最新記事へリンク

Main menu

Communication

所長
神浦元彰
軍事ジャーナリスト
Director
Kamimura Motoaki
Military Analyst

English Column of This Month!VOICE OF Mr.KAMIURA

所長ご挨拶

7月 2010年

第126回

神浦元彰

今月は7月11日の参院選で、街頭では候補者の名前を書いた選挙カーが走り回っています。しかし昔のように走りながら候補者名を連呼する車は少なくなりました。市民目線で見れば、意外と静かな選挙戦のように見えます。でも実態は違うのでしょうね。

今月の”所長ご挨拶”では、いろいろなことを書きたいと悩んできました。あまりにも書くべき事が多すぎるからです。

北朝鮮では金正日の後継者問題とからんで、労働党と人民軍の権力闘争が激しくなっています。今までは先軍政治で軍部が優遇されていましたが、これからは労働党が各種の権力を軍から奪い返す動きを見せています。

また北朝鮮の混乱と崩壊に備えて、北朝鮮周辺に米軍の集結が始まっています。原子力空母ジョージ・ワシントンは朝鮮半島有事で周辺に待機しています。また大型原潜のオハイオは、かつてのSLBM(潜水艦発射・戦略核ミサイル)の発射筒22基に巡航ミサイル各7発(合計154発)を搭載して、日本近海の海中で北朝鮮有事に備えています。

グアム基地にはF22戦闘機が待機しているのは勿論ですが、今年2月、20年ぶりにに嘉手納基地に飛来したB52戦略爆撃機も、新型の深深度地下貫通弾頭をつけた空中発射巡航ミサイルを搭載して待機しています。言うまでもなく、これは北朝鮮の地下陣地を攻撃するための新兵器です。

嘉手納基地には米本土やアラスカの空軍基地からF22戦闘機(12機)が飛来し、海兵隊のF18スーパーホーネット(12機)や空母G・Wの艦載機であるF18スーパーホーネットも加わって大変なにぎわいの様です。

嘉手納基地には弾道ミサイル追跡が任務のRC135S(コブラボール)や、電子戦機のRC135V機やRC135U機と、韓国の鳥山基地のU2高々度偵察機まで姿を見せています。

これらが嘉手納基地に集まる理由は、北朝鮮が韓国哨戒艦沈没事件で、「制裁なら全面戦争も辞さない」と吠えているからです。しかし、なぜ嘉手納基地に集まるかと言えば、嘉手納基地には米軍のパトリオットPAC3が配備されているからだと思います。

北朝鮮のノドンミサイルは射程が1300キロで、ほぼ日本全周を攻撃することが可能です。さらにノドンは移動発射台に設置され、地下陣地(トンネル)に配備されています。テポドンのように発射台を組み立てる必要がありません。ですから、ノドンは日本への奇襲攻撃が可能なのです。

北のノドンを迎撃できるのはPAC3しかありません。しかし常時、PAC3で護られている基地は嘉手納基地しかありません。それで米軍の最前線で戦う偵察機、電子戦機、戦闘機、攻撃機が嘉手納に集結しているのです。

横須賀基地、三沢基地、横田基地の3米軍基地は、有事の際に空自のPAC3が緊急移駐して、ノドンから防衛することになります。

さらに別の話題ですが、普天間移設問題で日米共同声明が5月28日に出されました。しかし米軍サイドでは、グアムに移転する予定だった海兵隊司令部を沖縄に残し、沖縄に残す予定だった戦闘部隊をグアムに移すことを検討しているようです。

これで米陸軍は座間基地(神奈川県)で、海軍基地は横須賀基地(神奈川県)で、空軍は横田基地(東京都)に、それぞれに司令部だけを置くことになります。(例外は艦船修理施設のある横須賀の米海軍だけです)

