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[19964] 戦いの申し子(DBオリ主→ネギま!ニスレ目)
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:ee4dc9b7
Date: 2010/07/03 22:40
どうも、トッポです。

例に習って携帯では以前のスレにこれ以上書き込み出来なくなったので、ニスレ目を作りました。

まだ前作も終っていないのに何やってんだと思うでしょうが、そちらも何とか終わらせますので、何卒宜しくお願い致します。m(__)m


尚、以前のスレには以下から見れます。

http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=tiraura&all=18268



[19964] 挑戦
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:e3986068
Date: 2010/07/02 02:12









世界樹前広場。

広々とした階段広場、月明かりと街灯が照らす夜の時間。

その場所には複数の人影が佇んでいた。

神楽坂明日菜、近衛木乃香、桜咲刹那、佐々木まき絵、古菲。

そして、ネギ=スプリングフィールド。

何か覚悟を決めた面持ちで佇むネギを、彼女達は心配そうに眺めていた。

ネギの顔や体には生傷がアチコチにあり、着ている服には所々汚れや切れ目が目立つ。

古菲との組手の所為だ。

闇雲に筋トレをしても、下手に負荷を掛けても5日後の試験には間に合わない。

ならばひたすら組手して対人に集中させるよう、古菲が考えて実行した結果だった。

幸いネギは基礎体力も筋力もあり、飲み込みも恐ろしく早い。

普通なら様になるまで一ヶ月はかかるという技を、ネギは数時間で修得していく。

流石に高等な技には時間を費やしたが、それでも会得していく反則気味な学習能力に、誰もがイケるのではないかと思い始める。

しかし、試験に合格するには茶々丸に五発も攻撃を当てなければならない。

話を聞いた限り、相当な実力者である茶々丸に一撃でも当てる事は難しいだろう。

それこそ、五発も当てる等至難の技。

古菲は限られた時間の中で、ネギに自分が教えられる全てを叩き込んだ。

そんな日々の中、一人の少女が授業中に落ち込んでいるのがネギの目に止まった。

佐々木まき絵、明日菜や古菲と同じくバカレンジャーのメンバーの一人。

普段は明るい彼女が落ち込んでいる事に気付いたネギは、まき絵に事情を聞いてみた。

鍛練だけではなく先生としての仕事もキチンとこなしているネギに、保護者である明日菜は安心したが少し複雑。

そして、ネギの励ましのお蔭でまき絵は何とか問題を解決する事が出来た。

そして今日、まき絵は励ましてくれたネギにお返しをする為に応援に駆け付けたのだ。

本当なら、余計なギャラリーを連れて来たくはなかった。

試験とは言え生徒と殴り合う。

そんな教師とは到底思えない行為を、まき絵に見て欲しく無いと言うのが、ネギの正直な気持ち。

しかし、何度も頼み込むまき絵に折れ、ネギはついてくる事を許す。

他の生徒には気付かれないよう、気を付けて寮を出ていく時は随分骨が折れた。

まだ対戦相手が来ていないのを良い事に、ネギは直ぐに体を動かせるよう準備運動を始める。

そして一通り終わり、ふと上を見上げると。

「っ!」

そこには、エヴァンジェリン達が階段を下って此方に近付いて来ていた。

エヴァンジェリン、その後ろに茶々丸。

とうとう訪れた試練にネギはゴクリと唾を呑み込み。

そして。

「っ!?」

茶々丸の更に後ろから見えた人影に、ネギは驚愕に目を見開いた。

いや、ネギだけではない。

明日菜達もネギと同様、現れた人物に目を見開いて驚愕し、釘付けにされていた。

「え? え?」

ただ一人分かっていないまき絵は驚いているネギ達に、オロオロと戸惑っている。

「バージル君……」

頭にチャチャゼロを乗せたバージルを見て呟く木乃香。

同時に先日の告白騒動が鮮明に浮かび上がり、木乃香は少し胸が締め付けられるような感覚に襲われる。

どこか寂しそうな視線でバージルを見上げる木乃香。

そんな事など知らない当の本人であるバージルは、チャチャゼロを頭の上に乗せたまま階段に座り。

その隣に茶々丸が椅子を置き、エヴァンジェリンが座り込む。

まるで悪の幹部が並んでいるような組み合わせに、カモは不謹慎だが似合うと思ってしまう。

「さて坊や、準備と覚悟は出来ているな?」
「……はい」

確認してくるエヴァンジェリンに、ネギは頬から流れる汗を拭わず。

ゆっくりと、しかししっかりと頷いた。

覚悟は出来ている。

拳を握り締め対戦を相手を見据えるネギ。

バージルという意外な人物が観戦に来たが、ネギは目の前の茶々丸だけを見抜いていた。

そしせ、息苦しいまでの静寂が辺りを包み込んだ。

瞬間。

「ならば……始め!!」

バッと手を上げて、エヴァンジェリンが開始の合図を始めた。

その時。

「っ!!」

いきなり目の前まで現れたネギに、茶々丸は対処仕切れず。

「やぁぁぁぁっ!!」

開始直後、ネギは茶々丸の腹部に肘打ちを叩き込んだ。

突然起こった出来事に、エヴァンジェリンは驚愕した。

活歩。

中国拳法、八極拳の技法の一つ。

相手との間合いを瞬時に縮める高等な技法。

エヴァンジェリンはネギなら魔力による身体能力を強化にし、茶々丸と真っ正面から戦いを挑むかと思われた。

だが、ネギは真っ正面からではなく奇策を用いて茶々丸の意表を突いたのだ。

一見真っ正面から打ち込んだ様に見えたが、実際は違う。

茶々丸も、てっきり最初は肉体強化を施してから挑むのかと思考していた為、待ち構えている部分もあった。

所が、エヴァンジェリンが開始を告げた瞬間に懐に潜り込まれ、対処仕切れなかった茶々丸は、ネギの一撃を受けてしまったのだった。

次の攻撃を仕掛けようと、そのまま拳を振るうネギ。

茶々丸は跳躍し、一旦ネギと距離を置く。

しかし。

「茶々丸っ!」
