March 15, 1996

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■怒声浴び幹部、額を床に---HIV和解応諾
 「謝罪、もっと心の底から」「犠牲者に土下座を」

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 《写真》  バイエル薬品との話し合いを終え、支援者たちに迎えられる東京、大阪HIV訴訟原告団の代表者たち。手前は川田龍平さん =14日午後1時48分、大阪市淀川区宮原3丁目で、河合博司撮影

 「救済への大きな一歩だ」「これから本当の償いをしてほしい」――製薬会社の謝罪を聞いて、原告や弁護士らが訴えた。輸入血液製剤でエイズウイルス(HIV)に感染した血友病患者らが損害賠償を求めて起こしたHIV訴訟で、東京と大阪、熊本にある被告企業の幹部が十四日、原告の前で頭を下げた。国も和解受け入れを明らかにしている。提訴から約七年。その間に、多くの命が失われ、治療態勢の確立や真相究明など、積み残された課題も多い。

 ☆ミドリ十字

 《関連記事》「ミドリ十字の製品、使いません」---稲城市立病院

 「(薬害エイズの)被害を起こした加害責任を認め、おわび申し上げます。真相究明に積極的に努力し、再発防止に最善の努力をします」。大阪市中央区のミドリ十字本社九階会議室。川野武彦社長は原告ら約六十人を前にそう話し、深々と頭を下げた。

 「死んでいった人たちに対し、土下座してもらおう」。原告の中から声が飛ぶ。社長以下幹部六人がいすから立ち上がり、原告らの面前にひざまずいて額を床にこすりつけた。

 「もっと頭を下げてください」「地面に頭をつけろ」。幹部らは怒りの声を浴び続けた。

 「恒久対策やりますね」「ずっと安心して生きていける恒久対策ですね」。川野社長は座り込んだまま「やります」と答え、一時間半近く続いた会見は終わった。

 会見は午後三時すぎ、原告患者の側が口火を切る形で始まった。大阪訴訟の原告代表、家西悟さん(三五)が「我々が来るたびにシャッターが閉められてきた。和解案を深刻に受け止め、薬害を二度と繰り返さないための対策を明らかにし、わびてほしい」と訴えた。

 東京の原告代表も「殺人的行為を犯した経営者の顔を見に来た。こみあげてくる怒りを抑えるのに精いっぱいだ」と思いをぶつけた。原告らの間にすすり泣きが広がった。

 これに対し、川野社長は用意した文書で「当社は裁判所の所見を重く受け止めている。和解案を受諾する方向で、全面解決に向けて最大限の努力を致します」と読み上げた。これをきっかけに、原告らがせきを切ったように感情を爆発。

 「ペーパーを読むのをやめて、真心のこもった謝罪をしてほしい」「毒薬を打たされて死んでいった息子の気持ちがわかるか。あなたも人の親でしょう」

 長男を亡くした大阪訴訟の原告、岩崎和美さん(四四)は「息子と同じ苦しみを、あなたたちも味わうべきです」と声を震わせ、「人殺し」と叫んだ。

 実名を名乗り出た東京訴訟の原告、川田龍平さん(二〇)の母親悦子さん(四七)が強い口調で迫った。

 「本当は、あなたたちが私たちの所まで来て、手をついて謝るべきじゃないんですか。なぜ私たちが会社まで来なければならなかったんですか。加害責任をはっきりと認めなさい」

 ☆バクスター

 外資系企業の一つ、バクスター(東京都千代田区)では、五十人余の原告がボブ・ハーレイ社長ら同社幹部と面談し、直接、謝罪の言葉を受けた。「物心両面で耐えがたい苦痛を与え、心からおわび申し上げます」という声明が読み上げられると、原告からは「言葉だけでなく、具体的な対応を進めてほしい」との意見も出たという。

 本社から出てきた原告団は、待ち受けた支援者らに拍手で迎えられた。弁護団の報告に続き、原告や家族らは次々とマイクを握ると、「今までの会社側の対応を考えると、少し明かりが見えたかなあ、と思う」「亡くなった仲間や病床についている仲間に報告できるよう、会社はこれから具体的な行動で示してほしい。ここをスタートに頑張りたい」と、全面解決へ向けての思いを訴えた。

