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[20131] 【ネタ】魔王の凱旋・外伝 頂上決戦(ワンピース【パロ】・異世界多重クロス)
Name: キー子◆d13b36af ID:dcf8efe5
Date: 2010/07/09 01:17
 お久しぶりです、キー子です。
 以前の作品の続きも書かずなんでこんな作品を書いているのかと言えば、実はあっちの方の続きが全く思いつかず、逆に『ワンピース』と「小説家になろう」の“とある”作品を読んで、「あれ? そういてばこのシュチュエーションってアレに思いっきり使えるよな……」という、なかば衝動のままに書き始めてしまった作品です。
 もう「ネタ」というより「パロ」といった作品ですので、気に入らない方、生理的に受け付けない方は見るのをご遠慮願います。



[20131] 序章 ―調印式―
Name: キー子◆d13b36af ID:dcf8efe5
Date: 2010/07/08 01:25



 ―――かつてこの世界には、『滅びの魔王』と呼ばれた闇の異邦神が存在していた。
『魔王』と『魔王』が束ねた闇の軍勢を前に、人々はただ怯え絶望するしかなかった。
 しかしその暗黒の時代も終わりの時を迎える。
 闇の軍勢に対抗し続けていた七つの王国が、それぞれ異界から『七人の勇者』を召喚したのだ。
 王国はそれぞれ国の総力を挙げて、この勇者達にそれぞれの“力”を与えて魔王の討伐に送り出した。

 ―――かくして永い永い旅の果て、七人の勇者はついに『魔王』を討ち果たした。
 後にこの七人の勇者は一人が抜け六人となり、その偉大なる功績から『六英雄』と呼ばれる。
 そしてこの七人の勇者を召喚した七つの王国は、その後平和となった国々を協力してまとめあげ『七大王国』と呼ばれるようになった。

 ―――今から三十年ほど前に起こった出来事だった。



 ―――神暦1873年 聖地『コルダータ』


 千数百年前に神々がこの大地に降り立ったという神話を持つ、世界の中心にある大平原。
 神域として人の出入りを硬く禁じているその地は、いま見渡す限りの人の群で溢れている。
 人の群はどれも鎧で身を固めた兵士ばかり。
 その兵士達は誰もが皆、一様に同じ場所を見ている。
 平原に小高く設置された、舞台のような建造物。
 そこでいま、国家間規模―――否、世界観規模での一大事が行われていた。

 舞台の上に置かれた円卓に、六人の男女が座っている。
 この世界を七分割し、それぞれの地を支配している王達だ。
 彼らは机の上の一枚の紙に、それぞれのサインを書き込んでいた。
 それは同意書。
 世界を支配する六王国が互いに手を取り合って、一つの大事を為すという同意書だった。

「…………」

 コトリ、と。
 西の地を支配する『ウィルタニア王国』の国王が最後にペンを置いた。

「失礼します」

 係りの者が同意書を受け取り、今回の議長に選ばれた南を支配する『アレーグロ聖国』法王に同意書を渡す。
 法王は同意書のサインを確認すると椅子から立ち上がり、それぞれの王達と眼下に広がる兵たちの群へと宣言した。

「……それではここに、我ら六王国が共に手を取り合う『世界連合軍』のーを宣言する!!!」
≪おおおおぉおぉおおーーーーーっ!!!!≫

 兵たちの雄叫びのような鬨の声が、大平原に響き渡る。
 そしてそれは、魔法による放送からこの光景を見ている世界中の人間の声でもあった。



 ―――そして今また、その六つの王国がその力を合わせようとしていた。
 理由は、たった一人の少女を処刑するため。
 正しくは、その少女を助けるために現れるであろう、一りの男に率いられた軍勢を相手にするため。
 男の二つ名は『魔神』、あるいは『大逆七業』。
 かつて勇者として魔王を討ち果たしながら、世界を裏切った最悪の男。






[20131] 一幕 ―六王国― 
Name: キー子◆d13b36af ID:dcf8efe5
Date: 2010/07/09 01:17


 ―――『六王会談』仮設会議所

 急造ながら、豪奢に建てられた仮設の会議所の中。
 そこには互いに無言で向き合っている六人の男女。
 すなわち、この世界の最高権力者である六人の王達の姿があった。
 王達は樫でできた円卓の自分の席に座り、何かを待つように無言で相対していた。

「陛下! 大変です、陛下!っ!」

 会議所のドアを突如開け放って、甲冑姿の兵士が飛び込むように部屋に入ってくる。
 六人の王達の視線が、一斉にその甲冑姿の兵士に向く。
 本来なら不敬罪ものだが、今はそれを気に留めるものも咎める者も居ない。

「来たか……」
「騒ぐな! ……報告を」

 アレーグロ聖国の法王が、一喝して促す。

「ハッ!! 『魔神軍』を偵察に出ていた部隊からの連絡が途切れました!! 恐らく、『魔神軍』に全滅させられたかと……!!」
「ッ!! ……そう、か。ご苦労」

 兵士の姿勢を正して告げられる報告に、法王は息を呑んでやがて頷いた。
 そのまま報告してきた兵を労うと、部屋から退出させる。
 再び王達だけになった会議室で、こんどこそ彼らは円卓に着いたまま互いを見合った。

