得することに成功していた。

またその仕様や、四足歩行の制御の難しさから管制ユニットは複座のみを採用することになった。

撃震・改修型は、その砲撃能力を利用して拠点防衛や戦車部隊に随伴し護衛と戦術機への援護を行うための支援仕様と、
その機動力を利用して戦術機部隊に随伴し援護を行う砲戦仕様が考えられていた。


いずれの仕様にも共通する装備は、
サンダーボルトⅡにも搭載されているガトリング砲(GAU-8)二門,
可動兵装担架システムとフリーになっているメインアームに装備される、通常の戦術機の装備,
撃震と共通のナイフシースに搭載されている65式接近戦闘短刀,
前面装甲に施されたクレイモアのように散弾をばら撒く事ができる追加装甲,
である。


GAU-8単体の重量は681kgであるが、給弾システムや砲弾を満載したドラムマガジンなどを含めた全備重量は片側で2,830kgにもなっていた。

しかし、GAU-8は初弾発射まで0.5秒のタイムラグがあるものの、最高発射速度で毎分3,900発という圧倒的速度で、
ドラムマガジンに搭載された6750発もの36mm機関砲弾を発射する事ができるという、圧倒的な火力を有していた。

そして近接武器には、65式接近戦闘短刀と追加装甲で対応するとされていたが、基本的にはBETAに接近される前に退却する事が求められていた。



支援仕様

馬の背中にあたる部分に、海軍の日本帝国海軍最大の戦艦 紀伊級にも搭載されている、
OTT62口径76㎜単装砲の搭載される予定の仕様である。
OTT62口径76㎜単装砲は、全体の総重量が7500kgに及ぶが、12kgもの砲弾を毎分85発(100発/分まで向上可能)発射する能力を有しており、
最大射程が16,300m(ただし、突撃級の正面装甲を貫通することのできる有効射程は、5,000mほどである。)もあり、80発もの砲弾が搭載されている。
そして、砲塔を旋回させることで、全方位に向けて射撃することが可能であった。
その砲撃性能を毎分あたりで換算すると、OTT62口径76㎜単装砲で90式戦車(120mm滑空砲)の3.5台分の投射量を有している。
また、保有できる弾薬の量や展開能力を考えた総合能力は、一個小隊で戦車部隊二個中隊に匹敵する戦力となると考えられていた。



砲戦仕様

馬の背中にあたる部分にGAU-8の予備弾倉と30連装ロケット弾発射機が搭載される予定の仕様である。
これにより予備弾倉分まで全て使用すると、GAU-8は一度の戦闘で砲身の寿命をむかえるまで砲撃が可能となると計算されている。
また、30連装ロケット弾発射機(総重量:3.2t,弾薬:75式130mmロケット榴弾)は、多連装ロケットシステムMLRSの配備により
一度退役した兵器であった。
多目的自律誘導弾システムを有していない30連装ロケット弾発射機だが、光線級の影響を受けにくい水平発射方式での採用となった。



撃震・改修型の最大の特徴である四足歩行への改修は、本来強力になった火力の反動を二足歩行では支えられないと判断されたため
導入されたものであるが、それにより従来の第一世代とは異なった性能を示す戦術機となった。

その利点とされたのは、四基の跳躍ユニットが生み出す第3世代機に迫る機動力と、四速歩行による主脚歩行時の振動低減であった。

この機動力により、燃料タンク(推進剤)が増設され、OTT62口径76㎜単装砲や予備弾倉とロケット弾発射機の変わりに、
大型のコンテナを搭載する事で、前線の戦術機部隊へ確実に武器・弾薬を届けるという任務も可能であると考えられるようにもなっていた。

また、主脚歩行時の振動低減により必要な衛士適正が低くおさえられたため、衛士適正ではじかれて戦車兵になった者や、
年齢で予備役に入ったものも搭乗できると考えられていた。

そして、四足歩行の欠点とされたのが、旋回性能及び運動性の低さと整備性・輸送等の運用面での問題であった。

旋回性能及び運動性の低下に対して、対戦術機戦ではいい的になるだけだと評価を受けることになったが、その点はサンダーボルトⅡも同様であり、
むしろ第三世代機に負けない前進速度と反応速度により、正しい運用方法を行えばサンダーボルトⅡよりも使い易いとも考えられた。

また、二足歩行の戦術機を想定した整備用ハンガーや輸送装置が使用できない点は、前部ユニットとなる撃震のメインアームで、
前部ユニットと後部ユニットを分離・接続できる事から、整備時には従来の戦術機と同じ整備用ハンガーを使用できるとされた。

ただし、輸送装置に関しての御剣重工の回答は、輸送トラックに足を折りたたむ馬の座り方で積載することが可能としたが、
輸送機や空母での輸送は難しいと回答するに留まった。

さらに、一機あたりの整備コストの増加が考えられたが、四足歩行により一本あたりの負荷が低減したことや、多少整備が悪くても
運用が可能である事もあり、整備方法を確立すれば効率的な整備が可能であると判断されることになった。



そして、撃震・改修型生産コストは、現段階で撃震の1.5機分とされたが、F-4『ファントム』のライセンス料金がかからなくなることや、
輸出による量産効果も考えられたため、最終的には撃震1.2機分のコストで生産が可能であると考えられていた。

更に、構造上GAU-8を搭載する肩部装甲と管制ユニット及び後部ユニットを接続する臀部装甲を交換するだけで、既に生産されている撃震やファントムを
前部ユニットとして使用できるため、既存機の改修であれば生産コストは撃震1台分以下の価格と計算されている。

様々な問題を抱えている撃震・改修型だが、その殆どを撃震のパーツの流用や既存兵器を採用していることから早期導入が可能である点や、
圧倒的な火力の割には生産コストが抑えられる点は評価され、今後の改良が期待される事になった。











ソ連領ブラゴエスチェンスクハイヴ(19)建設開始が確認された今年に入り、朝鮮半島へのBETA侵攻の圧力が一気に増す事になった。

しかし、BETA侵攻による相次ぐ撤退にも関らず俺が所属するロンド・ベル隊は、
一人もかけることなく長春(旧満州の新京)防衛戦まで戦い抜くことができていた。

そして、いつしか『極東最強の部隊』『奇跡の中隊』と呼ばれるまでになっていた。

この呼ばれ方は、ロンド・ベル隊全員の誇りでもあったが、それと同時にそれに見合う戦果が求められるようになって行くのだった。

この事は何時しか慢心を生み、独立部隊にあった自由を拘束する戒めとなっていたのかも知れないと、後になってから気付かされることになるのだった。



長春防衛戦に参加していたロンド・ベル隊が、HQの要請により帝国軍主力を迂回するような動きを見せいていたBETA群に対処していた時、
ロンド・ベル隊の後方に位置していた戦車部隊が、地下から出現したBETAの奇襲を受けるという出来事が発生した。


「ベル7(武田 少尉)よりベル1(本郷 大尉)へ、
 HQより後方に出現したBETAへの対処要請が来た・・・。
 迂回部隊を牽制しつつ、戦車部隊を救援せよという無茶な要請じゃが?」


ここに来て各国軍の消耗は激しさを増しており、この戦域には戦車大隊を救援に動ける部隊が、ロンド・ベル隊以外に存在しなかったのだ。

HQからその要請を受けたロンド・ベル隊は、急遽部隊を半分に分けて対処する破目になるのだった。


「ベル1(本郷 大尉)、了解。
 ・・・ベル1(本郷 大尉)よりロンド・ベル各機へ、部隊を二手に分けて対処する。

 ベル12(御剣 少尉)、貴様がベル7から11を率い戦車大隊の支援に向かえ。」


「ベル12(御剣 少尉)よりベル1(本郷 大尉)へ、
 先任を差し置いて俺が分隊長を務めるのは、問題があると思いますが?」


「ふん、普通の衛士ならそうなのだろうが・・・、
 個人的な技量もそうだが、前衛の癖に後衛の支援をするほど視野が広いうえ、支援の要請も的確だ。
 何より、誰も文句を言わないという点でお前が分隊長に最も相応しいと思っているのだが・・・?」


「ここで問答をしても始まりません、これもいい経験です。
 ベル12(御剣 少尉)、分隊長を務めて見せろ。
 無理なようなら、ベル7(武田 少尉)が任を引き継げばいいのです。」


俺は、中隊長と小隊長の二人に促される形で、臨時に編成された分隊の隊長に任命される形になった。

この任命は、同じ機種で隊をまとめた方が効率のよい運用ができるという判断から、少尉だけの不知火部隊を編成したために行われたものだった。

俺はその任を受けた後、すぐさま反転した不知火6機を率いて、戦車大隊の救援へ向かうことになった。

この時俺は初めて、ロンド・ベル隊で隊員を率いる立場に付くことになったのだ。

その事について、中隊長が行ったように先任たちから否定するような言葉はなく、逆にやっと隊長職につくようになったかと言われるほど、
分隊内での評価はいいようだった。

俺が率いるロンド・ベル分隊が戦車部隊の救援に駆けつけたとき、既に戦車部隊の1/3が撃破されている状況だった。

それに対応するため、光線級が出現していなかったこともあり、突撃前衛の二機を低空飛行させることでBETAを引き付け、
小型種を掃討するために作られた小型の鋼球をばら撒く手榴弾等用いて、残りの四機が戦車に取り付いているBETAを掃討する作戦を取る事になる。

俺は空中からBETAのみを素早く狙撃することで、効率よくBETAを撃破していったが、結局戦車部隊が安全圏に退避した時には、
その戦力を半数以下に減らす事になっていた。

もっと効率のいい戦い方がなかったかと考えつつも、ロンド・ベル本隊との合流を指示しようとした時、
再び地下からBETAの増援が出現することになった。

しかも、その出現位置はロンド・ベル本隊と分隊の中間に位置しており、これにより本隊と分断され合流が困難になることが予想された。

そして俺たちが、BETAの増援を突破して本隊に合流する動きを見せいていたとき、更なる不幸がロンド・ベル隊を襲う。

何と防衛線の主力部隊が崩壊したために、ロンド・ベル本隊へ多数の光線級を含む大量のBETA群が襲い掛かることになったのだった。



「クソッ、光線級さえいなければ直ぐ合流できる距離だというのに・・・。」


佐々木 少尉が洩らしたこの言葉通り、本隊との距離は最大戦速で1分半ほどの距離しか離れていなかった。

しかし、光線級の存在が跳躍することを許さず、匍匐飛行をしようにも本隊との間には未だに増援がやまないBETA群が邪魔をしており、
合流は遅々として進んでいなかった。

光線級を撃破しようにも、光線級は本隊を挟んだ向こう側に存在しており、砲撃がとどく距離ではなかった。

また、戦線が崩壊しつつある今になっては、多数の部隊から寄せられる支援砲撃の要請により、
こちらへ支援砲撃が開始される可能性は極めて低くなっていた。

しかも、最後の手段である単独での突入も50以上の光線級により阻まれ、今の俺が突入できるほど生易しい状況ではなかったのだった。

更にもし突入に成功したとしても、それまでの時間に最優先護衛目標であるベル7(武田 少尉)を抱える分隊の方が、壊滅させられる可能性も有った為、
BETA群の中を亀の歩みの様に進んでいくしか方法が残されていなかった。

分隊が本隊まで残り5000mに迫った時、非情な勧告が俺に通達すられることになった。


「ベル7(武田 少尉)よりベル12(御剣 少尉)へ、
 HQより全軍に対して長春より退却するようにと命令が発せられたようじゃ・・・。」


「武田さん、どう言うことです?
 ロンド・ベル以外にも、前線で戦っている部隊がまだ沢山あるんですよ。
 それなのにHQは何を考えているんだ!」


俺の怒りの声と同様に、他の隊員も怒りをあらわにした。

しかし、それに対して武田 少尉は冷静に答えを返した。


「主力部隊が退却を開始した今となっては、どう叫ぼうが現実は変わらん、
 それよりも、生き残ることを考えたらどうじゃ、お主は分隊長なのじゃろう?」


その言葉を受けた後も、本隊と合流して退却する方法を考えていた俺に、中隊長からの通信が入って来た。

どうやらそれは、武田 少尉が不知火・強行偵察装備を使って無理やりつなげた通信のようであった。


「ベル1(本郷 大尉)よりベル12(御剣 少尉)へ、
 本隊との合流は不要だ、即時退却に移れ!」


「中隊長!?
 俺たち分隊が合流しないと、今の本隊では確実にやられてしまいますよ。」


本隊の隊員が乗っている不知火・斯衛軍仕様試験型は、その性能と引き換えに稼働時間の低下をもたらしており、
BETAに半ば包囲されている現状を考えると、不知火が護衛することで最短ルートを退却する以外に推進剤が持つ可能性が低いと考えられていたのだ。


「御剣 少尉・・・、そろそろ不知火も撤退の限界点に達するようじゃ。
 試験型の稼働時間を考えるともう既に・・・。」


俺は自分の推進剤残量を基準に考えていたが、思った以上に分隊の不知火も推進剤を消耗していたのだった。

 しかし・・・、だからと言って・・・・・・、


「俺は・・・、俺はこんな状況をひっくり返すために強くなると誓ったんだ。」


頭では退却するべきと判断していたが、感情がそれを許容できずその思いが思わず口から漏れることになった。


「御剣 少尉・・・、判断を誤るなよ。
 最優先目標を思い出せ、それにここで貴様らも死ねば、誰が民を守るのだ・・・。
 誰が、この中隊の事を語り継ぐのだ。
 自らの死が、無駄では無いと思えるからこそ、こんな状況でも笑って戦えるのだ!」


中隊長の搾り出すような声と共に、先任たちの笑い声が耳に入って来た。


「うぉぉぉーーーーー。」


雄たけびと共に、目の前にいた数体の要撃級を切り刻んだ俺は、ついに決断を下した。


「ベル12(御剣 少尉)よりベル7からベル11までのロンド・ベル 分隊に告げる、
 これより我々は退却を開始する。」


俺は、そう言って分隊の皆に命令を出した後、先任たちとの最後の言葉を交わすことになった。


「中隊長・・・、先任の皆さん、
 今までありがとうございました。
 俺も・・・何時かそちら側へ逝くので・・・、その時まで・・・・。」


「あぁ・・・、今まで貴様らと戦えたことを誇りに思う。
 御剣・・・、ロンド・ベルは貴様に任せた。
 先に地獄に逝って待っているが、あまり早く来るなよ・・・
 では、その時まで・・・」


「「「「さらば!」」」」

 
この通信を最後に俺たちは退却を開始し、中隊長以下6名は最後の力を振り絞りBETAへ特攻をかけることになった。

俺たちはベル7(武田 少尉)を中心に円壱型(サークル・ワン)を組み、推進剤の余裕のあった俺がその殿を勤める事になった。

中隊長達がどのように戦ったかははっきりと分からないが、不知火・強行偵察装備には6つのS11による爆発が観測されていた。











長春から退却した後のロンド・ベル隊は、一気にピョンヤン近郊まで後退し、そこで補給とつかの間の休憩を取ることになった。

俺は分隊長としての最後の役目として、帝国軍に報告書を提出し人員と物資の補給を要請したが、結局少しばかりの物資の補給以外は
全て断られる事になった。

そして、人員の補給変わりに渡されたのが、野戦任官による臨時中尉の肩書きと、あまり聞かない臨時中尉での中隊長就任命令だった。

この命令は、帝国軍も消耗が激しく対応ができない事や、解体し吸収すれば企業と面倒が起きる可能性がある事、補給は軍から出したくない事から、
生き残りに部隊運用を一任し、無視することにしたとも取れる内容となっていた。

俺はそっちがそのつもりなら、こっちも好き勝手やらせてもらおうと考え、御剣財閥の力やコネを使って様々な補給物資の手配を行った。

しかし、補給物資はどうにかなりそうだが、人員の補充はそう簡単にはいかなかった。

一瞬、テストパイロットを引き抜く事も考えたが、それでは兵器開発が遅れてしまうと思い、考え直したのだ。

また、補充人員は誰でも言いというものでもなかった、ある程度の腕が無いとただの足手まといになってしまうからだ。




俺が特別に与えられたテントの中で、夜になっても書類の作成に励んでいると、外に気配を感じた。


「その気配は武田 少尉だろう。
 今はお菓子を持っていませんよ?」


俺の言葉を受けて、武田 少尉がテントの中に入ってきた。

お菓子云々の俺の発言に、幾分気分を害した様子を見せた武田 少尉だったが、その感情を抑え込んだ様子を見せた後、俺に話しかけてきた。


「また、今日も寝ないつもりじゃろう?」


「分からない、全然眠くならないんだ・・・。」


「嘘をつくでない、そんなに目の下に隈を作って眠くないじゃと?」


「ふぅ~、しっかりと化粧はしたはずなのにばれたか・・・。」


俺のそのコメントに対して、武田 少尉は化粧で女の眼を欺こうと考えるとは片腹痛いと返し、俺を無理やりベッドの方まで引っ張っていくのだった。

俺はベッドの端に腰掛けた後、正直な思いを武田さんに話すことにした。


「・・・・・・正直に言うと、寝ていると嫌な夢を見る・・・・・・。

 俺がもっと上手くやれば、どうにかなったんじゃないかって・・・。

 どうしようもないと分かっていても、考えずにはいられない。
 こういう時は、酒に溺れられない自分が損をしている様に思える。」


そう言って、自嘲的な笑みを浮かべた俺の頭を、武田さんが優しく抱きしめてくれた。


「お主はよくやっている・・・、
 お主以上の部隊長など早々いるものではない。
 今はゆっくり眠る事じゃ・・・、ワシがついておるから悪夢もどこかへ逃げ去るじゃろう。」


武田さんに抱きしめられていると、どういうわけか心が安らいでいくのを感じた。

これが、女性の魅力というやつなのだろうか?

この暖かさを感じるために、男は女性を求めずにはいられないのかも知れない・・・。


「女の人に抱きしめられるのは、いつ以来だ・・・ろ・・・・・。」


俺は次第に意識を混濁させていき、武田さんにも胸が有ったんだと馬鹿なことを考えている間に、
ついに眠気に負け意識を手放す事になったのだった。




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コメント

皆様、いつも御世話になっております。
今回設定が登場した撃震・改修型ですが、投稿する当日になって整備性に問題があると気が付いてしまいました。
戦術機に随伴できる支援砲撃が必要と考えたことや、人型兵器と同様に男のロマンである多脚型兵器を
登場させたかったことから、そのまま投稿することにしました。

そして、初期段階では本土決戦まで殆どが生き残る予定だったロンド・ベル隊員ですが、
強くなりすぎた主人公を一度挫折させるために、半数がお亡くなりになりました。

挫折に人の死亡は必要ではない事や、もっとエピソードを挟むべきとも考えたのですが、
今回は他の部隊ではよく起こる悲劇が、ついにやってきたという話になってしまいました。

人の生死を考える難しさを痛感した話となりましたが、今後もよく考えて展開を決めて行きたいと思います。



返事

なんてこった・・・・、一月近く悩まされた移動速度について原作でしっかり表記されているとは・・・、
まったく気が付きませんでした。
書き込み、ありがとうございます。

原作を確認してみたところ、どの場合の速度か分からない場合もありましたが、
戦術機の速度は以下のようにまとめました。

主機出力の低い訓練用の吹雪及び撃震
主脚走行速度が70~90km/h,
短距離跳躍で瞬間的に150km/h程,
中距離跳躍で160~190km/h程,
最大戦速では216~218km/hでの長距離跳躍。
(ラプターの推進剤を心配していることから、吹雪は最高速度を出していないと思われます)

不知火の主脚走行速度は吹雪と同程度
短距離跳躍で瞬間的に238km/h程,
中距離離跳で260~281km/h程,
匍匐飛行292~330~360km/h,
最大戦速では463~468km/h,
不知火壱型丙の最高速度が746km/h。

ここまで移動速度がばらばらだと、巡航速度を決めるのが無駄なような気がしてきましたが、一応決めておきたいと思います。
ハイヴ内での移動が主脚走行70%なので、陸上での巡航時の割合を適当に決めると、
第一世代機 主脚走行50%,短距離跳躍50%, 40+ 70=110km/h位
第二世代機 主脚走行45%,短距離跳躍55%, 36+110=146km/h位
第三世代機 主脚走行40%,短距離跳躍60%, 32+132=164km/h位
としました。

結果は以下のようになりました。
第一世代機 最高速度460→400km/h前後(巡航速度95→110km/h前後)
第二世代機 最高速度600km/h前後(巡航速度140→150km/h前後)
第三世代機 最高速度700km/h以上(巡航速度170km/h前後)
これを見ると、適当に考えていた時の値は、私が納得できる範囲に収まっていたようです。
これからは、この設定を基に話を続けて行きたいと思います。
皆様のご協力ありがとうございました。




[16427] 第15話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/07/10 09:09




「んん・・・・・・んあ~~~。」

俺はその日長春防衛戦が終わってから、初めて悪夢を見ることなくしっかりと睡眠を取る事ができた事に、幸福感すら感じていた。

こうして、気持ちいい朝を迎える事ができるのも武田さんのご利益なのだろうか?

女性に抱きしめられただけで安心して眠れるなど、我ながら単純なものだと考えなくはなかったが、あのまま睡眠不足が続けば
部隊の崩壊に繋がる可能性も有った事を思うと、素直に感謝する気持ちになっていた。

そこで俺は、ベッドの中で久しぶりに感じた気持ちよさを満喫しようと、睡眠で硬くなった体を軽く伸ばすことにした。

しかし、動き出して直ぐ、自分がなにやら軟らかいものを抱きしめて寝ている事に、気が付くことになった。

俺はそれが何だか分からなかったが、目を開けるのも億劫だったので、手でそのものを弄る事にしたのだ。


「こら、御剣。
 そのように強く抱きしめられては、痛くてかなわん。
 女子を抱きしめる時は、もっと優しくするものじゃ。」


「・・・・・・え?」


俺は突然かけられた声に驚き、眼を開けると同時に間抜けな声を発していた。

そして、自分が抱きしめていたものの正体に気が付き、大いに混乱することになる。


「た 武田さん、どうしてこんな所にいらっしゃるのでしょうか?」


「・・・やっと起きたようじゃな。
 お主が寝入った時に、ベッドに押し倒されてしもうたのじゃ。
 しかも、離れようとすると軽く関節を極めてくるから始末におえん・・・。」


「は~、そうなのですか。」


「そうなのじゃ、じゃから仕方なくここで寝ることにしたのじゃ。
 し 仕方なくじゃぞ。」


そう言われた俺は、始めて聞く自分の寝相の悪さと女性と一緒に寝ていたという事実に驚愕し、ベッドから離れることも出来ずに、
武田 少尉としばらくの間見つめ合う事になった。

そして二人の沈黙は、突然の来訪者によって終わりを告げることになる。


「う~す、御剣起きてるか?
 今日の訓練についてなん・・・だ・・・が!?」


この時の俺は、自分の胸の高さ程の身長しか無い女性に抱きついている体勢・・・、見方によれば少女にも見える女性をベッドに
押し倒しているようにも見える状況だった。

この光景を目撃することになった佐々木 少尉は、驚きの表情の後に妙に納得した笑顔を見せた。


「お前が歓楽街に行かない理由がようやく分かった・・・。
 まさかロリ・・・、いや人に嗜好をとやかく言うと、碌な事が無いな。
 では、急いで皆に知らせて来るか・・・。」


そう呟いた佐々木少尉は、親指を上に立てた拳を前に突き出し、満面の笑みを浮かべた後、足早にテントから立ち去っていくのだった。












その日慌しい朝を過ごした俺は、ロンド・ベル隊全員で隊員が6人になってから何度目かになる、シミュレーター訓練を行っていた。

前回の戦いから前衛・中衛・後衛のバランスが取れた隊員が生き残ってはいるが、12人から6人になった影響は大きく、
昨日まで今まで通りのポジションでシミュレーター訓練を続けていたが、思うような結果が残せていなかった。

思うような結果が残せない一番の理由は、打撃力不足であった。

反応炉到達が第一目標になるハイヴ攻略では、BETAを回避する事が可能であるためそれほど打撃力は重要視されないと俺は考えていたが、
俺たちが主に従事することになる間引き作戦や防衛戦ではそうは行かなかった。

特に防衛戦では、いかにBETAを効率よく大量に殲滅するかが求められるため、打撃力不足は深刻な問題になるのだった。

更に、試験中隊であるロンド・ベル隊は戦闘を行いながらも不知火・強行偵察装備を守りきり、
戦術機及び兵装の運用データを持ち帰ることが最優先目標である事も影響していた。

運用データを持ち帰るために偵察装備の護衛に力を入れると、どうしてもBETAに与える力が不足し、
BETAに包囲殲滅されるという結果になってしまうのだった。

その事にここ数日頭を悩ましていた俺は、副官に任命していた武田 少尉と相談して、思い切ったポジション変更を行うことにした。

新しく考えた編成は、俺と武田 少尉の二人でエレメントを組み後衛となり、残りの四人をアロー隊形とし前面に立たせると言うものだった。

これによって、偵察装備の護衛を行う機体を俺一機とし、偵察装備の装備も87式突撃銃と92式多目的追加装甲を持つ安定したスタイルから、
より攻撃的な前衛を援護できる装備に変更したのだった。

そして、後衛に下がる事になった俺の不知火と武田 少尉が乗る不知火・強行偵察装備には、最新のラインメイタル Mk-57中隊支援砲の
大口径タイプが装備され、中衛の強襲掃討装備には通常口径の中隊支援砲が装備されることになった。

この中隊支援砲は、BETA群に突入する戦術機部隊を支援するために開発された戦術機用の支援重火器で、
1997年の今年に入り欧州で配備され始めた兵装である。

欧州各国軍では戦術機が携行する大口径支援砲が標準装備されており、Mk-57中隊支援砲は通常使われる57mm砲弾以外にも、
220㎜や105㎜砲弾に対応した数種も存在している。

散弾・多目的運搬砲弾も使用できる本砲は、57mm砲弾の場合で最大120発/分の制圧射撃を行う事が可能であり、
要撃級,戦車級に対して極めて有効な兵装であると考えられていた。

これらの大口径支援砲は、欧州において戦車や自走砲の代用として運用されており、戦術機に装備されている事で機動性や地形に
影響されない展開能力が評価されているのだ。

今回、御剣重工では将来的にライセンス生産を行うことを目標に、西ドイツのラインメタル社から57mm,76mm,90mm,105mm砲弾を発射できる
4種類のMk-57中隊支援砲を購入し、各種の運用データを取る事になった。

その関係で、不知火での実戦時の運用データを取るために、ロンド・ベル隊に配備されてきたのだ。

御剣重工がこの4種類の砲弾を選択した理由は、戦術機の一般的な兵装である87式突撃砲の36mm砲弾を上回る火力が求められたことと、
120mm以上の砲弾では、その反動や携行できる弾数が制限されることが問題になったからだ。

57mmより口径の大きくなった種類の中隊支援砲は、一発の威力が増加した分57mmよりも発射速度が低下する事になった。

それによって面制圧能力が低下する事になったが、欧州で求められていた面制圧能力は、戦車や自走砲が担うことが帝国軍の方針であり、
御剣重工としても将来的には撃震・改修型が担うという構想であったため、必ずしも必要な能力ではなかったのだ。

俺はこの四種類のMk-57中隊支援砲に対して、57mmは欧州で使われている面制圧として運用し、76mm,90mm,105mmは87式支援突撃砲の変わりに
後衛から前衛を援護するための支援砲として運用する事を考えていた。

現在、アジアや帝国で戦術機の支援火器として主に使われている87式支援突撃砲は、87式突撃砲に専用バレルを取り付けた物であるため、
87式突撃砲と同じ36mm砲弾が使われている。

しかし、36mm砲弾では支援砲撃を行っても、命中した瞬間にBETAを行動不能にするほど威力がないのだ。

それを不満に思っていたところに配備されたMk-57中隊支援砲は、命中すればほぼ確実にBETAの動きを止める威力を有しており、
部隊の支援砲としても非常に有効な兵装であると考えられていたのだ。



この新しい編成と装備を試そうと提案した時、各隊員は新しいポジションと部隊連携の方針に戸惑う事になった。

今回編成された陣形は以下のようになっている。

ポジション
ベル1 御剣 臨時中尉 前衛→後衛   (突撃前衛装備→砲撃支援装備)
ベル2 武田 少尉    後衛→後衛兼中衛(強行偵察装備→支援偵察装備)
ベル3 佐々木 少尉   前衛→前衛   (突撃前衛装備→突撃前衛装備)
ベル4           中衛→前衛   (迎撃後衛装備→強襲前衛装備)
ベル5           中衛→前衛   (強襲掃討装備→強襲前衛装備)
ベル6           後衛→前衛兼中衛(打撃支援装備→強襲掃討装備)

装備内容
突撃前衛 装備 87式突撃砲×1, 74式近接戦闘長刀×2, 65式近接戦闘短刀×2, 92式多目的追加装甲×1
強襲前衛 装備 87式突撃砲×2, 74式近接戦闘長刀×2, 65式近接戦闘短刀×2
強襲掃討 装備 Mk-57中隊支援砲(57mm砲弾)×1,87式突撃砲×2, 65式近接戦闘短刀×2
砲撃支援 装備 87式突撃砲×1, Mk-57中隊支援砲(90or105mm砲弾)×1, 74式近接戦闘長刀×1, 65式近接戦闘短刀×2
支援偵察 装備 Mk-57中隊支援砲(76or90mm砲弾)×1, レドーム×2, 情報処理用大型バックパック, 65式近接戦闘短刀×2

