NHKは6日、野球賭博問題の拡大を受けて中継の是非を検討していた大相撲名古屋場所について生中継しないと決定し、福地茂雄会長らが東京・渋谷のNHKで記者会見して発表した。午後6時台に20分程度のダイジェストを放送する。視聴者の反発が強い上、日本相撲協会の対応策が不完全と判断した。ラジオで1928年から、テレビで53年から続く“国技”の中継中止は初めてだ。
ラジオで82年、テレビで57年にわたって全国に放送されてきた大相撲が不祥事によって初めて途切れる。福地会長は「苦渋の選択だった。国技・相撲の灯は消したくないがやむを得ない。私だって悩まなかったわけがないでしょう」とぶ然とした表情を見せた。
福地会長は「野球賭博の問題で反社会的な暴力団との関与も指摘されたことは、極めて重大で遺憾な問題で社会的にも大きな反響があった」と指摘。この日、相撲協会から受けた報告については「処分は外部委員会の勧告を受け入れた厳しいものでしたが、再発防止のためのガバナンス(統治)に関する委員会のメンバーが明らかでなく、方向性が具体的になっていない」と批判。「100年に一度の危機ととらえ、待ったなしの改革」を要望したうえで「視聴者からの意見の6割以上が中継中止である一方、中継を楽しみにしている人もいて、総合的かつ慎重に検討した」と中継せず録画ダイジェスト放送する理由を説明した。
NHKによると、5日までに視聴者から1万2600件以上の意見が寄せられ、このうち中継反対は約8600件(68%)、賛成は約1600件(13%)だった。
今回の決定は名古屋場所についてのもので、秋場所以降については、相撲協会の取り組みを検討したうえで中継する方針だが「何かあれば中継どころか興行自体が成り立たないのではないか」と厳しい見方を示した。
これまで大相撲の中継は、総合テレビで午後3時ごろから、BS2で午後1時ごろから、ラジオ第1では午後4時ごろから終了の午後6時まで放送してきた。ダイジェスト放送は、総合とBS2で午後6時台に20分程度、ラジオは午後6時台に取組の結果だけ放送する。幕内全取組は放送できそうだが、立ち合いの間合いなど実況中継の醍醐味(だいごみ)は楽しめない。中継を予定していた総合、BS合わせて100時間以上の時間帯は、普段放送している再放送番組や情報番組などを放送する。
関係者によると、NHK内部でも、中継の是非が問われ始めた6月下旬から「中継反対の声が強いが、声は上げていないものの中継を楽しみにしている人は無視できない」「中継中止で受信料不払いが再燃するのでは」と指摘する声が上がっていた。福地会長は、「視聴者目線を大事にした。(この日)役員会ではだれもおかしいと言わなかった」と胸を張ったが、会見に同席した日向英実放送総局長は「中継する、しない双方のシミュレーションはしてきた」と認めた。ある幹部は「中継するが出演するのはアナウンサーのみのシンプルな形でできないか、など検討した」と明かす。NHKにとっても、まさにギリギリの判断だった。
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