10年後設定



なんて言うか、キレイ、だから。
それは、女性に対する褒め言葉とか、そういう意味のものじゃなくて。
いつものあの、鋭い眼光がないと、まるで。






取り越し苦労






白いシーツに散らばった雲雀の髪をそっと拾う。柔らかい感触に、山本は思わずはあ、と詰めていた息を吐き出した。

「いきたくねーな…」

思わず零れたそんな言葉に、雲雀は顔を覆い隠していた腕を退けると、嫌そうに眉を歪めて山本を睨み上げた。
いくら目許が赤く染まっていて、潤んだ瞳が艶やかだとしても雲雀からの無言の圧力はいつだって迫力があるので、山本は「違うって」と慌てたように声を出す。

「いや、そういう意味のいきたくない、じゃなくて、明日の、行きたくないってことで、」

しどろもどろした言葉の最後に、そりゃ、このまま雲雀の中にいたいけど、と付け加えると、雲雀の赤く染まった目許が見て取れるように不機嫌に吊り上っていくので、山本は口を噤む。
折角、久しぶりに会えて良い雰囲気でここまできたのに、いざ本番というときに機嫌を損なわせてしまっては元も子もない。
山本は目の前の短い前髪をさらりと掻き分けて、寄せられた眉間に口付けてから、引き結ばれていた唇に口付ける。すると、待ち侘びていたかのように唇が開いて、山本の舌を自ら欲するみたいに追う。
雲雀がこんな風に、自ら自分を求めてくれるのが、山本にとっては何よりも嬉しい。必死に舌を絡ませてくる様がどうにも可愛くて、山本は止まっていた腰を何度か揺すった。
すると決まって、声を出さないように息を詰めることを山本は知っている。雲雀は昔からそうなのだ。まだお互いが中学生だった時から、もうとっくに成人した現在まで、雲雀は変わらない。何のつもりでそうするのかは分からないが、きっと、高すぎるプライドがそうさせるのだろう。そこが、どうしようもなく愛しい。
何度もそうして揺さ振ると、雲雀の表情がだんだん辛そうに引き攣ってくる。だけどそれは、ただ辛いのではなくて、過剰な快感からくる辛さだということも山本は百も承知だから、動きを止めるなんてことはしない。
昔、顔を真っ赤にして呼吸を乱す苦しそうな表情に気が動転して、思わず「大丈夫か?」と肩を揺すったら殴られたことがあった。山本は、同じ過ちを何度も繰り返すような男ではない。
ん、と小さく漏れる鼻に掛かった声を何度も繰り返し、溺れているみたいに呼吸をする雲雀に、山本の身体は否が応にも熱くなる。
山本は、雲雀の上気した頬にそっとキスをした。

「明日から、また、仕事だろ?しばらく会えねーじゃん」

マフィアの幹部ともなると、お互いにどうしても忙しなくなってしまい、なかなか会う時間が取れない。
いや、山本は雲雀が会えるというのなら少し無理をしてでも会いに行こうとするが、雲雀はそうではないからやはり会うのは困難に変わりない。
まったく音沙汰もないと思ったら、急に「○○ホテルで待ってる」という感じに連絡が来たりするのだ。雲雀に振り回されている自覚はあるが、山本がそれを気にすることは、ない。雲雀が自分に会いたいと思ってくれている、それだけで山本は何だってできるのだ。
しかし。会える楽しみがある分、会えない時の寂しさはどうしても拭えない。

室内に響く肌を打つ音と、お互いの忙しない息遣いに煽られて、大胆に腰を動かす。
こんなに夢中になってしまうのは、雲雀の中が熱すぎるから。この熱は、寂しさを忘れさせてくれるから。

「雲雀…気持ちいー?」
「う、ん」

小さく頷く雲雀は、すでに何かを考えるのも億劫らしく、恍惚の表情。
山本が自分に与える快感をただ感受しようと、まぶたをぴたりと閉じていて。
その、瞳を閉じた表情が、上手く出来すぎた人形のように見えてしまって、山本は慌てて思考を打ち消す。
半開きの唇から洩れる荒い息遣いは、ちゃんとそこに雲雀がいることを感じさせてくれるのに。

「なあ…気持ちいい?」
「ん…」

少し乱暴なくらい揺さ振って、乱れた呼吸を確認する。
雲雀の足を持ち上げて、より深く繋がる。
そうして、雲雀の熱い体温を感じると山本は酷く安心するのだ。
瞳をぴったりと閉じる腕の中の人は、人形のように美しいけど、ちゃんと生きている。

「なあ、」
「しつ、こい」

雲雀が腕を持ち上げたから、山本は少しだけ身体を屈ませる。それはごく自然の行動で。
雲雀は迷うことなく屈んだ山本の首に腕を巻きつけ、限界を訴えるようにしがみ付く。
ぎゅうぎゅうと力強く抱きついてくる雲雀に、山本の胸の中が無条件に熱くなった。

離れるのが、すごく不安になるのは。
山本の知らない間に、本物の人形になってしまうんじゃないか、なんていうくだらない空想のせいで。
人を殺め、自分の命さえ死と隣り合わせな毎日の中で、雲雀が人形になってしまうことを選んだら。
そんな考えが杞憂であり、自分の願いがエゴでしかないことを、山本は分かっているのだけど。



山本は、ぎゅっと自分を押し込んで、限界まで膨らんだ熱を解放させた。
すると雲雀の身体がびくりと強張って、ほどなくして力を失う。
快感に微睡んでいる雲雀の身体を、山本はそっと抱き寄せた。この、身勝手な想いが伝わるように。


どうか、雲雀が雲雀のままでいてくれますように、と。




back



inserted by FC2 system