部隊陣形
         前
         ▲←ベル3(佐々木 少尉)
  ベル4→■   ▲←ベル5
ベル6→■  
         ● 
         ↑  ●←ベル1(御剣 臨時中尉)
     ベル2(武田 少尉)
         後



新しいポジションについては、精鋭が集められた部隊であった事と、近接格闘を苦にしない隊員が多くいた事も幸いし、
大きな問題にはならなかった。

問題になったのは、他の隊員が初めて後衛に徹することになった俺の実力を信用できず、動きが消極的になってしまうという事だった。

今までも守られる立場で有りながら、的確な援護射撃ができていた武田 少尉は、他の隊員から信頼されていたのだが、
いくら腕が良くても実績が無い俺は、完全な信頼を得ることが難しかったのだ。

しかし、連携訓練を繰り返す中で後衛の俺からも的確な援護が来ることが分かると、隊員はしだいに動きがよくなっていった。

また、俺と武田 少尉のエレメントも相性が良く、初めての連携においても不知火・支援偵察装備の護衛は、上手く機能していたのだった。

結果として一日の訓練で、今までで最も良い成績を残すことができていた。


「朝から見せ付けてくれたのは、エレメントの予行演習だったのか?」


訓練の後、佐々木 少尉はそう言って朝の出来事を蒸し返してきた。

佐々木 少尉の発言に合わせる様に他の隊員からも冷やかしの声が聞こえてくる。

しかし、その中には無理して明るく振舞おうとする雰囲気も感じ取ることが出来るのだった。

久しぶりの明るい話題に、無理にでも明るく振舞っているのだろうが、ネタの内容を考えるとネタにされる方としては、
たまったものではなかった。

俺はすかさず反論を行うことにしたのだった。


「佐々木さん、それはもうやめてもらえませんか?
 それに、佐々木さんが思っているような事はしていませんよ。」


「だが、ベッドで抱き合っていた事は事実だろ?」


「確かに、寝ぼけて武田さん押し倒しましたが、それ以上の事をするつもりはありませんでした。
 何しろ寝ぼけていたもので・・・。」


押し倒した後に一晩同じベッドで寝ることになったが、俺自身にはそれを実行しようとする意思が無かったので、
今の発言は嘘を言っているわけではなかった。


「御剣はそう言っているが、武田からは何か言う事は無いのか?」


「御剣がそういうのなら、そうなのじゃろう。」


どうやら、俺の発言に気に入らない部分があったようで、武田 少尉はそう言って不機嫌そうに顔をそらす事になった。

その顔を見た俺は、なんとも言えない罪悪感に駆られる事になった。


「皆さん、15:30よりブリーフィングを始めます。
 遅れないようにブリーフィング用車輌に集合してください。
 では!」


これ以上この場にいても墓穴を掘るだけだと判断した俺は、ブリーフィングを理由にその場から逃げ出すことにするのだった。










本日行われたブリーフィングにおいて、今日行った連携訓練についての分析が行われ、
ポジションと陣形の変更が有効に機能していたと判断される事になった。

そして、皆の賛同が得られた事で、しばらくこの編成で行くことが決定された。

次にブリーフィングで議題に上がったのが、機体の整備についての問題だった。

それについて、整備主任から現状の報告がされることになった。


「ロンド・ベル隊で運用している不知火は、今まで帝国軍から補修パーツが供給されていたのですが、
 長春防衛戦での損害により、帝国軍内でもパーツが不足している状況ですので、
 こちらに供給されてくるパーツも当然のように、減少しています。
 したがって、このまま行けば2ヶ月ほどで補修パーツが底を付くことになります。」


この発言を受け、俺はこの数日で考えていた計画を皆に通達することにした。

それは、独自に調達し6機分の補修パーツがあった不知火・斯衛軍仕様試験型のパーツを使い、前衛の不知火4機の補修を行うというものだった。

不知火・斯衛軍仕様試験型のパーツがここまで豊富にある理由は、この世で不知火・斯衛軍仕様試験型を運用するのが
ロンド・ベル隊だけであったからだ。

つまり、先の防衛戦にて不知火・斯衛軍仕様試験型は、御剣重工の倉庫に眠るプロトタイプを残すのみとなり、
完全に戦場から姿を消すことになったのだ。

そして、後衛の2機は残った不知火のパーツと前衛から外された消耗の少ないパーツを使って、補修を行うという計画だった。

不知火と不知火・斯衛軍仕様試験型のパーツには、ある程度の互換性が確保されていたが、単純に組み付けただけでは制御系に不具合が発生するため、
その部分の調整が必要である事が問題にあげられる事になった。

また、互換性が無いパーツは試験中隊にある工作機械を使って、追加の加工を施す必要があったのだ。

しかし、それ以外にパーツを調達する方法が無かったため、結局俺の計画がそのまま採用されることになった。



「次に、先日到着した新型管制ユニットに付いての説明に移りたいと思います。
 この新型管制ユニットは、次世代CPUの開発により既存のシステムを小型化し、
 空いたスペースに衛士の生存性を高める新機能を搭載する事に成功したもので・・・・・・。」

この後、数十分にも渡り新型管制ユニット開発主任から、新型管制ユニットとそれに伴う兵装と運用方法についての説明がされる事になるのだが、
それを要約すると以下の用になる。

次世代CPUの開発により、管制ユニットの小型化に成功。
          ↓
それにより、管制ユニットを完全ブロック化する事が可能になった。
          ↓
ブロック化により、独自の装甲を有することになった管制ユニットは、
装甲を爆薬で強制排除した後、管制ユニットに取り付けられたグリップをメインアームで掴むことにより、
戦術機で管制ユニットを容易に回収する事が出来るようになった。
更に、管制ユニットを稼動兵装担架システムに搭載することも可能で、
一機の戦術機が最大4人の衛士を管制ユニットごと救出することも可能である。

また、衛士救出用として戦術機の補助兵装に、小型可動兵装担架システムに装備できる小型のショットガンが新しく配備されており、
至近距離でも戦術機の装甲に殆どダメージを与えることが出来ない威力に作られたショットガンは、戦術機に群がる戦車級を効率的に
排除する事が可能になっていた。

そして、管制ユニットのブロック化は予備機があれば、管制ユニットを乗せ替えるだけで再出撃すら可能という、
整備に関しても劇的な変化をもたらす可能性すらあった。

開発主任は、この装備がいずれ全ての戦術機に採用されることになるだろうと熱く語った後、ようやく話を終えたのだった。


「え~と・・・、結論から言うと救出や整備が容易になっただけで、
 性能は上がっていないと考えていいのか?」


開発主任の長い説明に頭を痛くしていた隊員たちを代表して、佐々木 少尉が質問を行った。

それに対して、開発主任は先ほどの説明よりも熱く、その質問についての返答を返すことになる。

開発主任が熱くなった理由とは、ブロック化だけに留まらず新型管制ユニットには、
慣性力を低減するための機構を搭載することに成功していたからだった。

これは、他人の戦術機機動にあわせて、強制的に揺さぶられることになる救出された衛士のことを考え、搭載が検討されたものであったが、
予想以上の性能を見せ、通常の戦闘時にも衛士の負担を軽くすることに成功していたのだ。

それに着目した俺は、新型管制ユニットに搭乗制限を限定解除するショートカットコマンドを装備することを提案したのだ。

搭乗制限の解除はある意味ドーピングのようなもので、衛士と機体の負荷をかけることを引き換えに、
一時的ではあるが機体の性能を上げる事ができる設定だった。

それが、新型管制ユニットによる慣性力の軽減で、衛士の負担が緊急時に使う短時間なら十分許容できる範囲に収まると考えたのだ。

これにより新型管制ユニットは、機体側への負担も考え常に搭乗制限を限定解除を行う事出来なかったが、一回30秒間,
再使用に3分間のインターバルという制限が付くものの、ボタン一つで搭乗制限を限定解除し機体性能を10%押し上げる機能が
装備されることになった。

たかが10%の性能向上をたった30秒間だけで、何ができると思う人もいるかもしれないが、
この僅かな差が生死を分ける場面において重要になってくるのだ。

俺は新型管制ユニットの開発に携わった事もあたため、開発主任の熱い思いに大いに賛同していた。

そして、開発主任の熱い説明で武田さんに関する追求が逸れればいいなと、淡い期待を抱くのだった。




「信綱様、試験型のパーツの件は、よろしかったのですか?」


ブリーフィング終了後、御剣重工から派遣されていた整備担当者がそう話しかけてきた。


「俺の機体は、それほどガタはきていないはずだ。
 パーツ交換が必要の無い機体に試験型のパーツを取り付けるほど、整備員は暇では無いだろう。」


「・・・信綱様の戦い方が特殊なのです。
 普通なら消耗するパーツは、衛士によって偏りが生まれますが、全ての関節を満遍なく磨耗させているのは貴方だけですよ。
 このまま行けば、パーツを交換するより管制ユニットごと入れ替えた方が整備を楽に出来そうです。」


人間には利き腕があるため、戦術機のメインアームにも使用頻度の差が発生し、それが関節部の消耗が左右で異なっている原因になる。

そして、腕と同様に足にも左右で利き足と軸足という使い方の差が発生してしまう。

制御的に左右の差が無いように調整してはいるが、サイドステップの使用頻度が左右で異なることもあり、
左右の足で消耗する関節が異なる場合が多くなるのだ。

それに対して、騎乗(乗り者の乗り方やその能力・特性を理解できる能力)という特殊能力により、関節部の消耗がなんとなく分かる俺は、
それを調整し左右の関節部が同じように消耗させることが可能だった。

この乗り方自体は、直ぐに整備を受けられる状況ではアドバンテージになるものではないが、最前線であまり整備時間が取れない時などに、
大きな差となって出てくると考えたのだ。


「その言い方だと、素直に喜んでいいのか微妙な表現だな・・・。
 ともかく、前衛の整備を頼む。
 多少互換性があるとはいえ、残り1週間で4機の不知火に試験型のパーツを付けるのは骨だろう。」


ロンド・ベル隊に通達された予定では、10日後には前線行きとなっているため、
実機訓練の時間も入れると整備には一週間しか使えない計算だったのだ。











長春防衛戦後、二週間の間機体整備と部隊連携の訓練を行ったロンド・ベルは、再び最前線での任務に従事することになった。

その任務は、主に戦車や自走砲などの支援兵器の退却時や、突出したBETA群に対して遅滞戦闘を行い、可能なら殲滅するというものだった。

この内容を見ると、ロンド・ベル隊には戦力を半減させる前と変わらない任務と負荷が、割り当てられた事に気が付く。

この事からも帝国軍及び各国軍が疲弊しており、半分に数を減らした中隊の戦力でも活用せざるおえない、今の窮状が伝わってくるのだ。

俺たちは度重なる要請に対して、現状の部隊にできる範囲で答えて行くことになる。

俺が執った部隊指揮の方法は、大まかな目標だけを指示するだけで細かな指揮は一切行わないというものだったが、
各隊員がBETA戦というものを理解しており、経験豊富であることもあったため、息のあった連携を見せる事になった。

個人の活躍としては、ワントップという重要な役目を担うことになった佐々木 少尉がその実力を遺憾なく発揮し、
前衛の経験が浅い隊員に対しては、武田 少尉がしっかりとカバーを行う事ができていた。

そして、俺は武田 少尉を守りながらも、部隊全員を見回し満遍なく援護を行うことになった。

俺と武田 少尉の後衛が的確な支援を行うことによって、背後を気にする必要がなくなった前衛は、
次第に水を得た魚のようにその実力を発揮することになる。

普段の俺は左で突撃砲を保持し、右の稼動兵装担架システムを動かして右の脇の間から前に持ってきた中隊支援砲を、
右手で保持するというスタイルで各隊員の援護を行っていた。

俺が中隊支援砲から放った砲弾は、ある時にはBETAの隙間を縫い光線級の照射粘膜を捉え、ある時には前衛に殴りかかろうとしていた
要撃級の腕を根元から吹きとばす事になった。


「中隊支援砲のこの威力・・・、なかなか使える。
 個人的には105mmの威力が魅力的だが、90mmの方が取り回しを考えると一般受けするかな?」


俺はこの中隊支援砲から放たれる砲弾の予想以上の威力に、突撃前衛として最前線で戦えなくなった不満を忘れるほど興奮する事になる。

しかし、順調であった部隊連携も光線級の出現に対しては、なかなか上手く機能していなかった。

少数の光線級なら中隊支援砲で対処できたが、数が多くなった時には戦車部隊や自走砲部隊などに砲撃支援を要請するしか手が無かったのだ。

そんな状況の中でも、少しずつ前衛部隊を連携させることで光線級を撃破する事ができるようになっていった。

そしてこの事を切掛けにロンド・ベル隊員は、空へ跳び上がる事への恐怖を克服し、第3世代機とEXAMシステムの相乗効果により可能となった、
三次元機動の基礎を身に付ける事になった。

前衛部隊が安定したことで、俺が単機でBETAに突撃する機会は、次第に減って行くことになる。

ただし、完全に前衛というポジションから離れた訳ではなかった。

部隊が包囲されそうな状況に陥った場合に限り、部隊の指揮を武田 少尉に任せ俺が先頭に立つ陣形に移行する場合があったのだ。

この陣形により、ロンド・ベル隊は総合的な力が低下する変わりに突破力を最大化させ、BETA群の真只中を突破する事すら可能になるのだった。











こうしていくつもの激戦を潜り抜けていったが、所詮中隊の半分しかない人数のロンド・ベル隊では、戦況を変える力があるはずも無かった。

そして、ついにピョンヤンが陥落し、人類は朝鮮半島の半ばまで押し込まれることになる。

各国軍の奮闘もむなしく、韓国領に鉄原ハイヴ(20番目のハイヴ)の建設が確認された時、朝鮮半島に住む者達から発せられた絶望の声を、
俺たちは胸を締め付けられる思いで聞くことになるのだった。

こうした状況の中において、帝国内からは前線でも不足している不知火を、国内のある基地に集中配備したという情報が、
不知火の生産に携わっている御剣重工の裏情報として伝わってきた。

この情報により俺は、帝国が招致し香月 夕呼 博士が総責任者を務めるオルタネイティヴ第四計画の実働部隊として、
A-01連隊が発足した事を察知することになった。

また、御剣商事からも宇宙への不自然な物資の輸送があるとの報告を受けていた。

俺はこの事に、いよいよ対BETA戦における運命の分かれ道が近づいている事を実感するのだった。


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コメント

皆様、いつもご感想ありがとうございます。
だんだん投稿が遅くなってきましたが、仕事に支障が出ない範囲で頑張りたいと思っています。


この話の始めのエピソードは、朝起きてプロットに書き加えたものだったのですが、
その日の夜に改めてみてみると、原作のオープニングに似ている事に気が付きました。

今回は原作のエピソードでしたが、この間まで私が読む専門だった事を考えると、
いつか無意識のうちに他の作者様のネタを使ってしまうのではと、心配になってきました。

今のところ、怪しいエピソードは無いと思っているのですが・・・。


そして今回は、色々な装備を登場させました。
中隊支援砲は調べている間に、日本で標準口径である57mmが使われている形跡が無いことに
気が付いてしまいました。
無視してもよかったのですが、中隊支援砲が他の種類の口径に対応していることや、
あまり多くの種類の砲弾を使用したくなかった事もあり、76mmを使用する事に設定しました。

もし、57mmも日本で使われているという情報を持っている方がいらっしゃれば、
感想板に書き込んでいただけたら幸いです。


修正により、中隊支援砲の口径を4種類に変更いたしました。

これらの兵器を上手く活用して、BETAと戦って行こうと思っていますが、
部隊の人数を減らした事や、性能のいい方の機体を全滅させた事を今更ながら後悔しています。
このままでは、まったく活躍できずに戦場で埋もれてしまいそうです。
さて・・・、どうしましょうか。



返信

前回登場した多足歩行型の戦術機(撃震・改修型)が、思っていた以上に受け入れられて
大変嬉しく思います。

私はあまりACをやったことがないので、多脚型で思い浮かぶのがFMの機体になってしまいます。
また、この多足歩行型戦術機はゾイド程激しく動きませんが、その代わりに四基の跳躍ユニットで
通常の戦術機同様 長距離の跳躍が出来ます。
そのうち、戦闘シーンでも出てくると思いますので、その時に多脚型の火力と装甲,機動力を生かした
表現が上手く書けたらいいなと思っています。

その他にも多くの感想をいただきましたが、その事については今のところ検討中であります。
二話以上先は私にも分からないため、検討が終了するか本編で採用した時点で、
返信をさせていただきたいと思います。



[16427] 第16話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/07/10 09:11




1998年、ついにソウルが陥落した。

ソウル防衛に力を注いでいた各国軍は、防衛の失敗により戦力を大きく減少させる事になり、
その後のBETAの侵攻を防ぐ余力が残されていなかった。

これを受けて、帝国は前線への補給よりも本土防衛のために国内の戦力増強に力を入れ始める事になる。

それに合わせるように前線では、『朝鮮半島から軍が撤退するのでは?』と噂がされるまでになった。

そして、ソウル陥落から僅か1ヵ月で戦線を300km後退させることになった2月、朝鮮半島撤退作戦(通称:光州作戦)の実施が
各部隊へ通達されることになった。

その作戦は、軍事力を温存したい国連軍の意向もあり、軍関係者の避難が優先された作戦であった。

それに対して、まだ多くの民間人を残している現地の国及び、それを支援する大東亜連合諸国は反発し、独自に民間人の避難を行うことになる。

この様な追い詰められた状況になっても、人類は一つにまとまる事は無く、各国の対立を浮き彫りにするのだった。

その両者の間に挟まれることになった日本帝国は、国連軍の作戦を指示しながらも大東亜連合の民間人避難に支援を行うという
玉虫色の対応を取ることになる。

その頃のロンド・ベル隊は、長春防衛戦からソウル防衛戦の半年ほどの間にの戦果が認められ、
俺が正式な中尉になり武田 少尉と佐々木 少尉の二人も中尉に昇進していた。

また、手放しで喜べる理由ではなかったが、戦いの中でロンド・ベル隊が待ち望んでいた人員の補充も行われていた。

ピョンヤン陥落時に壊滅状態になり、不知火4機が生き残るのみとなっていた第11独立戦術機甲試験中隊と合流する事ができたのだ。

それを受け、充足率80%を超えたロンド・ベル隊を指揮するために、俺はソウル防衛戦の直前に臨時大尉の階級を得る事になった。

臨時とはいえ大尉への昇進に対して、周りの隊員は喜んでいるようだったが、自分の能力が認められたというより、
人員の不足が主な昇進理由である事を考えると、複雑な心境になってしまい素直に喜ぶことができなかった。

ソウル陥落以後の戦闘では、人類側が圧倒的に不利な状況に追い込まれていたため、
ロンド・ベル隊が救援に駆けつけても多くの部隊が壊滅していくという結果が続くことになる。

そして、常にその戦場で最も危険な場所に配置されることが多かったロンド・ベル隊は、いつしか『死の鐘』と呼ばれるようになり、
味方から不吉の象徴の様に言われるようになるのだった。










ロンド・ベル隊に合流した第11試験中隊の生き残りは、中衛2人と複座の偵察装備を含む後衛3人,合計4機の不知火だった。

俺は合流後、第11試験中隊で運用されていた偵察装備についての扱いに頭を悩ますことになったが、偵察型とエレメントを組む俺との相性を考え、
第11試験中隊のオペレーターだった中里 優希 少尉と武田 中尉を、複座の偵察装備にのせ運用することにした。

これにより、武田 中尉は戦術機の操縦に専念することができるようになり、ロンド・ベル隊は人数が増えたことでようやく、
中隊としての機能を発揮できる陣形を取る事ができるようになったのだ。

現在編成している部隊陣形は以下のようになっている。

ポジション
ベル1 御剣 臨時大尉 後衛→後衛兼中衛 (砲撃支援装備)
ベル2 武田 中尉    後衛兼中衛→中衛 (支援偵察装備)
ベル3 佐々木 中尉  前衛         (突撃前衛装備)
ベル4→5        前衛         (強襲前衛装備→突撃前衛装備)
ベル5→7        前衛         (強襲前衛装備)
ベル6→8        前衛兼中衛→前衛 (強襲掃討装備→強襲前衛装備)

新加入
ベル4         中衛       (迎撃後衛装備)
ベル6         後衛       (強行偵察装備→打撃支援装備)
ベル9         中衛       (強襲掃討装備)
ベル10        後衛       (制圧支援装備→打撃支援装備)
マザー・ベル 中里 優希 少尉 CP

装備内容
突撃前衛 装備 87式突撃砲×1, 74式近接戦闘長刀×2, 65式近接戦闘短刀×2, 92式多目的追加装甲×1
強襲前衛 装備 87式突撃砲×2, 74式近接戦闘長刀×2, 65式近接戦闘短刀×2
強襲掃討 装備 Mk-57中隊支援砲(57mm砲弾)×1, 87式突撃砲×2, 65式近接戦闘短刀×2
迎撃後衛 装備 87式突撃砲×1,74式近接戦闘長刀×1, 65式近接戦闘短刀×2, 92式多目的追加装甲×1
砲撃支援 装備 87式突撃砲×1, Mk-57中隊支援砲(90mm砲弾)×1, 74式近接戦闘長刀×1, 65式近接戦闘短刀×2
打撃支援 装備 Mk-57中隊支援砲(90mm砲弾)×1, 87式突撃砲×2, 65式近接戦闘短刀×2
支援偵察 装備 Mk-57中隊支援砲(57mm砲弾)×1, レドーム×2, 情報処理用大型バックパック, 65式近接戦闘短刀×2

部隊陣形
         前
   ベル5→■ ▲←ベル3(佐々木 中尉)
 ベル8→■     ▲←ベル7

  ベル9→△ 
ベル4→△   ●  ●←ベル1(御剣 臨時大尉)
         ↑ベル2(武田 中尉), マザー・ベル(中里 少尉)
   ベル10→□  □←ベル6
          後



数ヶ月間行われていたMk-57中隊支援砲の運用試験だが、最終選考まで残されたのは57mmと90mm砲弾を使用するタイプであった。

57mm砲弾を使用するMk-57中隊支援砲は、中衛が装備することを考えた時取り回しに難があるとされたが、
前衛が空けた穴を拡大するために必要な面制圧能力を十分に発揮した。

そして、90mm砲弾を使用するMk-57中隊支援砲は、57mm砲弾仕様より重たくなったが単発でもBETAの動きを止めることのできる威力(ストッピングパワー)が、
後衛から援護を行うときに有効な兵装であるとされた。

これらのMk-57中隊支援砲は、他の試験中隊での運用データとも比較検討され、後に銃身がやや切り詰められた57mm砲弾仕様が98式支援砲,
90mm砲弾仕様が98式中隊支援砲として帝国軍に制式採用される事になる。

この98式支援砲と98式中隊支援砲は、帝国軍では主に後衛の兵装として運用されることになって行く。

それに対して現在のロンド・ベル隊では、取り回しがしやすいように現地改修で2/3ほどに銃身が切り詰められ、狙撃を行う際に用いられる
二脚(バイポッド)が外された57mm砲弾仕様を中衛の装備とし、通常の90mm砲弾仕様を後衛の装備として運用していた。

これは機動力を重視する俺の部隊運用により、制圧支援装備で使われる92式多目的自律誘導弾システムを有する機体が存在しないため、
打撃力を補う事を目的とした苦肉の策だったのだが、この装備と隊員たちの相性は良かったようで、思った以上の戦果を挙げることになった。




3月初頭、光州作戦の発動にあわせて大隊規模の戦術機試験部隊が、ロンド・ベル隊と戦闘を共にする事になった。

その部隊の正式名称は第03独立戦術機甲試験大隊と言い、撃震・改修型36機により構成され、正式に組織されてから僅か3ヶ月という部隊だった。

プロミネンス計画に参加していた撃震・改修型は、半年に及ぶユーコン基地周辺での試験運用を終え、
大隊規模での実戦運用が行える段階まできていたのだ。

そして今回は、撃震・改修型の製造元である御剣重工の要請で、第03独立戦術機甲試験大隊はロンド・ベル隊の要請を最大限受け入れる形で
運用されることになっていた。

これは、事実上第03独立戦術機甲試験大隊がロンド・ベル隊の指揮下に入ることを意味していた。

通常はこの様な事を行うことは無いのだが、撃震・改修型が今まで帝国軍で運用したことが無いタイプの戦術機である事と、
俺が撃震・改修型の初期段階から関わり、運用方法を煮詰めていた事が表向きの理由とされた。

実際のところは、俺が手持ちの戦力を増やすことで、光州作戦の悲劇として原作で書かれていた出来事を、
未然に防ぐことができるのではないかと考えた事が一番の原因だった。

俺がここで想定していた光州作戦の悲劇とは、光州作戦に参加していた彩峰中将率いる帝国軍が、
脱出を拒む現地住民の避難救助を優先する大東亜連合軍の支援のために所定の位置から動いた事で、
結果的にその隙をBETAに突かれる事になり、指揮系統が混乱した国連軍が多くの損害を被る事になるという内容の事件である。

その後、国連軍の指揮下にあるはずの帝国軍が勝手に動いたことが悲劇の原因であるとされ、
国連からの抗議に対し日本帝国政府は彩峰中将の処罰を行う事になった。

その処罰がどのようなものであったのかは詳しく分からないが、結果として彩峰中将は歴史の表舞台から去ることになる。

そして、彩峰中将は帝国軍の中でも人気・実力共にある人物だっただけに、この処罰に反発する者も多く、
それが国連軍への不信と後の軍事クーデターへ発展することになって行くのだ。

この事件について、彩峰中将へ伝え説得する術を持たず、現地住民の避難救助に失敗した場合のマイナス要素を補う方法を思いつかなかった俺は、
一時的に戦力を増強し不測の事態に対応するという、強引な事に手を出すことしかできなかったのだ。

俺は強引なことをした事への謝罪と今後の打ち合わせのために、大隊の指揮車輌に顔を出すことになった。


「初めまして、帝国軍技術廠所属 第13独立戦術機甲試験中隊 中隊長の御剣 信綱 臨時大尉であります。」


「同じく、第13独立戦術機甲試験中隊の武田 香具夜 中尉です。」


「私が、帝国軍技術廠 第03独立戦術機甲試験大隊 大隊長の秋山 好孝 少佐だ。
 そして、私の後ろにいるのが・・・。」


「副隊長の栗林 忠典 大尉です。よろしくおねがいします。」


俺たちの敬礼に対して、秋山 少佐は柔和な笑みを浮かべて答礼を行い、簡単な自己紹介を始めた。

この秋山 少佐は、大陸で帝国軍の戦車部隊を率いて幾度となく戦闘に参加し、少なくない戦果を上げている人物で、
その地形を生かした巧みな待ち伏せとBETAの動きを読んでいるかのような退却は、芸術的とさえ表現される優れた指揮官である。

特に有名なのが、ある戦闘において待ち伏せに適した地形が無いことを覚った秋山 少佐(当時大尉)は、工兵部隊に依頼し人工的に土塁を造り、
その場所でエンジンを切り伏せいていた戦車中隊が、通過して行く突撃級の群れに対して背後から強襲し、多大な戦果を上げたという戦いだ。

この戦果は、戦車部隊が受ける被害が甚大だった欧州を中心に、東洋の奇跡とも言われ多くの戦車兵を勇気付けることになった。

御剣重工は、そんな秋山 少佐の能力と戦術機の適正試験で僅かな差で落ちたという経歴に目に付け、帝国軍との交渉により
帝国軍の戦車部隊から引き抜き、撃震・改修型の国内での試験運用と部隊訓練を指揮させることにしたのだ。

俺たちは、互いの部隊の状況を再度確認した後、最も重要な指揮権の問題へと話を移していった。


「強引な要請により、我が隊の事実上の指揮下に入る事になった件・・・、
 ご不快とは思いますがご容赦下さい。
 また、階級が下の私からは要請という事になりますが、
 実際は命令として受け取り行動していただきます。」


「兵の命を預かる者として、いくら企業側からの要望を受け入れるようにと命令を受けていたとしても、
 受け入れられないこともあるが・・・。」


話が指揮権の問題へと移ると、秋山 少佐は静に俺を見つめてきた。

この表情からは感情を読み取る事が出来なかったが、場を支配する空気からは秋山 少佐が相当怒っている事が感じられ、
いざと言う時は要請を無視すると語っているようでもあった。


