総理大臣杯も天皇賜杯もなし…名古屋場所「感動」できない

陸奥部屋へ出げいこに訪れた白鵬は疲れた表情を見せた

　日本相撲協会は７日、野球賭博問題に配慮し、大相撲名古屋場所（１１日初日）の千秋楽で幕内優勝力士に贈られる天皇賜杯、内閣総理大臣杯など外部からのすべての表彰を辞退することを発表した。１９０９年に優勝制度に伴う表彰が始まってから辞退は史上初。一方、警視庁はこの日、野球賭博の実態を解明するため、関係先の相撲部屋など約３０か所を一斉に家宅捜索した。ＮＨＫの中継中止に続く衝撃の事態。野球賭博で角界が払った代償はあまりにも大きい。

　すべての力士があこがれる天皇賜杯が土俵から消える。協会が野球賭博問題で史上初めて、外部からのすべての表彰を辞退した。中でも賜杯は、全力士のあこがれであり目標。１９２６年の授与から大正天皇、昭和天皇の崩御でも贈呈されてきた栄えある銀製のトロフィーが、不祥事でなくなった。ＮＨＫの生中継中止に続く歴史的な傷を角界は負った。

　辞退の流れは６日に始まった。コカ・コーラと全農が撤退を決定した。追い打ちをかけるようにＮＨＫが中継中止を決定。５３年から５７年間にわたり中継してきた公共放送の通告は、協会にとって衝撃的だった。外部からの強い風当たりに「再生への一歩を踏み出したにすぎない状況で協会外の表彰を受けるのは適切ではないと判断」と協会。最終的にこの日、村山弘義理事長代行（７３）が持ち回り理事会を開き、辞退を決断した。

　外部からの表彰の辞退で、晴れの千秋楽は味気ない土俵になる。名古屋場所で予定されていた幕内優勝力士への表彰は、モンゴルなど世界６か国からの授与を含め２３。金一封は１２あり、それだけでも推定６００万円が泡と消えた。さらには、宮崎県知事賞では宮崎牛の特選肉１頭分など、お相撲さんならではの副賞に館内は、どよめきに包まれてきた。また、横綱・貴乃花（現親方）が最後の優勝となったＶ２２を飾った０１年夏場所では、当時の小泉純一郎首相が「感動した！」と絶叫するなど数々のドラマが表彰式では生まれてきた。

　今回は場所を締めくくる劇的なシーンがなくなる。優勝力士が授与するのは協会が表彰する優勝旗と賞状だけ。通常なら３０分ほどかかる晴れの式典が今場所は君が代の斉唱も含め、わずか数分で終了する。優勝力士のインタビューがなくなることも濃厚で、名古屋場所担当の二所ノ関部長（元関脇・金剛）は「千秋楽に来るお客さんに申し訳ない」と謝罪した。

　協会が支給する優勝賞金１０００万円、三賞表彰（各２００万円）は通常通りとなる。ただ、辞退したことで、賜杯へ優勝力士の名前の刻印は未定。優勝しても賜杯に空白が生まれる異常事態も想定される。さらに、優勝額の贈呈の見送りも検討している。優勝１４回の横綱・白鵬ならまだしも、今場所で初優勝力士が生まれれば、やりきれなさは残る。「連帯責任のみそぎの意味です」と二所ノ関部長。野球賭博が次から次へと角界に負の歴史を生み出している。