 だが、会社側が法的責任について明言しなかった点に、不満の声も上がった。「目に見える形の対応はまだ出ていない」「人の命をどう思っているのか。この心のわだかまりを少しでも消せるよう責任をとってほしい」と、被害者の苦しみをのぞかせた。

◇ ◇ ◇

 バクスターのハーレイ社長は原告らと会った後、厚生省で記者会見。同社が血友病治療で先導的役割を果たしてきたことを強調したうえで「何の落ち度もないのに痛ましい病に感染してしまった方々並びにご家族に対し、改めて心からおわび申し上げる」と述べた。

 バイエル薬品のボルフガング・プリシュケ社長は、原告団との交渉後、大阪市淀川区の同社で記者会見。通訳を介し、「(和解協議では)支払い方法など細かな問題が残っているが、早く解決できるだろう」と正式和解の見通しを語った。「初めて原告団と接し、熱いものを感じた。みなさんの悲劇に心からおわび申しあげたい」と述べた。

 



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■釣りの人に助けられたの---千葉の路上で迷子のオットセイ君

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 千葉県白井町の路上で十三日に見つかったオットセイは、町内の男性が茨城県へ釣りにいった際に連れ帰り、自宅で世話していたところ、逃げ出したもの、とわかった。男性から十三日夜、町役場に連絡があった。

 男性は十日、茨城県神栖町の鹿島港付近で家族と釣りをしていたとき、ゴミにまみれて漂っているオットセイを見つけ、すくい上げたという。

 かなり弱っていたため自宅に連れて帰り、元気になるまで面倒をみることにした。十二日夕方、庭に置いていたタライから逃げ出したらしいという。


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■慰安婦の日常追った映画の監督のビョンさん来日

 「ハルモニの日記代筆する気持ち」 Photo

 《写真》  映画作りについて語るビョン・ヨンジュさん=東京都新宿区で

 日本軍の慰安婦にさせられた韓国女性の日常を追った記録映画「ナヌムの家」の女性監督ビョン・ヨンジュさん(二九)が日本での四月の公開を前に来日し、都内で開かれた記念上映会で、映画づくりへの思いを語った=写真。

 「ナヌムの家」は、六人のハルモニ(おばあさん)が共同で暮らす家だ。そこに住むハルモニたちが「日本は私たちが死ぬのを待っている」と韓国政府に直接訴える場面もある。中国の元慰安所では「日本軍人の相手をするために性器が小さいから、と切られた」との元慰安婦の証言も出てくる。

 映画の特色は、残酷な事実や訴えとは別に、普通の人間、女性としての「つぶやき」と日常を映していることだ。ビョン監督は、カメラを持たないで一年以上通い続け、カメラを回し始めたのはその後だった。

 ハルモニの一人は映画のなかで、「学校を続けて歌手になりたかった」と話している。ナヌムの家の忘年会の場面では「日本人は私たちが朝鮮人だから好き勝手している」との声も、つぶやくように聞こえてくる。

 上映後、ビョン監督は「彼女たちの日記をフィルムで代筆するような気持ちだった」と語り、「特別な目」で見られがちな元慰安婦について「かわいそうな人とは思って欲しくない。映画の中で『死にたい』と繰り返していたハルモニは、今はがんばって生きようと思っているし、ごはんも嫌と言っていた別の女性はつい最近、食べ過ぎで消化不良も起こしました」と笑わせた。

 日本公開は四月二十七日からで、東京、福岡から始まり、大阪、名古屋でも上映される。問い合わせはパンドラ(電話〇三―三五五五―三九八七)へ。


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■神戸市助役が焼身自殺---須磨海岸で灯油かぶり

 十四日午後八時四十分ごろ、神戸市須磨区須磨浦通四丁目の須磨海岸の方で火の手が上がっているのを、神戸市秘書課の助役担当運転手田中源治さん(六〇)が見つけた。現場にかけつけたところ、神戸市垂水区本多聞二丁目、神戸市助役小川卓海さん(六四)があお向けに倒れていた。一一九番通報したが、小川助役は全身やけどなどですでに死亡していた。現場近くにポリ容器(二十リットル入り)が落ちており、灯油が四分の一ほど残っていた。上着とネクタイ、靴も置いてあった。須磨署は小川助役が灯油をかぶって焼身自殺したとみて、動機などを調べている。遺書は見つかっていない。

