―――かつてこの世界には、『滅びの魔王』と呼ばれた闇の異邦神が存在していた。
『魔王』と『魔王』が束ねた闇の軍勢を前に、人々はただ怯え絶望するしかなかった。
しかしその暗黒の時代も終わりの時を迎える。
闇の軍勢に対抗し続けていた七つの王国が、それぞれ異界から『七人の勇者』を召喚したのだ。
王国はそれぞれ国の総力を挙げて、この勇者達にそれぞれの“力”を与えて魔王の討伐に送り出した。
―――かくして永い永い旅の果て、七人の勇者はついに『魔王』を討ち果たした。
後にこの七人の勇者は一人が抜け六人となり、その偉大なる功績から『六英雄』と呼ばれる。
そしてこの七人の勇者を召喚した七つの王国は、その後平和となった国々を協力してまとめあげ『七大王国』と呼ばれるようになった。
―――今から三十年ほど前に起こった出来事だった。
―――神暦1873年 聖地『コルダータ』
千数百年前に神々がこの大地に降り立ったという神話を持つ、世界の中心にある大平原。
神域として人の出入りを硬く禁じているその地は、いま見渡す限りの人の群で溢れている。
人の群はどれも鎧で身を固めた兵士ばかり。
その兵士達は誰もが皆、一様に同じ場所を見ている。
平原に小高く設置された、舞台のような建造物。
そこでいま、国家間規模―――否、世界観規模での一大事が行われていた。
舞台の上に置かれた円卓に、六人の男女が座っている。
この世界を七分割し、それぞれの地を支配している王達だ。
彼らは机の上の一枚の紙に、それぞれのサインを書き込んでいた。
それは同意書。
世界を支配する六王国が互いに手を取り合って、一つの大事を為すという同意書だった。
「…………」
コトリ、と。
西の地を支配する『ウィルタニア王国』の国王が最後にペンを置いた。
「失礼します」
係りの者が同意書を受け取り、今回の議長に選ばれた南を支配する『アレーグロ聖国』法王に同意書を渡す。
法王は同意書のサインを確認すると椅子から立ち上がり、それぞれの王達と眼下に広がる兵たちの群へと宣言した。
「……それではここに、我ら六王国が共に手を取り合う『世界連合軍』のーを宣言する!!!」
≪おおおおぉおぉおおーーーーーっ!!!!≫
兵たちの雄叫びのような鬨の声が、大平原に響き渡る。
そしてそれは、魔法による放送からこの光景を見ている世界中の人間の声でもあった。
―――そして今また、その六つの王国がその力を合わせようとしていた。
理由は、たった一人の少女を処刑するため。
正しくは、その少女を助けるために現れるであろう、一りの男に率いられた軍勢を相手にするため。
男の二つ名は『魔神』、あるいは『大逆七業』。
かつて勇者として魔王を討ち果たしながら、世界を裏切った最悪の男。