参院選も終盤に入りました。今朝の産経の情勢分析では、民主、国民新両党だけでは過半数に届かない見込みとでましたが、さて、どうなるのか。昨日の時点で各種情報を統合したところ、産経の見立てとしては民主党の獲得議席は51プラスマイナス3~4議席となのそうですが、菅内閣の支持率(産経は43%、朝日は39%)はまだ下落を続けているので、あと5日の間にさらにこの数字が動く可能性も当然あります。
まあ、こういう時期なので、個別の選挙区についてあれこれ書くのは控えますが、3日にK候補の応援演説で甲府市入りした菅直人首相が興味深いことを述べていたので紹介します。菅氏は自分自身のことを「理屈が立つ」人間だと思っていることが分かりました。ふーん。そして、誰を人生の師と仰いでいるかも。まあ、これはリップサービスでしょうが。この二人が仲がいいとか、意見が合うとか聞いたことはないので。
むしろ、選挙後に、小沢一郎前幹事長の参院に対する影響力を削ぎたい菅氏としては、このK氏は煙たい存在というか、いない方が助かるぐらいのことは内心考えているかもしれませんしね。まあ、本日はこれ以上、踏み込みません。以下、菅氏がK氏を持ち上げた部分です。
「山梨のみなさんに支えられたK参院議員会長の力が今の政権を生み出した。どちからというと、菅直人というこの私は、理屈は立つけど、どうも情が足りないとこういう風に見られてもおりますし、もしかしたらそうしたことが私の欠点かもしれません。K会長は時折『菅さん、あんたが口が立つのは分かるけど、人はそういう理屈だけで動くんじゃないんだよ』。こういうことも本当にご指導いただいてきたことが、今日のまさにこういう立場に立たせていただくことになった大きな大きな、まさに私にとっては人生の師匠であり、先生であるこということを改めてお礼を申し上げたい」
ところで、本日のエントリの主題はこの部分ではありません。私が演説メモを読んでいて、どうにも気になるなと感じたまのは、以下の民主党政権の実績アピールの部分でした。確かに、この新しい事態を歓迎し、期待している向きもあるのでしょうが…。
「中国の観光客がビザをとってやってくるんですが、従来だと、日本のレベルで言えば、年収2000~3000万以上の人でないと、ビザが下りなかった。日本の水準で言えばですよ。それを今度は水準でいえば4、500万、中国は元ですから数字はその通りではありませんが、つまりビザを発行する範囲を10倍ぐらいに広げた。どうなるでしょう。これから中国のみなさんが100万人、それが200万人、300万人と日本に観光に来て、大好きなところは富士山なんですよね。北海道なんですよね。そういう所に大勢来てもらって、そしていろいろなものを買ったり、見たりしてもらうことで、ある意味の経済、日本の経済に成長につなげていくことを実は鳩山政権の時から考えていたから、7月1日からこれが実行できることになりました」
…山梨県は、富士山を見たい中国人にとって絶好の観光スポットだから、経済効果がありますよ、というわけですね。周知の通り、政府は1日から中国人観光客への査証(ビザ発給)条件を大幅に緩和し、従来の年収25万元(約340万円)以上の高所得層から6万元(80万円)程度の中所得層にまで広げました。これによって、ビザ発給対象は約10倍となり、約1600万世帯に拡大したそうです。
中国人観光客が増えること自体は、別に悪いことではなく、経済効果も望めるでしょうし、多くの中国人が日本を実際に見ることにより、対日偏見を和らげるという効果もなくはないでしょう。ただ、菅氏が手放しで称賛するように「100万人、それが200万人、300万人」と増えることがそんなにいいことばかりなのか。
経済発展を遂げる中国に比べ、日本経済は元気がないとはいうものの、それでも不法就労の問題などは後を絶ちません。高所得層に限っていたこれまでですら、失踪したツアー客はいたのですし。また、気にしすぎかもしれませんが、これが中国人永住者の増加につながるのではないかという懸念も覚えます。参院選では争点になっていませんが、菅氏も仙谷由人官房長官も、永住外国人への地方参政権付与に前向きなのだから。
この外国人参政権問題について、5日付の朝日は社説「多様な社会への道を語れ」で、憲法解釈を持ち出して次のように主張しました。
《「憲法違反」との主張もある。しかし、1995年2月の最高裁判決は、憲法は外国人地方選挙権を保障も禁止もしておらず「許容」している、と判断したと読むのが自然だ。付与するかどうかは立法政策に委ねられている》《カネやモノ同様、ヒトも国境を軽々と越えゆく時代。日本はどんな社会をめざすのか》
民主党や公明党などの参政権付与法案は対象に、過去に日本国民だった在日韓国・朝鮮人など歴史的経緯のある特別永住者だけに限っていません。日本に経済的基盤を置いているなど一定条件の下で、法相が許可した中国人など一般永住者も含めているのです。これから外国人参政権について考えるときは、言語や文化・習慣面でかなり日本人と同化している「在日」の人たちよりも、ニューカマーとしての中国人とどう向き合うか、付き合うかを考慮していく必要があると考えます。
その意味で、菅氏の姿勢に引っかかったのでした。菅氏は、「国というものが何だかよく分からない」と言いつつ、同時に何度も「この国を開く」と強調していた鳩山由紀夫前首相と、こうした問題では同じ考え方のようですし。まあ、朝日も同じであるかもしれませんが。
一方、朝日が社説で自説補強のため引用した最高裁判決を主導した園部逸夫元最高裁判事は、こうした民主党の参政権付与法案や中国人問題について何と言っているか。以前のエントリでも書いていますが、園部氏は、中国人への参政権付与について「ありえない。困ったな」と批判し、判決の真意をこう語っています。
「(判決で対象を)はっきり朝鮮の人と言わなかったのは、最高裁判決でそんなこと言うわけにはいかないから」
「移民が来て、数年住んでそれで選挙権を持つと、だんだん日本は中国人の国になっちゃうから、それまで賛成しません。今、来てから十年、二十年いて、はい選挙権なんて、そんなこと全然考えていない」
「(参政権付与法が仮に成立したとして)大阪に三十年住んでいた在日韓国人がある日、突如、東京に来て三カ月住んだと。それでは東京都の選挙権を与えるかというと、とんでもない話だ。そんなことをやっていたら、無茶苦茶になってしまう。それは法律で、本当に制限的にしておかなければならない」
…まあ、この手の問題は有権者の関心は消費税などお金の問題に比べて有権者も政治家も関心は薄く、今回の参院選でもあまり取り上げられていません。しかし、菅氏やその内閣が国という枠組みをできるだけなくし、「自立した市民が共生する社会」の実現を目指す以上、今後、こうした国家観・社会観にかかわる問題は繰り返し提起されていくのではないかと思っているのです。
by 王マイゴッド
短信・仙谷氏の戦後補償発言と…