「っ!?」

思わず張り上げるエヴァンジェリンの声、しかし茶々丸にはそんな主の声に反応する余裕などなかった。

自分が地面に着地した瞬間、既に目の前にはネギが待ち構えていたからだ。

肘からジェット噴射を吹き出し、ネギへ攻撃を仕掛けるが。既にゼロ距離まで詰められ、茶々丸の攻撃は虚しく空を切るだけに終る。

そして。

「タァァァッ!!」

背中への打撃が茶々丸に直撃。

吹き飛んだ茶々丸はバランスを崩し、壁際まで吹き飛んでいく。

試験開始から数十秒。

やられた。

ネギの成長速度を見抜けなかったエヴァンジェリンは心底そう思った。

確かに、どんな手段を使っても良いと公言しのは覚えている。

だが、まさか魔力に頼らず体一つで勝負を挑んで来るとは思わなかった。

驚く程の成長速度、恐らくは古菲やカモと共に考えた作戦だろうが、それでも意外。

……いや、どんな手段と言ったからには此方もそれなりの対処をするべきだった。

全ては自分のネギに対する認識の甘さと油断。

エヴァンジェリンは眉を寄せ、真剣な面持ちで二人の様子を見つめる。

対するバージルはと言うと。

「ふぁぁ〜……」

退屈そうに大きな欠伸をしていた。

そして。

「りゃぁぁぁっ!!」

三発目の攻撃、ネギの肘打ちが茶々丸に向けて放たれる。

茶々丸は壁を背にしている為、身動きが出来ない筈。

今なら三発目も当てられる。

そう確信したネギはそのまま肘打ちを放つが。

「っ!?」

茶々丸は壁を三角飛びで回避し。

「あぐっ!!」

回転を付けての回し蹴りをネギにぶつけて吹き飛ばす。

ネギはそのまま階段から離れ、背中を地面に強打する。

短い悲鳴の声が漏れ、痛みに悶えるネギ。

魔力も無し、障壁も展開せずに受けた一撃。

それはネギの意識を刈り取るには充分なものだった。

「ネギッ!!」
「ネギ君っ!!」

明日菜達が必死に呼び掛けるが、ネギはピクピクと震えるだけで応えなかった。

無理もない、幾ら天才少年でも所詮は子供。

まだ鍛えてはいない子供の体では、耐える事はほぼ不可能だろう。

見事。

エヴァンジェリンは思わずネギに対してそう評価した。

たった五日間という短い時間の中、よくあそこまで形に出来たものだ。

活歩という数少ない技を頼りに自分なりに工夫し、試練を乗り越えるという姿勢。

エヴァンジェリンは特にコレを評価していた。

(教師の仕事もあっただろうに……)

もし五日間みっちり鍛練していれば、結果違っていたのかもしれない。

予想斜め上の結果に、エヴァンジェリンは一瞬笑みを溢す。

しかし。

「残念だが、ここまでた坊や。顔を洗って出直して来るんだな」

倒れ伏したネギに辛辣な言葉を浴びせるエヴァンジェリン。

どれだけ成長しても、規定した条件をクリア出来なければ意味はない。

そう約束してしまった以上、エヴァンジェリンはネギに弟子入りを諦めて貰う他無かった。

恐らくは気絶し、聞こえてはいないだろうネギにそれだけを伝えると。

エヴァンジェリンは背を向けて帰ろうとした。

しかし。

「おい、何処へ行くんだ?」
「帰るんだよ。此処にいる意味は最早無くなった」
「まだ終っていないのにか?」
「何?」

バージルに言われ、振り返るエヴァンジェリン。

そこには、震えながら立とうとするネギが、目に力強い光を宿していた。

茶々丸の一撃は間違いなくネギの意識を刈り取った筈。

祿に障壁や受け身も取らなかったネギが、意識を保てる筈はない。

しかし、現にネギは立ち上がり構えを見せている。

ポカンと口を開くエヴァンジェリン。

ギャラリーの明日菜達はそんなネギに応援の言葉を振り掛けた。

「坊や、まさかお前!」
「へへ、そのまさかです。僕がくたばるか茶々丸さんに五発入れるまで、粘らせて貰いますよ」

そう、ネギと交わした約束はそれだけ。

ギブアップや時間制限など最初から設けていなかったのだ。

無論、ネギはそう簡単に茶々丸相手に何度も攻撃を当てられるなんて考えてはいない。

今二発当てられたのは、偶然が重なった奇跡に近い業績だ。

だが、ここから先は偶然や奇跡などあり得ない。

同じ策はもう通用しないだろう。

茶々丸と自分の実力は歴然。

ならば当てるまでただ粘るしかない。

「わぁぁぁぁぁっ!!」

気合いの雄叫びと共に、ネギは茶々丸に殴り掛かる。

しかし、技も動きも見切られたネギは、茶々丸に攻撃を当てる処か。

一方的に殴られるだけとなった。












あれから、どれだけ時間が経過しただろうか。

頬は腫れ上がり、眼鏡は割れ落ち、額から血を流し、ネギは満身創痍の体となっていた。

可愛らしい顔だったのが見る影もなく、ボロ雑巾となったネギ。

明日菜達は切なげな面持ちで見つめ、木乃香はもう止めてと呟いている。

しかし、それでもネギは諦めず、ボロボロのまま茶々丸に殴り掛かった。

そこには技もなく、ただ拳を振るうだけ。

茶々丸は片手でそれを払い、容赦なく蹴り上げる。

鈍い打撃音が響き渡り、ネギは地面に転がり落ちる。

「もう、見てられない! 私止めてくる!!」

ネギの姿に耐えられなくなった明日菜は、カードを片手に駆け寄ろうとする。

しかし。

「ダメだよ明日菜! 止めちゃダメ!!」

まき絵が明日菜の前に立ち塞がる様に遮った。

「で、でも! アイツあんなにボロボロになって……あそこまで頑張る事じゃないよ!!」
「違うよ明日菜、それは違うよ」
「……え?」
「ここで止めた方が、きっとネギ君は傷付くよ。ネギ君どんな事でも諦めないって言ってたもん!」

必死に明日菜を抑えるまき絵。

そんな彼女を前に、明日菜は何も言えなくなった。

そして。

「うわぁぁぁぁぁっ!!」

最後の力を振り絞ったネギの一撃が、茶々丸に向かって放たれる。

そして。

鈍い音が響き渡り、まき絵が振り返った。

瞬間。

「っ!」

恐らくは相討ち狙いだったのだろう。

ネギの放った拳は、茶々丸の前髪を揺らしただけに終り

ネギはカウンターの要領で茶々丸の拳を顔面に受けてしまい。

力なく膝が折れ、ネギは地面に倒れ伏せ。

今度こそ、起き上がる事はなかった。













〜あとがき〜
魔法先生ネギま!