 小川助役は阪神大震災後の復興計画で、市街地再開発や区画整理などの都市計画事業を担当していた。

 須磨署の調べによると、小川助役はこの日午後六時四十分ごろ、帰宅するため、田中さんが運転する公用車で神戸市役所を出た。途中、小川助役が「灯油がないんや」と話したため、数カ所のガソリンスタンドを回り、長田区内のガソリンスタンドで容器といっしょに灯油を買い、トランクに入れたという。

 午後七時四十分ごろ、JR山陽線須磨駅近くで、小川助役が「息子が近くまで迎えに来るので」と灯油入りの容器を持ち、一人で車を降りた。田中さんは市役所に戻ったが、助役の様子がおかしかったため、JRの電車で須磨駅まで行き、付近を捜していたという。

 田中運転手は「一カ月ぐらい前から沈みがちだった。『眠れない』などと話していた。疲れているんだろうと思った」と話しているという。

 神戸市広報課によると、小川助役はこの日午前、神戸市中央区のポートアイランドにある市立中央市民病院の十五周年記念の植樹式に参加した。帰り際にある職員に直接話し掛ける場面があり、「なごりを惜しんでいる感じがした。どうしてかな、といつもと違う感じがなくはなかった」と別の職員は話す。午後一時に市役所に入り、開会中の議会に備え、担当する住宅局などの説明などを受けた。

 ☆震災復興で心労か

 小川助役が自殺した十四日は、震災復興区画整理事業や再開発事業が神戸市都市計画審議会で承認された時から、ちょうど一年の日だった。当時、「あまりに性急」「住民の合意がない」と地元住民二百人が押し掛け、市役所は騒然とした雰囲気だったが、助役はその審議会の会長を務めていた。

 各地域で事業開始に向けての合意が遅れていることを気にしながらも、日ごろは「そのうち、まとまる。紆余(うよ)曲折のひとつだ」と話していた。

 神戸市の笹山幸俊市長は十四日深夜、「大変突然なことで驚いている。震災の復旧・復興についてはなお課題はあるものの一定の方向づけができ、小川助役にも大きな役割を果たしてもらっていた。国など関係機関への働きかけなどで精力的に職務に当たっており、疲れていたのかもしれない。ただただごめい福をお祈りする」という談話を発表した。


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■東京都が出店決める前から業者に「協賛金を」呼びかけ
 有楽町の「フォーラム」記念事業

 東京・有楽町の旧都庁舎跡地に建設中の「東京国際フォーラム」の開館記念事業のために、都が建物内への出店を希望している業界などを対象に、業者選定が終わる前から協賛金を呼びかけていることが十四日の都議会予算特別委員会で明らかになった。佐藤裕彦議員(自民)が取り上げた。

 都によると、記念事業はフォーラム開館の来年一月から二カ月余にわたり、式典や演劇、コンサートを予定。予算十五億円のうち三億円を企業の協賛金で賄う計画だ。

 協賛金は一口百万円。正式には四月に発足する記念事業実行委員会が集めるが、今年に入って都生活文化局長名の文書で「事前お願い」を始めたという。

 対象は百数十社。ゼネコン、銀行など大企業のほか、飲食店や自販機を扱う業者など、フォーラムでの営業対象業種も含まれ、自販機については、まだ業者選定が終わっていない。

 佐藤議員は「官による民間へのたかりではないか」と追及。都側は「望ましいことではない」と答弁し、対応を協議することにした。

 東京国際フォーラムは建設費千六百五十億円の総合文化施設。五千人収容の大ホールなどがある。


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■皇室番組 “縮小”へ---視聴率争いで早朝帯に移行

 日本テレビ、TBS系の皇室番組が、ともに四月から放映時間帯を早朝に移し、日テレ系は時間枠も半分に短縮する。激しい視聴率競争の中で、新たに始めるバラエティー番組などに時間帯を譲る格好だ。

 日テレ系の番組は、日曜日の午前十一時から三十分枠の「皇室グラフティ」。四月からは午前六時からの十五分枠に縮小される。TBS系で三十六年間続く長寿番組「皇室アルバム」も、土曜日の午前九時半から同六時四十五分に移る。

