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[19249] 【習作】遊戯王5D’S IF【遊戯王5D’S×遊戯王5D’S WORLD CHAMPIONSHIP2010 リバースオブアルカディア 5D’Sストーリー】(TSオリ主モノ)
Name: 赤いえびせん◆094ca9cb ID:c4240c43
Date: 2010/06/02 02:29
皆様お久しぶりです。こちらでは一年近く音沙汰の無かった赤いえびせんです。
恥知らずといわれようが戻ってまいりました。違う作品で。

先に投稿していた3作ですが、それに関してリアルにおいて心おられる出来事がありまして、更新は無期延期状態です。
楽しみにしていてくださった方、本当に申し訳ありません。この場で謝罪させていただきます。




これはそれらとは別作品ですのでこのまま延々と謝罪を続けるわけにもいかないので、この作品の説明及び注意事項おば。
・俗に言うトリップ物です。そういうのが苦手な方は『戻る』を推奨します

・この物語はTS物です。そういうものに嫌悪を感じる方は『戻る』を推奨します。

・この物語はアニメ『遊戯王5D'S』とDSソフト『遊戯王5D'S WORLD CHAMPIONSHIP2010』の5D'Sストーリーのクロスですで、ダークシグナー編終了時までは双方のストーリーをチョイス変更しつつ進行していきます。よってところどころにオリジナル設定が出てくる場合もございますがご了承ください。

・オリジナルカードは出てきません。

・ストーリー序盤~中盤において、主人公がTSであることに意味が全くございません。ご了承ください。

・最近リアルの仕事場を異動になったため、リアル環境が変わりとてもとても遅筆になる可能性がございますご了承ください。

・デュエルの進行については知り合いに監修を頼んでおりますが、それでも間違った裁定下している場合があります。そのようなご指摘がなるべく早く修正する所存です。





それでは読者の方々、またよろしくお願いします。

デュエル、スタンバイ!!!!



[19249] デュエル・スタンバイ!【改定版】
Name: 赤いえびせん◆094ca9cb ID:c4240c43
Date: 2010/06/07 06:42
物心付いたとき、自分の周りに大人の姿は無く、独り街を彷徨っていた。
霞がかかったような記憶から浮かび上がる知識を頼りに独り、自分が生まれるよりも前にスラムと化したサテライトで生きていた。

日々を生きるに従い晴れてゆく記憶の霞。それが薄れ消え去ったとき思った。


「俺はいったいどうなっちまったんだ?」




















のっそりと身体を起こせばかけてあったタオルケットが音を立ててベットに落ち、寝起きでしっかりと覚醒していない頭を無理やり起こすかのように側頭部を軽く叩く。
意識が現実へと向かうにつれ、今まで見ていた夢の内容を思い出して苦笑し、意地汚くもしがみついている眠気の一欠片を取っ払うように伸びをする。

「はぁ、10年前の記憶……。また夢で見るとはなぁ」

乱雑ではあるが短く切りそろえた髪を手櫛で大雑把に掻き回しながらベットから降りようとして、部屋の入り口の壁に身体をもたれる背の低い箒頭に気付く。

「………おはよう、クロウ」

「………お前は人の部屋で何やってんだ?」

「なにって……寝てた」

枕元に置いてあったベストを拾い、昨日から着たきり雀になっている黒いタンクトップの上から羽織ってベットから降りる。
そんな俺の回答にクロウは呆れたように額を押さえつつ溜息を一つ。

「お前なぁ……、仮にも女なんだから男の部屋で躊躇無く寝るなよ」

「仮にもとはなんだ、仮にもとは!」

寝ていたことで強張った筋肉を解しつつ、壁に背を預けるクロウに近づき、俺はその腕を取って豊満とは言えずともしっかりと自己主張する己の胸に抱え込むように押し付ける。

「なっ!おま、いきなりなにを………!」

「おぅおぅ、赤くなっちゃって。
なにか?俺に意識しちゃってるのかな?」

「だ、誰が「冗談だ」……」

クロウの言葉を遮るように腕を解放し、彼の横を通って外へ出る。いやぁしかし、クロウをあぁやってからかうのは面白いなぁ。
慌てふためくクロウを思い出しながら俺はカラカラと声を立てて笑う。
背後で憮然としているだろうクロウの表情が目に浮かぶようだが、思考は寝ている間に見た夢へと飛んでいる。




俺の名前は難陀(なだ)翼(つばさ)。れっきとした男だ。身体以外は………。
身体が女で心は男。なんて言われようがオカマの逆ヴァージョンか?と思うかもしれないがそういう意味ではもちろん無い。俺にはこの身体の前、男として過ごしてきた記憶がある。大体大学卒業くらいまでか。それ以降の記憶が無いのは俺がそこで死んだのか、はたまた別の理由か。まぁ今俺は俺としてここにいるから、そこのところはあまり興味がなかったりする。
まぁとにかく俺は俗に言う転生やら憑依といったことを行ってしまったわけだ。それも遊戯王5'DSの世界に。とはいえ俺は遊戯王のアニメはGXの途中までしか見ていないのでこの世界でこれから何がある科などさっぱり分からないのだがね。
そしてそういったこれらの記憶を思い出したのが10年程前、大体この身体が3歳の、ものごころが付き始めるころだ。
記憶を思い出したころには既に両親は他界しており、俺は身よりもなく独り生きていくことを余儀なくされる。幸い前世?での記憶がある俺は一人でもこのサテライトという名のスラムを生きてこれた。それからいろいろとあったが今の俺はこのクロウと他三名とともに『チームサティスファクション』の一員をやっている。




「あ、翼お姉ちゃんだ」

突如かけられたクロウ以外の声に意識を今に戻し、声のしたほうを振り返れば髪を後ろでまとめた少女、クロウが世話をしている子供達の一人のアニーが駆け寄ってきた。

「や、一週間ぶりかな、元気してた?」

片膝ついて迎え入れれば、アニーもまた飛び込むように抱きついてくる。小さい子は元気な姿が一番だな、やっぱり。

「ねぇ、私ね新しいデッキ作ったんだ。だからデュエルしてくれる?」

期待の篭った視線を受け、苦笑しつつそれを了承………できなかった。俺がクロウの住処にやって来た理由を思い出したのだ。そしてその理由というのが……。

「あぁ、ゴメン。ちょ~と今無理なんだ。
クロウ、ちっと頼みがある」

「ん、なんだ?俺にできる範囲なら聞いてやれるけど?」

「セキュリティから俺のカード取り戻すの手伝ってくれ」

その言葉にクロウの表情に緊張が走る。
アニーを放して-アニーが放してくれなかったから手は繋いだままだけど-クロウに向き直り、俺はことの経緯を話し始めた。

ことの起こりは昨日。サテライト中に捨てられているカードを拾い集めるという、ここに住むデュエリストにとってある意味日課のようなもの。それは俺にしてみても変わりなく、昨日も俺はカードを探してサテライト中を歩き回っていた。されど結果は芳しくなく少々遅くまでカードを探していたのだが結局諦めて俺の住処に戻ろうとしたのだが、住処の近くまで来たところでなにやら騒がしいことに気付いた俺は近くの建物の屋上に上り、それを見つけた。俺の住処からダンボールを持って出てくるセキュリティ達の姿を。
セキュリティに家宅捜索をされる憶えは全くもってないのだが、実際されているのだからいまさらそれを考えても仕方の無いこと。セキュリティ達が去ってゆくのを確認してから住処に急げば、室内は完全にもぬけの殻。少ない電化製品から衣服、カードに至るまで全ての物が持っていかれていた。さらに悪いことに、押収されたカードの中には調整のために置いておいたメインデッキたちまで含まれていたのだ。



「マジかよ、文字通り全部持ってかれたのか?」

「あぁ、文字通りぜ~んぶだ。それこそゴミ箱の中身に至るまで全部な。
なんとしても取り戻したいが、俺一人だと難しい。ジャックや遊星は連絡付かないし、鬼柳は次のチームの偵察。頼れるのはお前しかいねぇんだ。な、頼む」

セキュリティ保管庫に手を出す場合の危険性は俺とて理解しているが、それでも押収されてしまったカード達は俺にとってもとても大切なもの。永い奴では既に10年来の仲間達だ、ここでクロウが否といえば一人でも乗り込むつもりだったが、対するクロウは不適な笑みを浮かべて頷いてみせる。

「おいおい、誰に向かって言ってんだ?オレは鉄砲玉のクロウ様だぜ?セキュリティ保管庫に手出すなんて面白そうな話、オレが乗らないとでも思ったのか?」

不適な笑みのまま左の掌に右手の拳を叩きつけ、クロウはいいものを持ってきてやると部屋の中に戻っていった。





「で、これは?」

クロウが持ってきたものを受け取り最初に出た言葉。今手渡されたダークグレーの制服を広げてみればどうやら俺にぴったりのサイズ?

「あぁセキュリティのコスチュームだ」

広げたコスチュームとクロウを見比べる。オレにぴったりのサイズに見えるそれがクロウが着るのにちょうどいいサイズに見えるはずも無く、続けてチームサティスファクションの面々の体型とも比べてみる。
うん、遊星と鬼柳でも無理だな。ジャックなんてもってのほか。

「なぁ、セキュリティのコスチュームって他にも持ってるのか?」

「いや、それだけだぜ?」

「………………お前、オレにコスプレでもさせようとか考えてないよな?」

「はぁ……?」

「………いや、違うならいい」

たまたまサイズがオレにぴったりだったのだろうと納得し、俺はクロウの部屋に入って着替えを開始する、と言っても上はチームサティスファクションの制服であるベストを脱いで制服を着込めばいいし、下もいつものGパンを制服に履き替えるだけだからすぐに終わり、俺はクロウの待つ外へと出る。

「わぁ、お姉ちゃんかっこいい」

「ありがと」

外に出てきた俺の姿にアニーが目を輝かせ、それに軽く返してクロウに向き直る。さて、着替えたはいいけどそのまま忍び込むなんて策をクロウが立てるとは思わないけど、どうするのやら。

「で、着替えてきたけど作戦は?コスチューム着た程度でだまくらかせられる相手じゃないだろう?」

「あぁ、つっても作戦自体は単純だぜ?
俺が先に忍び込んでわざと見つかる。そんで保管庫の連中を引っ張りだして、お前はその間に侵入する。常時ならともかく侵入者が発見されたとあれば、わざわざ制服を着てる奴の身元確認するやつなんていないだろうからな」

「まぁ確かに単純だけどよ、大丈夫か?負担の殆どお前が負うことになるけど………」

「へっ、このクロウ様がセキュリティの有象無象ごときに捕まるものかよ。お前は俺の心配なんてしてないで奪われたものを取り返してくることに集中してればいいんだよ」

力強く握った拳で俺の腕を軽く叩きつつ、クロウはいつもの不適な笑みと共にそう言い切ったのだった。




















そして時が跳んでその夜。セキュリティ保管庫の側の瓦礫の山の陰に身を隠した俺は、あたりに気を配りつつ保管庫の様子を監視していた。
クロウが忍び込んで既に一時間、保管庫に動きが無いというのはどういうことか?
クロウの奴あれだけ豪語しておきながら捕まっちまったんじゃないだろうな?
それともあえて見つかりやすく行動しているはずのクロウにも気付けないほどセキュリティが無能なのか、はたまたサテライトにいるからって怠慢してるのか……。個人的には一番最後のを押したいところではあるんだけどな。

とりあえずこのままもう少し様子を見て動きがないようならこのまま忍び込むか?とにかくクロウの安否の情報は最優先で手に入れなきゃだな。

様子を見るなら十五分ほどかと時間を確認しようとしたところで保管庫に動きがあった。
時間の経過を忘れさせるような静寂を保っていたセキュリティ保管庫から警報が鳴り響いたのだ

クロウ、やっと動いたか!

時間はかかったがこのタイミングで警報が鳴り響くのはクロウがまだ捕まっていなかったからだろう、とほっと一息つき、俺は瓦礫の影からセキュリティ保管庫へと全力で走り出す。
塀近くに積み上げられた瓦礫を足場に保管庫の敷地内へと飛び込み、クロウが進入するのにも使った鍵の壊れた裏口から内部へと侵入する。
数人程固まった足音が早足に遠ざかってゆくのを聞きながら、事前に入手した保管庫内の見取り図を思い出しつつ廊下を駆けてゆく。
途中数人のセキュリティ達とすれ違ったものの、クロウの言ったとおりスルーされというか「あっちを頼む」とか完全にお仲間扱いしてくれる奴までいる始末。た~しかにこりゃ楽だわ。

そして第一保管室へとたどり着いた俺は、誰に咎められることなく保管室内へと入ることに成功したのだった。
はてさて、ここに俺の相棒達がいるか……。いなければ次の保管室を当らなきゃだな。

思いつつ室内を見回し、それが杞憂であることにほっと胸を撫で下ろす。

保管室内の棚に腰掛ける影。エメラルドグリーンの長い髪を二つのテールにしたニーソックスの少女。俺のカードに宿ったデュエルモンスターの精霊『エフェクト・ヴェーラー』。

「すまん、遅くなった」

棚に腰掛けつつ少々不機嫌そうに頬を膨らませる彼女に苦笑しつつ、謝りながら彼女のいる棚に近づいてゆく。

『本当ですよ~、マスターなんだってあぁも簡単に私達のこと手放しちゃうんですか~!?』

「いや、本当にゴメン、でも手放したつもりは無いぞ。あの状況でのこのこ出てったら俺捕まっちまうし。そうなったら二度とお前達とも会えなくなるし」

頬を膨らませ、頬杖付いたまま視線を逸らすエフェクト・ヴェーラーに苦笑しつつ(可愛い反応だなとか思いつつ)謝罪すれば、剥れたまま「わかってます。言ってみただけです」とぼそぼそとそんなことを言ってくる。うん、マジで可愛い。

でも今は彼女のそんな反応を楽しんでいる場合ではない。
棚に置かれたダンボールを引きずり出し、中から俺のデッキを取り出し中を見て全員揃っていることを確認する。デッキをケースに戻して他のカード達もも回収。ついでに目ぼしいカードも貰ってくかな?
とりあえず隣のダンボールからカードの束を拝借。ここに来た目的が目的だからあまり多くは持っていけないけど……、まぁ僅かでもこんなところで死蔵されるよりはマシでしょう。ん、ダークリゾネーターか、そういえばジャックって悪魔族とか戦士族とかごったに使ってるけど、あいつのデッキコンセプトっていったいなんなんだ?とりあえずこいつはジャックにやるか……。
決戦の火蓋、非常食、避雷針、炎の女暗殺者………、あ、ドラグニティも結構あるな。イツキが欲しがってたはずだしこいつも頂戴してくかな。

さて、頂くものも頂いたしそろそろお暇するか。クロウもそろそろ脱出してるころだろうし。
保管室の扉を少し開いて外をうかがえばいつの間にか警報も鳴り止み、慌しい雰囲気も無くなっている。人の気配が乏しいことからクロウが上手く外に引きずり出してくれたのだろうと見当をつけ、俺達の侵入した裏口に向かって走り出した。










なんて言うかさ、連中大丈夫なのか?
保管室から裏口へと向かう途中セキュリティを一人も見かけてないんですけど?来る途中までも人の気配も無いし、もしかして全員クロウを追いかけて行ったとか言わないよな?
こっちとしては楽でいいけど、一応政府下で運営されてる組織のはずだよなセキュリティって。
などと思いつつ辿りついた裏口の扉を開き、塀に沿うように置かれたD・ホイールの一つを足場に脱出しようと駆け出し………。

「おい、そこのお前!」

駆け出したその足を止めざるをえなかった。

背後から掛けられた声に振り返れば、訝しげな表情で近づいてくるセキュリティの姿。

「ここの扉は災害時以外は使用禁止のはずだぞ。知らんわけじゃあるまい?」

そんなこと知らんと言ってやりたい気分だが、セキュリティの言葉を聞く限りでは知ってて当然のことのよう。参ったね、下手に口開けないな。とはいえこのまま黙っていても怪しまれるだけ…………、これって殆ど積み?

「ん?何黙って………。
お前、名前と部署は?」

こっちが何も黙っていれば………、当然こうなるわな。名前はともかくセキュリティの部署なんて知るわけも無いし、言えばほぼ確実にばれる。かと言ってこのまま黙っていても確実にばれる。となるとここで俺が取るべき行動は………。

「逃げの一手!」

「なっ、待て!」

待てといわれて待つ奴はいない。結局こうするんなら、声かけられたときにそうするんだったな。

あぁ、くそ。

「くっ、俺から逃げられると、思うな!」

背後でセキュリティがなにやら喚いているが、そんなことはこっちの知ったことじゃない。
塀を乗り越えるため、二人乗り用のD・ホイールに飛び乗ろうとしたとき、背後からガチャガチャと金属の擦れる音が聞こえ左手に衝撃、次いで左手が背後に引っ張られて豪快にひっくり返りそうになる、というかひっくり返させられた。

「のぁ!」

なんとか受身をとって振り返りつつ起き上がれば左手にはロープ付きの手錠。そして忍び込むときに調達したセキュリティ使用のデュエルディスクが起動する。

「この12代目銭形幸一の手錠投げ、甘く見るなよ」

銭形を名乗るセキュリティもまたデュエルディスクを起動させ、デッキが自動的にシャッフルされる。
あぁ、この手錠、俺達が使ってるのと同じ仕様かよ。こりゃ、デュエルをしないという選択肢は無いってわけか。
おそらくは俺達チームサティスファクションが使っているのと同じこの手錠、デュエルで勝たなければ外すことができず、負けれたり無理に外そうとするとデュエルディスクを破壊するというトンデモな代物だ。俺のデュエルディスクじゃないとはいえ無抵抗にこれを破壊されるのはいやだな。

「くそ、あぁそうかい。手錠投げがすごいのはわかったけどよ、デュエルの腕が伴わなければ意味が無いぜ?」

取り返したばかりのデッキをディスクに収め、デッキがシャッフルされる。

「サテライト風情に心配されるほど柔じゃぁない、俺の先攻、ドロー!
俺は《E・HEROスパークマン》を攻撃表示で召喚!」

『でゅぇあ!』

掛け声と共に召喚されるのは稲妻を全身に描いたかのような全身青タイツのE・HERO。アニメ版遊戯王GXでもおなじみのE・HEROスパークマン。
こいつ、HERO使いかよ。

E・HEROといえば条件の緩い融合で強力なモンスターが簡単に出てくるテーマ、特にゼロとかゼロとかシャイニングとか。
これは相手に融合をさせる暇を与えないよ速攻で責めるべきか……。

「さらにカードを二枚セットしターンエンド」

「俺のターンドロー!」

果てさてどうしたものか、既に手札にはエースが来ているが……。問題は召喚するタイミングだ、相手がE・HEROなら下手に召喚すると効果で破壊される可能性が高い……。ゼロとかジャイアントとか……。そう、なると……。

「俺は《魔導騎士ディフェンダー》を攻撃表示で召喚!さらにこのカードは召喚に成功したとき、魔力カウンターを一つ乗せる事ができる。そしてフィールド上に表表示で存在する魔法使い族が破壊されるとき、フィールド上の魔力カウンターを代わりに取り除くことができる!
このままバトルフェイズ!《魔導騎士ディフェンダー》で《E・HEROスパークマン》に攻撃!」

「何!相討ち狙い!?」

セキュリティ改め銭形が驚愕の声を上げるがそんなはずがあるものか。


《魔導騎士ディフェンダー》【攻撃力/1600】

《E・HEROスパークマン》【攻撃力/1600】


スパークマン目掛けて駆けるディフェンダーがその手にした短剣を振るい、同時に相手もまた掌に集めたエネルギーをディフェンダーへと叩きつける!

「《魔導騎士ディフェンダー》の効果!フィールド上に存在する魔力カウンターを取り除くきディフェンダーは戦闘破壊を免れる!」

ディフェンダーの盾から彼と同様の蒼い光が解放されてそれが砕け散り、同時にスパークマンディフェンダーの短剣に切り捨てられる。

「くっ、スパークマン!」

「俺はカードを一枚セットしターンエンドだ!」

スパークマンを倒したディフェンダーがその場から跳び退き、護りの騎士の名のとおり俺を守るように盾を構える。
その姿を忌々しげに睨みつける銭形。とはいえその手はすぐさまデッキへと伸ばされる。

「俺のターンだ、ドロー!
《E・HEROクレイマン》を攻撃表示で召喚!さらに速攻魔法《サイクロン》!その伏せカードを破壊させてもらう!」

「ちぃっ!させるか!リバースカードオープン、《ディメンション・マジック》!自分フィールド上の魔法使い族モンスター一体をリリースし手札の魔法使い族モンスターを特殊召喚する。その後フィールド上に存在するモンスター一体を破壊することができる!]

「それこそさせるか!リバースカードオープン!永続トラップ《王宮の弾圧》!LP800を払うことでその特殊召喚を含む効果を無効化し、破壊する!」


【銭形/LP4000→3200】


「な、弾圧入りHERO!
まさか、特殊(融合)召喚が売りのE・HEROに弾圧を積んでるとはね。思いもしなかったよ……。だけどそのトラップの効果は相手も使用できること、わかってる?」

「そんなこと先刻承知さ」

「そりゃそうか………」

しかし、特殊召喚主体のHEROに《王宮の弾圧》か……。でもよくよく考えてみればHEROは手札補充や特殊召喚方法が豊富なことを考えればこれもありなのかもしれないな。特にLP4000のこの世界では………。HEROの特殊召喚に弾圧を使いすぎればすぐにLPは消えてゆく。しかも初期LPを考えれば阻止できるのは都合4回。阻害してもこちらのLPは残り800。LPの回復手段を持ってない限りおいそれと使うことができない。

こいつは最悪な組み合わせだな………。

「さて、まだ俺のターンはこれからだ。俺は手札から魔法カード《ミラクル・フュージョン》を発動する!このカードは自分フィールド上または墓地から融合モンスターカードによって決められたモンスターをゲームから除外することによって「E・HERO」と名の付く融合モンスター一体を特殊召喚することができる。
俺は墓地の《E・HEROスパークマン》と《E・HEROクレイマン》をゲームから除外!来い《E・HEROサンダー・ジャイアント》!」

空間が歪みそこから現れようとする黒い影、盛り上がった上半身に比して異様に下半身が細いE・HERO……ってやばい!この状況でそんなもの呼ばれたら!
サンダー・ジャイアントは攻撃力2400と数いる上級モンスターの中でも低いわけでも高いわけでもない平均的なステータスのモンスター。だがこのモンスターの効果は一ターンに一度手札のカードを自身の攻撃力以下のモンスターを破壊する除去カードにすることと同意。弾圧で特殊召喚を封じられるこの状況でこれはまずい、阻止しなきゃ……!

