投開票日をあすに控えた参院選で、米軍普天間飛行場の返還問題をめぐる論争が低調だ。前首相を退陣に追い込んだこの問題を、政権党である民主党が語ろうとしないのは異様な選挙風景でもある。
民主党代表である菅直人首相は六月二十四日の参院選公示後、沖縄県を訪れていない。県出身の比例代表候補はいるが、選挙区での候補者擁立を見送ったからだ。
党県連が国外・県外移設を訴える候補者を立て、名護市辺野古に県内移設する日米共同声明の継承を表明した菅内閣との亀裂が決定的になる事態を避けたのだろう。
首相は全国遊説で、普天間問題への前政権の対応を謝罪しても、共同声明を継承した理由はもちろん、自ら約束した沖縄の負担軽減策についてさえ語ろうとしない。
共産、社民両党は選挙戦で県内移設反対を訴えるが、消費税問題の陰に隠れて争点化していない。政権党が自ら意図的に争点外しをした結果なら、言語道断だ。
そもそも首相は、在日米軍基地の約75%が集中し、過重な負担に苦しむ沖縄県民の苦悩をどこまで理解しているのだろうか。
首相は公示日前日、沖縄全戦没者追悼式で、沖縄の基地負担に対して「全国民を代表しておわび」し、この負担がアジア・太平洋地域の平和と安定につながったとして「お礼の気持ち」を表した。
しかし、沖縄にとって基地負担への感謝は、アジア・太平洋地域の安定を大義名分にして基地固定化を正当化しているにすぎない。
二〇〇〇年沖縄サミットの際、稲嶺恵一知事はクリントン米大統領(いずれも当時)側に「私どもは沖縄への感謝を望んでいない」と伝え、大統領も県民への感謝を口にしなかったという。
首相はこうした経緯や県民の心情を知らなかったのか。就任間もないとはいえ、無自覚にすぎる。
沖縄県議会はきのう、日米両政府に共同声明の見直しを求める意見書と決議を可決した。首相は、こうした沖縄県民の声と真摯(しんし)に向き合う必要がある。
五月二十八日の日米共同声明には「沖縄に残留する第三海兵遠征軍の要員の部隊構成を検討する」ことが新たに盛り込まれた。
米側が、グアムに移転する戦闘部隊を増やすとの報道もある。これが事実なら、沖縄での部隊駐留こそが抑止力としてきた論拠が崩れ、県内移設の必然性は薄れる。
国外・県外移設を提起する好機になり得る。逃すべきではない。
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