オワタとは言わないで(泣き


そして、いきなりニスレ目になってすみません。

しかも飛ばし飛ばしで(汗



[19964] 乙女の戦い?其ノ壱
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:b376b2ae
Date: 2010/07/04 00:05









翌朝、麻帆良学園女子中等部。

いつもと変わらない朝を向かえ、いつもと変わらないHRが始まろうとした時。

「「「ね、ネギ先生ーー!?!?」」」

3−Aクラスから、窓ガラスが割れんばかりの大声が響いた。

原因は、クラスの担任であるネギ=スプリングフィールドにあった。

試験の時、茶々丸の攻撃によってボロボロにされ、包帯だらけのミイラ男になったネギ。

首にはサポーターが付けられ、鼻には大きな絆創膏が貼ってあり。

可愛らしいネギの姿は微塵も見当たらない、凄惨な姿になった担任に生徒達は一斉に押し掛けてきた。

「ど、どうしたのネギ君!」
「何でそんなボロボロなの!?」
「学校に来て大丈夫なの!?」

押し掛けてくる生徒達に、ネギは苦笑いを浮かべながら大丈夫だと答えた。

明日菜達も今日は学校休んでも良いのではと聞いたが。

『これは僕が自分の為だけに考えて行動した結果です。そんな事の為にイチイチ休んでいたら皆さんに申し訳ありませんよ』

と言ってこれを否定。

職員室に来た時も何事かと騒がれていたが、ネギの説明によって何とか納得してくれた。

しかし、もし体調が悪くなったら直ぐに自宅へ戻って休養するよう、生徒指導の新田はネギとその保護者である木乃香と明日菜に言い渡し、その場はそれで終わる。

生徒達に事情を説明をしているネギに、心配そうな面持ちでいる明日菜。

木乃香の方もオロオロとしており、刹那にどうするべきか相談していた。

「ほら、そろそろHRが始まりますよ。僕の事は大丈夫ですから皆さん席についてくださーい」

パンパンと両手を叩き、生徒達を席に座るよう促す。

はぐらかされた気分ではあるものの、生徒達は渋々と席に座っていく。

「でも、一体どうしたんだろうねネギ君」
「うん。階段から落ちてもあそこまではならないよ」

席に座っていく間も、ネギの怪我について話をする生徒達。

「あれ、そういやいいんちょは?」
「何か……電話してる」

普通なら、ここでネギを溺愛しているクラス委員長の雪広あやかが何らかの動きを見せる筈だが。

珍しく大人しく、携帯電話を片手に何やらブツブツと呟いていた。

誰と何を話しているのだろうと、耳を傾ける明石裕奈と朝倉和美。

「ハロー、プッシュ大統領。日本語で申し訳ありません。実は軍隊を一個……いえ、二個大隊程お借りしたいのですが、出来れば空母付きで」
「何か偉い人とエライ事を話してるーっ!?」
「ちょっ、何してんのいいんちょ!?」

目は虚ろい、乾いた笑みを浮かべるあやかに再び教室は混沌に包まれる。

結局、その場は彼女と同室の那波千鶴の活躍によってその場は丸く収まる事が出来た

そしてその時、ネギは後ろの席で大人しく座っているエヴァンジェリンと茶々丸に目を向けると。

ネギは一度頭を下げて笑みを浮かべながら教室を後にするのだった。












放課後。

夕暮れで空が朱色に染まる頃、駅前は下校する生徒で賑わっていた。

そして、その生徒の半数近くが、新しく出来た鯛焼き屋に買い食いをしに来ていたのだが。

積み上げられた鯛焼きの袋と、その中身を喰らう一人の少年の姿に、誰もが見てるだけで胸焼けを起こし、胸元を抑えながら引き返していった。

ある意味学園の名物になりつつあるバージルの大食い。

放課後、エヴァンジェリンを迎えに人知れず中等部に侵入したバージルは、一人になった一瞬を狙い、縮地や瞬動などより遥かに速い動きで、彼女を拐ったのだ。

トイレから出てきた瞬間、視界を遮られた時は自分でも驚く程間抜けな声を出してしまった。

茶々丸に悪い事をした。

恐らくは自分を探しにアチコチ走り回っている従者に済まないと思いながら、エヴァンジェリンは隣でガツガツと鯛焼きを喰らっているバージルに非難の視線を浴びせる。

その視線に気付いたバージルは何だと振り返る。

「全く、お前には常識と言うものがないのか?」
「?」
「いきなり人を拐い、何かと思えば鯛焼きを奢れなどと……」
「俺はお前に付き合った。今度はお前の番だろ」
「それはそうだが、もう少し穏便に出来んのか?」
「オンビンって何だ?」