「最も、撃震・改修型は戦術機といっても戦車に近い部分が多いので、
 細かな運用は秋山 少佐にお任せします。」


「・・・聞いていた事と話が違うな。
 企業側から撃震・改修型の実戦運用は、貴官と相談して行うようにと言われたが?」


俺が部隊運用を任すという提案に、秋山 少佐は警戒を緩めることなく質問を返してきた。


「・・・秋山 少佐、戦術機とはどの様な兵科だと考えていますか?」


その問に対して、俺は更なる問を投げ掛けることにした。

俺の問に考えるそぶりを見せる秋山 少佐に対して、横に座っている栗林 大尉は『関係の無い話で誤魔化すのか?』と、睨みつけてきた。

ただ、二人ともこちらの質問の真意を掴みかね、戸惑っている雰囲気は感じることができた。


「私は過去の歴史を見るに、騎兵が最も戦術機に似ている兵科ではないかと考えているのです。」


俺は戦術機が持つ高い機動性と火力、それに対してBETAの攻撃を防ぐにはあまりにも薄い装甲の事を考え、今の結論に至ったのだ。

特に、光線級に支配されている戦域で長距離跳躍が禁じられた戦術機は、その色合いがより一層濃くなる。


「日本騎兵の父と呼ばれた故 秋山 好古 陸軍大将は、騎兵の特徴である高い攻撃力と皆無に等しい防御力を説明するために、
 素手で窓ガラスを粉砕し血まみれの拳を見せ『騎兵とはこれだ』と語ったと聞きます。」


「つまり、貴官は何が言いたいのだ?」


「私が第03独立戦術機甲試験大隊に望むのは、機動力を生かして不知火に追従する支援部隊としての役割と、
 塹壕や山影に隠れながらの防衛戦であり、決して最前線で戦って貰う事を考えている訳ではないという事です。

 近接格闘戦を行うには、撃震・改修型の性能と装備では力不足ですから・・・。」


一概に騎兵とっても、その中で様々なバリエーションがある。

第2・3三世代機は、その戦い方が竜騎兵(小銃等の火器を主兵装とし、機動力が重視されたため装甲がヘルメットのみまで簡略化されていた騎兵。
小銃の他にはサーベルやピストルも携帯した。)に似ており、第1世代は作られた目的と廃れていった経緯が、胸甲騎兵(胴体に鎧を装備し、
敵陣へ突撃するすることを主な任務にする騎兵。)に似ていた。

そして、撃震・改修型は運用思想が騎砲兵(馬で砲を牽引し、兵士はその馬に跨って移動を行う砲兵で、騎兵に準ずる移動速度の獲得を目指して
編成された砲兵部隊)や、牽架機関銃と工兵部隊が配備されていた騎兵集団に近いと考えていたのだ。

俺は、これらの事を丁寧に秋山 少佐に説明する事になった。


「・・・貴官の考えはよく分かった。
 秋山 の名を出してのご機嫌取りかと思ったが、貴官の考えは私の考えに近いものがあるようだ。
 全てを鵜呑みにする訳にはいかないが、貴官の要請は最大限受け入れるようにしよう。」


「ありがとうございます。」


「正直に言うと、支援砲撃を行うのが精一杯で、接近された後に戦闘ができるほど錬度が高くないのだ。
 何しろ、衛士の殆どが戦車兵から転向した者達で構成されているからな・・・。

 だが、あまりこの事を語るべきではない。
 帝国軍の戦術とは考え方が違いすぎる。」


確かにこの考え方は、近接格闘戦を重要視する帝国の戦術とは真逆の考え方だった。

むしろ考え方としては、射撃戦を重視する米国に近い考え方であり、軍部で未だに残っている国粋主義者達の事を考えると、
あまり声高に言える内容ではなかった。


「しかし、帝国軍も一度は採用した戦い方です。
 恒常的に斬り込み戦術を使用するには、戦術機は人間と同様であまりにも脆い。」


しかし、俺はそう言った危険性よりも、正確に自分の考え方を伝えることを優先したのだ。

最も事前の調査で、それほど嫌悪感を抱くことは無いと予想はしていたが・・・。

また、戦術機に無敵の巨人としての役割を担わせるのには無理があるとは考えているが、近接格闘を完全に排除しようと考えている訳ではない。

その理由は、BETAの拠点であるハイヴ攻略では、近接格闘を重視する必要があるという事実から眼をそらす事ができないからだ。

俺は話の最後に、防衛時の戦術とハイヴ攻略時の戦術が、まったく異なる方法になると想定していることを伝え、今回の会談を終えたのだった。










ついに、光州作戦が発動になり、約一ヶ月にもわたる朝鮮半島撤退作戦が開始した。

光州作戦の初期段階で行われたBETAとの小競り合いにおいて、ロンド・ベル隊と第03独立戦術機甲試験大隊は、
初めてとは思えない整然とした連携を見せ、それにより互いの部隊に信頼関係が生まれる事になる。

そして、直接的な戦闘員以外がほぼ撤退し、いよいよ主力部隊の撤退が開始されようとした日、突如として大規模なBETAの侵攻を受けることになった。

ただし、このBETAの侵攻はあらかじめ予想されていた範囲に収まっており、このまま推移すれば問題ないと思われていた。


「帝国軍が動き出しました。」


そこに、突然帝国軍が移動を開始したという連絡が飛び込んできた。


「帝国軍の指揮官は、彩峰 萩閣 陸軍中将か・・・。」


「ベル2(武田 中尉)よりベル1(御剣 臨時大尉)へ、
 どうしたのじゃ、難しい顔をして・・・。」


「この状況で、どう動こうか考えていた。」


「どうするのじゃ?
 このまま此処に居ても、BETAとの戦闘はなさそうじゃが・・・。
 いっその事、帝国軍に同調するというのも手じゃぞ。」


確かに、帝国軍が移動を開始した後の戦域マップを見ても、俺たちがいる地域にBETAが侵攻してくる兆候はない。

今まで帝国軍が展開していた地域は、国連軍主力部隊も展開している上に、BETAの予想侵攻ルートからも外れている状況であり、
防衛に関して問題は無いようには見えた。

しかし、帝国軍が抜けた事と国連軍主力も他の方面へ援軍を送った事で、この地域の防御が薄くなっており、
BETAの理不尽なまでの物量と光州作戦の悲劇の事を考えると、油断できない状況だった。

しかも、この地域が抜かれれば一直線に国連軍司令部が強襲されるという、おまけも付いているのだ。


「いや、この場所で待機する。
 この程度なら、独立部隊の裁量権でどうにかなる範囲だ。

 ベル1(御剣 臨時大尉)よりマザー・ベル(中里 少尉)へ、
 秋山 少佐にもその場で待機するよう要請してくれ。」


「マザー・ベル(中里 少尉)了解いたしました。
 秋山 少佐に、その場で待機するよう要請します。」


俺が待機を命令してから20分後、俺は背筋に悪寒を感じることになった。


「来た・・・、BETAの地下進行だ。」


「確かに微弱な振動を感知していますが、砲撃による振動の可能性が高いと思われます。」


俺の発言に対して、中里 少尉が慌てて反論してきた。

しかし、俺が感じているのは振動ではなく、BETAの気配なのでどうしても口に出して説明できる類のものではなかった。

俺がどう説明したものかと考えていると、佐々木 中尉から微妙なフォローが入ってきた。


「中里・・・、うちの隊長は変態だと教えただろ?
 以前もBETAの地下進行を言い当てたことがある。
 それに関しては、偵察装備のセンサーよりも正確だ。」


「そんな非科学的な事、信用できません!」


この佐々木 中尉と中里 少尉のやり取りの数秒後、偵察装備のセンサーが僅かな違和感を捉えることになった。


「マザー・ベル(中里 少尉)よりベル1(御剣 臨時大尉)へ、
 微弱ですので、BETAの地下進行とは断定できませんが、
 砲弾の爆発振動以外の振動を確認しました・・・。」


「分かった。
 中里 少尉・・・、そのデータと共にBETAの地下進行の可能性がある事を、
 国連軍及び帝国軍に報告しろ。」


「・・・了解しました。国連軍及び帝国軍へ情報を転送します。
 ・
 ・
 ・
 情報を転送しましたが、どちらも回答を保留しています。」


素直に反応してくれるとは思っていなかったが、完全に無視されたようだった。

確定的な情報で無いと動かないというこの対応を、もどかしく思いつつも冷静に対処している事に関しては安心できると感じるのだった。


「そういえば、帝国軍には予備兵力として、斯衛軍の部隊が参加していたな。
 一応、地下進行の可能性がある事を伝えておいてくれ。
 動いてくれるとは思わんが、実際に現れた時に少しでも早く対応してもらえれば儲けものだ。」


国連軍と帝国軍へ振動情報を送ってから数分が経過したが、震源はゆっくりと地表に近づいており、
BETAの地下進行である確立は時間と共に高まってきていた。

そして、第03独立戦術機甲試験大隊とも連絡を取り合っていたロンド・ベル隊は、既に万全の態勢を整えBETAを待ち構えていたのだ。


「もう一度聞く、最新のデータを送った後の国連軍及び帝国軍の回答はどうなった?」


「相変わらず、保留しています。」


「やむなしか・・・。
 全回線(オープンチャンネル)を最大出力にして、全軍に通達する。」


振動データから算出したBETAの地下進行の確率は、良くて五分五分と言ったところだったが、俺はここで大きな賭けに出ることにした。


「それは越権行為です。」


「命令を出す訳ではない、ただの警告だ。
 これこそ、ロンド・ベルの名にふさわしい行いだと思うが?」


俺はそう言って、中里少尉に対して意地悪い笑みを浮かべた後、呼びかけを止めようとする部下の声を無視して、
全回線(オープンチャンネル)での呼びかけを開始した。


「全軍に通達する、私は帝国軍 第13独立戦術機甲試験中隊の御剣 臨時大尉だ、
 現在我が部隊は国連軍司令部より北へ10000の地点で展開中、
 そこでBETAの地中進行の振動を感知。
 繰り返す、国連軍司令部より北へ10000の地点でBETAの地中進行の振動を感知。」


「誰かこの通信を止めろ」


どこからか俺の呼びかけに対し、悲鳴にも似た怒声が聞こえてきた。

しかし、俺はその声を無視して、警告を続けていった。


「震源の上昇を確認、3・2・1・・・0。
 30秒後、我らロンド・ベルは帝国軍 第03試験大隊と協力しBETAとの戦闘に入る・・・。
 以上、通信終わり。」


俺が通信を終えた直後、各国軍でも振動がBETAの地下進行であることに気が付いた様で、急に通信が活発になった。

そして、慌しく部隊が展開していく事になったが、地下から出現するBETAに対応するには、残された時間はあまりにも短かったのだ。


「ロンド・ベル隊の皆、休憩はこれで終わりだ。
 ここで全軍の体勢が整うまで、第03試験大隊と協力して遅滞戦闘を行う。
 見渡す限り、敵だらけになるだろうが・・・、やることは普段と変わらない。
 俺が後退を指示するまで、好きに動け。」


そして、俺の予告した時間通り、光の柱が地面を突き破り聳え立った。

その数は数十本に達し、光線級のレーザーにより空いた穴からは、無数のBETAが出現することになった。

観測されたBETAは師団規模以上、つまり10000体以上のBETAに対して、僅か46機の戦術機部隊が戦いを挑むことになったのだ。




BETAの出現直後から開始された、第03独立戦術機甲試験大隊の撃震・改修型 支援仕様のOTT62口径76㎜単装砲によるAL(アンチレーザー)弾の砲撃は、
光線級に迎撃されたことで局所的ではあったが、重金属雲を形成する事に成功していた。

重金属雲の形成を確認した後、複数の撃震・改修型が超低空の遠距離射撃を光線級がいる区画に叩き込んでいった。

撃震・改修型から放たれた砲弾は、途中で要撃級などに当たる弾もあったが、半数以上の弾が光線級のいる区画に到達し、見事光線級を撃破していった。

この撃震・改修型による光線級の撃破方法は、対人戦のスナイパー対策を思い浮かべさせる戦い方だった。

そして、撃震・改修型の砲撃と入れ替わる形で、ロンド・ベル隊の不知火は空中へ跳び上がり、後衛がAL弾へ対応している光線級に対して、
Mk-57中隊支援砲による狙撃を行い、前衛と中衛が着地する地点にいるBETAを殲滅していった。

しかし、この戦い方も要塞級が光線級の盾になる行動を取り出すと、上手く機能しなくなった。

そこで、第03独立戦術機甲試験大隊は、撃震・改修型の砲撃を光線級が迎撃しやすい高度に設定し、再びAL弾の砲撃を開始した。

撃震・改修型の支援砲撃の間に、要塞級へ接近する事に成功したロンド・ベル隊は、要塞級を無視して要塞級の足元にいる光線級に対し、
全力射撃を行っていった。

この部隊連携により、はじめ100体以上確認されていた光線級は、最初の重金属雲の発生から僅か5分ほどの間に、
十数体へとその数を減らすことになった。

だが、殆どトリガーを引きっぱなしで戦っていたロンド・ベル隊の不知火は、保有する残弾が20%を切るという事態に陥ってしまっていた。

そこで、弾薬を補給するために一旦、後ろに下がる事にしたのだった。




第03独立戦術機甲試験大隊は、ロンド・ベル隊が後方に下がることで本格的な移動を開始したBETA群に対して、
正面から扇型の陣で受け止めることになった。

この状況に対応するため秋山 少佐は、事前に92式多目的追加装甲とスコップ代わりにして塹壕を掘り、92式多目的追加装甲を前面に並べることで、
撃震・改修型が外に露出する部分を頭部と砲のみとなる状況を作り出していた。

そして、ロンド・ベル隊は第03独立戦術機甲試験大隊が作り上げた防御陣を噴射跳躍で飛び越え、
防御陣の中に置かれていたコンテナから弾薬の補給を開始した。

それに対し、BETA群は防御陣のことなどお構いなしに距離を詰めて来る。

しかし、距離1000からガトリング砲による砲撃が始まると、2個連隊の戦車部隊に匹敵するといわれる火力が、
狭い防御陣に集まる事でもたらされた高い面制圧力により、BETAは防御陣の手前で足止めされる事になった。

ガトリング砲から、毎分3,900発という圧倒的速度で発射される36mm機関砲弾は、例え突撃級の正面装甲でも防ぎきることは不可能だったのだ。

撃震・改修型が予備弾倉を使い切るまでガトリング砲を撃ち、ロンド・ベル隊が補給を終えた頃には、
防御陣の前にはBETAによる肉の壁が出来上がっていた。

残弾が無くなった第03独立戦術機甲試験大隊は、一気に3kmほど下がった第二防御陣で弾薬の補給を行うため、後退を開始した。

そして、ロンド・ベル隊は第03独立戦術機甲試験大隊が補給を終え、支援砲撃が開始されるまでの間、時間を稼ぐための遅滞戦闘を行うことになった。

戦闘を開始から今までの20分ほどの間に、5000体近くのBETAを撃破していたが、BETA群は一向にその数を減らす気配が無かった。

遅滞戦闘を行っていたロンド・ベル隊だったが、絶え間なく現れるBETA群によって、次第に戦域を後退させることになる。

補給を終えた撃震・改修型からも支援砲撃が行われているが、焼け石に水の状態だったのだ。


「このままじゃジリ貧だ、援軍は来ないのか?」


「国連軍は、既に他の地域で戦闘を開始しており、援軍を抽出するのに手間取っています。
 帝国軍も現在位置から離れているため、早期の援軍は難しいと思われます。」


国連軍からの遠距離支援砲撃も行われているが、砲撃は散発的なもので本格的な支援とは程遠いものだった。

その結果、ロンドベル隊はBETA群の外周部を削っていくだけになり、第03独立戦術機甲試験大隊が立てこもる第二防御陣も
BETAの進行方向からずれていたため、BETA群を拘束することが難しくなっていった。

そして、BETA群の半数がこちらを無視して、国連軍部隊へ向かい出したその時、待ちに待った一報が入る事になった。


「驚異的な速度で、接近する戦術機部隊があります。
 これは・・・、斯衛軍の第16大隊です。
 隊長、友軍が駆けつけてくれました。」


俺が向けた視線の先では、様々な色をした36機の不知火・壱型丙が青色の機体を先頭にして、BETA群に襲い掛かろうとしていたのだ。


「どうやら間に合ったようだな。
 私は、斯衛軍の斑鳩 少佐だ。
 これより、第16斯衛大隊は貴官らを支援する。」


「どうしたのだ、御剣 大尉。
 もう疲れたのか?」


「ここは、我々に任せて休んでいても良いのだぞ。」


斑鳩 少佐の頼もしい声に続いて、第16斯衛大隊に所属している真耶マヤ真那マナが俺に対して軽口を叩いてきた。


「鳴り始めた鐘は、戦いが終わるまで止まることは無い。
 そっちこそ、俺たちの戦いについてこれるかな?」


俺は、それに対して照れ隠しに気障な台詞で反すことにしたのだった。


「・・・三人とも積もる話があるのだろうが、この戦いが終わってから存分に話すがよい。
 これより、我らは鶴翼複五陣でBETA群を押し留める。」


「は! ホーンド2より、第16斯衛大隊各機に告ぐ。
 鶴翼複五陣で戦闘を開始せよ。」


「うむ・・・、では参るぞ。皆の者続けぃ!!」


これを合図として、本格的な戦闘を開始した第16斯衛大隊を見た俺は、再度自分の部隊に気合を入れる事にした。


「ベル1より、ロンド・ベル各機に告ぐ。
 斯衛軍に遠慮することは無い、俺たちで全て平らげてやるぞ。」


師団規模のBETA群を30分にもわたり、不知火一個中隊・鞍馬一個大隊で拘束することに成功した俺たちは、斯衛軍大隊と協力して更に30分間、
BETA群の半数を釘付けすることに成功したのだった。










結局この戦いは光州作戦最大の激戦となり、地下進行により出現したBETA群が拘束されている間に、態勢を整えた帝国軍及び国連軍によって、
BETA群が殲滅されたため、国連軍司令部が戦闘に巻き込まれる事態は避けられた。

この戦闘により、予定より被害を受けることにはなったが、民間人及び軍人の退却に必要な時間を稼ぐことに成功したのだ。

光州作戦は、戦艦による砲撃が行われる中、最後に残った戦術機部隊が跳躍噴射によって戦術機揚陸艦に乗り込んだ時点で終了となった。

帝国本土に帰還したロンド・ベル隊と第03独立戦術機甲試験大隊は、光州作戦での功績もあったが戦意高揚のプロパガンダとして、
大きく取り上げられ世界各国にその名を轟かすことになる。

そして、ロンド・ベル隊の部隊長を務めていた俺は、勲章を授与されることになり、帝都城で行われる式典に参加することになった。

しかし、光州作戦の余波はその程度で収まる筈もなかった。

国連軍の指揮下にあるはずの帝国軍が、勝手に動いたことが光州作戦で被害を受けることになったと、国連が主張し始めたのだ。

そしてこの問題は、

『もし厳罰が下されないのなら、彩峰中将の国際軍事法廷への引き渡しを要求することも有る。』

という声明を、国連が発表する所まで発展していくのだった。


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コメント

皆様、いつもご感想ありがとうございます。
また、先週は更新を休んでしまい、申し訳ありませんでした。

今回は、戦闘シーンのほかにも様々な戦術や戦術機に対する考察を交えた話となりました。
特に戦術機が騎兵に近いと思ったのは、私のにわか軍事知識と稚拙な考えの所為なのかもしれません。
この事について、どう思ったか簡単でいいので感想板に書いていただけたら幸いに思います。

また、光州作戦の経緯に関しては、ただBETAが迫ってくる状況で、軍を動かす理由が考え付かなかったため、
今回の様に軍を動かした後に、不意打ちでBETAが出現したという事にしました。
この方が、彩峰中将が無能ではなく、誰も予想できなかったBETAの動きにより受けた被害の責任を取らされた事になり、
彩峰中将を尊敬する将校が多く残っていた理由になると思いました。

しかし、思いっきり活躍させたはずのロンド・ベル隊ですが、原作ヴァルキリーズの佐渡島での半分以下の
活躍しかしていない事にびっくり・・・。
改めて、原作キャラたちの凄さを痛感し、チートのレベルが足りないかもしれないと心配になってきてしまいました。


返信

ゾイドにでてくるコマンドウルフさんを採用するのはどうか、というご意見がありました。
ゾイドはあまり知らないのですが、ガンダムSEEDにでてくるバクゥに似たものだと考えていいのでしょうか?

コマンドウルフさんの機体設定は、撃震・改修型の所為で需要が低下すると考えているため、
主力兵器として登場させる予定はありません。
ただし、現在アメリカ軍が研究している、犬型のロボット(気になった方は個人的にお調べ下さい。)的な
使い方なら出す可能性があると考えています。
どうなるかは流動的なため、あまり期待しないでお待ち下さい。

また、撃震・改修型の変形や戦車・自走砲の改良、センサー類の散布など様々なご提案が寄せられています。
これら全ての提案を『御剣財閥脅威のメカニズム』で解決するわけには行きませんので、説得力のある設定が思いつき次第、
使えそうな場面があれば登場させたいと考えています。
登場する確率は、今のところ五分五分ですが、登場するその時までまったりとお待ち下さい。




[16427] 第17話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/07/10 09:28



光州作戦で彩峰 中将が犯した罪、それは国連軍の指揮下にあるはずの帝国軍を、国連軍の承認を得ずに動かしたことにある。

その結果、帝国軍が空けた地区にBETA群が現れた時、対応が遅れ国連軍が余計な被害を被ったと国連軍は主張したのだ。

確かに、地下進行してきたBETA群の一部が国連軍の陣地まで到達し、被害をもたらした事は事実であり、帝国軍がその場に待機していれば、
完全に防ぐことができた可能性は否定できない。

しかし、帝国軍が移動を開始した後、国連軍は自らの戦力を他の戦域に振り向けていたのだ。

このことからも、この段階でBETAの地下進行を予測している者はおらず、国連軍がこの地域の重要性を軽視していたことが伺えるのである。

また、BETA群の一部を拘束できなかったとはいえ、BETAの地下進行に始めに気が付いたのが帝国軍所属の部隊であり、
最初に援軍に駆けつけたのが帝国軍の予備兵力として作戦に参加していた、斯衛軍であることは消し去ることが出来ない事実である。

この時の国連軍は、司令部を後退させる事で混乱した為か、他の戦域から予備兵力を抽出する事に手間取り、
まとまった戦力をこの戦域に送ることが出来たのが、より遠くに展開していた帝国軍より、後になるという失態を犯している。

ここで注目すべきは、大東亜連合軍と協同で民間人の避難を援護しつつも、予備兵力を抽出する事に成功し、
斯衛軍に次いで援軍の送ることが出来た帝国軍の動きの早さだ。

この事からも、彩峰 中将もしくはその周辺の幕僚が無能ではなかったと証明しているのである。

したがって、本来帝国軍が被る筈の被害を国連軍が被っただけで、帝国軍がどちらの選択を選んだとしても、光州作戦に参加した
部隊全体の被害は変わらないというのが、光州作戦に関係していない国の軍関係者が持つ認識であった。

これらの事を考えると、情状酌量の余地があると思われていたが、国連軍から通達された内容は、

『もし厳罰が下されないのなら、彩峰中将の国際軍事法廷への引き渡しを要求することも有る。』

というものだった。

この通達は、この戦闘で被害を受けた米国が国内の非難をそらす為に行った、パフォーマンスに過ぎないという意見もあったが、
無視出来るほど簡単なものでも無かった。

また、光州作戦に参加していた帝国軍の部隊や大東亜連合軍から助命を嘆願する動きも出始めていた事も、事態を複雑にしていく事になる。

日本帝国政府は、表向きにはうやむやな対応を取りつつも、裏では政治家が活発に動き出したことで、
一部の関係者は大きな危惧を持つ事になるのだった。













光州作戦後、国内に帰還した帝国軍の部隊は、多くの歓声を受けると共に悲しみの声で迎えられる事になった。

対BETA戦が始まってか数十回目になる、合同での葬儀を終えた帝国軍は、戦力を回復することに注力していくことになる。

それに対し俺たちロンド・ベル隊は、光州作戦での活躍を国民から賞賛される事になったが、国際的には全回線(オープンチャンネル)での警告が問題にされ、
部隊長であり実際に警告を行った俺が、処罰を受けることになった。

この時俺が最も恐れていたのは、ロンド・ベル隊と引き離されるということだったが、実際に下された処罰は臨時大尉の階級を剥奪し、
中尉へ降格するという内容だった。

臨時大尉という階級は戦地での臨時職のため、戦地から本土に戻れば取り消される可能性が高かった階級なので、
心配していたほど厳しい処罰ではなかったのだ。

また、勲章を授与すると言う話も取り消される事がなかったことからも、この処罰が形だけのものだと言うことが伝わってきた。

そして、俺は勲章を受け取るために横浜に向かう隊員とは別れ、副隊長の武田 中尉を連れて帝都(京都)に向かうことになった。

この時の俺は、帝都(京都)に行くことをそれほど深く考えていなかったが、勲章を受け取るために帝都(京都)に向かうという事は、
大変珍しいことだった。

なぜなら大戦が行われている最中は、数多くの将兵に勲章が授与されることになるため、通常は基地司令などを通して渡されることが多いのだ。

俺は、実際に授与式に参加する段階になって、驚かされることになる。

なぜなら、政威大将軍自ら勲章が渡される事になっていると説明されたからだ。

しかも、勲章の授与式はテレビ中継が入り、国の要人が列席するほど大規模なものになると言うのだ。

もちろん、今回勲章を受け取る事になったのは俺だけではなく、数人の人物が招待されていた。

しかし、いずれも佐官以上の階級を持つ者で、尉官で招待されたのは俺だけだったのだ。

俺は、こんな面倒な事を企画した人物を軽く恨みながらも、政威大将軍から直接勲章を授与されることになった意味を考えさせられる事になる。

真っ先に思い浮かんだのは、政府がプロパガンダに使いたいという思惑を働かせているのではないかという事で、
次に疑ったのが御剣家の機嫌を取りたい政治家が、裏から手を回したのではという事だった。

御剣家の長男という武家出身の青年が、最前線で戦って活躍したというストーリーは、美化させやすい話になると思えたし、
献金の事や帝国議会で強い発言力を持ち出した祖父の事を考えると、どちらにせよ有り得ない話ではなかったのだ。

しかし、この考えは勲章を授与される場面になって、杞憂であった事が分かっていくのだった。





「帝国軍 技術廠 第13独立機甲試験中隊 中隊長 御剣 信綱 中尉、
 右の者が武勲抜群の成果を示したことを認め、ここに功四級金鵄勲章を授与するものとする。」


「はっ、ありがたき幸せにございます。」


俺は緊張に包まれながらも、事前に確認した動きに合わせて勲章を受け取る事に成功した。

ほっと一息つこうとした俺だったが、勲章を受け取った直後将軍から声をかけられることになった。


「最前線で戦っていたそなたの活躍は、私の耳にも届いています。
 その功績に報いるために、私に何かできることは無いだろうか?」


俺は、驚きのあまり一瞬思考が停止してしまっていた。

今代の政威大将軍である斉御司 (さいおんじ)家当主は、国民から慕われるおっとりとした性格の翁であるが、その性格と高齢というのもあり、
戦時下の将軍としてはいささか頼りないと言う意見も出ている人物である。

悪く言えば、政治家や役人の言いなりになっている様にも見える将軍から、労いの言葉としてこの様な内容の言葉を
かけてもらえるとは思ってもいなかったのだ。

しかし、この将軍について後で聞いた所、公家の血が濃い斉御司家の出身にも関らず、若い時には斯衛軍に所属し
戦闘に参加していたという経歴を持つ等、一部の関係者には強い意志を持った人物として知られていたのだ。


「・・・殿下から、そのようなお言葉をかけて頂けただけで、ありがたき事と思います。
 しかし、もし許されるのなら、一つだけお願いしたい事がございます。」


俺は直ぐに意識を切り替え、自らの意思を伝えることにした。

この俺の行動に対し、近くにいた政治家が一瞬不快そうな顔をしたが、城内省長官の視線を見た彼は直ぐに笑みを浮かべることになった。

その様子を横目で確認していた俺の動きを感じ取った将軍は、再び俺に声をかけたのだった。


「よい、ここにそなたを呼んだのも、
 こうして話をするのも、私がそうしたいと言ったからだ。」


「・・・それでは、お言葉に甘えさせていただきます。
 私が望むことは、光州作戦に参加されていた彩峰 中将の件についてです。

 彩峰 中将は、光州作戦において国連に無断で帝国軍を動かすという罪を犯し、
 国連より厳罰に処すよう要請が来た事を受けて、現在謹慎されています。
 無断で軍を動かす事は厳罰に値する事ではありますが、帝国軍の働きにより
 多くの民間人を救うことが出来た事も事実です。

 この件は、軍の命令と民間人を守るという軍の使命を秤にかける事になった重大な事件です。
 それなのに、国民の間ではあまり話題にされておらず、国内に残っていた軍関係者は揃って口を閉ざしています。
 この事から、私はこの件を闇に葬り去ろうという意思が働いているのではないかと、邪推してしまうのです。」

 私は彩峰 中将の処罰を軽くする事を望んでいる訳では有りません。
 ただ、公正な処罰を行いそれが正確に国民へ伝わる事を切に願っているのです。」


「・・・私は、政府には国民に真実を伝える義務があると思っています。
 私が言えることは、これだけです。
 これで、そなたの思いに応えることが出来たかはわかりませんが・・・。」


「ありがとうございます、殿下。
 そのお言葉が聴けただけで、私は嬉しく思います。」


先の大戦以後、政治に直接関ることが出来なくなった将軍だったが、未だに国民に与える影響は計り知れないものがあった。

その将軍が、テレビ中継される公の場で間接的ではあるが、政府に対し光州作戦の真実を偽ることが無いようにとコメントしたのだ。

これにより、今後政府が光州作戦の事を偽るようなことがあれば、光州作戦に参加していた軍関係者から不満が出ることは確実で、
国民からも何らかのアクションが起こることが予想できる状況が作られる事になった。

