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【参院選2010】

中部ニュース

<さまよう民>(4) ネット保守

2010年7月7日

外国人への参政権付与に反対し、ビラを配る保守派団体のメンバーら=名古屋市内で

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 名古屋市内の繁華街で拡声器の声が響いた。「利害が反する外国人に選挙権を与える。そんなばかな国が世界中にありますか」

 保守系市民団体の街宣活動。初めて参加した古田太一朗(34)が、民主党政権を糾弾するビラを通行人に手渡した。外国人への参政権付与に前向きな民主は、古田にとって「反日」で「サヨク」だ。

 古田は2年前に脱サラし、愛知県稲沢市でソフトウエアの会社を経営する。「韓国と中国が嫌い」と言う。

 きっかけは、20年前の夏。韓国でボーイスカウトの国際大会に参加した。会場のテントにいたら、韓国人の少年が10人ほど近づいてきた。突然、日本語で「日本人のばか野郎」。そのまま立ち去る姿に、歴史に根ざす反日感情を知った。

 この体験で隣国への嫌悪感が芽生えた。発散手段はインターネット。韓国や中国を非難する書き込みを続け、昨年の総選挙前には「民主が勝って外国人に参政権を与えると、日本が中韓に乗っ取られる」と書いた。

 こうした主張は当時、保守派のネット掲示板で大きなうねりとなっていた。民主を擁護する書き込みには「中韓の工作員だ」と中傷が殺到する。古田にとって、これこそが「世論」。民主優勢を伝える報道を信じようとはしなかった。

 だが民主は圧勝した。ネットと現実の落差に驚いた古田は書き込みの手を止めて、保守派の団体に加わった。「同志」は会社員や主婦など150人。「右翼ではなく、自分のような普通の人ばかりですよ」

 ここ数年、民主は政権奪取に向けて議席数を伸ばしてきた。それに反発する保守系の市民団体が、各地で相次いで誕生している。

 「外国人参政権」が呼び水となって、古田のような「ネット保守」を現実社会に引っ張り出す。その働き掛けの結果、全国の地方議会で「付与反対」の議決が続く。

 しかも一部組織の過激さは、従来の右翼運動をはるかにしのぐ。街頭デモで「参政権を求める不逞(ふてい)外国人をたたき出せ」と叫び、朝鮮学校への激しい抗議行動に走る。

 何が彼らを駆り立てるのか。各地で保守系集会に出る三重県松阪市の元派遣社員、小野正生(34)は真顔で「日本が危ない。その危機感がある」と言う。

 経済力で中国に追い越される現実に屈辱感を抱き、中韓との領土問題では日本外交が弱腰に映る。だが小野には、その不満を受け止める政党がない。

 だから、ネットから飛び出た主張が先鋭化する。「中韓を黙らせるために核武装が必要だ」「中国人が日本国籍を取得しても選挙権を与えるな」−。

 政治が排除してきた暴論だが、ネット保守の間では異端視されない。それが現実社会で、じわじわと広がっている。 =敬称略

 

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