本当に分からないと言った様子で、鯛焼きを加えたまま首を傾けるバージル。

そんな彼にエヴァンジェリンは深々と溜め息を吐いてガックリと項垂れる。

そして、バージルが鯛焼きが入った次の袋に手に取ろうとした。

その時。

「ば、バージルさん!」
「うん?」

突然聞こえてきた声に振り返ると。

驚きと怒り、様々な感情がが混じった表情をした制服姿の高音がタッパーを片手に此方に詰め寄って来た。

「高音=D=グッドマン……」
「チッ」

髪を揺らし、近付いてくる高音。

バージルは何だと目をパチクリさせ、エヴァンジェリンは鬱陶しそうに舌打ちを打った。

「どうして貴方が、闇の福音といるのですか!?」
「飯を貰いにだが?」

憤慨している高音に、バージルはキョトンとなって応える。

「そうじゃありません! どうして貴方のような偉大なる魔法使いが、悪の魔法使いと一緒にいるんですかと聞いているのです!」
「俺、魔法使いじゃないぞ?」

そう、バージルは魔法使いではない。

世界中を旅した時も、結果として立派な魔法使いの様に活躍にしていたと、高畑からはそう言われていただけ。

しかし、高音は自分の理想とする者が悪の魔法使いと一緒になっている事が我慢出来なかった。

フーッ、フーッ、と敵意を丸出しにして睨み付けてくる高音。

しかし、敵意を向けているのが自分ではないと知ったバージルは、怒りを露にしている高音を不思議に思いながらお好み焼きが入った鯛焼きを頬張り続けていた。

すると。

「あ、あのバージルさん!」
「あ、見つけました。エヴァンジェリンさん!」

右方向からシルヴィが、左方向からはネギ達が、それぞれ二人の下へ集まり。

その場は更に混沌としたものとなった。














現在、バージル達はエヴァンジェリンの自宅のログハウスで対面していた。

敵意をエヴァンジェリンにぶつける高音。

そんな高音に対し、疲れた様に溜め息を溢すエヴァンジェリン。

シルヴィは重要人物に囲まれ、酷く緊張しており。

木乃香はシルヴィとバージルに視線を向け。

ネギや明日菜、刹那とカモはこの場の重苦しい空気に冷や汗をダラダラと流し。

そして、その空気となった原因を半数以上占める男、バージルはと言うと。

「鯛焼きウマー」

一人暢気に鯛焼きを頬張っていた。

「さて、まずはどこから話そうか……まずは坊やだな。怪我は大丈夫か?」

自分に話を振られ、少し戸惑うネギだが、この空気に自分から話す事を躊躇っていただけにエヴァンジェリンの心遣いは有り難かった。

「は、はい。見た目程大したものではありませんし、治癒魔法をこまめにやれば二日程……」
「そうか、で? 私に用とは……まさか弟子入りの話か?」

エヴァンジェリンの問い掛けに、ネギは頷く。

ネギにとって、エヴァンジェリンは理想の師。

熟練された魔法の使い手、ネギは一度失敗した程度で引き下がる事は出来なかった。

ネギはエヴァンジェリンに再び弟子入り試験をしてもらうよう、頼みに来たのだ。

それを聞いた高音は、ピクリと眉を吊り上げる。

何故あの千の呪文の男の息子が悪の魔法使いに弟子入りするのか。

確かに彼女は魔法に関しては誰よりも精通しているだろうし、師にするには適切かもしれない。

しかし、高音はどこか納得いかなかった。

「で、お前は一体何者なんだ?」

不満を顔に浮かべる高音を横に、エヴァンジェリンは今度はバージルの隣に座るシルヴィに問い掛けた。

見定めるように見詰めてくるエヴァンジェリン。

鋭い眼光の彼女に、シルヴィは疑われないよう慎重に応えた。

「え、えっと、私はシルヴィ=グレースハットと言います。先日この学園の中等部に転入してきたばかりですので……」
「あ、もしかしてウチの学校に転入してきたのって……」
「はい、私です」
「困った事があったら言ってよ。私達で良ければ相談に乗るよ」
「ありがとうございます」

ぺこりと頭を下げて、社交辞令の挨拶を交わすシルヴィ。

だが、エヴァンジェリンの睨みに一瞬ビクリと肩を竦めてしまう。

「それで、何故転入生がこの男の事を知っている?」

それは審問だった。

嘘や偽りなどは許さないと言った目で睨むエヴァンジェリン。

迫力のある彼女にバージルを除いた一同がゴクリと唾を飲んだ。

「私、実はこの方に……バージルさんに昔助けて貰った事があるんです」
「「「っ!」」」
「争いに巻き込まれ、命の危険に晒された時、バージルさんに……」
「それじゃあ、魔法の事もその時に?」
「えぇ、尤も彼が魔法使いではないと知ったのはこの学園に来る前ですけど……」

そう言ってチラッとバージルに横目を見るシルヴィ。

バージルは鯛焼きに夢中なのか、気付いた様子はない。

その話を聞いた高音は、ウンウンと何度も頷いて見せた。

実際、シルヴィは嘘は言っていない。

バージルは覚えていないだろうが、自分が死ぬかと思われた時、命を助けられたのだから。

シルヴィの事を見定め終ったのか、エヴァンジェリンは両手を組んでフンッと鼻息を飛ばし。

ネギはバージルの事を凄いなと思いながら、尊敬の眼差しを向けていた。

すると。

「ヨシッ、そろそろ始めるか」

鯛焼きを全て食い付くしたバージルが、口元を無造作に拭いながら席を立ち、地下室への扉に足を進める。

「何だ。またやるのか?」
「当たり前だ。そうでなきゃ意味がない」

当然だと言い放つバージルに対し、深い溜め息を溢すエヴァンジェリン。

何の話だか分からないネギ達は、地下室に向かう二人に何となくついてき。

エヴァンジェリンはその時、何か閃いたのか、不気味な笑みを浮かべていた。

そして。

「な、何なのよここはぁぁぁぁぁっ!?」

ミニチュアの中にある別荘の空間、明日菜が唖然となっているネギ達の代弁者となっていた。

見渡す限りの海、常夏の空気。

さっきまで自分達がいた薄暗い空間とはまるで違う光景に、魔法を知らなかった木乃香は目を点にしている。

すると。

「おい闇の福音、コイツ等は一体何だ?」
「なに気にするな、お前はいつも通り修行を始めるがいい」
「……フン」

そう言うと、バージルは全身に氣を纏い。

遥か水平線の彼方へと飛んでいった。

「ちょ、ちょっとエヴァちゃん! 一体これは何なのよ! アイツは何をしようとしているのよ!?」

訳が分からないと言った様子食って掛かる明日菜。

それをエヴァンジェリンは片手を出して遮り。

「さて、諸君。先ずは我が別荘にようこそ。いきなりで悪いが少し余興を楽しんでいってくれ」
「よ、余興?」
「あぁそうだ。坊や、いきなりだがここで弟子入り試験を始めようか」
「え、えぇっ!?」

いきなりの申し出に戸惑うネギ。

しかしエヴァンジェリンは笑みを浮かべて大丈夫だと言い。

「心配するな。今回は別に殴り合う訳ではない。寧ろある意味前回より楽かもしれんぞ」

そう言って不敵な笑みを浮かべるエヴァンジェリン。

そして。

「試験内容は、これから起こる出来事に耐え続ける事。な、簡単だろ?」

彼女がそう呟いた瞬間。

水平線が閃光に包まれ、ネギ達のいる別荘は凄まじい衝撃波に揺れ動いた。

一方、学園長室では。

「何……これ」

鯛焼き屋からの請求書に、近右衛門は目眩を起こし、床に倒れ伏せるのだった。










〜あとがき〜
次回は遂に恋愛戦!?

