セキュリティ保管庫からコスモクイーン達を取り返して数日後。俺はクロウのアジトに居候していた。
衣類等必要最低限の生活用品は都合できたものの、住む場所までは流石に手が回らずクロウのベットで夜を過ごす日々………。
え、クロウはどうしてるかって?部屋の外でタオルを羽織って寝ていますよ?ほら、俺って仮にも女だし、肉体は。
この前はコスモクイーンに男だと主張しておきながら何してんだという抗議は受け付けない。このことを知ってるのはコスモクイーンとエフェクト・ヴェーラーだけだし。
え?男のプライド?それはそれ、これはこれ、自分の身の回りの環境改善のためなら使えるものは何でも使うのさ。たとえ自分の性別であっても。13年も女の身体で生活してんだ、祖紺ところは既に開き直ったよ。
そんなわけで今日も今日とてもそもそとベットの中から起きだして、ベストに袖を通して外に出ればアニーたちが元気に遊びまわっている。太陽ももうすぐ中天に差し掛かるころ。うん、完璧なまでに寝坊したな、俺。
「あ、翼姉ちゃんやっと起きたのかよ」
俺が外に出てきたことに気付いた子供達が駆け寄ってくる。ちなみに生意気な口の聞き方をしているのは子供達のリーダー格のイツキ少年だ。
「ん~最近夜遅くまで起きてるからねぇ。とっても眠いのよ」
イツキの頭をポンポンと叩いてやりながら部屋の中から持ち出してきたりんごを丸齧りする。
「ん、そういえばクロウはどうしたんだ?」
辺りを見回せども、普段なら子供達と一緒にいるはずのクロウの姿が見えず、首をかしげて子供達に問いかける。
「クロウおにいちゃんならお買い物に行ったよ?」
買い物か………、そういえば昨日食料の買出しがどうのとか言ってた気が………。もしかしなくともそれかな。
「そっか、そりゃもちっと早く起きて手伝いに行けばよかったかな………」
「そんなことより、さっき遊星兄ちゃんが翼姉ちゃんのこと訊ねて来てたぜ」
「遊星が?」
「うん。なにか用があったみたいなんだけど、まだ寝てるって言った苦笑いしながら来たことだけ伝えてって言ってた」
ふむ、遊星が………。そういえば遊星に何か頼んでたような………。なんだっけな。
遊星が俺を訪ねてくるってことは、多分それだと思うんだけど………。
「遊星兄ちゃんのところに行く?」
「そうだな、わざわざ訊ねてきてくれたんだし。うんこれらちょっと会いに言ってくるわ。みんな良い子でお留守番してろよ」
『ハーイ』
「みんな元気でよろしい」
子供達の元気な返事に自然と笑みが零れる。
うん子供は元気が一番だ。
一度部屋に戻ってカードとデュエルディスクを腕に付け、俺は遊星のアジトに足を向けた。
遊星のアジトである元地下鉄駅。10年以上稼動していない改札を通り抜け、更に地下へと続く階段を降りてゆく。
サテライトは結構広い、ゆえにこの地下鉄も崩れて使えない場所もあるけれど、それを除いてもかなりの広さでサテライトの地下を巡っている。
これらが生きてればサテライトでの暮らしも少しはマシになるって言うのに………、はぁ、現行政府はこちらのことなどお構いなしだ。
…………さすがに議題の否決を政治家同士のデュエルで決めてないよな?いや、さすがにそれはないと思いたいけど、ここまでデュエルが人の生活の基盤になってるとなぁ、セキュリティとかセキュリティとかセキュリティとか。
そういえばGX時代の万丈目の一番上の兄貴、あれって確か政治家でデュエリスト………。アニメに出てきた数少ない政治家がデュエリストって………この考えを馬鹿な話って切るには非常に大きな不安材料なんですが?
非常に恐い答えになりそうだから以降考えないことにしよう………。
そのころのとある政治家のお話
「今回の議題………、このままこれを決とするにはいささか難しいですな」
「ふむ、それでは………」
「そうですな、それでは………」
「任せましたぞ、十六夜さん」
「あぁ、今日は娘も待っている、長引かせたくないものですな」
『いざ、デュエル!』
なんだろう、今猛烈に殴りこみをかけたくなった………。
とりあえずそれは置いといて、階段を降りきれば遊星のアジトはすぐそこだ。テントの中から漏れる灯りを頼りに近づいてゆく。
「よ、遊星」
「翼か、やっと起きたみたいだな」
「ははは、それさっきイツキにも言われたよ。
さっきはわざわざ訊ねてきてくれたのにすまなかったな」
「いや、俺の方こそ、この前は大変だったのに手を貸せなくてすまなかった」
「ありがと、その気持ちだけでも嬉しいよ。あぁそうそう、これ」
D・ホイールを弄っていた遊星が立ち上がりすまなそうにするのに、気にするなと肩を竦めて見せる。そして思い出したように先日セキュリティ保管庫で手に入れたカードを一枚投げて渡す。
前から不思議に思ってたんだけど、この世界って紙でしかないはずのカードがなんであんなまっすぐに飛ぶんだろう?
「………こいつは」
「《クイック・シンクロン》。シンクロンを多用する遊星なら上手く使いこなせるだろう?」
「あぁ、大事にさせてもらう」
無愛想にも見える遊星のいつもの笑みに自然と笑みを返し、訊ねてきた用件を改めて聞く。
しかし、初代主人公の闇遊戯、二代目主人公の遊城十代。感情が表に出やすい二代主人公に比べて、うちの三代目主人公はどうしてこう、感情が表に出ない、『静かに燃える熱血漢』なのかね。
ん?アニメはGXの途中までじゃなかったのかって?アニメはそうだけど、主人公くらいは知ってたさ。
まぁシンクロ召喚なんて知らなかったから、カードから離れて一時復帰した際には、仲間からシンクロの洗礼を受けて俺のハーピィ達も機械達も完膚なきまでに蹴散らされたけどね。
「あぁ、お前に頼まれてた物。完成したぞ」
やっぱり俺が頼んでたものか………、思い出した。
「こっちだ、来てくれ」
先を歩く遊星の後を追ってテントの裏に出れば、そこには大きなものにシーツが被せてあり、静かに笑みを浮かべる遊星が剥がしてみろばかりに頷く。
そっとシーツの端を掴み、一度深呼吸してからシーツを一気にを引き剥がす。
シーツの下から現れたのは重量感のある流線系のフロントに対照的な少々角ばったテール。側面には白地に赤を基準にした計四色のカラーリング。
これぞまさしくロ○ドセクタ○!
