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所長
神浦元彰
軍事ジャーナリスト
Director
Kamiura Motoaki
Military Analyst

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日本や世界で現在進行形の最新の軍事情報を選別して、誰にでもわかるような文章で解説します。ホットな事件や紛争の背景や、将来の展開を予測したり、その問題の重要性を指摘します。J-rcomでは、日本で最も熱い軍事情報の発信基地にしたいと頑張ります。(1999年11月)

2010.07.09

 来年度予算 韓国国防予算6,9%増を要求 約2兆3000億円 

カテゴリ韓国出典 朝日新聞 7月9日 朝刊 
記事の概要
韓国国防省は8日、来年度の国防予算要求額を、今年度比6,9%増の約31兆6千ウオン(約2兆3千億円)とすつと発表した。

韓国哨戒艦沈没事件を受け、北朝鮮軍の侵入や局地戦に対応する緊急対策費として1兆1千億ウオンを要求した。

偵察機の開発や潜水艦や魚雷を探知する能力の増強、局地戦に備えた小型兵器の近代化などが内容だ。

韓国の軍事筋は、「従来の戦力整備構想を全面転換するものではなく、事件に対応できる戦力の増強だ」と語った。
コメント
韓国の軍事筋がいう「従来の戦力整備構想」とは何なのか。まず日本人はこの言葉の意味から考える必要があると思う。

これは危険な北朝鮮軍との戦争を想定した戦力整備構想ではないからだ。

韓国軍が北朝鮮軍との戦力バランスを気にしなくなったのは10年以上も前からである。

10年以上も前から、北朝鮮軍には全面戦争がやれる能力が著しく不足し始めたからである。まず食糧や燃料が不足し、車両や兵器の部品が欠落した。さらに兵器の近代化ができずに陳腐化が進んだ。弾薬も不足し訓練や演習ができなくなった。さらに戦時備蓄米まで消耗した。これでは米韓軍相手の全面戦争はまったく無理である。

そこのとが露骨になり始めると、韓国軍は急に新しい戦力整備構想のもとに動き始めた。新型戦車の開発、F15K戦闘機の導入、イージス艦、300キロ射程の地対地ロケットや1000キロ射程の巡航ミサイルの開発、AIP潜水艦の導入など、瀕死状態の北朝鮮軍相手にしては明らかに異質な兵器だった。

その理由は、北朝鮮が崩壊して朝鮮半島の統一国家誕生に向かって韓国軍の戦力整備することを始めたのだ。

陸続きで経済発展が著しい中国と接することになる。その脇にはロシアという大陸国家が存在する。またすぐ横に日本という海洋国家も存在する。

朝鮮半島の新統一国家がアメリカと軍事同盟を結んでも、アメリカ軍は中国やロシアと接す国に軍隊を駐留させることできない。(米中露は戦略核兵器を配備している)

そこで韓国はアメリカ軍の駐留しない朝鮮半島に備えて、必要な兵器を整備することを決意したのだ。(在韓米軍のPAC3などは撤退時に置いていくと思う)

幸い、韓国では今も徴兵制が敷かれている。北朝鮮のような国を相手にするのは徴兵制の軍隊でも対応できる。その上、徴兵制で来た兵士の給料は数千円(月給)とわずかである。

だから、@統一国家は、周囲を中国、ロシア、日本に囲まれた半島国家として軍事力を整備する。A北朝鮮崩壊まで徴兵制を維持して、その人件費を新兵器整備に向ける。B在韓米軍撤退時に、防衛上必要な兵器は引き継ぐ。などが今の韓国軍の整備構想なのである。

幸い、韓国軍の発想には、日本と敵対する関係を避ける傾向があります。その理由は、新生国家はアメリカとの軍事同盟を希望していることで、日本との軍事関係も、アメリカ軍を支援する国として期待しているからです。それに韓国のGDPや国防費では、自国に必要な軍事力を一国で賄うことができません。

ちなみに韓国の国防費は、国家予算の約15パーセント(日本は約5パーセント)で、GNPの2,7パーセント(日本はGDPの約1パーセント)です。(「普天間」交渉秘録 守屋武昌氏著 新潮社刊より)

このような新聞の小さな記事でも、朝鮮半島をめぐる日米韓中露の壮大な軍事戦略が隠されています。だから軍事は面白い。
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