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きょうの社説 2010年7月8日
◎消費税増税の公約 世論の反対重く受け止めよ
本紙の世論調査で、消費税率引き上げ反対が55・3%に達し、賛成の37・2%を大
幅に上回ったのは、景気回復の足取りがおぼつかないなかで、消費税を上げることへの疑問を多くの国民が抱いていることの表れである。大方の国民が消費税の引き上げで、菅直人首相の言う「強い経済」や「強い社会保障」の実現が可能と納得できているなら、これほど反対は多くなかったはずだ。民主党はもとより、消費税引き上げを公約に掲げる自民党も、反対の世論を重く受け止めてほしい。国民は消費税をめぐる菅首相の発言に対して不信感を強めている。「消費税の引き上げ はしない」というこれまでの民主党の主張をあっさり転換したうえに、内閣として満足な検討をした形跡がないこと、国民に不評と見るや低所得者に税金を還付する負担軽減策を言いだし、肝心の数字が二転三転したことなどがその理由だ。いかにも場当たり的であり、発言の軽さは鳩山由紀夫前首相とさほど変らない印象すらある。 参院選で、連立与党が過半数を維持した場合、菅政権は信任を得たとして、消費税引き 上げを既定路線にするならば、国民も一票を投じる先について考え込まずにはいられないだろう。自民党も「消費税率10%」を公約にしているために、二大政党のどちらも増税反対の世論が反映されないところが何とも悩ましい。 菅首相は各地の応援演説で、財政危機に陥ったギリシャの例を引いて、財政再建の必要 性を強調しているが、ギリシャと日本の財政、経済状況は全く違う。ギリシャ国債の85%は海外投資家に買われているのに対し、日本は95%を国内投資家が保有している。海外投資家の動向に左右される恐れは全くないのであり、根拠のない危機をあおるのはやめるべきだ。 財源不足と愚痴をこぼす前に、「予算の組み替えでねん出できる」と言い続けてきたこ とへの真摯な反省と、ばらまき型のマニフェストを見直す「仕分け」をせねばならない。ほとんど実績を挙げていない行政改革に取り組む必要もある。自分たちの失敗のツケを、増税で払わされてはたまらない。
◎北方領土で軍事演習 試される菅政権の戦略
日本政府の中止要求を無視して、ロシアが北方四島の択捉島で軍事演習を行った。メド
べージェフ大統領が今年2月に決定した国防の基本指針(新軍事ドクトリン)は、ロシアに対する領土要求を軍事的脅威とみなしている。今回の軍事演習は、北方四島の主権を主張する日本をいわば敵国扱いした威圧的な行動といえ、到底容認できない。カナダでの日ロ首脳会談で、菅直人首相は、北方領土問題に関し「鳩山由紀夫前首相が 持っていた強い思いをしっかり受け止め、取り組んでいきたい」と述べ、首脳レベルで解決する意欲をみせた。しかし、菅首相はまだ、領土問題について自身の考えや取り組み方を語っていない。これまでの経緯や約束事の中身を検討して判断するという状態である。菅首相が今後、どのような対ロ外交戦略を描き、どれほどの覚悟を持って出てくるのか、軍事演習でロシア側に試された形である。 鳩山前首相は、四島一括返還とは異なるシナリオを描いていたとされるが、辞任で交渉 は仕切り直しとなり、メドべージェフ大統領は「双方が受け入れ可能な建設的解決策を模索したい」と、従来の見解を示すにとどまった。 2020年までの国防指針となるロシアの新軍事ドクトリンは、北大西洋条約機構(N ATO)の東方拡大や米国のミサイル防衛(MD)などを主要な軍事的脅威とみなし、米国との間で戦略核の削減を進める一方、大規模侵略に対して核兵器の先制使用を辞さない方針を明記している。 北方領土での軍事演習を含め、大国の威信を示すのに懸命な印象である。が、現在のロ シアは、2008年の世界金融危機で深く傷ついた経済の立て直しという課題を負っている。資源依存型の経済構造から脱却して、経済の近代化を図り、世界貿易機関(WTO)に加盟するという目標を実現するには、欧米や日本などとの協調が欠かせないことは、メドべージェフ大統領も承知しているはずだ。ロシアが必要とする進歩は「強面(こわもて)外交」でもたらされないことを認識してもらいたい。
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