 一方、新聞やニュース番組では最近、両陛下の地方訪問や皇族の記者会見、宮中晩さん会なども扱いは小さく、「皇室離れ」は宮内庁にとって大きな気掛かりだ。同庁の森幸男次長は「皇室の活動をどう国民に知ってもらうかは、宮内庁にとっても重い課題。メディア任せでなく、今後は我々も何が出来るか、検討していきたい」と話している。


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■「うその証言苦しかった」---オウム・柴田被告

 十五日に初公判を迎えるオウム真理教幹部の上祐史浩被告(三三)に命じられ四年前に裁判でうその証言をしたとして、偽証罪に問われた元信徒柴田俊郎被告(四七)の拘置理由開示が十四日、東京地裁で行われた。柴田被告は「つらくて苦しかったが、日本や人類を救済するための修行だと信じて、裁判の場で虚偽の証言をしてしまった」と泣きながら陳述し、初公判を前に自分と教団の罪を認めた。


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■優佳ちゃん誘拐事件 女性2被告、実刑6年

 昨年八月、東京都足立区内で小学二年生の景山優佳ちゃん(八つ)を誘拐して八百万円を要求したとして、身代金目的誘拐などの罪に問われた無職舩橋紀江(二一)、同遠山あゆみ(二一)の両被告に対する判決公判が十四日、東京地裁であった。山田利夫裁判長は「自堕落な生活の結果、多額の借金を抱えながら、ぜいたくな生活にあこがれて犯行に及んだ」と述べ、両被告にそれぞれ懲役六年(求刑は各懲役八年)の実刑を言い渡した。

 判決によると、二人は定職につかず、自動車ローンやマンションの賃借費用などで多額の借金を抱えたことから、まとまった金を入手するため誘拐を計画。一九九五年八月七日午後四時半ごろ、東京都足立区竹の塚三丁目の路上で、通りかかった優佳ちゃんに薬局の場所を聞くふりをして話しかけ、車に乗せて誘拐した。その後、優佳ちゃんの自宅に電話をかけて母親に八百万円を要求し、八日午後六時四十三分ごろ、台東区で逮捕されるまで、優佳ちゃんを車に乗せて連れ回した。

 判決理由で山田裁判長は、二人の関係と刑事責任について検討、遠山被告はアルバイトの給料のほとんどを舩橋被告に渡したりしていたことなどから、舩橋被告が求めれば遠山被告が応じるという状態にあったと認定した。


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■18歳の少年が父親殺害容疑---札幌東署が逮捕

 札幌東署は十四日午後、札幌市東区の少年(一八)を、会社員の父親(四四)を自宅で殺した疑いで逮捕した。少年は長男で、父子二人暮らし。今月上旬に道立高校を卒業したばかりで、父親から夜遊びをとがめられたのが動機とみられる。

 調べによると、同日午前三時三十五分ごろ、少年から「自宅で父が血まみれになっている」と一一〇番通報があった。同署員が駆けつけたところ、父親はすでに死んでいた。

 少年は当初、「自分の部屋で就寝中、茶の間で飼っている子犬が激しくほえたので目を覚ましたところ、父親が血だらけになって部屋に倒れ込んできた」と話した。しかし、その後の調べで「夜遊びをとがめられ口論となり、護身用に持っていた刃物で刺した」と供述した。

 犯行に使われたとみられる刃物は、自宅から見つかった。司法解剖の結果、父親の死因は失血死だった。


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□青鉛筆

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 ▽小笠原諸島の父島にある港で重さ十・五キロもある巨大な廃油ボールが見つかった。長さ四十センチ、幅二十センチでラグビーボールのよう=《写真》=河合真人撮影。第三管区海上保安本部が一カ月かけて成分を調べ、十四日にインドネシアの原油と分かった。

 ▽指で触ると、表面は粘ついていて、タールのにおいが強い。できてからまだ新しく、一度海岸に漂着したらしい。表面には小さな石やサンゴが張り付いていた。

 ▽タンカーがタンク内の原油や汚れを洗い流した水を海上に捨てると、油が波風にもまれて固まり、ボールができる。三管は「粘っこく犯人を捜します」。


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