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参院選後に始まる菅と小沢の最終決戦(2/2)

2010年7月9日 文藝春秋
「鉄の団結」を誇った一新会は分裂状態となり、小沢支配に綻びが生じた。その後、小沢系議員は樋高、松木、衆院議員・岡島一正ら「茶坊主系」と、こうした側近の振る舞いを冷ややかに見つめる議員との二極分化が進みつつある。
 
「九月の代表選に小沢先生が出るなら当然支援する。そうでないなら菅首相を支えよう」
 
 八日夜、都内で集まった衆院議員・中塚一宏ら一新会の若手は、「親父(小沢)の世話に専念したい」と公言する樋高らに距離を置く姿勢を確認した。
 
 一方、勝利を確実にしていた菅は、代表選前日の三日夜から仙谷、枝野とともに閣僚、党役員人事に着手した。だが、菅側近も黙ってはいなかった。二日夕、菅から出馬の意思を聞いた鳩山政権の首相補佐官・荒井聡は、独自に人事構想を練り始めた。しかし、菅は自身のグループではなく、官房長官に仙谷、党幹事長に枝野を充てるなど、前原が率いる「凌雲会」メンバーを要職に起用した。側近よりも、能力的に使える人物を優先するドライな発想は、市民運動から議員に転じ、派閥政治の自民党に所属した経験がない菅の真骨頂と言える。菅の名代を気取った荒井は四日朝、海江田に幹事長を打診するなど独自に動いたが、その後、党本部で行われた菅、仙谷、枝野の「首脳会議」には加われなかった。
 
 九日、枝野は小沢支配の象徴だった国会内の幹事長室で、小沢から形ばかりの引き継ぎを受けた。落ち着かない様子で入り口近くの椅子に座っていた枝野は、小沢が姿を見せると弾かれたように立ち上がり、「こちらにどうぞ」と席に案内し、ギクシャクした雰囲気の会談はわずか二分で終わった。論戦で言い負けしない弁舌は魅力だが、枝野にとって交渉ごとは鬼門だ。同日開かれた与野党幹事長会談では「古い政治なら幹事長が登場したら結論が出るものだが、私は議論をするために出席する」と、各党との「調整放棄」を宣言し、出席者を呆れさせた。
 
「参院選が終わったら内閣改造をしてもらって外相になりたい」
 
 枝野は周囲にこう言ってはばからず、参院選向けの「テレビ用」幹事長であることを否定しない。
 
 菅内閣は報道各社の世論調査で支持率が軒並み六割を超え、まずは順調に滑り出した。しかし、内閣発足直後に、国家戦略担当相に就いた荒井の事務所費問題が露見した。政治資金で女性下着や漫画を購入していた事実も判明。国会審議で荒井が火だるまとなり、参院選に波及する事態を恐れた民主党は、国対委員長に就いた樽床が野党に提案していた予算委開催を慌てて引っ込めた。みんなの党代表・渡辺喜美は十四日の衆院代表質問で、幕末の尊王攘夷派狩りからたびたび逃れた長州の桂小五郎(木戸孝允)を引き合いに「菅首相は奇兵隊の高杉晋作ではない。逃げの小五郎だ」と皮肉った。

菅は小泉長期政権の分析を命じた

 今年初めには「逆立ちしても鼻血も出ないほど完全に無駄をなくす」と唱えていた菅が消費増税を掲げたことに対し「財務相就任後、すっかり役所の論理にからめ捕られた」との批判は絶えない。菅は十七日の記者会見前、「税率は十%で行く」と周囲に宣言し、側近の口出しを許さない高揚した面持ちだった。
 
 枝野は選挙戦への影響を懸念、改選を迎える輿石の了解だけは取り付けるよう注文した。党内論議を省略するトップダウンは、菅が毛嫌いした小沢と同じ「強権手法」にほかならない。打診された輿石は「いいじゃねえか」としぶしぶ容認したものの、党内の反発は収まらない。二十一日の常任幹事会では政調会長・玄葉光一郎が集中砲火を浴び、「すぐに増税するわけじゃない。最短で二年から四年かかる」と釈明に追われた。
 
 通常国会での郵政改革法案成立がかなわず、金融・郵政改革担当相を辞任した国民新党代表・亀井静香は「内閣支持率が高いからといって強引なことをすれば、大変な事態になる。あまり調子に乗らない方がいい」と警告する。亀井はかつて、野党に転落した自民党を社会党との連立で政権復帰させた政界きっての策士だ。今後、積極財政論者の亀井が消費増税に反対して小沢と連携し、菅を揺さぶる展開も予想される。
 
 菅は「衆院の三百議席を減らす気はない」と早期解散を否定しているが、一方で、五年半に及んだ小泉長期政権の分析を側近に命じている。
 
 衆院解散・総選挙により自民党内の「抵抗勢力」を一掃、郵政民営化を成し遂げた小泉に倣い、消費税率引き上げに反対する小沢一派を切り捨てるのではないか――。
 
 永田町では、こんな「消費税解散」による大乱の見通しさえ、囁かれている。
 
「政府は何でアメリカにちゃんと言わねえのかなあ。九月に普天間は大きな争点になるよな」
 
 六月十一日、小沢は赤坂の個人事務所を訪れた衆院国土交通委員長・川内博史に対し、米軍普天間飛行場移設問題が九月の民主党代表選で焦点になると告げた。玄葉は仙谷に「普天間はあなたがきちんとやるべきだ」と進言したが、議論好きの側面ばかりが目立つ仙谷に、米国や地元との折衝が務まるのか、不安視する声は多い。鳩山辞任で沖縄の怒りが静まったわけではなく、基地問題は菅政権の足下にも絡まり続ける。
 
 菅が消費税率引き上げ方針を表明した後に実施された世論調査では、内閣支持率が一斉に下がった。菅が命運を懸けた増税―財政再建路線が、景気や暮らしへの影響を危ぶむ有権者の警戒感を呼び起こした形だ。菅は、参院選で自ら勝敗ラインとした「改選五十四議席」を確保すれば、無投票再選を画策するだろう。
 
 だが、小沢は参院選公示日の二十四日、盟友・輿石の応援のため訪れた山梨県身延町で記者団の質問に応じ、「政党である以上、常に過半数(六十議席)を目標にするのが筋道だ」とハードルを上げた。さらに「当面消費税を上げないというのが、われわれの主張だった」と語り、公然と菅への不快感を表明した。
 
 菅の思惑が外れて代表選が実施された場合、小沢サイドが有力な対抗馬を立てるにせよ、小沢自身が名乗りを上げるにせよ、普天間と消費税を対立軸に、党内を二分する激戦となるのは必至だ。菅「奇兵隊内閣」が鳩山短命政権後の単なるあだ花で終わるのか、小沢との最終決戦を制して長期政権を築けるのか。戦いは参院選後に始まる。 (文中敬称略)
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。

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中塚一宏
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亀井静香
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代表質問
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総選挙
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