10年後設定



激しすぎる行為に酷使された雲雀の身体は、相当睡眠を欲しているのだろうか。
山本は、未だ穏やかに眠る愛しい人のその寝顔をじっと見つめる。

そして何年経っても変わらない自分の想いを再確認した。






腕の中の君






枕の方が絶対気持ち良いはずなのに、雲雀はこうして山本の腕に頭を乗せて眠るのを好む。
事情後なんか特にだ。
行為が終わり、二人して心地良い疲労に微睡んでいると、高い確率で「…腕」と掠れた声が聞こえる。
すると山本は嬉しさを隠そうともしない笑顔で腕を差し出し、雲雀はさも当然のようにその硬く筋張った腕に頭をことんと乗せる。

(頭、痛くねぇのかな)

少年時代から鍛えている腕は、一般的に見ても太いし硬いだろう。
前に一度だけ、寝辛くないのか聞いたことがある。その時は「別に」と興味の無さそうな表情で返された。
だけど雲雀の「別に」にはいろいろな言葉が隠されている。
ありがとうだったり、ごめんなさいだったり、嬉しいだったり、悲しいだったり。どれも山本の勝手な考えだが。
嫌なことは嫌とはっきり言う雲雀だからこそ、そう思うのだ。



山本は雲雀と出会って間もない頃のことを思い出した。
初めて雲雀の寝顔を見たあの日。自分は物凄い衝撃を受けた。
確かツナが怪我して入院した時、雲雀も風邪を拗らせたか何かで入院していた。
それをツナに聞いた山本は「起こしたら殺されるよ!」と言うツナの制止を聞き入れず雲雀の元へ向かったのだ。
見舞いの果物を片手に雲雀の病室へ向かった山本は、雲雀が寝ているかもしれないので起こさないようにそっと病室のドアを開いた。
そして、呼吸をするのも忘れてしまう程その寝顔に魅了されてしまった。
普段見事に吊り上っている眉と目尻は力無く垂れていたし、唇も無防備に薄く開いていた。
目を閉じているだけで、こんなに印象の違うものなのか。
あの鋭くて意志の強そうな瞳が白い瞼に隠れてしまっているだけで、こんなにも幼くなるのか。
山本は心臓が暴れだすのを止められない。
「木の葉の落ちる音でも目を覚ます」と言っていたらしい雲雀だったら、自分の心臓の音で目を覚ましてしまうのではないか。
そんな不安を持ってしまう程、心臓が煩い。
静まれ、静まれ、そんなことを思いながら雲雀に近付く。
黒いパジャマが雲雀の肌の白さを際立てて眩しい。
思わず自分の肌の色と見比べてしまった。
全然、違う。
日々部活に勤しんでいるため肌が焼けているからかもしれないが、元の肌もこんなに白くないはずだ。
山本はそんなことに感動していると、ふと飾られている薔薇に目が移った。
誰がこの薔薇を持ってきたのだろう。
風紀委員のやつらだろうか。それとも、雲雀の家族?雲雀を慕う女?いや、男かもしれない。
山本は胸の辺りにもやもやと不愉快な霧が掛かるのを感じ、明日は花を買ってこよう、そう思うことで心を落ち着かせた。
不意に雲雀の身体がもそりと動く。起こしてしまったのだろうかと山本は少しだけ焦ったが、どうやら寝返りを打っただけのようだ。
やはりまだ体調が万全ではないのか、少し寝苦しそうに息を吐き出す。
その際聞こえた「はぁ…」という吐息に、折角静まりつつあった山本の心臓が再び暴れだした。
少し乱れてしまった黒いパジャマから見える白い鎖骨に煽られてしょうがない。
ほとんど回復していると聞いたが、一応病人だ。病人相手に欲情するなんて、と自己嫌悪に陥るが雲雀の色気が悪いとすぐに割り切る。
雲雀が寝ていることも手伝って妙に強気な山本は、今なら平気かも、と安易な考えで雲雀の唇に己の唇を重ねた。
すると、閉じていた瞳がパチリと勢いよく開く。山本は慌てて唇を離すと、身の危険を感じつつも「具合どう?」と雲雀に尋ねる。
雲雀は寝起きとは思えない動きでベットから立ち上がると、いつの間に出したのか片手にはトンファー。
山本の言葉に「最悪だよ」と返した雲雀の声を最後に山本の意識はブラックアウトした。



そういえばあの後意識を取り戻した時、自分は病院のベットの上にいて心底驚いたっけ。
10年も前のことを思い出して山本は小さく笑った。
あの頃の自分は10年後もこうして雲雀の寝顔を見ることができるなんて思っていないだろう。
しかも自分の腕の中で可愛らしく眠っているだなんて。

山本は初めて見た時と同様に無防備な唇にそっと自分の唇を重ねる。

ぺロリと唇を舐めても起きそうにない雲雀を、山本は愛しく想いながら見つめていた。




山本の腕の中で安心しきって眠る雲雀


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