「……やはり、交渉は無理か」

 東の地域を支配する、『暁』の天皇が静かな声音で言った。

「これで全軍の激突は、必至だな……」

 東北を支配する『ユヤ』の皇帝が、その豪奢な衣服の袖で嘆くように顔を隠した。

「さて、どうしたものか……」
「どうするもなにも、迎え撃つしかないでしょう?」

 南東一体を勢力下に置く『アムール』の国家元首の言葉を、この中でただ一人の女性である『ゲドルド』の将軍が軍服姿で静かに答える。

「簡単に言ってくれる。彼の『魔神軍』の脅威、『三姫将』の一角として共に闘った事のある貴様なら十分にわかっていよう。フレン=デートリッヒ姫」
「しかし、それしか手が無いのも事実……『世界連合軍』と言ってはみても、ただの兵士が幾ら集まったところであやつには牽制程度の意味しか持たん」

 西に広大な領地を持って支配する『ウィルタニア王国』の国王がの言葉に、南一体に浸透する国教の国『アレーグロ』の法王が反論した。

「……やはり、『三姫将』と『六英雄』に頼るしかないか」

 まとめるように、深く溜め息をついて『暁』の天皇は呟いた。

「では、やはり……」
「ああ。……彼らを招集してくれ。……まとめ役は任せましたぞ? デートリッヒ姫」
「承知しております」

 一つ頷くと、美貌の軍事国家最高司令官は円卓の椅子から立ち上がった。






[20131] 二幕 ―参将姫―
Name: キー子◆d13b36af ID:dcf8efe5
Date: 2010/07/09 01:19


 ―――『三将姫』
 かつて魔王との戦争時代。
『智』『武』『術』―――即ち、『権謀術数』、『武術』、『魔術』によって、その当時の軍の頂点に立った三人の少女たちに送られた称号。



「スン! スン・リーはいるか!?」
「そんなに大きな声を出さずとも、ちゃんと聞こえてるネ」

 扉を開け放って入ってきたのは、ゲドルトの将軍にして『智』の『三将姫』フレン=デリッヒート。
 そのフレンの声に答えたのは、部屋の中でユヤ特有のゆったりとした服に身を包んだ女性。
 ユヤの誇る『武神』。
『武』の『三将姫』、スン・リー。
 彼女は一人で行っていた型の練習を止めて、フレンの方に視線を向けた。

「スン。決まったぞ、戦争だ」
「フム……。やはり、仰は交渉には応じなかったカ」

 特に驚いた様子も無く、スンは頷く。

「当然といえば当然だろう。ヤツは身内に危害を加えたものは、たとえ何者であろうと容赦しない。そういう男だ」
「フフ……。嬉しそうネ。やはりどんな状況でも、惚れてた男が変わらないというのは嬉しいカ?」

 どこか誇らしげな表情で普段は凛としている表情を緩ませるフレンに、ユヤがクツクツと笑った。

「フンッ! そんな事ではない。それより、ルードビッヒに連絡を取ってくれ。行方のわからない『六英雄』にもすぐに召集を掛けたい」

 微妙に顔を赤くして、ユヤに言ったとき。

「―――ふん、もう来とるわ」

 不意に、部屋の一角に魔方陣が浮かび上がった。
 その光の中から十代くらいの少女が一人、ゆっくりと現れる。

「ルードビッヒ」

 ルードビッヒ・ヴィオラ。
 宗教大国アレーグロが誇る、『神術師』の二つ名を持つ世界最高の魔術師。
 同時に、『三将姫』の『術』の一角にして長老。
 すでに何百年と生きていながら幼いほどに若々しい姿は、魔術によって老化を止めているかららしい。

「やれやれ。……歳を取ると、行動一つが面倒になっていかんな。……なんじゃ。態々転移まで使ってきたのに、茶の用意もないのか?」
「無茶を言うな。私は預言者じゃないんだ。行き成り来ておいて、茶の用意が出来るわけも無いだろう」

 愚痴るルードビッヒに、フレンが苦笑を浮かべる。

「にょほほほ……。そんな事を言うと、『智将』の名が泣くぞ」
「久しぶりネ、ルードビッヒの婆様―――っと」

 ユヤが突然飛んできた火玉を、片手でいなすと共に“氣”を纏った拳で霧散させる。
 その火玉を放ったルードビッヒは、幼い姿からは想像も出来ない強烈な気配を放ちながらユヤを睨みつける。

「……小娘。いつも言っとると思うが、何度でも言うぞ。ワシを婆さんなどと呼んだら、黒焦げにするからその心算でな?」
「オー、コワイコワイ……憶えてたら気をつけるネ」

 本来なら大きな家一軒を消し炭に変えるような火玉を片手でいなして置いて、ユヤのその顔には緊張感すら浮かんでいない。
 むしろさらに彼女をおちょくるように、ユヤは悪戯めいた微笑を浮かべて手を軽く振る。
 そんなユヤの姿に、怒りをそがれて溜め息を吐く。

「まぁ、脳筋の格闘馬鹿に期待はしとらんがのー……」

 怒りをそがれたというより、厭味を返したといった方が言いのだろうか。
 言われたユヤの額に、青筋が浮かぶ。

「ムッ……。まぁ、若作りの婆様じゃ、本当の若さに嫉妬するのも分かるけどネ。……トウマが言ってたヨ。婆様みたいなのを、「ロリババァ」言うって」
「……あンの小僧ォ~。随分と愉快な事を吹き込みおって……今度会ったら、細胞残さず灰燼にしてやろうか……」

