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【社説】口蹄疫被害
(2010年5月15日付)
食と農の新たな絆を築こう
口蹄(こうてい)疫の感染・感染疑いが確認され、家畜の移動・搬出制限区域内にある川南、都農町、えびの市からは今、叫びにも似た悲痛な声が上がっている。
感染・感染疑いが出た農場は13日午前現在で86例となり、殺処分家畜は8万257頭(牛6604頭、豚7万3653頭)に上る。被害は加速度的に広がり続け、出口の見えないウイルスとの戦いに疲労困憊(こんぱい)しているのが発生現場の実情なのだ。
手塩にかけて育ててきた家畜の命を殺処分という形で終わらせなければならない農場主の精神的な苦痛は想像を絶する。感染・感染疑いが見つかっていない農家でもウイルスの恐怖におびえる日が続く。
しかし、つい最近までこれらの惨状は一般県民が知ることはほとんどなかった。感染拡大のスピードが予想をはるかに超えていたとはいえ、国・県だけでなく、情報の送り手としてのマスコミも風評被害を恐れて自粛していた面は否めない。
こうした状況が川南、都農町、えびの市の畜産関係者の孤立感を深め、疲労や無力感に拍車をかけていたのも事実だ。
■共有したい危機意識■
本県は肉用牛の飼育頭数で全国3位、豚で2位の畜産王国である。産業として生み出す利益は単に農家を潤すだけでなく、畜産関係の社団法人のほか加工、物流の雇用を創出する。地域の小売業にも波及効果をもたらすなど、すそ野は幅広い。口蹄疫は農家だけの問題ではなく、一般県民・国民が共有すべき危機なのだ。
農林水産省をはじめ国に対しては、感染拡大を防ぐためにあらゆる手を講じてもらうとともに、農家が将来にわたって安心できる早急な支援策を求めたい。無利子融資や殺処分の全額補償だけでなく、当面の生活や復興を支える支援金の給付など踏み込んだ内容であることは言うまでもない。
本県選出国会議員はこの際、与野党の壁を取り払い、一県民として一体となって国に惨状を訴え、この難局を乗り切る原動力になってもらいたい。
■温かなメッセージ■
「これ以上、仲間のつらい姿を見たくない」「ボランティアとして手伝えることがあれば…」。宮崎日日新聞社が募集している「口蹄疫・絆(きずな)メッセージ」のコーナーには今、県内の消費者や他地域の畜産関係者から心温まる言葉がメールやファクスなどで次々と寄せられている。
プロゴルファーの横峯さくらさんが賞金1200万円を寄付する意向を示したのに続き募金も続々と集まり始めているという。こうした動きが出てきたのは、やはり“被災”地域の惨状が明らかになりつつあるからだろう。
もはや風評被害を恐れている段階ではない。消費者と生産者、食と農が新しい絆を築く時ではないだろうか。