Blackファンの方ゴメンなさい。同じくファンとして自重できませんでした。
サイドにシールドもつけてるから微妙に違うんだけどね。
さて、みなまで言わずともわかるだろうけど言わせて貰おう。D・ホイールです。わたくしの。
「遊星……」
「あぁ、少し時間がかかったが……。それに見合うだけの出来になったはずだ」
側の木箱の上に置かれていたデュエルディスクを投げ渡され、D・ホイールの側面にある窪みからこのマシンがハイブリットであることに気付く。
作り始めた当初の予定ではハイブリットではなかったはずだが………。完成が遅れたのはそのためか。だけどこれは確かに。
「あぁ、最高だ」
ロ○ドセクタ○改めD・セクター(命名俺)に近寄り、側面の窪みにデュエル・ディスクをセットする。ディスクのコア部分であるモーメントがマシンの中に沈み、それを隠すようにプレートが円形に変形しながらその上に移動し、静かにエンジン音が響き始める。
「早速走るのか?」
「モチのロンだ!」
どこか楽しそうな遊星の言葉にバイクに飛び乗り、黒いオープンフェイスのヘルメットを被り、アクセルを握って一気にホームから線路へ飛び降りる。
「タイムは俺が計ってやる。存分に楽しんで来い」
親指を立てて返事を返し、俺は一気にD・セクターを目の前のトンネルへと飛び込ませる。元は地下鉄の線路だったこの場所は14年前に起こったゼロ・リバースにより天井が裂け、昼なら日の光が届き地上と同じように存分にマシンを走らせることが出来る。
始めはD・ホイールの調子を見るために抑え気味に走らせていたが、心配することは何も無いとわかれば一気にアクセルを握りこみマシンを加速させる。
すごいスピードで背後に消えてゆく地下鉄の壁を視界の端に捕らえつつ更に加速。
目前に迫るカーブに減速させること無く機体を飛び込ませる。
フロントからテールへと伸びるシールド。
身体を押し付けるような前傾姿勢でカーブへと飛び込み、次の瞬間天地が逆さまに変わる。
一度。
二度。
三度………。
地面から壁へ、壁から天井へ、天井から再び壁へ、そして大地へ帰り再び空へ。
筒状の地下鉄トンネルでバイク版バレルロール(あれの名称知らんですたい)
カーブの終わりと共に更に加速。最後の直線を一気に走りぬける。
ブレーキと共にハンドルを切り、約二十メートルを砂埃を巻き上げ名が滑走してやっと停車する。
頭上のシールドがフロントに格納され、ヘルメットを外しながら肺に溜め込んだ空気を一気に吐き出し、背もたれに身体を預ける。
やばい、風を切って走るのがここまで楽しいとは……。興奮しすぎて息上がってる。
ホームに立つ遊星に顔だけ向けて親指を立てる。
はぁ、しばらく動けそうに無い。
遊星に計ってもらったタイムは彼のタイムと比べても最速レベル。うん、調子に乗ってスピード出しすぎたからな。普通なら事故っても仕方ないような危険な走り方もしてたし。遊星は黙っておこう。
「気に入ったみたいだな」
「…………最高」
線路に降りてきた遊星からスポーツドリンクを受け取り、それを一息に飲み干して搾り出すように返事を返す。
うん、世のD・ホイーラーの気持ちが痛いほど良くわかった。下手したら中毒もんだわ。
ただ走らせるだけでこれだ、その上この状態でデュエルできるってんだからなぁ。
「そうか。
………まだ走りたそうだな?」
「あぁ、興奮冷めやらぬうちにもう2,3週してみたいね」
「そうか、なら好きなだけ走らせて来るといい。何かしら不具合があればすぐに見てやる」
「………サンキュ、遊星」
身体を起こして再びマスク被ってハンドルを握る。
地面を蹴ってアクセルを握る。
『イィヤッホーーーーーーーーー!』
そんな奇声を上げながら、俺は風になるべくD・セクターでトンネルを走り抜けるのだった。
もうすぐ夕焼けかねぇ。
トンネル内とは違って安全運転で走りながら空を見上げ、大分傾いてきたお日様に溜息を一つ。
結局あの後トンネル内を10週フルスピードでD・ホイールを走らせていた。
こいつの乗り心地は最高。遊星には感謝してもしてもしたりないな。
『ご機嫌だねぇ、マスタ~』
「あぁ、ここまで楽しいとは、D・ホイールを侮ってたわ」
どこか呆れた感じのエフェクト・ヴェーラーの言葉に、先ほどまでのライディングを思い出し自然と頬が緩む。
あぁ、また一気にこいつを走らせたいけど、ここでそんなことやったら交通事故起こすからなぁ。
『ふぅん、そんなに走らせたかったら旧ハイウェイにでも行ったらどうですか~?あそこならそこまで心配する必要も無いですし~』
「そうだな、でも今日は戻るぞ。ちびっ子どもに飯作ってやるって約束してるからな」
『飯って、野菜とお肉を鍋に突っ込んで煮込むだけじゃないですか~。マスターも女の子なんですからもう少し手の込んだお料理作れるようになった方がいいですよ~。
でないと誰にも貰ってもらえないですよ~』
「誰が嫁に行くか!いつも言ってるけど俺の魂は男なの。だからお嫁になんざ行きません!」
まったく、こいつといいコスモクイーンといいなんだって俺を女扱いするのかねぇ。何度も訂正してるってのに。
『………あれ?マスターあれは?』
「ん?」
何かに気付いたエフェクト・ヴェーラーが指差した方向を見て、俺は一気にハンドルを切ってD・ホイールを脇に寄せる。その直後正面から猛スピードで走ってきた数台のD・ホイールが土煙を上げながら通り過ぎてゆく。
「っち、あぶねぇ走りしやがって、何処のどいつだ………」
『旧ハイウェイの方に走っていったみたいですね~。文句言いに追いかけますか~』
「こいつで走れるって意味では魅力的な提案だけどな。ちびっ子との約束もあるしさっさと戻る」
『は~いです』
まぁ、次にあったときに文句の一つも言ってやればいいだろう。
そう思いながらクロウのアジトに向かい、そこでこの選択を後悔した。奴らをすぐに追いかけるべきだったと。