 ルードビッヒの身体が微妙に震え、手に持った杖がギリギリと握力に負けて軋んだ音を立てる。
 本人の身体から怒気の混じった魔力が立ち上り、辺りの空間ごと空気を歪ませた。

「やめんか、二人とも。貴様ら戦争でもやりに来たのか!!」

 そんな二人を見ていたフレンが呆れながら、大きな声で二人をいさめる。

「……まったくだね。二人が暴れたら、せっかくの『合同式典』がダメになるどころじゃすまないよ?」
「!!」

 瞬間。
 突然後ろから掛かった声に、フレンがとっさに振り返る。
 いつの間にか入り口の前に、黒髪の一人の少年が立っていた。

「なんじゃ、もう来とったのか。『七福鬼神』キクノスケ」

 その姿を認めて、ルードビッヒがすぐさま漏らしていた魔力を納めた。
 ユヤもまた構えを解いて、突然現れた少年―――川河菊之介に向かい合う。

「本当に早かったな。てっきり、貴様が最後かと思っていたぞ」
「はは。この式典を見るために、丁度ここまで来てたんですよ。……もちろん、この『処刑』の真意をお尋ねしたくてね」

 フレンの言葉に、菊之介が鋭くフレンを見た。
 もともと柔和というか、糸目というか眠たげというか。
 とにかく平和そうな顔立ちの少年の顔が、その一瞬で鋭い物に変わる。
 僅かに開いた糸目の中から、鋭いナイフのような冷たい光が覗いた。

「ああ、分かってる。いま召集をかけている『六英雄』が全員そろったら話そう」
「なんだ。それならもう始めちゃいましょう」
「なに?」

 菊之介の言い分に、フレンだけでなくほかの二人も訝しげな表情を浮かべ、

「もう、全員ここに来てますよ?」
「「「!!?」」」

 唐突に。
 まるで最初からこの場に居たような唐突さで現れた人影に、『三将姫』全員が驚愕に表情を歪めた。






[20131] 四章 ―六英雄―
Name: キー子◆d13b36af ID:dcf8efe5
Date: 2010/07/09 01:25

 ―――『六英雄』
 かつての大戦の最中、現在世界を支配している『六つの大国』に異世界より呼び出され、直接『魔王』を打ち倒し戦争を納めた六人の勇者たちに与えられた称号。
 一人一人が一騎当千。
 いや、一国の国軍に匹敵する力を持ち、そして戦後に六つの大国が世界を六等分するほどの勢力を持った最大の理由。
 それぞれの国家が“所有”する、六人の国家最高戦力。


 突然部屋に現れた三つの人影に、『三将姫』が驚きに眼を見開く。

「……いつの間に」
「うわ~……。ぜんぜん気付かなかったネ」
「相も変わらず、化け物揃いじゃなァ……」

 スンの言葉に、ユヤに呼び出された『六英雄』、『七福鬼神』河川菊之介が苦笑を浮かべる。

「はは。スンさん、化け物は酷いな~」
「何だって構わんさ……。好きに呼ばせればいい」

 静かに呟いたのは、今は亡き北の大国ザメルザーテに呼び出さた『六英雄』、『兇夜』の不破恭也。

「確かに、今さらだ……」

 追従するように頷くのは、黒いマントに黒いバイザーという姿をした『六英雄』。
 ゲドルトに召喚された『冥皇』の二つ名を持つ、天河アキト。

「それより、せっかく椅子とテーブルがあるのだから座ったらどうかね? 紅茶が欲しいのなら、私が用意するが?」

 白髪に赤銅色の肌をした美丈夫の青年。
 アレーグロから召喚された『六英雄』が一角、『聖剣の鍛冶騎士』衛宮士郎が微笑を浮かべてテーブルへと近付いていった。
 いつの間に用意していたのか、その手には紅茶セットが握られている。

「ああ、エミヤ。すまんが用意してくれ。お前の入れる紅茶は美味いでなぁ」
「ふむ。君にそう言って貰えるとは光栄だね、『神術師』」
「あ、衛宮くん。ボクにもお願いできますか?」
「ああ、了解した。……そちらの二人は?」

 ルードビッヒと菊之介の注文に頷くと、アキトと恭也の方にも向ける。

「……断る。俺の味覚では、せっかくの味も意味が無い」
「俺は頂こうか。―――できれば……」
「抹茶で。分かってるよ」
「……手間を掛けさせる」
「何、旧友のよしみだ。構わんよ」