「ちぃっ、永続トラップ《王宮の弾圧》効果発動!LP800を払ってその特殊召喚を……」

「そうはいかないな、《王宮の弾圧》の効果にチェーンしてトラップカード《トラップ・スタン》発動!このターンこのカード以外のフィールド上のトラップカードの効果を無効化する!」

トラップ・スタンが発動し、カードから走る電流が王宮の弾圧に絡みつき、それに次いでサンダー・ジャイアントの召喚を阻害するかのように地面から飛び出してきた鎖が、力を失ったかのように地面に転がり、そのまま消えてゆく。


【翼/LP4000→3200】


「弾圧の効果を発動してきた場合の対策を何もしていないと思われてたのかな?
だとしたら心外だな。デッキを組むならばあらゆる可能性を考慮するのは当然だ。それが自身のカードであれ、相手もそれを使用することができるのならば尚更だ」

なんともいやみったらしい言い方をしてくれる。
しかし最悪の状況だ。俺のフィールド上には魔力カウンターを失ったディフェンダーが一体。そして相手の手札は二枚。

「《E・HEROサンダー・ジャイアント》の効果を発動!手札を一枚捨てることで相手フィールド上に表表示存在する、このカードよりも攻撃力の低いモンスター一体を破壊する。
食らえ!ヴェイパー・スパーク!


【E・HEROサンダー・ジャイアント/攻撃力2400>魔導騎士ディフェンダー/攻撃力1600】


『ぬぅぅ、ぐぁぁ!』

サンダー・ジャイアントから放たれる電撃がディフェンダーに直撃。掲げた盾で耐えようとするも、電撃はその盾を粉砕しディフェンダーを飲み込み消滅させる。

「続けてバトルフェイズ!《E・HEROサンダー・ジャイアント》でダイレクトアタック!ヴォルテック・サンダー!」

サンダー・ジャイアントの頭上に掲げられた両手の間に現れるプラズマ球。そのプラズマ球が俺目掛けて投げ放たれる。

「ぐがぁぁぁぁっ!」


【翼/LP3200→800】


いつも思うけど、この衝撃は心臓弱い人間だとショック死ものだろ。

「さて、俺はこれでターン終了だ」

余裕といわんばかりの表情を見せ付けてくる銭形に、何かしら言ってやりたくもあるが、今の手札じゃ弱い犬ほどなんとやらだ。
再び自分の手札に視線を落とすも、それで手札が変わるわけもない。
今俺の手札にフィールド上のカードを除去できるカードは無い。次のドローでフィールド上のカードを除去できるカードを引けたとしても事態好転させることは難しい。第一俺のデッキにはそれ単体で除去を行うことができるカードは一種類しかいないうえに、そのカードで除去できるのは魔法かトラップのみ。攻撃力も高くないためにそいつを引けても次のターンで間違いなくサンダー・ジャイアントの効果の餌食になるだろう。それでもって直接攻撃で俺の負けが確定することになる。
だからと言ってサンダージャイアントを除去できるカードとなると二種類のみ。一枚は先ほども使用した《ディメンション・マジック》。効果でサンダー・ジャイアントを排除できる可能性があるが特殊召喚を含む効果であるため弾圧で消され先の二の舞になるのがおちだろう。そうなれば、あとはこちらのモンスターをサンダージャイアントの効果で破壊し、攻撃力2400のサンダージャイアント自身の攻撃が通ってそれで終了、THE ENDというやつだ。
もう片方にいたってはそれ以外にもう一枚条件を満たせるカードが必要で、どちらも手札には存在しない。一度のドローフェイズにドローできるカードが一枚なのだから次のドローでそろえることなど出来るはずも無い。

「どうした、お前のターンだぞ。それともサレンダーするか?」

「……このまま考えてたって意味は無い、か。俺のターン、ドローだ」

俺の引いたカード……。耐え切れるか?いや、賭けるしかないか……。

「俺は手札から《魔導騎士ディフェンダー》を守備表示で召喚。このカードの召喚に成功したとき魔力カウンターを一つ乗せることができる」

俺はドローしたカードを手札に加え、再びディフェンダーを召喚する。

「さらにカードを一枚セットし、手札から《愚かな埋葬》を発動。デッキからモンスターを一体墓地へ送ることができる。ターンエンド」

俺はデッキからエースたる彼女を墓地へ送りターンを終了する。
はっきり言って分の悪い賭けだ。これで攻撃力が800以上あるモンスターを召喚されれば俺の負けは確定。いや、それどころか、このターンを凌いでも次のドローで《奴》を引けなければそこで俺の負けになる……。例え引いたとしても後でどんな文句を言われるか………。最悪だな。

「まるで何とかの一つ覚えだな。俺のターンドロー。
俺は《E・HEROサンダー・ジャイアント》の効果を発動する。手札からカードを一枚墓地に捨てることで相手フィールド上に表表示存在する、このカードよりも攻撃力の低いモンスター一体を破壊する。
やれ!ヴェイパー・スパーク!」


【E・HEROサンダー・ジャイアント/攻撃力2400>魔導騎士ディフェンダー/攻撃力1600】


「く、ディフェンダーの効果を発動!魔力カウンターを一つ取り除くことでその破壊を免れる!」

サンダー・ジャイアントから放たれた電撃に対してディフェンダーの盾から蒼い光の玉が現れ、それがヴェイパー・スパークをそらし。電撃はディフェンダーの両脇の地面を直撃して盛大に砂埃を巻き上げる。

「命拾いをしたな、バトルフェイズ!《E・HEROサンダー・ジャイアント》で《魔導騎士ディフェンダー》に攻撃!」

再び放たれたプラズマ球がディフェンダーを焼き、再び俺のフィールドからモンスターが一掃される。だが相手の場には他にモンスターはいない。やつの言うとおり命拾いをしたわけだ。
この拾った命が生きるか否か………、次のドローが俺の運命の瞬間《ディスティニードロー》だ。

「俺はターンエンドだ。さぁ、早くドローしな!」

「言われなくても!俺のターン、ドローだ!」

俺のこのデッキの総数は42枚。そして現在のデッキ枚数は34枚。そして奴はこのデッキに2枚存在する。この状況であいつを召喚できる可能性は約6%………。十回に一回引けるか否か。
いいぜ、信じてるぞお前達のことを!

「!俺は今ドローしたカード、《エヴォルテクター シュヴァリエ》を攻撃表示で召喚する!」

現れるのはサーベルを手に炎の如き鎧に身を包んだ紅き騎士。





賭けは………、俺の勝ちだ!





「さらに手札から装備魔法《スーペルヴィス》を発動!このカードはデュアルモンスターにのみ装備可能!このカードを装備されたデュアルモンスターは再度召喚された状態になる!
俺はこのカードを《エヴォルテクター シュヴァリエ》に装備する!」

『!うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

シュヴァリエの目が見開かれ、全身から噴出された炎がシュヴァリエを包み込む。

「さらに《エヴォルテクター シュヴァリエ》の効果を発動!自分フィールド上の装備カード一枚を墓地に送ることで相手フィールド上のカード一枚を破壊する!
俺は《スーペルヴィス》を墓地に送り、《王宮の弾圧》を破壊する!
やれ!Defense une flamme(デファンス アン フラメ)!!」

シュヴァリエの全身を包む炎が右手に集約され、《王宮の弾圧》目掛けて解き放つ。
放たれた炎を《王宮の弾圧》を包み込み、消滅させる。

「くっ、だが《王宮の弾圧》を破壊したのは間違いだったな!そいつでは俺のサンダー・ジャイアントの攻撃力を上回らない!」

「はっ、んなわけあるか!墓地に送られたスーペルヴィスの効果!フィールド上に表表示存在するこのカードが墓地に送られたとき、墓地に存在する通常モンスター一体を特殊召喚する!
さっきはすまなかったな、今度こそ出番だ!来い!《コスモクイーン》」

シュヴァリエのすぐ横に地面から渦巻く闇が立ち上り、その闇のヴェール掻き分け先ほど破壊されたコスモクイーンが威風堂々フィールド上に姿を現し、何気なくその手を振るえばその先に彼女の現れた闇が集まり闇色の珠となる。

『………翼覚悟はよいかえ?妾を墓地に送るとは、その所業万死に値するぞ』

肩越しに振り返り、ぎろりと擬音が聞こえそうな視線を向けてくるコスモクイーン………。って言ってること無茶苦茶ですって、それしてないと俺負けてるから!
というか、せっかくの盛り上がりが………。

「な、なんだと!攻撃力2900、俺のモンスターを上回っただと!」

あっちは一人雰囲気を壊されなかったご様子で。あぁそれならおれもここクイーンの言葉をスルーさせてもらうか。

「バトルフェイズ!《コスモクイーン》で《E・HEROサンダー・ジャイアント》に攻撃、ティルワンの闇界!!

『ふん、はぁ!』

「さらに攻撃宣言時にリバースカードオープン!《マジシャンズ・サークル》このカードは魔法使い族モンスターの攻撃宣言時に発動可能。互いのプレイヤーはデッキから攻撃力2000以下の魔法使い族モンスター一体を特殊召喚する!」

コスモクイーンの背後に魔方陣が現れ、その中から飛び出してくるのは《魔導戦士ブレイカー》【攻撃力1600】。ブレイカーの召喚と時を同じくして、コスモクイーンの手から闇の珠が放たれる。
闇の珠はサンダー・ジャイアントの手前で破裂。闇の嵐となってモンスターを包み込む。


《コスモクイーン》【攻撃力/2900】

《E・HEROサンダー・ジャイアント》【攻撃力/2400】


闇の中から響く断末魔。闇は苦悶に怨嗟の声を上げる亡霊のような容になりながら影の中へと消えていった。


【銭形/LP3200→2700】


「さらに続けて《エヴォルテクター シュヴァリエ》《魔導戦士ブレイカー》でダイレクトアタック!」

攻撃宣言に合わせて騎士と戦士がフィールドを駆ける。シュヴァリエが右から、ブレイカーが左からその手に持った得物を振るう。

「ツインソードストライク!!」

「ぐはぁっ!」


【銭形/LP2700→0


二振りの刃に切り裂かれた銭形が地に伏し、同時にディスクを拘束していた手錠が音を立てて外れて地へ落ちる。

「悪いが、このままずらからせてもらうぜ!」

デュエルが終了し消え去ろうとする仲間たちと共に塀へと駆け、そばに置かれD・ホイールを足蹴に俺は保管庫を囲う塀を乗り越え辛くも脱出に成功したのだった。










セキュリティ保管庫を離れること10分ほど。ガラスも張られていない窓の下、埃だらけの床に腰を下ろして俺は上がった息を整えていた。

「ここ、まで、くれば大丈夫だろ………」

被っていたセキュリティのヘルメットを投げ捨て、制服を肌蹴て体温が上がって汗ばった身体に風を送る。

「あぁ、くそ。なんだって連中俺の家に家宅捜査入ってんだよ。カードは取り返せたけど、生活用品もなければもうあそこに住む訳にもいかんし………。しばらくはクロウのところで厄介になるか………」

服も買わなきゃいけないしなぁ、特に下着。流石にこいつにかんしては何日も同じのを穿き続けるのは勘弁願いたい。

『ふん、妾達をあのように容易く拐された天罰じゃ』

すぅーっと幽霊のように現れるコスモクイーンが不機嫌そうに腕を組みながら見下ろしてくる。言うまでも無くこいつもエフェクト・ヴェーラー同様カードに宿った精霊だ。12年前にひょんなことから手にした彼女が、この世界において俺がデュエル・モンスターズをやるようになったきっかけだ。
《コスモクイーン》と《エフェクト・ヴェーラー》彼女達が俺のもつ精霊を宿したカード。

『それとじゃ!女子がそのように服を肌蹴る出ない!はしたない!』

「いやいや、ちょっと待て!俺いつも言ってるよな、身体はともかく俺は男だって!」

『そちの魂がどうであろうと関係ないわ。女子たるものもっと慎みを持ってじゃな………!』

うわぁ、また始まったよ……。こいついつもこうなんだよなぁ。ことあるごとに女子たるもの女子たるものって、俺は男だっての。
というかお前のその性格で慎みとかないわ、この女王様気質め……。

コスモクイーンの説教を聞き流し、先ほど投げ捨てたヘルメットを拾って立ち上がる。息も大分整ったし、早いとこクロウのアジトに戻るか………。

『これ、翼聞いておるのかえ!』

「はいはい、聞いてますよ~」

右で聞いて左から流れ出てるけど。










建物を出て見上げた夜空。

月と共に静かに瞬く星々がとても綺麗な夜だった………。






[19249] ゲット・ライド
Name: 赤いえびせん◆094ca9cb ID:c4240c43
Date: 2010/06/19 00:45



セキュリティ保管庫からコスモクイーン達を取り返して数日後。俺はクロウのアジトに居候していた。
衣類等必要最低限の生活用品は都合できたものの、住む場所までは流石に手が回らずクロウのベットで夜を過ごす日々………。

え、クロウはどうしてるかって?部屋の外でタオルを羽織って寝ていますよ?ほら、俺って仮にも女だし、肉体は。
この前はコスモクイーンに男だと主張しておきながら何してんだという抗議は受け付けない。このことを知ってるのはコスモクイーンとエフェクト・ヴェーラーだけだし。
え?男のプライド?それはそれ、これはこれ、自分の身の回りの環境改善のためなら使えるものは何でも使うのさ。たとえ自分の性別であっても。13年も女の身体で生活してんだ、祖紺ところは既に開き直ったよ。

そんなわけで今日も今日とてもそもそとベットの中から起きだして、ベストに袖を通して外に出ればアニーたちが元気に遊びまわっている。太陽ももうすぐ中天に差し掛かるころ。うん、完璧なまでに寝坊したな、俺。

「あ、翼姉ちゃんやっと起きたのかよ」

俺が外に出てきたことに気付いた子供達が駆け寄ってくる。ちなみに生意気な口の聞き方をしているのは子供達のリーダー格のイツキ少年だ。

「ん~最近夜遅くまで起きてるからねぇ。とっても眠いのよ」

イツキの頭をポンポンと叩いてやりながら部屋の中から持ち出してきたりんごを丸齧りする。

「ん、そういえばクロウはどうしたんだ?」

辺りを見回せども、普段なら子供達と一緒にいるはずのクロウの姿が見えず、首をかしげて子供達に問いかける。

「クロウおにいちゃんならお買い物に行ったよ?」

買い物か………、そういえば昨日食料の買出しがどうのとか言ってた気が………。もしかしなくともそれかな。

「そっか、そりゃもちっと早く起きて手伝いに行けばよかったかな………」

「そんなことより、さっき遊星兄ちゃんが翼姉ちゃんのこと訊ねて来てたぜ」

「遊星が?」

「うん。なにか用があったみたいなんだけど、まだ寝てるって言った苦笑いしながら来たことだけ伝えてって言ってた」

ふむ、遊星が………。そういえば遊星に何か頼んでたような………。なんだっけな。
遊星が俺を訪ねてくるってことは、多分それだと思うんだけど………。

「遊星兄ちゃんのところに行く?」

「そうだな、わざわざ訊ねてきてくれたんだし。うんこれらちょっと会いに言ってくるわ。みんな良い子でお留守番してろよ」

『ハーイ』

「みんな元気でよろしい」

子供達の元気な返事に自然と笑みが零れる。
うん子供は元気が一番だ。

一度部屋に戻ってカードとデュエルディスクを腕に付け、俺は遊星のアジトに足を向けた。




















遊星のアジトである元地下鉄駅。10年以上稼動していない改札を通り抜け、更に地下へと続く階段を降りてゆく。
サテライトは結構広い、ゆえにこの地下鉄も崩れて使えない場所もあるけれど、それを除いてもかなりの広さでサテライトの地下を巡っている。
これらが生きてればサテライトでの暮らしも少しはマシになるって言うのに………、はぁ、現行政府はこちらのことなどお構いなしだ。
…………さすがに議題の否決を政治家同士のデュエルで決めてないよな?いや、さすがにそれはないと思いたいけど、ここまでデュエルが人の生活の基盤になってるとなぁ、セキュリティとかセキュリティとかセキュリティとか。
そういえばGX時代の万丈目の一番上の兄貴、あれって確か政治家でデュエリスト………。アニメに出てきた数少ない政治家がデュエリストって………この考えを馬鹿な話って切るには非常に大きな不安材料なんですが?

非常に恐い答えになりそうだから以降考えないことにしよう………。




















そのころのとある政治家のお話




「今回の議題………、このままこれを決とするにはいささか難しいですな」

「ふむ、それでは………」

「そうですな、それでは………」

「任せましたぞ、十六夜さん」

「あぁ、今日は娘も待っている、長引かせたくないものですな」




『いざ、デュエル!』




















なんだろう、今猛烈に殴りこみをかけたくなった………。

とりあえずそれは置いといて、階段を降りきれば遊星のアジトはすぐそこだ。テントの中から漏れる灯りを頼りに近づいてゆく。

「よ、遊星」

「翼か、やっと起きたみたいだな」

「ははは、それさっきイツキにも言われたよ。
さっきはわざわざ訊ねてきてくれたのにすまなかったな」

「いや、俺の方こそ、この前は大変だったのに手を貸せなくてすまなかった」

「ありがと、その気持ちだけでも嬉しいよ。あぁそうそう、これ」

D・ホイールを弄っていた遊星が立ち上がりすまなそうにするのに、気にするなと肩を竦めて見せる。そして思い出したように先日セキュリティ保管庫で手に入れたカードを一枚投げて渡す。
前から不思議に思ってたんだけど、この世界って紙でしかないはずのカードがなんであんなまっすぐに飛ぶんだろう?

「………こいつは」

「《クイック・シンクロン》。シンクロンを多用する遊星なら上手く使いこなせるだろう?」

「あぁ、大事にさせてもらう」

無愛想にも見える遊星のいつもの笑みに自然と笑みを返し、訊ねてきた用件を改めて聞く。

しかし、初代主人公の闇遊戯、二代目主人公の遊城十代。感情が表に出やすい二代主人公に比べて、うちの三代目主人公はどうしてこう、感情が表に出ない、『静かに燃える熱血漢』なのかね。
ん?アニメはGXの途中までじゃなかったのかって?アニメはそうだけど、主人公くらいは知ってたさ。
まぁシンクロ召喚なんて知らなかったから、カードから離れて一時復帰した際には、仲間からシンクロの洗礼を受けて俺のハーピィ達も機械達も完膚なきまでに蹴散らされたけどね。

「あぁ、お前に頼まれてた物。完成したぞ」

やっぱり俺が頼んでたものか………、思い出した。

「こっちだ、来てくれ」

先を歩く遊星の後を追ってテントの裏に出れば、そこには大きなものにシーツが被せてあり、静かに笑みを浮かべる遊星が剥がしてみろばかりに頷く。
そっとシーツの端を掴み、一度深呼吸してからシーツを一気にを引き剥がす。


シーツの下から現れたのは重量感のある流線系のフロントに対照的な少々角ばったテール。側面には白地に赤を基準にした計四色のカラーリング。



これぞまさしくロ○ドセクタ○!