その上、在沖海兵隊までも沖縄に司令部だけ置いて、戦闘部隊はグアムに移転することになる可能性が高くなってきました。地球規模で出動する米海兵隊なら、司令部を沖縄に置き(残し)、戦闘部隊をグアムに移転しても運用が可能です。

今まで「沖縄には海兵隊の戦闘部隊が残り、抑止力を維持する」とした国会答弁(06年当時、額賀防衛長官。09年当時、浜田防衛大臣)が変更されたことになります。また鳩山首相が海兵隊の抑止力のために沖縄駐留が必要と表明したことと矛盾が出てきます。

当然ながら、普天間飛行場の代替施設も海兵隊の戦闘部隊(ヘリ部隊)が沖縄にいないなら必要ありません。辺野古沿岸に新基地を造るとした5月末の日米共同声明も、アメリカの事情で見直すことになります。

わずか1ヶ月半の間に、これほど日本周辺の東アジア軍事情勢は変化を見せています。このような変化に気がついていましたか。

これからも、さらに情勢が急速に変化していくと思われます。本日は私の61歳の誕生日ですが、まだまだ忙しい日が続きそうです。皆さんも、日本周辺の軍事情勢の変化に注目してください。

私のホームページはまだまだ辞められそうにありません。(本当は誕生日を機会に辞めようかと悩んでいました)。

 

                とりあえず          つづく

                                                        7月7日 

以前の所長挨拶はファイル(文書倉庫)にあります。

著書紹介

「面白いほどよくわかる 世界の軍隊と兵器」
05年1月30日 発売  日本文芸社刊  1400円(税別)  

この本を私の著書と呼ぶことはできない。大部分は軍事ジャーナリストの芦川 淳さんと、軍事フォト・ジャーナリストの菊池雅之さんが書いた本である。二人とも、将来は日本を代表する軍事通になる素質を持っている人である。  この本で私の担当は、監修と第7章の「新しい日本の防衛政策」を書いた。私としては高校生レベルの軍事入門書として読んで頂きたいと考えていた。しかし意外なことだが、若い新聞記者やテレビ関係の報道ディレクターが読んでいた。私のところに取材に来る前に、この本を読んできましたと話す人が多くいた。今までは、軍事とは関係のないところに生き、仕事柄、初めて軍事の世界に触れる人には都合のいい本だったようだ。
 出版社に聞けば、やはり売れているようで、早々と半年で軍事本では珍しい重版になった。ともすれば私たちは軍事の専門家として、高度な内容の本を書きたがる傾向がある。社会に自分を認めて欲しいという欲求があるからだと思う。しかし世の中が求めているのは、確かな基礎知識に基づいた初級クラスの軍事解説本も忘れてはいけないと気が付いた。  これから軍事を勉強してみたいと興味を持った方にお勧めしたい1冊である。 
『戦争の科学』(監修)
03年9月10日 発売  主婦の友社刊  3000円 (税別) 

5月のある日、主婦の友社の編集者が訪ねてきて、「この本を翻訳して、日本でも出版したいと思います。ぜひ協力してください」と話した。原題は『SCIENCE GOES TO WAR』である。すでに下訳ができていて、読んでみると戦争というより兵器の歴史書だった。まずは日本語訳の間違いを訂正するために原書と突合せながら読んでみた。するとこの和訳が実に上手い。いやむしろ上手すぎると思った。言葉を訂正するどころか、逆に、言葉の使い方に感心しながら読んだ。翻訳はまったく問題がなかった。ところが原書には、今の時代では必須のRMA(軍事革命)の記述がなかった。そこで、「この本のタイトルでRMAの項目がなければ欠陥品になります」と編集者に話した。そこで最後の解説の部分として、RMAを書き加えることになった。それを私が担当することになった。
 「高校生にわかるように書きます」と言って、もっともわかり易いRMAの解説を書いた。それから原書にはないイラストを友人の長谷川正治氏を紹介した。ぜひとも図説のイラストが必要と思ったからだ。これで8月末に完成した。訳者の茂木健さんに脱帽した。
「北朝鮮消滅―金王朝崩壊の衝撃、到来する破局」
03年3月1日 発売  イースト・プレス社刊  1500円(税別)