……まさかね。



[19964] 乙女の戦い?其ノ弐
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:80408e4b
Date: 2010/07/08 02:53










エヴァンジェリンを除いて、最初に気付いたのは刹那だった。

遥か前方から見える光の爆発。

アレだけ規模の大きい爆発にも関わらず、未だ音や衝撃波が響いてこない。

刹那は懐から四つの道具を持ってネギ達を守る為に、対魔戦術絶待防御の四天結界独鈷練殻を展開する。

そして。

「「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」
「うぅっ!!」

轟音、次いで襲い来る衝撃に建物は揺さぶられ。

強固な結界に護られていると言うのに、ネギ達はその衝撃波に吹き飛びそうになっていた。

ただ、エヴァンジェリンだけは爆発のあった方角に目を向き、呆れた様子で笑みを溢していた。

軈て衝撃波が収まり、光が消えていき、それに合わせるかのように刹那の張った結界は粉々に砕け散る。

「な、何なのよ今のは」

訳が分からない。

そんな面持ちの明日菜にエヴァンジェリンは鼻で笑う。

「小僧以外誰がこんな芸当が出来る?」
「い、一体何をどうやったらこんな事が……」

今起きた大爆発の原因が、バージルの仕業だと聞かされるネギ達は、どうやったらこんな事が出来るのか、何故こんな事をしているのか。

疑問と驚愕で思考が塗り潰された。

しかし。

「所で坊や、今のは刹那が咄嗟にやった事だから追及はしないが、次からはお前一人で耐えてみせろ」
「え?」
「安心しろ。他の奴等は比較的安全な場所へ移してやる。……坊やは一人ここにいるんだ」

突然エヴァンジェリンから言い渡される言葉に、ネギは表情を青ざめる。

今の衝撃波だけでもあの威力。

もし直撃すれば自分の身体など粉微塵に吹き飛ぶだろう。

それをエヴァンジェリンは一人この場に残ってひたすら耐え続けろと言うのだ。

「ち、ちょっと待ってよ! こんな危ない場所にネギ一人を置いて行ける訳ないじゃない!」

当然、保護者である明日菜はエヴァンジェリンに物申す。

しかし。

「黙っていろ神楽坂明日菜。私は坊やに言っているんだ」

振り返り様に睨み付けるエヴァンジェリンの眼光。

その鋭さに明日菜は後退り、ウッと息を呑んだ。

そして、エヴァンジェリンはネギに向き直り。

「どうする坊や、決めるのはお前だぞ?」

挑発的な笑みを浮かべたままネギに問い掛けるエヴァンジェリン。

ネギは押し黙り、爆発のあった方角へと見つめ続けている。

バージル=ラカン。

自分と同い年でありながら圧倒的強さを持つ者。

自分と同い年でありながら既に世界中を回り、自分の父親である千の呪文の男を探し続けている。

……何もかも、バージルの方が上だった。

覚悟も、力も。

そんな彼に、ネギは次第に父親と同じ何かを感じ、無意識の内に追い掛け始めていた。

エヴァンジェリンは気に入らないだろうが、ネギは自分なりに強くなろうと思い、弟子入りを志願。

強くなりたい。

その思いだけは偽りじゃない。

だから、逃げる訳にはいかない。

「……分かりました。エヴァンジェリンさん、宜しくお願いします」

ネギは振り返ると同時に再試験を受けると言い放った。

エヴァンジェリンは愉快そうに口元を歪ませ、明日菜は止めるよう言い聞かせようとする。

「だ、ダメよネギ! こんな危ないのは……」
「明日菜さん、心配してくれてありがとうございます。……でも、ここで逃げる訳にはいかないんです」

そう言って修行しているバージルに向き直り、立ち続けるネギ。

一歩も動かない様子のネギに、明日菜はウガーッと吠えて。

「じゃあ、私も残る!」
「ほう?」
「あ、明日菜さん!?」
「私はコイツの保護者だもの、一緒に残るわ!!」

ネギの制止も利かず、隣に並ぶ明日菜。

「ほんならウチも」
「お嬢様!?」
「ウチも保護者やし、ネギ君が頑張ろうとしてるから、少しでも応援したいんよ」
「し、しかし……」

何度も避難するよう呼び掛ける刹那だが、動こうとしない木乃香に折れ、彼女を守るために刹那も残る事にした。

「さて、残るわ貴様等だが……」
「……私も、見届けさせて貰います」
「わ、私もです!」
「結局、全員残るわけか……まあいい。刹那、結界を張るのだったら木乃香と一般人だけにしろ。神楽坂と高音は自分で何とかしろ。坊やは……分かっているな?」
「はい!」
「ちょ、何で私も!?」