将軍のコメント一つで、政府は事実をうやむやにすると言う選択を取る事が難しくなったのだ。

その結果として彩峰 中将の処罰は、公開での軍事裁判により決定されるという運びになって行く。

この対応は、国連への配慮だと政府高官からは説明されていたが、将軍の発言がこの対応をさせたと国民は認識する事になる。

そして、クーデターが発生する事を未然に防ぐために、彩峰 中将が原作のように闇に葬られるという処分のされ方を避けたかった俺は、
公開軍事裁判の決定により裏工作を行う必要が無くなった事を受け、漸く胸をなでおろす事が出来たのだった。





将軍と俺との会話の後、勲章の授与式は恙無く進行し、舞台は晩餐会へと移って行くことになった。

晩餐会へ参加させられることになった俺は、久しぶりの天然食材による料理に舌鼓を打ちつつも、多くの名士と話をする事になる。

俺が話をする事になった名士の割合は、経済界7割,政界2割,軍人1割というもので、参加している関係者の事を考えると異常な割合だった。

俺はこの晩餐会で、改めて御剣家のネームバリューの凄さを感じることになったのだ。

最近の御剣財閥は、俺が関る比率が下がったことで以前のような飛躍的な成長はしていないものの、安定した成長を続ける事で、
最早新興企業ではないという事を内外に示していた。

更に、国外にも大きく展開しだした御剣財閥は、グループ全体の売り上げが財閥の中でも3番目の地位を手に入れるまでになっていたのだ。

しかし、ゆっくりと食事を楽しみたかった俺としては、大勢の人に話しかけられるこの状況はあまり楽しいものではなかった。

そこで俺は、この囲いから脱出するために、会場で発見した知り合いをダシにする事にした。


「すみません。人を待たしているので、
 今日のところはここで失礼します。」

真耶マヤさん、真那マナさん、御久しぶりですね。」
 

俺はそう言って、会場の警備として晩餐会に参加していた真耶マヤ真那マナに声をかけたのだ。

声をかけられた二人は驚きの表情を見せた後、無言で俺の腕を引っ張り会場の隅へ俺を連れて行くことになった。


「信綱、殿下に対してあのような事を要求するとは・・・」


「普通なら、一度辞退するのものだと言うのに・・・。
 真那マナ、そういった事を信綱に期待した私たちが間違っていたようだ。」


「もし辞退して、そのまま終わりになったらどうするんだ?
 俺は貰える物は、貰っておく主義だ。
 それに、悪い内容ではなかっただろ?」


そう言って俺は、肩をすくめワザと気楽に返答を返した。

俺の態度に、二人は呆れたような表情を見せる事になる。


「しかし、久しぶりに会ったにしては色気の無い会話だな。
 もっと艶っぽい会話が楽しみたいところだ・・・。」


「私たちには会場の警備という仕事がある、お前と遊んでいるわけにも行かない。」


「だったら、話し掛けるのは迷惑だったかな?」


「いいや・・・、私たちはただの飾りだ。
 会場内の警備は有力武家の子女が良いだろうと言われ、あてられた配置だ。
 最も、その話を持ってきた斑鳩 少佐は会場の外からモニターで監視をしているようだが・・・。」


真耶マヤ、私達は飾りではない。
 これも重要な任務だ。」


自分たちに対する真耶マヤの評価に憤りを見せる真那マナだったが、俺にはそれが正しい評価であるように思えた。

なぜなら、二人とも無現鬼道流の使い手であり、軍事教練も受けてはいるが、衛士としての任務が優先されているため、
会場警備などのシークレットサービスとしての腕は、専門の部隊と比べると劣っていることは否定できない事実であるからだ。


「御剣、光州作戦の時も思ったのじゃが、この斯衛の二人とは知り合いなのか?」


三人での会話を会場の隅で楽しんでいた俺たちに、人ごみで逸れていた武田さんが合流し声をかけてきた。


「知り合いというか、幼馴染の月詠 真耶マヤ 少尉と月詠 真那マナ 少尉だよ。
 斯衛軍訓練校の同期でもある。」


「ふーん、そうじゃったのか・・・。」


「御剣 中尉、この者は何者だ?」


「確か、お前の部下だったと思うが・・・。」


「ロンド・ベル隊 副隊長の武田 香具夜 中尉だ。」


互いを俺が紹介した後、三人の視線が絡み合うことになる。

そして、次の瞬間互いに何かを感じ取ったのだろう、その場にいる者に火花の様なものが飛び散る錯覚を感じさせる視線を、ぶつけ合う事になる。

俺たちがいた会場の隅は、急速に険悪な空気が流れだしたのだ。

俺は、穏便にこの場が収まる事を信じてもいない神に祈らざる終えなかった。


「信綱、斯衛は会場の警備で忙しいようじゃ。
 ワシと一緒に向こうへ行くとしよう。」


しかし、俺の願いは完全に裏切られる事になる。

なんと、普段は名字で俺を呼ぶ武田さんが、俺を名前で呼び腕に抱きついて来たのだ。


 やばい、肘になにやら柔らかい感触がーーー。


「武田さん!? どうして急に名前で呼ぶんですか?」


「信綱・・・、これからは、ワシの事を香具夜と呼べ。
 前から名字で呼び合うのは、他人行儀過ぎると思っておったのじゃ。」


その武田さんの発言に、真耶マヤ真那マナは激しく反応した。


「信綱、どういうことだ。
 まさか部下に手を出しているのか!?」


「しかも、年下とは・・・。」


「ぶ 無礼者、ワシは信綱よりも二つ上じゃ!」


武田さんの発言に対して、真那マナは怒りの表情を見せ、真耶マヤは怪しくメガネを光らせた。

また、武田さんも真耶マヤの年下発言に怒り心頭のようだった。

俺は、艶っぽい会話がしたいと言ったが修羅場を求めていたわけではないと、人が大勢いる会場で真耶マヤ真那マナに声をかけた事を
後悔することになった。

そうしている間にも、三人の会話は次第にヒートアップして行き、会話の内容がどんどんきわどい部分へと突入していった。


「いくら立派な体をしておろうとも、傍にいなくては無用の長物じゃ。
 信綱はよく枕元で『情熱を持て余す。』と嘆いておったわ。」


「「信綱~、大陸で何をしていたのよ。」」


初めて同じベッドで睡眠を取ってから、なかなか睡眠を取らない事が有った俺を心配した武田さんが、
無理やり寝かしつけた後そのまま同じベッドで寝るという事が度々あった。

確かにその場面で、寝ていると思っていた武田さんに対して、そう呟いたこともあった。

普段の俺は、武田さんに対して姉の様だと感じる部分があったのだが、一度だけの呟きを何度も言っているように表現すると同時に、
枕元で会話をする怪しい関係である事を匂わすという意地の悪さに、彼女が真実女で有る事を実感したのだ。


「え~と、前線での禁欲生活で情熱を持て余していた事は事実でありますが、当方といたしましては、
 なんら直接的な行動をしていないことから、情状酌量の余地が残されているものと思います。」


俺は心の中で、悲鳴を上げつつも必死に言い訳をする事になった。

三人を説得する事に必死だった俺は、周りが俺たち以外のことで騒いでいることに気が付いていなかった。


「申し訳ありませんが、信綱様をお借りします。」


そして、三人が落ち着きを取り戻しかけた時、その言葉と共にいきなり第三者に腕を捕まれた俺は、会場の中央まで連れ去られることになった。

三人が俺を呼んだような気がしたが、俺は自分の腕を掴んでいる人物を見た瞬間に意識を奪われてしまったため、
それを確認する事が出来なくなっていた。


「えっと・・・、もしかして、悠陽か?」


その人物とは、晩餐会のために美しく着飾った煌武院 悠陽だったのだ。


「はい、御久しぶりです信綱 様。
 ・・・信綱 様、どうされたのですか?」


「いや・・・、悠陽がこの会場に居た事に驚いている。」


「会場に参った時に、大きな拍手をいただけたのですが・・・、
 信綱 様には気付いていただけなかったようです。」


そう言って、悠陽は少し落ち込んだような表情を見せた。

この時の悠陽は、普段の和装とは異なる白いドレス姿をしており、まだ可愛いという比率が高かったが、
十分女性としての魅力を感じるレベルになっていたのだ。

その成長した姿と一瞬見せた表情に、俺は再び意識を奪われることになった。

どうしたんだ俺は、まだ悠陽は14歳・・・今年の冬にやっと15になるんだぞ!?

しかも以前は、妹のように感じていた悠陽に対して、反応してしまう自分に気が付いた事も、大いに混乱する原因となっていた。 


「信綱 様、私と踊っていただけませんか?」


俺が混乱している間に、悠陽に連れられた俺はダンスホールの中央まで移動してきていた。

修羅場から逃れる事ができたと思ったら、ダンスをする破目になるとは・・・。

俺の社交用スキルは、簡単な食事のマナーと茶会での振る舞いぐらいで、本格的なダンスを習得しておらず、
基本ステップを見た事があるという程度のものだったのだ。


「殿方とのダンスを断るためにも、協力してください。」


ダンスを踊ることに躊躇していた俺に、悠陽は小さい声でそう囁いた。

その言葉を聞き、初めて会場のいたるところから俺たち二人に注がれる視線の意味を理解することになった俺は、
悠陽を助けるために必要な事と考え、ダンスを踊る決意する事になる。

普通、ダンスを習った経験が無い者が早々踊れるものではないが、俺には悠陽に恥をかかせる事が無いようにダンスを行う秘策が有ったのだ。

その秘策とは、無現鬼道流で培った業と先天的な技能を融合させる事だった。

曲の演奏開始と同時に心眼を発動させた俺は、心眼で悠陽と周りの動きを把握し、先天的な直感と積み重ねた武術の経験による先読みを使う事で、
限定的ではあったがコンマ数秒先の未来を感じ取っていった。

後は、悠陽とその場の流れに身を任せる事で、外側から見ればダンスを踊っているように偽装する事に成功したのだ。

この時の俺は、今までの人生で一番精神を研ぎ澄ませており、まるで明鏡止水の境地に至っていると錯覚するほど、真剣にダンスを踊っていた。

内心ではふらふらになりながらも、3曲分のダンスを踊りきった俺は、曲の変わり目を利用してこの場から脱出する事を決意した。

悠陽を連れて移動を開始した俺に対して、多くの声がかけられる事になったが、愛想笑いを浮かべて素通りし、何とかバルコニーに出る事ができた。

しかし、バルコニーにも俺の安息の地は無かったのだ。


「信綱さん、悠陽さんとのダンスはお見事でしたが・・・、その事よりも聞きたい事があります。
 会場の隅で真耶マヤさんたちと話していた時に居た女性は、信綱さんの新しい花嫁候補なのでしょうか?」


何と、御剣商事社長として晩餐会に出席していた俺の母が、バルコニーで待ち受けていたのだ。


真那マナさんたちも、ここに来るよう声をかけてあります。
 あなたの大陸での素行・・・、包み隠さず話して貰いますよ。」


「信綱様、その話私も詳しく伺いたいのですが・・・。」


ここでの会話は、晩餐会終了まで終わることが無かった。

その結果として、帝都(京都)城ではしばらくの間バルコニーから聞こえる男のうめき声が、怪談として語られるようになってしまったのだ。













勲章を受け取り、晩餐会を何とか乗り切った俺は、強制的に休暇を取らされる事になった。

俺はこの休暇を利用して、御剣重工帝都支社で御剣財閥関係の仕事をする事にした。

御剣重工帝都支社に出社した時、社内は先日たらされたニュースの話題で持ちきりになっていた。

そのニュースとは、光州作戦で活躍した撃震・改修型を日本帝国軍が正式に採用する事が決定し、先行して生産し保管されていた
一個連隊規模の撃震・改修型を帝国軍陸軍が購入するというものだった。

撃震・改修型の正式名称は、98式強襲歩行攻撃機『鞍馬』となり、全国に配備が急がれる事になって行く。

鞍馬生産の拠点は、元マクダエル・ドグラム社社員を中心に、オーストラリアに置かれていた。

また、国内では撃震を改修することで鞍馬の生産を行っており、撃震の数が確保されれば直ぐにでも生産出来る体制になっている。

そして、退役していく撃震を帝国軍から買取り、機体の整備を行った後で機体其の物や補修用パーツとして輸出する会社を、
富嶽重工,光菱重工,河崎重工,御剣重工の四社共同出資で設立するという計画も実行に移されようとしていた。

この会社で買取られた撃震の一部が、国内での鞍馬への改修にまわされる事になっていたのだ。

中古撃震の海外への輸出事業は、複雑に絡み会う戦術機の利権を調整するためにこの様な形となったが、今後協同開発した戦術機を輸出する場合にも、
この会社を窓口として使う事を考えると、今後も事業規模が大きくなりそうだった。



鞍馬の状況を把握した後は、BETAの日本侵攻に備えて俺が一番力を入れていた戦術機について、
帝国軍と斯衛軍を併せた日本帝国が保有する戦力を確認する事にした。

本来なら容易に入手できるデータでは無かったが、戦術機の生産台数や補修部品の受注状況を見るとおおよその数字が出てくるのだ。

撃震導入の1977年半ばから現在の1998年頭までの約21年間で、帝国が生産及び輸入した戦術機の総数は27000機に達しているが、
現在保有する戦術機の総数は、導入した総数の18%である約5000機となっている。

つまり、21年間で約22000機の戦術機が失われ、ほぼ同数に近い衛士の命が失われている事になる。

これにより、戦術機に搭乗することが出来る衛士の才能を持つ者が少ない事もあり、衛士の数は次第に不足するという事態を招いていた。

そして、御剣重工が調べた帝国軍と斯衛軍を併せた日本帝国が保有する戦術機戦力の割合は、

不知火 全体の6%(1997年に108機を国連軍に提供)
吹雪  全体の22%
撃震  全体の57%
其の他 全体の15%(陽炎,吹雪・高等訓練仕様,瑞鶴,不知火・壱型乙,鞍馬 108機納品予定,海神 等)

となっている。

これを見ると、第3世代機の比率が三割近くに達している事が分かる。

第2・3世代機合計の比率こそ米国軍に負けているものの、日本帝国は保有する第3世代機の割合と総数で世界のトップに立っていたのだ。

また、御剣重工が独自開発を行わず、吹雪・鞍馬が制式採用されていなかった場合の試算では、

不知火 全体の12%(1997年に108機を国連軍に提供)
撃震  全体の76%
其の他 全体の12%(陽炎,吹雪・高等訓練仕様,瑞鶴,不知火・壱型乙,海神 等)

となり、第三世代機の比率が現在の半分に達しないという試算が出ていた。

この試算を見た俺は、歴史に介入した成果が出て来た事を改めて実感したのだ。

更に、1996年から導入され始めたEXAMシステムver.2と1995年導入のver.1は、大きく分けると以下の四つのルートで配備が行われていた。

ver.2
1.今年採用された新型管制ユニットである『98式管制ユニット』搭載型の不知火・吹雪の生産。
2.既に生産された不知火・吹雪を、不知火・壱型乙や富士教導隊で採用されていたCPUに換装。

ver.1
1.不知火・吹雪用のCPUを搭載した第1・2世代機を生産。
2.CPU換装の際に不知火・吹雪から外された第三世代機用CPUを第1・2世代機に搭載。

これによって、現時点のデータで次のような広がりを見せていた。

新型管制ユニット + EXAMシステムver.2  不知火・壱型乙の50%及び、不知火の5%
CPU換装管制ユニット+ EXAMシステムver.2  不知火・壱型乙の50%,不知火の80%,吹雪の60%,陽炎の30%及び、瑞鶴
第三世代機用CPU +  EXAMシステムver.1  不知火の15%,吹雪の40%,吹雪・練習機,陽炎の70%,海神の30%,鞍馬及び、撃震の30%

ver.2とver.1の二つを併せると、日本帝国が保有する戦術機の半数がEXAMシステムを搭載している計算となる。

また、EXAMシステムに対応するための衛士訓練も各地で活発に行われていた。

EXAMシステムver.1については、テキストと併せてデモ演習の画像と操作履歴が公表されているため、それを参考に各部隊で訓練が行われていたが、
より高度な訓練を必要とするEXAMシステムver.2については、富士教導隊が中心となって各部隊への教導を行う必要があった。

ver.2の普及は、教導する部隊の人数が限られる事からあまり進まないと考えられていたが、富士教導隊から教導を受けた部隊が、
更に他の部隊への指導を行いだすと、ver.2の運用思想は帝国内で急速に広がり始める事になったのだ。

戦力を戦術機のみで測る事はできないが、これにより戦力が増強された事は間違いなかった。

ただし、吹雪及びEXAMシステム導入に対するマイナス面も存在していた。

一番問題にされたのが、予算の関係で帝国軍の主力戦術機である撃震のハード面からの改良が、一部凍結されてしまっているという事だった。

これにより、性能の大幅な向上が見込めなくなった事で、衛士たちの不満が高まる事になったが、EXAMシステムが導入された撃震が普及していくと、
当初の改良計画を上回る性能を発揮し、衛士たちの不満は次第に解消されつつあった。

したがって、撃震の戦力が向上しないという問題は、EXAMシステムが普及すれば解決できる問題であるというのが、調査チームの見解だったのだ。

このEXAMシステムに対して、国連軍から配備を要請された事があったが、実際に配備されたのは国連軍太平洋方面第11軍に所属する特殊部隊に、
CPU換装管制ユニット+EXAMシステムver.2を搭載した機体が配備されただけで、それ以上普及させる予定は無かった。

更に、国連軍に配備された管制ユニットは、CPUと記憶媒体周辺をブラックボックス化しており、
制御データ等の情報が外部へ流出することを防ぐ処理も行われていた。

概念さえ知っていれば、ある程度の技術レベルの国であればEXAMシステムをまねる事は可能だったが、今まで積み上げてきた機体制御データと
戦術機に搭載可能な高性能CPUの量産技術の両方を入手しないと、実用化までこぎつけるには5年以上かかると考えられていたのだ。

5年あれば更に上のOSとCPUを開発する事も可能であり、戦術機制御技術における日本帝国と御剣電気の優位は、
早々揺るぐものでは無いと判断されていた。

最もCPUに関しては、不知火部隊の指揮権限を持つ香月博士からもたらされた基礎理論を基に作られた物なので、隠し通せるかは疑問であったが・・・。










その後も様々な資料をチェックし、資料に対する意見書を書く事になった俺は、その日も夜遅くまで部屋に篭る事になる。

現在の日本帝国は、半島から押し寄せた難民への対応と、1996年に北九州を始めとする九州全域に発令された第2種退避勧告が、
第4種に引き上げられた事を受けて、人の大移動が起こっており今後も大きな混乱が続く事が予想されていたのだ。


「香具夜さん、御茶をくれな・い・・・か。」


いつもの調子で御茶を貰おうとしたのだが、声をかけようとした相手が一足先に横浜へ向かった事を、俺はすっかり忘れてしまっていた。

彼女が傍にいる事を当たり前のように思っていた事を実感し、どうしたものかと考えさせられる事になる。


「それにしても・・・、前線に居た時の方が自由な時間が多かったのかも知れないな。」


うず高く積まれた報告書の山を見て、俺はそう呟くのだった。



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コメント

皆様、いつもご意見やご感想を書き込んでくれて、ありがとうございます。

自らの文章作成能力を過大評価していた事と、設定で悩むところがあったため、
予定を大幅に過ぎての更新になってしまいました。
申し訳ございません。

今回、主人公に勲章を与えるという馬鹿なことを考えた私は、勲章について調べるのに四苦八苦してしまいました。

主人公が受け取った金鵄勲章(きんしくんしょう)は、第二次大戦後廃止された軍人向けの勲章で、マブラヴ世界では
軍が残っている事から廃止されていないことにしました。
また、叙勲対象は
“将官の初叙は功三級から、佐官は功四級から、尉官は功五級から、准士官及び下士官の初叙は功六級,兵は功七級からとされていた。”
とされ、
“特に武勲抜群のものに対しては、それより1級上位の勲章が授与された。”
ということなので、主人公に授与されたのが功四級金鵄勲章となりました。
私が調べた限りでは、これが妥当であると考えていますが、間違っていると思われる方がいれば、指摘して頂けると
幸いです。

それと、現在帝国軍が保有する戦術機の割合(不知火・吹雪92年採用の本作品)
不知火 6%
吹雪  21%
撃震  59%
其の他 14%
について、裏で無駄に計算をしていますが、不知火94年採用(原作)を、
不知火 7%(300機程度)
撃震  81%
其の他 12%
位だろうと仮定した所から決めた数字であるため、私の感覚のよる部分が大きい設定と思われます。
皆様の感覚と大きなずれが無いか、心配しているところです。

毎回、手探りで設定をしている部分も多くあるので、ついつい皆様に質問をしてしまいます。
皆様に質問ばかりしているうえに、投稿が遅れる駄目作者ですが、
これからもこの作品を読んでいただけたら幸いです。


P.S. 
この話を推敲する段階で、自分が大きなミスを犯している事に気が付きました。
それは、2001年(原作開始年)の12月に御剣冥夜が18歳となるには、1983年に生まれる必要がありますが、
この作品では生まれた年が1984年(主人公が6歳の時)となっています。
つまり、原作ヒロインたちの生まれた年を、一年間違っていたのです。
応急措置として、この話から1983年生まれとしましたが、それ以前の話も変更する必要があります。
修正が完了するまで、しばらくお待ち下さい。




返信

主人公はいつから戦術機に乗っているんだと質問がありました。

主人公が初めて戦術機のコックピットに座ったのが、1986年(第四話)となっていて、そのあたりで実機を乗り出したと考えて
書いているので、主人公は92式管制ユニットが採用される前の古い形式の管制ユニットから戦術機に乗っている設定を取っています。

明確に乗り出した時期を書いていませんし、古い形式の管制ユニットがどういったものであるかも書いていませんので、
疑問を持たれたのかも知れません。

今までは詳しく考えてはいませんでしたが、いい案件だと思うので機会があれば考えてみたいと思います。


その他に、新機体の提案がありました。

残念な事に、フルメタとガンダムの方は知っていますが、コードギアスの方は名前だけしか知りません。
ガンタンクR-44 or ザウート モドキなら・・・『90式戦車、大地に立つ!』が出来る気がしますが、
どうなるかは分かりません。

私の頭の中には、四足歩行の戦術機くらいしか新しいアイデアが浮かんでいませんでしたが、原作開始前に
一年以上の開発期間が取れるので、原作の改良で無い機体を登場させる事を考えてもいいのかもしれません。
ただ、登場させるとしても他作品から直輸入するのではなく、オリジナル設定を加えたいとは考えています。





[16427] 第18話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/06/06 21:04



御剣重工帝都支社の一室で引篭もりを始めてから三日目、俺は相変わらず資料と報告書の山に埋もれていた。

そこに、俺が御剣重工帝都支社の一室に引篭もっているという情報を得た、帝国陸軍の巌谷 少佐が訪ねてきた。


「久しぶりだね、信綱君・・・、いや御剣 中尉と言った方がいいかな?」


久しぶりに会った巌谷さんは、初めて会った時と変わらない調子で声をかけて来た。

巌谷さんと俺は、不知火と吹雪のトライアルが行われていた会場で初めて出会ってから、年に2・3回ほど手紙のやり取りをする程度だったが、
連絡を取り合う関係を続けていた。

ただ、ここ2・3年は互いに大陸へ渡っていたため、互いに連絡をする暇は無かったのだが・・・。

久しぶりに再開した巌谷さんは、顔に以前には無かった傷が付き、その表情も記憶よりも厳しさが増しているように感じられた。

そして、巌谷さんからは僅かに疲労感が漂っていた。

この表情と雰囲気は、大陸で長く戦っていた者が持つ独特のもので、国内に帰還してから数日の間で拭い去る事ができるものではなかった。

この事からも、大陸での戦いがいかに厳しいものであったのかが窺い知れるのだ。


「ここに来た理由が、個人的な事なら階級はいらないと思いますが?」


ため息をついた俺は、三日間で溜まった疲労を隠すことなく、あまり軍関係の長話はしたくないという思いを込めて返事を返した。


「そういえば君は、休暇中だったな。
 では、信綱君・・・。
 個人的に、戦術機の話がしたいのだがどうだろう?」


「今度会う時は、戦術機以外の話が出来たらいいと、
 言っていたのは巌谷さんでしょう?
 まぁ、あなたと戦術機の話をするのは嫌いではありませんが・・・。」


「そんなに褒めても、何も出ないぞ。
 ただし、君の話が面白ければ私がどこかで話す機会があるかも知れないがね。」


「・・・そうですね、以前はそれで良い事がありましたので、
 今回もそれに乗る事にしましょう。」


俺の希望とは真逆の答えが返ってきたが、戦術機の話をするのは嫌いでは無いし、不知火と吹雪のトライアル会場での事を考えると、
真剣に対応した方が良いと判断した俺は、休憩もかねて巌谷さんと雑談という名の話し合いをする事にしたのだった。










二人分のお茶を用意し、ソファーに向かい合って座った俺たちは、早速雑談を始めることにした。


「そういえば、戦術機の話と言っても取り扱っている案件が多すぎて、
 何から話していいのか分かりませんよ。」


「その案件を全て聞きたいところだが・・・、あまり時間が取れ無いのでね。
 不知火の改修計画についての件はどうだね?」


「その件なら、かなり開発が進んでいますので、
 技術廠経由で聞いた方がいいと思うのですが・・・。
 そっちのコネは巌谷さんの方があるでしょう?」


「私が大陸に行っている間に、あまり喜ばしく無い方向に計画が進んでしまったようなのでね。
 計画の修正を行うには、一人では難しそうなのだよ。」


「いかに伝説のテストパイロットであり、大陸で成果を上げた巌谷さんとは言え、
 走り出した計画を変えるのは難しいですか・・・。」


そんな事を言われても、俺から出来る働きかけは微々たる物で、もし企業側を説得できたとしても、企業側から軍を説得するのにも限度があった。

その事を指摘すると、巌谷さんはロンド・ベル隊がその機体の実戦証明をする事になっているという話を持ち出してきた。

自分たち実戦経験者とテストパイロットの両方から、似たような意見が出れば計画が軌道修正される事も有り得ると言うのが、
巌谷さんの考えだったのだ。

まだごく一部の者しか知らない、機密事項を知っている事に驚かされたが、その機密事項を知っている自分の事を考えると、
あまり文句を言う事が出来ない話だった。

俺は、どう対応するかは確約できないと前置きをしながらも、問題点を洗い出すために現状の改修計画を確認する事にした。

不知火の改修計画とは、不知火を全面改修する事により次期量産機を開発すると言う計画である。

この計画で開発された通称『不知火・弐型』と呼ばれている機体は、政府の要求により開発期間が制限されたため、
機能や拡張性が制限された不知火の問題を解決するために作られた機体である。

したがって、この機体こそが本来企業側が開発したかった不知火の真の姿といえるのかもしれない。

現在の不知火は、EXAMシステムの導入という想定外の出来事があったとはいえ、僅か5年で再設計を行う必要が出るほど、
拡張性が確保されていなかった。

そのため不知火の改修計画では、実に不知火の60%を再設計する程の見直しが行われ、
今後10年以上現役で使う事が可能なように拡張性が確保される事になった。

またそれと同時に、不知火開発から積み重ねた六年間の技術と各国の戦術機のデータを元に改良が加えられ、不知火は正常進化する事になっていた。

似たような事例で、米国においてF-15CイーグルをF-15Eストライクイーグルに改修したというものがあるが、基礎構造が優秀な
イーグルの改修とは異なり、開発する余裕が残されていない不知火の改修は、メインフレームの検討から行われる事になった。

メインフレームから検討するという改修案に、一から新型機を開発したほうが良いのではないかと企業側が提案したが、不知火・吹雪の実戦での
運用が良好だった事を受け、今後不知火・吹雪量産の事を考えるとある程度の互換性を確保しておきたいという軍の要望に応えることになったのだ。

企業側同様に難色を示していた開発関係者だったが、開発中に起こったある出来事によって、軍の要望を聞いていた事に安堵する事になった。

その出来事とは、日本の戦術機に関る者全てが驚く事になった『EXAMショック』と呼ばれる事件である。

ver.1が配備された当初こそ、便利になったと考える程度で気にしていなかった開発チームだったが、不知火・斯衛軍仕様試験型
後の不知火・壱型乙で初めて実装され実戦証明を行った、ver.2の戦果に大きな衝撃を受ける事になったのだ。

以前から行われていた戦術機の開発は、機械的な部分や電子部品の改良が主となっており、戦術機を制御するOSの改良を行うという発想が乏しかった。

そこに登場したEXAMシステムは、戦術機の動作後の硬直を取り除き、動作を中断し急激な機動変更を可能とした改良により、
実質的な機体性能をOSの改良で大幅に上昇させられる事を証明してしまったのだ。