 北朝鮮という国を軍事的な視点で見ると、今までは異常な体制支配で隠された部分から、真の姿が浮かび上がってきた。なぜアメリカは北朝鮮を軍事攻撃できないのか。韓国の太陽政策はなぜ生まれたのか。日本と北朝鮮の国交正常化はなぜ進展しないのか。
 そもそも北朝鮮の軍事力とはどうなのか。テポドンやノドンが日本に飛来する可能性はあるのか。そして、北朝鮮をめぐる中国やロシアの対応に隠された真意はどこにあるのか。
 イラク戦争でフセイン独裁体制が米英の軍事力で倒された今こそ、この本が解き明かす北朝鮮の真実が近未来を予測します。
 この本は1500円で、2003年3月1日が発行日です。
「北朝鮮「対日潜入工作」」
共著  別冊宝島宝島 038  宝島社刊  1200円(税別)

 私が担当したのは、「生物・化学兵器の原料流出のみを警戒せよ!」です。何だか変なタイトルですが、もう北朝鮮の兵器は脅威ではない。エンジンのかからない戦車、飛ばない戦闘機(飛ばせないパイロット)、潜航せきない潜水艦の数を数えて怖がっててもしかたがない。しかし生物・化学兵器だけは怖い。これに対する警戒は必要と書いたら、このようなタイトルになりました。
 原稿を書いたのが02年の7月、本が出たのが8月、そして9月から小泉訪朝と拉致事件被害者の帰国と、日本で北朝鮮関連のことで大騒動になりました。そのためか、何度かこの本が増刷され、こんど宝島文庫にもなるそうです。
 北朝鮮は怖くなければ北朝鮮ではない。怖い北朝鮮が大好きという方には、この本は絶対のお勧めです。金正日の危険度を知る上では面白い本です。
「裸の自衛隊」  
神浦元彰 監修   宝島文庫社   ¥533(税別)

歴史的な名著として話題になった自衛隊本。ベストセラーの初版から9年たっての文庫本なのに、初版〔文庫〕で10万部を刷ったという驚異の本。この「裸の自衛隊〔文庫〕」では、記事中以外に、「INTRODUCTIN」と「あとがき」を担当しています。他の著名な執筆者の鋭い取材や分析には、軍事の専門家でない方が、むしろ自衛隊を正確に見ていると脱帽しました。自衛隊の本当の姿を知りたい人にはお勧めです。現職や元自衛官には圧倒的な人気でしたが、防衛庁高官や自衛隊の偉さんたちにはヒンシュクをかいました。
「北朝鮮最後の謀略」
神浦元彰 著   二見書房   ¥825(税別)

 神浦所長が最初に挑戦した「軍事小説」。本当はこれで直木賞を狙っていたが、候補どころか話題にもなりませんでした。〔もちろん冗談〕 小説の話しの内容は、ロシアの犯罪組織から核爆弾を密かに買った北朝鮮の指導者が、横須賀港に寄港している米原子力空母の船底に核爆弾を仕掛け、関東一帯を「チェルノブイリにする」という計画が発覚。それを阻止すべき自衛隊の特殊部隊が投入された。北朝鮮軍工作員指揮官の許少佐の謀略に翻弄される日本。その間にも、核爆弾は改装された貨物船で東京湾に運ばれ、水中から原子力空母の船底にセットされた。(裏話・この小説はアメリカの高官が、「北朝鮮が1〜2発の核爆弾を持っていても、1万発以上の核弾頭を持っているアメリカの脅威にはならない」と言った事に頭にきて書いたのがもともとの動機です)
「北朝鮮「最終戦争」」
神浦元彰 著   二見文庫   ¥495(税別)

