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選手の個性をチームに。前橋育英の春

群馬の前橋育英高は、「選手の個性がはっきりと分かるチーム」という印象がある。中心選手のイメージが記憶されるのは、どんなチームでも同じだが、前橋育英の場合は「主軸以外でもプレーの印象を覚えている選手」が多い。しかも、春に比べて秋や冬に、その人数が増えている。

春は新チームを作り始める時期である。山田耕介監督はこの季節に選手の個性をチームへ還元させることに注力しているという。

「この時期は、個人のストロングポイントを分かりやすくすることを大切にしています。自分の良さは何なのか、それをどうすればチームとして生きるのか。そうしたことを分からなければいけません」

今年の中心選手は、昨年のU-17W杯にも出場したMF小島秀仁(写真)である。視野の広さと的確なボールコントロールに特徴があり、ボランチとしてゲームメークを司っている。プリンスリーグ関東2部第5節・浦和東高との試合では、最終ラインからボールを集め、相手守備の薄いサイドへと巧みにボールを散らしていた。ただ、直接得点に絡むような活躍はなかった。山田監督は彼の持ち味を評価した上で、この試合については辛口の評価を下している。

「今日は引いていましたけど、『もう少し前の危険地帯で前を向け』と言っているんです。40過ぎのおっさんみたいに後ろでさばくんじゃなくて、(相手の守備が)厳しいところで前を向けないといけない。その資質は持っているんですけどね」

単なる選手強化としての指摘ではない。彼の冷静な判断と高精度の配球は、パスワークの組み立てにも使えるが、ラストパスとして機能することが最もチームのストロングポイントとして機能するという意味合いを含んでいる。今年は主将にも指名し、「『ウチではもっとリーダーシップを発揮しなさい』と言っています」と話すなど、単なる「優秀なボランチ」に留まらないよう促している。

さらに、ほかの気になった選手についても聞いてみた。FWに入った2年生の白石智之はボールタッチが柔らかく正確で、左MFの3年生・柏俣翔也はスピード感あるドリブルで際立っていた。

「白石はボールを持てるんだけど、もっとやれますね。チーム全体もそうだったけど、まだまだ判断が悪い。柏俣はスピードがあるし、ドリブルもできるんだけど、それをどこで出すのか。(前線ではなく、パスで進むことのできる)中盤でやっちゃう。そこでやるなよ、と。みんな、いいものは持っているんだけど、まだまだです。でも、これから徐々に良くなっていくと思いますよ」

長所を伸ばすか、欠点を補うか。育成方針を大きく二つに分けるなら、前橋育英の春は間違いなく前者である。「上州の虎」と恐れられる黄色と黒の縦縞軍団は、今年も全国タイトルを奪うため牙を研ぎ続けている。

お前の目玉はどこにある。角出せ、槍出せ、頭出せ――まるで童謡「かたつむり」の一節のように、今年も選手の個性が引き出されていく。

(BG編集部 平野貴也)

2010年5月3日 22:07

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