この段階で、既に戦術機の常識の一つが打ち破られた事になる。

また、EXAMシステムは大きな戦果を上げると同時に、戦術機側にも大きな傷跡を残していた。

戦闘後のオーバーホール時に、フレームや関節部に大きな磨耗が発見されたのだ。

この磨耗は、EXAMシステム特有の急激な機動変化に機体側が追従できなかったために発生したものである事が分かると、
戦術機の開発者は更なる衝撃を受ける事になる。

今までは、機体に合わせてOSを調整する事が普通だった所に、今後は遥か先に進んでしまったOSに会わせて、
戦術機を開発する事が求められるようになってしまったのだ。

この出来事で、EXAMシステム搭載を前提とした新型機の開発が検討される事になり、
急遽EXAMシステムを搭載する事を前提に弐型の開発が進められる事になった。

不知火の改修機だった弐型は、EXAMシステム対応のテストベッドとしても使えると考えられたのだ。

もし、不知火の改修ではなく新型機の開発を選択していたら、その時点で新型機は陳腐化し開発が見送られる事になった可能性が高かったと、
関係者は語っている。

EXAMシステム搭載が決まった段階で、弐型の開発はかなり進んでいたが修正できる範囲で対応される事になった。

また、EXAMシステムを搭載した現行の戦術機は、機体の軽量化や主機出力の関係でフレーム及び関節に余裕があった撃震・吹雪系統には、
大きな問題が発生しなかったが、不知火に対しては問題が発生している。

ただし、不知火がエース及び特殊部隊用の機体である為、補修部品を多く確保する事で当面の運用には支障がないとされている。

そして、テスト機として作られた不知火・弐型の現時点での仕様は以下のようになっている。


不知火・弐型

メインフレーム及び関節部の強化:
メインフレーム及び関節部を再設計した事により、今後も機体各部に新たな装備を追加できる余裕が確保された。
また、高められた強度によりEXAMシステムver.2の機動でも、十分に実戦を戦い抜ける耐久力が確保された。

機動力の向上:
主機・跳躍ユニットの出力を上げると同時に、空気抵抗を低減するために装甲形状が変更された。
これにより、最高速度・巡航速度共に上昇する事になった。

運動性の向上:
YF-23 ブラックウィドウⅡを参考に、腰部装甲ブロックへ小型の推力偏向スラスターが搭載され、
肩部にはJ-10 殲撃10型を意識した複数の噴出口を持つ大型の推力偏向スラスターを搭載する事になった。
また、肩部の大型の推力偏向スラスターは下方や後方の噴出口から推力を取り出す事で、跳躍ユニットの補助としての役割を果たし、
機動力の向上や跳躍ユニットが1機破損しても跳躍が可能となる等、運動性の向上以外にも様々な部分に影響を与えている。
更に、頭部や肩部に空力機特性を改善するためにカナードが追加され、ナイフシースも大型化する事になった。

近接格闘能力の向上:
不知火・壱型乙で採用された、ナイフシースの外装カバーと脛部分のスーパーカーボン製ブレード以外にも、
膝・足の甲・踵部の外装にブレード機能が施された。

可動兵装担架システムの増設:
YF-23 ブラックウィドウⅡを参考に、今まで小型可動兵装担架システムと併せて2+1個だった可動兵装担架システムを、4+1個に増設する事になった。
肩部に増設された2つの可動兵装担架システムは、87式突撃砲程度の重量を搭載するのが限界であったが、突撃砲を多く装備できるだけでも
大きなメリットが有った。

電子装備(アビオニクス)の強化:
頭部に搭載された、新型アクティブレーダーやデータ通信装備の増設により、目標の捕捉能力と部隊内の連携能力が向上した。

98式管制ユニットの標準装備:
EXAMシステムver.2を標準装備する98式管制ユニットを採用する事で、機体性能の向上を図ると同時に衛士の安全性を確保した。
また98式管制ユニットには、ボタン一つの操作で搭乗制限を30秒間限定解除し、機体性能を10%押し上げる通称『フラッシュモード』が
搭載されている。
フラッシュモードは主に緊急時の対応に使う事を想定されており、再使用に3分間のインターバルが必要という制限が付く。

汎用性と稼働率の向上:
機体各部をモジュール化を進めたことで、補給・整備が迅速に行えるようになったため、大幅な汎用性と稼働率の上昇が見込まれている。

オプションパーツの装備:
機体各部のモジュール化により、各種オプションパーツを取り付けることが可能になった。
オプションパーツの案には、ナイフシースと交換で小型ガトリング砲を搭載するまともな案や、肩部に装備するスパイクやドリルで格闘能力を
向上させるという趣味に走った案、全てのオプションパーツをつなぎ合わせてフルアーマーにするといった狂気とも思える案まで、
多くの提案がされているがどれを採用するかは未定である。

稼働時間の確保:
フレーム強化と拡張性の確保、バッテリー、燃料タンクの増設により、機体がやや大型化(太くなっている)している。
ただし、それ以上に主機及びスラスター出力が向上しているため、機動力・運動性は向上している。
また、新型の電磁伸縮炭素帯の採用によって、出力効率が上昇した事で消費電力は低減されており、バッテリーの増設は最小限に抑えられた。
これにより、連続稼働時間は通常の不知火と同等が確保される事になった。

生産・導入コスト:
不知火系統と呼ばれる不知火,不知火・壱型乙,吹雪と共通するパーツが40%、新パーツが残り60%となっている。
弐型の制式採用後も、撃震が完全に退役するまで不知火・吹雪とも生産が続けられる計画のため、
不知火系統の機体と共有できるパーツが確保された事は、大幅なコストダウンにつながっている。
更に、機体のモジュール化を進めた事で、モジュールごとに生産を行い最後に組み立てる事で、製造時間とコストが圧縮される事になった。
また、全高が不知火と同じである事も整備用の器具が不知火と共有でき、導入コストを低減する事に一役買っている。


不知火・弐型は、機体性能が不知火・壱型乙高機動仕様と同等で、初期生産では不知火・壱型乙と同程度の価格になると予想され、
量産が開始されれば不知火の二割増し程度のコストまで圧縮できるとされている。

そして、本土防衛戦が近づく現段階で最も重視されている不知火系統三種類の強化は、この機体で使われているモジュールの一部を
搭載する事で行われる予定となっている。

今後の予定は、最近完成した試作型の2号機を数日中にロンド・ベル隊に引き渡し、そこで実戦証明を行い制式採用が検討される事になっていた。


「不知火の2割増しのコストで、不知火・壱型乙高起動仕様と同等・・・、
 課題だった拡張性も確保されているので、大きな問題は無いように見えますが?」


「本当にそう思っているのか?」


「いえ・・・、不満が無いと言えば嘘になります。
 ですが、いつも私から話しをするのではつまらないでしょう。
 今回は、巌谷さんから話をするというのはどうです?」


「ふん・・・、仕方ない今回は私から話す事にしよう。

 私が不満に思っているのは、連続稼働時間の事だ。
 大陸での経験から言うと、不知火の現状維持では短すぎる。
 最低でも、不知火の三割増しの連続稼働時間を確保したいところだ。」


「確かに戦場で、稼働時間がもっと長ければと思ったことは多々あります。」


「開発段階から機体性能や武装の追加に目が行き過ぎて、
 連続稼働時間という重要なものが、軽視されているように思えるのだ。
 不知火・吹雪ら第3世代機の導入と、新OSの登場によって生き残る衛士が増えた事で
 衛士全体の質が上がっている今、前線の衛士が求めているのは戦場でもっと
 長く戦える機体だと私は考えている。」


「その考えには賛成ですが、今のバランスを崩さずに連続稼働時間の向上を狙うのは
 難しいかもしれません。
 機体側に余裕があるといっても、燃料タンクやバッテリーを増設すると
 重量がかなり増加しますからね。」


巌谷さんの考えは納得できる物だったが、画期的な技術革新がなされない限り、
これ以上連続稼働時間を伸ばすには燃料タンクやバッテリーの増設が不可欠だった。

そして、燃料タンクやバッテリーは重点的に防御する必要があるため、予想以上に重量が増加する部分であり、
増設するほど連続稼働時間増加率が減少するという厄介な問題も抱えていたのだ。

その事を考えると、大陸帰りの衛士から見ると不満がある機体だが、今の仕様が一番バランス取れているとも言えるものだったのだ。


「機体内部に搭載するのが難しいのなら、
 オプションパーツとして、新型のドロップタンクか
 使い捨ての跳躍ユニットでも作りますかね?」


「ほう、それはどういった形になるんだね?」


俺が出した連続稼働時間延長のための対策は、戦場に駆けつけるまでの間に消費する推進剤や電力を外部のパーツから供給する事で、
戦場に着いた時には本体に残る推進剤や電力が満タンの状態にするという案だった。

ドロップタンクは、航空機では使い古されたアイデアだったが、戦術機においては武装を圧迫する事もあり、
あまり普及しているとはいえない装備だ。

俺がその場で書いて巌谷さんに見せた落書きでは、戦術機の武装を減らす事が無いように戦術機がランドセルを前側に装着しているような、
少し間抜けとも思える状態でドロップタンクを搭載する戦術機が書かれていた。

このランドセルには、独自の推進ユニットが装備されており、機動力を確保する目的のほかに着地時のバランスを取る事も考慮していた。

専門家に見せないとなんともいえないと言いながらも、巌谷さんは俺の提案に興味を示している様子だった。

その後、30分ほど連続稼働時間延長に関する話し合いをした俺たちは、互いに弐型の連続稼働時間延長を訴えていくという結論を出したところで、
戦術機に対する話を終える事にしたのだった。










巌谷さんが帰った後も、俺の作業は終わる事がなかった。


「これは、光菱重工からか・・・。」


光菱重工から提案あったとされる計画の報告書には、撃震に近代化計画についての報告が書かれていた。

撃震の近代化とは、最近配備され始めたEXAMシステムver.1搭載型の撃震と、撃震の改修機である瑞鶴のEXAMシステムver.2搭載型が、
想定以上の性能を示した事により、撃震を第三世代機に準じた装備にし、EXAMシステムver.2を搭載するという光菱重工の計画であった。

OBLと電子装備(アビオニクス)が刷新されEXAMシステムver.2を搭載した撃震は、2.5世代機クラスの性能を発揮すると試算されていたのだが、
これらの改修によって製造コストが上昇した撃震は、現行の主力生産機である吹雪と比較すると、開発するほどのメリットがあるのかと
疑問視されていた。

更に、撃震の生産は補修部品の生産がメインになっているため、空いた工場をそのまま利用できるという話だったが、それほど多くの戦術機を
生産する予算も無い上に、衛士の供給が間に合わないというのが現状だったのだ。

光菱重工のこの計画は、こういった理由により帝国軍の支援を受ける事ができず、焦った光菱重工がEXAMシステムを開発した御剣電気と
撃震(F-4)のライセンスもとである御剣重工(マクダエル・ドグラム社の一部吸収合併)に支援を求めてきたのだ。


「本土防衛で消耗する戦力を早期回復する手段として使えなくは無いが・・・、
 海外への輸出用としてなら開発する意義がありそうだな。」


撃震の基であるF-4『ファントム』は、アビオニクスの近代化と装甲の軽量化、跳躍ユニットの強化によって準第2世代まで引き上げられたE型が、
現在でもアフリカ戦線等で運用されている。

これら第3世代機を導入する余力がない国にとっては、第1世代機を2.5世代機にするこの計画は導入コストも低く抑えられる事から、
受け入れやすい機体であると考えられたのだ。

無論、国内への配備と機密の問題で、今すぐver.2を輸出する事はできないが、ver.1なら改修にかかる時間経過を考慮すれば十分輸出が可能だった。

また、中古撃震の海外への輸出事業の事を考えると、そのまま輸出するよりオーバーホールと同時に改修を行う事ができれば、
付加価値が高まり主力商品になる可能性もあると考えたのだ。


「ver.1で第2世代クラス、ver.2で第2.5世代クラスにして、
 輸出メインなら受け入れても良いと考えます・・・と。」


次に処理する事になったのは、海軍用に吹雪を本格改修を行う計画書だった。

現在、海軍がメインに運用している戦術機は、潜水母艦より発進し揚陸地点の橋頭堡を確保するための海神と、
戦術機揚陸艦から発進し海神と連携して橋頭堡を確保すための撃震と吹雪である。

そして、海軍用の主力生産機となっていた吹雪は、跳躍ユニットを不知火の物に換えて跳躍距離を伸ばしただけで、
それ以外は陸軍用の吹雪と大きな違いはなかったのだ。

ここで海軍が吹雪の本格改修を求めている理由は、戦術機揚陸艦がなるべく陸地に近づく必要が無くなるように、
更に跳躍距離を伸ばしたいというのがメインの理由だった。

その改修計画では、吹雪の更なる軽量化と跳躍ユニットの強化が求められていたのだが、それに見合ったコストの増加を求める企業側と、
大陸で戦っていた陸軍に比べて予算が減らされていた海軍との間で、激しい意見のやり取りが続けられていたのだった。

俺はこの終わらない論争に終止符を打つために、海軍に対して御剣重工で開発が進められていた、
弐型用のオプションパーツを提案する事を思いついたのだ。

その計画書には、まるでサーフボードを使って波に乗っているような、不知火の挿絵が描かれていた。

吹雪よりも重量がある不知火・弐型で採用する計画だったので、搭載重量的には十分すぎる余裕があったのだ。


「上陸用のオプションを開発中なので、それを投入する事を検討してください・・・と。」


次は、戦術機により要塞級を撃破する装備の開発要求が、陸軍から出されていたという報告書だった。

要塞級はその大きさと耐久力から、通常戦車や自走砲等の援護砲撃により撃破することが多く、
戦術機で要塞級を撃破出来るのは一部のエースに限られていた。

それを、戦術機が携行する火器で撃破できるようにしたいらしい。

陸軍の提案では、ロケットランチャー(噴進弾発射器)による物だったが、搭載重量と携行弾数の事を考えると必要性が高いとは言えない案件だった。


「要塞級に対応するには、パンツァーファウスト型が良いと思われます。
 ロケットランチャー型はもっと威力を高めて、ハイヴ内で使用する事を考えてはどうでしょうか。
 十分社内で検討し、陸軍へ提案してください・・・と。」


パンツァーファウストとは、パイプ状の発射筒に簡素な照準器と引き金を持ち、その先端に安定翼を折り畳んだ棒を備えた
成形炸薬弾頭が取り付けられており、引き金を引く事で発射筒内にある火薬が爆発し弾頭を目標物まで飛ばす事ができる、
携帯式対戦車用無反動砲用とも言われ歩兵の装備である。

パンツァーファウストがロケットランチャーに勝る点は、携行が容易なことと製造コストが安くなる点である。

その代わり、ロケットランチャーと比べて射程距離が短くなっており、発射筒は基本的に使い捨てになってしまうという問題も抱えている。

これらの事を総合的に判断すると、地上で要塞級を撃破するにはパンツァーファウスト型の方が運用がし易く、ロケットランチャー型は
弾頭をS11等の強力な弾頭にすれば、ハイヴ内で使えるのでは無いかと俺は考えたのだ。

こうした歩兵の装備を戦術機用に再開発するといった事は、御剣重工内で盛んに行われており、既にそれに近い形のものが出来上がっていた。

俺は、それを陸軍の要求に合うように改良すれば良いという意見書を書き、その案件をまとめる事にしたのだった。










その後も、複数の案件について意見書を作成した俺は、三日ぶりにまともな睡眠を取る事にした。

なぜなら、明日は元教官から大陸での話を聞きたいという誘いを受けていたため、疲労感を漂わせている状態で会う訳にはいかなかったのだ。

話し合いをする場所は、EXAMシステムが訓練校でどう扱われているかを俺が見たかったと言う事もあり、斯衛軍訓練校で行われる事になっていた。

俺は、約2年ぶりに斯衛軍訓練校をたずねる事に懐かしい気持ちになりながら、久しぶりの睡眠を楽しむ事にしたのだった。





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コメント

皆様、いつもご感想ありがとうございます。
予定より一日遅れましたが、何とか新話を投稿する事ができました。
最近投稿が遅れ気味になっている事を改めてお詫びしたいと思います。
すみませんでした。
既に隔週投稿のようになってしまっていますが、最低でも毎週何らかのアクションを取る事を目標に
今後も頑張って行きたいと思います。

巌谷さん再登場
巌谷さんに指摘させた連続稼働時間の部分は、原作の弐型に要求された仕様に対して、
私のプロット時に欠けていた部分でした。
そのまま修正しても良かったのですが、ただ戦術機の説明をするのも味気なかったので、
巌谷さんを登場させて指摘させる事になりました。
今のところ、戦術機関係の話しをさせる事以外で活躍の場がありませんが、それ以外でも
活躍させたいと思わせる渋オジキャラです。
しかし、この人が戦うシーンが上手く思いつかない・・・、思いついたら書きたいと思います。

話の最後は、皆様の意見を受けて作成した部分です。
全てを網羅する事は出来ませんでしたが、それなり上手い設定が出来たと自画自賛しております。
そう感じるのが自分だけでない事を祈っていますが・・・。

皆様の意見に刺激を受けて、新しい設定が思いつく事もありますので、これからも気の向くままに
感想板にご意見を書いていただけると幸いです。



返信

皆様から、様々なご意見をいただいておりますが、あまりに多すぎて返信だけで字数を稼いでしまいそうなので、
控えめな返信にさせていただきます。


ガトリングシールドですか・・・、私も大好きです。
しかし、いい設定のアイデアが思い浮かばない・・・。
返信を書いている時に思いついたので、そのうち登場するかもしれません。

不知火・吹雪の増産や避難状況については、今の段階で説明する事は出来ません。
あと2・3話進めば、その部分に達しますのでそれまでお待ち下さい。

TEで登場したレールガンですが・・・、この作品でも欲しいところです。
あれが有るだけで色々戦術が広がりますので・・・。
ただ、香月博士を説得する方法とG元素の取り扱いが難しいので、登場は未定です。
しかし、レールガンを二門搭載した鞍馬を想像すると・・・、巨神兵バリに活躍してくれますかね?

YF-23は、とっても使える設定なので、今後いろいろな場面で登場すると思います。

ガンタンク、私はまだ諦めていません。
モドキでもいいので、いいアイデアさえ降って来れば書くのに・・・。

吹雪の輸出廉価モデルについては、撃震の改修機を輸出する事で対応する事にしました。
なにぶん、ヨーロッパや途上国の事を考えると、吹雪をグレードダウンする
設定での輸出は難しいと考えましたので・・・。

短めの返信でしたが、この程度でご容赦下さい。



[16427] 第19話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/07/10 09:53



四日ぶりに外に出かける事になった俺は、久しぶりの太陽光に目を細めた。

俺は己の不摂生を軽く後悔しながらも、御剣重工の送迎車に乗せられ斯衛軍訓練校を訪れる事になったのだ。

約2年ぶりに訪れた斯衛軍訓練校は、外側から見ると大きく変わっているようには見えなかったが、その中には大きな変化が起こっていた。

度重なる人員の喪失によって補充の人員が急がれていたため、陸軍と歩調を合わす形で去年から訓練校の受験対象の年齢が一年繰り下げられ、
15歳以上とされていたのだ。

また、受験対象年齢の引き下げより先行して、士官課程以外の訓練期間が短縮されるという措置も行なわれていた。

それでも、半年間短縮されたとはいえ一年半の訓練期間を取る斯衛軍訓練校は、最短6ヶ月で訓練終了となる陸軍と比べると、
長いと思えるものだったが・・・。

更に、衛士訓練課程では帝国軍の標準装備となりつつあるEXAMシステムを、シミュレーター訓練の段階から使用する等、
新しい試みも行われているという話も聞いていた。

俺は久しぶりの雰囲気に懐かしい気持ちになりながらも、元教官に案内され訓練校内を視察する事になる。

いくつかの施設を見学した後、最後に衛士課程の訓練兵による実機訓練を見学する事になった。

実機訓練で使われていたのは、瑞鶴と吹雪・高等訓練仕様の2機種で、訓練用瑞鶴にはEXAMシステムver.1が、
吹雪・高等訓練仕様にはver.2が搭載されているとの事だった。

短縮された訓練期間と訓練終了まで残り半年もあるという事で、戦術機の機動が粗い者が多く見受けられたが、
EXAMシステムへの対応は十分なされており、動作の合間で戦術機が硬直するという動きは殆ど見られなかった。


「御剣中尉、今年の訓練兵の動きを見てどの様に思われましたか?」


「動きが粗い者もいますが、1年の錬成期間という事を考慮すれば悪く無いと思います。
 それより、EXAMシステムへの対応が出来ている事に安心しました。
 これは、実戦経験者の話を聞きたがる勉強熱心な教官のお陰ですかね?」


「そう言っていただけると幸いです。
 やはり、始めから新OSで訓練を行っていますので、
 旧OSから転向する衛士と比べると習熟が早いのでしょう。」


「確かに・・・、EXAMしか知らないなら旧OSの癖が出ることがありませんからね。
 後は、残り半年でどこまで実戦への対応を済ませるかが課題でしょう。
 そういえば、この後の予定はどうなっているんですか?」


「午前の予定はこれで終わりです。
 これからPXで昼食を取っていただいた後、午後から大陸での話を伺いたいと思っています。 
 それでは、私は少し用事がありますので一旦失礼します。
 後からPXで合流しましょう。」


「分かりました。
 PXでの食事を久しぶりに堪能していますので、
 お忙しいなら急がなくて結構ですよ。」


各施設を視察した後、訓練の感想を元教官に伝えた俺は、昼食を取るためにPXへ向かった。

PXで料理長を務めるおばちゃんに軽く挨拶して食事を受け取った俺は、以前よく使っていた席で食事を取ろうとしたのだが、
其処には既に訓練兵が座っており、なにやら食後の会話を楽しんでいる様に見えた。

俺は訓練兵の話を聞く事も面白いと考え、その訓練兵たちに声をかける事にしたのだった。










「皆、知っているか?
 ロンド・ベルの光線級殺しが、今日訓練校にきているらしいぜ。」


「光線級殺しって、この間殿下から勲章を直接授与された、
 御剣 中尉の事か?」


「そう、その御剣 中尉が訓練校を見て回っているらしいぞ。」


「それが、本当なら握手でもして貰いたいな。」


「何を言っているんだ、貰うならサインだろう。」


「貴様ら・・・、戦術機の操縦について聞きたい事があるとか、普段している鍛錬の事を聞くとか、
 他にすべき事があるだろうに・・・。」


「隊長は真面目過ぎます。
 衛士ならともかく、普通の訓練兵ならそう言った物を求めても仕方ないと思いますよ。
 でも隊長は、本当に御剣 中尉の握手やサインが欲しくないんですか?」


「雨宮・・・、そんな物を貰って私にどうしろというのだ。」


「そんな物扱いは少し傷つくが、人に会うたびに握手やサインをするのは面倒なので、
 黒髪が綺麗な君の意見に賛成だ。」


「「「はぃ?」」」


話の対象が自分の噂話だった事に少し戸惑う事になったが、俺は当初の予定通り訓練兵に話しかけたのだ。

俺が話に割り込んだ事で戸惑いを見せていた訓練兵の小隊は、俺の階級に気が付いたのだろう、一斉に立ち上がり小隊長らしき少女の合図で、
俺に対して敬礼を行ってきた。


「中尉殿に対して、敬礼。」


俺は訓練兵達の敬礼に対して、食事のトレーを机に置いた後敬礼を返す事になった。

そして、俺は訓練兵達の直ぐ隣の席に座り話を再開するように促したのだが、訓練兵たちは緊張しているのかなかなか会話が弾む事は無かった。


「緊張するのは相手の事が分からないからだと思う。
 取り敢えず気を楽にして、自己紹介から始める事にしよう。

 俺の名は御剣 信綱、斯衛軍訓練兵時代に一回の実機訓練で瑞鶴をスクラップにしたという伝説を持つ男だ。」


俺の自己紹介を聞いた訓練兵たちは、なにやら心当たりがあったのか驚きの表情を見せた。


「訓練校を卒業後は、帝国軍の技術廠所属の独立機甲試験部隊に所属し、二週間ほど前まで大陸での作戦に参加していた。
 大陸での事は・・・、話が長くなるし噂である程度知っているようなので、省略する。

 今日は、大陸での戦いを君達の教官と話し合うために訓練校に来ている。
 そのついでに、訓練兵から面白い話が聞けないかと思い、君達に声をかけた。
 世間話をするつもりで、気楽に話をしてくれると助かるよ。」


俺はそう言って自己紹介を締めくくった後、緊張をほぐす為に微笑を浮かべ訓練兵を見回した。

それを見て安心してくれたのだろうか、訓練兵達から感じる緊張が幾分和らいだように感じた。


「俺への質問は後で受け付けるとしよう。
 次は、小隊長の君からどうぞ。」


俺は、小隊長らしき長い黒髪が綺麗な訓練兵に、自己紹介を行うように促す事にしたのだった。


「はっ、斯衛軍訓練校 衛士課程に所属する篁 唯依 訓練兵であります。
 高名な衛士である、中尉殿と会えて光栄です。」


「・・・・・・どこかで聞いた事がある名前だ。」



俺は篁 唯依という名前を聞いて、つい最近聞いた事がある名前だと感じ、首を傾げて考える事になった。


「中尉殿?」


「・・・。」


考え込んでいる俺の様子に、篁さんは戸惑い他の訓練兵はにわかに騒がしくなっていく。


「中尉殿、それはうちの隊長をナンパしているんですか?」


「な 何を言っているんだ貴様は!」


「別にナンパしている訳ではないのだが・・・。」


そうしている間に、小隊のムードメーカーらしき隊員が俺の不信な行動を見てからかって来た。

確かに、俺が呟いた台詞はナンパの手段としてよく使われている手なのかも知れない。

その後に、どこかで会った事ない?とか続けば完璧だろう。

俺はくだらない思考を行っているうちに、頭の隅に残っていた記憶が急に蘇って来た。

しかし、思い出した事をそのまま伝えても面白く無いと考えた俺は、ナンパだとからかってきた事への反撃も兼ねた言葉を発する事にした。


「そうだ・・・、巌谷少佐に見せられた御見合い写真の娘だ。」


「「「「中尉!?」」」」


一瞬呆けた表情を見せた後急に顔を赤らめた篁さんと、冗談で言った事がそれを超える現実を告げられ驚く他の隊員の姿は、
見ていてとても楽しいものだった。

俺はその様子に満足して、篁さんがこれ以上は無理だろうと言うほど顔を赤くした段階で、真実を伝える事にした。


「冗談だ。」


「「「「えっ!?」」」」


「昨日、巌谷 少佐と会って話をしていたのだが、そこでたまたま家族の話しになった時に写真を見せられただけだ。
 その時の写真が、少し前の写真だったので気が付くのが遅れてしまったが・・・。
 それと、巌谷 少佐が見合い相手を探しているという話は、今のところ聞いた事が無いぞ。」


「「「「・・・・・・。」」」」


「あれ?
 ここは笑うところ・・・だ・・・ろ!?」


俺は喋っている途中で、妙な圧迫感を感じその方向を見る事になった。


「中尉・・・、冗談も程々にしていただきたい。」


其処には、微笑を浮かべ怒りのオーラを撒き散らす黒髪の美少女がいた。

その微笑は、俺が先ほど浮かべたものとは違って、相手を威圧するものだったのだ。

他の訓練兵は、この威圧感に負け何もアクションを取る事ができなかったのだろう。

しかし、上官である俺が訓練兵如きの威圧感に負けるわけには・・・、負けるわけには・・・。


「すみません、つい出来心で・・・。
 今は反省しています。」


結局、篁さんの圧力に屈した俺は、平謝りするしか選択肢が残されていなかったのだ。

訓練兵に頭を下げる情け無い俺の姿に、訓練兵の間に残っていた緊張が一気に解けていく事になった。

そして、他の隊員の自己紹介が終わった後、話の話題は俺の事に関するものになっていった。









「中尉は、大陸での二年間で光線級の撃破数が2桁を超えているという話がありますが、
 本当ですか?」


「正確に数えている訳ではないが、たしか一年目で3桁に突入しているな。」


「凄い・・・。
 では、200回以上の出撃で被撃墜が0というのはどうですか?」


「あぁ、メインアームが何回か吹き飛んだ事はあるが、全て自力で帰還している。」


「で では、あの噂は・・・・・・・・・。」


訓練兵達の数々の質問に対して俺が応えた戦果は、質問をした訓練兵はおろか真面目だと思っていた、篁さんでさえ興奮の色を隠せないほど、
刺激的な内容だった様だ。

これは、実機に乗り始めた訓練兵によくある、エースパイロットへの憧れのためだろうか。

俺は、個人としての戦果に感心を寄せる訓練兵を見て懸念を覚え、それについて釘を刺しておくことにした。


「言っておくが、これらの戦果は優秀な仲間と性能のいい戦術機に支えられて達成した数字だ。
 決して俺一人で達成できた事だとは思ってもいない。
 もし称賛したいなら、俺個人ではなく整備兵を含む部隊全体を褒めてくれ。」


「ですが、要塞級の単独撃破数や出撃回数は部隊内でも格段に多いと聞きました。
 中尉が部隊内でも突出しているのは、間違いありませんよ。」


確かに、ソウル陥落後は部隊の疲労を考えて、2交代で任務に当たる必要が有るほど頻繁に出撃する必要に迫られ、
戦術機に乗ることがさほど苦痛にならない俺は、交代なしで任務に従事する事になったため、他の隊員と比べて戦果が多くなっている。

