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2010年7月10日(土)付

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あす投票―大人はわかってるかなあ

わあ、どうしよう!目覚めたら、子どもになっていた。あすは選挙だというのに。でもせっかくだから、子どもの立場になって考えてみた――。演説では「子育て」っていう言葉がよく[記事全文]

軍用品民間転用―平和外交を損なわないか

民主、自民両党がそろって参院選の公約に掲げているのは、消費税増税だけではない。「防衛装備品の民間転用」の推進もその一つだ。これは転用した装備品を他国に売ることと直結する[記事全文]

あす投票―大人はわかってるかなあ

 わあ、どうしよう! 目覚めたら、子どもになっていた。あすは選挙だというのに。でもせっかくだから、子どもの立場になって考えてみた――。

 演説では「子育て」っていう言葉がよく聞こえてくる。政治家がこんなに僕らのことを気にしてくれるなんて。一応、ありがとうって言っておく。

 日本の政府は子どものために出すお金が先進国の中でも少ないんだとか。うちも学費や塾代でけっこう大変。だからこれからは政府がもっと面倒を見るんだって。大人がみんなで僕らの成長や勉強を支える、ってことだね。

 春からは月1万3千円、子ども手当が出るようになった。手当は中学生までだけど、高校の授業料もタダになる。なんだか大盤振る舞いだ。

 別に僕の小遣いが増えたわけじゃない。じゃあ母さんたちは喜んだかといえば、そうでもない。共働きしたいのに、都会では小さな弟や妹たちを預ける所が見つからないからなんだ。

 だからかな、どの党も「保育所に入れない児童なくします」の合唱。民主党も子ども手当を倍にするのはあきらめて、保育所を増やすんだって。幼稚園といっしょにしちゃうとも言ってるけど、タテワリとかいう変なものが邪魔してやっかいらしい。

 うちの子ども手当は結局、貯金に回ってしまった。「大学でお金がたくさんかかるからよ」って。卒業したって働く所があるかも心配だ。社会に出るのがこうも大変だと、子どものうちからため息が出る。ふうっ。

 背伸びして政党のチラシを読んでみた。「幼児教育や給食を無料に」「奨学金を充実」。あれもこれもと僕たちを応援するメニューが並んでる。

 ほしいものを言い出せば、小遣いがいくらあっても足りないのは、子どもの僕にもわかります。そこんとこ、ちゃんと考えているのかな。将来、国の借金を返す羽目になるのは、僕たちなんだから。

 最近急に、大人たちはショーヒゼーとかいうのを上げる上げないって言い出した。ゲームも高くなるの、マジで? それで僕らの未来がどれだけよくなるのかな。父さんにきかなきゃ。

 もうひとつ言わせて。

 政治家が子育て、子育てって言うのは「少子化対策」のためだって。弟や妹はたくさんいたら楽しいけど、父さん母さんには、そんな余裕もトキメキもなさそうだからね。

 でも、ただ子どもが増えればいいのかな。政府が調べたら、子どもの7人に1人は貧しい家庭なんだって。ショックだった。不幸せな子を減らすことにも、力を入れてほしいんだけど。

 えっ? 選挙権がないくせに、ナマイキな口をきくなって……。

 ――あなた、変な夢でも見てたの。さあ、大事な選挙。投票に行くわよ!

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軍用品民間転用―平和外交を損なわないか

 民主、自民両党がそろって参院選の公約に掲げているのは、消費税増税だけではない。「防衛装備品の民間転用」の推進もその一つだ。

 これは転用した装備品を他国に売ることと直結する政策である。武器輸出3原則の緩和につながっていく可能性があり、日本の平和外交の根幹にかかわる。選挙戦では注目されていないが、等閑に付すわけにはいかない。

 「民間転用」とは何か。防衛省が開発した輸送機などを対象に、民間機への改造を認める。その代わりに、メーカーに開発経費の一部を負担させる。そんな仕組みである。

 2大政党がともに力を入れる背景には、国内の防衛産業の窮状がある。

 この20年で戦闘機は3倍、戦車は2倍といわれるほど価格が高騰する一方、防衛予算は財政難の折から8年連続で削られてきた。調達数量が減り、50社以上の中小零細業者が防衛部門から手を引いた。生産・技術基盤の維持が不安視されている。

 納入先を自衛隊に限らず海外にも求めれば、量産が可能になる。コストダウンにつながり、技術がさび付くことも防げるというわけである。

 安全保障の基本方針「防衛計画の大綱」の6年ぶりの改定が年内に予定されているが、そこでも防衛産業の立て直しや民間転用は焦点になりそうだ。

 北沢俊美防衛相は4月に民間転用の検討会をスタートさせた。かねて武器輸出3原則見直しにも言及しており、両者は表裏一体とも映る。

 しかし、3原則は40年以上も日本の平和外交を支える後ろ盾となり、国際社会から信頼を得てきた基盤である。安易な見直しにより、平和国家としての貴重なソフトパワーを損なうようなことがあってはならない。

 取り組むべき課題はほかにある。

 たとえば装備品のコスト高の主因ともいえる不透明な今の調達制度の見直しに、なぜ本腰で臨まないのか。

 装備品の大半は、いつまでにどれだけの数量を買うのか具体的な全体計画を欠いたまま、年度ごとの予算事情にあわせ、だらだらと購入を続けているのが実情だ。

 国家予算が単年度主義だからという理由だが、その計画性の低さが高価格の原因になっている。期間や数量をあらかじめ決める計画調達を早く実現しなければならない。

 防衛産業の再編成を促すことも検討してはどうか。世界の軍需産業は冷戦後、厳しい予算削減で劇的な統廃合の淘汰(とうた)を重ねた。

 ところが日本国内の大手業者を見ると、多くが今も政府の手厚い保護下で国内市場を分け合っている。

 議論の山場は参院選後にくる。政権交代後初の「大綱」策定でもある。ことの軽重を間違ってはならない。

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