R15くらいです。お気を付け下さい。
どうしてこんなことになったのか、よく思い出せないのだけど。
確か、雲雀が「もうセックスしたくない」と言い出したのが事の発端だったかもしれない。
最後のチャンス
最初は痛いもんなんだって。ほら、こういうのって、だんだん慣れてくものだし。慣れれば気持ち良くなるから。痛くないように俺頑張るしさ。この間ちょっと無茶したのはホント、反省してるって。
そう言っていくら宥めても「しない」の一点張りで、それでもしつこい山本にトンファーをチラつかせる始末だ。
これ以上は命の危険を感じた山本は、仕方なく大人しくする。
雲雀が突然そんなことを言い出したのには、自分に責任があると山本は分かっている。
前回の情交のとき、雲雀が「痛い」と言っているのに山本は目先の欲望に目が眩み、やめてやらなかった。それどころか、痛みに顔を歪める雲雀に気を使うこともできなくて、自分の気持ち良いように好き勝手に動いてしまったのだ。
そのことに余程ご立腹らしく、雲雀はなかなか身体を許してくれない。誘っても、お伺いを立てても、説得しても、返事は決まって「しない」の一言。だけど、ヒバリだってイったくせに、なんて言葉は絶対に言ってはいけない。なぜなら、言った瞬間命が無くなるから。それくらいは山本にも分かる。
椅子に座って何やら小難しそうな文庫本を読んでいる雲雀の隣で暫らく突っ立ていた山本は、構ってくれない現状に飽きてその場に座り込んだ。そんな山本に雲雀の興味はまったく向かないらしく、まるでそこに山本が存在していないかのような態度で手にした文庫本に視線を落としているだけだ。
試しに「ヒバリー、暇なんだけど」と声を掛けてみても、当然のように返事は返ってこない。
山本はこっそりと雲雀の顔を盗み見る。
雲雀の、少し斜めに落とされた視線。長めの前髪が、長い睫が、頬に影を落としていて。
半袖から伸びた白い腕だとか、本を持っている手とは反対の、投げ出された指先の無防備さとか。観察すればするほど、山本の目にそれは美しく見えて。甘いむず痒さが山本の中で疼く。
こんなに全身で誘っているくせに、態度は冷たいのだから、まるで生殺しだ。
「なー、ヒバリ、本楽しいか?」
「うん」
「文字しかねーじゃん」
「…静かにしてて」
雲雀の言葉に山本は思わず口を噤む。
どうやら雲雀は本の内容がすっかり気に入ったらしく、活字から目を離したくないようだった。山本にとっては面白くないが、「出てけ」と言われないのが嬉しくて堪らないので我慢しようと思う。
だけど何もせずにぼーっとしているのはさすがにつまらないので。
「じゃあさ、本読んでていいから、手だけ貸してくんね?」
山本は雲雀の左手を取って握り締めてみた。雲雀の表情をそっと伺ってみたが、特にいつもと変わりない。
どうやら「勝手にしろ」ということらしい。
雲雀のそっけない態度に、それでも満足した山本は握り締めた細っこい指に自分の指を絡ましたり、撫でたりしてみる。
そうしたことに他意は無かった。手のひらを握って、本を読んでいる変化の無い表情をただ眺めているのもたまにはいいかな、なんて思っただけで。
そういえば、指先って神経が集中してるんだっけ、と山本は獄寺の言葉を思い出した。
確か生物か何かのテストで赤点を取って補修の課題をツナと二人で必死に消化している時、獄寺が教えてくれた気がする。
指先には神経が集中していて、とても敏感にできていると。だから人間は手で細かい作業ができるのだと。
そう言う獄寺の言葉に、そういえば足で細かい作業はできないよな、と閃いた覚えがある。
山本は雲雀の指をじっくりと眺めた。綺麗に切り揃えられた爪が何とも雲雀らしい。
(ここに、ヒバリの神経が詰まってるのか)
山本は指先を軽くつっついてみた。すると雲雀の指がぴくんと跳ねる。
その反応に驚いた山本が思わず雲雀の顔を伺うが、雲雀は尚も文庫本に視線を落としているだけだ。その時、山本の中でふとした悪戯心が沸き起こった。
ゆっくりと、弄んでいた雲雀の左手を口元に運ぶ。そして、指先にそっと唇を押し付けてみる。
すると、雲雀の眉毛がぴくりと動いた。山本は雲雀の反応にすっかり気を良くして、今度は舌でつっついてみることにした。
