ワールドカップで盛り上がるサッカーナショナリズム――イアン・ブルマ 米バード大学教授/ジャーナリスト(2) - 10/07/02 | 18:15
サッカーは民族的な情熱のはけ口である
こうしたスポーツナショナリズムを示す格好の例はサッカーではない。それは、ソビエト軍の戦車がプラハを蹂躙(じゅうりん)した69年の翌年に開催されたアイスホッケーの世界選手権の決勝において、チェコスロバキアがソビエトを破ったときだろう。チェコの選手は、手にしたホッケーのスティックを銃のようにソビエト選手に突き付けたのである。チェコの勝利は国内で反ソビエト暴動を引き起こす誘因となった。
第2次大戦前にはサッカークラブには人種的、宗教的な要素が含まれていることも多かった。ロンドンのサッカークラブのトッテナム・ホットスパーは“ユダヤ系”、アーセナルは“アイルランド系”のクラブであった。こうした痕跡は今でも残っている。
アムステルダムのアヤックスは地元の競争相手から“ユダヤ系クラブ”として今なお愚弄されている。グラスゴーのセルティックはカトリック教徒、レンジャーズはプロテスタントというように現在でも宗教で分かれている。
しかし人種や宗教は本質的な要素ではない。98年にワールドカップで優勝したフランスチームの選手の中にはアフリカやアラブ出身者が含まれていたし、選手たちはその事実に誇りを抱いていた。強いサッカークラブでは、世界中の監督と選手が混ざり合っている。サッカーは、イラクのシーア派とスンニ派、スーダンのイスラム教徒とキリスト教徒のように、いくつかの国では異なった人々を結び付ける唯一の存在となっているのだ。
部族的な感情は手綱が緩むと厄介で、危険なものになる。第2次大戦後、ヨーロッパでは国家主義的な感情の表現は実質的にタブーとなった。人々はよきヨーロッパ人になり、ナショナリズムは人種差別主義者のものとなった。しかし、こうした感情は単純に打ち砕くことはできない。どこかにはけ口を見つけなければならない。サッカーがその場所を与えたのである。
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