R15くらいです。全然ヌルイと思いますが一応。





家中に響き渡るインターホンの音に、僕は覚醒を余儀なくされた。
休日にこの家のインターホンが鳴るのは頗る珍しい。だけどベットから起き上がるのが億劫で無視しようと寝返りを打ち再びシーツに包まるが、しつこいインターホンの音に眠気も遠のいてしまう。
一体誰だ、僕の睡眠を邪魔するなんて良い度胸をしている。






君のその顔が見たいから






「よ!」
「……」

玄関を開けるとそこに突っ立っていたのは相変わらずへらへらと気安い笑みを向けてくる男だった。
普段より大人びて見えるのは制服を着ていないからだろうか。黒いジャケットがよく似合っているだなんて思う僕はどうかしている。

「何か用?」
「用っていうか…」
「僕、睡眠邪魔されんの嫌いなんだよね」
「え!もう昼過ぎてるぜ?!」
「僕の勝手だろ」
「ほんと、雲雀は寝るの好きなのな!」

嫌味も皮肉もこの能天気男に通用しないのは分かりきっているのだが、ここまで潔く躱されると怒りを通り越して呆れてしまうのが常だ。
それでも決して良い顔をしたつもりは無いのに山本はずかずかと家の中に入り込んでくる。「お邪魔します」という言葉が無かったら咬み殺しているところだった。
山本は上機嫌に居間に向かうと慣れたようにソファに腰掛ける。今更あれこれ咎めるのも面倒なので僕は特に何も口を出さず山本の正面のソファに腰を下ろした。

「で、何なの?」
「大した用じゃねぇよ」
「なら帰って」
「雲雀ん家の鯉のぼり見に来ただけ」

僕の言葉に沿わない返答はいつものことなのでやはり気にしないことにする。だけど、「鯉のぼり」という言葉に僕はあることを思い出した。
なんてことない、ただ学校が休校の日だったから覚えていただけだ。確か、今日は僕の誕生日。
そんなことを突然思い出したため思わず「あ、」と声を出してしまい、山本が不思議そうに此方に目をやる。だけど、ここで「今日は僕の誕生日なんだ」と教えてやるのはなんとなく躊躇われた。
自分でもなぜ躊躇しているのか分からないが、なんとなく、まだ教えてやらない、そう思った。

「どした?雲雀」
「いや、残念ながら僕の家に鯉のぼりは無いよ」
「え?そうなんだ、じゃあ俺んち見に来る?」
「別にいい。魚になんか興味無いし」
「魚?アハハ、雲雀は面白ぇな」

中学生のくせに鯉のぼり位で嬉しそうな顔をする山本は大変ガキ臭い。せっかくの黒いジャケットもこいつに着られるんじゃ可哀相だ。

「君って子供だよね」
「子供の日だからな」
「それって関係ある?」
「じゃあ、子供らしくないことしてみる?」

先程まで無邪気な笑みを浮かべていた瞳が途端に情欲に濡れた男の目に変わる。
ガキ臭いくせに時々こんな風に大人びた表情をする時もあるので、未だその変化についていくのが苦手な僕はいつも上手く思考が働かなくなってしまう。心臓が奇妙な動きをして僕の身体の動きを鈍らす。
だけど僕がそんな深刻かつ僕の自尊心に多大な影響をもたらす状態になっているだなんて態度はおくびも出さない。馬鹿にされるとは思わないが、悔しさは拭えないのだ。

山本はゆっくりと立ち上がるとソファに腰掛けている僕の前にその長身を見せびらかすように立つ。
僕は「何?」という意味を込めてやたら高い位置にあるそいつの顔を見上げたのだけど、「可愛い」と見当違いな答えが返ってきて僕は眉に皺を寄せた。
山本は薄く笑うと腰を屈め、当たり前のように山本の顔が降ってくるので、キスされるのかと思い目を閉じたのだけど予想外の場所へ唇の感触を感じる。

