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天声人語

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2010年7月8日(木)付

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 夕張メロンは熟すのが早く、食べ頃は収穫から3日までとも聞いた。灰緑の玉が黄色を帯びたら、食すか、二つに割って冷蔵庫に入れるしかない。熟しすぎると水っぽくなり、高級品が台無しだ▼北のメロンにサクランボ、南からのマンゴーもあっただろう。日本郵政グループの宅配便「ゆうパック」が、中元のかき入れ時に難渋した。日本通運の「ペリカン便」を吸収したはいいが、荷の急増と現場の不慣れで滞り、遅配は34万個に及んだという▼扱いの未熟が、預かり物の過熟を招く。荷台で熟れる果実は1日の遅れが命取りだ。暑さに弱いスズムシ、誕生日プレゼントも災難だった。虚礼廃止の中、季節の進物をするにはそれなりの理由があろう。傷物で届くなら手紙のほうがいい▼現場には、繁忙期の統合を心配する声があったそうだ。しかしペリカンを継いだ会社は月50億円もの赤字を垂れ流し、リストラは待ったなし。集配拠点や、人や車を大して増やさないまま、倍の荷をさばく運びとなった▼宅配便の競争は激しい。ヤマト運輸が「官」と闘い、郵便小包の独占を突き崩した市場である。昨年度の国内シェアはヤマト41%、佐川急便が36%と、二強が増勢にある。今度の失態は、ゆうパックの劣勢を決定づけかねない▼物流の商いは、荷物と送り手の思いを一つ箱で運んで完結する。せっかくの産地直送が、「不手際経由、おわび付き」では送り損だ。混乱は収まっても、箱からこぼれ落ちた信用はたやすく戻るまい。届けるという仕事、シンプルゆえに侮りがたい。

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