 申し訳なさそうに小さく頭を垂れる生真面目な旧友に、士郎は微笑を浮かべてカップと紅茶と宇治茶を用意した。



「……さて。それじゃあ、そろそろ話してもらおうか。『三将姫』、なぜ本気でアイツを怒らせるようなマネを?」

 士郎の用意した紅茶に口を付けながら、菊之介がフレンに話を切り出した。

「せっかちだのォ。もう始めるのか? まだヨコシマもトウマのヤツも来とらんのに……」
「……横島なら来ない。むしろ今回はアイツ側の人間として来る可能性すらある」

 ルードビッヒの言葉に、断言するように恭也が言った。

「でしょうね。あの人は、女子供が死ぬのが一番嫌がる人ですから……」
「普通なら“甘い”と言う所だが……アイツのあれは、すでに強さだ。否定も出来ん」

 その言葉に菊之介と恭也もまた、納得するように頷く。

「じゃろうな……仕方あるまいて。―――しかし、トウマは……」

 瞬間。
 部屋のドアが、大きな音を立てて吹き飛んでだ。

「「「「!!?」」」」

 全員が一斉に各々の獲物に手を伸ばし、戦闘態勢にはいる。
 部屋の誰もが緊張する中、その相手はすぐに姿を現した。

「……フレンッ! 話があるっ!!!!」

 現れたのは、ツンツンと逆立てた黒髪をした少年だった。
 着ているのはウィルタニアの一般的な外出着。
 同時にその少年を見て、全員が獲物を下ろして緊張を解いた。

「トウマ!?」

 少年の名は、上条当麻。
 ウィルタニアに召喚された、『六英雄』が一角。
『幻想殺し』の二つ名を持った少年。

「こら、トウマ!! 貴様、部屋の扉を吹き飛ばして入ってくるヤツが居るか!!」
「喧しい、ルードビッヒ!! ……フレン、これは一体どういう事だ!? エルリアのやつを処刑するなんて……っ」

 ルードビッヒの言葉を遮って、フレンに向けて視線を向ける。
 当麻から立ち昇る怒気が、太陽のように強烈な圧力を放つ。

「待て、トウマ。いまその話をするために、全員に集まってもらっていたところだ」

 それに耐える事しか出来ていないフレンに代わって、アキトが当麻を押さえた。

「え? ……あ、お前ら」

 言われて部屋の中を見回す。
 そこで初めて、旧友たちが部屋に居る事に気付いた。

「今頃気付いたのか……」
「相変わらずと言うか、なんと言うか……」
「やれやれ。貴様はそういう所があるから、いまいち尊敬ができんのだ……」
「あははは……。当麻、久しぶり」

 四人の『六英雄』が、みな似たように呆れた表情を浮かべる。
 そんな中、その姿を認めた当麻が嬉しそうな声を上げる。

「おー! マジで久しぶりだな。あれ? 全員そろってるって事は……やっぱ皆もこの処刑には納得できてないって事か!」
「いや、それは確かにそうなんだけど……」
「『智将』の話を聞いてたか? 召集を掛けたといっただろう」
「え? そうだっけ?」

 当麻が首を傾げると、いい加減待てなくなったのか、フレンが大きな溜め息を吐いた。

「……貴様ら、旧交を暖めるの良いが。そろそろ話を始めるぞ」
「ああ。……言っとくが、俺は納得なんかしないからな!!」

 当麻が表情を引き締める。

「……話を聞けば、それも変わる」

 逆にフレンは、むしろ詰まらなそうな表情で投げ遣るようにそう言った。



「―――本当ですか!?」
「ヤツが……そんな事を?」
「なるほど。確かに、それならヤツを敵に回す理由にはなる……」
「………………」

 説明を聞いた『六英雄』達が、驚きに顔を歪める。

「……嘘だろう?」

 その中でも、当麻が一番衝撃を受けたようだった。
 呆然とした表情で、フレンの事を凝視している。

「フレン、それ嘘だよな?」
「悪いが、こんな嘘で貴様らを騙せるとは思っていない」
「…………ッ」

 断言されて、当麻が唇を噛む。
 言葉に嘘がないと、理解できたからだった。

「どうする、『六英雄』。この戦争は基本的にお前たちは強制参加の予定だが……ヨコシマの――『道化の仮面』のように、拒否して姿をくらます事も出来るぞ?」

 そう言ってフレンが、他の四人に視線を向ける。

「…………」

 しばらくの沈黙の後、最初に席から立ち上がったのは恭也だった。

「恭也……」
「俺は話に乗る。……理由がどうであれ、ヤツとの決着を着けられそうな戦場はもう無いだろうからな」

 そう言うと、もう用は無いと言わんばかりに、彼はさっさと部屋から出て行った。

「俺も乗ろう」
「……アキト」

 そんな恭也に続くようにアキトが、こちらは椅子に座ったまま呟くように言う。

「私も咬ませて貰う。それが本当なら、放っておくわけにも行くまい」
「士郎」
「ボクも……」
「菊之介」

 士郎と菊之介もまた、事情を理解したのか参加する意思を示す。

「……後はお前だけだ。どうする、トウマ」

 最後まで残った当麻に、フレンが視線を向ける。

「俺は……」
「出来れば貴様には、何が何でも参加してもらいたい。貴様の強さも、そして『能力』も、ヤツを迎え撃つにはこの上ない戦力になるからな」
「…………」

 当麻はしばらく悩むように口を閉ざし、

「……考えさせてもらう」
「ああ、じっくり考えろ」

 沈痛な表情のまま、席から立ち上がって部屋を出て行った。
 その背をフレンはそれだけ言って見送った。

 他の『六英雄』達も、もうこれ以上ここに居ても仕方が無いと判断したのか、それぞれ部屋から姿を消す。

「……青いのぉ~」

 自分達しか居なくなった部屋で、ルードビッヒが部屋を出て行った当麻にそう呟いた。

「仕方あるまい。アイツはある意味、あの六人の中で最も戦場に恵まれた男だ」

 それに重い溜め息を吐いて、フレンが言う。

「その強さ故に何者にも行動を束縛されず、その心の在り様ゆえに常に守りたい者を見失う事もなく、そして味方であり続けられた。……何より、どれだけ打ちのめされようと、ヤツはただの一度も敗北を喫した事が―――守りたい者を守れなかったことが無い」
「そうネ。……そういう意味では、アイツ自身が本当に在り得ないくらいの奇跡ヨ」


