2010年7月7日 10時25分 更新:7月7日 10時25分
専業主婦になりたい若い女性が増えているという。「男は仕事、女は家庭」という価値観はとっくに過去のものになったと思っていたが、なぜだろう。背景を探った。【山寺香】
「いい会社に入って、いいだんなさんを見つけたい。働く自信はあるが、特にやりたいことは無い。それよりも、専業主婦になって気楽に伸び伸びと過ごしたい」
こう話すのは、お茶の水女子大2年生(20)。大学の友人は「夫に『養ってやっている』と思われたくない」「夫と対等でいたい」などと、結婚後も働き続けることを希望するが、その発想が理解できない。「いいだんなさん」とは、一流企業に勤め、自分が働かなくても家族が余裕ある生活をできる経済力のある男性だという。
結婚するまで裁縫の先生をしていた専業主婦の母親(54)は「女性も働く時代よ」と、娘に公務員を勧めるが、工業大生の姉(22)も専業主婦志望。「育て方を間違えたかしら」と母親は首をひねる。
国立社会保障・人口問題研究所が既婚女性を対象にした「第4回全国家庭動向調査」(08年7月実施)では、「夫は外で働き、妻は主婦業に専念すべきだ」と考える既婚女性の割合が、前回(03年)よりも3・9ポイント高い45%となった。93年の調査開始以来、初めて増加に転じた。
特に顕著なのは29歳以下の増加で、前回よりも12・2ポイントも高い47・9%に達した。30、40代も増加しているが、50代、60代は変わらず低下した(グラフ参照)。
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不況や「格差」の広がりが要因との指摘もある。08年秋のリーマン・ショックによる世界同時不況を機に、就職市場は売り手市場から“氷河期”に一転した。
上智大4年の石居里実さん(21)は小学生の時海外で暮らした。大学2年まではツアーコンダクターや同時通訳を志したが、その後専業主婦志望に転向。きっかけは、専業主婦である友人の母親が趣味のアートを優雅に楽しむ姿にあこがれたことだが、それだけではない。昨年10月以降、旅行、ホテル、航空など二十数社を受験したが、内定はまだ。友人の8割は就職先が決まり、「主婦になってこの状況から逃げたい」との思いもある。
マーケティングアナリストで「下流社会」(光文社)などの著書がある三浦展さんは、専業主婦志向の強まりを「ないものねだり」と言う。働く女性が珍しかった時代は働きたい女性が増え、不景気で共働きが増える今は、逆に専業主婦にあこがれる女性が増えているというのだ。
「不景気で女性の仕事が減る中、たとえ正社員になれても入社2、3年目で居酒屋などの“名ばかり店長”となり、残業代も無く深夜まで働かざるを得ないような状況が増えている。年収200万~240万円で、収入が増える見込みも無い。そういう状況で専業主婦を望むのは、当然の感情です」と三浦さんは話す。
一方で自分の収入だけで家族を養える男性は減少している。大手結婚相談所「オーネット」が20、30代の未婚男性1135人を対象にした09年の調査では、結婚相手に「フルタイムで働いてほしい」が40・4%を占め、99年調査よりも13ポイントも増えた。「派遣などで働いてほしい」を合わせると8割近くに達する。
このギャップを女性たちはどうとらえているのか。日本女子大2年生(20)は「高校時代から目的は明確でした。一流大学、一流企業に入り、いい夫と出会うこと。だから、受験勉強で努力したし、これから就職に向け、資格を取るつもり。不況だからこそ、早い時期から頑張っているんです」。明確な目的意識と目標達成への周到な準備。まさに「婚活」だ。
そこで、足を運んだのは東京都港区南青山の料理婚活教室「アールズキッチン」。20~30代の男女4人が、森由美子先生の指導を受けていた。フランス料理教室「パリ15区」を主宰する森さんのこの日のメニューは「スパイシーサマードリア」など3品。男性が混ぜたクリームソースに女性が牛乳を注ぐ。
女性2人は専業主婦志望。ウェブ関連企業の営業職、江副友美さん(26)は「数字に追われるストレスを抱え続けるのはきつい。子どもが生まれたら、仕事は辞めたい」と言う。一方、不動産会社勤務の森勉さん(35)は、「結婚したら専業主婦になってほしいが、経済的に厳しい。二人が料理を作れたら共働きでも便利」。男女の思いは微妙にすれ違う。
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「男は仕事、女は家庭」という保守的な価値観への回帰を示しているのだろうか。
女性の働き方の問題に詳しい実践女子大学の鹿嶋敬教授は、この見方を否定する。今回の調査だけで保守化傾向を肯定することはできないという。「女性が高学歴化し、夫をサポートする人生だけでは満足できなくなっている」
話を聞いた女性のほとんどは「自宅で趣味の教室を開きたい」(20歳、学生)、「友人との交流やスポーツを楽しみたい」(22歳、総合商社勤務)という。趣味を通して社会とつながり、妻や母というより、一人の女性として輝きたいという思いが強い。
この特徴は98年の厚生白書で「新・専業主婦志向」と紹介されている。だが、安定した生活基盤が崩れつつある今、専業主婦は当時より「狭き門」。鹿嶋教授は、専業主婦へのあこがれは「砂上の楼閣である」と指摘する。
「この世は二人組ではできあがらない」(新潮社)などの著書がある作家の山崎ナオコーラさん(31)は、20代女性の意識について「人生が生き残り合戦のように見えているのではないか。『専業主婦になりたい』は、『安定した公務員になりたい』と同じ発想のように思える」と言う。
「私が学生のころに専業主婦になりたい友人がいなかったのは、上の世代の女性が社会とつながる夢を見せてくれたから。それに比べ、暗い話を聞かされ続けている若い世代は、高校生のうちから年金や老後の不安を感じ、自分や家族の狭い世界に踏みとどまってしまっている」
山崎さんはこうも言う。「質素でも、家族仲良くやりくり上手に暮らす女性の好感度は上がっている」
道無き道を切り開きながら外で働いてきた“先輩女性”から見れば、20代女性の専業主婦志向はどこか物足りず、「甘えている」とさえ見えるかもしれない。しかし、経済低成長時代に生きる若い世代にとっては、精いっぱいの願望とも言えるのではないだろうか。
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