ネギの勢いある返事に対し、何故自分もと抗議する明日菜。

しかし、そんな事を言う間もなく、巨大な水柱と爆発の衝撃波が明日菜達を襲い掛かった。

再び悲鳴を上げる明日菜達。

「ていうか、一体何やってんのよアイツは!?」

先程から爆発したりと、訳の分からない行動を続けるバージルに、明日菜は憤慨の声を上げる。

それは、この場にいる誰もが思った事。

と、その時。

「「っ!?」」

自分達の頭上に姿を現したバージルに、ネギ達は驚愕した。

どうやら海面にいたのはバージルらしく、全身ずぶ濡れとなっている。

だが、ネギ達が驚いているのはそこではない。

所々怪我をし、バージルが血を流している事に驚いていたのだ。

刃や爆発を以てしても決して傷付く事はないバージルが、全身から血を流して追い詰められているのだ。

あのエヴァンジェリンやスクナですら叶わなかった光景が目の前で起きている。

その意味を知った刹那とネギは目を見開き、肩で息をするバージルを見つめていた。

そして、バージルの姿がネギ達の視界から消えると、今度は別方向に水柱が立ち上り、衝撃が響き渡る。

吹き飛びそうになる程の衝撃波を受け止めながら、ネギは何とか踏み止まった。

「本当、訳分かんない……」

掠れた声で一人呟く明日菜。

すると。

「その内分かるさ、奴の事を見ていれば自ずと……な」

不敵な笑みを浮かべてバージルのいる方角へ視線を向けるエヴァンジェリン。

一向に分からない様子の明日菜、しかし。

「あ、あれは!?」

何かに気付いたのか、刹那はバージルが睨み付けている何もない空間に指を指した。












「ふーっ、ふーっ……」

呼吸を整えて額から流れる血を拭い、バージルは目の前のイメージで生み出したラカンに睨み付ける。

向こうも自分と同様に怪我を負って血を流し、ダメージを受けているように思える。

しかし、ラカンは相変わらず笑みを浮かべたままで余裕を保ったまま。

バージルはそんなラカンに苛つき、全身から氣を放って構えをみせた。

次は此方から仕掛ける。

超スピードで一気に間合いを詰めて、その鼻っ柱をへし折る事を考えるバージルだが。

『…………』
「っ!?」

ラカンが取り出した一枚のカードに、バージルの表情は一瞬強張った。

そして、ラカンの手にしたカードが輝きだし、無数の剣が現れた瞬間。

「チイッ!!」

手にした刃、その全てがバージルに向かって投擲される。

それはまさに剣の嵐。

弾幕の如く降り注がれる剣の雨を、バージルはその身体を以て粉砕する。

蹴りで、突きで、手刀で、或いは歯で受け止めて。

止むことの無い剣の暴風を、バージルは身体一つで受けきっていた。

しかし、ラカンの投げる剣は全て氣を纏わせた特別製。

超高濃度に練り上げられた氣は、バージルの肉体すらも簡単に切り裂いていく。

防御仕切れなかった部分は容赦なく切り裂かれていく。

頬を、腕を、足を、太股を、剣によって切り裂かれて血が流れ落ちていく。

バージルの足下の海面に、幾つもの赤い水滴が落ちていった。

その時。

ラカンの手からこれ迄とは比較にならない巨大な剣が顕現され、バージルに向けて狙いを定める。

しかもその剣にはこれまで以上の強い氣が練り込まれ、ラカンの周囲の空間をネジ曲げていく。

恐ろしく昂った氣に、流石のエヴァンジェリンも苦笑いを浮かべて頬から冷や汗を流し出す。

「ね、ねぇ、これ……ヤバいんじゃない?」

空気の流れで今の状況が途轍もなくマズイ事だと知った明日菜は、ネギに逃げるよう呼び掛けるが。

「…………」

ネギは、その場から一歩も動こうとせず、相対している“二人”を見つめ続けていた。

そして。

「おおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

バージルの雄叫びが轟き、全身から緑色の炎を吹き出し。

右手の掌にエネルギーを収束させていく。

ラカンの氣とバージルの氣が膨れ上がり、共鳴して大気を震わせる。

刹那は木乃香とシルヴィを守る為に、自分が張れる最大の防御結界を展開し。

高音は明日菜を守るよう、自分の得意魔法である影を使って、防御体勢に入る。

残されたエヴァンジェリンも吹き飛ばされないよう障壁を展開する。

その時、エヴァンジェリンはふとネギの方に視線を向けると。

そこには障壁も張らずにただバージルを見つめるネギの姿があった。

全身汗まみれになりながらもその瞳は揺るがず、ただ一点のみを見つめていた。

それを見たエヴァンジェリンはフッと笑みを溢し。

「坊や、障壁を張らなくていいのか?」
「あ、せ、そうでした!!」

ネギに忠告し、障壁が展開したのを確認した。

瞬間。

「エクストリィィィィムッ!!!!」
「来るぞ!!」
「ブラストォォォォッ!!!!」

バージルは右手に収束された光を振り上げ、ラカンに向けて放った。

対するラカンも巨大な剣……斬艦剣を放ち、バージルの放った閃光に向けて投げ付けた。

剣と閃光、二つの超エネルギーがぶつかり合い。

光が溢れ、バージルは勿論ネギ達すらも呑み込んでいった。














「やれやれ、また別荘の修理か……」

光が収まり、瞼を開けたネギ達が目にしたもの。

「な、何よ……これ」
「こんな……事って」

目の当たりにした刹那はガクリと膝を着き、明日菜は呆然となっていた。

いや、二人だけではない。

高音やシルヴィも、目の前の光景に言葉を失っていた。

何故なら。

ついさっきまでどこまでも広がる海だった場所が、広大に広がるクレーターに変わっていたからだ。

青々とした海は見る影もなく、目の前に広がるのは荒れ果てた大地のみ。

どこまでも広がっていた青空は、暗雲が立ち込めていた。
常夏を思わせる空気が、今は寒くすら感じる。

いきなり変わった景色を前に明日菜達は何も言わず、ただ呆然としているだけ。

「あ……う……」

すると、今まで立っていたネギが急に力が抜けたように、その場に倒れ込んだ。

「ちょ、ネギ! 大丈夫!? しっかりして!!」

すぐにネギを抱き抱え、明日菜は何度も呼び掛けた。

息はしている。

生きている事に安心した明日菜は、胸を撫で下ろし安堵の溜め息を吐いた。

あれだけの衝撃波を前に、よく無事で済んだものだ。

すると。

「ふむ、耐え抜いたか」
「っ!?」

声のした方へ振り返ると、そこにはネギの顔を覗き込んでいるエヴァンジェリンがいた。

耐え抜いた。

その言葉を聞いた明日菜はパァッと表情を明るくさせ。

「そ、それじゃあ!」

エヴァンジェリンに合格なのかと問い掛けた。

「仕方あるまい。こちらから出した条件に応えたのだからな」

そう言ってエヴァンジェリンは別荘に向かって歩き始める。

「神楽坂、坊やを連れてこい。丁度奴の修行も終った所だ。纏めて治療してやる」
「え? いいの?」
「奴を治すついでだ。近衛木乃香、お前も来い。お前の治癒術は役に立つ」
「う、うん。分かった!」
「それなら、私も。治療なら私も少しは心得があります」

そう言って、エヴァンジェリンの後を付いてく明日菜達。

しかし、高音だけは。

「……どうして」

酷く困惑した面持ちで、彼女達の背中を眺め続けていた。












〜あとがき〜
えー、サブタイとは全く違う内容になってしまいました。

ネギの試験合格、そしてエヴァンジェリンなんだか随分甘くね?と言う皆様。


全力で見逃せ!!