 作者より

  感想板に質問コーナーを創りました。
  質問や感想があれば書き込んでください。
  本作中で書ききれなかった設定や資料なんかももしかしたらそっちに載せるかもしれません。





[20131] 幕間 ―作戦会議―
Name: キー子◆d13b36af ID:dcf8efe5
Date: 2010/07/10 01:35



「全員に資料は行き渡ったか?」
「…………」

 年配の部隊長が確認する。
 答える者は居ない。
 それを肯定と受け取り、部隊長は一つ頷いた。

「よし、では今回の作戦を説明していこう。
 今回我々が戦う戦場は、畏れ多くもこの聖地『コルダータ』だ。ここは広々とした平原が続くだけの場所。つまり敵の軍勢が四方何処から現れようともその姿は目に付く。我々は現れたやつらを叩けば良い。
 なに、我々の数は単純に考えただけでもやつらの六倍。正確な比率はもっと大きい。奇襲の有り得んこの状況では、我々の有利は動かん」
「隊長。敵方が転移してくる可能性は?」
「処刑開始数時間前から、我々の軍勢を中心として四方半里は対転移結界に包まれる。敵方が突然目の前や軍勢の中に転移してくる事は有り得ん。―――続けるぞ。
 我々の布陣の配置は、処刑囚を中心として取り囲むように配置される。たとえ前後左右から敵が現れたとしても、すぐに反応できるようにしておけ」

 部隊長は黒板に板書しながら、今回起こるであろう『戦争』の作戦とその動きを説明していく。
 やがて説明を終え、兵たちに向き直る。

「以上だ。何か質問はあるか?」
「…………」

 一人の歳若い兵士が、無言のまま躊躇うように手を上げた。

「よし、ではお前。発言を許可する」

 指名された歳若い兵士が、おずおずと声を質問の声を上げる。

「あの……これだけの準備と世界中が手を組んだ、という現実の中でこのような質問をするのは馬鹿らしいとは思うのですが……」
「何だ、言ってみろ」

 部隊長が促すと、若い兵は部隊長をまっすぐ見て尋ねた。。

「―――本当に、“やつ”は来るのでしょうか? 自分にはこの状況の中、たかが部下一人を取り戻しに来るとは考え辛いのですが……」

 部隊長はしばらく無言のまま、その歳若い兵を見つめてから尋ねた。

「……お前、軍属となって何年になる」
「は? あ、はい! 今年で5年になりますが……」
「5年か……ならば、知らないのも無理はないか」

 部隊長は手に持っていた資料を机の上に放ると、その兵士だけでなく他の全員を見回して言った。

「知らぬ者も居るのだろう。ならば“ヤツ”について伝えておかねばならない。……お前たち、十年前に起きたザメルザーテ王国の事件を知っているか?」

 全員が無言のまま、肯定を示す。
 当然だ。
 知らぬものなど、この世界に居ない。
 それほどまでの大事件だった。

 この世界は本来、大きく『七つの』王国によってそれぞれ納められていた。
 だが十年前、この世界を揺るがすような一つの事件が起きる。
 北の大地に存在していた七大王国が一つ、『ザメルザーテ王国』。
 その大国が、わずか一日で滅ぼされたのだ。
 犯人は当時すでにその悪名を広く知られていた、『魔神』と呼ばれた“裏切りの英雄”の仕業だった。

「そう。“ヤツ”が起こした事件の中で、恐らく最悪の大事件。……ではお前たちの中に、何故そのような事件をヤツが起こしたのか知っている者は居るか?」

 問われて、彼らが気付いたように首を傾げる。
 当時、世界中を震撼させたあの大事件。
 その事件の内容ばかりが駆け巡っていたが、その動機といわれれば様々な仮説や流言が流れたばかりで、本当のところ何故そんな事件が起こったのかは誰も知らなかった。

「……国が欲しかったから、じゃないんですか?」

 誰もが首を傾げる中、一人の兵士が挙手して言う。
 それはその時流れた噂の中で、最も有力視されたもの。
 しかし、

「いや、違う」

 事件の当初その事件に一平卒としてだが参加していた部隊長は、それを首を横に振って否定した。

「当時軍に属していなければ、あるいは高位の文官でなければ、それを知るものは居ないだろう。その情報については厳重なまでの規制が掛けられていたのだ。それほどに、当時の事件のヤツの動機は常軌を逸していた」

 だから決して他言してはならないと前置きして、部隊長は厳かな口調で話した。

「……動機は、たった一人の部下だ」
「え……?」

 兵たちが首を傾げる。
 意味が分からない。
 たった一人の部下が、何故そんな事件の発端となるのか。
 兵たちの困惑に答えるように、部隊長は続ける。

「当時、ザメルザーテ王国は、“ヤツ”の情報を得ようと躍起になっていた。そして終には、彼の王国は一人の男を捕縛する事に成功した。それはヤツの配下に新しく加わったばかりの新参者だったが、直接ヤツに会った事のある人間でもあった。
 王国は“ヤツ”の情報を得るためにその男を殺すまで責め続け、情報を吐かせた。……その結果、彼の王国は攻め滅ぼされたのだ」
「…………!!??」

