好きとか、大切とか、そういった優しい感情だけを雲雀に与えてやりたかった。







侵触





背中に回された指先が、時折、思いついたように何かを描く。
きっと、戦いのこと、もしくは「群れ」をどんな風に咬み殺そう、とか。そんなことを考えているに違いなかった。
例えば俺の名前や、好き、なんていう睦言ではないことだけは確かで。

「何考えてんの?」

自分でも驚くほど棘を含んだ声が出る。そんなつもりはなかった。だけど、確かに、この現状は面白くなくて。
こんなに夢中なのは自分だけで、雲雀は別のことを考えているなんて、さすがに、いつものように仕方無いか、では済まされないし、済ましたくない。
膝裏に手を差し込んで少しだけ強引に脚を広げさせ、いつもより乱暴に、いつもより意地悪に、自分の身体を重ね合わせる。組み敷いた白い身体が強張り、苦しげな戸息が漏れた。

「い、た…」

雲雀の目が抗議するかのように鋭くなる。回された指は俺の背中に爪を立てていて、勝手に口角が上がりそうになるのを耐える。
例えば、雲雀がどんなに上の空だとしても、締め付けてくるそこは温かくて柔らかくて心地良くて。どこまでも受け入れてくれるような、そんな気さえしてくる。
そんなこと言ったら雲雀に馬鹿にしたように笑われるだけなのだろうけど、この時だけは、それくらい思わせて欲しい。自分は雲雀に愛されていると、そう思わせて欲しい。
だけど、やっぱり。
雲雀の心がどこにあるのか分からなくて、教えて欲しくて、必死になってその身体を探る。
他のことなんて考えないで、俺だけのことを、なんて。そんなこと雲雀に言ったって無駄だって分かっているから、きっと俺はこんなことしかできないのだろう。

「ん…いた、い、…やま」

そんなことを考えながら雲雀の身体の中を思うままに堪能していると、雲雀の声がいつもより震えていることに気付いた。
さっきまで軽やかに動いていた指先が、咎めるみたいに背中に食い込んでくる。

「ごめん」

速まる呼吸の合間にそれだけ告げたのだけど、やめてはやらない。
その代わり、雲雀の頭を撫でてやる。こうすると猫のように目を細めるのだけど、さすがにこの状況で効果は得られず。だけど、現れた眉が苦しそうに歪んでいて、奇妙な気持ちになる。
あの雲雀が、どんなに痛くても顔色一つ変えない雲雀が、こんなに苦しそうにしているのに、俺の心を満たすのは紛れもなく喜色だった。
雲雀の脚を割り開いて、もっと深く繋がろうとする。ゆっくりと味わうように雲雀の中に入り込むと、雲雀の喉が泣きそうに引き攣った声を上げた。思わず表情を伺うと、細い腕がその顔を覆っていてうまく見えない。だけど、首までもを真っ赤に染め上げていることから、今の声を恥じているのが分かる。
俺は、その可哀相なくらい口元を歪めている雲雀を見て、もう一度ごめん、と心の中で呟いた。
本当は分かっていた。雲雀が、この行為を好んでいないことくらい。それでも、拒まずに受け入れてくれるということが、どういうことなのか。ちゃんと、分かっているはずだったのに。

辛そうに強張った背中をそっと撫でてやると、少しだけ背中に突き立てられた指先から力が抜けたのがわかった。
そして、力の抜けた手はやがて俺の背中に強く縋りつく。それからはもう、雲雀の指先が何かを描くことは無く、ただぎゅうぎゅうとしがみ付いてくるだけで。
時折甘えたような声を含み、零れる吐息はほとんど意味を為さない音を紡ぐだけだったけれども。
ベッドの軋む音と、お互いの忙しない呼吸の音に紛れて聞こえてくる小さな声は、いつも同じ。
やまもと、と、ただ一度だけ、意味を持つ言葉を紡ぐのだ。

最後には、雲雀の腕がどうやっても解けないほど俺の首元を強く抱くことだって、知っていた。
それなのに、俺はどこまでも貪欲で、雲雀がどんなに与えてくれても、すぐに満足できなくなってそれ以上のものを望んでしまう。
雲雀の全部を自分のものにしたいなんて、そんな有り得ないことを平気で望んでいる俺はどこかおかしいのだろう。

強張っていた身体からだんだん力が抜けていく。
俺の首元に絡みついていた腕には、もうわずかな力も残っていないようだった。
雲雀は小さく息を吐くと、瞼を閉じる。心地良い疲労感の中で眠ろうとしているのだろう。俺はそんな雲雀の様子をしばらく眺めていた。

瞼を閉じている為か、雲雀の表情はあどけない。
薄く開いた唇に、自分のそれを重ね、そっと舌を差し込む。億劫そうに白い瞼が開かれた。

誰よりも大好きで、何よりも大切にしたい。
そう思っていた優しい気持ちは一転して、俺の心を支配しようとする。
お願いだから、今だけは、俺以外のことを一秒だって考えないで。

「ひばり、もう一回、しよ?」

雲雀が俺だけのことを考えて、俺だけのことを見て、俺無しではいられなくなったら。
その時は、優しい気持ちだけで雲雀に触れることができるのだろうか。




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