Blackファンの方ゴメンなさい。同じくファンとして自重できませんでした。

サイドにシールドもつけてるから微妙に違うんだけどね。
さて、みなまで言わずともわかるだろうけど言わせて貰おう。D・ホイールです。わたくしの。

「遊星……」

「あぁ、少し時間がかかったが……。それに見合うだけの出来になったはずだ」

側の木箱の上に置かれていたデュエルディスクを投げ渡され、D・ホイールの側面にある窪みからこのマシンがハイブリットであることに気付く。
作り始めた当初の予定ではハイブリットではなかったはずだが………。完成が遅れたのはそのためか。だけどこれは確かに。

「あぁ、最高だ」

ロ○ドセクタ○改めD・セクター(命名俺)に近寄り、側面の窪みにデュエル・ディスクをセットする。ディスクのコア部分であるモーメントがマシンの中に沈み、それを隠すようにプレートが円形に変形しながらその上に移動し、静かにエンジン音が響き始める。

「早速走るのか?」

「モチのロンだ!」

どこか楽しそうな遊星の言葉にバイクに飛び乗り、黒いオープンフェイスのヘルメットを被り、アクセルを握って一気にホームから線路へ飛び降りる。

「タイムは俺が計ってやる。存分に楽しんで来い」

親指を立てて返事を返し、俺は一気にD・セクターを目の前のトンネルへと飛び込ませる。元は地下鉄の線路だったこの場所は14年前に起こったゼロ・リバースにより天井が裂け、昼なら日の光が届き地上と同じように存分にマシンを走らせることが出来る。
始めはD・ホイールの調子を見るために抑え気味に走らせていたが、心配することは何も無いとわかれば一気にアクセルを握りこみマシンを加速させる。

すごいスピードで背後に消えてゆく地下鉄の壁を視界の端に捕らえつつ更に加速。

目前に迫るカーブに減速させること無く機体を飛び込ませる。

フロントからテールへと伸びるシールド。

身体を押し付けるような前傾姿勢でカーブへと飛び込み、次の瞬間天地が逆さまに変わる。


一度。


二度。


三度………。


地面から壁へ、壁から天井へ、天井から再び壁へ、そして大地へ帰り再び空へ。


筒状の地下鉄トンネルでバイク版バレルロール(あれの名称知らんですたい)


カーブの終わりと共に更に加速。最後の直線を一気に走りぬける。


ブレーキと共にハンドルを切り、約二十メートルを砂埃を巻き上げ名が滑走してやっと停車する。


頭上のシールドがフロントに格納され、ヘルメットを外しながら肺に溜め込んだ空気を一気に吐き出し、背もたれに身体を預ける。

やばい、風を切って走るのがここまで楽しいとは……。興奮しすぎて息上がってる。

ホームに立つ遊星に顔だけ向けて親指を立てる。
はぁ、しばらく動けそうに無い。

遊星に計ってもらったタイムは彼のタイムと比べても最速レベル。うん、調子に乗ってスピード出しすぎたからな。普通なら事故っても仕方ないような危険な走り方もしてたし。遊星は黙っておこう。

「気に入ったみたいだな」

「…………最高」

線路に降りてきた遊星からスポーツドリンクを受け取り、それを一息に飲み干して搾り出すように返事を返す。

うん、世のD・ホイーラーの気持ちが痛いほど良くわかった。下手したら中毒もんだわ。
ただ走らせるだけでこれだ、その上この状態でデュエルできるってんだからなぁ。

「そうか。
………まだ走りたそうだな?」

「あぁ、興奮冷めやらぬうちにもう2,3週してみたいね」

「そうか、なら好きなだけ走らせて来るといい。何かしら不具合があればすぐに見てやる」

「………サンキュ、遊星」

身体を起こして再びマスク被ってハンドルを握る。

地面を蹴ってアクセルを握る。



『イィヤッホーーーーーーーーー!』



そんな奇声を上げながら、俺は風になるべくD・セクターでトンネルを走り抜けるのだった。




















もうすぐ夕焼けかねぇ。

トンネル内とは違って安全運転で走りながら空を見上げ、大分傾いてきたお日様に溜息を一つ。
結局あの後トンネル内を10週フルスピードでD・ホイールを走らせていた。

こいつの乗り心地は最高。遊星には感謝してもしてもしたりないな。

『ご機嫌だねぇ、マスタ~』

「あぁ、ここまで楽しいとは、D・ホイールを侮ってたわ」

どこか呆れた感じのエフェクト・ヴェーラーの言葉に、先ほどまでのライディングを思い出し自然と頬が緩む。

あぁ、また一気にこいつを走らせたいけど、ここでそんなことやったら交通事故起こすからなぁ。

『ふぅん、そんなに走らせたかったら旧ハイウェイにでも行ったらどうですか~?あそこならそこまで心配する必要も無いですし~』

「そうだな、でも今日は戻るぞ。ちびっ子どもに飯作ってやるって約束してるからな」

『飯って、野菜とお肉を鍋に突っ込んで煮込むだけじゃないですか~。マスターも女の子なんですからもう少し手の込んだお料理作れるようになった方がいいですよ~。
でないと誰にも貰ってもらえないですよ~』

「誰が嫁に行くか!いつも言ってるけど俺の魂は男なの。だからお嫁になんざ行きません!」

まったく、こいつといいコスモクイーンといいなんだって俺を女扱いするのかねぇ。何度も訂正してるってのに。

『………あれ?マスターあれは?』

「ん?」

何かに気付いたエフェクト・ヴェーラーが指差した方向を見て、俺は一気にハンドルを切ってD・ホイールを脇に寄せる。その直後正面から猛スピードで走ってきた数台のD・ホイールが土煙を上げながら通り過ぎてゆく。

「っち、あぶねぇ走りしやがって、何処のどいつだ………」

『旧ハイウェイの方に走っていったみたいですね~。文句言いに追いかけますか~』

「こいつで走れるって意味では魅力的な提案だけどな。ちびっ子との約束もあるしさっさと戻る」

『は~いです』

まぁ、次にあったときに文句の一つも言ってやればいいだろう。
そう思いながらクロウのアジトに向かい、そこでこの選択を後悔した。奴らをすぐに追いかけるべきだったと。

D・ホイーラーの集団と遭遇した場所はクロウのアジトのすぐそこだった。入り口の側に乗り付けてヘルメットを外すと、部屋の中から血相を変えたイツキが飛び出してきた。

「翼姉ちゃん!」

「おう、ちょっと遅くなってごめんな。飯はすぐに作り始めるから………って、どうしたんだ?そんなに慌てて」

D・セクターから降りようとしながら聞いたイツキの言葉。一瞬それが飲み込めず、しかしそれを頭で理解して俺はすぐさまヘルメットを被りなおして車体を反転させる。



『アニーが攫われた』



犯人は俺とすれ違ったD・ホイーラー達。アクセルを全開まで握り込んで一気に加速させる。

「ヴェーラー!奴らは旧ハイウェイの方に向かったんだな!」

『うん、多分間違いないよ!』

「わかった、お前は先にハイウェイに向かって奴らを探せ!俺もすぐに追いつく!」

瓦礫の転がる道路を疾駆しながら、それよりも早く空を飛んでゆくエフェクト・ヴェーラーを見送り、俺はヘルメットに内臓されている通信機のスイッチを入れる。

「誰か!聞こえるか!」

この呼びかける相手はチームサティスファクションの全員。使われていない周波数を勝手に俺達の回線として使っているものだ。

『翼か、どうしたのだ、そんなに慌てて』

「!ジャックか!用件は手短に話す!アニーが攫われた!犯人は旧ハイウェイの方に向かった!」

『なに!アニーがだと!』

『おい!翼、そいつはマジか!』

ジャックの驚愕の声と同時に聞こえてくるのはクロウの声。さらにスピーカーから聞こえる音がもう一つ増えさらに誰かが回線を開いたことを知る。

「こんな冗談死んでもするもんかよ!連中は5,6人のD・ホイーラー、全員黒いD・ホイールに緑色のライディングスーツを着てる奴らだ!」

『ちぃっ、そいつ等は『ダーディーワークス』の連中だ!くそ、奴らふざけた手ぇ使いやがって!お前ら、戦争だ!一人たりとも逃がすんじゃねぇぞ!』

『あぁ、当然だ!』
『アニー待ってろよ、すぐにクロウ兄ちゃんが行ってやるからな!』
『俺もすぐに出る。見つけ次第連絡をくれ』

通信機から聞こえてくる鬼柳の怒鳴り声。そして言葉は違えど怒りを込めたメンバーの言葉にハンドルを握る手に力が篭る。

車体を限界まで倒すようにドリフトをかまし、ほぼ直角に近い形で十字路を右に曲がる。

旧ハイウェイの一番近いインターチェンジは、次の交差点を曲がってまっすぐか!
D・セクターの画面に映る立体地図に従って機体を走らせ、最後の交差点減速せずに曲がり切る。左のシールドが廃屋の壁を擦ったが無視。今はそんなことに構っている暇は無い。

とうの昔に機能しなくなった料金所の間を走りぬけ、俺がハイウェイに駆け込んだところにエフェクト・ヴェーラーが戻ってくる。

『マスター、いました~。この対向車両を五台、D・ホイールが走ってました~』

「でかした!」

手元についた数個のボタン。中央分離帯に車体を勢いをつけながら近づけながらその内の一つを押し込む。

下から上へと突き上げる衝撃。

俺とD・セクターは走るスピードをそのままに一瞬宙を駆けて対向車両に着地する。
なにがどうなったかというとあまりたいしたことは無い。どこぞのマッハ号よろしくジャンプ装置がマシンの下部についていて、それを起動させただけだ。

着地の衝撃にしばらく蛇行するもすぐに持ち直し、さらにD・セクターを加速させる。
それから一分と経たぬ内に遠くに5,6台のD・ホイールの集団が見えてくる。

『マスター、あれだよ~!』

「っよし!捉えた!」

「そうか、あれが敵というわけか」

突如聞こえた声にそちらに振り返れば、ジャックの乗る白いD・ホイールがすぐ横に現れ、さらにそれに少し遅れる形クロウの黒いD・ホイールが走っている。

「ジャック、クロウ、来たか!」

「あぁ、どうやら俺達が一番乗りのようだな。まぁ、遊星達もすぐに追いつくだろうがな」

すぐにその言葉を肯定するように、俺達の潜ったジャンクションから飛び降りる形で鬼柳と遊星のD・ホイールが合流。
チームサティスファクション全員集合というわけか。

「おっし、間に合ったな!」

「ギリギリね。これから突っ込むところだった!」

「そいつはベストタイミングだな。よし!遊星、クロウ、連中を左右から追い込め!翼とジャックは俺と後ろから仕掛けるぞ!」

鬼柳の指示に従って遊星とクロウが左右に展開しそのまま加速する。


が、あと少しで追いつくところでこちらに気付いたのか前を走るD・ホイールの二台が道路に空いた穴にから下を走る道路へと飛び降り、さらにはハイウェイ自体から飛び降りる。

「くそ、ばらけるつもりか!」

「逃がすかよ!」

「!クロウ!鬼柳、俺とクロウは下に降りた奴ら追う」

鬼柳の返事を待たずに下の道路へと飛び降りるクロウと遊星。それを見送りつつ鬼柳はジャックに目配せをしD・ホイールを加速させる。

「翼!貴様は鬼柳と共に前の二つを追え。逃げた奴は俺がやる!」

鬼柳の目配せはそういうことか。この五人の中で俺が最もD・ホイール暦が短い。今までも遊星やクロウのD・ホイールを借りて走らせる程度だったし。
飛び降りるなんて無茶はさせられないってわけね。

ハイウェイからコースアウトしてゆくジャックに頷き、鬼柳と共にD・セクターを加速させる。

「三人の方にいると思うか?」

「さぁな、どいつがアニーを連れていようと、やることには変わらねぇ!」

「確かに、な!」

鬼柳と同時にハンドルを切って左右に展開。挟み込むように機体を走らせ一気に接近させて、体当たり。

「貴様らぁ!覚悟は、出来てんだろうなぁ!」

「ぐぅっ!」

側面部のシールド同士が接触し互いのD・ホイールが大きく揺れる。体勢をすぐに持ち直し再度体当たりを仕掛けようとし、ハンドルを切って併走させる。

D・ホイールを併走させた理由、それは………。

「アニー!」

「……!翼お姉ちゃぁん!!」

俺の叫びに反応するかのように加速するD・ホイール。くそ、こいつか!アニーを連れてるのは!

アニーを連れたD・ホイールがカーブに突っ込み、崩れた壁から飛び降りる。

「鬼柳!奴を追う!」

「な、待て!お前は……!

鬼柳の制止の声を振り切り飛び降りたD・ホイールを追ってカーブに飛び込む。
下の道路に着地使用とするD・ホイールに対し、俺はD・セクターをビルの方へと飛ばし、車体を倒してD・セクターのタイヤを壁に接触。壁を道に機体を加速させて黒いD・ホイールの目の前に躍り出る。
車体を倒しD・ホイールを滑走させて相手の走行の妨害をすれば、突然目の前に飛び降りてきた俺に驚いたのかブレーキとともにハンドルを切ってバランスを崩すD・ホイール。D・ホイーラーはともかく、縛られて乗せられているだけだったアニーの身体はその急激なベクトル変更に耐えられるわけも無く、慣性のまま宙に投げ出される。

上部シールドを展開しハンドルから手を離す。車体を挟む両足でバランスをとり、地面に叩きつけられようとしているアニーの下に滑り込み、そのまま抱きとめる。が、そこでD・セクターのシールドが地面に接触。火花を散し不快な音を響かせる車体を蹴って身体を投げ出し………、アニーを庇うように身体を丸めて地面に投げ出される。

全身を何度も襲う衝撃に歯を食いしばり、同時に二つ、重たいものが何かに突っ込むような音が響き、俺達はたまたま生えていた低木の中に飛び込みそれ以上の衝撃を殺すことが出来た。

痛みを堪えながら身体を起こし、腕の中のアニーの安否を確認する。

「アニー、大丈夫か?」

「ぅぅ……、翼、お姉ちゃん」

アニーの身体を縛る縄を解いてやると、相当恐かったらしく(おそらくは最後のダイブが特に)胸の中に飛び込むや、顔を埋めて声を上げて泣きはじめる。

「………大丈夫だ。もう、恐くないからな。お姉ちゃんが守ってやるから」

『…………マスターならお兄ちゃんじゃないんですか~』

アニーを抱きしめ、落ち着かせるように背中を軽く叩きながら、一難去ったことからか茶化してくるエフェクトヴェーラーを睨みつける。

そういえば、俺のD・ホイールは?

そう思って首をめぐらせると、目的の物はすぐに見つかった。遊星はかなり頑丈に作ってくれたのか、見た目はどこかが壊れた様子は無い。それでも後でチェックしてもらったほうがいいだろうな。

「て、てんめぇぇっ……」

地獄の淵からでも這い出してきたような声に振り返れば、アニーを攫ったダーティワークスのD・ホイーラーが怒りに血走った目で睨みつけながら近寄ってくる。

「ざけたマネしやがって……、ただじゃすまさねぇ!」

何がただじゃすまさねぇだ?

「……そいつは、こっちの台詞だ……!」

涙の止まらぬアニーを背後に隠すように立ち上がり、左腕に付けられたリモコンを操作。それに反応したD・セクターがひとりでに動き出し、俺の側まで走り寄ってくる。

「叩き潰してやる!」

「上等だ!てめぇらのやり方にこっちは鶏冠にきてんだよ!」

D・セクターから吐き出されるディスクを空中で装着し、その流れのままデッキをセット。
自動シャッフルされ吐き出される五枚の手札を掴み取る。

『デュエル!』

「俺の、先攻。ドロー!」

男は引いたカードを見てにやりと微笑みそれを手札に加えた。

「俺はモンスターを一枚セットしてターンエンドだ!」

「俺のターンドロー!」

さて、奴がいったいなにをセットしたのか………。デッキコンセプトがわからねぇと予測なんて出来るはずも無いな……。

「……翼お姉ちゃん」

不安そうな表情で見上げてくるアニーの頭を撫でてやりつつ、俺は手札からモンスターを召喚する。

「俺は《ヂェミナイ・エルフ》を攻撃表示で召喚!」

俺達の前に現れるボディコン姿の双子のエルフ。俺の怒りが乗り移ったかのように険しい視線で敵を睨みつける二人に俺は頷き攻撃を宣言する。

「《ヂェミナイ・エルフ》で裏守備モンスターに攻撃!」


《ヂェミナイ・エルフ》【攻撃力/1900】


『はぁっ!』

左右に展開して裏守備モンスターに襲い掛かる双子のエルフ。同時に振るった鋭い爪がリバースした相手のモンスターを襲い………。

「無駄だぁ!」


《モアイ迎撃砲》【守備力/2000】


「守備力2000の壁モンスター!?くっ!」

《ヂェミナイ・エルフ》の振るった爪が《モアイ迎撃砲》を撃破することは叶わず、反射されたダメージを受けることとなる。
だけど、この程度……。


【翼/LP4000→3900】


「………俺はカードを一枚セットしターンエンドだ」

「くくく、待ってろよ。すぐに叩き潰してやるからよぉ!
俺のターン、ドロー!モンスターをセットし、《モアイ迎撃砲》の効果発動!このカードは一ターンに一度裏守備表示にすることが出来る」

再び《モアイ迎撃砲》がセットされる。
なんだ?何を狙ってやがるんだ?

「さらに永続魔法、うごめく影を発動。このカードはライフを300ポイント払うことで、一ターンに一度だけ裏守備表示モンスターをシャッフルして伏せなおすことができる。俺はLPを払って効果を発動してターンエンドだ」


【ダーディワークス・デュエリスト/LP4000→3700】


これでどっちが《モアイ迎撃砲》かわからなくなったな。
とはいえ、わからないからって指を拱いて待ってるわけにもいかないんだよ。

「俺のターンドロー!
俺は《魔導戦士ブレイカー》を攻撃表示で召喚し、効果を発動。このカードの召喚に成功したとき、このカードに魔力カウンターを一つ乗せる。このモンスターはこのカードに乗っている魔力カウンター一つにつき300ポイント攻撃力をアップする。」


《魔導戦士ブレイカー》【攻撃力/1600→1900】


《ヂェミナイ・エルフ》のすぐ横に現れたブレイカーの頭上に紅い珠が現れ、それは彼の持つ剣へと吸い込まれてゆく。

「バトルフェイズ!《ヂェミナイ・エルフ》で裏守備モンスターに攻撃!」


《ヂェミナイ・エルフ》【攻撃力/1900】


再び地を駆ける双子のエルフ。裏守備モンスターに攻撃を仕掛けるも結果は先ほどと変わらず……。

「はずれだよ、ばぁか!」


《モアイ迎撃砲》【守備力/2000】


【翼/3900→3800】


「ちっ!ブレイカーでもう一体の裏守備モンスターに攻撃!」

剣を構えてブレイカーが走る。そして地を蹴り頭上から振り下ろした剣が、リバースしたモンスターを切り裂いた。

あれは、《コアキメイル・ロック》?


《コアキメイル・ロック》【守備力/1100】


「《コアキメイル・ロック》の効果を発動。このカードが戦闘で破壊されたとき、デッキから《コアキメイルの鋼核》かレベル4以下の《コアキメイル》と名の付くモンスター一体を手札に加えることが出来る。俺が手札に加えるのは《コアキメイル・ガーディアン》だ」

こいつのデッキ………岩石族か?となると墓地を肥やさせるのは恐いな。なるべく早く勝負をつける必要があるか……。

「とはいえ、今出来るのはこれくらいか……。《魔法戦士ブレイカー》の効果を発動。フィールド上の魔力カウンターを取り除くことでフィールド上の魔法・トラップカード一枚を破壊することが出来る。俺は永続魔法《うごめく影》を破壊する!」


《魔導戦士ブレイカー》【攻撃力/1900→1600】


「ちっ」

「俺はこれでターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー。
《モアイ迎撃砲》の効果を発動。《モアイ迎撃砲》を裏守備表示に変更し、モンスターをセット。
さらにカードを一枚セットしターンエンドだ」

まただ、やっぱりこいつの狙いは墓地に岩石族モンスターを溜めて《メガロック・ドラゴン》による制圧、だと思うんだけどな。

「俺のターンドロー。
バトルフェイズ、《ヂェミナイ・エルフ》で裏守備モンスターに攻撃!」


《ヂェミナイ・エルフ》【攻撃力/1900】


「かかったな!」

「何!」

双子のエルフの前に現れるの白地に赤の壷。ちょっとまて、そいつは!


《カオスポッド》【守備力/700】


《ヂェミナイ・エルフ》の爪が《カオスポッド》を打ち砕き、壷の中の一つ目が怪しく光る。次の瞬間激しい突風が吹き、フィールド上の全モンスターが《カオスポッド》に吸い込まれる。

「《カオスポッド》のリバース効果!フィールド上の全モンスターをデッキに戻してシャッフルし、デッキに戻したのと同数のモンスターが出るまで捲り続ける。それで捲ったレベル4以下の通常召喚可能なモンスターをフィールド上にセットし、それ以外を墓地に捨てる!」

デュエルディスクから排出される五枚のカード。通常召喚できるのは《クルセイダー・オブ・エンディミオン》だけか………。
エンディミオンをセットし墓地に捨てられるその他のカード。対する相手は《モアイ迎撃砲》の代わりにセットされる一枚以外デッキからカードを捲っていない。《メガロック・ドラゴン》のために召喚条件付きのモンスターを墓地に送るつもりなのかと思ったんだけど……。

「………カードを一枚セットしてターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!
俺はモンスターをセットし、もう一枚のモンスターをリバース!《メタモルポット》!お互いに手札を墓地に送り、カードを5枚ドロー!」

っ、動いてきた!

「さらにリバースカードオープン!太陽の書!今セットしたモンスターをリバースす。リバースモンスターは《カオスポッド》!」

《カオスポッド》に吸い込まれるフィールド上のモンスター。デッキから捲られるカードは1枚。今回は運よく1枚ですんだか………。
デッキから捲られたカード、《魔導騎士ディフェンダー》をセットし、相手は再び2枚のモンスターをセットする。さっきといい今といい、あいつのデッキの構成、殆どがレベル4以下のモンスターか?ちっ、岩石族って以外イマイチコンセプトがわからねぇな。

「さらに手札から魔法カード発動、《手札抹殺》!お互いの手札を全て墓地に捨てて、捨てたのと同じ枚数デッキからドローする!」

ちっ!カオスにメタモル、《手札抹殺》デッキ破壊なのか?だとするとまずいぞ、こっちは既にデッキの半分を消費、相手はデッキに最低でも《カオスポッド》《メタモルポッド》が一枚ずつ存在してる。速攻を仕掛けようにも下級モンスターじゃ壁モンスターに阻まれ、上級モンスターでも《カオスポッド》のリバース効果でデッキに戻される………!

「まだまだいくぞ、ゴラァ!手札からこいつの効果を発動するぜぇ。墓地に存在する岩石族モンスターを二体除外し、現れろ!《地球巨人ガイア・プレート》!」


「ぬぁ!」
「きゃぁ!」

突如下から大きな衝撃が起こり、直後アスファルトに入る罅。しがみついてくるアニーを抱き寄せる俺の前でアスファルトが下から捲り上げられ、そこから現れる岩石の巨人………。まぁ、ソリッドヴィジョンだから次の瞬間には何事も無かったかのようにボロボロのアスファルトがそこにあるんだけどね。

「《地球巨人ガイア・プレート》で裏守備モンスターを攻撃!」


《地球巨人ガイア・プレート》【攻撃力/2800】


指示に従いガイア・プレートの両腕が頭上へと持ち上げられ、その重量感のある両腕がアスファルトに叩きつけられ、それにより起こる衝撃波がリバースされたディフェンダーを襲い、破壊する。


《魔導騎士ディフェンダー》【守備力/2000→1000】


「くっ、ディフェンダー………」

「さて、俺はカードを一枚セットしてターンエンドだ。
クククククこいつはもう貰ったようなもんだな。そら、さっさとドローしな。どんな雑魚だそうと、俺のガイア・プレートで叩き潰してやるよ!」

雑魚?
ふざけやがって………。てめぇのその台詞の方がよっぽど小物臭漂ってるだろうが。

「俺のターン、ドロー!」

吠え面掻かしてやる!

