10年後設定



目を覚ますと、目覚まし時計の鳴る五分前だった。
すぐ隣で静かな寝息をたてるその人の顔をしみじみと眺めてみる。
山本はそっと、雲雀の頭の下に敷かれている腕とは反対の方を伸ばすと、目覚まし時計のアラームを切った。






教えない






山本は、暫し現状を楽しんでいる。
死んだように眠る雲雀は、薄く開いた唇にちょんと触れてみても、起きる様子は無い。
気配に敏感な雲雀が、こんな風に山本の隣で寝るようになってから随分と経つ。しかし、山本は今でもこの瞬間に感動を覚えている。
目にかかった前髪をそっと退かすと、白い瞼が現れて、普段よりその人を幼く見せる。あの、鋭い眼光が隠れるとこんなにも印象が違うのだ。
柔らかな髪が気持ち良くて、思わず手を差し込むと、丸くなった身体がもそりと動いた。
普段なら雲雀の睡眠を邪魔するなんて言語道断だが、今は大丈夫だということを山本は分かっている。
お互いの体温を確かめ合った次の日の雲雀は、それはそれは可愛い姿を見せてくれるのだ。それを知っているから、起こしてしまいたい衝動に駆られる。
試しに、熟睡している雲雀の肩に手を置き、軽く揺すってみる。すると、さすがに覚醒したみたいで、形の良い眉が顰められた。

「おはよう、雲雀」

声を掛けると、雲雀の瞼が薄っすらと開く。そして焦点の合いきっていない様子でうろうろと視線を漂わせ、何事も無かったかのように再び瞼を閉じた。
山本は一つ息を吐くと、そっとカーテンの向こう側を覗く。青い空に太陽が浮かんでいて、すごく良い天気だった。
もともと目覚まし時計を十二時に設定していたので、当然今はお昼時。

「こらこら、もう昼だし、起きろって」

山本はしつこく声を掛ける。この時点で意識不明程度に殴られないなんて、普段の雲雀からは考えられない。それどころか抵抗のつもりなのか、おでこを肩口に押し付けてくる。山本は零れそうになる笑みを必死になって堪えた。

「起きねえといたずらすんぞー」
「…なにそれ」

雲雀がぱちりと目を開いた。怖い顔をしているが山本の目には可愛く映ってしまうから不思議だ。
すっかり上機嫌な山本は、雲雀が無防備なのをいいことに、見た目通り柔らかいほっぺに唇で触れる。悪戯が成功したような顔で笑う山本を、雲雀は何とも言い難い表情で見ていた。そのため、山本でさえも雲雀の次の行動を予想できなかったのだ。

「…ん」

どちらの喉が鳴ったのか定かではない。何かを思う間も無く、寝起きのため熱を持った舌が山本の口内を這い回った。突然のことにされるがままになっていた山本だが、すぐに自分からも舌を絡める。
昨晩抱き合ったばかりだと言うのに身体が熱くなるのは早いもので、山本はマズイと思いながらも目の前の身体を求めずにはいられなかった。それに、どうやら誘われているみたいなので、わざわざ我慢する必要もない。
そこまで考えて、雲雀の上に身体を移動させようと動くと、途端に雲雀は唇を山本から離してしまった。随分楽しそうな顔をしている。

「君のいたずらって子供みたい」

雲雀の悪戯はやりすぎだと山本は思う。本当に、山本を苛めることに関しては抜かりがない。そして、一筋縄ではいかないのが雲雀だ。
もぞもぞと再び雲雀は身体を丸くした。あれだけのキスをしておいてまだ眠たいだなんて、なんだか複雑な気持ちになる。山本はというと、もともと目は覚めていたが、とてもじゃないが再び眠る気にはなれない。なんだか悔しくなる。

「まだ寝んのか」
「…ねむい」
「せっかく休みなんだから、どっか出掛けねえ?」
「…うるさい」

山本の提案は潔く却下される。どうやら山本を構うのにも飽きてしまったらしく、雲雀、と数度呼んでみても返事は無い。少し間を置いて、微かに寝息が聞こえてくる。
それをつまらないような、くすぐったいような気持ちで聞きながら、目を閉じて丸くなっている白い身体を暫らく見つめていた。



割と休みの日はベッドの住人になる雲雀だ。
結局、夕方頃まで雲雀は目を覚まさなかった。一度、せめて服を着せようと思って身体に触れたら非常に危険な目に合ったので、この時間まで放って置いてしまったけど、このままだといつまでも眠っているかもしれないので、いい加減に声を掛けてみる。
今回は失敗しなかったようで、雲雀の意識を浮上させることに成功する。それでも起きたくないと駄々を捏ねる雲雀に山本は困ったように眉を下げた。
しかし雲雀も空腹には勝てなかったようで、気だるげではあるが身体を起こす。やっとベッドから出る気になったようだ。
とりあえず用意しておいた下着と服を順序良く着せていく。最後にシャツを頭から被せてやり、乱れた髪を手ぐしで直してやる。
それから、動こうとしない雲雀の手を引いて洗面台まで連れて行き、顔を洗うように言ってから、山本は昼ご飯として作ったオムライスをレンジで温めてやった。その間にグラスを用意し、ミネラルウォーターを注いだ。




もぐもぐと頬を膨らませながらオムライスを食べる雲雀を見て、山本はようやくソファに腰を落ち着かせた。

「雲雀、寝起き悪すぎ」
「そう?」

雲雀は悪びれもなくオムライスを堪能している。あっという間に半分は無くなってしまった。

「これはこれでいいことあるからね」
「いいこと?」
「教えないよ」

言うだけ言っておいて、酷い言い草だ。だけど、雲雀が楽しそうなので、まあいいかと思う。
山本はソファの端に置いてあるティッシュを取ると、口の端に付いているケチャップを拭ってやった。




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