しかし、俺が本当に大切に思っている事は、それらの戦果とは異なっているため、明確にそれを指摘する事にした。


「・・・俺が最も誇っているのは、撃破数といった個人的な戦果ではない。
 僚機の被撃墜数が0、部隊長になってからは隊員の死亡が0である事だ。
 俺が単機で動くのは必要な時の数分間だけ、それも仲間が援護してくれるから可能なんだ。
 それに仲間がいなければ、戦場では補給もままならない・・・。
 俺が言いたい事は分かるか?」


「「「「はい・・・。」」」」


「それに、他の隊員と比べて技量が高い事は認めるが、
 それもそれに見合った訓練を行なう事で、得たものにすぎない。」


「では、中尉がどの様な訓練を行なっているか教えていただけないでしょうか?」


ここにきて、一度も質問する事がなかった篁さんから初めて質問が来た。


「別に特別な訓練をしているという認識は無いが・・・。
 ただ訓練時間が化物だとよく言われる。
 大陸では一日平均4時間、多い時で一日10時間の訓練をほぼ毎日やっていた。」


俺の発言を聞いて、息を呑む音が聞こえた。

この訓練時間は、過酷と言われる陸軍の衛士課程で行なわれる訓練時間を、実戦に関わりながらも毎日行なっていた事に驚いたのだろう。

俺は時間があればこの訓練を、実戦があった日も行なっている事で、化物と言われている訳だが・・・。


「ですが、お体は大丈夫なのですか?
 訓練での戦闘機動は一日2時間、長くても4時間までにするようにと指導されていますが・・・。」


「長時間に渡る訓練は、戦術機酔いをしないほど高い戦術機適正に支えられての事だが、
 小言を言う副隊長のお陰でバイタルデータを使った疲労のチェックはしっかり行なっている。
 それに、休暇中の今は訓練を休んでいるぞ。

 もちろん、同じ訓練を隊員に求めた事は一度も無い。
 訓練による疲労で、実戦中にミスをしましたでは、救いようが無いからな・・・。」


「それなら、良いのですが・・・。」


「君達に俺が言いたかった事は、どんな衛士でも仲間がいなければ戦場では生き残れないという事と、
 訓練を行なう事が強くなる最善の手段だという事だ。

 そして君達が今できる事は、仲間を大切にする事と短時間の訓練でも成果を出せるように、
 その内容・意義をよく理解して訓練を行なう事である。
 ・・・と言えば分かり易いかな?」


「「「「はっ。」」」」


「其処まで畏まらなくてもいいんだけど・・・。
 それに、君達には今までの衛士に無かった良い物が配備されている。
 EXAMシステムと言う新OSの開発理念を知っているかな?」


「「「・・・。」」」


「確か・・・、全ての衛士がエースやベテランと言われる衛士達と同じ動きを可能にするというのが、
 開発理念だと聞いています。」


「篁さんは凄いね。
 其処まで勉強してくれていると開発に関った者として、とても嬉しいよ。」


「いえ、叔父様から伺った事がありましたし、教官も少しだけですがその話に触れた事があったので・・・。
 中尉は、新OSの開発までされていたのでしょうか?」


「いや、御剣の人間として少し関係があっただけだよ。」


実際には、プロジェクトの監修を行なう等深く関っていることだったが、あまり詳しく話すと面倒な事になるので誤魔化すことにしたのだ。

それに開発したのは、開発担当者で俺が開発したというわけではないので、嘘をついている訳ではなかった。


「御剣としての俺は、エースパイロットと言われる者達がいなくなる事が、
 兵器開発における究極の目標だと思っている。
 その手段の一つが、新OSであるEXAMシステムなんだ。
 これにより、エースやベテランにしか出来なかった一部の技術が、新人の衛士でも可能になった。
 そして、今後の開発で新人衛士も操縦技術だけは、現在のエースと同レベルにまで高める事が出来るだろう。」


「確かに、旧OSと比べると格段に扱いやすくなったと聞きますが・・・。
 それでも、エースやベテランと言われる衛士に追いつけているとは思えません。」


「そうだな。
 俺が言ったのは、旧OSが使われていた時のエースやベテランに対してという事で、
 実際にはそうなっていない。
 何故だか分かるか?」


「エースやベテラン衛士は、新OSを取り入れ、更なる高みを目指しているからではないでしょうか。」


「正解だ。
 事実、新OS導入の初期こそ衛士間の技量差は縮まったが、最近はエース達が新しい戦闘方法を
 確立し始めたという話も聞くようになった。」


「本当ですか?
 それなら、何時までたっても追いつけそうにありませんよ。」


一人の隊員が、俺の言葉に対して弱音とも取れる発言をした。

それに対して、部隊長である篁さんはご立腹の様子だった。


「何を言っているんだ貴様は、それを乗り越える事に意味があるのだろう?」


「そんなに怒らなくても大丈夫だよ。
 しばらくすれば、エース達が考えた新しい戦闘方法も陳腐化する技術が導入される。
 そうなれば、立ち位置はエースも新人衛士も同じになる。
 其処からは個々の衛士しだいだ・・・。

 もしかしたら、若い君達が次代のエースになるかもしれないぞ。」


俺はそう言って、挑戦的な笑みを浮かべ訓練兵達を見渡した。


「この中から、俺の好敵手が現れる事を願っている。」


訓練兵達は、俺の発言に対して一様に感心し、決意を新たにしたような表情を見せていた。

俺は、その表情を見て彼等が道を誤ることは無いと感じたため、話題を切り替えることにしたのだった。







「俺個人の話はここまでにして、EXA「御剣中尉!」」


俺の言葉に被さる様に、背後から俺に対して声がかけられた。

俺がその声に反応して振り向くと、PXで合流する予定だった元教官が背後に立っていた。


「訓練兵時代に独断専行をする事があった貴方が、其処まで成長していた事を元教官として嬉しく思います。」


「そ そうですか・・・、ありがとうございます。」


俺は戸惑いながらも、教官に返事を返した。

確かに、俺の中で衛士に対する考え方は、訓練兵時代と変わっている。

特に隊長になってからは、個人的な強さよりも部隊全体での強さを求めるようになった事が一番の影響だろう。


「つきましては、他の衛士課程の訓練兵にも是非、先ほどのお話をしていただけないでしょうか?」


「えっ、午後からは軍曹たちと話し合いをする予定だったのでは?」


「その話し合いを訓練兵も交えて行なう事を提案しているのです。
 話し合いのために資料も用意されているのでしょう?」


「確かに映像資料もそろっているし、話をする事は可能ですけど・・・。
 訓練を中止する事になりますし、現役衛士が勝手に訓練に関る事が可能なんですか?」


「個人的な戦果を強調する衛士ならともかく、
 中尉のような衛士の話なら、訓練を中止してでも聞く価値があります。
 それに、今から校長に掛け合って許可を取りますので問題はありません。」


「しかし、心の準備が・・・。」


まさか、衛士課程の訓練兵全員の前で話をする事を提案されるとは夢にも思っていなかった。

会社の関係で、少人数との会話や会議には慣れているが、多くの人の前で話をする経験はそれほど多く持っているわけではなかった。


「篁 訓練兵!」


「はっ。」


「1300より、衛士課程に所属する訓練兵全てを集め、特別講演を行なう。
 貴様は小隊を率いて、中尉殿を大講堂に案内し講演に必要な準備を整えろ。」


「はっ!」


「そして、貴様は中尉が逃げ出さぬよう、監視を行なえ。」


「教官殿、発言を許可していただけないでしょうか?」


「許す。」


「ありがとうございます。
 教官殿や私達訓練兵には、中尉殿を拘束する権限がありませんがどのようにしたらよろしいのでしょうか?」


「ふむ、いい質問だ。
 確かに権限は無いので、こちらからはお願いをする事しかできない。
 だが中尉殿とて人間であり、男だ。
 可愛い後輩の願いを無碍に出来るはずは無い。
 万が一、任務に失敗した場合は、貴様等に辛い罰を与える事になる。
 よく考えて行動しろ。」


「了解いたしました、教官殿。」


そう言って、元教官は足早にPXから立ち去っていった。

教官が言い残した『よく考えて行動しろ。』は、訓練兵に対してというより俺に向けた言葉だったように感じた。


「御剣 中尉、私達について来ていただけませんか?」


俺は、篁さんの困りきった表情でされたお願いに抗う気力が湧かず、おとなしく講演の準備をする事にしたのだった。










俺が行う講演は簡単な自己紹介を行なった後、大陸での戦闘映像を映し出す事で始まっていった。

その映像では、広報で採用された見栄えの良い華々しい活躍では無く、大量のBETAに押されて後退を続ける戦術機部隊が映し出されていた。

この映像は、主にソウル陥落後の絶望的な撤退戦のもので、訓練兵用に音声がカットされているとはいえ、
訓練兵に衝撃を与えるには十分な迫力を持っていた。

この時初めて、大陸での戦闘がシミュレーターで行なわれる訓練以上に理不尽なものである事を、訓練兵達は認識する事になったのだ。

そして、映像は光州作戦での戦闘に移っていく。

この時の映像は、よく広報に使われる戦闘であったが、俺の用意した物は広報の物と比べると違和感があるものだった。

その違和感の正体は、俺が活躍する部分よりもロンド・ベル隊の部隊連携や鞍馬の運用とその戦果に、
大きな焦点が当てられていたために起きるものだった。

俺はこの部分で、BETAとの戦争で重視すべき事が、組織された部隊がいかに連携して戦闘を行なうかであり、
過度に個人的な技量を重視すべきではない事を伝えたかったのだ。

ショッキングな映像が終わった後、大規模戦闘の映像を始めてみる訓練兵はもちろんの事、一部の教官でさえ言葉を失っていた。

それを見た俺は、15分の休憩を取ることにした。

そして、休憩の後は主に教官から出される質問に俺が応える形で話が進んでいく。

その内容は、戦術機の戦術論・部隊運営・大陸での戦術機の整備状況・訓練方法等、多岐に渡っていた。

その対話方式の講演に、講堂の中は次第に熱気に包まれていった。

それもそうだろう、この講堂には衛士課程の訓練兵以外にも噂を聞いて駆けつけた、他の課程に所属する訓練兵や教官も来ており、
立ち見も出ている状況だったのだ。

また、PXでした時よりも熱の入った話に、一度その話を聞いているはずの篁さんの小隊でさえ、目を輝かせて聞いていた。

そして話題は、衛士の命題の一つである『死の八分』についてのものに移っていく。

そこで俺は、朝鮮半島撤退作戦に参加した斯衛軍部隊が、半数以上の対BETA戦初参加の者を抱えていたにもかかわらず、
新人の8割が死の八分を超えるという快挙を成し遂げたという話をする事になった。

そして、これを手本にする事ができれば、多くの衛士が死の八分を越える事が可能になると提言をしたのだ。

しかし、この事は全ての部隊が斯衛軍部隊と同じ事をするのは、不可能である事を伝える事と同義でもあった。

斯衛軍部隊に所属していた新人の多くが、死の八分を越えられた理由は以下の3点にある。

1.部隊が精鋭で知られる斯衛軍の中でも最精鋭と言われる部隊であった。
2.BETA戦経験者が部隊の要所に配置されていた。
3.運用する戦術機が、現時点で国内最強の不知火・壱型乙であった。

陸軍では、新人の衛士のみで構成された部隊すら存在する中で、これらの条件をクリアする部隊は早々あるものではなかった。

したがって、この事が現状では不可能であると考えられていたのだ。

しかし、今後衛士の帰還率が上昇しベテランを数多く確保する事ができ、優秀な戦術機が全ての衛士に行き渡る事になれば、
死の八分を越える事が不可能ではないと言う事も同時に示していた。

そして、最後の質問となった訓練兵からの質問は、俺が死の八分を超えた時の事を聞かせてほしいという事だった。

俺は自分が特殊な環境で育ったため、あまり参考になるとは思えないと前置きをした上で、自らの体験を語る事になる。


 「当時の私は、噂に聞く死の八分を超える事は可能であると考えていました。
 もちろん、その自信を身に付けるに足る、長きに渡る鍛錬を積み、高い水準の操縦技術を会得していると認識していました。
 
 そして私が死の八分を超えた時、当時の自分の感覚としてはあっけなく終わったと感じる程度のものでした。
 初陣の私は、興奮し頭に血が上りながらも、体は確実に目の前にいるBETAに攻撃を加えていたのです。
 私は、頭に血が上っている状態でもそれになりに動けており、冷静さを取り戻した後は訓練の時と変わらない
 動きが出来ていたと自負していました。

 しかし、帰還後の戦闘履歴を見ると戦闘開始後の数分間は、まったく動けていなかった事に気付かされたのです。
 その間の私は、目の前のBETAを攻撃する事に夢中で、其の他のBETAが目に入っておらず、
 先任の援護により危ないところを助けられていた事にすら、気付けていなかったのです。
 その事を先任に告げ礼を言うと、『動けなくなる奴や味方を撃つ奴と比べると大分ましだった。』と返されました。

 私は自らの実体験と各種統計から、先ほど話したように死の八分を超える為には、
 新人衛士を援護できる位置にベテランの衛士がいる事の重要性と、
 新人衛士が最低限戦えるための技術と精神力を身につけている必要があると思ったのです。
 そして、其処に優秀な戦術機がそろえば死の八分を超える可能性は飛躍的に高まるでしょう。

 君達訓練兵が今なすべき事は、いかに訓練で身に付けた事を実戦で発揮できる状況を作り出すか、
 と言う事に尽きると思います。
 訓練と同じような動きを実戦で行う方法は、二通りしかありません。
 一つ目は、自らの精神力で恐怖と緊張に勝つ方法。
 二つ目は、脊髄反射で行動するようになるまで、訓練を行うという方法です。
 
 一つ目の方法は、ベテラン衛士でもなかなかできる事ではありません。
 したがって、訓練兵の君達には事実上、二つ目の方法しか残されていないのです。
 
 もちろん、君達が全力で訓練に取り組んでいないと言うつもりはない。
 しかし、『まだやれる。』と少しでも感じたのなら、迷わず立ち向かって欲しい。
 訓練の間だけでも、訓練のみが己と回りにいる仲間を救う手段だと考えて欲しいのだ。

 これから厳しい戦場に立つことになるだろう。
 そこで貴様等が生き残り、次の代を導く存在となる事を願い、俺の話は終わりにする。

 御清聴ありがとうございました。」

俺はそう言って、講演を終えたのだった。










俺は見送りをするという教官の申し出を断った後、精神的な疲労を感じながら訓練校を後にする事になった。

そして、訓練校の外に待機していた車に向かう途中、グラウンドで複数の訓練兵が教官と格闘の訓練をしている姿が見えた。

その様子からは、おそらく今年入校した人物であることが推測された。

俺がそのグラウンドをと通り過ぎようとした時、どこかで聞いた事がある声が聞こえた。


「こうなったら、あれ行くよ~」


「「おーーッ!!」」


「「「絶技! 噴射気流殺ゥ~~~!!」」」


「「「わ~~~!!」」」


「馬鹿者! わざわざ技の名前を叫んで攻撃するな!!」


「「「うあ~~~っ!」」」


教官に容易に蹴散らされた、三人の訓練兵が知り合いであった事に気付いた俺は、思わずため息交じりの独り言を呟く事になった


「何をやっているんだ、あの三馬鹿は・・・。」




******************************************************************************************************

コメント

皆様、いつもご指摘・ご感想・ご意見を投稿板に書いていただき、ありがとうございます。
先週は、戦術機設定集の作成に予想以上の時間を取られてしまったため、新話の更新ができませんでした。
また、諸所の事情により時間が確保できなかったためにこの話投稿が遅れてしまいました。
申し訳ありません。

そして、今週も忙しい状況が続きますので来週の投稿は絶望的です。
感想板に書き込む程度の時間は確保できるかもしれませんが、返信が遅れてしまうかもしれません。

当初の予定より、投稿が遅れてご迷惑をお掛けしています。
しばらくこのような状況が続く可能性も有りますが、この作品を忘れないでいただけたら幸いです。


この話で初登場した篁唯依さんですが、この作品での設定では速瀬・涼宮姉と同世代で
2001年(オルタ開始時)に20歳、2000年(TE時)19歳という設定になっています。

訂正して、宗像さんと同世代の2001年(TE&オルタ開始時)に19歳、という設定になっています。

そして、3馬鹿は原作主人公達の一つ上、風間さんと同世代の2001年(オルタ開始時)に18~19歳
となっています。
特に3馬鹿の年齢が不詳のため、これでいいのか不安です。

そして、私の持っている資料では篁さんの父が死亡した時期が分からないため、
訓練兵時代の篁さんが鬱状態である可能性も残されています。
早くその部分がTEで描写されて単行本にならないかと期待しています。

主人公の長話・・・上手く思いが伝えられたか心配ですが、今の私にはこれが精一杯です。
もっと腕を上げる必要があると痛感しております。


返信

今回も皆様から、様々なご意見をいただいておりますが、あまりに多すぎて返信だけで字数を稼いでしまいそうなので、
いくつかを選択しての控えめな返信にさせていただきます。
選択から漏れてしまった皆様には、大変申し訳ない事をしていると思いますが、全てのご意見・ご感想に目を通していますので、
その点はご理解いただけたら幸いです。


大空寺ですか・・・。
初期のプロットでは、オリジナル主人公(御剣とは無関係)がお金を稼ぐ手段として、大空寺財閥に関って行くという設定を考えた事がありました。
アユマユ オルタネイティヴの存在と君望andアユマユ系をやっていない私としては手を出し難い部分です。
公式に設定されていない部分ならいくらでもいじれるのですが・・・。
アユマユ独自の特殊な設定を取り入れると可笑しな事になりそうなので、特殊な設定を除く事で大空寺系統を出す事が出来るかもしれません。
今後の課題として、真剣に検討してみたいと思います。

政治への介入・・・
榊おじさん以外にあまり政治家が居ないのでどう扱うか難しいところです。

戦術機の兵装・・・。
対人戦やエース用を意識すれば、色々な装備が採用できるのですが。
誰でも使えて物量に対抗できるという事を意識すると、あまりいいアイデアが浮かびません。
何とか皆様の意見も参考にしながら考えて行きたいと思います。

戦術機以外の兵器・・・。
考えてはいるのですが、今のところ革新的な開発プランが思い浮かびません。
歩兵装備・強化外骨格・船舶・戦車 等色々やらねばいけないことが山積しております。
御剣財閥は、戦術機系統以外はあまり強くないとかで逃げる事もできますが・・・、何とか知恵を搾り出したいと思います。

F-5の四足歩行化・・・。
小型・軽量のF-5では、重装甲のF-4と比べてフレーム・関節強度の関係から、重装備が難しいかも知れません。
それに欧州には、A-10 サンダーボルトⅡが居ますし・・・。

近・中・遠距離に特化した機体・・・。
コストの事を考えると、どの局面でも装備を変えるだけで対応できる現状の戦術機は、それなりに出来た原作設定だと思います。
敵の数が少ない対人戦なら特化型の機体もいいかもしれません。
ただし、オプションバーツを駆使して簡易改修を行う案は面白かもしれません。

海神近代改修案・・・
原作であまり日の目を見る事の無かったA-6・・・、上手く使えばいい設定が出来るかも知れません。
水陸両用は男のロマンの一つでもありますしね。

ボール,ローラー,チェーンソー・とうもろこしの刈入れ機・・・
混ぜると面白いアイデアが降臨しそうです。

武御雷・・・
このまま進めば原作とは異なる形になるとは思うのですが、詳しい設定はまだ煮詰めていません。
少しアイデアは出来たので、それが採用できないか検討中です。

X-29・・・。
設定的にかなりアンダーグラウンドな開発だったようなので、拾うのは難しそうです。
それに、個人的に好きなSu-37,Su-47の事を考えるとスルーしたい気もします。

陽炎・・・
この作品では、殆ど試験導入だけで大きな広がりを見せていません・・・。
早めに吹雪が量産されてしまったので、扱いに悩んでいます。



皆様が頑張って感想板に書き込んでくれた物の中に、やりたかった事が幾つか書かれていて焦っています。
私がもっと早く、本作を書き進める事が出来ていれば、こんな事にはならなかったのですが・・・。
しかし、皆様の想定以上の事を考えてこそ、真の物書きに成れると思っています。
これからも無い知恵を絞って何とかして行きたいと考えていますので、気侭に感想板への書き込みを
続けていただけると幸いです。

P.S.
拾いきれなかったご意見の中には、やりたかった事に近いため、あえて拾わなかったご意見もあります。



[16427] 第20話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/07/10 09:57




俺が横浜に移動した部隊と離れ、京都で休暇を過ごしている事にはそれなりの理由があった。

その理由とは、大陸に渡る前にしたある約束の返事を貰うためという酷く個人的なものだった。

ただし、仕事を滞る事無く進めているし、この休暇逃すと一年以上会う時間が取れそうにないのだから、情状酌量の余地はあると思っている。

もっとも、部隊の皆には京都にある御剣財閥関連の部署や、斯衛軍訓練校に行くとだけ説明していたが・・・。

今日は、その相手が漸く休暇が取れたというので、昼から都内を観光し夕食を共にする事になっていた。

しかし、俺には昼までに残された6時間の間に、御剣重工帝都支社の一室に積まれた資料の山をどうにかして、
処理するという試練が待ち受けていたのだ。

幸いにも初日と比べて量が1/5になり、優先順位を決める時に内容を軽く見るついでにメモを貼り付けているので、
何とか時間内に終える事が出来そうではあった。


「出来れば早めに終わらせて、
 仮眠を取ってシャワーを浴びたいところだが・・・、厳しいかな?」


「・・・これが話に聞いた、信綱の引篭もりか。」


「信綱・・・、少しやつれていないか?」


今、室内には俺しかいないはずなのに、他人の声が聞こえたのは気のせいだろうか。

俺は、慌てて気配を探ると同時に、PCの画面から目を離し室内を見渡した。


「・・・真耶マヤ、・・・真那マナ
 会うのは昼からの約束じゃなかったか?」


「今日と明日の二日間は、休暇になっているので時間があったのだ。
 それに、お前が無茶をしているという情報を得たのでな・・・。」


「そこで予定より早く来て見れば・・・。
 予想通り、信綱は無茶をしていたと言う訳だ。」


何と、室内に侵入していたのは真耶マヤ真那マナだったのだ。

どうやら俺の事を心配して、態々約束よりも早く御剣重工帝都支社に来てくれたらしい。

俺は、まったく警戒していなかったとはいえ、室内への侵入に気が付かなかった事に、勘が鈍ったかなと考えながらも二人の言葉に返事を返す事にした。


「無茶をしている認識は無いぞ。
 一日の徹夜ぐらいでどうにかなる体ではないからな。」


「確かに、一日の徹夜でどうにかなることはないと思ってはいるが・・・。」


「では休暇に入ってから合計で、何時間の睡眠を取ったのだ?」


「・・・・・・。」


ここで俺が出すべき答えは、六日間で合計9時間,一日平均で一時間半だ。

更に訓練校に行く事がなければ、もっと睡眠時間は短くなっていた事だろう。

俺は、その事がばれると後々面倒な事になると考え、何とか誤魔化すべく言葉を発した。


「そう言えば、よくこの部屋まで入れたな?
 それなりにセキュリティーが厳しい筈なんだけど・・・。」


「・・・昔横浜に勤務していた社員と偶然入口で出会ったのだ。
 その人が快く案内してくれた。」


「子供の頃は、三人でよく会社に顔を出していたからな。
 そこで私達の顔を覚えてくれていたのだろう。」


「じゃあ、どこ・・・「「信綱!!」」


「「一日、何時間寝ていたのよ!」」


「すみません。一日、一時間半くらいです。」


俺は、二人の放つ雰囲気と言葉に反応して、条件反射的に正直な答えを返してしまっていた。

これが男なら問題なく誤魔化せる自信があるのだが、どうやら俺は女性に強く迫られる事になれていないらしく、
どうしても誤魔化す事が出来ないのだ。

俺はこの時、失敗したという感情が表情として出ていたため、更に二人の感情を逆なでする事になったのだった。










真耶マヤ真那マナは睡眠時間が短すぎると怒った後、今している仕事を早々に終わらせて睡眠をとらすという結論に至ったようだった。

幸いにも、機密の高いものは優先して終わらせているので、この場所にあるのは外部に盛れても問題の無い書類しか残っていなかった。

俺は早速、二人に資料とメモ,御剣電気が開発したノート型PCを渡し書類の作成と添削をしてもらう事にした。

俺達は所々に会話を挟みながらも、作業を行なっていった。


「そう言えば、俺が引篭もりをしているなんて、どこからその情報を得たんだ?」


「香具夜さんから聞いたのだ。」


「信綱との連絡が取れなくなったから、また引篭もりをしているはずじゃ・・・とな。」


質問をした俺は、薄々情報源に気が付いていたがどうしても聞かずにはいられなかったのだ。

その理由は、俺が次に発した言葉に全てが込められていた。


「何時の間に連絡を取り合う仲になったんだ?
 まだ、一回しか会っていない筈なのに・・・。」


「互いに思うところがあったのだ。
 詳しくは聞くな。」


「色々あって、今の所は情報の共有を行なっているのだ。
 互いに、信綱が変な事をしないか監視する事にもなっている。」


真耶マヤッ!」


真那マナ・・・。
 香具夜さんの方が普段から近くにいるのよ・・・。
 私達は、少し自己主張する位で丁度いいのよ。」


二人が軽く睨み合いを始めたのを見た俺は、意識をこちら側に向けさせる事で睨み合いを止めさせようと、
二人の間に割り込むようにして言葉を発した。


「別に監視なんてしなくても、自分の限界は理解しているつもりだ。
 心配しなくても、大丈夫だよ。」


「「(私達が心配しているのは、それ以外の事なのだが・・・。)」」


「・・・どうしたんだ二人とも。」


「「お前は、気にしなくてもいい。」」


俺は二人の言葉に従い、再び資料に対する意見書をまとめる事に取り掛かった。

今見ている資料は、戦術機の生産状況に関する資料だった。

現在、国内で一番生産数が多いのは、岐阜・愛知・静岡県にまたがる中京工業地帯である。

おおよそ国内生産の半分が集中する事から、もしこの地域に被害が及ぶと帝国は一気に苦しくなると考えられていた。

俺はこの危険性を指摘し、以前から千葉・茨城等の太平洋に面する東関東地方や福島などの南東北地方で、
戦術機等の兵器類や工業製品の生産を行なうように指示をしてきたのだ。

ただし帰国して調べてみると、今年に入り漸く福島県の戦術機生産工場が完成したという段階で、思っていたより生産拠点の移動は行なわれていなかった。

しかしそれも、俺の帰国と九州の警戒レベルの引き上げを受けて、一気に流れが変わる事になった。

明確なBETAの脅威を感じる事になった幹部が、一斉に生産拠点の移動に賛成したのだ。

その議決を受けて、この度九州にあった工場は社員とその家族と一緒に、全て福島県に移転させる事が決定したのだ。

俺はこの決定に満足し、中国・四国地方の工場移転も検討する事と、社員への十分な保障を行なうようにという意見書を書く事にした。

また、戦術機の生産は国内以外でも進められていた。

それは、F-4Eファントム・鞍馬のオーストラリアでの生産で、今はオーストラリア工場の拡充を急いでいたのだ。

このオーストラリア工場拡充計画は、本土防衛戦の時に発生するであろう国内の避難民を、本格的に移民させるための下地作りにもなっているのだった。


「そう言えば、私達がお前の仕事を手伝ってもいいのか?」


「・・・拙いかもしれない。」


「「なに!?」」


「だが・・・将来嫁になってくれるのなら、大丈夫になるかもしれないぞ?」


俺は意地悪そうな顔をして二人を見つめた。

二人は俺の表情と台詞から冗談である事が分かったのか、怒りの表情を見せいていた。

ただし、可愛らしく頬を赤らめて怒っていては、今一迫力に欠ける怒り方ではあったのだが・・・。

俺は二人を何とかなだめると、次の資料に目を移した。

最後の資料は、食糧生産についてのものだった。

元々食料自給率が低かった日本帝国内では、国民を全て満足させる食料を生産する事は難しかった。

更に、九州地方の警戒態勢が引き上げられた事を受け、今後食料生産に支障が出ると考えられていたのだ。

それを補うための切り札が、以前から取り組んでいた工場での食糧生産だった。

御剣財閥はオーストラリアで日本からの移民を募って、食糧の生産を開始していたのだ。

財政上豊かな土地を購入するほど潤沢な資金が有る訳ではなかったが、工場での食糧生産を行なう予定だった御剣財閥が購入したのは、
地価の安い砂漠地帯と沿岸部の一部であったため、投資する資金を減らす事が出来たのだった。

これを聞いた者は一様に、飛行場や兵器工場を建設すると考え、誰一人として食糧生産工場を作ると考える者はいなかった。

それもそうであろう、当時の常識では砂漠で食料を生産しようなどと誰も考えつかなかったのだ。

通常は食糧生産に適さない砂漠だが、御剣財閥がこれまでに蓄積してきた技術の粋を集める事で、
この地域は合成食料の一大食料生産工場になっていく。

御剣財閥が始めにしたのは、真水生成工場をオーストラリア沿岸部に建造する事だった。

この真水生成工場は、昔から行なっていた海水淡水化技術への投資が実を結んだ結果である。

そして、次に行なったのが其処から得られる水を使って、水耕栽培による植物工場を稼動させる事だった。

砂漠という環境は、雨や曇りの日が少ない事で多くの採光を取り入れる事が出来き、夜間は太陽光発電を行なう事で溜めた電力を使って人工光を発生させ、
植物の成長を促す事で非常に効率よく植物を栽培する事が出来たのだ。