「手札から《エヴォルテクター シュヴァリエ》を召喚!さらに装備魔法《スーペルヴィス》を発動!このカードはデュアルモンスターにのみ装備可能!装備したデュアルモンスターは再度召喚された状態になる!」

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』

召喚された紅き騎士の全身から炎が噴出し全身を覆う。そしてシュヴァリエの左手にその炎が集約してゆく。

「さらに《エヴォルテクター シュヴァリエ》の効果を発動!このカードはフィールド上の装備カードを墓地に送ることで、相手フィールド上のカードを破壊することが出来る!俺はスーペルヴィスを墓地に送り、《地球巨人ガイア・プレート》を破壊する!やれ、Defense une flamme(デファンス アン フラメ)!!」

左手から放たれる炎が螺旋を描き、顎を開いた蛇の如くガイア・プレートを飲み込み、破壊する。

「な、なんだと、ガイアプレートが!」

「そして墓地に送られたスーペルヴィスの効果発動!このフィールド上で表表示で存在するこのカードが墓地に送られたとき、墓地に存在する通常モンスター一体を特殊召喚する!俺が特殊召喚するのはこいつだ!来い《コスモクイーン》」

アスファルトから染み出す闇が渦を描き、天へと上る闇の柱となる。その闇の柱を引き裂くように現れるコスモクイーン。

「ふん、永続トラップ発動!《化石岩の解放》除外されている岩石族モンスター一体を特殊召喚する。蘇れ、《地球巨人ガイア・プレート》」

「な、そいつは今……!」

「《手札抹殺》《メタモルポット》。墓地に送る機会には事欠かねぇだろう?後はさっきのガイア・プレート特殊召喚のコストにすいて除外してやったんだよ。
そら、まだてめぇのターンだぜ。それとももうターン終了か?」

「んなわけあるか……。バトルフェイズだ!《コスモクイーン》で《地球巨人ガイア・プレート》に攻撃!ティルワンの闇界!!」

ガイア・プレートの足元に湧き出る闇。そこから浮かび上がる亡者のごとき闇の腕が巨石の足にからみつく。しかし……。

「馬鹿が、ありがとうよ!ガイア・プレート!迎えうてぇ!グレート・クエイクゥ!」

岩石で出来た腕がアスファルトに打ち付けられ、その衝撃が足に絡みつく闇を消し飛ばし、さらにアスファルトを波打たせ、波となって《コスモクイーン》を襲う。


《コスモクイーン》【攻撃力/2900】

《地球巨人ガイア・プレート》【攻撃力/2800】


『ぬ、ぅ、ぐぁぁぁぁぁぁっ!』

《コスモクイーン》はその攻撃に耐えようとするも、津波のごとき一撃の前に遭えなく飲み込まれ破壊される。

「な、馬鹿な、攻撃力は《コスモクイーン》の方が……」

「上だってかぁ?はぁ、《地球巨人ガイア・プレート》の持つ効果は二つ。一つは墓地の岩石族モンスター二体を除外することで自身を特殊召喚できる能力。
そしてもう一つが、こいつと戦闘するモンスターはぁ!その攻撃力と守備力を半分にされちまうんだよぉ!攻撃力2900のモンスターがその攻撃力を半分にされて、攻撃力2800のモンスターを破壊できるもんかよぉ!」


《コスモクイーン》【攻撃力/2900→1450】


【翼/LP3800→2350】


…………生きた収縮かよ、こいつ。

「翼お姉ちゃん………」

「大丈夫だ、この程度、どうってこと無いさ」

目端に涙を溜めて見上げてくるアニーの頭を少し乱暴に撫で、ガイア・プレートを睨みつける。

アニーにはそういったものの……。まずいな………。今の俺の手札に奴を排除できる手は無い。
《ディメンション・マジック》《エヴォルテクター シュヴァリエ》《魔導戦士ブレイカー》。シュヴァリエはすで場に出ているが装備カードは《スーペルヴィス》が二枚しかこのデッキには詰まれていない。もちろん手札には無く、次のドローで引けたとしてもそれまでシュヴァリエが残ってるとは思えない。というか確実にやられるだろ。
手札にいる魔法使い族モンスターは一体。正直《ディメンション・マジック》が来たところで使用は不可能。となると、次のドローでブレイカーがこないことには、きついな。

「《エヴォルテクター シュヴァリエ》で裏守備モンスターに攻撃!」

もしこのモンスターが《カオスポッド》だったらそこまで悩む必要も無いんだけどな。


《エヴォルテクター シュヴァリエ》【攻撃力/1900】


シュヴァリエの左手から炎が放たれ、それにあぶりだされるように姿を現す《番兵ゴーレム》


《番兵ゴーレム》【守備力/1800】


『はぁぁぁぁぁぁっ、ぬん!!』

唐竹に振り下ろされたシュヴァリエのサーベルが《番兵ゴーレム》を真っ二つに切り裂き、先に放った炎がその残骸を焼き尽くす。

危なかったな。《番兵ゴーレム》を残したままだったらまずいことになってたわ………。

「カードを一枚セットしてターンエンドだ」

さて、なんとしてもこのターンを耐え切らなきゃだな………。

「俺のターン、ドロー!スタンバイフェイズにガイア・プレートの維持コストとして、墓地の岩石族モンスターを除外する。
そして《コアキメイル・サンドマン》を攻撃表示で召喚!」

コアキメイルの一体か……。サンドマンとガーディアン。トラップを無効化するのはどっちだったか……。
どっちだろうとやることに変わりはないか………。

「ガイア・プレートで《エヴォルテクター シュヴァリエ》に攻撃!」


《地球巨人ガイア・プレート》【攻撃力/2800】

《エヴォルテクター シュヴァリエ》【攻撃力/1900→950】


「トラップカード発動!《ホーリージャベリン》相手攻撃モンスター一体の攻撃力分ライフを回復する!」

「《コアキメイル・サンドマン》の効果を発動!相手がトラップカードを発動したとき、このカードをリリースすることでその効果を無効化して破壊する!」

ガイアプレートの横にいたサンドマンが崩れて砂の塊となり、目の前に現れたジャベリンを掴もうとしたシュヴァリエに飛び掛る。

「く、リバースカード!《非常食》自分フィールド上の魔法、トラップカードを墓地に送りその枚数×1000ポイントライフを回復する!俺が墓地に送るのは《ホーリージャベリン》」

ホーリージャベリンが霞と消え、サンドマンもそのまま地面へと落ちてただの砂へと変わる。そして最後に、ガイア・プレートの拳がシュヴァリエを押しつぶし破壊される。


【翼/2350→3350→1500】


「ちぃ、しぶとく生き残りやがったか。カードをセットしてターンエンドだ」

あぶねぇ、試験的に入れてたこいつらに救われるとは………。

「俺のターン、ドロー!」

ブレイカーは、来ない、か………。

どうする。
俺のフィールドには伏せカードが一枚。手札は4枚あるが、除去カードは無し。

対して相手のフィールドは伏せカードが一枚に裏守備モンスターが一体。そして当面の頭痛の種のガイア・プレート………。絶望的ではないかね、我が軍は………。

額を流れる冷や汗を拭い、再び手札に視線を落とす。この状況を切り抜けるには、どうするべきか………。

ん?そういえば、あいつ伏せモンスターを表表示にしなかったな。何故?
リバースすることが不利益になるモンスターか?《カオスポッド》みたいな?
そういえばあいつ、《メタモルポット》も一度デッキに戻してるんだったな。メタモルの場合、手札に捨てたくないカードがあったのならリバースしない理由にはなるけど………。どっちにしても予測の範囲を出ない。

が、今の状況で出来ることといえば………。

そうだと信じて賭けるしかないか!

「俺はカードを2枚セットし、手札から《守備封じ》を発動!相手フィールド上に存在する守備表示モンスター一体を攻撃表示に変更する!」

「な!」

さぁ、リバースするモンスターは………!


《メタモルポット》!


《メタモルポット》の効果で残り一枚の手札を墓地に送り、引いたカードは………。





最高だわ、お前達は!

「このターンで蹴りをつけるぞ!
リバースカード、オープン!今伏せた《インスタント・フュージョン》を発動!ライフポイントを1000払うことでEXデッキのレベル5以下の融合モンスター一体を特殊召喚する。俺が特殊召喚するのは《ミュージシャン・キング》、レベルは5だ!」


【翼/LP1500→500】


フィールド上にスモークが焚かれ何も無かったはずの地面から立ち上がる《ミュージシャンキング》。喧しいぐらいにエレキギターをかき鳴らすけど、君ね………。

「ただし、この効果で召喚した融合モンスターは攻撃することが出来ずにこのターンのエンドフェイズに破壊される」

おれの説明と共にガックリと肩を落とす《ミュージシャンキング》。世界は広しといえど、こいつをまともに召喚して殴りにいく奴なんて早々いないんだろうなぁ………。

「さらに手札から《ナイトエンド・ソーサラー》を召喚!」

肩を落とすミュージシャンキングの横に現れる巨大な鎌を持ちウサギのような耳を生やした少年。
あ、気落ちしたキングを慰めてるよ。

「レベル5、魔法使い族モンスターの《ミュージシャンキング》に、レベル2チューナー《ナイトエンド・ソーサラー》をチューニング!」

「な、ここに来てシンクロ召喚だと!」

「万物の根源、万能なるマナ。秘されし力に導かれ、秘奥の力よここに顕現せよ!シンクロ召喚!汝、魔力の真実を知る者なり《アーカナイト・マジシャン》」

《ナイトエンド・ソーサラー》が二つの輪に変化し、その二つの輪を《ミュージシャンキング》が潜り抜け、光となってフィールドに突き刺さる。
光が収まりそこにあるのは青みのかかった白い生地に紫で縁取りされたローブに身を包む魔術師の姿。

「《アーカナイト・マジシャン》の効果!このモンスターのシンクロ召喚成功時、このカードに魔力カウンターを二つ置く。《アーカナイト・マジシャン》はこのカードに乗った魔力カウンター一つに着き1000ポイント攻撃力をアップさせる!」

紫色の珠が二つ現れ、アーカナイトの周りを衛星のように旋回する。


《アーカナイト・マジシャン》【攻撃力/400→2400】


「は、はっ。だからどうだってんだ!その攻撃力じゃ俺のガイア・プレートの攻撃力に届かないどころか、戦闘時には1200まで攻撃力が落ちる。そんな雑魚で何しようってんだぁ!?舐めてんじゃねぇぞ!」

「うるせぇんだよ、さっきから雑魚雑魚、雑魚雑魚!
リバースカードオープン!永続トラップ《漆黒のパワーストーン》このカードは発動時に魔力カウンターを三つこのカードに置く。そして一ターンに一度このカードにのった魔力カウンターを一つ消費することで、フィールド上に表表示で存在する魔力カウンターを乗せることの出来るカードに魔力カウンターを一つ乗せることが出来る。
そしてアーカナイトマジシャンの効果を発動!自分フィールド上に存在する魔力カウンターを一つ取り除くことでフィールド上のカード一枚を破壊することが出来る!
俺は《アーカナイト・マジシャン》に置かれた二つの魔力カウンターと《漆黒のパワーストーン》に乗せられた魔力カウンター一つを取り除き、お前のフィールド上に存在する三枚のカードを破壊する!破壊するのは《メタモルポット》《化石岩の解放》そしてその伏せカードだ!」

フィールド上に現れた三つの黒いオーブ。その内の一つが微塵となって吹き飛び、黒い光を発する珠となってアーカナイトの周りを回る珠と合流する。

「やれ!デストラクション・マジック!」

『ふぅぉぉぉぉぉ、はぁっ!』

アーカナイトの杖が振り下ろされ、三つの珠が光弾となって宣言したカードを貫き、破壊する。
そして《化石岩の解放》を破壊されたことにより、その効果で召喚されていた《地球巨人ガイア・プレート》も一緒に破壊される。

「くそぉ、俺のガイア・プレートがぁ!」

これで相手の場をがら空きになった。あともう少しだ!

「リバースカードオープン、《デュアルサモン》!このカードの発動ターン、俺は2回まで通常召喚が可能になる!
俺は手札から《黒翼の魔術師》を召喚!」

アーカナイトの隣に舞い降りる漆黒の翼。立ち上がるのと同時に開かれる翼によって起こされる風が漆黒のドレスと紫色の髪をなびかせる。

「《黒翼の魔術師》が自分フィールド上に表表示で存在する限り、このカードのコントローラーは《バスター・モード》をセットしたターンに発動することが出来る」

「ば《バスター・モード》?」

「なんのことか、わかんねぇなら。その身に味わせてやるよ!
手札からカードをセット!そしてこのカードをそのまま発動させる!《バスター・モード》」

《黒翼の魔術師》が翼を開き、発生した風が今伏せた《バスター・モード》絡みつき、発動させる。

「自分フィールド上に存在するシンクロモンスター一体をリリースして発動する!そのモンスターと同名の/バスターと名の付いたモンスター一体をデッキから特殊召喚する!
《アーカナイト・マジシャン》をリリースし、デッキから《アーカナイト・マジシャン/バスター》を特殊召喚!!!!」

《バスター・モード》から放たれた光がアーカナイトを包み込み、光の繭へと変わり、内部から弾け跳ぶ。
光の粒子とともにアーカナイトの身を包んでいたローブの切れ端が花吹雪のように宙を舞い、その真ん中に赤と青二色の炎のごとき鎧に身を待とう魔術師《アーカナイト・マジシャン/バスター》が佇んでいた。

「こい、つが……」

「《アーカナイト・マジシャン/バスター》の効果。このカードが《バスター・モード》の効果で特殊召喚に成功したとき、このカードに二つ魔力カウンターを乗せる」

紅と蒼、二色の珠が再びアーカナイトの周りを回り始め、《アーカナイト・マジシャン/バスター》が敵を睨みつける。

「《アーカナイト・マジシャン/バスター》はこのカードに置かれた魔力カウンター一つにつき攻撃力を1000ポイントアップする」


《アーカナイト・マジシャン/バスター》【攻撃力/900→2900】


「さらに《漆黒のパワーストーン》の効果発動。一ターンに一度このカードにのった魔力カウンターを一つ消費することで、魔力カウンターを乗せることの出来るカードに魔力カウンターをひとつ乗せる。
《漆黒のパワーストーン》に乗った魔力カウンターを一つ取り除き、《アーカナイト・マジシャン/バスター》に魔力カウンターを一つ乗せる。これでアーカナイトの攻撃力は更に1000ポイントアップする!」

再びパワストーンが一つ砕け散り、その中から現れた黒い珠がアーカナイトの周りを回る珠の列に加わる。


《アーカナイト・マジシャン/バスター》【攻撃力2900→3900】


「こ、攻撃力、3900………」

「さぁ、こいつで幕だ!イシャクシャール=イオド!」

アーカナイトの前方に、三つの魔力球を頂点にした三角形が現れ、静かに回転を始める。だんだんとその速度を増してゆき、三角形が完全な円を描いたとき強い光を放ち、同時にその光の中から鱗に覆われた半透明、ロープ状の触手が弾き飛ばされるように現れ、ダーディワークスのD・ホイーラーを貫いた。


【ダーディワークス・デュエリスト/LP3700→0】




















「アニー大丈夫か?」

最後の攻撃を受けて気絶したダーディワークスのデュエリストをその場にほっぽって、俺はアニーが怪我などをしてないかを調べる。

「うん、恐かったけど……、翼お姉ちゃんが助けてくれたから」

「そっか、でも恐い思いさせちまってゴメンな?」

ざっと見た感じ怪我はしていないか。あぁ、よかった。かなり無茶なことしたからなぁ。

『翼、聞こえるか?応答しろ!』

その無茶で自分は全身が痛いが自業自得か、などと考えていると、通信機から聞こえてくるクロウの声。

「はいはい、そんな怒鳴りなさんな。こっちも無事仕留めたしアニーも無事だ」

ヘルメットを拾い上げ、それをアニーに手渡し意図を悟った彼女は笑みを浮かべてヘルメット内のマイクに向かって言葉をかける。

「クロウお兄ちゃん?」

『!アニーか!無事か?怪我は無いか!』

「うん、翼お姉ちゃんが助けてくれたから」

『そう、か。よかったぁ』

心底安堵したといった風なクロウの声に、俺もアニーも自然と笑みが零れる。

ほったらかしにしておいたダーディワークスの一人を縄で縛りあげ(いろいろと怒りを込めた亀甲縛り。モノの上から容赦なく縛りあげてやりました)、とりあえずD・セクターの後ろに縄の端を結び引き摺って帰ることにする。
誘拐なんてふざけた手を使う奴はしっかりと『教育』してやらなきゃ、俺達(主に俺とクロウ)の気が治まらん。

「それじゃ、アニー帰ろうか」

「うん」

D・セクターに跨り、膝と膝の間にアニーを座らせてD・セクターを走らせる。無論荷物があるからスピードは出さないけどね。とりあえず、ランニングのペースで引き摺って帰るとしますか。





「しかし、これから帰って飯を作るとなると、かなり時間がかかるなぁ」

「お姉ちゃん、お料理私も手伝うよ」

「おうそうか、アニーはいい子だな」










走るD・ホイールの上から見上げた夜空。

今夜も星が綺麗だ………。



[19249] ブラック・フェザー
Name: 赤いえびせん◆094ca9cb ID:c4240c43
Date: 2010/06/06 23:32


「さて、覚悟はいいな」

「そいつはこっちの台詞だ。今日こそ勝たせてもらうぜ、クロウ」

日が中天へと指しかかろうとする空の下で対峙する俺とクロウ。互いの腕にはデュエルディスクが付けられデッキのシャッフルも終了している。

「は、そう簡単に負けれるもんかよ」

クロウのアジト前の広場で対峙する俺達を、子供達が固唾をのんで見守っている。

「さぁ………」





『デュエル!』





「俺の先攻、ドロー!手札から《魔導騎士ディフェンダー》を守備表示で召喚する!そしてディフェンダーの効果により、ディフェンダーに魔力カウンターを一つ乗せる!
更にカードを二枚セットしてターンエンドだ!」

俺を守るように現れたディフェンダーのたてに吸い込まれる青い魔力球。これでそう簡単には突破されやしない!

「へ、オレのターン、ドローだ!」










さて、何の前触れも前書きも無く突如として始まったこのデュエル、一体なにかと思うかもしれないが………。何のことは無い、ただの暇つぶしだ。

先日のダーディワークスの一件、俺とクロウであの五人全員を人前に出れなくなるような、恥ずかし~写真などを取り巻くった後、全裸で縛り上げ墨で真っ黒にしてHGが多く居るエリアに放置した後、あれがチームの全メンバーだということを知った。
本来なら次の攻略対象のはずだったんだけど、意図せずとして攻略しちゃったわけだ。あ、もちろん他のみんなも一人ずつ倒した。ちなみに連中のボスは俺が戦った奴だったよ。
とまぁ、そんなわけで本来攻め込む予定日だった今日、急にやることもなくなってしまい、暇つぶしにデュエルをすることになったのだ。
ちなみにこれまでのクロウとの対戦成績は、15戦15敗。負け越すとかそういうレベルじゃないね。そんなわけだからなんとしても一度は勝ちたいんだけどね………。あ、ちなみに極端に真逆な例もあって、ジャックとの対戦成績は18戦18勝だったりする。つまるところ別にチーム再弱ってわけじゃないんだよね、俺。
まぁ、ジャックとはデッキ相性が良くて、クロウとは最悪という認識かね。

さて、説明はここまでにして、デュエルに集中するかな………。

「オレは手札から《黒い旋風》を発動!このカードは自分フィールド上に『BF』と名の付いたモンスターが召喚されたとき、自分のデッキからそのモンスターより攻撃力の低い『BF』と名の付いたモンスター一体を手札に加えることが出来る!
そして手札より《BF-暁のシロッコ》を召喚する!このカードは相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上に存在しないときにリリース無しで通常召喚することが出来る!
さぁ、来い!《BF-暁のシロッコ》!」

来たな、クロウのお決まりパターン!
リリース無しで召喚されるのは黒い羽を持った隼の様な鳥人のモンスター《BF-暁のシロッコ》。攻撃力は2000とディフェンダーの守備力と並ぶわけだが………、こいつの効果を考えると安心できる状態ではない。

「さらに《黒い旋風》の効果でデッキから手札に《BF-そよ風のブリーズ》を加え、ブリーズの効果を発動!このカードが魔法、罠、モンスターの効果によって手札に加わった場合、フィールド上に特殊召喚することができる!
《BF-そよ風のブリーズ》を特殊召喚!」

特殊召喚されるのは何処が『ブラック』だ?と突っ込みを入れたくなる第1号こと、オレンジ色の羽に、どこか女性的なフォルムを持った《BF-そよ風のブリーズ》。着々と準備が整ってくな………。

「さらに手札から《BF-黒槍のブラスト》を特殊召喚!このカードは自分フィールド上に《BF-黒槍のブラスト》以外のBFと名の付くモンスターがいるとき特殊召喚することができる!来い、《BF-黒槍のブラスト!》]

連続で召喚される三体目のブラックフェザー、巨大な槍を持った《BF-黒槍のブラスト》。いつも変わらぬ不適な笑みを浮かべたままその槍をディフェンダーに向けて構える。

「さぁ、どんどんいくぜ!《BF-暁のシロッコ》の効果発動!自分フィールド上に存在す《BF》と名の付いたモンスター一体にそのモンスターを除くフィールド上に存在する他の《BF》と名の付いたモンスターの攻撃力の合計値を加算する!」

ちっ、ほんとお決まり!これでクロウのモンスターの攻撃力は4800、ディフェンダーの守備力を上回った!さらにクロウの狙いはほぼ間違いなく貫通効果を持つ黒槍のブラスト………、ディフェンダーが破壊されずとも2800の大ダメージは必須だ!

「させない!手札の《エフェクト・ヴェーラー》の効果起動!このカードを手札から墓地へ送り、相手フィールド上に表表示で存在するモンスター一体の効果をエンドフェイズ時まで無効化する!俺が無効化するのは《BF-暁のシロッコ》!」

今まさにブラストに攻撃力を加算せんとしていたシロッコを《エフェクト・ヴェーラー》から放たれた霞のような光が包み込んでその力を封じ、戸惑った様子のシロッコ。

「ちっ、そう調子よくはいかねぇか………。オレはカードを一枚セットしてターンエンドだ!」

ブリーズがいるのにシンクロしない?あぁ、そういうことね、おそらくあの伏せカードは………。こちとらタダ負け続けてるわけじゃないんだ、手の内くらい読んでやるわ!

「オレのターンドロー!リバースカードオープン、《リビングデッドの呼び声》!自分の墓地からモンスター一体を特殊召喚する。来い《エフェクト・ヴェーラー》」

カードがリバースし、そのイラストの中から飛び出してくる《エフェクト・ヴェーラー》。あ、こけた。

「更に手札から魔法カード、《インスタントフュージョン》を発動。ライフポイントを1000ポイント払い、EXデッキからレベル5以下の融合モンスター一体を特殊召喚する。《インスタントフュージョン》の効果で《カオス・ウィザード》を特殊召喚し、手札から《ナイトエンド・ソーサラー》を召喚!」


【翼/LP4000→3000】


フィールド上に次々と召喚される魔法使い達、準備は整った。さぁ、一気にいくぜ!

「レベル4、魔法使い族モンスター《カオス・ウィザード》にレベル2チューナー《ナイトエンド・ソーサラー》をチューニング!」

《ナイトエンド・ソーサラー》が二つのリングへと変化し、そのリングの中を巨大な鎌を持った金髪の仮面の魔術師《カオス・ウィザード》が潜り抜け、光となる!