D・ホイーラーの集団と遭遇した場所はクロウのアジトのすぐそこだった。入り口の側に乗り付けてヘルメットを外すと、部屋の中から血相を変えたイツキが飛び出してきた。
「翼姉ちゃん!」
「おう、ちょっと遅くなってごめんな。飯はすぐに作り始めるから………って、どうしたんだ?そんなに慌てて」
D・セクターから降りようとしながら聞いたイツキの言葉。一瞬それが飲み込めず、しかしそれを頭で理解して俺はすぐさまヘルメットを被りなおして車体を反転させる。
『アニーが攫われた』
犯人は俺とすれ違ったD・ホイーラー達。アクセルを全開まで握り込んで一気に加速させる。
「ヴェーラー!奴らは旧ハイウェイの方に向かったんだな!」
『うん、多分間違いないよ!』
「わかった、お前は先にハイウェイに向かって奴らを探せ!俺もすぐに追いつく!」
瓦礫の転がる道路を疾駆しながら、それよりも早く空を飛んでゆくエフェクト・ヴェーラーを見送り、俺はヘルメットに内臓されている通信機のスイッチを入れる。
「誰か!聞こえるか!」
この呼びかける相手はチームサティスファクションの全員。使われていない周波数を勝手に俺達の回線として使っているものだ。
『翼か、どうしたのだ、そんなに慌てて』
「!ジャックか!用件は手短に話す!アニーが攫われた!犯人は旧ハイウェイの方に向かった!」
『なに!アニーがだと!』
『おい!翼、そいつはマジか!』
ジャックの驚愕の声と同時に聞こえてくるのはクロウの声。さらにスピーカーから聞こえる音がもう一つ増えさらに誰かが回線を開いたことを知る。
「こんな冗談死んでもするもんかよ!連中は5,6人のD・ホイーラー、全員黒いD・ホイールに緑色のライディングスーツを着てる奴らだ!」
『ちぃっ、そいつ等は『ダーディーワークス』の連中だ!くそ、奴らふざけた手ぇ使いやがって!お前ら、戦争だ!一人たりとも逃がすんじゃねぇぞ!』
『あぁ、当然だ!』
『アニー待ってろよ、すぐにクロウ兄ちゃんが行ってやるからな!』
『俺もすぐに出る。見つけ次第連絡をくれ』
通信機から聞こえてくる鬼柳の怒鳴り声。そして言葉は違えど怒りを込めたメンバーの言葉にハンドルを握る手に力が篭る。
車体を限界まで倒すようにドリフトをかまし、ほぼ直角に近い形で十字路を右に曲がる。
旧ハイウェイの一番近いインターチェンジは、次の交差点を曲がってまっすぐか!
D・セクターの画面に映る立体地図に従って機体を走らせ、最後の交差点減速せずに曲がり切る。左のシールドが廃屋の壁を擦ったが無視。今はそんなことに構っている暇は無い。
とうの昔に機能しなくなった料金所の間を走りぬけ、俺がハイウェイに駆け込んだところにエフェクト・ヴェーラーが戻ってくる。
『マスター、いました~。この対向車両を五台、D・ホイールが走ってました~』
「でかした!」
手元についた数個のボタン。中央分離帯に車体を勢いをつけながら近づけながらその内の一つを押し込む。
下から上へと突き上げる衝撃。
俺とD・セクターは走るスピードをそのままに一瞬宙を駆けて対向車両に着地する。
なにがどうなったかというとあまりたいしたことは無い。どこぞのマッハ号よろしくジャンプ装置がマシンの下部についていて、それを起動させただけだ。
着地の衝撃にしばらく蛇行するもすぐに持ち直し、さらにD・セクターを加速させる。
それから一分と経たぬ内に遠くに5,6台のD・ホイールの集団が見えてくる。
『マスター、あれだよ~!』
「っよし!捉えた!」
「そうか、あれが敵というわけか」
突如聞こえた声にそちらに振り返れば、ジャックの乗る白いD・ホイールがすぐ横に現れ、さらにそれに少し遅れる形クロウの黒いD・ホイールが走っている。
「ジャック、クロウ、来たか!」
「あぁ、どうやら俺達が一番乗りのようだな。まぁ、遊星達もすぐに追いつくだろうがな」
すぐにその言葉を肯定するように、俺達の潜ったジャンクションから飛び降りる形で鬼柳と遊星のD・ホイールが合流。
チームサティスファクション全員集合というわけか。
「おっし、間に合ったな!」
「ギリギリね。これから突っ込むところだった!」
「そいつはベストタイミングだな。よし!遊星、クロウ、連中を左右から追い込め!翼とジャックは俺と後ろから仕掛けるぞ!」
鬼柳の指示に従って遊星とクロウが左右に展開しそのまま加速する。
が、あと少しで追いつくところでこちらに気付いたのか前を走るD・ホイールの二台が道路に空いた穴にから下を走る道路へと飛び降り、さらにはハイウェイ自体から飛び降りる。
「くそ、ばらけるつもりか!」
「逃がすかよ!」
「!クロウ!鬼柳、俺とクロウは下に降りた奴ら追う」
鬼柳の返事を待たずに下の道路へと飛び降りるクロウと遊星。それを見送りつつ鬼柳はジャックに目配せをしD・ホイールを加速させる。
「翼!貴様は鬼柳と共に前の二つを追え。逃げた奴は俺がやる!」
鬼柳の目配せはそういうことか。この五人の中で俺が最もD・ホイール暦が短い。今までも遊星やクロウのD・ホイールを借りて走らせる程度だったし。
飛び降りるなんて無茶はさせられないってわけね。
ハイウェイからコースアウトしてゆくジャックに頷き、鬼柳と共にD・セクターを加速させる。
「三人の方にいると思うか?」
「さぁな、どいつがアニーを連れていようと、やることには変わらねぇ!」
「確かに、な!」
鬼柳と同時にハンドルを切って左右に展開。挟み込むように機体を走らせ一気に接近させて、体当たり。
「貴様らぁ!覚悟は、出来てんだろうなぁ!」
「ぐぅっ!」
側面部のシールド同士が接触し互いのD・ホイールが大きく揺れる。体勢をすぐに持ち直し再度体当たりを仕掛けようとし、ハンドルを切って併走させる。
D・ホイールを併走させた理由、それは………。
「アニー!」
「……!翼お姉ちゃぁん!!」
俺の叫びに反応するかのように加速するD・ホイール。くそ、こいつか!アニーを連れてるのは!
