話を聞いた女性のほとんどは「自宅で趣味の教室を開きたい」(20歳、学生)、「友人との交流やスポーツを楽しみたい」(22歳、総合商社勤務)という。趣味を通して社会とつながり、妻や母というより、一人の女性として輝きたいという思いが強い。
この特徴は98年の厚生白書で「新・専業主婦志向」と紹介されている。だが、安定した生活基盤が崩れつつある今、専業主婦は当時より「狭き門」。鹿嶋教授は、専業主婦へのあこがれは「砂上の楼閣である」と指摘する。
「この世は二人組ではできあがらない」(新潮社)などの著書がある作家の山崎ナオコーラさん(31)は、20代女性の意識について「人生が生き残り合戦のように見えているのではないか。『専業主婦になりたい』は、『安定した公務員になりたい』と同じ発想のように思える」と言う。
「私が学生のころに専業主婦になりたい友人がいなかったのは、上の世代の女性が社会とつながる夢を見せてくれたから。それに比べ、暗い話を聞かされ続けている若い世代は、高校生のうちから年金や老後の不安を感じ、自分や家族の狭い世界に踏みとどまってしまっている」
山崎さんはこうも言う。「質素でも、家族仲良くやりくり上手に暮らす女性の好感度は上がっている」
道無き道を切り開きながら外で働いてきた“先輩女性”から見れば、20代女性の専業主婦志向はどこか物足りず、「甘えている」とさえ見えるかもしれない。しかし、経済低成長時代に生きる若い世代にとっては、精いっぱいの願望とも言えるのではないだろうか。
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毎日新聞 2010年7月7日 東京夕刊