これ好きやねん



[19964] 乙女の戦い?其ノ参
Name: トッポ◆9bbc37c8 ID:1841492d
Date: 2010/07/07 23:45

「う……ん?」

バージルが目を覚まし、最初に見たのは天井だった。

自分はさっきまで戦っていたのは別荘の外、擬似戦闘が終ったから目にするのは空の筈。

なのにここにいると言う事は。

(闇の福音に拾われたか……)

自分の状況を理解したバージルはベッドから起き上がり、近くに置いてあった服を取って着替えた。

服と言っても、バージルに取っては身動きがしやすい戦闘服、その上市販されているものとは強度が桁違いに特別製。

近右衛門がバージルにここ麻帆良にいて貰う際に渡しておいた服なのだ。

しかし、11着になるこの服もバージルの修行の為にボロボロとなり、殆ど布切れとなっていた。

そんな事など気にも止めず、バージルはズボンに足を通して一通りの身支度を済ませ、扉を開けて通路に出た。

取り敢えず、飯を食いに行こう。

食堂に向かえばエヴァンジェリンの従者であり茶々丸の姉達が何かしらの料理を出してくれる。

それに、今この別荘には近衛木乃香もいる。

彼女の料理をおにぎり以外で食べられるのかと考ると、バージルのお腹から腹の虫の雄叫びが鳴り響いた。

「近衛木乃香は……こっちか」

バージルは一時食堂から木乃香へと標的を変え、彼女の匂いと氣を辿って別荘の中を歩き始める。

まだ完全ではないし匂いに頼る事はあるが、バージルは最近人間や生命から感じられるエネルギーを微弱ながら感じられる様になった。

切っ掛けは、以前修行で鼻を折った時だ。

あの時は荒療治で手で折れ曲がった鼻を無理矢理治したが、お蔭で血が大量に吹き出し、自分の血で匂いを嗅ぎ分ける事が難しかった。

バージルにとって嗅覚は重要な五感の一つ、視覚や聴覚でも充分だが旅の間嗅覚を一番頼っていた時期があった為、随分もどかしい思いをした。

そんな時、バージルは視覚や聴覚といった五感の他に、別の感覚があると気付いた。

それは、人間から感じ取れるエネルギー。

つまり、自分と同じ氣を感じ取れる事が分かったのだ。

それから暫く、バージルは別荘ではなく鼻が治るまでの間、外でこの感覚を鍛える事に決めた。

如何にも武術をやっている厳つい男、しかしその男よりもヒョロリとした優男の方が氣が大きかったり。

中には子供なのにそこら辺の大人より氣が強い者もいたりなど、様々な人間がいる事を知り、バージルは氣による探索を着実に鍛えていった。

しかし、まだまだ荒削りなのもまた事実。

この学園の外からは殆ど氣が感じられないのだ。

故に最近のバージルは氣による探索術を鍛える事に決めた。

それに、いつかこの術が完全なものになれば、千の呪文の男を探し当てる事も可能かもしれない。

自分の目的の為にも、バージルは更なる修行に挑もうとした時。

「ここか……」

足を止めて目の前の扉に向き直り、バージルは片手で扉を開けて部屋に入った。

すると。

「「「っ!?」」」

明日菜や刹那、高音や木乃香が驚いた様子で此方に振り向いていた。

「ふむ、もう起きたか。その分だともう大丈夫のようだな」
「闇の福音、俺はどれ位寝ていた?」
「一時間も経っていないさ、お前に例の薬を飲ませたらあの部屋に放置しとおいたからな。因に傷の手当てはそこの一般人がやっておいたぞ」
「?」