アニーを連れたD・ホイールがカーブに突っ込み、崩れた壁から飛び降りる。
「鬼柳!奴を追う!」
「な、待て!お前は……!
鬼柳の制止の声を振り切り飛び降りたD・ホイールを追ってカーブに飛び込む。
下の道路に着地使用とするD・ホイールに対し、俺はD・セクターをビルの方へと飛ばし、車体を倒してD・セクターのタイヤを壁に接触。壁を道に機体を加速させて黒いD・ホイールの目の前に躍り出る。
車体を倒しD・ホイールを滑走させて相手の走行の妨害をすれば、突然目の前に飛び降りてきた俺に驚いたのかブレーキとともにハンドルを切ってバランスを崩すD・ホイール。D・ホイーラーはともかく、縛られて乗せられているだけだったアニーの身体はその急激なベクトル変更に耐えられるわけも無く、慣性のまま宙に投げ出される。
上部シールドを展開しハンドルから手を離す。車体を挟む両足でバランスをとり、地面に叩きつけられようとしているアニーの下に滑り込み、そのまま抱きとめる。が、そこでD・セクターのシールドが地面に接触。火花を散し不快な音を響かせる車体を蹴って身体を投げ出し………、アニーを庇うように身体を丸めて地面に投げ出される。
全身を何度も襲う衝撃に歯を食いしばり、同時に二つ、重たいものが何かに突っ込むような音が響き、俺達はたまたま生えていた低木の中に飛び込みそれ以上の衝撃を殺すことが出来た。
痛みを堪えながら身体を起こし、腕の中のアニーの安否を確認する。
「アニー、大丈夫か?」
「ぅぅ……、翼、お姉ちゃん」
アニーの身体を縛る縄を解いてやると、相当恐かったらしく(おそらくは最後のダイブが特に)胸の中に飛び込むや、顔を埋めて声を上げて泣きはじめる。
「………大丈夫だ。もう、恐くないからな。お姉ちゃんが守ってやるから」
『…………マスターならお兄ちゃんじゃないんですか~』
アニーを抱きしめ、落ち着かせるように背中を軽く叩きながら、一難去ったことからか茶化してくるエフェクトヴェーラーを睨みつける。
そういえば、俺のD・ホイールは?
そう思って首をめぐらせると、目的の物はすぐに見つかった。遊星はかなり頑丈に作ってくれたのか、見た目はどこかが壊れた様子は無い。それでも後でチェックしてもらったほうがいいだろうな。
「て、てんめぇぇっ……」
地獄の淵からでも這い出してきたような声に振り返れば、アニーを攫ったダーティワークスのD・ホイーラーが怒りに血走った目で睨みつけながら近寄ってくる。
「ざけたマネしやがって……、ただじゃすまさねぇ!」
何がただじゃすまさねぇだ?
「……そいつは、こっちの台詞だ……!」
涙の止まらぬアニーを背後に隠すように立ち上がり、左腕に付けられたリモコンを操作。それに反応したD・セクターがひとりでに動き出し、俺の側まで走り寄ってくる。
「叩き潰してやる!」
「上等だ!てめぇらのやり方にこっちは鶏冠にきてんだよ!」
D・セクターから吐き出されるディスクを空中で装着し、その流れのままデッキをセット。
自動シャッフルされ吐き出される五枚の手札を掴み取る。
『デュエル!』
「俺の、先攻。ドロー!」
男は引いたカードを見てにやりと微笑みそれを手札に加えた。
「俺はモンスターを一枚セットしてターンエンドだ!」
「俺のターンドロー!」
さて、奴がいったいなにをセットしたのか………。デッキコンセプトがわからねぇと予測なんて出来るはずも無いな……。
「……翼お姉ちゃん」
不安そうな表情で見上げてくるアニーの頭を撫でてやりつつ、俺は手札からモンスターを召喚する。
「俺は《ヂェミナイ・エルフ》を攻撃表示で召喚!」
俺達の前に現れるボディコン姿の双子のエルフ。俺の怒りが乗り移ったかのように険しい視線で敵を睨みつける二人に俺は頷き攻撃を宣言する。
「《ヂェミナイ・エルフ》で裏守備モンスターに攻撃!」
《ヂェミナイ・エルフ》【攻撃力/1900】
『はぁっ!』
左右に展開して裏守備モンスターに襲い掛かる双子のエルフ。同時に振るった鋭い爪がリバースした相手のモンスターを襲い………。
「無駄だぁ!」
《モアイ迎撃砲》【守備力/2000】
「守備力2000の壁モンスター!?くっ!」
《ヂェミナイ・エルフ》の振るった爪が《モアイ迎撃砲》を撃破することは叶わず、反射されたダメージを受けることとなる。
だけど、この程度……。
【翼/LP4000→3900】
「………俺はカードを一枚セットしターンエンドだ」
「くくく、待ってろよ。すぐに叩き潰してやるからよぉ!
俺のターン、ドロー!モンスターをセットし、《モアイ迎撃砲》の効果発動!このカードは一ターンに一度裏守備表示にすることが出来る」
再び《モアイ迎撃砲》がセットされる。
なんだ?何を狙ってやがるんだ?
