夫が死亡し妻が受け取った生命保険金をめぐり、分割で受け取る年金部分には相続税だけでなく所得税も課す実務が適正かどうかが争われた訴訟の上告審判決が6日、最高裁であった。第三小法廷(那須弘平裁判長)は「相続税の対象となった分に所得税を課すのは二重課税にあたる」との初判断を示した。その上で、課税を容認した二審・福岡高裁判決を破棄し、国税側の課税処分を取り消した。納税者側が勝訴した一審・長崎地裁判決が確定した。
こうした実務は1960年代には定着していたといい、同種の保険契約は少なくとも数百万件にのぼるとみられる。今後、納めすぎた税金の返還が大きな問題になりそうだ。
訴えていたのは、長崎市の主婦(49)。2002年10月に夫が死亡し、生命保険として4千万円を一時金で、2300万円を分割して年金で10年間受け取ることにした。
国税当局は相続税として、一時金4千万円のほか、2300万円も将来の「年金受給権」としたうえで、その6割(1380万円)を課税対象とした。さらに、毎年受け取る230万円の年金も別の財産ととらえて所得税を課した。
第三小法廷はまず、「相続財産には所得税を課さない」とした所得税法の規定について「同じ経済的価値に対する二重課税を排除する趣旨だ」と解釈。相続税の対象となった1380万円に対する所得税の課税を「二重課税」にあたると判断した。
ただ、年を経るごとに、保険会社が運用した利益が毎年の年金額に含まれることになるため、相続税の対象となる分は毎年減っていくと判断。今回の訴訟で争われた1年目(02年分)の230万円については運用で増える分が含まれていないとして、すべてを「二重課税」と結論づけた。
判決確定により、主婦には2万5600円が国から返還される。税法上、判決で解釈が変わった場合、誤って納めた税金は最大5年前(05年分)までさかのぼって取り戻すことができる。今後、同様のケースについて国税庁が取り扱いの変更と返還手続きについて検討することになる。
06年11月の長崎地裁判決は「実質的に同じ財産への二重課税だ」と課税処分を取り消したが、07年10月の福岡高裁判決は「年金受給権と毎年の年金は法的性質が異なり、二重課税とはいえない」と国税側の主張を認めていた。
相続税は相続財産が一定額を超えないと税額が発生しないため、主婦は実際には相続税を納めていない。(延与光貞)
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〈年金払い生活保障特約付き終身保険〉 保険をかけられた人が死亡した時に支払われる保険金を、遺族などの受取人が一時金と年金に分けて受け取れる生命保険。「収入保障保険」や「家族収入保険」などとも呼ばれる。年金部分は、10年など一定期間、毎年決まった額を受け取れる仕組み。残された家族が一度に多額の保険金を受け取って管理するよりも、定期的な収入として受け取ったほうが生活設計しやすいとのニーズから人気が高まり、1990年代半ばごろから主力商品の一つになっている。