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【暮らし】

飲酒ひき逃げ許さない

2010年7月8日

 「“逃げ得”を許さないで」−。飲酒事故の被害者遺族たちが先月二十二日、千葉景子法相に、八万三千人の署名を添え、飲酒ひき逃げ事犯の厳罰化を求めた。最高刑懲役二十年の危険運転致死傷罪が適用されれば懲役十年以上の重い判決になることが多い半面、加害者が逃げて飲酒運転の立件ができないと「懲役五年以下」も珍しくない。遺族たちの声を紹介する。 (安藤明夫)

◆認めても「不起訴」

 「懲役四年四月」。裁判長の言葉に、池内由美子さん(55)=高知市=は肩を落とした。

 先月二十八日の高知地裁でのひき逃げ死亡事件の判決公判。被告男性(37)は昨年九月、同僚と飲酒後、車を運転して帰る途中に、池内さんの夫の会社員伝一郎さん=当時(57)=をはねて逃走。伝一郎さんは、人通りの少ない未明の路上に一時間四十分にわたって放置され、搬送先の病院で六日後に亡くなった。

 事故の翌日に逮捕された男性は「人とぶつかったとは思わなかった」とひき逃げを否定したが、飲酒は認めた。しかしアルコール血中濃度などの確認は行われず、高知地検は飲酒運転については不起訴とし、自動車運転過失致死罪と、ひき逃げで起訴。求刑も「懲役五年」にとどまった。

 二〇〇七年の刑法・道路交通法改正で、ひき逃げの最高刑は従来の懲役五年から十年に引き上げられたが、五年の求刑について検事は池内さんに「過去の事例に沿って判断した」とだけ説明したという。

 池内さんは、被害者裁判参加制度を使い、法廷に出席。約二万二千人の嘆願書を提出して、危険運転致死傷罪と道交法違反(酒気帯び運転)の適用を求めたが、認められなかった。判決はひき逃げの事実を認め、逃走の動機を「酒気帯びの発覚を免れるもの」としたものの、飲酒運転は処罰の対象にならなかった。

 「すぐに救護していたら、夫は助かったかも。救護すると罪が重くなり、逃げたほうが軽いなんて、絶対に納得できない」と池内さんは訴える。

◆「酒」の立件で大差

 昨年十二月、埼玉県和光市の県道で、スクーターの成毛正徳さん=当時(37)=は、飲酒運転の乗用車にはねられ、死亡した。逃走した運転手は今年二月に逮捕され、日帰り温泉施設で飲酒して帰る途中だったことを認めた。しかし、さいたま地検は飲酒運転での立件を見送った。検事は成毛さんの父・隆雄さん(62)に「飲酒が運転に及ぼした影響を証明するため、被告に飲酒テストを求めたが、拒否されてできなかった」と説明したという。

 六日の公判で、検察は懲役八年を求刑したが、隆雄さんは「飲酒テストができていたら、もっと重い求刑になったはず」と悔しさを隠さない。

 一昨年二月に埼玉県熊谷市で、飲酒運転により二人が死亡、六人が重軽傷を負った事故では、被告の男性に対し危険運転致死傷罪で一、二審とも「懲役十六年」の判決が出ている。格差は大きい。

◆「検察はひるむな」

 千葉法相と面会したのは「飲酒・ひき逃げ事犯に厳罰を求める遺族・関係者全国連絡協議会」のメンバーで、東名高速道路二児死亡事故(一九九九年)の被害者遺族、井上保孝さん・郁美さん夫妻、福岡三児死亡事故(〇六年)の遺族、大上哲央さんら二十八人。各地で署名活動を続けており、今回の八万三千人を含め、署名は通算で五十二万五千人に及ぶ。

 「法律が厳しくなっても、運用に問題があれば、逃げ得はなくならない」。こう話す同協議会幹事の井上郁美さんは「福岡の三児死亡事件の一審で、危険運転致死傷罪が地裁に認定されなかった(高裁では認定)ことで、地検は失態を恐れて及び腰になっている。今は、危険運転致死傷罪で起訴すれば、裁判員裁判になる。検察が“事前裁判”をするのではなく、もっと市民感覚を信用してほしい」と訴えている。

 

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