 その意味を理解して。
 そして同時に、その馬鹿らしいほどの『動機』というものをおぼろげながら理解して。
 兵たちは一様に引きつったように息を呑む。

「そうだ! ヤツは当時、自分の配下に加わったばかりの新参の部下の仇討ちとして、ザメルザーテ王国をまるごと滅亡させたのだ!!!」

 たった一人の部下のために、世界の七分の一を支配する王国を滅ぼす。
 そのなんと馬鹿馬鹿しい理不尽さ。
 あまりに理解の外にあることに呆けている兵たちに、渇を入れるように部隊長は声を張り上げる。

「ヤツは自分の配下に加わったものを“息子”、“娘”と呼んでいるらしい。つまりヤツにととって自分の配下は全て身内なのだ。だからこそ、ヤツは身内を害する者を決して許さない。……例え相手が何者であろうとだ!!」

 ドンッ!!
 部隊長の机を叩いての怒声に、兵たちの緊張感が一様に引き締まる。

「良いか!! ヤツは来る、必ずだ!!」






[20131] 五幕 ―『修羅姫』―
Name: キー子◆d13b36af ID:dcf8efe5
Date: 2010/07/10 01:38



 ―――死刑執行 4時間前



 カツーン、カツーン。
 石造の廊下に、足音が響く。
 厳重な警備な警備に固められた、とある堅牢な石牢の前で上条当麻は足を止めた。

「あ、貴方は……」
「なぁワリィんだけど、ちょっと話させてもらえねーか?」

 自分に気付いた警備の人間に、上条は話しかけた。

「で、ですが、刑の執行までもう時間がありませんが……」
「硬い事言うなって。なぁ、頼むよ」

 そう言って上条は、両手を合わせて拝むように頼み込む。

「ですが……」
「構わん。お通ししてやれ」

 躊躇う警備の後ろから現れた男が、警備に許可を出すように頷く。
 どうやらこの場の責任者らしい。
 警備はそれで納得したのか、一つ頷くと石牢の門に近付いていく。
 門は磨かれた黒曜石のような光沢のある黒い石で出来ており、その表面にはハッキリとした意図の感じられる模様が描かれていた。
 モノリスのような岩製の門が、ゆっくりと開いていった。

「どうぞ」
「ああ」

 警備に先導されて、門を潜る。
 その向こうは、暗闇に呑まれていくように奥へと続く一本道だった。
 足音の音が、さっきまで以上に廊下に響き渡る。
 やがて辿り着いたのは、やはり岩で出来た一つの牢屋。
 その表面には、神経質なまでにビッシリと模様が描かれている。
 捕まったものが、決して“力”を使えないように封じる模様が。

「―――こちらです。勇者カミジョウ。お気をつけて」
「ああ。サンキュウ」

 案内をしてくれた警備に礼を言って、上条は牢まで近付いていく。
 牢の中を覗き込むと、中には一人の少女が血塗れになって鎖に繋がれていた。
 美しい少女だった。
 黒曜のような黒髪と、暗闇の中で浮き上がるような白い肌をしていた。
 だがその姿も、今は血と汚れとでボロボロになっている。

「…………おーおー。せっかくの美人が台無しだな」

 その姿に上条は、ほんの一瞬だが眉根をしかめる。
 だがすぐに表情を消すと、どこか揶揄するように少女に話しかけた。

「意識はあるか、エルリア?」
「ハァ……ハァ……。貴方ですか、『幻想殺し』」

 と呼ばれた少女は、薄く呼吸を繰り返しながら顔を上げて上条を睨み付けた。

「アタシに、何の用です……」
「これといった用事はねーよ。……ただ、最後にもう一目会っときたかったんでな」

 どこか遠くを眺めるような視線で上条は言う。
 それをエルリアは、鼻で笑った。

「いい見せものですね……なら見物料代わりに、貴方に頼みがあるんですが……」
「あん?」
「アタシを、殺しなさい……っ」

 強い意志の宿った目でエルリアは言った。
 それは決して諦めではなく、強い決意の宿った懇願。
 しかし、

「殺せだぁ? バカ言ってんじゃねーよ! もう何をしたって無駄だ。いまさらお前が死んだって、“あいつ”は絶対にここに来る。もうどうやたって、“あいつ”は止まりゃしねーだろうよ」
「……っ」

 上条の諭すような声に、エルリアは唇を噛み締める。

「―――諦めろ。俺たちは『魔神』を……本気で怒らせた」
「―――っ!!」

 それがどういう意味を持つか。
 誰よりもそれを知る少女は、悔やむように顔を伏せた。

「勇者カミジョウ、時間です。罪人を処刑台へ送ります」
「ああ。……無理を言って悪かったな」
「いえ」

 上条の背後から、彼を案内してきた警備が呼びかける。
 上条は礼を言って立ち上がると、牢から連れ出されようとする をもう一度見る。

「おい、立て!」
「……グっ!」

 乱暴に引っ立てられて、エルリアが顔をしかめる。

「おいおい、乱暴にしてやるなよ」
「は? ですが……」
「いいから。……女なんだ。最後くらい丁寧に扱ってやれ」
「……は!」
「さぁ、歩け」

 係の男は困惑していたようだったが、敬礼を返すと今度は先程より若干優しくエルリアを連行していった。

「…………」
「―――迷ってるのかい?」

 後姿を黙って見送っていた上条の背後から、突然声が掛けられた。
 上条は特に驚くでもなく、その人間に視線を向ける。

「……菊之介。なんで、オメェがここに居る?」

 そこに立っていたのは、上条と同じ『六英雄』が一人、河川菊之介だった。
 上条と同じか少し年上くらいの少年で、背格好も同じくらい。
 ツンツンとしたウニのような髪型の上条と比して、少年は逆に丁寧に撫で付けられた髪形をしていた。
 細目の優しげな表情を浮かべたまま、菊之助は上条と同じく連行されていったエルリアの後姿を見送る。