後は、海から得られる魚介類などの水産資源と合成たんぱく質を混ぜ合わせる事で、御剣財閥の合成食料生産工場は稼働して行く事になった。

なお、ここでは贅沢品として穀物や野菜の生産も行なわれており、余った水を使って砂漠地帯の緑化にも勤めている。

現在、合成食料の供給はアジア地域を中心に行なわれており、日本帝国内にはあまり輸入されていない。

これらの工場は、移民のオーストラリア国内での雇用を確保する事にも役だっており、使い道のなかった砂漠が金を生む事からも、
現地政府の受けが良い事業だった。

日本がこれらの行動によって、アジア・オセアニア地域と強い友好関係を結ぶ事を、米国やソ連は面白くないと思っているようだったが、
彼等が食料や移民の問題を解決する事が出来ない以上、他国への強力な介入が出来るものではなかった。

俺は、食糧生産の更なる拡充を狙って、西日本を中心に国内で移民を募る事や、国内に残る耕作放棄地を大規模に運用する事を提案し、
必要なら政治家に働きかけ法律を整備する事も考えるように、という意見書を作成する事になった。

この意見書をまとめ終え、二人が作ってくれたものに一通り目を通し終えた時、時間は10時丁度を指していた。

二人の補佐によって、当初の予定より二時間ほど早く仕事を終わらせる事ができた俺は、仮眠室で睡眠をとる事になった。


「約束通り昼まで仮眠を取るから、昼になったら起こしてくれ。
 それまでは好きにしてくれていいよ。
 ・・・何なら誰かに社内を案内させようか?」


真那マナと一緒に御茶を楽しませてもらうから問題はない。
 お前は気にせず寝ていろ。
 ・・・真那マナもそれでいいわよね?」


「あぁ、それで問題ない。
 信綱・・・時間が無いから早く寝ろ。」


「じゃあ、お休み~。」


俺は二人の言葉に甘えて、そのまま仮眠室のベッドに倒れこむように寝転んだ。

仮眠室に漂う男臭い空気の中から、かすかに女性の匂いを嗅ぎ取った俺は、その匂いに興奮するよりも先に心が落ち着くのを感じ、
意識を手放す事になった。










次に俺が意識を取り戻した時、俺は真那マナに膝枕をされている状況に陥っていた。

一瞬何が起こっているのか分からなかったが、頭と首筋に感じる柔らかさに、このままでもいいかもしれないという思考に捕らわれる事になった。

その間の俺は、二人の入室に気が付かなかった事と今回の膝枕に反応できなかった事から、親しくなった者に対しては
極端に警戒心が薄くなるのでは無いかと、真剣に考える素振りを見せながら真那マナの膝の感触を楽しんでいたのだった。

しかし、何時までもこのままにしておくわけにも行かないため、真那マナに声をかける事にした。


真那マナ・・・、足は痺れないのか?」


声に反応し俺の顔を凝視した真那マナは、その数瞬後小さな悲鳴を上げて急に立ち上がった。

真那マナが立ち上がった事で体を押され、ベッドの上を転がる事になった俺は、見事にベッドの上から転落する事になった。


「痛いじゃないか、真那マナ。」


「きゅ 急に起きる信綱が悪いのよ。
 起きる前に一言言ってくれてもいいじゃない。」


「さすがに寝ている時に、『そろそろ、起きますよ。』と喋れるほど人間やめてないぞ。」


「それでも、私にも心の準備というものがある!」


「それはそうと・・・、どうして膝枕をしてくれていたんだ?」


「それは・・・、それは・・・・・・、「ずれた布団を直してやろうと近づいたら、無理やりベッドに引き込まれて膝枕を強要されたのだ・・・。
(尤も、その後膝枕の役割を一時間毎に交代していた事は教えられないが・・・。)」」


「はぁ!?」「真耶マヤ!?」


「信綱・・・、寝ている間のお前には抱きつき癖があるのだろう?
 (真那マナ・・・、こう言えばいいのよ。)」


「(そ、そうね……。)」


俺は真耶マヤから告げられた事実に驚愕する事になった。

それは、驚きのあまり二人が何かを囁きあっている事もまったく気にならないほどだった。

香具夜さんの時も似たような事があった事を思い出した俺は、自分の駄目さか加減に頭を抱える事になる。


「安心しろ・・・、今のところ男に抱きついたという報告は受けていないし、
 お前を誰かが訴えようとする動きも無い。」


真耶マヤさん、その言い方だとまったく安心できないのですが・・・。」


真耶マヤの余計な補足説明に更に頭を抱える事に俺だったが、重要な事を思い出した事で、
気を引き締めて話題を切り替えることにした。


「そういえば・・・、今は何時だ?
 そろそろ出かける時間になっていると思うのだが・・・。」


「何を言っているんだお前は、もう16時を回っているぞ。」


「えッ・・・、もう一度お願いします。」


「だから、もう午後4時を回っていると言っている。」


 なんてこった・・・、睡眠時間6時間オーバー・・・。

 昼から都内を観光しながら昼食を取り、気分を盛り上げた状態でメインイベントに突入するという俺の完璧なプランが・・・。

「完璧なプランが、始まる前から崩壊してしまった・・・。」


俺は予定が大幅に狂った事を認識した時点で、崩れ落ち床に膝を付いてうな垂れる事になった。


「完璧なプランが何かは知らないが・・・、まだ今日が終わったわけではないわ。」


「お前に誠意があるのなら、精一杯それを見せてくれればいいのよ。」


「ありがとう二人とも・・・。」


「「信綱は、ずぼらだから仕方ないわ。」」


俺は二人の納得の仕方に引っかかるところがあったが、それを無視して行動を急ぐ事にした。

急遽計画を変更した俺は、二人を連れて最終目的地であった京都の老舗旅館に足を運び、そこで風呂に入り軽く汗を流した後、早めの夕食を取る事になった。

そして、食事を楽しんだ後はいよいよ今日の目的である訓練校での告白の返事を聞くことにしたのだった。


「二人とも・・・、単刀直入に言うよ。
 大陸で二年間を過ごした今でも、二人への気持ちは変わらない。
 真耶マヤ真那マナ、訓練校で別れる時に言った事の返事・・・・・・聞かせて貰えないか?」


俺は、真剣な目で二人の瞳を交互に見つめた。

それに対して、旅館に入ってから口数が少なくなっていた二人が、ゆっくりと言葉を発した。


「・・・信綱の告白に答える前に、いくつか質問がある。」


「・・・それに答えたら、私達も返事を返そう。」


「そうだね・・・、聞きたい事があるなら何でも質問してくれ。
 出来る限り答えるから・・・。」


「どうして、私か真那マナのどちらかではなく、二人なのだ?」


「正直に言うと自分でも良くわからない・・・。
 気が付いたら二人の事が好きになっていたし、一人を選ぶなんて考えられなくなっていたんだ。
 複数の人を同時に好きになる事が、良くない事だというのは理解出来るけど・・・、
 諦められるほど人間が出来ていないんだよ。」


俺の返事に対して、真耶マヤは呆れたような深いため息をついた。

先ほどの発言通り、二人を好きになった理由は良くわからない。

顔が可愛いとか、性格が好みだとかいくらでも理由を付ける事が出来るが、どれも後付の理由に思えてしまうのだ。

しかし、一人を選択できなかった理由には心当たりがあった。

様々な兵法書を読んでいく中で身に付けた、正攻法が無理ならその前提条件からひっくり返す事で状況を打破するという思想が、
二人と同時に付き合える可能性を導き出していたため、本気で一人を選ぼうという気持ちになれなかったのだ。

尤も、ここで導き出した方法は、相手の同意や法律などの問題があり、自分でも可能性が高いと思えるものでは無かった。

そして次は、真那マナからの質問に答える事になった。


「・・・、私達以外に好きな女はいないと断言できるか?」


「今のところはいないよ。
 ただ・・・、二人を同時に好きになったという前科がある以上、将来の事を断言する自信はない。
 俺が胸を張って言えるのは、他の誰かを好きになったとしても二人への気持ちは変わらないという事だけだ・・・。」


「信綱・・・、本気で言っているのか?」


「あぁ。
 余りほめられたものではないという自覚は有ると言っただろう。
 今の俺は、嘘をつかない事でしか誠意を見せられない・・・。」


俺はそう言って真那マナの真剣な眼差しを正面から受け止めた。

しばらくの間俺の目を見つめ続けていた真那マナだったが、急に頬を赤らめ顔をそらす事になった。

顔をそらした事についてたずねようとした俺に、真耶マヤからの質問が投げかけられる。


「もし、三人で交際を始めようとしても、父上達が許してくれないぞ。」


「記憶が確かなら、二人が無現鬼道流に入門した当初、
 月詠家の当主・・・二人にとっての祖父は、『どちらか片方なら嫁にやってもいい。』と言ったらしい・・・。
 それに俺の祖父さんもその話に乗り気だった。

 心変わりしていなければ、御剣家と月詠家の婚姻は問題ないだろう。
 後は、相手が二人になった事だが・・・。
 如何にかして説得するしかないだろう。
 幸いにも、月詠家には真那マナの兄さんが残っているから、跡継ぎ問題にはならないよ。」


「「御爺様・・・。」」


二人は、祖父がそのような時期からそういった事を考えていた事に驚きを隠せない様子だった。


「正面から行って駄目だと言われたら・・・、搦め手で行くしかない。

 世界を平和にした後にイスラム圏に引っ越すか、
 法律を改正して結婚という既成事実を作るというのはどうだ?

 さすがに其処まで話が進めば、誰も反対できないだろ。」


「できるなら、国外に永住する事は避けたいわね・・・。」


「そうよね、改宗する事にも抵抗があるし・・・。」


「なら法改正しかないのか?
 誰か上手く話をまとめられそうな政治家がいたかな・・・。

 そう言えば・・・、
 さっきから質問が付き合う事を前提としたものになっている気がするのですが・・・。」


二人は俺の発言に対して、ばつが悪そうな表情を見せた後、取り繕うように反撃してきた。


「信綱の事だ、法律を改正しようというのも合法的に他の女に手を出すための口実作りだろう。」


「そうだ、堂々と複数の女性に手を出そうと考える男にそう易々と惚れるほど、私達は易い女では無いぞ。」


そして、二人は俺に対して『馬鹿につける薬は無い。』と言ってきた。

しかし、二人の様子を良く見てみると本気で怒っている雰囲気ではなかった。

どちらかと言えば、拗ねているとも取れる二人の反応に、後一押しが有れば何とかなるかもしれないと感じた俺は、
これで上手くいかなければしばらく付き合うのはお預けだろうと考えつつ、小さな箱を取り出した。


「どちらか一人を諦めるとか、両方と付き合わないという選択肢は俺にはない。
 俺が出来るのは、二人と付き合うに足る漢となるように、努力し続ける事だけだ。

 ・・・聞いた話だと、欧米では婚約や結婚の証に指輪を送るらしい。
 本当は正式な結納を交わしたいところだけど、今はこれが精一杯だ。
 真那マナ真耶マヤ、俺と結婚しよう。」 
 

そう言って俺は、箱の蓋を開けこの日の為に用意していた指輪・・・、俗に言う婚約指輪を二人の前に取り出した。

その指輪は、指輪の内側に文字が彫られているだけの飾り気の無い銀色のリングだった。

始めは宝石を散りばめる事も考えたのだが、いつも身に付けておいて欲しいという願いを込めて今のような形に落ち着いたのだ。

俺は無言でこちらを凝視する二人の左手を取り、恐る恐るその薬指に指輪をはめていった。

その指輪は、目測で指のサイズを測った割には、きれいに二人の指に収まってくれた。

二人は呆けていたためだろうか、嫌がる素振りを見せず素直に受け取ってくれたのだった。


「俺は欲張りなんだ、一人に決めるなんて事はできそうに無い。
 もう一度言うよ、御剣 信綱は月詠 真耶マヤと月詠 真那マナの事を愛している。」


二人は俺の言葉に返事を返すことは無く、しばらくの間顔を俯けたままだった。

あまりにも反応の無い二人の様子に、恋愛経験が豊富とは言いがたい俺は狼狽する事になった。


 やばい・・・、焦りすぎたのか?
 いきなり婚約や結婚の話をしたのは早かったか・・・


俺の焦りをよそに、二人は漸く口を開き喋りだした。


真耶マヤ・・・。
 何れ決着を付けると言っていた話・・・、一時休戦というのはどう?」


「そうね・・・、真那マナとの決着を先送りにするのは残念だが・・・。
 信綱がだらしないせいで、決着はしばらく付けられそうに無いし・・・。」


「えっと・・・、二人の言いたい事がよく分からなかったのですが・・・。
 二人の結論は?」


「「婚約の話・・・、お受けいたします。」」


二人はそう言って、三つ指をついて俺に対する返事を返してきたのだった。


「・・・・・・。」


「「・・・・・・。」」


「うおぉぉぉぉー、やった、やったぞー!!」


俺は、二人の返事に思わず歓喜の声を挙げることになった。

この時が、この世界で生まれて苦節20年、初めて恋人がいない生活から脱出した瞬間だった。

この時の俺は、出来たのが恋人を通り過ぎた婚約者であると言う事にも、まったく気が付かないほど感激する出来事だったのだ。

昔は心が枯れる事を心配していたが、精神が肉体年齢に引っ張られているのか、特に恋愛感情は他の20代の男と変わらなかったようである。

僅かに冷静さを取り戻した俺は、いつも持ち歩けるように指輪をネックレスとして身に付けるために使うチェーンを二人にプレゼントをした。

その時に、いつも身に付けておいてほしいと顔を覗き込みながらお願いすると、二人は頬を赤らめて『仕方ないな』と返事してくれたのだ。

その返事を聞いた俺は、対BETA戦と平行して、真剣に議会工作による法律の改正を真剣に検討し始めたのだ。


 正直に言うと、余り政治に介入する事は避けたかったのだが・・・、今の俺は昔と比べると一味違う!
 それに、現在の若者における男女の比率を考えると、一夫一妻制は維持するのが難しくなりそうだし・・・。


また、最終手段としては妾という日本で古くから伝わる風習が残されていた。

偉い者ほどその血を絶やさぬようにと言って行なわれていたこの制度は、生まれてくる子供を養子とする事で、
正妻と妾が同意していれば現在でも実行可能な方法では有った。

それで、正妻と妾が一緒の家に住むと側室となるわけだが・・・、二人の事を思うとこの手段を取るという選択肢は俺には無かった。

思考の海に沈みそうになった俺だったが、二人の声を聞いて意識をそちらに向ける事になる。


「そう言えばこの指輪・・・、見た目よりも重く感じるわね?」


真那マナ、恐らくこの指輪は白金プラチナで出来ているのよ。」


真耶マヤ、残念ながら白金プラチナでは無くイリジウム合金製だ。」


「「イリジウム?」」


「イリジウムは全元素の中で一番重いとも言われ、融点は二千度以上、金や白金プラチナも溶かす王水にも耐えられるんだ。
 これ以上強靭な金属は早々ないと思うぞ。」


残念な事にイリジウム自体は金よりも安い素材だったが、一般に出回る事が少ないうえ加工が難しいために、指輪にするのに意外と高くついたので、
それほど悪い指輪と言う訳ではなかった。


「質実剛健をむねとする御剣家らしい指輪だと思っていたが・・・。」


「その凝り方は信綱らしい発想だな・・・」


互いの思いを確認し合い婚約をしたと言っても、長年築いてきた関係が急に崩れる事はなく、
いつもと変わらない雰囲気で俺達は会話を再会していった。

そして、その日の晩・・・

三人は同じ部屋で夜を過ごす事になるのだった。










旅館で一晩を過ごした俺は、それ程長い睡眠時間をとった訳ではないのに、妙にすっきりとした朝を迎えていた。

それに対して真耶マヤ真那マナの二人は、俺が起きた事にも気が付かず、暫く時間が経った今も夢の中の住人だった。

俺はまだ寝ている二人に書置きを残した後、御剣重工帝都支社で荷物を受け取り帝都駅に向かう事になった。

こうして、忙しい帝都(京都)での日程を終えた俺は、部隊と合流するために高速鉄道で横浜に向かう事になったのだ。

その日の昼新横浜駅に到着した俺は、出迎えに来ていた香具夜さんから部隊の現状報告を受けると同時に、一つの辞令を受け取る事になる。

その辞令には、本日付で俺が大尉に昇進したという事が書かれてあった。

休暇が空けた俺は、いつの間にか大尉になっていたのだ。

臨時大尉の肩書きが外されてから、僅か二週間後に正式に大尉となっているのだから、茶番と言ってもいい人事である。

しかし、今のところ高い階級が邪魔になる事は無いと考え直した俺は、素直に受け入れる事にしたのだった。

そして、基地に到着した俺を待っていたのは、ハンガーに並ぶ新品の戦術機達であった。

其処には、弐型のパーツを一部使った不知火・吹雪の改良型、通称『不知火・改』『吹雪・改』が並び、
一番奥には俺の愛機となるはずのデモンストレーター用の赤と白のツートンカラーに塗装された弐型もいた。

俺は、その光景に対BETA戦の準備が整い始めている事を確信し、決意を新たにする事になった。

俺が戦術機を見つめている様子に気が付いた、ロンド・ベル隊で突撃前衛長を務める佐々木 浩二 中尉と、
俺の副官を務める武田 香具夜 中尉が声をかけて来る。


「どうした隊長?
 この間までと雰囲気が違うな・・・。

 もしかして、京都で大人に成って来たとか?」


「何を馬鹿な事を言っておるのじゃ佐々木は・・・。
 信綱もこの馬鹿に何か言ってやるのじゃ。」


「・・・佐々木さん、・・・香具夜さん、実は婚約者が出来たんですよ。
 雰囲気が変わったといえば、そのせいですかね?」


「何っ!?(何じゃと!?」


「だ 誰と婚約したのじゃ!」


「残念ながら今は言えません。
 まだ、互いの親から了解を得たわけではありませんから・・・。
 正式に結納を交わした時に教えますよ。」


俺は婚約者が二人である事を正直に伝える事に躊躇した事と、互いの親から許可を得ていない本人同士だけの約束であるため、
婚約者が出来たと言う事だけを目の前にいる二人に伝える事にしたのだった。

それに対して、二人は複雑な表情を見せていたが、最終的にはお祝いの言葉をかけてくれる事になった。

こうして短い間であるが、俺とロンド・ベル隊の横浜での新しい生活が始まるのだった。


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コメント

皆様、いつもご意見・ご感想・ご指摘・ご質問の数々を感想板に書き込んでくださり、ありがとうございます。
時間が取れなかった事と、台詞に悩まされる部分が多かったため投稿が遅れる事になりました。
毎度の事ながら、お待たせする事を心苦しく思っています。

今回、主人公と月詠さん二人が正式に付き合い始める事になりました。
少し展開が速いような気もしますが、このまま放置すると二十歳を過ぎても彼女なしという悲しい事態になるので・・・、
仕方がありませんよね?
自分の中の全力を振り絞って書き上げましたが、上手く書けているか心配です。
恋愛の方程式でもあれば楽なのにな・・・とついついアホな考えが頭を過ぎってしまいます。

そして、インターミッションが終わらない・・・。
早く話を進めたいのですが、ネタが思い浮かぶのでどうしようもありません。
ここは思い切って、次の話は不必要な話題を後に回して本土防衛戦突入・・・まで行きたいなと考えています。

この作品の投稿ペースは、始め毎週更新だったのが隔週更新になり、今月はまだ二回しか新話の更新が無い状況に陥っています。
その事を考えると、他の作者様の更新ペースに脱帽しております。
この後は、何とか時間が確保できる予定ですが、世間はあるイベントの話題で持ちきりになっている様子です・・・。
私もこの雰囲気に飲まれる可能性を否定できずにいます。

そうなった場合、来週はもしかしたらまた設定集で御茶を濁す可能性があります。
その時は、すみません。
ただし、設定集のネタはそれほど多くないので、直ぐに誤魔化しが出来なくなりそうです。
それまでに、公私共に時間の余裕が生まれるといいのですが・・・。


返信

皆様からいつも様々なご意見をいただいております。
あまりに多すぎるため、今回もいくつかを選択しての控えめな返信にさせていただきます。
選択から漏れてしまった皆様には、大変申し訳ない事をしていると思いますが、
全てのご意見・ご感想に目を通していますので、その点はご理解いただけたら幸いです。


A-10 サンダーボルトⅡ、4脚化・・・。
少し考えただけでも圧倒的な火力が搭載される事が想像され、実にうらやましい設定です。
作るとしたメーカー的に米国になるのでしょうか?
米国ではそれ以上の火力を搭載する事になりそうなA-12 アベンジャーを開発中ですから、
それを改修するのが正等のような気がします。
後は、○○の動向しだいですので、少し検討してみたいと思います。

鎧 左近・・・
存在を忘れかけていました。
主人公の行動から考えると、今のところ接点は皆無だと思われます。
陰謀が渦巻く時に出番があるかも知れません。

スーパー系を引っ張って・・・。
むむむむむ・・・、そう言った作品は大好きなのですが、自分が書くとなると上手く想像が出来ません。
無駄にリアル系に走りたい年頃なのでしょうか?
ですが、戦術機の乗り物として馬を採用するとなると・・・、夕日に映えそうなシーンが完成しそうです。

戦術機のカラーリング・・・。
戦意高揚のためにも専用カラーがあると、話的にもおいしいのですが・・・。
斯衛軍に好きな色を取られている事と、富士教導隊のように対人戦を考えたカラーリングが有る事を考慮すると、
少し難しいかもしれません。
しかし、デモカラーを使い続けるという裏技が・・・・・・。
ちなみに、二式のデモカラーは原作と、ある作品の大尉が使用したデモカラーを参考にして妄想をしています。

ザクタ~ンク・・・。
最高の脇役かも知れません。
普通のショベルカーやブルドーザーでいいとは思うのですが、ついつい惹かれてしまいます。
ただし、原作で塹壕を掘るのは盾装備の戦術機も行なっているそうです。

対レーザー蒸散塗膜加工装甲とかバッテリーなどの改良・・・。
香月博士の性格を考えると友人は少なそうですが、知り合いは多いのかもしれません。
今のところCPU等の博士自身の研究成果の一部と引き換えに、資金を提供しているという関係ですが、
原作を考えると必然的に接近する必要が有ります。
其処からどうなるかは、今後のお楽しみという事で・・・。
(注.私自身もエンディングに至るまでの詳しい過程はまだ考えていません。)

遠田の技術者の鬱憤が溜まっていそうな気がします・・・
なんてこった・・・、其処まで考慮して話を進めていませんでした。
一応今の時点で、買収から12年の月日が流れていますが、活躍する場を与えていないと
会社を辞めてしまう可能性もありそうです。
少し、プロットに書き加えたので今後、こっそりと活躍するかも知れません。

A-12 アベンジャーの共同開発・・・
しまった、奴の配備は1999年だった。
今から介入するのは難しそうですので、共同開発には何か良いアイデアをひらめく必要が有りそうです。

パンツァーファウスト式よりかRPG式・・・
RPGについて少し調べてみましたが、やはり大きさと重量が問題になりそうです。
要塞級の出現率が其処まで高くないと思っているので、デッドウェイトはなるべく少なくしたいと考えています。
ただし、パンツァーファウスト式は相手に命中させるのがRPG式よりも難しそうなので、
少し検討する必要が有りそうです。


しばらく更新をしていないのにも関らず、皆様からいつも多くのご感想やご指摘をいただけている事に、
感謝の念が絶えません。
本当に、ありがとうございます。
これからも、少しでも皆様に期待に応えられる様にしていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。



[16427] 第21話
Name: あぁ春が一番◆17cd7d65 ID:bc6cc51c
Date: 2010/07/10 00:16



ロンド・ベル隊の横浜での任務は、弐型のパーツを一部使った不知火・吹雪の改良型、通称『不知火・改』『吹雪・改』と不知火・弐型に、
テストパイロットでは難しい実戦で使われる機動データを蓄積する事である。

これらの機体は、今までの機体にはなかった補助スラスターの搭載によって癖のある機体となっていたが、
実戦経験を多く積み戦術機の操縦に余裕が生まれていたベテラン衛士にとっては大きな障害とはならず、
その運動性に隊員達は魅了されているようだった。

そういう俺も、弐型が生み出す運動性が予想以上だった事もあり、テストの合間にかなり無茶な機動をとってしまうほど取り付かれる事になった。

最高速度から失速機動により空中で倒立し、突撃砲の射撃を行ないながら地面へ急降下。
そして、殆ど減速なしに機体を無理やり縦回転させて地面に着地し、片手を地面につき屈伸でもしたかのように足を曲げた状態から、
間髪いれず側転に移行し突撃砲の射撃といったアクロバットの様な機動。

通常は出来ない機動を実現するために、腕や足をあえて障害物にヒットさせる事で姿勢制御の切掛けを作り、
その動きに追従できなかった対戦相手に急接近し、その後機体各部のスーパーカーボン製ブレードを使った攻撃に移るといった荒っぽい格闘戦。

果ては、不必要と思えるほど奇妙な機動の反復練習まで行なったのだ。


「機体の限界を測るためとは言え…、無茶をしすぎたかな?」


「流石に、高速回転しながらの体当たりや斬撃なんて練習する必要無いだろ・・・。
 遊びすぎじゃないか?」


「そう言う佐々木さんだって、対BETA戦では使わない高度な三次元機動を試していたじゃないですか。
 浮かれているのは御互い様でしょう?」


「まぁ、お前ほどじゃないが皆浮かれているよ。
 不知火や吹雪の改良型は、今までの不満を吹き飛ばす良い機体だから、喜ばない衛士はいない。
 ただし、弐型と同様に耐久性があればという注釈がつくけどな。」


俺の弐型は全身に警告のアラームが出たため、今は完全にオーバーホールを行う破目になり、
不知火・改と吹雪・改の多くは、パーツの交換をする事になってしまったのだ。

これが、僅か数日で陥ってしまった状況だと考えると、これらの機体は実戦で行なわれる蛮勇に耐えるには、
まだ各部の耐久性と機体への負担を軽減する制御機構が、甘いと言わざるを得なかった。

俺は、弐型のオーバーホールが休日と重なっていた事もあり、午前中に部隊関連の書類整理を終わらせ、
久しぶりに実家で休日を過ごす事にしたのだった。










まったく予告せずに実家に帰る事になった俺だが、家の者達は暖かく出迎えてくれた。

残念ながら、祖父は東京で会合があり、父は京都で斯衛軍の仕事、母は会社に出社しているとの事だったので、
屋敷の中にいる家族は冥夜だけという状況だった。

夕食の時間には祖父と母が帰宅するという話だったが、帰宅するまではゆうに6時間以上に時間が残されていたのだ。

俺は、家族との語らいにはサプライズも必要だという事で、冥夜には帰ってきた事を内緒にするようにと女中達にお願いした後、
冥夜を探す為に家の中を歩き回る事にした。

そして、道場に差し掛かった時、聞き覚えがある声が聞こえたのでそちらに足を向けると、冥夜が一人で刀を振るっているのを目撃する事になる。

俺は冥夜がどのくらい強くなっているのか気になった事もあり、鍛錬を行っている冥夜に対して気配を消して背後から接近し、軽く殺気をぶつけてみた。

冥夜はすぐさま俺の殺気に反応し、背後に向かって刃を返した状態の斬撃を放ってくる。

俺はあらかじめそういう反応を予想していた事もあり、冥夜の峰撃ちを見切った上で上体を僅かに反らし、紙一重で避けてみせたのだ。

突然湧いてきた殺気によって鍛錬を中断させられた冥夜は、不満げな表情で後ろを振り返った。

俺は後ろを返った冥夜に対して、殺気を放った事や鍛錬を中断させた事などおくびにも出さず声をかけた。


「ただいま…、冥夜。」


「兄上!
 兄上、何時戻られたのですか!?」


「戻ったのは、つい今しがただよ。
 それと、そんなに畏まらなくてもいい。
 久しぶりの再開なんだ、昔みたいに抱きついて来たりしないのか?」


「兄上…、今年で私も15…、
 兄上が免許皆伝を受けた歳と一つしか変わらなくなります。
 私は、もうそのような事をする歳では有りません!」


俺の発言に、笑顔だった冥夜は拗ねたような表情に変わり、俺から顔を背けた。

そうした冥夜の態度に、俺はこれが思春期と言うものなのかという考えが頭を過ぎ、冥夜の成長を感じると共に、
自分が妹離れを上手くできていない可能性に気が付く事になった。

そして、改めて成長した冥夜の姿を見て、悠陽の時と同様に驚かされる事になる。

今年で15歳になる冥夜にとって、俺が大陸に渡ってからの二年間は大きく成長する期間だったのだろう。

写真で成長を見ていたとはいえ、我が妹ながら成長した体を見ると妙な感情が湧いてくる。

原作では紅蓮師でさえ鼻血を流し、冥夜の体つきを絶賛していたような記憶がかすかにあるので、
まだ若い俺が反応してしまうのも無理は無い事だが…。

二人の婚約者の事と冥夜が妹である事を思い出した俺は、そのような感情は不要だと気合をいれ、
子ども扱いをした事を謝りつつ話題を切り替えることにした。

そして話しは、せっかく鍛錬をしていたところと言う事もあり、冥夜と試合を行なうという流れになっていった。

俺たちは道場に置いてあった木刀を手に取り、道場の中央で向かい合った直後、開始の合図もなしに互いに木刀を振るっていた。

俺は試合の開始直後から、体を慣らすように冥夜の動きを完璧にトレースした動きを行なった。

その動きは、まるで合わせ鏡の様な動きで、相手の動きを完璧に先読みする事が出来ないと不可能な動きだった。

そして、同じ技を同じタイミングで繰り出せば、技量と力がある方がおのずと勝利を収めることになる。

ただし、剣術の技量という点だけを考えると、今の俺とかなり近いレベルを有しているようで、俺が剣術で冥夜に勝てるのは肉体的強さと、
膨大な戦闘経験による差があるだけだった。

つまり、同じ年齢の時の自分と比べると、技の切れという点では冥夜のほうが上回っているのだった。

ともかく、こうして確実に小さな勝利を積み重ねていった事で、冥夜は次第に追い詰められて行った。

追い詰められた冥夜は、一度距離を取った後、瞳を閉じ心眼の構えを見せた。


「あえて五感を封じる事で、心眼の精度を高めるか…。
 それが、冥夜にとっての全力なのかも知れないが、それは悪手だ。
 殺気の出所を正確に把握できなければ、実戦で使えるものではないぞ!」


「それでも、今の私には後の先を取る事でしか、兄上の技を破る術がありませぬ…。」


「同じ武器を使用するなら、攻撃の間合いはそう大きく変わることは無いと考えたのだろうが…。
 世の中にはこういった技もある!」


「ーー!?」


 自然の息吹に任せ、光を浴び、丹田に力を込め、気海を満たし放つ…、
 どんなに忙しい日々が続いても、欠かさずやってきた鍛錬の成果を今見せる時。
 これが四年間の集大成だ!


