なぜ只野氏のイラスト描きが「事業所得」として認められたのかをお話しする前に、まず「事業所得」と「雑所得」の定義についてお話ししておきます。
まず「事業所得」とは、農林業・漁業・製造業・卸売業・小売業・サービス業その他、対価を得て継続的に行う事業から生じる所得。つまり、その事業によって生計を立てている所得のことを指します。
それに対して「雑所得」とは、「所得税における課税所得の区分の1つであって、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得および一時所得のいずれにも該当しない所得をいう」(所得税法35条)となります。簡単にいうと、恩給や国民・厚生年金などの公的年金、著述家・作家以外の者が受ける原稿料や印税などが、これにあたります。
ということは、只野氏のイラスト描きの画代は、通常なら明らかに著述家や作家以外の者が受ける原稿料=雑所得、となるのです。
只野氏の場合、イラスト描きを始めるにあたって、所轄の税務署に「開業届」を提出して、個人事業主として認めてもらいました。そうして次の年から、給与所得との損益通算をして確定申告して、還付金が戻ってくるという仕組みを構築したのです。
本来なら、確定申告の際に「事業所得」として認めるかの審査があってよいのですが、只野氏も認めているように、「僕らのような年収1000万円以下の人間の税金なんて、税務署はほぼノーマーク」なのです。
確かに年収の高い人ほど、税務署のチェックが入りやすいのですが、だからといって、まったくのノーマークともいえないのです。
例えば、身近な個人事業主というと、生命保険の外交員がよい例です。彼女たちは個人事業主として保険会社と契約して、一定の固定収入以外に保険契約の成立によって歩合を受け取れる仕組みになっています。
収入も「事業所得」として認められて、経費も計上できます。通常は、経費の割合として、売上げに対して3~5割くらいが認められていますが、それをオーバーすると、余程の理由がない限り認められません。その辺をチェックするためにも、毎年100人に1人くらいの割合で税務調査が入ることがあります。そこで、不適切な処理と認められると、確定申告の修正を求められて、追加課税されることになります。
ですから、只野氏の場合は、運がよかったともいえるのです。もしチェックが入っていたら、7年遡って課税されて、大きな損失になる可能性があったのです。