「万物の根源、万能なるマナ。荒れ狂う魔力を統べる者。シンクロ召喚!嵐を巻き起こせ、《マジックテンペスター》!」

光を中心に荒れた風が巻き起こり、光がその風に散され現れるのは、透き通るほど薄い刃のデスサイズを持ち黒色のローブに身を包んだ黒髪の美女《マジックテンペスター》

「《マジックテンペスター》の効果!シンクロ召喚成功時、このカードに魔力カウンターを一つ乗せる!さらにリバースカードオープン、《漆黒のパワーストーン》。発動時このカードに魔力カウンターを3つ乗せる!」

《マジックテンペスター》の鎌の刃に宿る緑色の光。更に彼女の周りに黒いパワーストーンが三つ表れる。

「おいおいおい、いきなり来るのかよ!」

クロウが心底驚いたとばかりに声を上げるが………、この程度で驚かれても困るってのが正直な感想だな。

「《マジックテンペスター》の効果発動!フィールド上に存在する魔力カウンターを全て取り除き、取り除いた数×500ポイントのダメージ相手に与える!フィールド上に存在する魔力カウンターは五つ、合計2500ダメージだ!」

ディフェンダーの盾からは青い魔力球、三つのパワーストーンも砕け散り、その中から現れる三つの黒い魔力球、それら四つの珠は列を成して《マジックテンペスター》の周りを巡ってデスサイズの中へと吸い込まれ、その薄い刃に五つのラインが現れる。そして振りかぶられるデスサイズ。

「喰らえ!アリエル・テンペスト!!」

振り下ろされるデスサイズと、解き放たれ嵐と化す魔力。嵐は一瞬でその勢力拡大させるとクロウをその中へと飲み込んでゆく。

「ぬぅあ、くぅ。やってくれるじゃねぇか!」


【クロウ/LP4000→1500】


「言っただろ、今日こそ勝たせてもらうってよ!【マジックテンペスター】の効果発動、手札を任意の枚数墓地に送ることにより、その枚数分の魔力カウンターを自分フィールド上表表示のモンスターに置く事ができる。俺は最後の手札一枚を墓地にディフェンダーに魔力カウンターを一つ置く」

《マジックテンペスター》の掌から緑色の魔力球が現れ、魔力カウンターを無くしたディフェンダーの盾へと吸い込まれ消えてゆく。
さぁ、これで次の準備が整った!

「まだまだ行かせて貰うぞ!レベル6魔法使い族モンスター《マジックテンペスター》にレベル1チューナー《エフェクト・ヴェーラー》をチューニング!
万物の根源、万能なるマナ。秘奥の力よここに顕現せよ!シンクロ召喚!汝、魔力の真実を知る者なり《アーカナイト・マジシャン》」

「さらに出てきやがるか………。言うだけのことはありやがるぜ」

アーカナイトの効果で精製される二つの魔力カウンター。それらがアーカナイトの周りを旋回する姿は自分達の出番を待っているかのようにも見える。

「《アーカナイト・マジシャン》の効果!フィールド上の魔力カウンターを取り除くことでフィールド上のカードを破壊することができる。俺はディフェンダーの魔力カウンターを取り除き、その伏せカードを破壊する!デストラクション・マジック!」

ディフェンダーの盾から浮かび上がった珠がアーカナイトの手により緑色の魔力弾と化して、セットされたカードを打ち貫く。

「ちっ、《緊急同調》が………。こっちの手の内は読めてるってか?」

「こっちだってタダで負け続けてるわけじゃないんでね。
《魔導騎士ディフェンダー》を攻撃表示に変更し、そよ風のブリーズに攻撃!」

一足でブリーズとの距離を詰めたディフェンダーの短剣が、袈裟切りにブリーズを切り捨てる。


《魔導騎士ディフェンダー》【攻撃力/1600】

《BF-そよ風のブリーズ》【攻撃力/1100】


【クロウ/LP1500→1000】


「まだまだ終わってないぞ!《アーカナイト・マジシャン》で暁のシロッコに攻撃!バイアクヘ=ビヤーキー!」

アーカナイトの周りを巡る光玉が、コウモリの物ににた翼を持つと影へと姿を変えてシロッコに襲い掛かる。シロッコも腕を振るい迎撃しようとするが、二頭の異形はその行為をあざ笑うかのようにその背後に回りこみ、鋭い爪でシロッコの背中に十字傷を刻み込んで撃破する。


《アーカナイト・マジシャン》【攻撃力/2400】

《BF-暁のシロッコ》【攻撃力/2000】


【クロウ/LP1000→600】


「ターンエンド。
どうよクロウ!ようやく年貢の納め時かな?」

「んなわけあるか、オレのターンドロー!
オレは手札から《BF-蒼炎のシュラ》を攻撃表示で召喚!そして《黒い旋風》の効果で《BF-疾風のゲイル》を手札に加える!このカードはフィールド上にBFと名の付いたモンスターが居るとき手札から特殊召喚することができる。《BF-疾風のゲイル》を特殊召喚!」

ちっ、ボードアドバンテージが一瞬で………。これだからBFは………。

「さらに疾風のゲイルの効果を発動!このカードは一ターンに一度だけ、相手モンスター一体の攻撃力・守備力を半分にする!」

おいおい、しかもこの流れは………。
ゲイルの巻き起こす疾風に晒され攻撃力を半減させられるディフェンダー。


《魔導騎士ディフェンダー》【攻撃力/1600→800】


相手の総攻撃力は4800………。もしオレのアーカナイトを除去する手があいつの手の内にあったら……………。

「そして手札から《ブラックフェザー・シュート》を発動!このカードは手札かから『BF』と名の付いたモンスター一体を墓地に送ることにより、相手フィールド上のモンスター一体を墓地送りにする!オレは手札から《BF-月影のカルート》を墓地に送り、フィールド上の《アーカナイト・マジシャン》を墓地に送る!」

クロウの手札から現れた月影のカルートが、その身を弾丸に変えたかのような勢いでアーカナイトに飛び掛り-ってどうみても胸に飛び込んでるようにしか見えないんですけど、訴えられるぞカルート-その勢いのまま場外へ飛び出し飛び去ってゆく。こんの人攫いめ………。

「さぁて、これで形勢逆転だな………」

形勢逆転?逆転勝利の間違いじゃないのか?しかもオーバーキル。

「…………優しくしてね?」

猫なで声で自分でも会心のできな甘え声に、クロウ及びギャラリー達が一斉にずっこける。
ってなぜお前までずっこける、ディフェンダー!

「お、お前な………。
……まぁいいか。
バトルフェイズ、蒼炎のシュラでディフェンダーに攻撃!」


《BF-蒼炎のシュラ》【攻撃力/1800】

《魔導騎士ディフェンダー》【攻撃力/800】


宙を駆け迫るシュラの攻撃にディフェンダーも盾を構え迎撃しようとするが、いかんせん地力が違いすぎて一撃で葬られる。


【翼/LP3000→2000】


「《BF-蒼炎のシュラ》の効果発動!このカードが戦闘で相手モンスターを破壊したとき、デッキから攻撃力1500以下の『BF』と名の付いたモンスター一体を特殊召喚する!来い、《BF-月影のカルート》【攻撃力/1400】」

シュラにやられたディフェンダーの欠片が青い炎となってクロウのフィールドへ集約し、その姿をカルートへと変える……、ってちょっと待て!優しくって言ったのに!

「それじゃ、止めだ!《BF-黒槍のブラスト》《BF-疾風のゲイル》《BF-月影のカルート》でダイレクトアタック!」


《BF-黒槍のブラスト》【攻撃力/1700】

《BF-疾風のゲイル》【攻撃力/1300】

《BF-月影のカルート》【攻撃力/1400】


【翼/2000→0】










「クロウ兄ちゃんキチクだな。翼姉ちゃん優しくしてって言ってたのに」

「んなっ」

イツキがクロウの胸に見えないナイフを突き立てる一言を言ったのは、ライフがゼロのになり私が地面に仰向けにぶっ倒れた(寝転がった)直後のことだった。
目だけでイツキを見やれば彼の言葉に動揺するクロウにかかったとばかりに笑みを浮かべ、同様にそれを見た子供達はその意図がわかった様で面白そうに笑みを零している。

「いやちょっと待て、今のは………」

「わざわざカルートを特殊召喚することなかったよね?」

イツキの言葉に悪乗りしたアキラがさらに追い討ちをかけ、さらには他の子供達が面白半分に二人の言葉を支持しだす。

「お姉ちゃん大丈夫?」

側に寄ってきたアニーもまた笑いながら手を差し出してくる。対する俺も当然………。

「ありがとうアニー。クロウにちょっといじめられたけど大丈夫。これくらいじゃ屈服しないから」

「おい、翼お前まで………!」

何を言い出すのかとでも言いたかったのか、しかしそれを最後まで言う事もできずにクロウは子供達にまとわりつかれてこれをネタに玩具にされる。

うんうん、こんな風に子供達が味方してくれるのもこの身体のおかげだよな。こういうときは役得だよ、ほんと。

「さて、今日のお昼は俺が大奮発してやるか。アニー手伝ってくれる?」

「うん」

ちびっ子どもの手玉にされるクロウをその場に残し、俺はアニーと共に調理スペースとして確保してある部屋に向かう。今日はみんなの大好きなカレーにしようかね。

しかしこれで16戦16敗か………。




















時間は流れて今は夕方。昼飯として作ったカレーにちびっ子どもは大歓喜。滅多に食べれるものじゃないからなぁ。ちなみに俺の作るカレーは、この身体になる前にバイトしていたエスニック料理店のインド人店長直伝の物。え、インドのカリーと日本のカレーは別物だって?そんなことは承知してるさ。この店長インドカリーを日本風にアレンジして、地元でも大評判。一度ならずもTVで紹介されてたっけ。
そうそう、昼食のときのクロウはそれはそれはお疲れのご様子でした。子供って容赦ないよな。うん。

で、俺が今何処にいるかというと、また遊星のところにお邪魔している。お昼の残りを土産にしてね。

「で、俺のD・ホイールはどうだった?」

「あぁ、とくにこれと言った問題は起きていなかった。精々左舷シールドが破損していた程度だ。これも少し弄れば元に戻せるレベルだな」

D・セクターに繋いでいたケーブルを抜いて立ち上がり、太鼓判とばかりにシールドを叩く。

「だがあのシールドの破損の仕方は相当なものだな。表面全域に傷が付いていたぞ」

「ははははは、そこはいろいろと事情がありまして…………」

アニーを助けるためとはいえ、おもいっきし転倒させちまったしなぁ。

「………そうか、だがあまり無茶をしないでくれ。みんなが心配する。もちろん俺もな」

「あぁ、うん。肝に命じます」

D・ホイールに跨りエンジンをまわし、最終チェック。といっても先に遊星が言ったとおりなんら問題は無いんだけどね。

「鬼柳は次の偵察?」

「あぁ、ダーディワークスを下したことで残るチームは一つになったからな。あれは相当はりきっていたよ。
よし、大丈夫みたいだな。
そういえば、翼はスピードデュエル用のデッキはもう組んだのか?」

「あぁそれがちと難航してまして。通常の魔法カードが使えないからな。それが戦略レベルで影響出てる。
とくに《ディメンション・マジック》と《スーペルヴィス》あれのSpが無いのが痛いな。俺のデッキの中でも要の魔法カードだし」

「そうか……」

「『スタンダート』と『カウンター』。《魔導都市エンディミオン》が使えないからどうしても『スタンダート』を軸に作らざるをえなくなる。けど俺のスタンダートはいかにして《コスモクイーン》を早く出すかってデッキだろ?だってのにこの二つが使えないってのは、俺にとっては墓地、手札からの特殊召喚をほぼ封じられたに等しい。場合によってはもっと根元の部分から構築しなおす必要性が出て来るんだよな………」

D・セクターのコンソールを叩いて現在のステータスをチェック。うん問題ないな。

「………こんなこと愚痴っても仕方ないな。ごめん、忘れてくれ」

「いや気にするな。翼、もし俺にできることがあれば言ってくれ。できる限り力になる。
俺だけではなく、クロウや鬼柳、ジャックもきっとな」

「だね、ありがと。それじゃ俺はそろそろ戻るわ」

「あぁ、それとカレーありがとう。とても助かる」

「遊星にはD・ホイールの件で世話になりっぱなしだからな。こんなのでよければまた持ってくるよ」

それじゃと手を振って、D・ホイールを引いて地下鉄跡から地上に出る。遊星のところに来たときはまだ夕焼けが綺麗だったんだけど、今はもう満点の星空か。

ふむ、今日はこの星を見ながらのんびりかえるとするかね。



[19249] ライディングデュエル・アクセラレーション
Name: 赤いえびせん◆094ca9cb ID:c4240c43
Date: 2010/07/08 08:44








「いくぞ!《サイバネティック・マジシャン》の効果を発動!手札一枚を捨てることでフィールド上のモンスター一体の攻撃力をそのターンのエンドフェイズまで2000にする。
おれが選択するのは《マジシャンズ・ヴァルキリア》!サイバー・チェンジ!」

『ハッ!』

《サイバネティック・マジシャン》の杖から放たれる光のリングが《マジシャンズ・ヴァルキリア》を包み込み、彼女の体の表面を薄っすらとだが光の膜が覆う。


《マジシャンズ・ヴァルキリア》【攻撃力/1600→2000】


「よしっ、ってうわぁ!」

「翼!しっかりグリップを握れ!オートパイロットが作動しているといっても、しっかりと身体を支えておかないとコースに放り出されるぞ!」

「わかってる!」

遊星の叱責に短く舌打ちをし、俺はハンドルを握る左手に力を込める。

「《マジシャンズ・ヴァルキリア》で裏守備モンスターを攻撃!マジック・イリュージョン!」

俺が指差す先、遊星の場に存在する裏守備モンスターに向けて放たれるヴァルキリアの魔力弾。攻撃力2000なら生贄無しで召喚できる大抵のモンスターを破壊できる。
前を走る遊星の伏せモンスターを魔力弾が貫き、いや貫けない!あのモンスターは!


《マジシャンズ・ヴァルキリア》【攻撃力/2000】

《ロードランナー》【守備力/300】


「そう簡単にはいかない!《ロードランナー》は攻撃力1900以上のモンスターとの戦闘では破壊されない!」

ちっ!お得意の戦闘耐性か!
こっちのモンスターはヴァルキリアと《サイバネティック・マジシャン》のみ、あいつを破壊する手立ては、無い。

「くそ、俺はカードを一枚セットしてターンエンドだ!」


《マジシャンズ・ヴァルキリア》【攻撃力/2000→1600】


「俺のターン、ドロー!」


【遊星/sc(スピードカウンター)6→7】

【翼/sc2→3】


さて、俺と遊星が今何をしているのかは………、見ればわかるか。現在俺は遊星にライディングデュエルの稽古をつけてもらっている。
で、このライディングデュエル、やってみた感想は楽しい、けど同時に難しい。風と一体感すら感じるこのデュエル、たしかにスタンディングデュエルと一線を画しているのだが、同時に戦略的にもデュエル方法においても非常に難しい。
第一に戦術、魔法一つの発動すらスピードカウンターの有無に左右されるのは、俺が思っている以上にきついものだった。例としては手札に≪sp-死者甦生≫があるのに、スピードカウンターが足りないばかりに墓地のコスモクイーンの特殊召喚が出来ないでいることとか。
それで第二に、しっかりとグリップを握っていないと簡単にD・ホイールから投げ出されそうになる。
とはいえ強くグリップを握りすぎるとすぐに腕が疲れてくる。

ちなみに何故遊星に稽古をつけてもらっているのかというと、やっと出来たデッキの出来を見てみたかったために仲間の誰かに相手をお願いしようとした遊星しかいなかったからだ。
遊星は俺の頼みを快く了承してくれたんだが、まさかここまで差が出るとは………、これでも遊星との戦績は17戦8勝9敗と殆ど互角のはずなのに……。


【遊星/LP4000】

【翼/LP1300】


「俺は手札から《sp-サモン・スピーダー》を発動する!このカードは自分のスピードカウンターが二つ以上存在する場合、手札からレベル4以下のモンスター一体を特殊召喚する!こい、ニトロ・シンクロン」

『ニュー』

特殊召喚されるのはスプレー缶に手足がついたような、見るからに気色悪いモンスター。

あぁ、そのたらこ唇をこっちに向けるな!

「く、トラップ発動!《アクセル・ゾーン》相手が「sp」と名の付いた魔法カードを発動したときに発動できる!自分のスピードカウンターを6つ増やす!」


【翼/sc3→9】


D・セクターがスピードカウンターを増やしたことで急速に加速し、一気に遊星を追い越す。これでカウンターアドバンテージはこっちの物、次のターンで一気に突き放す!

「ふ、やるな。
墓地のボルト・ヘッジホッグの効果!フィールド上にチューナーモンスターが存在するとき、このカードを墓地から特殊召喚できる!」

さらにフィールドに現れるボルト付きのネズミ。これは、ニトロ・ウォリアーか!まずい、絶対に阻止しないとやられる!

「そして手札から《スピード・ウォリアー》を召喚!」

きやがった、これで遊星の場のモンスターの合計レベルは7!

「く、リバースカードオープン!速攻魔法《sp-サモンクローズ》自分のスピードカウンターを3つ取り除いて発動する。自分の手札を一枚墓地へ送りカードを一枚ドロー。このターン相手は特殊召喚出来ない!」


【翼/sc9→6】


「シンクロ召喚を止めにくるか、いい判断だ。
《スピード・ウォリアー》で《マジシャンズ・ヴァルキリア》に攻撃。ソニック・エッジ!」

《マジシャンズ・ヴァルキリア》に蹴りかかる《スピード・ウォリアー》、攻撃力はこちらの方が上。だがあいつの効果は………

「《スピード・ウォリアー》は召喚に成功したターンのバトルフェイズのみ攻撃力が倍になる!」


《スピード・ウォリアー》【攻撃力/900→1800】

《マジシャンズ・ヴァルキリア》【攻撃力/1600】


『キャーーーーッ!』

《スピード・ウォリアー》の一撃を受けたヴァルキリアが悲鳴を上げつつ破壊される。


【翼/LP1300→1100】


「カードを2枚セットしてターンエンドだ」

ちっ、せっかく稼いだカウンターアドバンテージが………。

「俺のターン!ドロー」


【遊星/sc7→8】

【翼/sc6→7】


「手札から《sp-死者転生》を発動!自分のスピードカウンターが2つ以上存在する場合、手札を一枚捨てて発動する。自分の墓地に存在するモンスター一体を手札に加える!俺は《コスモクイーン》を手札に加える!」

遊星のフィールドにはモンスターが4体。《スピード・ウォリアー》《ロードランナー》《ニトロ・シンクロン》《ボルト・ヘッジホッグ》。内攻撃表示で存在するのが《スピード・ウォリアー》と《ニトロ・シンクロン》、そして《ボルト・ヘッジホッグ》の3体。攻撃力はどれも1000に満たない、なら!

「さらに魔法カード《sp-サモン・スピーダー》を発動!手札から《ヂェミナイ・エルフ》を特殊召喚し、《ヂェミナイ・エルフ》《サイバネティック・マジシャン》をリリース!《コスモクイーン》をアドバンス召喚する!」

『ふむ、久方ぶりの出番じゃな。さぁ妾を楽しませてみせよ』

不適に笑ってるところ悪いけど、大ピンチなのよ俺達………。
俺の手札は残り、一枚………。こいつを………、通す!

「手札から魔法カード《sp-拡散する波動》を発動する。自分のスピードカウンターが二つ以上存在するとき、ライフポイント1000を払って発動する。レベル7以上の魔法使い族モンスター一体を選択、このターンそのモンスターのみが攻撃可能になる。このターンそのモンスターは相手フィールド上の全モンスターに1回ずつ攻撃することが出来る。俺のフィールド上に存在するレベル7魔法使い族モンスターは《コスモクイーン》のみ、よってこのターン《コスモクイーン》は相手フィールド上の全モンスターに攻撃できる!」


【翼/LP1100→100】


2体だ、2体これで押し通せれば、俺の勝ちだ!

「《コスモクイーン》で《ニトロ・シンクロン》に攻撃、ティルワンの闇界!」

「リバースカードオープン、《くず鉄のかかし》一ターンに一度相手モンスター一体の攻撃を無効にする!」

《ニトロ・シンクロン》の足元から湧き出る闇がそのスプレー缶のような身体を飲み込もうとする。しかしその背後から飛び出してきた廃棄物で作られたようなかかしが、《ニトロ・シンクロン》を突き飛ばし代わりにその一撃を受けきった。

「その後このカードを墓地に送らず再びセットする」

かわされた、だがまだ攻撃を通すことは出来る。まだチャンスは、ある!

「だが《コスモクイーン》このターンまだ攻撃をすることが出来る!《スピード・ウォリアー》《ボルト・ヘッジホッグ》に攻撃。暗黒の星雲!」

《スピード・ウォリアー》と《ボルト・ヘッジホッグ》を漆黒の雲が覆い隠し、包み込んだ相手ごと収縮してゆく。

「そうはさせない!速攻魔法《sp-収縮》自分のスピードカウンターを二つ取り除くことでフィールド上のモンスター一体の元々の攻撃力をエンドフェイズまで半分にする!


【遊星/sc8→6】


「な!」


《コスモクイーン》【攻撃力/2900→1450】

《スピード・ウォリアー》【攻撃力/900】

《ボルト・ヘッジホッグ》【攻撃力/800】


収縮する闇が2体のモンスターを完全に飲み込み、やがて消えてゆく。フィールド上からその姿がなくなるも結果は………。


【遊星/LP4000→2800】


削りきれなかった……。

「くそっ、《コスモクイーン》で《ロードランナー》に攻撃」

とりあえず、倒せるようになったのだから《ロードランナー》も破壊しておくべきか……シンクロの素材になるとも限らん。そう思って攻撃宣言したのだが……。《コスモクイーン》そのハリセンは何処から出した!