「さらに永続魔法、うごめく影を発動。このカードはライフを300ポイント払うことで、一ターンに一度だけ裏守備表示モンスターをシャッフルして伏せなおすことができる。俺はLPを払って効果を発動してターンエンドだ」
【ダーディワークス・デュエリスト/LP4000→3700】
これでどっちが《モアイ迎撃砲》かわからなくなったな。
とはいえ、わからないからって指を拱いて待ってるわけにもいかないんだよ。
「俺のターンドロー!
俺は《魔導戦士ブレイカー》を攻撃表示で召喚し、効果を発動。このカードの召喚に成功したとき、このカードに魔力カウンターを一つ乗せる。このモンスターはこのカードに乗っている魔力カウンター一つにつき300ポイント攻撃力をアップする。」
《魔導戦士ブレイカー》【攻撃力/1600→1900】
《ヂェミナイ・エルフ》のすぐ横に現れたブレイカーの頭上に紅い珠が現れ、それは彼の持つ剣へと吸い込まれてゆく。
「バトルフェイズ!《ヂェミナイ・エルフ》で裏守備モンスターに攻撃!」
《ヂェミナイ・エルフ》【攻撃力/1900】
再び地を駆ける双子のエルフ。裏守備モンスターに攻撃を仕掛けるも結果は先ほどと変わらず……。
「はずれだよ、ばぁか!」
《モアイ迎撃砲》【守備力/2000】
【翼/3900→3800】
「ちっ!ブレイカーでもう一体の裏守備モンスターに攻撃!」
剣を構えてブレイカーが走る。そして地を蹴り頭上から振り下ろした剣が、リバースしたモンスターを切り裂いた。
あれは、《コアキメイル・ロック》?
《コアキメイル・ロック》【守備力/1100】
「《コアキメイル・ロック》の効果を発動。このカードが戦闘で破壊されたとき、デッキから《コアキメイルの鋼核》かレベル4以下の《コアキメイル》と名の付くモンスター一体を手札に加えることが出来る。俺が手札に加えるのは《コアキメイル・ガーディアン》だ」
こいつのデッキ………岩石族か?となると墓地を肥やさせるのは恐いな。なるべく早く勝負をつける必要があるか……。
「とはいえ、今出来るのはこれくらいか……。《魔法戦士ブレイカー》の効果を発動。フィールド上の魔力カウンターを取り除くことでフィールド上の魔法・トラップカード一枚を破壊することが出来る。俺は永続魔法《うごめく影》を破壊する!」
《魔導戦士ブレイカー》【攻撃力/1900→1600】
「ちっ」
「俺はこれでターンエンドだ」
「俺のターン、ドロー。
《モアイ迎撃砲》の効果を発動。《モアイ迎撃砲》を裏守備表示に変更し、モンスターをセット。
さらにカードを一枚セットしターンエンドだ」
まただ、やっぱりこいつの狙いは墓地に岩石族モンスターを溜めて《メガロック・ドラゴン》による制圧、だと思うんだけどな。
「俺のターンドロー。
バトルフェイズ、《ヂェミナイ・エルフ》で裏守備モンスターに攻撃!」
《ヂェミナイ・エルフ》【攻撃力/1900】
「かかったな!」
「何!」
双子のエルフの前に現れるの白地に赤の壷。ちょっとまて、そいつは!
《カオスポッド》【守備力/700】
《ヂェミナイ・エルフ》の爪が《カオスポッド》を打ち砕き、壷の中の一つ目が怪しく光る。次の瞬間激しい突風が吹き、フィールド上の全モンスターが《カオスポッド》に吸い込まれる。
「《カオスポッド》のリバース効果!フィールド上の全モンスターをデッキに戻してシャッフルし、デッキに戻したのと同数のモンスターが出るまで捲り続ける。それで捲ったレベル4以下の通常召喚可能なモンスターをフィールド上にセットし、それ以外を墓地に捨てる!」
デュエルディスクから排出される五枚のカード。通常召喚できるのは《クルセイダー・オブ・エンディミオン》だけか………。
エンディミオンをセットし墓地に捨てられるその他のカード。対する相手は《モアイ迎撃砲》の代わりにセットされる一枚以外デッキからカードを捲っていない。《メガロック・ドラゴン》のために召喚条件付きのモンスターを墓地に送るつもりなのかと思ったんだけど……。
「………カードを一枚セットしてターンエンドだ」
「俺のターン、ドロー!
俺はモンスターをセットし、もう一枚のモンスターをリバース!《メタモルポット》!お互いに手札を墓地に送り、カードを5枚ドロー!」
っ、動いてきた!
「さらにリバースカードオープン!太陽の書!今セットしたモンスターをリバースす。リバースモンスターは《カオスポッド》!」
《カオスポッド》に吸い込まれるフィールド上のモンスター。デッキから捲られるカードは1枚。今回は運よく1枚ですんだか………。
デッキから捲られたカード、《魔導騎士ディフェンダー》をセットし、相手は再び2枚のモンスターをセットする。さっきといい今といい、あいつのデッキの構成、殆どがレベル4以下のモンスターか?ちっ、岩石族って以外イマイチコンセプトがわからねぇな。
「さらに手札から魔法カード発動、《手札抹殺》!お互いの手札を全て墓地に捨てて、捨てたのと同じ枚数デッキからドローする!」
ちっ!カオスにメタモル、《手札抹殺》デッキ破壊なのか?だとするとまずいぞ、こっちは既にデッキの半分を消費、相手はデッキに最低でも《カオスポッド》《メタモルポッド》が一枚ずつ存在してる。速攻を仕掛けようにも下級モンスターじゃ壁モンスターに阻まれ、上級モンスターでも《カオスポッド》のリバース効果でデッキに戻される………!
