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「あんな鳴き声初めて」 農家ら叫び悲痛

(2010年5月9日付)

 「ついにうちでも」「一般車両も消毒を受けて」。口蹄疫の感染疑いが確認された農場の約9割が集中する川南町で“見えない敵”との戦いに神経をすり減らす畜産農家らが8日、宮崎日日新聞社の電話取材に応じ、感染への恐怖や殺処分の精神的苦痛を口々に訴えた。そうした声の一方で、外遊から帰国後、10日の来県を決めた赤松広隆農林水産相には「今更どんな顔で来るのか」と怒りの声も上がった。

 「注射を打たれた豚は鳴くんです。あんな鳴き声を聞くのは初めてで、胸が詰まった」。感染疑いの豚が確認された養豚農場に勤める30代男性は、殺処分の様子を切々と語った。今も畜舎の防疫作業は続くが、「(何も生み出さない仕事を続けるのは)むなしい」と話す。

 別の養豚農場では埋却場所の選定が遅れ、殺処分が始まっていない。補償を受けるには1頭ずつ評価を受ける必要があり、それまでは豚を生かし続けなければいけない。30代経営者男性は「処分されると分かって飼い続けている。今は餌を食べられるだけ食べさせてあげたい。味わったことのない気持ちだ」とつぶやいた。

 連休中、赤松農水相が中南米を外遊するなど政府の危機管理態勢にもいら立ちの声が上がる。

 別の感染疑い確認農場を経営する30代男性は「国から見捨てられているとさえ感じる。この緊急事態に農水大臣が外遊に行くなんてあり得ない話」。和牛繁殖農家の30代男性は「国の対応は遅すぎる。対岸の火事くらいにしか思っていないのではないか」と憤る。

 感染疑いが見つかっていない農家もウイルスの恐怖におびえる日々。ある養豚農場で働く女性は「どこでウイルスを持ち帰るか分からず、買い物に出掛けることすらちゅうちょしている」と日常生活への影響も口にした。

 30代の養豚農家男性は「人に感染しないと宣伝したことで、一般の人にこの病気の怖さが伝わっていない。もはや風評被害を心配している場合ではない」と危機感を募らせる。

 ウイルスが人や車の移動で拡散している疑いが強いとの見解を専門家らが示したことを受け、JA尾鈴養豚部会の遠藤威宣部会長(56)は「一般の車も消毒するなど、本県畜産の危機だという意識を広く県民に共有してほしい」と呼び掛けた。

【写真】川南町の農場で殺処分した家畜などを埋却するため、重機で穴を掘り、資材を運ぶ作業員たち=4月22日