《コスモクイーン》【攻撃力/1450】

《ロードランナー》【守備力/300】


「ターンエンドだ」


《コスモクイーン》【攻撃力/1450→2900】


俺のフィールドには《コスモクイーン》一体いるのみ伏せカードは無し……、対する遊星も手札は0だがフィールドにはモンスターが1体と伏せカードが2枚。一枚はくず鉄のかかし、もう一枚は不明。次に遊星がひくカード次第で、このデュエルは終了する………。
そして遊星はこのデュエルを終えるための一枚を引き当てる。そう確信できてしまう。それだけ彼とそのデッキの間には固く力強い絆がある………。

「俺のターン、ドロー」


【遊星/sc6→7】

【翼/sc7→8】


ドローしたカードを見た遊星の口端が僅かに上がる。ほらみろ、あの顔は絶対に何かを引き当てた顔だ。

「俺は手札から《ジャンク・シンクロン》を召喚。《ジャンク・シンクロン》の効果発動。このモンスターの召喚に成功したとき、墓地からレベル2以下のモンスター一体を特殊召喚することが出来る。俺は墓地の《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する」

掛け声一つと共に飛び出してくる丸眼鏡と、それに連れられるように召喚される《スピード・ウォリアー》。こうくれば次の言っては間違いなく………。

「レベル2《スピード・ウォリアー》にレベル3チューナー《ジャンク・シンクロン》をチューニング!集いし星が新たな力を呼び起こす。光差す道となれ!シンクロ召喚!出でよ、《ジャンク・ウォリアー》!」

シンクロ召喚されるのは《ジャンクシンクロン》の丸眼鏡をそのまま顔につけたような、機械のような姿を持つ戦士族モンスター。そして奴の持つ能力といえば………。

「《ジャンク・ウォリアー》はシンクロ召喚成功時、自分のフィールド上に存在するレベル2以下のモンスターの攻撃力の合計値分、自身の攻撃力がアップする!」

フィールドにいるレベル2以下のモンスターといえば《ニトロ・シンクロン》の攻撃力300。


《ジャンク・ウォリアー》【攻撃力/2300→2600】


く、残りの差は300。これくらいの差、遊星ならば………。

「さらにトラップカード発動!《シンクロ・ストライク》シンクロ召喚したモンスター1体の攻撃力をエンドフェイズまで召喚時素材となったモンスターの数×500ポイントアップさせる!《ジャンク・ウォリアー》のシンクロ召喚の素材となったモンスターの数は2体、よって《ジャンク・ウォリアー》の攻撃力は1000ポイントアップする!」


《ジャンク・ウォリアー》【攻撃力/2600→3600】


やっぱりか!

「《ジャンク・ウォリアー》で《コスモクイーン》に攻撃、スクラップフィスト!」

宙を飛びナックルダスターを構えた《ジャンク・ウォリアー》に《コスモクイーン》魔力弾が放たれるも、そのことごとくを回避され懐に飛び込まれる。
そして放たれる拳の一撃が《コスモクイーン》を貫いた。


【翼/LP100→0】


「っぅっぅぅぅっ!」

D・セクターの各所から吐き出される白い煙。ブレーキを目一杯握り締めてハイウェイの脇D・ホイールを停車させる。

「…………はぁ、負けた」

ヘルメットを脱いで身体をD・ホイールに預けて空を見上げる。もうすぐ昼時のため太陽が眩しい。

「どうだ、初めてのライディングデュエルは?」

D・セクターのすぐそばに止められる遊星のD・ホイール。その傍らに浮かんでいた《ジャンク・ウォリアー》達がかすれるように消えて行くのを見ながら、彼の問いに口端を持ち上げる。

「やっぱり難しいな。魔法を思うように使えないのが特に。ま、逆にそこが面白いところではあるんだけどな」

そう言って肩を竦ませれば遊星も僅かに笑みを覗かせてD・ホイールの画面に映された時計を見る。

「そろそろ12時か………」

「だな、じゃ戻って飯にでもするか。遊星もどうよ?」

「そうだな、ご馳走になるとするか」

頷く遊星に親指をあげてヘルメットを被り、D・セクターを反転させる。同じく反転した遊星とともにアクセル握りこみ、俺達は旧ハイウェイを後にした。




















クロウのアジトにたどり着いた俺達を迎える子供達をなだめつつ、俺は調理用の部屋へと向かう。そこに置かれたの以前遊星に直してもらったぼろい小さな小さな冷蔵庫とガスコンロ。まぁ、殆どスクラップしかないこのサテライトでガスコンロに冷蔵庫を使えるというのは非常に贅沢な話ではあるんだが………。育ち盛りの子供達を抱えてる身としてはもっと性能のいいものが欲しいところ………。

それはそれとして、今は別にガスコンロは使わないので脇に寄せて、と。竈に薪を突っ込んで火をつける。ここじゃぁガスなんて貴重な上に高いしあまり火力でないからなぁ。
勢いよく燃え始めたのを確認して火の上にのせる中華鍋。中華鍋はこれ一つで煮るのも炒めるのも焼くのも何でも出来るけど………やっぱりフライパンとかいくらか欲しいよ。ここって鍋類これ一つだから、カレー作るときもこれ使うしかなくて、どうよ、ビジュアル的に。中華鍋に入ったカレーって。

中華鍋に油を敷いて、昨晩のご飯を放り込む。続いて適当な野菜を放り込み塩胡椒で味付けしながら炒めれば……、はい、今日のお昼はごった炒めのチャーハンっと。
うん、具材がレタスに人参、魚肉ソーセージ、ニラ、タマネギ、何かの肉、ほうれん草、ヨモギ………、カオスだな。
まぁ、不味くはないし、うん、OK。

中華鍋を持って外に出れば、D・ホイールを整備している遊星とそれを珍しそうに眺める子供達。うん、和むわ。

「お~い、飯できたからテーブル出してくれ」

とはいえそんな彼らをぼーっと見ているわけにもいかないわけで、声をかければイツキとアキラ、キヨトの三人が倉庫代わりの部屋にテーブルを取りに駆けてゆく。
戻ってきた三人が持ってきたのはプラスキック製の折りたたみテーブル。あのキャンプとかでも使われる青い椅子付きのやつだ。そのテーブルを二つ並べ、その上にアニーが持ってきた鍋敷きを置き、ようやく中華鍋をそこに置く。遊星と共に一足早く手を洗いに行った子供達が食器を運び、その間にテーブルを用意した三人が手を洗いに行く。
うん、何も言わずにちゃんと役割分担して手伝ってくれる。こいつらいい子だよな、ほんと。
全員が揃ったところでチャーハンを配り全員が席に着く。う~んちと大目に作りすぎたかな?結構残ってるな。


『いただきます』


「はい、召し上がれ」

一斉に食べ始める子供達を一度見回し、それから俺もチャーハンに匙をのばす。

食べながら子供達の話に耳を傾ければ話のネタとなっているのは俺と遊星のD・ホイールのことのようだ。どっちが格好いいとか速そうとか………。
そこにジャックや鬼柳、クロウの、詰まるところこの前見たばかりのチームサティスファクションのD・ホイールにも話が移り、それを俺と同じく耳を傾けている遊星も笑みを浮かべながら食事を続けている。
ちなみに速さに関してはクロウの黒いD・ホイールが、格好良さに関してはジャックの白いD・ホイールが優勢のようだ。


個人的にはロ○ドセクターを元に作った俺のD・ホイールが一番格好いいと思うんだがなぁ。


最高だよね文明破壊マシーン。あれで一体何体の怪人が撥ねられ消えていったことやら…………。あぁ、また見たくなってきた『マスクドライダーBlack』


「お、食事中か」

などと考えていたら聞き覚えのある声が聞こえ、そちらに顔を向ければ鬼柳とジャックの二人がD・ホイールを引いてやってきた。

「おう、まだあるけどお前らもいる?」

「お、わりぃな。それじゃお言葉に甘えて。ジャックも食うだろう?」

「あぁ、貰うとしよう」

二人の登場に沸く子供達。チームサティスファクションってここいらの子供達に人気なんだよね。
イツキが二人の分の皿をとりに調理場に向かい、持ってきたその皿にチャーハンを盛って二人に渡す。
頂きますと食べ始める二人。子供達も二人に構って欲しいのか話しかけ、対応する二人も自然と笑みを浮かべている。



「ところでよ、遊星。今日翼のライディングを見たんだろ。どうだった?」

「ライディングテクニックは目を見張るものがあるが、少し運転が荒いな。それでも大丈夫なよう整備しているつもりではいるが………。出来ることならもう少し優しく扱って欲しいな」

「ははははっ、そりゃ翼らしい評価だ」

鬼柳の言葉ばに苦笑しながら告げられる遊星の言葉。
それを聞いて声を上げて笑う鬼柳。俺らしいって、あとで一発分殴ったろか?

「ふっ、やはりライディングには人の性格が出る物だな。翼、もう少し女らしくしたほうがいいのではないか?」

口端を上げてこちらを見下ろしてくるジャックの言葉。余計なお世話だと思いつつ隣に座る彼の足をおもいっきし踏みつける。
俺自身、身体はともかく自分のことを男と思って生活してるけどさ。こういうこといわれたら怒ってもいいと思うんだよな。

声なき悲鳴を上げて痛みに耐えるジャックを尻目に、俺はそ知らぬ顔で食後の茶を啜る。

悶絶するジャックを無視する形で話は進み、ライディングテクの話からライディングデュエルの話へと移ってゆく。

「そうか、結局遊星が勝ったのか」

「そう、しかも殆どの俺の完敗だったよね」

「いやそんなことはない。最後なんかは一瞬ヒヤッとさせられた。ライディングデュエル初心者にありがちな、スピードカウンターを忘れるということも無かったしな」

遊星のなかなか高い評価に鬼柳が頷き、俺はといえば少々こそばゆく感じる。まぁたしかに最後は出来すぎな気もしたけどね。

「ふん、だがまだ数回しかライディングデュエルをしていないのだろう?ならば、翼のD・ホイーラーとしての実力はいまだ未知数ということになるな」

腕を組み向けてくる視線はライディングデュエルならば負けは無い、と言っているようにも感じられる。まぁ確かにこっちは遊星と行った一回しかライディングデュエルの経験は無いけどね………。

「なんか言いたそうだな、負け越し君」

「……なに?」

目線を鋭く睨みつけてくるジャックに挑発的な笑みを浮かべて睨み返してやる。俺とジャックとの間に火花が散るような錯覚を憶える。

「「……………」」

しばらく睨み合いを続けた後、どちらから申し合わせたわけでもなく、自然と同時に立ち上がりそれぞれのD・ホイールに向かって歩き出す。

これまた同時にヘルメットを被ってマシンを起動。モーメントが動き始めエンジンに火がともる。

「第一コーナーは四つ先の交差点、左折だ」

「いいだろう、今日こそ格の違いを思い知らせてやる」

「それをしたければまずはさっさと負け分を相殺するべきだと言っておこうか」

「貴様……」

火花を散す俺達に苦笑しつつ、鬼柳が俺達の前に立って右手を前に伸ばし………、チン、っと小さな金属音を発してコインが宙に投げ出される。

緩やかな放物線を描いて落ちてゆくコイン。

ゆっくりと、して確実に地面へと迫るコインが、ついに、地面に落ちた…………。




アクセルが全開まで握りこまれ、鬼柳の両脇を俺達は走り抜ける。

上部シールドを展開し、身体をD・セクターに押し付けるような前傾姿勢でブースターを点火。ブースターによる更なる加速で一気にジャックの前に躍り出る。
そしてすぐにたどり着く第一コーナーを、ジャックよりも先に走り抜ける!





「だぁ!俺の先攻、ドロー!」

先攻はとった、手札も最良!しょっぱかなから生かせて貰うぞ、ジャック!

「手札から魔法カード《sp-オーバーブースト》を発動!自分のスピードカウンターを6つ増やす。このカードを発動したターンのエンドフェイズにスピードカウンターの数を1にする!」


【翼/sc0→6】





「翼の奴上手いな。もともとスピードカウンターが0の先攻一ターン目に使うことでオーバーブーストのデメリットを相殺しやがった」

「あぁ、これで翼はジャックに対して一つ分のアドバンテージを得たことになる」





「さらに《sp-サモン・スピーダー》を発動。自分のスピードカウンターが二つ以上存在する場合、手札からレベル4以下のモンスター一体を特殊召喚する。来い、《ヂェミナイ・エルフ》
さらに手札から《魔導戦士ブレイカー》を通常召喚する」

フィールドに現れるエルフの姉妹と赤き戦士。何処と無くブレイカーが姉妹より前にでて剣を構えてるように見えるのは俺の見間違いかな?

「カードを一枚セットしてターンエンドだ」


【翼/sc6→1】


「一ターンでモンスターを展開するか。だがそんな雑魚、何体並べようと粉砕してくれる!
俺のターンドロー!」

「おぉっとリバースカードオープン、速攻魔法《sp-アクセル・リミッター》発動!相手ターンで数えて2ターンの間、相手はスタンバイフェイズにスピードカウンターを置く事ができなくなる」

「なに、貴様!」





「これで実質4つ分のアドバンテージを稼いだわけだ。なぁ遊星、翼の奴本当にライディングデュエル初心者か?」

「あぁ、俺もそう思ったが………、それでもあいつはこのデュエルでまだ二度目のライディングデュエルのはずだ」





それぞれのD・ホイールでデュエルを観戦しているらしい二人の会話がヘルメットの通信機から流れてくる。
そりゃ俺は初心者だけどな、伊達にお前達のライディングデュエルを指くわえてみてきたわけじゃないんだよ。





【翼/sc1→2】

【ジャック/sc0】





「くっ、やってくれる。
俺は手札から《パワー・インベーダー》を召喚!このカードは相手フィールド上にモンスターが2体以上いるときリリース無しで通常召喚することが出来る」

出たな紫筋肉。悔しいけどこいつを倒したければ上級モンスターの召喚しかないのよね。俺には。

「いくぞ!《パワー・インベーダー》で《魔導戦士ブレイカー》に攻撃!」


《パワー・インベーダー》【攻撃力2200】】

《魔導戦士ブレイカー》【攻撃力1900】

《翼/LP4000→3700》


《パワー・インベーダー》の攻撃にあっけなくやられるブレイカー。ちっ、どう処理したものかね、こいつは。

「そしてカードを2枚セットしてターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー………」


【翼/sc2→3】

【ジャック/sc0】


「《ヂェミナイ・エルフ》を守備表示に変更。カードを一枚セットしてターンエンドだ」

くそ、このままじゃ防戦になっちまうな………。

「ふん、あれだけ大口を叩いておいてその程度か?俺のターン、ドロー!」


【翼/sc3→4】

【ジャック/sc0】


「《パワー・インベーダー》で《ヂェミナイ・エルフ》に攻撃!パワーフィスト!」

地を蹴り《ヂェミナイ・エルフ》に飛び掛る《パワー・インベーダー》の筋肉が異様なまでに盛り上がり、それが姉妹のエルフに振り下ろされる。


《パワー・インベーダー》【攻撃力/2200】

《ヂェミナイ・エルフ》【守備力/900】


「くっ」

「カードを一枚セットしてターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」


【翼/sc4→5】

【ジャック/sc0→1】

「俺は《魔導騎士ディフェンダー》を守備表示で召喚。このカードの召喚に成功したとき魔力カウンターを一つ乗せることが出来る。俺はこれでターンエンドだ」


「俺のターンドロー」

【翼/sc5→6】

【ジャック/sc1→2】


「どうした、このまま防戦一方で終わるつもりか!」

「んなわけあるか!この程度、すぐにひっくり返したる!」

「ふん、勇ましいことだな!俺は手札から《ツイン・ブレイカー》を召喚!」

二回攻撃、貫通効果モンスターか……。ディフェンダーの守備力なら破壊されることは無いけど、このままモンスターを増やされるのはまずい………。
次のターンで《ツイン・ブレイカー》だけでも消しておきたい………。

「《パワー・インベーダー》で《魔導騎士ディフェンダー》に攻撃!」

「《魔導騎士ディフェンダー》の効果発動。フィールド上の魔力カウンターを一つ取り除くことにより、魔法使い族モンスターの破壊を防ぐ!」


《パワー・インベーダー》【攻撃力2200】

《魔導騎士ディフェンダー》【守備力2000】


ディフェンダーの盾から吐き出された魔力球が結界となってディフェンダーを覆う。そこに繰り出されたインベーダーのパンチの一撃がその結界を粉々に粉砕する。

「翼、その時間稼ぎがいつまでも持つと思うな」

「んなこと言われるまでも無くわかってるっての」

「ふん、ならばさっさと反撃の一つもして見せろ!ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」


【翼/sc6→7】

【ジャック/sc2→3】


「カードを一枚セット!そして手札から《マジシャンズ・ヴァルキリア》を攻撃表示で召喚!」

盾を構えるディフェンダーの横に召喚されるヴァルキリアの凛々しい声が響く。背後から追ってくるジャックに対して三つの紅玉のついた杖を構える。

「《マジシャンズ・ヴァルキリア》で《ツイン・ブレイカー》に攻撃!」


《マジシャンズ・ヴァルキリア》【攻撃力/1600】

《ツイン・ブレイカー》【攻撃力/1600】


「さらにトラップカード《漆黒のパワーストーン》を発動!このカードの発動時、このカードに魔力カウンターを3つ乗せる!そして《魔導騎士ディフェンダー》の効果で、このカードの魔力カウンター一つをコストに《マジシャンズ・ヴァルキリア》の破壊を免れる」

ヴァルキリアの放つ魔弾が《ツイン・ブレイカー》貫き、対して《ツイン・ブレイカー》攻撃はディフェンダーによって作られた結界を破壊したのみ。

「やっと反撃らしいことをしてみればその程度か」

「やっかましい、これから始まるんだよ、これから!」

「口だけならなんとでも言える!」

「いつもこんな状況から逆転されて負け越してる癖してなぁに言ってやがる!」

「ライディングデュエルとスタンディングデュエルを同じに見ないことだな!」

「ち、ターンエンドだ」

んなろう、今に見てろよ…………。

無人のインターチェンジを走りぬけ、ステージはスラムから旧ハイウェイへと移ってゆく。
あ、ここってこないだの連中とやりあったハイウェイか。

「俺のターン、ドロー」


【翼/sc7→8】

【ジャック/sc3→4】


「貴様の雑魚モンスターなどすぐに蹴散らしてくれる!《ダーク・リゾネーター》を召喚!
さらにレベル5《パワー・インベーダー》にレベル3《ダーク・リゾネーター》をチューニング!
王者の鼓動、今ここに列を成す!天地鳴動の力を見るがいい!シンクロ召喚!我が魂、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!」





「お、ついにジャックのエースの登場か!」

「これは……、翼も大分きつくなってきたな……」





「このまま《魔導騎士ディフェンダー》を破壊してやりたいところではあるが、《マジシャンズ・ヴァルキリア》がいる限り他の魔法使い族モンスターを攻撃対象にすることはできない、だったな。
ならば!《レッド・デーモンズ・ドラゴン》で《マジシャンズ・ヴァルキリア》に攻撃!灼熱のクリムゾン・ヘルフレア」

「《魔導騎士ディフェンダー》効果を発動!フィールド上の魔力カウンター一つを取り除き、《マジシャンズ・ヴァルキリア》は破壊を免れる」


《レッド・デーモンズ・ドラゴン》【攻撃力/3000】

《マジシャンズ・ヴァルキリア》【攻撃力/1600】


ディフェンダーの効果により《漆黒のパワーストーン》の黒石の一つが黒い魔力球へと変化し、それはさらにヴァルキリアを守る黒い結界へと変貌する。
その結界は《レッド・デーモンズ・ドラゴン》の攻撃により破壊されるもヴァルキリアはいまだ健在だ。

「だが、その効果では戦闘ダメージまでは対処できまい!」

その言葉を証明するかのように結界を破壊した炎の郡が俺とD・セクターを襲う。


【翼/LP37000→2400】

【翼/sc8→7】


「くぅ、だがトラップ発動!《デス・アクセル》!相手モンスターの攻撃によって戦闘ダメージを受けたとき、発動することが出来る!そのとき受けたダメージ300ポイントにつき1つ自分のスピードカウンターを増やす!受けたダメージは1400、1400÷300≒4!俺のスピードカウンターは11になる!」

1000ポイント以上のダメージを受けたことにより、一瞬D・セクターのスピードが落ちるものの、すぐにそれ以上の加速を持ってジャックとの距離を稼ぐ。


【翼/sc7→11】


「悪あがきを……、ターンエンドだ」





「翼のやつ、いよいよもって追い込まれてきたな」

「あぁ。だが鬼柳、楽しそうだな」

「当たり前だろ、このまま翼が何もしないなんてお前思ってるのか?あいつなら何かやる。やるに決まってる。
さぁ、俺を満足させてくれよ!」





くそ、ここでヴァルキリアを守備表示にしたらデーモンズドラゴンの効果でフィールドのモンスターを一掃されちまう。
そうなるとこのまま攻撃表示にしておかなくちゃならない………、か。

「どうした、貴様のターンだぞ!」

「言われなくてもわかってる!ドローだ!」


【翼/sc11→12】

【ジャック/sc4→5】


起死回生のカード、来てくれよ……。

「来た、って言っていいのかな?魔法カード《sp-アクセル・ドロー》発動・自分のスピードカウンターが12個あり、相手のスピードカウンターが5個以下のとき発動可能。カードを2枚ドロー」

さぁ、来てくれ!

「………って、事故ってるーーーーーー!アクセルドロー三枚纏まってるってどういうことよ!」





「おいおい、何引いたカード自分からばらしてるんだよ………」

「…………。しかし、よくもあのカードを3枚も積んだな」

「たしかにな。あのカードって発動条件結構厳しいからな。俺なら入れて1枚、よくても2枚が限度だな。遊星は?」

「同じだ。よほどスピードカウンターを重視したデッキでもなければ入れるのは難しいからな……」

「だよな。序盤に来てもそのまま腐る可能性も高いしな」





「…………馬鹿か貴様は」

「あぁくそ、的確な評価をありがとうよ!」

とはいえ、これがこのタイミングで来たこと事態は悪いことではない。というかむしろ最高ともいえるかもしれない。これで引くカードが逆転の一手になるなら……。いや、お前らを信じれば、おのずと結果はやってくるってな!

「手札から《sp-アクセル・ドロー》をさらに2枚発動!効果説明は省略、合計4枚ドロー」

さぁ………、来た!