「まだまだいくぞ、ゴラァ!手札からこいつの効果を発動するぜぇ。墓地に存在する岩石族モンスターを二体除外し、現れろ!《地球巨人ガイア・プレート》!」
「ぬぁ!」
「きゃぁ!」
突如下から大きな衝撃が起こり、直後アスファルトに入る罅。しがみついてくるアニーを抱き寄せる俺の前でアスファルトが下から捲り上げられ、そこから現れる岩石の巨人………。まぁ、ソリッドヴィジョンだから次の瞬間には何事も無かったかのようにボロボロのアスファルトがそこにあるんだけどね。
「《地球巨人ガイア・プレート》で裏守備モンスターを攻撃!」
《地球巨人ガイア・プレート》【攻撃力/2800】
指示に従いガイア・プレートの両腕が頭上へと持ち上げられ、その重量感のある両腕がアスファルトに叩きつけられ、それにより起こる衝撃波がリバースされたディフェンダーを襲い、破壊する。
《魔導騎士ディフェンダー》【守備力/2000→1000】
「くっ、ディフェンダー………」
「さて、俺はカードを一枚セットしてターンエンドだ。
クククククこいつはもう貰ったようなもんだな。そら、さっさとドローしな。どんな雑魚だそうと、俺のガイア・プレートで叩き潰してやるよ!」
雑魚?
ふざけやがって………。てめぇのその台詞の方がよっぽど小物臭漂ってるだろうが。
「俺のターン、ドロー!」
吠え面掻かしてやる!
「手札から《エヴォルテクター シュヴァリエ》を召喚!さらに装備魔法《スーペルヴィス》を発動!このカードはデュアルモンスターにのみ装備可能!装備したデュアルモンスターは再度召喚された状態になる!」
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』
召喚された紅き騎士の全身から炎が噴出し全身を覆う。そしてシュヴァリエの左手にその炎が集約してゆく。
「さらに《エヴォルテクター シュヴァリエ》の効果を発動!このカードはフィールド上の装備カードを墓地に送ることで、相手フィールド上のカードを破壊することが出来る!俺はスーペルヴィスを墓地に送り、《地球巨人ガイア・プレート》を破壊する!やれ、Defense une flamme(デファンス アン フラメ)!!」
左手から放たれる炎が螺旋を描き、顎を開いた蛇の如くガイア・プレートを飲み込み、破壊する。
「な、なんだと、ガイアプレートが!」
「そして墓地に送られたスーペルヴィスの効果発動!このフィールド上で表表示で存在するこのカードが墓地に送られたとき、墓地に存在する通常モンスター一体を特殊召喚する!俺が特殊召喚するのはこいつだ!来い《コスモクイーン》」
アスファルトから染み出す闇が渦を描き、天へと上る闇の柱となる。その闇の柱を引き裂くように現れるコスモクイーン。
「ふん、永続トラップ発動!《化石岩の解放》除外されている岩石族モンスター一体を特殊召喚する。蘇れ、《地球巨人ガイア・プレート》」
「な、そいつは今……!」
「《手札抹殺》《メタモルポット》。墓地に送る機会には事欠かねぇだろう?後はさっきのガイア・プレート特殊召喚のコストにすいて除外してやったんだよ。
そら、まだてめぇのターンだぜ。それとももうターン終了か?」
「んなわけあるか……。バトルフェイズだ!《コスモクイーン》で《地球巨人ガイア・プレート》に攻撃!ティルワンの闇界!!」
ガイア・プレートの足元に湧き出る闇。そこから浮かび上がる亡者のごとき闇の腕が巨石の足にからみつく。しかし……。
「馬鹿が、ありがとうよ!ガイア・プレート!迎えうてぇ!グレート・クエイクゥ!」
岩石で出来た腕がアスファルトに打ち付けられ、その衝撃が足に絡みつく闇を消し飛ばし、さらにアスファルトを波打たせ、波となって《コスモクイーン》を襲う。
《コスモクイーン》【攻撃力/2900】
《地球巨人ガイア・プレート》【攻撃力/2800】
『ぬ、ぅ、ぐぁぁぁぁぁぁっ!』
《コスモクイーン》はその攻撃に耐えようとするも、津波のごとき一撃の前に遭えなく飲み込まれ破壊される。
「な、馬鹿な、攻撃力は《コスモクイーン》の方が……」
「上だってかぁ?はぁ、《地球巨人ガイア・プレート》の持つ効果は二つ。一つは墓地の岩石族モンスター二体を除外することで自身を特殊召喚できる能力。
そしてもう一つが、こいつと戦闘するモンスターはぁ!その攻撃力と守備力を半分にされちまうんだよぉ!攻撃力2900のモンスターがその攻撃力を半分にされて、攻撃力2800のモンスターを破壊できるもんかよぉ!」
《コスモクイーン》【攻撃力/2900→1450】
【翼/LP3800→2350】
…………生きた収縮かよ、こいつ。
「翼お姉ちゃん………」
「大丈夫だ、この程度、どうってこと無いさ」
目端に涙を溜めて見上げてくるアニーの頭を少し乱暴に撫で、ガイア・プレートを睨みつける。
アニーにはそういったものの……。まずいな………。今の俺の手札に奴を排除できる手は無い。
《ディメンション・マジック》《エヴォルテクター シュヴァリエ》《魔導戦士ブレイカー》。シュヴァリエはすで場に出ているが装備カードは《スーペルヴィス》が二枚しかこのデッキには詰まれていない。もちろん手札には無く、次のドローで引けたとしてもそれまでシュヴァリエが残ってるとは思えない。というか確実にやられるだろ。
手札にいる魔法使い族モンスターは一体。正直《ディメンション・マジック》が来たところで使用は不可能。となると、次のドローでブレイカーがこないことには、きついな。
「《エヴォルテクター シュヴァリエ》で裏守備モンスターに攻撃!」
もしこのモンスターが《カオスポッド》だったらそこまで悩む必要も無いんだけどな。
《エヴォルテクター シュヴァリエ》【攻撃力/1900】
シュヴァリエの左手から炎が放たれ、それにあぶりだされるように姿を現す《番兵ゴーレム》
《番兵ゴーレム》【守備力/1800】
『はぁぁぁぁぁぁっ、ぬん!!』
唐竹に振り下ろされたシュヴァリエのサーベルが《番兵ゴーレム》を真っ二つに切り裂き、先に放った炎がその残骸を焼き尽くす。