雲雀の手が汗ばんできたのが分かる。ただ、手を舐めるだけの行為が楽しくて仕方無い。
甘くもなんともないのに、まるでキャンディーを舐めているかのような感覚に陥る。しかし味が無いわけではない。雲雀の、味。
(おいしい)
舌先でちろちろと雲雀の指を味わっている内に、気付くと没頭してしまったらしく、雲雀の左手が唾液でべとべとになっていた。
さすがに怒られるかと思い、上目遣いに雲雀を見上げると、雲雀の目線は文庫本から山本へと移動していて。
山本が自分の指をしゃぶる様を見てその気になったのか、目のふちをほんのり赤くさせた雲雀は堪らなく可愛かった。
「本読んでていいんだぜ?心配すんなよ、これ以上は触んねぇから」
嫌なんだろ?と言うと雲雀は珍しく困ったように眉を寄せて。顔を赤くした雲雀が可愛くてついつい意地悪をしてしまう。
しかし負けず嫌いな雲雀はぷいと山本から視線を離すと意地になったみたいに文庫本に視線を戻す。
雲雀は分かっていない。山本も雲雀に負けないくらい負けず嫌いなのだ。
山本は再び雲雀の指に舌を這わす。先程はただ舐める、という行為に没頭してしまったが、今度は違う。ねっとりと、できるだけいやらしく、舐める。
雲雀の顔に視線を当てたまま、雲雀の中指を一本咥える。爪の間を舌先でなぞったり、ときどき軽く噛んだり。同じように一指し指も、薬指も、小指も、親指も、一本ずつ丁寧に弄ぶ。
それでも雲雀の表情はなかなか変わらなかった。だけど相変わらず目もとは赤くて、視線がゆらゆらと不自然に彷徨っている。もう文面を追っているわけではない証拠だ。
丹念に全ての指を舐めまわした山本は、仕上げとばかりに指と指の間の、柔らかい部分をぱくりと咥える。
雲雀の身体が大袈裟に揺れた。はぁ、と控えめに吐息が吐き出される。山本は頭の中がじわじわと熱くなっていくのを感じた。もっと雲雀の可愛い姿が見たい。その衝動を止める術を、山本は知らない。
雲雀の左手をしっかりと掴んだまま、今度は。
柔らかい皮膚に少し強めに歯を立てた。
「…あ」
ばさり、と乾いた音がした。
雲雀の右手から文庫本が落ちたのだ。
構わず、噛み付いたそこを今度は吸ってみる。
びくびくと反応する雲雀が、可愛いくて仕方無い。
「指だけでも、結構感じるのな」
思う存分雲雀の左手を味わってから、そっと顔を離して雲雀の様子を伺ってみると。
少しだけ呼吸を乱して、山本を熱っぽく見詰める瞳と視線がぶつかった。右手は、縋るものが欲しいのか近くにあったカーテンを掴んでいて。
こんなに可愛く反応してくれるなんて、予想外だった。
「でも、これ以上は触んねぇ。嫌、なんだもんな?」
山本はにっこりと人好きの笑みを見せる。雲雀は不服そうに眉を寄せると、赤くなった瞳で山本を睨んだ。
「なんだよーもしかして、そっちも舐めてほしいのか?」
問いかけたくせに、雲雀の答えを聞く気もない山本は、カーテンを掴んでいる右手を引き寄せて両手首を纏める。そのまま、自分の口元に近づけて舐める。律儀に反応する雲雀が何よりも愛おしくて。
暫らくそうやって雲雀の手を虐める。すると雲雀がもどしそうに息を詰めているのが分かった。
顔を火照らせて、身体の奥に燻ぶっている熱を持て余し、震えている。
(かわいい)
本当はもっと、焦らしたかったのだけど。
本当はその気になっているくせに意地を張っている雲雀を堪能したかったのだけど。
そんな顔は、ずるいと思う。
山本は雲雀の手から離れると、ゆっくり立ち上がって雲雀の唇にキスをした。嫌がるかと思いきや、自分から唇を開いて舌を忍ばせてくる始末で。
「セックスしたくない」なんて言っていたのはどこのどいつだと思いながらもそれを口に出すことはなく。折角その気なってくれたのだからこのチャンスを充分に生かさなければならない。
山本は雲雀の丸い後頭部を引き寄せると、口付けを深いものへと促す。
(もうしない、なんて言えないくらい気持ち良くしてやるから)
そんなことを、思いながら。
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