「《sp-大嵐》を発動。自分のスピードカウンターを6つ取り除き、フィールド上の魔法・トラップを全て破壊する!」


【翼/sc12→6】


ソリッドヴィジョン化したカードから放たれる強烈な旋風がフィールドを襲う。それに身構えるヴァルキリアたちの側で合計4枚のカードたちが破壊される。

「く、だがこれでスピードカウンターは………」

「ほぼ並んだけどな、このターンで決着だ!
手札から《sp-インスタント・フュージョン》を発動!自分のスピードカウンターが3つ以上ある場合、ライフポイントを1000ポイント払って発動する。レベル5以下の融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚する!
来い、《炎の剣士》」

「なに、まさか!」

「そのまさかだよ!、さらに《sp-スピード・フュージョン》発動!自分のスピードカウンターが2つ以上ある場合発動可能!自分の手札、フィールド上から融合素材となるモンスターを墓地へ送り、融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚扱いで特殊召喚する!
フィールド上の《炎の剣士》と手札の《ブラック・マジシャン》を融合!さぁ、出番だ《黒炎の騎士-ブラック・フレア・ナイト-》!」

フィールド上の《炎の剣士》と手札から現れる肌の黒い魔術師、通称《パンドラ・マジシャン》こと《ブラック・マジシャン》が融合し、黒炎をその身にまとう騎士が召喚される。

「く、そいつが出てくるとは………」

「はははは、忘れてたか?初めてのデュエルの時、こいつらに止めを刺されたことを!」

僅かに遅れてカーブを曲がるジャックに送るのは、余裕の笑み!さぁ、反撃タイムだ!

「《黒炎の騎士-ブラック・フレア・ナイト-》で《レッド・デーモンズ・ドラゴン》に攻撃、フレイム・スラッシュ!」

「ぬぅ、迎え撃て!《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!アブソリュート・パワーフォース!」


《黒炎の騎士-ブラック・フレア・ナイト-》【攻撃力/2200】

《レッド・デーモンズ・ドラゴン》【攻撃力/3000】


デーモンズ・ドラゴンの手より放たれる閃光に、フレア・ナイトはなす術無く返り討ちとなるが………。これがあいつの役割だ!

「《黒炎の騎士-ブラック・フレア・ナイト-》の効果を発動!このモンスターが戦闘することによって発生するコントローラーへのダメージは0になる!そしてこのモンスターが戦闘によって破壊されたとき、デッキ又は手札から《幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-》一体を特殊召喚する!」

デーモンズ・ドラゴンとの戦闘によって破壊されたフレア・ナイトはそのまま黒い炎となってフィールドに残り、炎の熱気により歪められた空間の中に金色の鎧、金色のデスサイズを携えた騎士が現れる。

「《幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-》で《レッド・デーモンズ・ドラゴン》を攻撃!ミラージュ・サイズ!」


《幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-》【攻撃力/2800】

《レッド・デーモンズ・ドラゴン》【攻撃力/3000】


デーモンズ・ドラゴンに向けて駆けるミラージュ・ナイトと、騎士に向けて再び放たれる閃光。しかしその閃光はミラージュ・ナイトの構える鎌に受け止められ、吸収される!

「《幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-》の効果!ダメージ計算時、このカードの攻撃力に相手モンスターの元々の攻撃力を加える!切り裂け!光靭のミラージュ・サイズ!!」


《幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-》【攻撃力/2800→5800】


強烈な光を放つデスサイズを振りかぶり跳躍。デーモンズ・ドラゴンの頭上から、デスサイズが、振り落とされる。

斬とばかりに鳴り響く肉を裂く音。切り捨てられる《レッド・デーモンズ・ドラゴン》と、そして幻影の名の如く霞消え行く《幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-》。


【ジャック/LP4000→1200】

【ジャック/sc5→3】


「くっ、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》が!」

「は、これで、閉めだ!《マジシャンズ・ヴァルキリア》でダイレクトアタック!マジック・イリュージョン!」

ヴァルキリアから放たれる魔力の弾が壁となるモンスターのいないジャックを違うことなく打ち貫いた………。

「ぬ、ぅぉぉぉぉっぉぉぉ!」


《マジシャンズ・ヴァルキリア》【攻撃力/1600】

【ジャック/LP1200→0】


ジャックのD・ホイールからスモークが噴出され、旧ハイウェイの真ん中で完全に動きを止めてしまう。

これで………。



「俺の勝ち、だな。19戦19勝」

「くっ、ライディングデュエルでも負けるとは…………!」

悔しげにD・ホイールのプレートに拳を叩きつけるも、すぐに落ち着いたのか深呼吸を一つして立ち上がる。

「………翼、次は負けんぞ!」

「うぃ、俺だって簡単には負けてやんねぇかんね」

こちらに指差し鋭い視線を向けてくるジャックに笑みを浮かべて返せば、鼻息を一つ鳴らして再びD・ホイールに跨った。

反転して今来た道を走り出すジャックのD・ホイールを追って俺もまたD・セクターを走らせる。

あぁ、やっぱりデュエルは楽しいわ………。

こんな日常がずっと続けばいい。そう思いながら、俺は静かに空を見上げた。





太陽が気持ちいいな………。




















[19249] ラスト・エリア
Name: 赤いえびせん◆094ca9cb ID:c4240c43
Date: 2010/07/09 02:12










旧クロウ部屋改めMyルームで、俺は慎重にデッキの調整を行っていた。
デッキが適度な完成を見せるたびに、デッキをシャッフルして十回ほどまわして調子を見る。デッキの重さ、バランス、危機回避能力。脳内で想定する相手は一度も勝てないクロウか、デッキのバランスがいい遊星のどちらか。
シミュレートの結果やはりクロウに勝てることは無く(一矢報いることぐらいはできるが)、遊星にも負け越しているが、徐々にデッキの完成度は上がってゆく。

「………しかし、やっぱりシュヴァリエからクイーンの甦生が一番堅実な流れか……。いっそのこと装備カードを増やしてみるのも手かもしれないな。いま入れてる装備カードったら《スーペル・ヴィス》だけだからな。とはいえ、そうすると入れられるのは戦士、魔法使い両方で使える万能型の装備カードか。
今手元にあるのはなぁ、《執念の剣》《一角獣のホーン》《ビッグバン・シュート》《黒いペンダント》………、だめだな。シュヴァリエにつけることを前提で考えるとペンダントぐらいしかうまく使えそうに無いな。剣と角はデッキロックしちゃうし、ビッグバンはシュヴァリエが除外される」

剣と角は毎ターン除去カードがドローされるととることも出来るかもしれないが、使用するたびに次のドローカードが何か相手に割れるというディスアドバンテージを負う事になる。LP4000のこの世界、そのディスアドバンテージは前の世界以上に大きい。

「そういえば、この前手に入れたトラップを使ってみるのも手か?そうすると通常モンスターを増やすことも可能か………、そうするのならあれの使用も視野に入れられる………」

胡坐を掻くベットの上、枕元に置かれた未使用カードたちの中から数枚の下級魔法使い族通常モンスターを取り出しベットに並べてゆく。

「この場合候補としては《炎を操る者》か、《ハイ・プリーステス》か。両方レベル3だし」

腕を組みつつ顎に手を当て並べられた中から更に厳選した二枚のカードを見比べて、深く吸い込まれた空気が静かにゆっくりと吐き出されてゆく。

しばらくそのまま睨みつけるようにカードを見ていると、出入り口から木枠を叩く音が聞こえそちらに下を向いていた視線を向ける。

「よ、翼。調子はどうだ?」

そこにいたのは木枠に身体を預けるようにした逆さまの箒………、もといもとこの部屋の主であるクロウ・ホーガン。ちなみになぜクロウがこの部屋を譲ったのかというと………。
事の起こりは五日前ジャックとのライディングデュエルの翌日のことだ。

家を失くして約2週間。その間ずっとクロウの寝床を占領していたわけだが、さすがにいつまでもそのままでいるのは図々しいにもほどがあるだろと、俺は新しい家を探そうとした。のだけれども………。イツキたちに泣きつかれました。曰く、自分達が嫌になったのかと………。
そうではないと一時間近く説得したのだが……、結局折れることになりました。あれだ、女の涙は反則だなんだとよく言われるが、子供の涙も十二分に反則だろ。
それでせめてとばかりにここを増築したのだけれど、まぁ、素人手でしっかりとしたものを作れるはずもなく、寝起きするには問題なくともかなり手狭になってしまった。それこそベットを入れて衣類などを入れる棚を置けばそれで一杯になってしまうような………、殆ど物置だな。とりあえずそこで寝起きすることにしたのだけれど、ここでまた子供達が、クロウにこう言いました。女性にこんな狭い部屋使わせて自分は広い部屋で寛ぐのかと。

いやね、俺はそれで良かったんだけどね。今まで部屋占領したり、今回も増築手伝ってもらったりしてたし、これで元の部屋からクロウを追い出すのは図々しいを通り越して恥知らずのレベルだと子供達を説得しようとしたんだけど、子供達-特にイツキ達男の子達が強弁にクロウを悪者扱いしちゃって、そのままクロウが子供達に折れる形でその部屋をクロウが使うようになってしまった。

俺がここに来てからクロウに本当に苦労をかけるようになっちゃったよなぁ。あ、別に駄洒落じゃないよ。
クロウには何度も頭を下げて謝ったけど、クロウは気にするなと苦笑しなが言っていた。うん、クロウには足を向けて寝れないな。

ちなみに、イツキ達がやけに俺の肩を持とうとすることに関してアニーに心当たりが無いか聞いてみると、あっけなく答えが来ました。それも予想だにしない方向で。
何でも将来の夢を子供達で話したことがあるのだとか。そのとき出てきたイツキ達男の子達の夢…………。はい、俺と結婚だとさ。

それを聞いたときは空いた口が塞がらなかったよ。詰まるところ点数稼ぎのようなものと…………。
その話はクロウも一緒に聞いていたのだが、腹抱えて笑い転げやがった。頭に来たから部屋から蹴り飛ばしてやった。

あぁあ、俺誰かと結婚する気なんてないんだけどなぁ。ほら、俺って身体はともかく中身は男だし。

その話を聞いた後、広場で話してるイツキ達を見つけて近寄ってみれば、アニーに聞いたようなことを再び放していたらしく酷く慌てた様子なにやらごまかしてきた。その場ではたいした話をしたりはせず、ただ去り際にこう告げた。


『あぁそうそう、俺と結婚したければ《火鼠の裘》《蓬莱の玉の枝》《燕の産んだ子安貝》《仏の御石の鉢》を持ってくることが最低条件だから』


それを聞いた子供達は呆然としていたものの、俺が部屋に戻ると大きな声で歓声が響いてきた。夢が叶う兆しが出てきたと喜んでいるのだろうが………、将来その意味を知ったらどんな顔をすることやら。
イツキ達とのやり取りを聞いていたアニーにはそれらの意味を内緒で教えて二人で声を立てずに笑ったものだ。

ついでに一つ。アニーの夢は何かを聞いたときのアニーの答え。イツキ達のようにクロウのお嫁さんとか言い出したりしてと思っていてたら半分正解。


『私は翼お姉ちゃんのお嫁さんになるの』


と来ましたよ。うん。ちょっと将来が心配になってきました。気持ちは嬉しいんだけどね。


「ん~、ぼちぼちかな。あと少しでいい感じになりそうなんだけど」

「おいおい、大丈夫なのかよ。最後のエリア争奪戦は明日なんだぞ?」

「わかってるよ、そんなこと。だから今デッキの調整してるんだろうが。
あ、そうだ。なぁクロウ。こいつ使おうと思うんだけど、どう思う?」

「ん?あぁこいつか?まぁたしかにお前のデッキは通常モンスターが多いけどよ」

「あとそれに合わせてこいつらも入れるつもりなんだけど」

「はぁ?流石にそれは無謀じゃねぇか?」

「けどこいつがいると、こっちの使い勝手が………」

「む、確かにそうだな。となるとこいつを入れれば《簡易融合》に頼る必要性も一応減るのか?」

「そうなんだよね、けどそうすると結構デッキが重くなる」

「確かにな。ならこいつを抜いてみるのも手じゃないのか?」

「ん?あ、確かに…………」





その後のデッキ調整は夜遅くまで続いた。翌日の争奪戦は昼時に仕掛ける予定。

調整を終えたデッキを枕元に、俺は静かに天井を見上げながら眠りのそこへと沈んでいった。




















『……サ、…………ツバ………』


誰かの呼ぶ声が聞こえる。高く女性的な声。

森に響く俺を呼ぶ声に、静かに目を開けた。


『………ツバサ………!』


何処とも知れぬ森の中、どこか焦りを帯びた声に、俺は返事をすることができなかった。

何度も呼びかけられる声。その声を聞きながら、俺の意識はゆっくりと浮上していった…………。




















「ふぁ………、なんだったんだあの夢………?」

涙の滲む眼を擦りつつ、ショートパンツ以外何も身に付けていない身体で部屋を出る。時刻はいまだに六時に至らぬ上りかけの朝日が拝める時間。
部屋に干してあったタオルを外に張られた洗濯紐にかけ、水道の蛇口を目一杯捻ってバケツに注ぐ。目一杯溜まった冷水を頭から被り未だに覚醒しきらない意識を完全に浮上させる。

「………最後の、エリア争奪戦か」

水を被ったことで視界を青いカーテンが覆う。目に被さるまで伸びた青い髪を手櫛で掻き揚げる。

静かに視線を向ける先は北西の方角。最後の未制覇エリアがある方角であり、サテライトの住人のほぼ全てが望むシティがある。
俺自身はこの生活を多いに楽しんでいるものの、シティを望む気持ちは他のサテライトの住人となんら変わることの無い偽ざる気持ちだ。
今日制圧に向かう最後のエリアにはこのサテライトとシティを繋ごうとした伝説の男の存在の証明たるダイダロスブリッジがある。もしこのエリアを制圧したら、鬼柳は次はシティだとでも言い出すのではないのだろうか?

それはそれで面白うそうだと思いつつ、再びバケツ一杯に溜まった水を頭から被り頭を振るように全身を震わせて水滴を飛ばす。それによりれる胸、そいやこいつまた大きくなったな。正直肩がこる。今まで巻いていたサラシじゃ少し短いかもしれん、新しいのを出すかな?
髪を掻き揚げ絞るように更に水気を落とすと、気合を入れるように両頬を叩く。

「……うっし、やるぞ!」

気合の一声と共に両腕を振り上げ、タオルを取ろうと背後を振り返った。

ばっちりと目が合う逆さの箒。歯ブラシとカップを手に呆然と立ちすくむ彼は、だらしなく空いた口を何かを言おうと動かすもののそれが明確な言葉になることは無く、その視線はある一点で固定されている。

「よ、おはよう」

洗濯紐からとったタオルで頭を拭きつつかける挨拶に、クロウは呆然とした表情のままのろのろと右手を上げる。

「これ洗っといて」

頭を拭きつつ、クロウの横を通り抜け様、寝巻き代わりに着ていた寝汗でぐっしょりとしたTシャツを押し付け部屋に向かう。
部屋に入ったところで外からクロウの悲鳴に似た声が響いてくるが、何を叫んでいるのかは聞き取れなかった。










元は工場らしい広い敷地を見渡すことの出来る高い廃墟の屋上。そこからその敷地をアジトにするデュエルギャング『九日ドラゴンズ』の面々が思い思いの場所で談笑したりデュエルしている様を見下ろしていた。

「お前ら、準備はいいな?」

「当然だ」

「あぁ、俺もいつでもいける」

「腕がなるねぇ」

「………あぁ、オレも大丈夫だ」

鬼柳の言葉にそれぞれが応えるもののどことなくクロウの返事に切れが無い。

「クロウ、どうかしたのか?」

「へ、い、いやなんでもねぇ!」


顔を向けて訊ねてみるも、対するクロウは慌てた様子で顔を真っ赤にして視線をそらし怒鳴るようにそれを否定する。
変なヤツだなと思いながら左手のデュエルディスクにデッキをセットし左の掌に右拳を叩きつける。

全員がディスクにカードをセットしたのを確認し、ついに鬼柳からその言葉が告げられる。





「デュエルだ!」





俺達は一斉に敵のアジトへと駆け出した!










デュエルってなんだろう?

エリア争奪戦のたびに思う疑問に溜息をつきながら、一度引き抜き再びセットしたデッキと共に対峙する四人のデュエルギャングを睨みつける。

「オレの先攻、ドロー!俺は手札から《手札抹殺》発動!全プレイヤーは手風だを全て捨ててその枚数分ドローする!」

たった今引いたばかりの初期手札が墓地へと送られ新たに五枚のカードをドローする。さて、初っ端から手札抹殺とはどんなデッキなのやら。

「そして《手札抹殺》の効果で墓地に捨てられた《暗黒界の尖兵 ベージ》《暗黒界の武神 ゴルド》《暗黒界の軍神 シルバ》の効果を発動!こいつらは手札から他のカードの効果で墓地に捨てられたとき特殊召喚できる!」

暗黒界デッキ。こいつはまた、トリッキーな連中を………。もしかすると魔轟神まで入ってる可能性もあるな……。
フィールドに召喚されるモンスター達がオレを見下ろしてくるが、逆に睨み返しながら身構える。

「さらに手札から《暗黒界の狂王 ブロン》を召喚!カードを二枚セットしてターンエンドだ!」

「次はオレのターンだ!ドロー!」

ターンエンド宣言と共に声をあげるのは九日ドラゴンズの下っ端B先にプレイした下っ端Aに目配せし、かえされる悪巧みでもたくらんでいるかのような笑みに下卑た笑みを浮かべる。

「俺は手札から《生者の書-禁断の呪術-》を二枚発動!」

アンデットデッキか………。先の《手札抹殺》はモンスターの大量展開のほか仲間の援護の意味もあったってわけか。

「俺は墓地の《ゾンビキャリア》《馬頭鬼》を甦生する。そしてお前の墓地に存在する《魔導騎士ディフェンダー》と《魔導戦士ブレイカー》をゲームから除外!
次に手札から《ゾンビ・マスター》を召喚!
さらにレベル4アンデット族モンスター《馬頭鬼》にレベル2《ゾンビキャリア》をチューニング!冥府のそこより蘇れ、今再び死者の軍団を従えて。シンクロ召喚!貴様こそが闇の王!《蘇りし魔王ハ・デス》」

この身体になる前、自身体験したことは無いが全国で猛威を振るったとされるアンデシンクロデッキか。となるとこの後に続く展開はおそらく………。

「そして墓地の《馬頭鬼》の効果を発動。このカードを墓地から除外することでアンデット族モンスター一体を墓地から特殊召喚する!さぁ、蘇れ《ゾンビキャリア》」

やっぱりな。そしてこの後は《ゾンビ・マスター》の効果で素材を集めて更にシンクロに繋げるつもりだろう。

「リバースカードオープン!《強欲な贈り物》相手はカードを二枚ドローする!」

とここで割り込むようにトラップを発動させる下っ端A。標的とされた下っ端Bがにやりと笑いながらカードを二枚ドローする。
厄介な話だ。多対一デュエルだとこういう援護が頻繁に行われるからたちが悪い!

「ありがとよぉ!手札から《ワン・フォー・ワン》を発動!手札からモンスター一体を墓地に捨ててレベル一モンスター一体を特殊召喚する!俺は手札から《ゾンビ・マスター》を墓地に送りデッキから《ワイト》特殊召喚!さらに《ゾンビ・マスター》の効果を発動。手札のモンスター一体を墓地に送りレベル4以下のモンスター一体を墓地から特殊召喚!手札の《ワイト夫人》墓地に送り、その《ワイト夫人》レベル3を特殊召喚!
そして、レベル1アンデットモンスター《ワイト》レベル3アンデットモンスター《ワイト夫人》にレベル2チューナー《ゾンビキャリア》をチューニング!遥か過去より猛威を振るいし迅雷の魔王よ、朽ちたりし肉体に再び宿りて蘇らん。シンクロ召喚!仇名す力を消しとばせ!《アンデット・スカル・デーモン》!」

ハ・デスの隣に出現する、古のデュエリストキング武藤 遊戯の使用した悪魔族モンスターの成れの果て。しかしその効果は侮れない………。流石はアンデット、まるでゴキブリの如く湧き出してきやがる!」

「さらに《ゾンビキャリア》の効果を発動!手札を一枚デッキの一番上に戻し、《ゾンビキャリア》をフィールド上に特殊召喚できる!そしてレベル4アンデット族モンスター《ゾンビ・マスター》にレベル2チューナー《ゾンビキャリア》をチューニング。墓所に討ち捨てられし地獄の龍よ、今再び地獄の淵より飛び立たん。シンクロ召喚!帝たる龍の力を見よ!《デスカイザー・ドラゴン》」

手札を全消費して呼び出される《ゾンビキャリア》の三大シンクロモンスター。まさかこの三体が一度のデュエル中に一同に並ぶ様を見ることになるとは………。

「は、あまりの光景に声も出ねぇのか?女が生意気にデュエルの世界に首なんざ突っ込んでんじゃねぇ!ターンエンドだ!」

あ、今の言葉はカチンと来たな。
鏡を見なくても自分の表情が不機嫌に歪むのがわかる。そんな自分の表情を隠すこともせずに三人目の男にさっさとしろと睨みつける。睨みつけられた下っ端Cは一瞬身体を震わせ後ずさるもすぐさまデッキに手をかける。

「お、俺のターンだ、ドロー。俺は手札から《仮面竜》を召喚。さらにこの《仮面竜》をゲームから除外し、《レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン》を召喚!このカードは自分フィールド上のドラゴン族モンスター一体をゲームから除外することで手札から特殊召喚することができる!」

こっちはレッドアイズデッキ!サテライトでそうやったら必要なカード集められるんだよ!前の世界ならいざ知らず、この世界でどれだけかねかかると思ってんだ?レッドアイズだけで十万の世界だぞ。というかあれ、GXで天上院吹雪の切り札だよね?ダークネスの切り札だよね?市販してるの、あれ?

「さらに《レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン》の効果発動。一ターンに一度自分の墓地に存在する《レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン》以外のドラゴン族モンスター一体を特殊召喚することが出来る。俺は墓地の《レッドアイズ・ブラックドラゴン》を特殊召喚!さらにこのレッドアイズをリリースし、手札から《レッドアイズ・ダークネス・ドラゴン》を特殊召喚する!」

ダークネスドラゴンの揃い踏みかよ。本当にどうなってんの?
アニメで明言されない限り枚数限定ということってないの?