「…なに」
「んー?そんな難しい顔してると眉間に皺ができるぜ?」

そう言うと再度眉間に唇を寄せられた。
何度かそうして眉間に口付けると不意に顎を掬われる。今度こそ唇に来る、と予想し、すぐにそれは当たることとなる。
山本は触れるだけのキスを何度も繰り返す。僕から舌を絡ますなんて滅多に無いから、山本が舌で僕の唇をつつかない限り僕から唇を開くことは無いのだけど。
山本がその小鳥のようなキスを楽しんでいるのに気付いて悪戯心が沸き上がり、自ら唇を開いて山本の唇を舐め上げた。
すると山本は、小鳥のようなキスの邪魔をされたことに不機嫌になる様子も無く、むしろ楽しげに舌を突き出してくる。
悪戯のつもりが相手を喜ばせてしまっただけなようで僕は不満を感じたが、自由に口内を動き回る舌の動きを追っているうちにそんなのどうでも良くなってくる。
しつこい位口内を蹂躙されて、息が苦しくなり一度呼吸のために唇を離してもまたすぐに塞がれる。お互いの唇を食すみたいに何度も角度を変えて唾液を啜り合う。
僕と山本の唇の間から聞こえるじゅるじゅるという水音に、なるほど、子供らしくない、と思った。
そんなキスに夢中になりながらも、山本の武骨な手は僕の下半身を器用に撫で上げる。
すでに熱を持ち始めている僕の下半身に山本はわざとらしく驚いてみせ、何度もそこを撫で上げられ下着がきつくなる。その何とも言えないむず痒さに僕の腰は勝手に揺れていたみたいで、山本は僕の耳元で「雲雀、色っぽすぎ」と熱に浮かされた声で囁く。そういう山本の方がよっぽど「色っぽい」と思うのだけど。
山本はそのまま僕の耳朶に舌を這わした。甘噛みするみたいに時々歯が当たってその度に身体が勝手に震える。
そんな僕の身体に気を良くしたのか山本の舌は大胆に動き、首筋やら鎖骨やらを遠慮なく舐め回される。その際に服が邪魔になったのか、僕のパジャマの黒いボタンを二つ程外すと肩にまで舌を押し付けてくる。
肩まで剥き出しにされた屈辱的な格好に僕は文句の一つでも言ってやろうと口を開いたのだけど、まるで咎められるのを分かっていたかのように唇で唇を塞がれる。

「…ン、ベットに、」

やっとのことで静止の声を上げたのに山本の指が焦れたように僕のズボンに手を掛けるから、僕は「待て」の意味合いを込めて山本の手の上に自分の手を重ねる。
なんだ、と少し不満そうな顔をする山本がお預けを喰らった犬に見えて僕は思わず笑った。

「君、昼も夜もお構いなしだね」

山本は挑発的な笑みを作った。












「雲雀、俺んちの鯉のぼりあげるよ」

居間で行為に及ぼうとする山本を寸での所で止め、なんとかベッドの上で行為をすることが出来た僕達は、激しい行為に酷使され心地よい疲労にぐったりと身体を投げ出していた。
山本の突拍子もない言葉に頭を持ち上げるのも億劫だった。

「いらない」
「そう言うなよ、親戚から貰ったのと親父が買ったのと二つあるからさ」
「……」
「余ってても勿体無いだろ?」
「……」
「な?」
「……そう」

じゃあ、貰おうかな、そう言うと山本は弾かれたように顔をあげ、驚愕に目を見開いている。

「何?嫌なら別にいらない」
「ちょ、待て!違う違う!」
「じゃあ何」

山本はうわぁとかマジでとか脈絡の無い言葉を一頻り吐き出すと、怪訝そうな僕になんてお構いなしに「嬉しい」と言った。
はっきり言って何が嬉しいのか分からない。いらない物や見るのも忌々しいものを貰ってくれると言うのなら喜ぶのも分かるが、決してそんな風に思う代物じゃないはずだ。
鯉のぼりに相当嫌な思い出でもあるのならその異常な喜びようも納得行くが、とてもそんな過去があるとは思えない。
何がそんなに嬉しいの、そう聞いたら「雲雀が俺から物を貰ってくれたから」と至極嬉しそうに答える。
普通、そんなことに喜ぶだろうか。しかし、そんなくだらないことで真剣に喜んでいる山本を見ていると此方まで可笑しくなってきて思わず笑ってしまいそうになり枕に顔を埋めた。


今日は僕の誕生日なんだ、そう言ったら君はどんな顔するのだろう。
きっと先程見せた驚いた顔なんて比じゃないくらい驚いて、溢れそうな笑顔で「おめでとう」と言うのだろう。



「山本、今日はね、」


少しだけ、その顔が見てみたいと思った。




誕生日おめでとう、雲雀!大好き!

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