―大学卒業後は?
卒業してからは東京に帰ってきて、東京大学の精神科の教室に入りました。そこで研修医として4年間。それから東京都立豊島病院に勤務した後、沖縄に行くことになったんです。まだ当時、琉球大学の医学部から卒業生が出ていなくて、沖縄はいつでも医師不足だったんですよ。沖縄で長年医師として働いてた方が東京に戻ることになり、精神科医として変わりに私が行くことになりました。当時、84年くらいだったと思いますが、沖縄はゆったり、のんびりしていて、東京とはまったく違うなと思いました。でも沖縄は沖縄で、都会とはまた違った軋轢や葛藤を抱えて相談にいらっしゃる方がいるんですよね。沖縄北部の本部(もとぶ)町という場所には地域に医師が3名しかいなくて、身体をトータルで診たり、往診に行ったり地域医療を経験しました。同年代の医師でこういう経験した人は少ないかもしれませんね。結局、沖縄には3年ほどいました。
―その後はどうされたんですか?
また東京に戻ってきたんですが、その頃は子供がまだ小さかったこともあって、子育てをメインにしたいと思っていた時期だったんですね。なので、週に2〜3日くらいのペースで勤務していて。でもしばらくして、立川にあるクリニックから「院長として来てほしい」というオファーをいただいて。精神科の外来専門のクリニックでした。せっかくいただいたお話なので、引き受けることにしたんです。
―その頃はまだ、将来的に開業することは考えていなかったんですか?
そうですね。自分で医院を開くつもりはなかったんですよ。でも、この立川での経験が開業につながりました。その経験がなければ開業はおそらくしてなかったと思うんです。毎日毎日、患者さんと会っていく中で、とてもシンプルに、「人の役に立っている」と感じられることが嬉しかったんですよね。あと、自宅から立川はとても遠くて、これなら自分で好きな場所に開業した方がいいかなと思ったのも、正直きっかけのひとつなんですが(笑)。
―初診の患者さんとは、どんなふうにお話をしていくんですか?
特にテクニックのようなものはないんです。最低限のこととして、絶対に相手を傷つけない、というのはありますが、別段、気負って雰囲気作りをするということもないんです。ただ、初診の方とはだいたい"時間無制限"になっていることが多いですね(笑)。人によって、ちゃんと言いたいことが言えるまでの時間はさまざまですから。とは言え、人間誰しも1時間も話していれば疲れますから、それくらい向き合っていれば大概は大事な部分も話してくれるようになります。