10年後設定。同棲中




久しぶりに深い眠りについた。
ここ最近、仕事などが重なって、少し疲れていたからかもしれない。






とある休日





「いつまで寝てんだー?」

笑うのを押し殺したような声が近くから聞こえて、意識が浮上する。
目を開くと、僕の顔を覗き込むように見ている山本と視線がぶつかる。声からも分かるが、そいつはやはり楽しそうに笑っていた。
その表情で山本が僕の寝顔を堪能していたことを悟る。それが気に食わなくて睨み上げたのに、山本はおはよう、と頬にキスをしてきた。彼の行動に僕の機嫌は関係無いらしい。

「雲雀、目、赤くなってる」

山本の指が、僕の目尻の辺りを撫でた。心配そうな声を出しているくせに、顔はだらしなく笑っているのが不快だ。目が赤いのも、こんなに身体がだるいのも、全部君の所為なのに。
甘えたいのか何なのか、山本は裸の身体を摺り寄せてくる。寝起きにこういった行為をしてくるのは山本の癖のようなものだった。
見た目だけ成長したでかい子供を適当に往なすと、僕は窓に視線を移した。カーテンを閉めているが、隙間から眩しいくらい光が漏れている。丁度、昼時かもしれない。

「こんな時間まで寝てるなんて珍しいのな」
「…いつから起きてたの」
「んー、結構前かも」

にたにたと人を食ったような笑みを浮かべる山本に、僕の機嫌は急降下する。そのことに気付いているくせに僕から離れようともしない山本に心底呆れる。

「ほんと、悪趣味」
「えー、可愛いんだからいいじゃん」

寝顔が可愛いわけあるか、と思ったが、こんな風な笑い方をしている時の山本には何を言っても通じないことは分かっているので相手にしないことにする。
今日の山本はやけに機嫌が良い。いつもヘラヘラと浮ついた様に見えるが、今日は特別、そう思える。

「……なんなの」
「実はさ…雲雀の寝顔見てたらまたしたくなった」

悪びれも無くそう言う山本を、容赦せずにベットから蹴り落とす。「うっ」と潰れたような声が聞こえたが、僕にしてはよく我慢したものだと思う。褒められてもいいくらいだ。
先刻、散々身体を繋げたというのに、山本の性欲にはほとほと呆れる。僕が抵抗しない限りいつまでも行為を続けようとするのだから、ある意味侮れない男だ。
山本はベッドから落ちた拍子に打ちつけたのか、後頭部を擦っている。情けなさを上乗せするような、下着も何も付けていない姿に意識せずとも溜息が漏れる。

「服を着ろ」
「え、ヤんねーの?」
「…」
「はい、ごめんなさい」

少しだけ学習能力を身に付けた山本は潔く諦めたらしく、それでも少々不貞腐れながらベッドの下に散らばった衣服を身に付けていく。
僕も適当に服を身に付け、乾いた喉を潤すためにベッドから降り、冷蔵庫へと向かう。
冷たいミネラルウォーターを喉に流すと、急に空腹を感じる。もう昼も過ぎた時間なのだから仕方無いと思う。
山本に視線をやると、ズボンを寛げシャツもだらしなく羽織っただけという至極だらしない格好でソファに座り、煙草に火を付けていた。

「お腹空いた」
「おー、何食いたい?」
「何でもいい」
「何でもいいって言ってもなー」
「お風呂入ってくる」

山本の「あ、俺も」という声に僕が間を置かず「僕が出るまでに何か作っておかないと咬み殺す」と言うと、山本は何故か面白そうに笑った。





お風呂から出ると、食欲をそそる匂いが臭覚を刺激し、僕の胃袋は余計に空腹を訴えて騒ぎ出す。
テーブルの上には親子丼が二つ。
ふわふわな卵から真っ白な湯気が立ち昇っていた。僕は、この時ばかりは心中で山本を褒める。髪を乾かすのも忘れて席に着くと、山本が呆れたように笑ったが、そんなのは関係無い。
脇にお茶の入ったペットボトルを抱え、両手にコップを持っていた山本も席に着くと、僕達はやっとのことで昼食にありつけた。
ご飯なんていつ炊いたんだとか、散らしてあるこの葉っぱみたいなの、こんなの家にあったっけ、とかいろいろ疑問はあるが、そこらへんは全部山本が管理しているので口は出さないことにしておく。
「うまい?」と聞かれて、素直に頷くと、山本の目が少しだけ見開かれて、すぐに嬉しそうに細まる。そっかー美味いかー、と仕切りに呟いている山本が、なんだか可笑しかった。
山本の作った親子丼は、卵がふわふわしていて、味も濃すぎなくて、凄く僕好みだったから。だから、満腹になった頃には僕の機嫌も回復している。
美味しい料理で僕の機嫌が良くなるのを山本は知っているから、僕の機嫌が悪い日や喧嘩した日などはやけに手の込んだご馳走が用意されていたりする。それを知っているから、わざと拗ねてみせることも少なくはない。

少し遅い昼食が済み、互いの時間を過ごしていると、時計はもう十五時を回っていた。

「さてと、買い物でもするか?」
「うん」

ここ最近お互いに忙しく、買い物などする時間も無かったので、そろそろ切れるものがたくさんある。
山本は近くの引き出しからメモ帳を引っ張り出すと、買い物する物を書き出し始めた。

「えーと、ゴミ袋、牛乳、シャンプーも少なかったよな…他になんかあったっけ?」
「コンドーム」
「えー、やっぱ無いとダメ?」
「もうしないよ」
「よし、コンドーム、っと」

無くなった、というのを理由に散々好き勝手されて迷惑していたのだ。
何度外に出せと言っても、頷くものの端からそのつもりは無いのか、成功したことはほとんど無い。

「よし、こんなもんか」

買い物リストを覗き見ると、結構な数になっていた。いつの間にかビールまで付け足されている。
そんなに買うの、と呆れたように言ったのに、山本は笑顔で頷くから、僕は本日何回目かの溜息を漏らした。
適当に準備をし、二人して外に出ると、温かい風が僕達を迎え入れる。静かではないが決して騒がしくなく、ゆるやかに流れる時間が心地良くて。
たまにはこいつの隣で、こんな風に力を抜くのも悪くないかもしれない。





気付くと、辺りは薄暗くなっていて、なんとなく空を見上げると薄く星が瞬いていた。

「あー、星出てきた」

山本は、僕につられたのか空を見上げると子供みたいにはしゃぎ出す。こういうところは、昔から変わらない。
キレイなー、と嬉しそうに空を見ている山本の手元では、重そうな荷物がガサガサと音を立てていた。もちろん僕は何も持っていない。
なんとなく驚かせたくなって、山本の持っていた袋を奪い取ると、代わりに自分の指を山本の指に絡ませる。
山本は上げていた視線を即座に僕に移すと、「え、」とか「わ、」とか慌てたように意味の為さない言葉をいくつも溢す。

「疲れたんだけど」
「あ、うん、結構歩き回ったからなー」
「お風呂沸かして」
「おー」
「僕がお風呂から上がるまでに、」
「ハンバーグ、だろ?」

そう言って幸せそうに笑い、僕の手を優しく握り返す。
僕達は家に着くまで、そうして、手を繋いだ。


そんなふうにして終わる、とある休日。




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