北朝鮮がテポドンを発射実験して、日本政府やマスコミのあまりの動揺ぶりに「ビビルな日本、北朝鮮は怖くない」と、科学的な軍事分析してみせた本がこれ。内容はノンフィクションですが、軍事常識や理論を勉強するには最適の本です。各所に具体例を挙げながら、理論的な説明をしておきました。この本は一部の朝鮮半島の専門家には高い評価をして頂きましたが、「北朝鮮が攻めてくる」と危機感を煽ってなんぼの人には敵視されました。しかし北朝鮮がいくら全体主義の国でも、国民の大多数が飢えているのに、大きな戦争を始める余裕はないでしょう。(裏話・この本で言いたいのは、本当に怖いのは北朝鮮ではなく、その背後にいる中国で、その将来の日中関係によっては、深刻な事態になると警告をしたかった。新たな冷戦を生まないために、中国と日本と米国が軍事対立をしないことが大事)
「アジア有事 七つの戦争」
神浦元彰 他(共著)   二見書房   \1748(税別)

 「何か面白い本を書こうよ」と、軍事評論家の野木恵一さんと話していたら、これからのアジアの10年間を、軍事情勢から分析し予測してみようと企画したのがこの本。そしていつもすごい記事を書くなと関心をしていた、河津幸英〔軍事研究誌 論説委員〕さんと、航空ジャーナリストの石川潤一さんにも加わって頂いて、4人の共著で出版しました。
 本当は4人で酒でも飲みながら、ワイワイガヤガヤとやりながら、進行していこうとぐらいに考えていました。ところが、野木さんは昔から酒を飲まないことを知っていましたが、河津さんも酒を飲みませんでした。石川さんもほんの付き合い程度しか酒を飲まないと聞いて大ショック。大酒飲みの私としては、極めてまじめに企画から、執筆まで真剣に取り組んだ本です。出版後にA新聞社の有名軍事編集委員から電話を頂き、よく書けているとお褒めの言葉を頂きました。4人が大酒のみだったら、どんな本が出来たのでしょうか。
「日本の最も危険な日」
神浦元彰著  青春出版社  絶版  発行1978年6月  

 22年前の本です。「神浦さん、将来、大物になる人は20代で本を出しています。書いてみませんか」と、私が29歳の春に青春出版社編集部の行本さん(当時、現在は文化創作出版社)に言われ、中高生を読者対象にして、わかりやすく軍事常識の解説書を書いたのがこれ。日本や日本周辺で考えられる軍事問題を99項目とりあげて解説をしました。たとえば、「なぜ中国は台湾を攻めないのか」「小さな地域紛争(人種、宗教、国境など)から、人類を滅ぼす全面核戦争までの戦争分類法」「米ソ、戦略核兵器の種類と核戦略」「北海道脅威論のいい加減さ」「開発中の精密誘導兵器の恐怖」などなど、いろいろな項目で書きました。たしか30歳の7月の誕生日にぎりぎり間に合ったと記憶しています。この本を出したのを機会に、テレビなどマスコミに軍事問題で出るようになりました。そのころ週刊ポストで最も若い記者だった二木啓孝氏(現、日刊ゲンダイの編集部長)と、この本が縁で知り合い、同じ年ということで仲良くなり今も付き合っています。私の肩書きの「軍事ジャーナリスト」というのも、二木氏が20代で軍事評論家はないだろうと命名しました。この本で私の本格的な軍事人生(取材・研究・発表)が始まったようなものです。それが今、私の書斎の本箱を見たら、なんと1冊もないんです。びっくりしました。私と同じ頃に青春出版社から「天中殺」の本が出て、歴史的なほど爆発的に売れました。そして日本中で占いブームが起きたときは驚きました。まだ藤本義一氏が日本テレビで11PMの司会をやていた頃の話です。その11PMにも何度か出演させて頂きました。
BACK

"));