危なかったな。《番兵ゴーレム》を残したままだったらまずいことになってたわ………。
「カードを一枚セットしてターンエンドだ」
さて、なんとしてもこのターンを耐え切らなきゃだな………。
「俺のターン、ドロー!スタンバイフェイズにガイア・プレートの維持コストとして、墓地の岩石族モンスターを除外する。
そして《コアキメイル・サンドマン》を攻撃表示で召喚!」
コアキメイルの一体か……。サンドマンとガーディアン。トラップを無効化するのはどっちだったか……。
どっちだろうとやることに変わりはないか………。
「ガイア・プレートで《エヴォルテクター シュヴァリエ》に攻撃!」
《地球巨人ガイア・プレート》【攻撃力/2800】
《エヴォルテクター シュヴァリエ》【攻撃力/1900→950】
「トラップカード発動!《ホーリージャベリン》相手攻撃モンスター一体の攻撃力分ライフを回復する!」
「《コアキメイル・サンドマン》の効果を発動!相手がトラップカードを発動したとき、このカードをリリースすることでその効果を無効化して破壊する!」
ガイアプレートの横にいたサンドマンが崩れて砂の塊となり、目の前に現れたジャベリンを掴もうとしたシュヴァリエに飛び掛る。
「く、リバースカード!《非常食》自分フィールド上の魔法、トラップカードを墓地に送りその枚数×1000ポイントライフを回復する!俺が墓地に送るのは《ホーリージャベリン》」
ホーリージャベリンが霞と消え、サンドマンもそのまま地面へと落ちてただの砂へと変わる。そして最後に、ガイア・プレートの拳がシュヴァリエを押しつぶし破壊される。
【翼/2350→3350→1500】
「ちぃ、しぶとく生き残りやがったか。カードをセットしてターンエンドだ」
あぶねぇ、試験的に入れてたこいつらに救われるとは………。
「俺のターン、ドロー!」
ブレイカーは、来ない、か………。
どうする。
俺のフィールドには伏せカードが一枚。手札は4枚あるが、除去カードは無し。
対して相手のフィールドは伏せカードが一枚に裏守備モンスターが一体。そして当面の頭痛の種のガイア・プレート………。絶望的ではないかね、我が軍は………。
額を流れる冷や汗を拭い、再び手札に視線を落とす。この状況を切り抜けるには、どうするべきか………。
ん?そういえば、あいつ伏せモンスターを表表示にしなかったな。何故?
リバースすることが不利益になるモンスターか?《カオスポッド》みたいな?
そういえばあいつ、《メタモルポット》も一度デッキに戻してるんだったな。メタモルの場合、手札に捨てたくないカードがあったのならリバースしない理由にはなるけど………。どっちにしても予測の範囲を出ない。
が、今の状況で出来ることといえば………。
そうだと信じて賭けるしかないか!
「俺はカードを2枚セットし、手札から《守備封じ》を発動!相手フィールド上に存在する守備表示モンスター一体を攻撃表示に変更する!」
「な!」
さぁ、リバースするモンスターは………!
《メタモルポット》!
《メタモルポット》の効果で残り一枚の手札を墓地に送り、引いたカードは………。
最高だわ、お前達は!
「このターンで蹴りをつけるぞ!
リバースカード、オープン!今伏せた《インスタント・フュージョン》を発動!ライフポイントを1000払うことでEXデッキのレベル5以下の融合モンスター一体を特殊召喚する。俺が特殊召喚するのは《ミュージシャン・キング》、レベルは5だ!」
【翼/LP1500→500】
フィールド上にスモークが焚かれ何も無かったはずの地面から立ち上がる《ミュージシャンキング》。喧しいぐらいにエレキギターをかき鳴らすけど、君ね………。
「ただし、この効果で召喚した融合モンスターは攻撃することが出来ずにこのターンのエンドフェイズに破壊される」
おれの説明と共にガックリと肩を落とす《ミュージシャンキング》。世界は広しといえど、こいつをまともに召喚して殴りにいく奴なんて早々いないんだろうなぁ………。
「さらに手札から《ナイトエンド・ソーサラー》を召喚!」
肩を落とすミュージシャンキングの横に現れる巨大な鎌を持ちウサギのような耳を生やした少年。
あ、気落ちしたキングを慰めてるよ。
「レベル5、魔法使い族モンスターの《ミュージシャンキング》に、レベル2チューナー《ナイトエンド・ソーサラー》をチューニング!」
「な、ここに来てシンクロ召喚だと!」
「万物の根源、万能なるマナ。秘されし力に導かれ、秘奥の力よここに顕現せよ!シンクロ召喚!汝、魔力の真実を知る者なり《アーカナイト・マジシャン》」
《ナイトエンド・ソーサラー》が二つの輪に変化し、その二つの輪を《ミュージシャンキング》が潜り抜け、光となってフィールドに突き刺さる。
光が収まりそこにあるのは青みのかかった白い生地に紫で縁取りされたローブに身を包む魔術師の姿。
「《アーカナイト・マジシャン》の効果!このモンスターのシンクロ召喚成功時、このカードに魔力カウンターを二つ置く。《アーカナイト・マジシャン》はこのカードに乗った魔力カウンター一つに着き1000ポイント攻撃力をアップさせる!」
紫色の珠が二つ現れ、アーカナイトの周りを衛星のように旋回する。
《アーカナイト・マジシャン》【攻撃力/400→2400】
「は、はっ。だからどうだってんだ!その攻撃力じゃ俺のガイア・プレートの攻撃力に届かないどころか、戦闘時には1200まで攻撃力が落ちる。そんな雑魚で何しようってんだぁ!?舐めてんじゃねぇぞ!」
「うるせぇんだよ、さっきから雑魚雑魚、雑魚雑魚!
リバースカードオープン!永続トラップ《漆黒のパワーストーン》このカードは発動時に魔力カウンターを三つこのカードに置く。そして一ターンに一度このカードにのった魔力カウンターを一つ消費することで、フィールド上に表表示で存在する魔力カウンターを乗せることの出来るカードに魔力カウンターを一つ乗せることが出来る。
そしてアーカナイトマジシャンの効果を発動!自分フィールド上に存在する魔力カウンターを一つ取り除くことでフィールド上のカード一枚を破壊することが出来る!
