八ッ場ダムの建設予定地前を通る選挙カー=長野原町で
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昨年の政権交代で一躍、全国の注目を浴びることになった八ッ場(やんば)ダム(長野原町)の建設中止問題。地元の反発を受けて政府が最終判断を先送りし、いわば視界不良のまま突入した参院選で、群馬選挙区の候補者はそれぞれ主張を展開している。
民主現職の富岡由紀夫氏(46)=国民新推薦=は「具体的な生活再建案を早く提示し、地元の納得を得て本体は中止する」との立場。与党の一員として「政府と地元のパイプ役になる」と訴えるが、公示後は長野原町に入っておらず、深入りを避けているように見える。
二日は選挙カーが同町入りしたが、本人は高崎市など都市部で活動した。陣営は「選挙期間は十七日間しかない。当選しないと意見を聞いても政策に反映できない」と説明。厳しい選挙情勢を踏まえて大票田を優先した苦渋の決断との認識を示した。本人も同町入りに前向きだが、具体的な日程は未定という。
これに対し、「ダム中止撤回」を掲げる自民現職の中曽根弘文氏(64)は公示日の六月二十四日、同町の川原湯温泉街で出陣式を開催。ダム建設予定地の住民に直接語りかけ、民主党との対決姿勢を鮮明にしている。
中曽根氏は出陣式で高山欣也町長らを前に「治水や利水のためには(八ッ場ダムを)何としても完成させないといけない」と声を張り上げ、ダム建設の正当性を強調した。
同三十日にも同町を遊説し、八ッ場ダム問題を重要視する立場を地元にアピール。陣営は「八ッ場は米軍普天間飛行場移設問題と並ぶ“民主党混迷”の象徴」と位置付ける。
また、共産新人の店橋世津子氏(48)は「治水、利水の両面でダムは必要ないが、民主党のやり方には問題がある。住民のふるさとを壊している。住民から理解を得て、きちんと情報を伝えていくべきだ」と主張している。 (中根政人、加藤益丈、菅原洋)
◆住民たちは思い交錯
こうした各党の対応に地元住民の間ではさまざまな思いが交錯する。
川原湯温泉で旅館を経営する豊田明美さん(45)は「八ッ場ダム問題は群馬選挙区の大きな争点。民主党の候補者は現地に入り、住民の今後の生活再建など政策を堂々と語るべきだ。地元でダムの論戦がないため、争点がかすみ、住民は冷めてしまった」と憤る。
一方、同温泉街近くで牛乳製造販売業を営む豊田武夫さん(58)は「前原誠司国土交通相が中止方針を表明後、二度も現地を訪れて住民に理由を説明しているのだから、それでいいのではないか。ダム問題を争点にしようという選挙戦略は理解できない。地元が混乱するだけだ」と話している。 (山岸隆)
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