「石
 破
  
 天
  
 驚
  
 拳
 ぇ
 ぇ
 ぇ
 |
 ん
 ッ
 !!」


以前練習していた技は、宇宙人が使うイメージが強く、初めて見た技もロボットが放つものだったので、
相性が悪かったのか上手く技として完成しなかった。

だが、子供の時にやっていた遊びの中から最強の漢達(人間)が使っていたこの技を思い出した事で、
俺の中で気を使った技がついに完成を向かえたのだった。

冥夜は俺の技に反応し木刀を振るったが、気を操る事が出来ない冥夜の木刀では、俺の技に干渉できる筈もなかった。

そして、手ごたえが無い事に驚いて目を開けた冥夜に俺の技が直撃すると、冥夜は苦悶の表情を見せ、口からは叫び声があがった。


「くぅぅ……、ああああぁぁぁぁッ!!」


冥夜は数瞬の間耐えていたようだが、力尽きたのか次の瞬間仰向けに倒れだした。

俺は慌てて冥夜に駆け寄り、転倒する前に何とか抱きしめる事に成功したのだった。


「大丈夫か冥夜!?」


十分に手加減をしたつもりだったが、人に向けてこの技を使った経験が少ないため、失敗したかもしれないという嫌な考えが一瞬頭を過ぎる。

たとえ全力で放ったとしても、兵士級一体を一時行動不能に陥らせるのが精一杯という威力のこの技は、
思い描いていたものと比べて威力は低いものの、冥夜に対しては強く放ち過ぎたのではないかと考えたのだ。

慌てて冥夜を床に寝かせ呼吸と脈拍の有無を確認した俺は、冥夜の体に異常が無い事に気が付き安堵する事になる。


「・・・・・・は・・・い、体は思うように動きませんが、大丈夫だと思います。
 それよりも兄上……、無現鬼道流に……あのような秘奥義が?」


俺は、冥夜の体調を気遣いながらも、紅蓮師と自分との会話を思い出しながら冥夜に技の事を語る事になった。


「自然の息吹に任せ、光を浴び、丹田に力を込め、気海を満たし放つ。
 紅蓮師が見せてくれた技を我流で身に付けたものだ・・・・・・。

 上手くできていなかったが、冥夜も一度だけ鍛錬を見た事があっただろう?」


「……、畏れ入りました。
 この冥夜、剣術でも戦う術でも未だ兄上の足元にも及びません。」


「気にするな、俺の方が六年近く早く生まれているんだ。
 同じ歳の時と比較すれば、それほど大きな違いは無いよ。」


「そのような事はありません!
 兄上は幼き頃から無現鬼道流以外にも、財閥の仕事や勉学にも励んでおられたではないですか。
 それに比べて私は…、私は…。」


「財閥の手伝いはさせてもらえず、漸く大学に上がったばかりだと言いたいのか?」


俺の言葉に冥夜は小さく頷いた。

確かに14・5歳の時の俺と比較すると、冥夜は総合的な能力では劣っていると見えるかもしれない。

しかし、俺自身がチートとも言える能力を有して生まれてきた事を考えると、家系が少し特殊なだけの冥夜と俺を比較する事自体が間違いだと思うのだが、
そのような説明をするわけにもいかないうえ、生真面目な冥夜ではその事を伝えても納得してもらえないだろうという事は容易に想像できた。

俺は少し考えた後、言葉を選びながら冥夜に自分の思いを伝えて行った。


「冥夜…、俺を目標にする事は構わない…。
 でも、俺と同じになろうと言うのならそれは間違いだ。
 人はどんなに努力しても、他人には成れない。
 成れるのは自分自身だけだ。

 それに、一つの結果を目指すにしても、その過程には色々な選択肢が存在するんだ。
 そこで、偉い人が言うのだからと言って、全ての人が同じ過程を歩みだしたらどうするんだ?
 もしその選択肢が間違っていたら…、そこで全てが終わってしまう。
 そうならない為の多様性であり、生物は多様性を持つ事で生き残り、繁栄を続けてきたんだ。
 つまり、俺には出来なくても、冥夜にできる事が必ずあるはずなんだ。

 それと、俺は世間が言うような天才じゃない。
 俺が思うに・・・真の天才とは、まったく新しい発想で常識を覆すような事が出来る者の事を指すんじゃないかな。
 俺がやっている事は、世界に溢れている現実の中から、使えるものを拾い集めているだけで、
 まったく新しい発想をしているんじゃないんだ。」


「それでも・・・冥夜は、少しでも早く兄上のようにこの国を守る力と成りたいのです。
 ・・・そう考える事は、いけない事なのでしょうか。」


「冥夜は、自分が努力を怠っていたと感じる事があるのか?」


冥夜は突然の問いかけに、一瞬戸惑いの表情を見せていたが、直ぐに首を大きく横に振った。


「・・・願いは思うだけじゃ叶わない。
 それに向けで行動を起こした者だけが、願いを叶える事が出来るんだ。
 なら、既に行動に移している冥夜が焦る必要は無い。
 大丈夫・・・、直ぐに努力に見合った結果が出るよ。」

 
「はい・・・、兄上。」


冥夜は俺の話を聞いて、幾分落ち着きを取り戻した様子だった。

俺は、この様な内容の話を、更に十分近く話し続けた。

冥夜は、俺の話に対して静に相槌を打ち、飽きる様子も見せずに最後まで話を聞いてくれた。

そして、俺は最後に自分の話をまとめる事にした。


「色々言ったけど、俺が言いたい事を簡潔にまとめると……。

 俺は冥夜自身の事が大好きだから、他人の事をあまりを気にせず、ありのままの自分でいて欲しいと言う事だ。

 それに……、俺が心眼を使えるようになったのは15の時だから、それより早く使えるようになった冥夜は俺より才能がある……。
 自信を持ていいと思うぞ。」


俺は、締めくくりの言葉を言うと同時に、真剣な目で冥夜を見つめた。

冥夜の返事を待つ間、悠陽も同じ事になっていないかという心配が頭を過ぎる事になった。

悠陽と直接会うのは早々出来そうではないので、手紙でも書こうと考え始めた所で、冥夜が動き始める。


「兄上、ありがとうございます。
 なにやら胸のつかえが取れた気がします・・・。」


冥夜はそう言いって体を起こした後、静に立ち上がった。

冥夜が立ち上がる時に見せた顔は、頬が赤く染まっており、兄とは言え異性に抱きしめられていた状況に、
恥ずかしい思いをしていた事が容易に想像できた。

俺は、腕にかかっていた温かみと重みが無くなった事と、冥夜がこれ以上の自分との接触を避けた事に寂しさを思えながらも、
冥夜に会わせる様に立ち上がる。

そして、改めて向かい合った俺たちだったが、次の瞬間冥夜は俺に対して頭を下げてくる。


「兄上、ご挨拶をするのを忘れておりました・・・・・・。
 お帰りなさいませ。」


「ただいま・・・、冥夜。」


冥夜の言葉を聴いて、改めて実家に帰ってきた事を実感する事になった俺は、緊張が和らぐ瞬間を実感する事になった。

その後、俺たちは一度汗を流す為に分かれ、再び合流した後は夕食が始まるまでの間、互いの生活について話し合う事になった。















祖父と母が帰宅した後、冥夜と俺を含めた4人で夕食を取る事になった。

夕食の間は、互いの近況報告や世間話が中心の会話が行なわれ、まさに一家団欒の場という言葉が相応しい食事風景となった。

そして、食事が終わった後の時間を利用して、俺は祖父に対して政治的なお願いをする事にした。

実家に帰ってきたのは、家族と過ごす時間を取りたかった事もあったが、祖父にやって貰いたい事があったのだ。

その場には、夕食の直後と言う事もあり、祖父以外にも母と冥夜がいた。

経済界の重鎮である母と一般人である冥夜の前で、政治的な話をするのは問題かと思ったが、聞かれては拙い内容では無かった事と、
冥夜にとっては勉強にもなるだろうという思いもあり、祖父の許しを得た上で母と冥夜が同席するこの場で、話し合いをする事になった。


「…信綱、お前がワシに頼みごとすると言うのは珍しい……。
 孫の頼みを聞くのはやぶさかではないが、事が政治的な意味を持つものであればそうはいかん。
 ワシに出来るのはお前の話を聞き、良いと思った事をするだけじゃ。」


「お願いする相手は慎重に選んでいるから、祖父さんが受け入れられない話を持ってくる事なんてしないよ。
 それに以前も言ったように・・・・・・、
 賛成してくれるまで説得を続けますのでご安心下さい。」


祖父の言葉に対して、おどけた様に言った俺の言葉に祖父は、一瞬だが嫌そうな表情を見せた。

その瞬間の祖父は、以前斯衛軍の戦術機選定の件で行なわれた長時間に及ぶ説得の末、御剣家が積極的に行なう事がなかった、
政治への介入を行う事になった件を思い出していたのかもしれない。

御剣家が歴史上政治への関心を示さなかった事に対して、そういう処世術だったのだろうと納得できる部分がある一方で、
歳費をもらっていないとは言え、貴族院に名を連ねている者として仕事をする必要はあるだろうという考えも有った俺は、
たまにこうして政治の話を祖父に振るのだった。


「まず一つ目は、九州と同じように中国地方も避難勧告を行えないか? という話です。

 1996年に行なった九州全域に対する第2種退避勧告は、重慶ハイヴ(中国領)のBETA群が太平洋沿岸に到達した事を受けて発動したもので、
 今年に入り光州作戦によって大陸から戦力が撤退したため、第2種から第4種に危険度が引き上げられました。
 それに対して、99年初頭まで鉄原ハイヴ(韓国領)からの侵攻は無いという予測により、中国地方への勧告が未だに出されていませんが…。
 俺は、早めの勧告を行った方が良いと考えているのです。」


「だが、勧告を出せばその地域の経済活動が滞る上に、民にとっても大きな痛手となる。
 帝国も民も長年の戦争に疲弊して余裕が無い状況じゃ、慎重に対応する必要がある・・・。
 それに、対応するにしても勧告を出すのは内閣の仕事じゃから、ワシが出来る事は限られておるしの。」


「…勧告を出しても半年以内にBETAの侵攻があれば、経済的損失は最小限に抑えられます。
 この勧告は軍事的な面で自由度が増える効果を狙ってはいますが、最も重要なのは民の被害を最小限に抑えられるという事です。
 経済的損失は最短で4~5年ほどで埋め合わせが出来ますが、人的損失を取り戻すのにはその10倍以上は時間がかかります。
 それを考えれば、少し早いかも知れませんが退避勧告を出すのが最善でしょう。」


「信綱が言いたい事が分からないわけでは無いのじゃが……。
 お前はBETAが西から…、それも予想より早く侵攻してくると考えているようじゃが、そう思う根拠を申してみろ。」


ここで祖父が言いたいのは、帝国は樺太でもBETAと対峙しており北から侵攻される恐れもある事と、重慶ハイヴ(中国領)から侵攻を受けた場合は、
九州が盾になる事で中国地方の避難が間に合うという試算があるため、建造されて間もない鉄原ハイヴ(韓国領)からの侵攻が無い限り、
中国地方の勧告は必要ないという事なのだろう。

ここで、未来がそうなるのだからそうした方が良いと言えれば、どれほど楽だろうと頭の中で愚痴をこぼす事になった俺だったが、
病院のベッドに縛り付けられる可能性がある選択をする訳にはいかず、以前からそろえていた資料を頭に思い浮かべながら説明を行なう事になった。

俺がこの場で説明した内容をまとめると以下のようになる。

1.日本帝国本土へのBETA群の侵攻ルート

 重慶ハイヴ(中国領)から九州の西側への侵攻:
 建造が開始されて5年がたっている上に、1995年にマンダレーハイヴ(ビルマ領)が建造された事を受けて、
 海を挟んだ台湾と日本にいずれかにしか侵攻ルートが無いため、今のところ帝国軍が最も警戒しているハイヴ。

 鉄原ハイヴ(韓国領)から北九州及び中国地方の日本海側への侵攻:
 日本に最も近いハイヴであるが、建造されて間もないためこのハイヴからの侵攻は、まだ時間があると考えられている。

 ブラゴエスチェンスクハイヴ(ソ連領)から樺太への侵攻:
 鉄原ハイヴ(韓国領)より一つ前(19番目)に建造されたこのハイヴは、日本帝国の本土が始めて相対する事になったハイヴであるが、
 まだそれほど大きくなっていない点や、BETAが海を渡るよりも地続きに侵攻する事が多い事から、まだソ連が大陸でBETAとの戦闘を続けている間は、
 大規模侵攻を受ける確率は低いと考えられている。

 欧州での英国へのBETA侵攻時の状況を参考に考えると、BETAは地続きに侵攻する事を優先し、海を渡る行為は侵攻する順番として高いわけではない、
 そして、海を渡るにしても陸地からの距離が近い場所を優先しているように考えられるのだ。
 したがって、帝国軍の考えとは異なり、俺が考える危険度は①鉄原ハイヴ(韓国領),②重慶ハイヴ(中国領),
 それから大きく離れて③ブラゴエスチェンスクハイヴ(ソ連領)という順番になると考えていた。

2.日本帝国本土へのBETA群の侵攻時期
 
 BETAの侵攻は、その支配地域の拡大と共に早まってきており、もし後方のハイヴからの増援があれば、
 鉄原ハイヴ(韓国領)は建造開始後間もない事が災いし、保有BETA数が直ぐに臨海に達する事で、BETAの侵攻が開始される懸念がある。
 そのため、99年初頭まで鉄原ハイヴ(韓国領)からの侵攻は無いという帝国軍の試算は、鉄原ハイヴ(韓国領)の成長だけを考慮したものであることから、
 楽観論に過ぎずその予想は大きく外れる可能性があった。


こうやって、いくつか理論的な意見や統計から分かる事を並べていったが、結局の所は勘と応えるしかなかった。

しかし、光州作戦でも勘でBETAの地下進行を見つけたという噂がある事や、子供の頃から驚異的な危機察知能力を持っている事を家族全員が知っていたため、
呆れられると同時に妙に納得したと言われる事になった。

この説明の結果、経済的な面や防衛に関する問題であるので、全てを鵜呑みにする事は出来ないと言いながらも、
中国地方も段階的に警戒レベルを上げるように働きかけると言う約束を、祖父から取り付けることに成功したのだった。


「二つ目は、開発中の不知火・弐型が思った以上に優秀な機体である事が分かったので、斯衛軍で採用してもらえないか?
 という話です。

 その理由は、以前の不知火・壱型乙と同じになりますが、あの時と比べると一つだけ違う要求があります。
 それは、不知火・弐型乙を開発するのでは無く、そのまま採用して貰いたいというものなのですが・・・・・・。」


「・・・・・・信綱、それは流石に難しい話じゃ。
 ワシも、斯衛軍専用戦術機について思うところはあるが、瑞鶴以降 斯衛軍の戦術機は専用の機体を開発するという、
 暗黙の了解が出来てしまった・・・・・・。
 不知火の改修機が決まった後、せめて名前だけでも不知火から変えようとする愚か者がおったほどじゃ。
 それに専用機の廃止は、斯衛軍自体からの反発も予想されるだけに、なかなか根が深い問題じゃ・・・・・・。」


「しかし、壱型乙の事を考えると弐型の改修に踏み切れば、制式採用まで二年以上の月日が必要になります。
 それでは、高機動型の壱型乙と同等性能でコストを安く抑えられる、という利点が生かせない・・・。
 更に生産が軌道に乗るまでに人と時間,資金が必要になる事を考えれば、斯衛軍専用機を開発する余裕など日本には残されていません。
 
 不知火や吹雪の時と同様に、何れ弐型の優秀さは世間に知られる事になります。
 斯衛軍に対しては、専用色と色に合わせた改造が許可されれば大きな反発は無いでしょう。
 彼等も優秀な機体が多く配備される事を望んでいるのですから・・・・・・。
 それと、予算が減る事で反発するであろう、官僚に対しては、別で行われている戦術機開発計画に参加するために、
 予算を付けるという対応も可能です。
 幸いにも、予算をどの省から分配するかで、もめていると話を聞きましたし・・・。」


ここで、上げた別で行われている戦術機開発計画とは、ある事を目的とした専用の戦術機を開発する事を目的に、
御剣重工と光菱重工,富岳重工と河崎重工の2チームに別れて開発が行われている極秘計画であった。


「そう言った小細工は好かんのじゃが・・・。
 いかにも榊が喜びそうな話じゃから、そっちに話を振るのが最善か・・・。」


「榊?」


俺は、祖父の言葉を聞いて疑問に思った単語を何時の間にか呟いていた。

それに反応して、祖父は内閣総理大臣の榊だと返してきた。

そこで榊総理の事を尋ねると、どうやら以前の斯衛軍主力戦術機選定の件で接触があり、予算を浮かしたかった榊総理と共闘する事になった話や、
最近も彩峰 中将の件で思うところがあったのか、俺が勲章の授与式で殿下と話した内容を暗に評価していたという話を聞く事になった。

榊総理は、クーデター事件の事を考えると下士官に受けが悪い、軍に対して批判的な堅物の政治家としてのイメージが定着していた。

しかし、祖父の話を聞くとどうやらそうでもないらしいという事が分かる。

榊総理は、政治に対して柔軟な考えを持ち、人の意見をしっかりと聞くリベラルな思想の持ち主であったのだ。

尤も、政威大将軍を政治に参加させないという考えや、軍事以外の政策にも力を入れている事や、
既得権益を認めないという頑固な思想を持っている事から、旧来の勢力に属する者や一部の軍関係者からの受けは悪いようだった。

つまり、頑固な点は共通しているが、保守的な印象があった娘とは逆の考え方だったと言う事だ。

いや・・・、どっちかと言うと、父に反発して娘が保守的な考え方になったと見るべきなのだろうか。

どちらにしろ、俺としてはこういう大物の協力を得る事ができれば、話が早いので大助かりだった。

それに・・・、


「将来の事を考えると……、仲良くしておくのが吉か?」


「どうしたのじゃ信綱、急に黙り込んだと思ったら突然・・・。」


「いや、何でも無いよ。
 個人的な事でちょっと・・・・・・。

 俺からのお願いはこれで終わりだよ。
 資料は後日祖父さんの部屋に送れば良いだろ?」


「そうじゃな、そうしてもらえると助かる。
 特に榊と話すには資料が無いと始まらんからの・・・。」


「じゃあ、そういう事で政治家の方は祖父さんに任せるよ。
 俺は、地道に知り合いに手紙を書くくらいしか出来ないからね・・・。

 そうだ冥夜、さっきまでの話で何かわからない事は無かったか?
 俺が特別に教えてやろう。」


俺の言葉で和やかな雰囲気に戻った部屋では、その後冥夜から次々と出される質問に対して、
機密を誤魔化すために必死になって言葉を選びながら受け答えする俺と、それを楽しそうに眺める祖父と母の姿が有った。

こうして夜は更けていき、夜遅くまでこの団欒の場が解散する事は無かったのだった。










1998年 5月

横浜で弐型のテストパイロットとして忙しい毎日を送っていた俺に対して、軍事法廷から召喚状が届いた。

もちろん俺が被告人としてではなく、数日前に始まった彩峰 中将に対する軍事裁判に証言人として呼ばれたのだった。

俺は多くの傍聴人が見つめる中、検察官役の人物と弁護士からの質問に答えていく事になった。

二人から問いかけられた内容をまとめると、『BETAの地下進行は、貴方以外でも察知できる可能性があったのか?』
という一つの事に集約する事が出来た。

これに対する俺の応えは、

①共同作戦を取っていた部隊の錬度を考えると、積極的に前に出ることは躊躇われたため、試験部隊の独自権限で初期展開位置に待機していた。
②初期展開位置でも、数時間以内に共同作戦を取っていた部隊の射程圏内にBETAが侵攻してくると予想していたため、
 実戦データの収集に支障は無いと考えていた。
③時間の余裕があった事で、各種センサーのデータを見ていた時、違和感を覚える振動波形を確認。
④BETA出現の十分前に、最新のセンサーを持つ機体が砲弾の爆発とは異なる振動波形を感知。この時の地下進行の可能性20%。
⑤感知と同時に、国連軍及び帝国軍に対して報告を行なう。
⑥BETA出現二分前、地下進行の可能性が50%程になった事を確認後、再度報告を行なう。
⑦BETA出現一分半前、報告が黙殺されていると判断し、全回線(オープンチャンネル)での警告を開始。
 この時、報告が司令部まで届いている事は確認できず。
⑧BETA出現30秒前、一般のセンサーにも分かる、明確なBETAの地下進行による大規模振動波形を感知。
⑨大規模振動波形の感知と同時に、全回線(オープンチャンネル)での警告を中止し、臨戦態勢へ移行。

したがって、作戦当初の予測ではBETAの地下進行は無いと判断されていた事、
地下進行の振動波形を取れえる事が出来なのは部隊が最新のセンサーを有し、多くの振動波形を見てきた経験を持つものが居た事、
作戦行動を取っていない待機状態で有ったため、センサーの性能を最大限発揮できる状況だった事から、
我が部隊が光州作戦に参加した部隊で、唯一地下進行を察知できる部隊だったと結論付ける。

と言うものだった。

この中には、未来を知っていたとか勘で当たりをつけていたといった余分な内容や、彩峰 中将を擁護するための嘘は一切無く、
まさに真実しか語っていなかった。

俺の証言は、検察官と弁護士双方にとって満足する内容ではなかった様であったが、一瞬目を合わせることになった彩峰 中将は、
他人に気が付かれない程度に頭を傾け僅かに目を閉じた。

俺はそれを見て、これで良かったのだろうと心の区切りを着ける事が出来たのだった。

1998年6月、全国民が注目していた公開軍事裁判の判決がついに出される事になる。

その判決は有罪。

彩峰 中将は、国連軍の指揮下にあるはずの帝国軍を、国連軍の承認を得ずに動かした事が、抗命罪(こうめいざい:軍人、軍属が上官の命令に反抗し、
または服従しない罪)に中ると判断され、禁錮10年の刑が言い渡される事になった。

刑罰の求刑前に裁判長役の国防大臣より発言を促され、彩峰 中将は静に語りだした。

軍を動かすと決めた時点で銃殺刑を受ける事も覚悟していた事、自らの力不足によりBETAの侵攻が読めなかった結果、
国連軍の将兵に犠牲が出ることになった事に対して謝罪を行いたいという事を語った後、こう言って話を締めくくった。


「人は国のために成すべきことを成すべきである。
 そして国は人のために成すべきことを成すべきである。」


この時、彩峰 中将が何を思ってこの言葉を発したのか、後に議論が巻き起こる事になったが、
一般的には複数の意見に別れ結局結論が出ることは無かった。

ただ、彩峰 中将に近い人たちは静に涙を流したという話が伝わっているだけであった。

彩峰 中将に判決が下された後、銃殺刑を免れた事に安堵する俺に、多くの関係者から手紙が届けられた。

その内容は、俺に対して肯定的なものも否定的なものもあったが、全ての手紙に対して自らの考えを綴った手紙を返信していった。

これで俺の知っている未来と大きく変わってしまい、クーデターの件がどうなるのかは予想できなくなった。

しかし、事が起こるなら裁判に関った俺に対して、何らかアクションがされるはずだと考え、
この件に関してはしばらく放置の構えを取る事にしたのだった。




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コメント


皆様、いつもご意見・ご感想・ご指摘・ご質問の数々を感想板に書き込んで下さり、ありがとうございます。
設定集の投稿すらできず、三週間近く更新が無かった事、申し訳なく思っています。

今週は、有休の力を借りて何とか新話の投稿にこぎつける事ができました。
ただし、前回予告していた本土防衛戦突入ですが、最低限必要な描写を絞り込む事が出来ず、
突入の手前までしか話を進められませんでした。
しかし、次回からは間違いなく突入できそうですので、ご安心下さい。

今回漸く、光州作戦の悲劇に一区切りを付ける事が出来ました。
彩峰 中将への判決は、敵前逃亡で銃殺刑ではなく抗命罪での禁錮10年としました。
敵を目前にしての抗命罪は、最低禁錮10年最高死刑も有り得る重い罪状です。
原作を考えると刑が軽すぎる気もしますが、国連軍への被害が大きくない事と、
光州作戦で帝国軍部隊が活躍した事を考えると、これくらいで妥当ではないかと考えました。

それと、旧日本軍の軍刑法を調べてみて思ったのですが、主人公が行なった警告はもしBETAが現れなかった事を想定すると、
予想以上に重い刑が課せられる行動だという事が分かりました。
必死に部下が止める描写が必要かと検討している所です。

次回の投稿ですが、2週間以内に出来る予定です。
最近投稿が遅れる原因を考えてみたのですが、
1.アニメに気を取られる→投稿当初からアニメは見ていた。
2.プロットが尽きた→投稿当初からプロットは極薄。
3.文章量が増えた→初期はtxtデータで15KBだったのが、前回と今回は30KB・・・。
どうやら3番目に原因がありそうです。

投稿ペースが落ちた事で、じっくり考えているせいか勢いが無くなっている気がしています。
チラシの裏への投稿だという事を考えると、もう少し冒険する事も大事だと思うので、
今後は考えを切り替えて、早めの投稿を心がけたいと思います。



返信

皆様、いつも様々なご意見を下さり、ありがとうございます。
今回もいくつかを選択しての控えめな返信にさせていただきます。
選択から漏れてしまった皆様には、大変申し訳ない事をしていると思いますが、
全てのご意見・ご感想に目を通していますので、その点はご理解いただけたら幸いです。


ナイフシースを廃止して固定武装・・・。
武御雷にナイフシースやそれに変わるカナードが取り付けられていない事を考えると、
それも一つの手段なのかもしれません。
今後どのように扱うか考えてみたいと思います。

対レーザー蒸散塗膜加工装甲を跳躍ユニットに広げる・・・。
コスト的に難しそうな事と、足がないと結局バランスが取れず跳躍できそうにありません。
私が弐型で足した回答は、肩のスラスターを大型化して跳躍ユニットが一基1機破損しても跳躍が可能にする、
と言う物でした。
何処を優先的に守るか、コストはどうするのか、色々検討する課題が多そうです。

ヘリコプターを機械化歩兵装甲化・・・。
ヘリコプターの方式では、光線級が出てきた時に空を飛んでいると瞬殺されてしまいそうです。
低空だと要撃級の餌食ですし・・・。
しかし、大空寺とES(Exoskeleton)の開発をすると言うのはありかもしれません。
検討した事がなかった課題ですので、少し考える時間をいただきたいと思います。

究極のワンオフ機・・・。
基本的に数は力なりを実践したい主人公ですので、よっぽどの事が無い限りワンオフ機を作る事は無いと思います。
そう・・・、よっぽどの事が無い限りは・・・。

F-23の魔改造&武御雷モドキ・・・。
何処で登場するかは明言できませんが、YF-23はどこかで登場する予定です。
そこで魔改造をしているという設定を着ける事は可能なのですが・・・。
どのような事になるか楽しみにお待ち下さい。
それと、武御雷モドキは登場させる事は有りません。
その理由は・・・・・・、この話の中にヒントが隠されているのかもしれません。


更新がよく遅れる私ですが、これからも頑張っていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。


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