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きょういく特報部

私立高校にも学費支援 先進自治体「真の無償化」目指す

2010年3月15日

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 4月にスタートする予定の国の「高校無償化」制度。朝鮮学校の除外問題が注目されているが、制度を機に自治体が私立高校生への支援をどれだけ拡充するか、というのも大きなポイントだ。国の制度では公立の授業料を無料にする一方、私立の生徒についても同等額(年間12万円)を支援した上で低所得世帯は24万円を上限に増額する。ただし、これだけでは私立の学費は賄えない。公立との差を埋めるべきだ――。そんな考えのもと、各都道府県で国の制度に上積みして支援する動きが出ている。

■国の制度に上積み

 各自治体にはかねて、低所得世帯を対象にした高校の授業料の減免制度などがあった。国の無償化制度でその分の予算は浮くが、そこでそのまま予算措置をやめるのではなく、国の制度を補完してさらに就学支援の充実を目指そう、というのが今回の新たな動きだ。

 民主党が昨夏の総選挙のマニフェストで掲げた「高校無償化」は、高校進学率が100%に近くなったことを踏まえ「高校段階までの教育は国の責任で行うべきだ。そうすれば将来、必ず投資した以上のものが社会に還元される」という理念に立っている。各自治体が独自の「上積み支援」に動き出したのも、こうした考え方が浸透してきた表れ、という指摘もある。

 「手厚い」と自治体担当者の間で話題に上っているのが、大阪、京都、広島の3府県だ。特徴は、授業料にとどまらず、施設整備費などの「義務的費用」も支援の対象にすることだ。低所得世帯について、国の制度とセットで全額免除に踏み切る。

 大阪府は、授業料や施設整備費などを合わせて「標準授業料」と呼び、年収350万円以下の世帯について年間55万円を上限に免除にする。2010年度予算案には前年度より3%増の約65億円を計上した。担当者は「真の無償化とは、授業料だけでなく施設整備費なども含めた保護者の『義務的負担金』が無償になることだ」と話す。

 京都府も、授業料や施設整備費などを合わせた額を減免対象にする。生活保護世帯や家計急変家庭は全額免除、年収350万円未満の世帯は年間64万円を上限に補助する。350万〜1200万円の世帯でも、年5万円を支給する方針だ。

 広島県では、授業料や施設整備費などの義務的な負担額の平均は年間約42万円。これまでは低所得世帯への補助は授業料の3分の2だったが、10年度からは全額免除にする方針で、予算案に前年度比13%増の約6億円を計上した。担当者は「学費が払えなくて退学したり進学をあきらめたりする生徒を出さないようにしたい」と言う。

 高校生の56%が私立に通う東京都は10年度、私立の学費支援予算として前年度比10億円増の43億円を割く。都内の私立高校の平均授業料は年間41万7千円。従来は最大でも約20万円の補助にとどまっていたが、新年度は国の制度と合わせ、生活保護世帯については平均授業料と同じ41万7千円まで補助する。

■知事の指導力次第

 ただし、すべての自治体が思い切った支援に乗り出しているわけではない。文部科学省は45都道府県の新年度の状況を調査したが、予算が前年度より増えるのは11都府県、同額維持が1県で、残りの33道県では減っていた。「上積み支援」には動きつつ、国の制度を受け予算額は減らしているところが目立つ。

 ある県の担当者は「財政難という事実は重い。財務担当者には『県が独自にがんばらなくても、国がお金を出してくれるんでしょう?』と言われてしまった」と嘆く。別の県の担当者は「大幅に拡充できたところは、知事のリーダーシップが背景にある」と指摘した。

 市町村でも、国の制度を機に、独自支援をやめる動きがある。東京都稲城市は、3月の定例議会に奨学資金支給条例の廃止を提案。26日の本会議で議決される見通しだ。同市の奨学金制度は、保護者の所得や学校の成績で判断して都立高校の授業料相当額を支給するもので、今年度は高1、高2が月額1万200円、高3が9600円。返済不要で現在は約110人が利用しているが、その分の事業費は新年度予算案には計上されなかった。

 各地の状況に対し、全国私立学校教職員組合連合は「自治体の従来の予算は国の制度にそのまま上乗せするべきだ。国の制度を受けて減らしたり無くしたりするのは教育予算の流用に当たる」と批判する。

 ただし、それでも支援制度は全体としてみれば前進が見られる。年収250万円までの世帯の授業料を全額免除する都道府県は、09年度の13から10年度は37に増えた。350万円までの世帯への全額免除も4から12に増えている。

■亀田徹・PHP総合研究所主任研究員の話

 義務教育と違って高校は公立の入学枠が限られている。公立の生徒だけ授業料負担がなくなり、私立に行かざるをえなかった生徒は負担がなくならないという構造はおかしい。ただ、そうはいっても財源は限られている。その中で解決法を考えるとすれば、私立高校に通わせている低所得層への支援を手厚くし、一定の所得以上の世帯については奨学金を拡充して対応するのがいいのではないか。

 施設整備費など、授業料以外に義務的にかかる負担も支援の対象として広げなければならない。特に低所得世帯については、修学旅行費や教材費などにも使える、返済不要の給付型の支援が必要だ。(見市紀世子、村山恵二)

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