「君と同じ理由だよ。僕も彼女と付き合いが無かったわけじゃないから、最後くらい顔を合わせておこうと思ったんだけどね」
「そうか。悪かったな」
「いいよ、別に」

 互いに、しばらく無言だった。
 声を出さないで居ると、ここは呆れるほどに静かな場所だった。

「……人が、死ぬぞ」

 上条が不意にポツリと呟く。
 何かを、ひどく迷っているような声音で。

「うん。……だろうね」
「だろうねって……っ! お前はそれで良いのかよ!?」

 穏やかな声音のまま頷く菊之助に、上条は勢い良く振り返る。

「僕らはあくまで、それぞれの王国に呼び出された人間だ。もと居た“世界”に帰りたいなら、逆らうわけには行かない」
「……“アイツ”は、逆らったぞ?」

 淡々と言葉を紡ぐ菊之助に、上条は必死に抵抗する獣のような声で呻く。
 それに菊之介は、視線を逸らすように顔を伏せた。

「僕は“彼”じゃない。……それに、それを言うなら君だってそうだろう?」
「……っ!」

 言われて上条は歯噛みする。
 同意してくれる人間を求めていた事を見透かされたような気がして。
 手の平から完全に血の気が失せるほどに、強く強く握り締めた。

「ゴメン。意地が悪かった……」
「いや。……俺も、悪かった」

 ポツリとした声で謝る菊之助に、上条も謝罪する。
 きっと、菊之助も上条と同じなのだ。
 この処刑に感情が納得していない。

「―――それに、俺も分からないではないんだよ。今回の戦争の理由」

 何より、二人とも“その程度の理由”なら、彼らを召喚した国を敵に回してでもこの処刑を邪魔しただろう。
 そのくらいの覚悟を決める意志ならあるのだ。
 それでもこの処刑を決行させなければならない理由があった。

「うん。もし“それ”を認めてしまえば、僕らのやってきた事は全部無駄になってしまうからね……」

 そう言って菊之助は、どこか遠い昔を思い出すように暗闇に消えた少女の背を見やる。

 そうやって二人は、暗闇に続く廊下の向こうを眺めていた。
 呼び出されるまでの間、ずっと。







[20131] 幕間 ―世界情勢―
Name: キー子◆d13b36af ID:dcf8efe5
Date: 2010/07/10 23:29


 ―――処刑開始 三時間前

 世界はどこもが、騒然と不安とに揺れ動いていた。


 ―――東の列島国『暁』

 市に集う人々が噂しあう。

「もうすぐ処刑が始まるぞ……もう『魔神』は来たのかな」
「さぁな」
「現れると思うか!? いくらあの『魔神』っても、文字通り世界中が相手だぜ」
「確かになぁ……。ヤローがウィスパニア王国を略奪してから、大きなニュースになったことなかったし」


 ―――西の王国『ウィルタニア』

 畜産を行う農民達が、家畜に草を食べさせながら世界の中心の方角へ眼を向ける

「流石に……現れやしねーだろう。なんせ『世界連合軍』だぜ? 負けるハズがねーよ」
「だが、それで出てきたときにゃ、それこそどんだけ墓が建つか分かったもんじゃあない」
「現れねぇのが一番良いのさ。女一人の処刑で済めば……御の字だよ」


 ―――北西の軍事国家『ゲドルト』

 男女入り混じった何人もの人間が、酒屋のドアを叩いている。

「おい、酒だ! 酒を飲ませろ!!」
「こんな日に店開けるわきゃねぇだろうが!? 帰れ帰れ!! 明日が無事に来りゃ、また店を開けるよ!」
「じゃあ酒だけでも寄こせよ! 飲まなきゃやってられるかよ!!」


 ―――北東の皇国『ユヤ』

 朱色と金の装飾が施された飲食店の中で、4人の男女を中心に腕を失くした男が叫んでいる。

「ハッ! 人間だぁ。アイツがか!? ふざけんじゃねーよ!」
「……ほんの一年前さ。俺たちのチームはS級の認定持ってたんだ。その俺たちがただ座ってただけの野郎を目にした瞬間、命を諦めた。本物のバケモノってのは、ああいうやつを言うのさ」


 ―――南東の連邦国家『アムール』

 大人たちが、子供の鞠付きを眺めながら、噂しあっている。

「子供だって知ってる事さ。鞠付きしながら歌ってやがる」
「いかいのまじん♪ りゅうよりつよい♪ うでひとふりでたにできる♪」


 ―――北西の宗教国家『アレーグロ』

 国教の大教会の中、何人もの司教や修道士達が神殿に祈りを捧げている。

「あぁ……っ。神よ、我らを救いたまえ!」






[20131] 六幕 ―秘密暴露―
Name: キー子◆d13b36af ID:dcf8efe5
Date: 2010/07/10 23:31


 ―――聖地『コルダータ』。
 普段はその出入りを厳しく監視し、人の気配など殆ど在り得ない世界の中心。
 そこはいま、地を埋め尽くすほどの人の群で溢れていた。
 そのどれもが自国の鎧に身を包み、完全な臨戦態勢にてこの場に望んでいる。
 処刑の時刻まで、残り一時間を切っていた。

