〔シナリオ〕参院与党過半数割れなら部分連合模索か、目標割れで民主党内の権力闘争も
[東京 7日 ロイター] 7月11日投開票の参院選は終盤戦に入り、過半数をかけた与野党の舌戦が激しさを増している。国内メディアの情勢分析では与党の過半数獲得は難しく、民主党は改選議席の54議席に及ばず50台前半との見通しが強まっているほか、50台を割り込む可能性も一部で指摘されている。衆参ねじれ現象で菅政権は、連立の枠組み見直しなどに迫られる可能性があるとみられるが、専門家らの間では、民主党が大敗しない限り、他党との政策ごとの連携(部分連合)が現実的との声が多い。参院選後には、小沢一郎前幹事長の復権の可能性も焦点に浮上するとみられ、9月の民主党代表選の行方も注目される。
与党が参院で過半数を割り込む場合、国会のねじれ現象で政治が停滞し、菅直人首相(民主党代表)が表明している消費税増税を含めた財政再建やデフレ脱却に向けた政策の実現が暗礁に乗り上げる可能性がある。民主党の獲得議席とその後の政権運営・政局のシナリオを探った。
<民主60議席超で単独過半数獲得、国民新との連立解消も焦点>
参院の過半数は122議席で、民主党の非改選議席は62議席。民主党が今回の参院選で60議席を獲得すれば単独過半数を実現し、衆参両院で圧倒的な基盤をもつ。しかし、菅首相の消費税をめぐる発言などで、菅政権発足時に60%台まで急回復した内閣支持率は、報道各社の世論調査では軒並み40%台に低下、朝日新聞(7月3日、4日実施)の調査では39%まで下落した。国内メディアの情勢分析でも「民主の単独過半数」の可能性は聞かれなくなっている。
とはいえ選挙は魔物。民主党が単独過半数を獲得すれば、菅首相の政権運営は盤石となり、選挙戦でも訴えた消費税を含む税制抜本改革と財政再建への動きが加速する可能性がある。この場合、消費税引き上げに反対し大型の景気対策を訴え続けている国民新党との連立解消も焦点になりそうだ。
<与党56議席で過半数、菅政権が信任を確保>
民主党と国民新党が合わせて56議席を獲得し、与党が過半数を確保。国民新党の今回の選挙における獲得議席がゼロでも、首相の勝敗ライン「54プラスアルファー」を越えることになり、菅政権が国民の信任を得たとして執行部が期待するケースだ。
民主党の安住淳・選挙対策委員長は参院選公示前の6月21日のロイターのインタビューで、参院選を菅政権の長期安定政権の環境を整えるための選挙と位置付け、目標議席を改選議席54超としていた。安住氏は「最低54議席、もしくはそれを上回る議席であれば、菅首相(民主党代表)を再選させ、安定軌道に乗せる条件は整う」と述べている。
ただ、この場合でも政権運営が迷走する局面は出てきそうだ。菅首相の税・財政政策と隔たりが大きい国民新党との連立は、政策運営での不安定さを内包する。社民党が連立から離脱した普天間問題の二の舞も危ぐされる。
<民主54議席でも与党過半数割れ、部分連合や連立の組み替えも>
民主党が54─55議席を獲得しても与党が過半数割れとなった場合では、菅首相(民主党代表)、谷垣禎一自民党総裁ともに責任論には発展しない。菅首相は自らが設定した勝敗ラインを越え、谷垣自民党総裁も自らに課した「与党の過半数阻止」を実現させる。
ただ、参院での与党過半数割れで国会運営が不安定化する。「ねじれ国会」回避に向け、菅政権は、1)政策ごとの部分連合、2)公明党やみんなの党などとの連立を模索、3)安全保障や財政政策面で類似してきた自民党との大連立──などさまざまな可能性を模索することになりそうだ。
こうした動きは将来の政界再編の序章とも映るが、現実には、衆院が小選挙区比例代表並立制で他党との連立には越えなければならないハードルが高く、「政策ごとの部分連合が一番現実的かもしれない」(ジェラルド・カーティス・コロンビア大学教授)との見方が広がっている。
<民主54議席未満なら菅首相の求心力に影響、50割れなら責任問題に>
最近の情勢分析で次第に現実味を帯びているのが、民主が目標に掲げる改選議席の54に届かないケース。負け方にもよるが、菅首相の求心力の低下により、9月の民主党代表選に向けた党内の権力闘争が焦点に浮上する可能性がある。復権をめざす小沢前幹事長による最近の民主党執行部批判はその布石との見方もある。野党関係者は、菅首相の圧倒的な勝利を阻む政治的な動きとみている。
執行部は、仮に54議席を割り込んでも「菅首相(民主党代表)の続投・再編はそう簡単に揺るがない」(安住氏)と期待する。鳩山由紀夫前首相で20%前後まで沈んだ内閣支持率が、菅首相への交代で急回復した功績は評価されるとみる。
しかし、民主党が50議席を割り込むような事態となれば、菅首相の責任問題に発展するとの見方は少なくない。通常の民主党代表選では、小沢陣営が強いと言われる党員・サポーター票が加わるため、同陣営が対立候補を擁立した場合、行方は不透明だ。
「菅降ろし」が表面化する可能性が指摘される一方で、幹事長職を退き公認権を持たない小沢氏の権勢の陰りを指摘する声もある。自らの資金管理団体の政治資金規正法違反事件で、7月中には検察審査会による再審査の結論が出る。菅政権は党内の権力闘争をにらみながら、他党との部分連合や連立の組み替えを模索する動きを加速するとみられ、9月までは、政策論より政局論が優先する事態が予想される。
(ロイターニュース 吉川裕子記者 伊藤純夫記者;編集 石田仁志)
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