俺は《アーカナイト・マジシャン》に置かれた二つの魔力カウンターと《漆黒のパワーストーン》に乗せられた魔力カウンター一つを取り除き、お前のフィールド上に存在する三枚のカードを破壊する!破壊するのは《メタモルポット》《化石岩の解放》そしてその伏せカードだ!」
フィールド上に現れた三つの黒いオーブ。その内の一つが微塵となって吹き飛び、黒い光を発する珠となってアーカナイトの周りを回る珠と合流する。
「やれ!デストラクション・マジック!」
『ふぅぉぉぉぉぉ、はぁっ!』
アーカナイトの杖が振り下ろされ、三つの珠が光弾となって宣言したカードを貫き、破壊する。
そして《化石岩の解放》を破壊されたことにより、その効果で召喚されていた《地球巨人ガイア・プレート》も一緒に破壊される。
「くそぉ、俺のガイア・プレートがぁ!」
これで相手の場をがら空きになった。あともう少しだ!
「リバースカードオープン、《デュアルサモン》!このカードの発動ターン、俺は2回まで通常召喚が可能になる!
俺は手札から《黒翼の魔術師》を召喚!」
アーカナイトの隣に舞い降りる漆黒の翼。立ち上がるのと同時に開かれる翼によって起こされる風が漆黒のドレスと紫色の髪をなびかせる。
「《黒翼の魔術師》が自分フィールド上に表表示で存在する限り、このカードのコントローラーは《バスター・モード》をセットしたターンに発動することが出来る」
「ば《バスター・モード》?」
「なんのことか、わかんねぇなら。その身に味わせてやるよ!
手札からカードをセット!そしてこのカードをそのまま発動させる!《バスター・モード》」
《黒翼の魔術師》が翼を開き、発生した風が今伏せた《バスター・モード》絡みつき、発動させる。
「自分フィールド上に存在するシンクロモンスター一体をリリースして発動する!そのモンスターと同名の/バスターと名の付いたモンスター一体をデッキから特殊召喚する!
《アーカナイト・マジシャン》をリリースし、デッキから《アーカナイト・マジシャン/バスター》を特殊召喚!!!!」
《バスター・モード》から放たれた光がアーカナイトを包み込み、光の繭へと変わり、内部から弾け跳ぶ。
光の粒子とともにアーカナイトの身を包んでいたローブの切れ端が花吹雪のように宙を舞い、その真ん中に赤と青二色の炎のごとき鎧に身を待とう魔術師《アーカナイト・マジシャン/バスター》が佇んでいた。
「こい、つが……」
「《アーカナイト・マジシャン/バスター》の効果。このカードが《バスター・モード》の効果で特殊召喚に成功したとき、このカードに二つ魔力カウンターを乗せる」
紅と蒼、二色の珠が再びアーカナイトの周りを回り始め、《アーカナイト・マジシャン/バスター》が敵を睨みつける。
「《アーカナイト・マジシャン/バスター》はこのカードに置かれた魔力カウンター一つにつき攻撃力を1000ポイントアップする」
《アーカナイト・マジシャン/バスター》【攻撃力/900→2900】
「さらに《漆黒のパワーストーン》の効果発動。一ターンに一度このカードにのった魔力カウンターを一つ消費することで、魔力カウンターを乗せることの出来るカードに魔力カウンターをひとつ乗せる。
《漆黒のパワーストーン》に乗った魔力カウンターを一つ取り除き、《アーカナイト・マジシャン/バスター》に魔力カウンターを一つ乗せる。これでアーカナイトの攻撃力は更に1000ポイントアップする!」
再びパワストーンが一つ砕け散り、その中から現れた黒い珠がアーカナイトの周りを回る珠の列に加わる。
《アーカナイト・マジシャン/バスター》【攻撃力2900→3900】
「こ、攻撃力、3900………」
「さぁ、こいつで幕だ!イシャクシャール=イオド!」
アーカナイトの前方に、三つの魔力球を頂点にした三角形が現れ、静かに回転を始める。だんだんとその速度を増してゆき、三角形が完全な円を描いたとき強い光を放ち、同時にその光の中から鱗に覆われた半透明、ロープ状の触手が弾き飛ばされるように現れ、ダーディワークスのD・ホイーラーを貫いた。
【ダーディワークス・デュエリスト/LP3700→0】
「アニー大丈夫か?」
最後の攻撃を受けて気絶したダーディワークスのデュエリストをその場にほっぽって、俺はアニーが怪我などをしてないかを調べる。
「うん、恐かったけど……、翼お姉ちゃんが助けてくれたから」
「そっか、でも恐い思いさせちまってゴメンな?」
ざっと見た感じ怪我はしていないか。あぁ、よかった。かなり無茶なことしたからなぁ。
『翼、聞こえるか?応答しろ!』
その無茶で自分は全身が痛いが自業自得か、などと考えていると、通信機から聞こえてくるクロウの声。
「はいはい、そんな怒鳴りなさんな。こっちも無事仕留めたしアニーも無事だ」
ヘルメットを拾い上げ、それをアニーに手渡し意図を悟った彼女は笑みを浮かべてヘルメット内のマイクに向かって言葉をかける。
「クロウお兄ちゃん?」
『!アニーか!無事か?怪我は無いか!』
「うん、翼お姉ちゃんが助けてくれたから」
『そう、か。よかったぁ』
心底安堵したといった風なクロウの声に、俺もアニーも自然と笑みが零れる。
ほったらかしにしておいたダーディワークスの一人を縄で縛りあげ(いろいろと怒りを込めた亀甲縛り。モノの上から容赦なく縛りあげてやりました)、とりあえずD・セクターの後ろに縄の端を結び引き摺って帰ることにする。
誘拐なんてふざけた手を使う奴はしっかりと『教育』してやらなきゃ、俺達(主に俺とクロウ)の気が治まらん。
「それじゃ、アニー帰ろうか」
「うん」
D・セクターに跨り、膝と膝の間にアニーを座らせてD・セクターを走らせる。無論荷物があるからスピードは出さないけどね。とりあえず、ランニングのペースで引き摺って帰るとしますか。
「しかし、これから帰って飯を作るとなると、かなり時間がかかるなぁ」
「お姉ちゃん、お料理私も手伝うよ」
「おうそうか、アニーはいい子だな」
走るD・ホイールの上から見上げた夜空。
今夜も星が綺麗だ………。