「緊張を解くな! 何が起ころうと敏捷に動けるようにしておけ!!」

 それぞれの部隊長が激励の声を上げる。
 世界を支配する六つの王国から招聘された、全ての兵士達。
 その総数にして数千万を超える精鋭達が、じりじりとにじり寄る決戦の刻を待ち構えている。

 地平まで平原の続くこの地にて、処刑台を中心として放射状に兵は配置されている。
 視界の聞く限り、その全てに迅速に対応できるように。
 陣の外周には幾つもの大砲や攻撃用方陣が組まれており、魔法使いや魔術騎士たちがその引き金を握る。

 ―――まず処刑台の足元。
 一段高くなった場所では、異世界より召喚された六人の英雄達。
 『六英雄』の姿が。

 ―――そしてその高く聳え立つ処刑台の上。
 その処刑台を守るため、そして軍事の指揮をとるために佇む三つの影。
 すなわち『世界連合軍』“武”“術”“智”のそれぞれ最高峰。
 『三将姫』が静かにそれを見下ろしていた。



 ―――処刑開始一時間前

 事態を見守る者の一人が、それに気付いて高台に作られた処刑台を指さす。

「見ろ! 『修羅姫』が出てきた……!」

 後ろ手に枷を嵌められ数人の兵士に鎖を引かれながら連行される少女の姿を見て、処刑台を見上げていたものたちからどよめきが上がる。
『修羅姫』エルリア・トゥティオス。
 鎖に繋がれた処刑囚だというのに、金糸の髪を風になびかせるその姿は二つの名の通り姫君の如き美しさを醸していた。
 この星に住まう全ての人類が見守る中で、その少女は一歩一歩処刑台への階段を登って行く。

「……お前たち。少し下がっていろ」
「は!」
「総司令官殿!!」

 突然彼女の横に姿を現した総司令、フレン=デリッヒートの姿に、見守っていた兵達がざわつく。

「拡声器を……」

 はるかに広がる人の群を見下ろして、フレンは部下から拡声器を受け取った。

『この放送を聴く全ての人民に話しておくことがある。『修羅姫』と呼ばれるこの女が、今日この場所で死ぬ事の大きな意味についてだ……!!』

 拡声器で増幅された彼女の声が、平原中に響き渡る。

『『修羅姫』。お前の父親の名前を言ってみろ』
「…………っ!!」

 その問いかけに、が息を呑む。

「「「「「「………………」」」」」」

 その下で『六英雄』と呼ばれる六人も、無言で佇んだまま身体を強張らせた。

「父親?」
「それに何の意味が……?」

 さらにその眼下に広がる兵の群は、問いかけの意味が分からず困惑の声が上がる。

「アタシの父上は、『親方』さまだ!」
『違う!』
「違わない!! 『親方』さまだけだ!! 他に居ない!!!」

 少女の叫ぶような声を無視して、フレンは言葉を紡ぐ。

『当時、我々は眼を皿にしてまで必死に探した。今から三十年前『六英雄』によって討たれたはずの、とある男にその血を分けた子供が居るかもしれない。そんな曖昧な、情報ともいえない噂のようなものがあったからだ』

 全員に困惑が広がる。
 三十年前に『六英雄』と呼ばれる彼の勇者達が討ち取った男。
 それを知らない人間なんて、この世界には居ない。

『その情報を得た国々は、秘密裏にではあったがそれぞれが独自に自国を捜査しつくした。だが、結局は見つかる事は無く、我々は一度はそれを誤情報と忘れたはずだった』

 この場に集まった数百万の人間が。
 この場を見ている数億の人間が。
 まさかという予感を抱いて、頭上で処刑されようとする少女を見つめる。

『―――だが、それもそのハズだ。お前の出生には、我々常人には決して理解できないようなトリックが存在していた……っ!!』

 忌々しげに、の口調が歪む。

『それこそが我々の眼を……いや、世界の眼を欺いた!!!』

 ざわつく。
 ざわつく。
 困惑と疑惑と不安。
 全ての人類が、その意味を予感して揺れ動く。

『かつて我々を恐怖の底に陥れた、悪名高き『魔宴12死徒』。そのことごとくは、我々六王国の喚びだした勇者達によって滅ぼされた! そしてそれぞれの死は、間違いなく我々が確認していた!!』

『魔宴12死徒』。
 かつてこの世を暴力と恐怖で震撼させた、一人の魔王に付き従った12人の魔人たち。

『だが貴様は、その死んだ母親の腹を食い破りこの世に這い出てきた!!!』

 驚きに眼をみはる。
 そんな事が可能なのかと、互いに言葉を交し合う。
 中にはそれを想像したのか、吐き気を催した者が居た。

『母体の死から一年近くを経て、貴様と言う魔性がこの世に生まれ出てきた! 決して存在してはならない、諸悪の罪の子供……それが貴様だ』

 空想が確信に変わる。
 告げられる、少女の持つ二つ名の由来となった魔人の名。

『この世に生きる者なら、誰一人として知らんわけではないだろう……! 貴様の母親は『魔宴12死徒』が一騎、『羅刹皇后』アーミリア・トゥティオス!! そして父親は……!!』

 そして『魔宴12死徒』を束ね、従えた最悪の『魔王』の名を、

『貴様の父親は!! 『滅びの魔王』ボルスタッグ・オルシャードだ!!!!』

 その瞬間。
 間違いなく、世界は揺れた




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