【経済情報 特スキミング】口蹄疫問題が銀行の新たな不良債権に発展

2010.07.08

 宮崎県で発生した家畜伝染病「口蹄疫」問題が、地域金融機関に飛び火している。

 米や野菜、牛豚、魚介類など、収穫した農蓄水産物やその在庫といった、不動産以外の財産を担保に資金を貸し出すことを、動産担保融資制度(Asset Based Lending)、略してABLと呼ばれている。

 金融庁が地域金融機関に推進するよう求めた、「リレーションシップバンキングの機能強化計画」の一環。2005年ごろから不動産に頼る従来型の担保金融からの脱皮を促し、地域金融機関も積極的に対応するようになっていた。

 長引く景気低迷で運転資金の確保に頭を痛める中小企業は、すでに土地や工場などを担保として差し出している。そこで銀行が目をつけた物件が商品そのものというわけだ。

 銀行も貸し渋り・貸し剥がし批判を受けたくないので、地元の農家や水産業者を回り、在庫状況などを調べて融資するようになった。こうした銀行の姿勢は、貸出先の経営状況をより細かく把握することにつながり、金融機関と顧客の親密で継続的な取引関係を維持する上で有効だと、金融庁は期待していた。

 しかし、食品は外国産が国内で幅を利かせているため、流通価格は不安定。定期的に公示される不動産価格と違って、担保価値を見極めるのは難しい。

 「当局は価値を判断する『目利き』能力を磨けと言うが、野菜は天候に左右されるし、家畜は伝染病に感染すれば担保価値はなくなる。融資が拡大するのは銀行も歓迎だが、リスクは小さくない」(地銀関係者)というのが共通した見方だった。

 その不安が的中したのが今回の口蹄疫。家畜業者は地元銀行などから飼育牛を担保に融資を受けていたが、全頭殺処分になり、肝心の担保価値がゼロになった。感染した家畜はすべて殺処分になるため、牛を担保にABLを実行していた宮崎県を中心とした九州南部の地銀・信金は、貸付金が焦げ付いた。

 動産担保融資は、多くの場合、都道府県の保証協会という公的団体が融資の80%を保証しているため、金融機関の損害は最小限にとどまるが、新たな不良債権が発生することは避けられない。

 口蹄疫で経済的損失を受けた畜産農家に対し、国は全額補償する方針を決めている。しかし、それは感染防止のための処分に費やした費用を補填する範囲であり、もとどおりに畜産業を営めるわけではない。

 金融の円滑化に一役買い、新風を吹き込んだ動産担保融資。口蹄疫問題で、金融機関の腰が引けるようなことにならなければいいのだが…。(直江英知)

 

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