ワールドカップで盛り上がるサッカーナショナリズム――イアン・ブルマ 米バード大学教授/ジャーナリスト(3) - 10/07/02 | 18:15
サッカースタジアムは部族的な熱狂と人種的な対立に関するタブーが緩和される保留地となったが、それも一定の範囲内でのことだ。過去、アヤックスのサポーターを腐ったユダヤ人と愚弄したために暴力事件が起こり、アムステルダム市当局が介入を決断、サポーターなしで試合を行わざるをえなくなった。
すべてのサッカーの試合が否定的な気持ちに包まれて、暴力ざたに発展するわけではない。今年のワールドカップは友愛と平和の祭典になるだろうし、ドイツの勝利を心配する人はいないだろう。
しかし、スポーツが原始的な感情を解き放つという理由で、スポーツを批判しようとは思わない。そうした感情は簡単にはぬぐい去れない。死や暴力に対する恐怖心が宗教の中に表現の場を見つけたように、原始的な感情を発露する場を認めたほうがよいだろう。サッカーは私たちの野蛮な衝動を単なるスポーツに向けさせることによって、そうした感情を封じ込める役割を果たしてきたのかもしれない。
最後に今回のワールドカップの話をすると、最も優れたチームが勝利するだろう。そのチームとは、当然、わが母国オランダである。
Ian Buruma
1951年オランダ生まれ。70〜75年にライデン大学で中国文学を、75〜77年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。2003年より米バード大学教授。著書は『反西洋思想』(新潮新書)、『近代日本の誕生』(クロノス選書)など多数。
(週刊東洋経済2010年7月3日特大号)
photo:Patrick de Laive Creative Commons BY-SA
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