「ターンエンドだ!」

「俺のターンドロー!手札から儀式魔法《ローの祈り》を発動!手札又はフィールドからレベル7以上になるようにモンスターをリリースすることで《ローガーディアン》を特殊召喚する!俺は墓地に存在する《儀式魔人プレサイダー》レベル4と《儀式魔人プレコグスター》レベル3の効果を発動させる!墓地に存在する儀式魔人たちは儀式召喚時墓地から除外することで、儀式に必要なレベル分の一体として数えることが出来る!これによりリリースしたレベルは7!いでよ《ローガーディアン》」

こいつは儀式デッキか。は、最上級モンスターが群れになってるよ、おい。

「さらに《高等儀式術》を発動する。手札の儀式モンスター一体を選択し、そのモンスターのレベルと同数になるようにデッキから通常モンスターを選択して墓地に送り、儀式モンスターを特殊召喚する。俺は手札の《大邪神レシェフ》を選択し、デッキからレベル4通常モンスター《ジェネティック・ワーウルフ》二体を墓地に送る!来い《大邪神レシェフ》!
これで俺はターンエンドだ!さぁ、貴様のターンだ!」

「んなことわかってるっての。俺のターン、ドロー」

あぁ、このモンスターの群れどうしてくれよう。アーカナイト/バスターでもないと一斉に除去れないぞ。
とにかく今引いたカードは…………。

OK、一ターンで消し飛ばす!

「俺は手札から《マジカル・コンダクター》を攻撃表示で召喚!更に魔法カード《テラ・フォーミング》を発動し、デッキからフィールド魔法《魔法都市エンディミオン》を手札に加える!さらにこのときコンダクターの効果。このカードがフィールド上に表表示で存在するとき、魔法カードを使用するたびにこのカードに魔力カウンターを二つ乗せる」


《マジカル・コンダクター》【魔力カウンター/0→2】


「さらにフィールド魔法《魔法都市エンディミオン》を発動。このフィールド魔法は魔法カードが発動されるたびに魔力カウンターが一つこのカードに乗る、そしてこのカードが破壊されるときその代わりに魔力カウンターを一つ取り除くことで破壊を免れることが出来る。そして魔法カードの発動によりコンダクターにさらに二つ魔力カウンターを乗せる」


《マジカル・コンダクター》【魔力カウンター/2→4】


デュエルを行う俺達五人の中心から波紋が広がり、その発生した場所から魔力の光を放つ巨大な塔が現れる。さらにその塔の後を追うように出現する光り輝く建物たち。
これぞ《魔法都市エンディミオン》。とはいえ、これでもまだ完全じゃない。これが完全な状態になるのはこれからだ。

「手札から《インスタント・フュージョン》を発動。ライフを1000ポイント払うことでEXデッキからレベル5以下の融合モンスター一体を特殊召喚する。出番だ《ミュージシャンキング》」


【翼/LP4000→3000】

《マジカル・コンダクター》【魔力カウンター/4→6】

《魔法都市エンディミオン》【魔力カウンター/0→1】


《魔法都市エンディミオン》に魔力カウンターが乗ったことにより、都市を守る結界が発動する。この結果、魔力カウンターが新しく乗るたびにその強度を増してゆくことになる。流石は魔法都市!
そしてエレキギターをかき鳴らし塔の上に現れるのはもうお馴染みの音楽家の帝王。紹介はもう不要ね。


「《マジカル・コンダクター》の効果を発動。このカードは自分に乗っている魔力カウンターを任意の個数取り除き、その数と同数レベルのモンスター一体を墓地からフィールドに特殊召喚することが出来る。俺はコンダクターから魔力カウンターを一つ取り除き、墓地から《エフェクト・ヴェーラー》を特殊召喚する!」


《マジカル・コンダクター》【魔力カウンター/6→5】


コンダクターの手から溢れる魔力光が人の形を成し、溶け出るようにその中から《エフェクト・ヴェーラー》が姿を現す。

『出番ですか~、マスター』

「そうじゃなければ呼んだりしないっての。しっかりやってくれよ、レベル5魔法使い族《ミュージシャンキング》にレベル1チューナー《エフェクト・ヴェーラー》をチューニング!万物の根源、万能なるマナ。荒れ狂う魔力を統べる者。シンクロ召喚!嵐を巻き起こせ、《マジックテンペスター》!」

フィールドにいる《マジカル・コンダクター》に似た容姿を持つ《マジックテンペスター》こう並ぶとまるで姉妹だよな。

「そして《マジックテンペスター》がシンクロ召喚に成功したとき、テンペスターに魔力カウンターをひとつ乗せる」


《マジックテンペスター》【魔力カウンター/0→1】


「さぁて、これで大締めだ。手札から《バスター・テレポート》を発動。手札に存在する『/バスター』と名のつくモンスターをデッキに戻し、カードを二枚ドローする」


《マジカル・コンダクター》【魔力カウンター/5→7】

《魔法都市エンディミオン》【魔力カウンター/1→2】


「こいつで一網打尽だ!《マジックテンペスター》の効果発動!全フィールド上の魔力カウンターを全て取り除き、取り除いた数×500ポイントのダメージを与える!フィールド上の魔力カウンターは合計10。よってダメージは5000だぁっ!!」

「な、何!」

「冗談だろ!」

下っ端共A、B、C、Dが騒ぐが知ったことか。いつ何処から他の下っ端が乱入してくるかわからん現状お前らに構ってる時間は無いんだよ。
《魔法都市エンディミオン》から照射された光がテンペスターの鎌に吸収され、テンペスターの背後に立つコンダクターが掲げた掌から七つの純色の魔力球が浮かび上がり、それもまたテンペスターの鎌へと吸収される。そして光り輝くテンペスターの鎌が頭上に高々と振り上げられる。

「やれ、テンペスター。死にさらせ!アリエル・テンペスト!!」

振り下ろされた鎌から吹き荒れる魔力の嵐。凶暴な風は数多の真空刃となって四人のデュエリストギャングを包み込み、吹き飛ばす!


【下っ端A/LP4000→0】

【下っ端B/LP4000→0】

【下っ端C/LP4000→0】

【下っ端D/LP4000→0】


LPがゼロになったことで破壊される下っ端共のデュエルディスク。無論デュエルディスクにそのような機能がついているわけではなく、いつぞやのセキュリティ同様の手錠を使用していたからだ。
これでこいつは完全に脱落。ほっといて次の敵を………。そう思ったとき、視界の端から飛んできた手錠に俺のディスクが捕らえられる。

「ちっ、しまった!」

「俺のターン、ドロー!」

振り返った先にいるのはフィールドに《千年原人》《激昂のミノタウルス》となぜか守備表示になった《不屈闘士レイレイ》を召喚したデュエリストギャング。鬼柳たちがやられたとは思えないから、おそらく他の仲間と場だけ揃えやがったな。

「《千年原人》で《マジックテンペスター》に攻撃!」

地を蹴り高々と飛び上がる原人がテンペスターに向けて拳を振り落とす。それをテンペスターが迎撃しようと鎌を構えるも、構えた鎌ごとその身を粉砕される。

「くっ!」


《千年原人》【攻撃力/2750】

《マジックテンペスター》【攻撃力/2200】

【翼/LP3000→2450】


まずい、今の俺の手札じゃすぐには奴を倒せるモンスターを揃えられない!


相手もそれに気付いているわけでも無かろうに、余裕に満ちた表情でターンの終了を宣言し、視界の内に手錠が飛び込んでくる。そしてその手錠がデュエルディスクを拘束し………。

「俺のターン、ドロー。《レッド・デーモンズ・ドラゴン》で《千年原人》を攻撃!アブソリュート・パワーフォース!」

背後から放たれた炎の塊が《千年原人》を塵一つ残すことなく粉砕する。


《レッド・デーモンズ・ドラゴン》【攻撃力/3000】

《千年原人》【攻撃力/2750】

【下っ端E/LP4000→3750】


「ぐわぁ、くぅ。《千年原人》が!」

「俺はカードを二枚セットしてターンエンドだ」

ターン終了を宣言しながら横に並ぶのは、赤き僕を従えたジャック・アトラス。

「油断するな。奴ら、数だけは多いようだからな」

「全くもって。今の手札じゃあれを片すのはちょっときつかったから助かった。
俺のターン、ドロー」

ジャックに例を言いながらカードをドロー。今引いたカードなら、いける!

「手札から《高等儀式術》を発動!デッキからレベル7通常モンスター《ブラック・マジシャン》を墓地に送り、手札からレベル7儀式モンスター《救世の美神 ノースウェムコ》を特殊召喚する!このカードの儀式召喚に成功したとき、召喚のためにコストとしたモンスターの数全フィールドじょうからカードを選択し、選択したカードがフィールド上に存在する限りノースウェムコはいかなる破壊も寄せ付けない!俺が選択するカードは《魔法都市エンディミオン》!」


《マジカル・コンダクター》【魔力カウンター/0→2】

《魔法都市エンディミオン》【魔力カウンター/0→1】


「そして手札から《クルセイダー・オブ・エンディミオン》を召喚し、手札から《スーペルヴィス》を装備!《クルセイダー・オブ・エンディミオン》を再度召喚した状態にし、その効果を発動!フィールド上に存在する魔力カウンターを置けるカードに魔力カウンターをひとつ乗せ、自身の攻撃力を2500にアップさせる!俺が選ぶ対象は《マジカル・コンダクター》!」


《マジカル・コンダクター》【魔力カウンター/2→4→5】

《魔法都市エンディミオン》【魔力カウンター/1→2】

《クルセイダー・オブ・エンディミオン》【攻撃力1900→2500】


「《マジカル・コンダクター》の効果を発動!コンダクターに乗った魔力カウンターを4つ取り除き、墓地から《マジシャンズ・ヴァルキリア》を特殊召喚する!」


《マジカル・コンダクター》【魔力カウンター/5→1】


コンダクターの横に現れるヴァルキリアが、杖の先に魔力の光を灯しそれを構える。これで場が整った!

「《クルセイダー・オブ・エンディミオン》で《激昂のミノタウルス》に攻撃!グランドクルス!」

《クルセイダー・オブ・エンディミオン》がミノタウルスに向けて両腕で十字を切る。切られた十字に沿って放たれた光の十字が《激昂のミノタウルス》を飲み込み消滅させる。


《クルセイダー・オブ・エンディミオン》【攻撃力2500】

《激昂のミノタウルス》【攻撃力1700】

【下っ端E/LP3750→2950】


「さらにコンダクターで《不屈闘士レイレイ》に攻撃!」

コンダクターから放たれた魔力弾が軽々とレイレイを破壊し、その横を滑るように低空を飛行したヴァルキリアがすり抜ける!


《マジカル・コンダクター》【攻撃力/1700】

《不屈闘士レイレイ》【守備力/0】


「ヴァルキリアでプレイヤーにダイレクトアタック!」


《マジシャンズ・ヴァルキリア》【攻撃力/1600】

【下っ端E/LP2950→1350】


ヴァルキリアの放つ魔力弾をその身に受けて、下っ端が大きく身体をよろめかせるも、俺の次の一手は変わらない!

「止めだ!《救世の美神 ノースウェムコ》でダイレクトアタック!ジャッジメントスペル!」

ノースウェムコの杖から純白の稲妻が放たれ、それが下っ端の身体を打ち貫いた。


《救世の美神 ノースウェムコ》【攻撃力/2700】

【下っ端E/LP1350→0】


ライフポイントが0になり、デュエルディスクが破壊された下っ端には気にも留めず、俺は外れた手錠を投げ捨て次の相手を探して走り始める。

「ジャック、助かった」

「ふん、あの程度の雑魚に遅れをとるな」

「あぁ、気をつける」

デュエルディスクからデッキを外し、一度ライフポイントをリセットしてデッキを戻す。無論召喚していたモンスターたちも消えることになるが、ライフポイントを消費した状態で次のデュエルを行うよりはいい。
それを確認したジャックがすぐそばの階段を駆け上って行くのを見送り、俺は工場の奥へと走り出した。










それからのデュエルは順調だった。並み居る敵を時に一人で、時に仲間と共に蹴散らしながら工場を駆け抜ける。




「《コスモクイーン》で《サーチライトメン》に攻撃!ティルワンの闇界!」

「ぐわぁっ!」

デュエルディスクが破壊され、腰を抜かして座り込む下っ端を尻目に、こうするのも何度目だろうかと思いつつ、デッキ枚数が心許なくなったデッキを引き抜き再度ディスクにセットする。

蝶番のさび付いたドアを蹴り破りたどり着いた場所は非常階段だった。俺がいる階はちょうど三階。飛び降りるには少々高い場所だな。
そこから眼下を見下ろせば数人のデュエルギャングに囲まれたクロウが内の三人と対峙している。そしてクロウを囲う何人かがその手に手錠を取り出している。

まずいな、流石にこの状況だとクロウが危ない。

「翼!後ろだ!」

すぐさま階段を駆け下りようとする俺の耳に届く鬼柳の声に、俺はその声に従うよりも声の主の方へと顔を向けることを優先してしまった。
そして反対側の建物の一室にいる鬼柳の姿を見つけた直後、俺は背後から何者かに羽交い絞めに拘束される。

「ぐ、なぁ!?」

「てめぇらそこまでだ!」

耳元で怒鳴られ顔を顰めるも、その声がどこかで聞いたことがあることに気が付く。どこで聞いたのかと思い出そうとしつつ視線を動かせば、男の左手には壊れたデュエルディスク。さらに首を曲げて背後を見やればそこにいたのは序盤に俺が一蹴した下っ端C!

「俺のシマでよくもさんざん暴れまわってくれたな、ゆるさねぇぞ!今すぐデュエルディスクを外せ!でねぇと………」

下っ端Cの手がTシャツの襟を掴み、一気に引きちぎられる。

「翼!」

引きちぎられたシャツの間からサラシに覆われた胸が露になり、下っ端が下卑笑いを零すのが耳元で聞こえる。

「は、色気ねぇ女だぜ。おらてめぇら!さっさとデュエルディスクを外さねぇとこの女の強制ストリップショウが続けられることになるぜ?俺はそれはそれでもかまわねぇけどな?」

俺の視界の中、悔しそうに歯軋りをしつつディスクに手を伸ばすクロウの姿。他にも鬼柳と遊星もまたその手がデュエルディスクに伸びてゆく。

それに気付いているのだろう、ふざけた笑い声を零す下っ端の手が俺の胸を掴んだ瞬間、俺は脚を思い切り、背後に、振り上げた。





「ぬごぉぅっ…………!」





なんとも堪えがたいくぐもった悲鳴と時を同じく、足の裏に伝わる何かの潰れた感触に眉を潜めつつ、拘束が緩んだ隙を逃すことなく俺は下っ端の手より逃れ、振り向き様に右拳をその鳩尾に手加減抜きでめり込ませる。

「…………!」

声にならない悲鳴に耳を傾けることなく、鳩尾を打たれたことにより下がった顎に左のフックを当て、それによってよろめく下っ端の側頭部を蹴り飛ばし、室内へと吹き飛ばした。



「てんめぇは!貴様もデュエリストなら、負けたからって実力行使に出てんじゃねぇ!」



露になた胸元をとりあえず片手で隠しつつ、建物の中で蹲って呻く下っ端を睨みつける。

「……ぼ、ボスがやられたぁーーー!」

………ボス?

聞こえて言葉に首をかしげ背後を振り返って眼下を見下ろせば、視界内の男達(チームサティスファクション含む)全員が内股になっているのが眼に入るがそれは無視。下っ端の一人が左腕のデュエルディスクを足元に放り投げ、糸の切れたマリオネットのようにその場に座り込む。それを見た隣の下っ端もまた同じようにディスクを外し、同じように次々とディスクを手放してゆく。

再び視線を額に脂汗をかき未だに呻く男に戻して良く見てみれば、確かにどこかで見たことあるような………。うん、事前に鬼柳から見せられたここのボス、具士沢ですね、間違いなく。
というか俺がこいつら一蹴したの結構序盤なんだけど…………。










「翼、大丈夫か?」

「ん?なんともねぇよ。
それよか、なんか最後はあっさり終わったな」

九日ドラゴンズは俺がボス具士沢を(物理的に)倒したことで戦意を喪失。デュエルディスクを手放し工場の一箇所に集められている。
で、俺が今何処にいるかというと、工場の正門に止めたD・ホイールに横座りしながら遊星とともに今日の戦いの舞台となった工場を眺めているところだ。

「そうだな。だがこれで俺達の念願が叶ったわけだ」

「サテライトの統一…………。チームサティスファクションの立ち上げから何年たった?」

「三年だ。これを長いとととるか短いと取るかは個人の自由だがな」

敵さんの処遇については鬼柳とクロウに任せたのか、腕を組みこちらに歩いてくるジャックに片手を挙げて青く澄んだ空を見上げる。

三年。チームサティスファクションの結成からもうそんなにたったのか………。それはつまり遊星達と出会ってから既にそれだけの時間が過ぎたということでもある。あっという間だったな。

「それより翼、その格好は一体なんだ!」

ジャックが苛立たしげに顔をそむけながら悪態をつく。格好といわれ自分の身体を見下ろしてみれば………。具士沢に破かれたTシャツはとっくに脱ぎ捨て、現在は下はところどころ傷ついたGパン、上は胸にサラシを巻きその上からチームサティスファクションのコスチュームであるベストを羽織った状態だ。
うん、サラシはたしかに俺にとっては下着のようなもんだが、文字通り下着の上にコートを羽織っただけという格好の女もこのサテライトには結構いたりする。それに比べれば自分の格好は精々チューブトップとベストの組み合わせに近いと思うんだが………、そんなにおかしいのだろうか?

「いや、流石にあんな破かれ方したTシャツを着っぱなしにするのはなぁ。それならこのほうがマシだと思うんだけど?」

そんな俺の返答に自分はもう知らんとばかりにこちらに背を向けるジャック。肩を竦めて遊星を見れば、彼は彼で苦笑しながら首を振るだけ。なんじゃそりゃ。

二人の態度に首をかしげ、俺はD・ホイールの座席に座りなおす。ハンドルに足を投げ出し、背もたれに身体を投げ出せば、自然と青いそらがに眼に入る。
あの青い空の先には全てを飲み込む闇色の宇宙(そら)が続いているわけだ……。そう思いつつ降り注ぐ日差しの陽気に自然と瞼が重くなってくる。

この日差しも、重くなる瞼も………一戦を終え心地よい疲労感の支配する身体になんとも甘美なものか。
おれは次第に重くなる瞼に逆らうことなく、ゆっくりと眼を閉じた。
ジャックと遊星の会話を聞きながら、俺は、静、かに、眠りのせ、か……………。















[19249] **デッキレシピ**
Name: 赤いえびせん◆094ca9cb ID:c4240c43
Date: 2010/07/10 19:50
注意*ここに載せられているレシピはあくまで基礎の状態であり、ここに記載されていないカードが作中に登場することがありますのでご了承ください




スタンダートタイプ・四十二枚

最上級モンスター*合計五枚
・通常モンスター…三枚
 コスモクイーン
 コスモクイーン
 ブラック・マジシャン(元パンドラ所持カード)
・効果モンスター…一枚
 幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-
・儀式モンスター…一枚
 破滅の女神ルイン

下級モンスター*合計十六枚
・通常モンスター…二枚
 ヂェミナイ・エルフ
 ヂェミナイ・エルフ
・効果モンスター…十四枚
 魔導騎士ディフェンダー
 魔導騎士ディフェンダー
 魔導戦士ブレイカー
 魔導戦士ブレイカー
 創世の預言者
 創世の預言者
 マジシャンズ・ヴァルキリア
 マジシャンズ・ヴァルキリア
 マジシャンズ・ヴァルキリア
 ・デュアル…二枚
  エヴォルテクター シュヴァリエ
  エヴォルテクター シュヴァリエ
 ・チューナー…三枚
  エフェクト・ヴェーラー
  エフェクト・ヴェーラー
  ナイトエンド・ソーサラー

魔法*合計十二枚
 ディメンション・マジック
 ディメンション・マジック
 ディメンション・マジック
 スーペルヴィス
 スーペルヴィス
 融合
 融合
 高等儀式術
 簡易融合
 簡易融合
 召喚師のスキル
 魔法使い族の里

罠*合計九枚
 マジシャンズ・サークル
 マジシャンズ・サークル
 正統なる血統
 決戦の火蓋
 リビングデッドの呼び声
 隠された魔導書
 封魔の呪印
 闇の幻影
 神の宣告





カウンタータイプ・四十二枚

最上級モンスター*合計六枚
・通常モンスター…三枚
 コスモクイーン
 コスモクイーン
 ブラック・マジシャン(元パンドラ所持カード)
・効果モンスター…二枚
 幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-
 アーカナイト・マジシャン/バスター
・儀式モンスター…一枚
 救世の美神 ノースウェムコ

下級モンスター*合計*合計十五枚
・通常モンスター…二枚
 ヂェミナイ・エルフ
 ヂェミナイ・エルフ
・効果モンスター…十五枚
 魔導騎士ディフェンダー
 魔導騎士ディフェンダー
 魔導戦士ブレイカー
 魔導戦士ブレイカー
 黒翼の魔術師
 マジカル・コンダクター
 王立魔法図書館
  ・デュアル…五枚
   クルセイダー・オブ・エンディミオン
   クルセイダー・オブ・エンディミオン
   クルセイダー・オブ・エンディミオン
   エヴォルテクター シュヴァリエ
   エヴォルテクター シュヴァリエ
  ・チューナー…三枚
   エフェクト・ヴェーラー
   エフェクト・ヴェーラー
   マジカルフィシアリスト

魔法*合計十二枚
 ディメンション・マジック
 ディメンション・マジック
 スーペルヴィス
 スーペルヴィス
 融合
 融合
 バスター・テレポート
 高等儀式術
 簡易融合
 召喚師のスキル
 魔法都市エンディミオン
 魔法都市エンディミオン

罠*合計九枚
 マジシャンズ・サークル
 バスター・モード
 バスター・モード
 正統なる血統
 リビングデッドの呼び声
 隠された魔導書
 封魔の呪印
 闇の幻影
 神の宣告





サイドデッキ(共通)*合計十五枚

炎を操る者
心眼の女神
デュアル・スパーク
守備封じ
下克上の首飾り
ホーリー・ジャベリン
非常食
****
****
****
****
****
****
****
****

EXデッキ(共通)*合計11枚

融合モンスター*合計八枚
黒炎の騎士-ブラック・フレア・ナイト
黒炎の騎士-ブラック・フレア・ナイト
炎の剣士
炎の剣士
音楽家の帝王
音楽家の帝王
カオス・ウィザード
カオス・ウィザード

シンクロモンスター*合計三枚
アーカナイト・マジシャン
マジックテンペスター
エクスプローシブ・マジシャン



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