種牛6頭を所有する畜産農家男性が、口蹄疫(こうていえき)対策特別措置法に基づく宮崎県の殺処分勧告を拒んでいる問題で、東国原英夫知事は8日、種牛を保護するため男性から譲り受け、県有化する方針を示した。特例で殺処分を回避した県の種牛と同様に、国に特例の適用を求めていく。一方、山田正彦農相は、種牛が飼育されている県東部の被害集中地域の「終息確認」には、殺処分が必要との姿勢を崩しておらず、今後の行方はなお不透明だ。
■農相「当然、殺処分」
男性は、高鍋町の薦田長久さん(72)。東国原知事によると、この日、薦田さん側から「会いたい」との連絡を受け、自宅を訪問した際、県有化の提案があったという。県有化は、種牛の保護を模索していた県がアイデアの一つとして薦田さんに示していた。
記者会見で東国原知事は「県の財産として提供してもらえるなら、大変ありがたい」と提案受け入れを表明。薦田さんが種牛の殺処分回避を最優先にしていることを挙げ、「県への無償譲渡になると思う」と述べた。
さらに、同じ被害集中地域で家畜をワクチン接種後に殺処分した農家と比べ「平等性が保たれない」との指摘には、「殺処分すれば補償がでるが、無償譲渡なら(薦田さんへの)一つのペナルティーになるのではないか」と説明。その上で、「ワクチン接種農家にも話を聞きたい。賛否両論あると思うが、最後は政治判断だ」と強調した。
また、被害集中地域の移動・搬出制限区域の解除(16日予定)には、県による種牛の目視検査でも可能との認識を示した。ただ、食肉輸出が国際的に認められるようにするには、国による抗体検査を受け、陰性確認が必要として、県有化方針を含めて山田農相の理解を得るため、直接協議を重ねて求めた。
西日本新聞の取材に対し薦田さんは「県畜産の振興のため人生を懸けてつくった牛。精液も無償で配布するつもりだった。6頭の命が残れば種牛も私も浮かばれ、農家のためにもなる」と話した。また薦田さんの弁護士は、種牛を県に譲渡した場合は訴えの利益がなくなるので、勧告の取り消しを求める訴訟などの法的措置は取らないとしている。
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山田正彦農相は8日夜、熊本県玉名市で取材に応じ、東国原知事が種牛の県有化方針を示したことについて、「県が殺処分勧告を出しているのだから、当然殺処分すべきだ」と述べた。農林水産省の担当者は「種牛を県有化しても、殺処分してもらうことに変わりはない。特例は認められない」としている。
同省によると、移動制限などの解除は、ワクチン接種区域内の家畜の全頭処分が条件。家畜伝染病予防法では、県知事が解除の権限を持つが、事前に国との協議が必要で、同省は種牛が生きている限り、制限解除を認めない方針という。
また、国際獣疫事務局(OIE)に清浄国と認められ、輸出を再開するには、国による申請が必要。農水省消費・安全局は「ワクチン接種区域内に家畜が存在する限り、清浄国と認められるのは難しい」としている。
=2010/07/09付 西日本新聞朝刊=