エヴァンジェリンに言われ、バージルはシルヴィに視線を向ける。

すると、シルヴィの顔は真っ赤に染まり、頭から湯気を立ち上らせて俯いていた。

「う、うん……」
「! ネギ!」

その時、ベッドから聞こえてきた呻き声に視線を向けると、そこには痛々しい姿のネギが寝かされていた。

「明日菜さん? あれ? 僕は?」

目を覚まし、自分に何が起こったかを思い出そうと、動かない体に力を入れて起き上がろうとする。

「ま、まだ無茶しちゃダメよネギ」
「そ、そうや。まだ寝とった方が……」
「は、はぁ……」

明日菜と木乃香に押され、ネギは再び横になろうとするが。

「っ!」

ふと、バージルの姿がネギの視界に入り、ネギは横になる直前で起き上がった。

「いえ、やっぱり起きますよ」
「で、でも……」
「僕なら大丈夫ですよ明日菜さん。茶々丸さんの時と違って今回は怪我はしていませんから」

明日菜や木乃香の制止を振り切り、ベッドから起き上がるネギ。

その際、ネギはバージルに視線を向けるが、対するバージルは此方を見てはいない。

そんな彼に若干悔しそうな表情を浮かべるネギに、エヴァンジェリンは楽しそうに口端を吊り上げた。

「さて、まずは坊や、お前の再試験の結果だが……」
「………」
「ま、結果的に見れば合格だな」
「っ!」

アッサリと告げられる合格通知に、ネギは一瞬呆然となる。

しかし、エヴァンジェリンからの合格の言葉に実感を感じると、ネギは拳を握り締めてやったと呟く。

エヴァンジェリンがネギを合格にした理由、それはバージルの擬似戦闘の中にあった。

別に今のネギにバージルの動きを追え等と、流石に言えない。

だが、次第に変わるネギの目付きにエヴァンジェリンは感心を持った。

明日菜や木乃香は何が起きているか分からない状況の中、ネギはバージルとその“相手”を見つめ続けていた。

そう、ネギはバージルが一体誰と戦っているのか見えていたのだ。

それに、最後は気絶したとは言えネギはバージルの修行に起きる衝撃波に耐えきった。

故に、エヴァンジェリンはネギを自分の弟子にする事に決めた。

それに、千の呪文の男の息子を自分好みの魔法使いにするのも面白い。

若干黒い笑みを浮かべながら、エヴァンジェリンは喜びを露にしているネギを見つめた。

すると。

「おい、近衛木乃香」
「え?」
「腹が減った。すぐに支度しろ」

腹が減り、苛立ちを露にするバージルが、木乃香に飯を作れと言い放ってきた。

バージルにとってネギの合格通知などどうでも良い事。

バージルは早く飯が食いたくて苛々していた。

「え? で、でも……」

いきなり飯を作れと言われ、動揺する木乃香。

バージルはそんな木乃香を見て更に苛立ちを募らせる。

「同じ事を何度も言わせるな、お前が言った約束だぞ」

少し口調を強め、バージルは木乃香へと詰め寄ろうとする。

すると、バージルの前に刹那が立ちはだかり、バージルの行く手を遮った。

バージルは舌打ちを打って額に青筋を浮かべる。

腹が減った事により一気に積っていく苛立ち。

滲み出てくるバージルの気迫が見えない刃となり、部屋の内部に亀裂を刻んでいく。

いきなりの一触即発の空気、誰もが息を呑んだ時。

「まぁ、そんなに焦るな小僧。今から行く」

バージルによって張り詰めた空気を、エヴァンジェリンによって宥められて行く。

「………」

バージルにとっては真に遺憾だが、気迫を消して先に食堂に向かい、部屋を後にした。

「ほら行くぞ。あんまり待たせると今度は暴れだすやもしれん。そうなったら洒落ではすまないからな」

エヴァンジェリンに言われ、バージルの後に続く木乃香と刹那。

ネギは明日菜に抱き止められたまま、自分なりにゆっくりと歩き出して部屋を後にし、シルヴィもそれに付いていく。

エヴァンジェリンが全員が出ていったかと確認していると、部屋の隅っこで立ち尽くしている高音が視界に入った。

俯き、肩を震わせている高音に、エヴァンジェリンは特に何も言わず扉を閉めようとする。

「……教えて下さい」
「ん?」

ふと、掠れる程の小さな声がエヴァンジェリンの耳に届いた。

何かと思い振り返ると、そこには酷く落ち込んだ様子の高音が、すがる様に問い掛けてきたのだ。

「どうして、どうして彼は……あぁも」

小さく、耳をすませなければ聞き取れない小さな声。

それを聞いたエヴァンジェリンは、笑みを溢し。

「さぁな、私も良くは分からん……ただ、これだけは言える」
「え?」
「奴は……バージル=ラカンは、悪でもなければ善でもない。ただ純粋なんだよ」
「純……粋?」
「あぁ、どこまでも……な」

それだけを言うと、エヴァンジェリンは先に食堂に向かったネギ達を追い、部屋を後にする。

残された高音はただ一人、部屋の中で。

「純粋……か」

ポツリと、呟いた。












夜。

別荘の広場で、食後を終えたバージルは暗鬱な表情で曇った夜空を見上げていた。

原因は、エヴァンジェリンから言われた暫くの別荘の使用禁止。

今回の一件で別荘はボロボロとなり、修理を必要となってしまった。

もしこの状態で今回の様な擬似戦闘を行えば、間違いなく別荘は使え物にならなくなる。

快適な修行場を失うのはあまりにも痛い、バージルは渋々ながらエヴァンジェリンの要求を呑み、暫くは外での修行に専念する事にした。

「……まぁいい。それならそれで鍛え概がある」

そう自分に言い聞かせ、バージルは立ち上がり、就寝しようと別荘の中へと向かおうとした時。

「?」

ふと、前に佇む人影に足を止めた。

「高音=D=グッドマン……」
「……貴方に、聞きたい事があります」
「何だ?」
「貴方は、一体何の為に戦っているのですか?」
「は?」

目の前の少女、高音から聞かれる戦いの理由。

何の為に戦うのかと問われたバージルは、目を丸くさせて僅に戸惑った。

「別に……ある奴を超える。ただそれだけだ」

それがどうしたと、バージルは高音に逆に問い掛ける。

すると。

「超える為、その為に……あれだけの修行を?」
「当たり前だ。そうでなければ意味がない」

バージルの戦いの理由を聞いた高音は、何故そこまでするのか分からなかった。

誰の為でもなく、ただ目標を超える為に戦う。

分からない。

ただ立派な魔法使いになる事だけを考えていた高音には、バージルの考えが分からなかった。

すると。

「そいつはな、壁なんだよ」
「壁?」
「あぁ、それもとびっきりにでかく、恐ろしく分厚い壁だ。どんなに叩いても壊れないし、どんなに飛んでも越えられない」

握り締めた拳を掲げ、空へと睨み付けるバージル。

「だから、俺は戦う。戦って強くなって、いつか壁を粉砕して、飛び越えるまで、ずっとな……」

だから、俺はこれからも戦い続ける。

そう言って空を見上げるバージルの瞳は、どこまでも真っ直ぐだった。

(あぁ、そうか……漸く分かった)

そんなバージルを見て、高音は一つだけ分かった事がある。

この少年、バージルはどこまでも負けず嫌いなんだ。

喩え負けても立ち止まらず、ただがむしゃらに突き進む。

子供。

エヴァンジェリンの言っていた純粋という言葉の意味を何となく理解した高音は、どこか嬉しそうに微笑んでいた。

しかし。

(それは、きっと誰にも曲げられる事は出来ない)

純粋、故に折れ曲がる事はない。

それはまさに、信念と呼べるものだった。

バージルには、悪も善もない。

ただひたすら壁を超える為に戦い続けるのみ。

それはある意味では、誰にも出来ない事。

高音は羨ましかった。

ただ魔法使いの家系に産まれ、言われるがままに立派な魔法使いになるよう言われてきた。

確かに、かの千の呪文の男のような立派な魔法使いになりたいと思っていた。

だが、そこには自分の信念など無かった。

義務付けられた価値観、ただ目指すだけの日々。

高音は、本当にこれで良いのかとずっと考えていた。

それを、この少年が気付かせてくれた。

「……話は終りだ。俺は寝るぞ」

バージルは自分で何を言っているんだと突っ込みながら、別荘の中へと入っていく。

その際。

「あの!」
「?」
「ありがとうございました!」
「…………」

ありがとう。

いきなり言われた高音からの言葉に、バージルは一旦足を止めるが。

「……ふん」

バージルは振り返らず、自分の部屋へと向かっていった。

まだ自分は、世界の事など知らない未熟者。

だから、高音は自分だけの信念を持つ事に決めた。

誰かに言われた事や義務でもない。

自分だけの……信念を


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